異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

287 / 300
284 アクセサリー

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 今日はミリアの肖像画を描いてもらうために、帝都の美術店でドニに視野記憶を使ってもらう予定になっている。

 その準備をするため、早朝の探索は早めに切り上げないといけない。

 ミーティングもそこそこに迷宮へと出発だ。

 

 

 

 探索を終え、朝食の材料を購入して自宅へ戻ったところで、女性陣に急かされながらバスルームへ移動し、風呂を沸かす。

 いつものようにサクッと沸かし終わると、喜色満面のミリアがまるで歌でも歌っているかのような声で話しかけてきた。

 

「ご主人様! お姉ちゃんたちに綺麗に磨き上げてもらいます! 私の可愛さに驚いてくださいねー」

 

 え? あ、はい。

 どうやら今回は一緒に入っちゃ駄目らしい。

 まあ、俺が入ると絶対にエッチな目で見るし、股座のデュランダルがいきり立ってしまう。

 しょうがない。ミリアのことは彼女たちに任せて、朝食は田川シェフが腕を振るうとしよう。

 

 アイテムボックスから取り出したカメリアオイルを差し出し、彼女の言葉に応じる。

 

「はい、じゃあこれを使ってね。そのままでも美人で可愛いミリアだからね。お手入れをして着飾ればどれだけ綺麗になるのか楽しみにしてるよ」

 

 彼女は蕩けそうな表情が浮かんだ顔に両手をあて、体と尻尾をクネクネと揺らしている。

 

「そうですかー? いつも美人で可愛いですかー?」

「うん。世界で五本の指に入るのは間違いない」

「本当ですかー? えへへー」

 

 ミリアは照れ笑いを浮かべながら、シュッシュッと四方八方にパンチを繰り出し始めた。

 

 相変わらず動きがコミカルな娘さんだこと。

 

 ミリアの代わりにカメリアオイルを受け取りながら、ロクサーヌが口を開く。

 

「ちなみにご主人様、世界で五本の指に入っている他の女性は誰なのですか?」

 

 問いかけてきた彼女だけではなく、セリーとベスタの顔にも期待の色が浮かんでいる。

 答えは分かっているだろうに、どうしても俺に言わせたいらしい。

 

「ミリア以外の四人は、もちろんロクサーヌ、セリー、ベスタ、そしてルティナだ」

 

 その言葉を受け、彼女たちもミリアと同じように恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに笑い合っていた。

 その様子がなんとも愛らしくてたまらない。

 

 

 

 今日はミリアの日なので、彼女の喜びそうなメニューにしておいた。

 ハーブと共に焼き上げた赤身のグリルに、葉野菜と合わせた白身のカルパッチョ。

 田川シェフ渾身の朝食である。

 

 四人は俺が一人で朝食の支度をしたことに恐縮していたものの、それらを食べると口々に美味しいと声を上げていた。

 自分の作った料理を喜んでもらえる。何と幸せなことだろう。

 

 しみじみとそんなことを考えながら食事を続ける。

 

 

 

 歯磨きと洗い物が終わると、彼女たちは連れ立って二階へ上がっていった。

 一方、俺はリビングへ移動してソファーに腰を下ろす。

 

 さて、ボーナスポイントの振り分けと、今後レベルを上げるジョブの選定をしますかね。

 

 

 

 これらは迷宮探索に関わる重大なことだというのに、気もそぞろ。

 キャラクター再設定画面やジョブ設定画面を見ながらも、思考はすぐに脱線し、いつの間にかミリアのドレス姿を想像してしまう。

 

 いかんな。もっと真面目に取り組まなければ。

 

 自分に活を入れ、改めて頭の中のスイッチを切り替えた。

 

 とりあえず冒険者のレベルが62に到達して、ファーストジョブに固定できるようになれば、インテリジェンスカードのチェックを恐れる必要はない。

 これまでは咄嗟の入れ替えを警戒し、冒険者のアイテムボックスに物を入れられず、フィフスジョブかシックススジョブのどちらかに、アイテムボックスを持っているジョブを設定しないといけなかったが、その縛りからも解放される。

 そうなればレベル上げがさらに捗ることだろう。

 

 このままいくと、一年も経たないうちに上級ジョブを獲得した上に、とんでもないレベルになっているんじゃないのか?

 完全にメインストーリーをクリア後のトロコンを目指してやり込みをしている段階って感じだよなぁ。

 本当にそうなっているのかね? それとも上級ジョブは獲得条件が厳しかったりするのだろうか?

 

 考え込んでいると、華やかな声が徐々にこちらへ近づいてくる。

 やがて扉が開き、愛らしいプリンセスが姿を現した。

 

 艶やかに輝く濃紺の髪に三角のネコミミ。内側には白くてフワフワの毛が生えており、その間には精巧な作りのティアラがちょこんと乗っている。

 顔の輪郭は丸くて愛らしいのに、そこに並ぶ目鼻はどこか芯の強さを感じさせ、可愛らしさの中に凛とした美しさを感じずにはいられない。

 大きく張り出した胸にキュッとくびれたウエスト、そしてスラリと伸びた長い手足。

 そしてその体を包む、淡く可憐なパステルブルーのフレアドレス。

 

 すごい……。めちゃくちゃ綺麗で可愛い……。

 

 思わず見惚れていたところ、頬を上気させたミリアが両手を広げてクルリと回る。

 

「ご主人様。どうですか? 可愛いですか?」

「めちゃくちゃ可愛い。世界中の人に俺のミリアはこんなに可愛いんだって自慢したいくらい可愛い」

「ありがとうございます! とっても嬉しいです!」

 

 そう言うと彼女はそのままクルクル回り始めた。

 

 感情表現が独特な娘だなぁ。

 

 独楽のように回転を続けているミリアを見守りながら考える。

 

 彼女は他の三人とは違い、自らの容姿に自覚的だ。

 もちろんロクサーヌたちだって容姿に対する自負はあるのだろうが、それを表に出すことは少ない。

 だが、ミリアはそれを言葉にすることを躊躇わない。

 日本にいたらアイドルでもしていそうなメンタリティーだよな。

 そうなれば、きっと大勢のファンを獲得していただろう。

 

 いや。ミリアだけではなく、ロクサーヌ、セリー、ベスタ、そしてルティナも含めてグループとして売り出せば、ドームツアーを成功させるような伝説のアイドルになるに違いない。

 奇声のようなコールを上げたり、ウルトラオレンジをグルグル回したり、オタ芸を打つような奴らは嫌いだが、俺だってそうなってしまうかも。

 

 左右それぞれに五色のサイリウムをバルログ持ちしている自分の姿が、頭に浮かんでくる。

 

 ……めっちゃ見苦しいな。

 

 妄想に耽っている間もミリアは回転運動を継続中。

 

 おいおい。いつまで回り続けるんだ?

 普段は迷宮でガンガン立体起動をしているし、三半規管マジパネェ。

 三人も微笑ましそうにその様子を見守っていた。

 

 

 

 放っておけば、そのままバターになるまで回っていそうな彼女に、ロクサーヌが問いかける。

 

「ミリア、首に着ける装飾品を選ぶのでしょう?」

 

 その言葉でミリアの動きがピタッと止まった。

 そして体をこちらに向けると、勢い込んで声を上げる。

 

「あっ! そうでした! ご主人様、ご主人様! ブリーシンガメンと首飾りとコハクのネックレスを比べてもいいですか!?」

 

 あれだけ回ってたのに、全然ふらついてないぞ……。

 ほんと、スゲーなぁ。

 

「うん。大丈夫だよ。それじゃあ、首飾りを取ってくるから少し待っててね」

 

 彼女はかぶりを振ってこちらへ右手を差し出した。

 

 うん? なんだ?

 

「私も行きます! お姉ちゃんやセリーさんにしていたみたいに、エスコートをしてください!」

 

 ああ。そういうことね。

 

 要望に応えて彼女の手を取る。

 

「それではお嬢様。こちらへどうぞ」

 

 すると、ミリアはニパッと花丸笑顔で答えた。

 

「ええ。よくってよ」

 

 え? なにそのキャラ? まるで白鳥麗子じゃん。

 

 思わず内心でツッコミをいれたものの、そのまま粛々とエスコートを行う。

 

 

 

 物置から首飾りを回収して彼女たちの部屋へ移動し、ブリーシンガメンを取り出している間に、ミリアも自分のチェストを開けてコハクのネックレスの準備をしていた。

 彼女たちはその三つを次々とミリアの首元へあてがい、これが似合う、あれが似合うと楽しそうに議論を交わしている。

 

 全員はしゃいでんなぁ。

 うら若き乙女たちが戯れている姿は、どうしてこんなに疲れたオジさんの心を打つのだろう。

 

 目の前で繰り広げられている日常系アニメのような光景に癒されていたところで、ふと気が付いた。

 

 首飾りにはスロットが五つ付いてるよな?

 どうして装備制限が発動していないんだ?

 全員、制限をクリアしているのか?

 

 ……考えてみればあれを入手した時点では、ロクサーヌもセリーもレベルは20台だったはず。

 それなのに問題なく持つことができていた。

 まさかこれには限定がかかっているのか?

 

 ……いや。もしそうなら、ハルツ公爵家が報酬として渡すはずがない。一体どうなってるんだ?

 

「セリー、ちょっといい?」

 

 迷宮探索に関わる疑問を放置するわけにはいかないため、我がパーティーのブレーンへと声をかける。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 不思議そうにこちらを見つめている彼女へ疑問について尋ねたところ、彼女は快刀乱麻を断つかの如く、鮮やかに答えた。

 

「なるほど。そういうことですか。ご主人様、他の装備品とは違い、アクセサリーに装備制限はありません。生まれたばかりの子供でも高性能なものを装備することが可能となっています」

 

 へー。そういう仕様になっているのか。

 言われてみれば武器にしか付けられないスキルが付けられるなど、アクセサリーは少し特殊なカテゴリーとなっている。

 そういうことがあってもおかしくはない。

 もっとも、腕装備も武器とアクセサリーにしか付けられないはずの、腕力上昇系のスキルを融合することが可能だが、これは名称による例外中の例外なのだろう。

 

 セリーの解説に納得していたところ、鏡を見ていたミリアが見事なターンを決めて体をこちらへ向けた。

 

「私にはこれが合っていると思います!」

 

 彼女の首筋には大粒のコハクが幾重にも連なっている。

 

「確かに天真爛漫なミリアには、煌びやかなブリーシンガメンや首飾りより、コハクのネックレスの方が似合いますね」

「はい。お姉ちゃんの雰囲気にピッタリだと思います」

 

 ロクサーヌとベスタの言葉にセリーも続く。

 

「普通、コハクの装飾品は落ち着きや洗練された印象を与えますが、ミリアが身に付けると元気さや、明るさといった魅力がこれでもかと伝わってきます」

 

 確かになぁ。めちゃくちゃ似合ってて可愛いもん。

 

 その抗いがたい魅力で視線を絡め取られていると、ミリアは期待のこもった表情をこちらに向けた。

 

「ご主人様。どうですか?」

「びっくりするくらい綺麗で可愛くて、どこの国のお姫様かと思ったよ」

「えへへ。そんなに可愛いですかー」

「うん。めちゃくちゃ可愛い」

 

 その後、欲しがり屋さんにどこが綺麗でどこが可愛いのかを説明させられてしまう。

 三人は苦笑まじりでその様子を見守っていたものの、やがてロクサーヌに切り上げるよう告げられた。

 

 魅力的なポイントは大量にあるため、列挙することに問題はないものの、いつまでもここにいるわけにはいかない。

 そろそろ帝都へ向かうとしよう。

 

 ミリアの手を取り、玄関へと移動する。

 

 

 

 

 

帝都

美術店

 

 

 

 

 

 美術店へ移動すると、今か今かと待ち構えていた狂気の画家に取っ捕まり、そのまま別室へと連行される。

 ミリアは血走った目と弧を描くような笑みを浮かべたドニに、様々なポーズや表情の指示を受けていた。

 だが、そこは度胸が据わったネコミミ娘。

 その要求に笑顔で応え続けたため、ドニは早々に視野記憶を済ませてしまう。

 そして、ヤバいくらいのテンションで店を飛び出していった。

 

 三度目だというのに、奴の言動には慣れないなぁ。

 

 今回は部屋まで同行していたアンリが口を開く。

 

「条件も詰めておらず、お支払いをお願いする前でしたのに、大変申し訳ございません」

 

 いやまあ、うん。

 俺たちもすっかりドニの迫力に呑まれて、言われるがままにここへ来てしまったしな。

 

「それでは改めて契約とお支払いをお願いいたします。カウンターへ参りましょう」

 

 彼に続いて移動する。

 

 

 

 条件は前回と同じく、製作期間は三十日で依頼料は三万ナール。

 あのクオリティーの絵をたった三万ナールで描いてもらっていいのかという気はするが、ロクサーヌやセリーのときと同じく、気に入ったら追加報酬を支払うことにしよう。

 いくら三割アップや三割引を多用するクソ野郎でも、素晴らしい作品には正当な対価を支払うべきだという気持ちくらいある。

 

 ……それならフープロや冷蔵庫を作ってくれた金物屋や、下着やドレスを誂えてくれた服屋に対しても、正当な対価を払えって話になるよなぁ。

 いや。それどころか真っ当な商売をしている者から利益を掠め取るような真似は慎むべきだろう。

 所持金は再び一千万ナールを超えたことだし、いい加減これらのスキルは封印するべきかね?

 

 考え込んでいると、アンリが説明を続ける。

 

「納品日は夏の三十六日目となりますが、以前のように早く仕上げるかもしれません。よろしければお客様のご自宅へお知らせに上がりますが、いかがでしょうか?」

 

 あー。確かにそれはあり得るわ。

 あんなガンギマリ状態を維持したまま作業を続ければ、かなり前倒しで仕上げてきそうだ。

 

「俺たちはクーラタルで暮らしているのだが、問題はないか?」

「クーラタルでしたら仕入れや納品、案内等で頻繁にうかがっておりますので、問題ございません」

「うむ。ではそのように頼む。直接伝える必要はないので、留守の場合は扉に伝言を書いたパピルスを挟んでもらいたい」

 

 アンリは俺の言葉に深く頭を下げる。

 

「承知いたしました」

 

 自宅の住所を伝え、話がまとまったところで支払いを済ませて店を出た。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv67 勇者Lv56 冒険者Lv61 魔道士Lv61 防具商人Lv40 神官Lv43

装備 カッカラ 倹約のダマスカス鋼盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:1

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱省略:3

ワープ:1

鑑定:1

ジョブ設定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:10,620,079ナール

 

夏の16日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。