異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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285 契機

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮

五十三階層

 

 

 

 

 

 肖像画の依頼を済ませて自宅へ戻り、装備を整えてそのまま迷宮へと移動した。

 ルーティーンワークのように魔物を蹴散らしながら、先へ先へと進んでいく。

 やがて、ロクサーヌの口からいつもの言葉が発せられたので、対バトルマーメイドの訓練を行うために、五十二階層の待機部屋へレッツゴー。

 

 そして、ボーナスポイントを振り分けようとしたところで、ポイントが余っていることに気が付いた。

 

 お? 遊び人のレベルが上がったのか。

 

 そのポイントを鑑定へ振り、自分に対して使用する。

 

田川 歩 男 18歳

遊び人Lv67 勇者Lv57 冒険者Lv62 魔道士Lv61 防具商人Lv43 神官Lv45

装備 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

 おお! 遊び人だけじゃなく、冒険者も上がってる!

 よっしゃー! これで冒険者をファーストジョブにすることができるぞ!

 

 その旨を彼女たちに伝え、一頻り喜びを分かち合ってから、ポイントの振り分けに戻る。

 獲得経験値二十倍から結晶化促進六十四倍に変更して準備完了。

 

「では、いこう」

 

 待機部屋に良い子のお返事がこだました。

 

 

 

 午後も引き続き五十三階層の探索だ。

 今回からはポイントの都合により詠唱省略ではなく、詠唱短縮となっている。

 技名を叫ぶアニメキャラのようなムーブになってしまうが、それもまたよし。

 呪文の詠唱や技名を口にするのは、おのこの嗜みゆえな。

 

 それにしても、夏の十二日目にこの階層に到達してから四日が経過している。

 そろそろ待機部屋にたどり着いてもよさそうなものなのだが。

 

 そんなことを考えながら、「ガンマ線バースト、サンダーストーム、サンダーストーム」と熱いシャウトを繰り返す。

 

 

 

 

 

クーラタル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 一日の探索を終えたら、ギルドでドロップアイテムの売却だ。

 

 うーん……。今日も待機部屋を見つけることができなかったか。

 ワンターンキルができているとはいえ、魔物の密度が濃くエンカウント率はかなりのものだし、魔物部屋の数も多くて処理に時間がかかっている。

 それに、なんとなくだが通路や階層自体が、広いような気がするんだよなぁ。

 これは気のせいなんだろうか? それとも本当に広くなっているのか?

 まあ、あとでセリー先生に確認してみるとしよう。

 

 

 

 売却を終え、他の迷宮の情報を調べている女性陣の下へ行くと、何やら真剣な表情で言葉を交わしていた。

 

 何かあったんだろうか?

 

 俺に気付いたロクサーヌが、小声で話しかけてくる。

 

「ご主人様、ベイルの迷宮が四十四階層へ到達したようです」

 

 嘘だろ? 原作だとこの時期にそこまで進んでなかったよな?

 もしかして俺の行動が何らかの影響を与えてしまったのか?

 

 一瞬、そんな言葉が口をつきそうになったものの、よく考えればミチオは夏以降、ほとんどベイルの迷宮へは入っていない。

 そのため、作中ではベスタ加入以降は言及されることもなかった。

 この攻略速度が原作準拠なのか、俺がやらかしたことによるバタフライエフェクトなのか判断がつかない。

 

 ……いや。答えなんか出ないし、今はどう動くかを考える方が建設的だ。

 

 いったん疑問を棚上げにして彼女たちに告げる。

 

「ここではなんだ。帰ってから考えよう」

 

 四人はその言葉を受け、コクリと頷きを返した。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 夕食の買い出しを済ませ、自宅へ向かい人気のない道を歩いていると、待ちきれないのかロクサーヌが問いかけてきた。

 

「先ほどの件なのですが、ご主人様はどのようにお考えでしょうか?」

 

 彼女の顔に視線を向けたところ、真剣な表情の中に隠し切れない期待の色がにじんでいる。

 いや。ロクサーヌだけではなく、他の三人も同様だ。

 

 うーん……。どのようにねぇ。

 

 入口に待機している探索者に頼めば、すぐにでも四十四階層まで案内してもらえる。

 トップチームが最高到達階層を報告していなかったとしても、おそらく四十九階層や、五十階層に到達しているということはないだろう。

 俺たちならそれを追い抜き、最上階のボスを撃破することもそう難しくないはずだ。

 

 最上階のボスからドロップするギルド神殿は、できれば早めに、そして一つでも多く確保しておきたい。

 なにせ極めて貴重な上、有用な使い道がいくつもあるのだ。

 まずは技工士のギルド神殿設定のスキルを使い、各ギルドに設置するギルド神殿を作り出せること。

 そして装備制限のある高性能装備品をデチューンして、誰でも装備できるように『限定』をかけることにも用いられる。

 さらにそれを解除し性能を元に戻すことも可能だ。

 

 現状、貴族ではない俺たちには各ギルドを開設するメリットはない。

 そして、わざわざ装備品の性能を落としてまで限定をかける意味も薄いだろう。

 しかし、手元にはいくつかの限定のかかっていると思われる装備品がある。

 

 聖槍とセブンリーグブーツ、そしてアスカロン。

 

 特にユニーク装備であるアスカロンとセブンリーグブーツの限定を解除すれば、一体どのくらい性能が上がるのか。

 ギルド神殿が入手できたなら、すぐにでも試してみたい。

 

 デュランダルや毘盧帽、歩雲履についても使用したいところだが、キャラクター再設定でポイントを振ってボーナス装備の出し入れをした場合、毎回同一の物が出ているわけではなく、その都度新品が出現していると思われる。

 細かい傷や、付着していた汚れが消えているといった根拠からも、ほぼ確実と言えるだろう。

 つまりそれをポイントへ戻してしまえば、次に取り出したときには再び限定がかかった状態へ戻っている可能性が高い。

 そうなれば貴重なギルド神殿が虚空に消えてしまう。

 大量に所持しているならともかく、いまは絶対に試すべきではない。

 

 階層が下がることで獲得経験値が減少し、レベルアップが遅くなるのは確実だが、ギルド神殿は一つでも多く確保しておきたい。ならば方針は明確だ。

 

 期待を隠せない四対の瞳に見つめられながら、思うところを述べる。

 

「陳皮の在庫はかなりのものだし、四十四階層から最上階のボスを撃破するまで持つはずだ。明日からはベイルの迷宮に移るとしよう」

 

 彼女たちはその言葉に表情を輝かせた。

 

「三日後はハルバーの迷宮を討伐することになっていますし、楽しくなってきましたね」

 

 ロクサーヌに続き、セリーも口を開く。

 

「ええ。この調子で討伐できそうな迷宮は、片っ端から潰していきましょう」

 

 さらにミリアとベスタもそれに続く。

 

「ご主人様と私たちなら、どんな魔物が相手だろうと余裕です!」

「はい。私もお役に立てるよう頑張ります」

 

 現在、狩場にしているのは高難度迷宮の五十三階層。

 いまさら、出来たばかりの迷宮に怯むことはない。

 

「ああ。頼りにしてるぞ」

 

 四人は天まで届けとばかりに、士気のこもった鬨の声を上げていた。

 

 まあ、あまり張り切りすぎないようにね。

 

 

 

 先ほどのやり取りでみんなのテンションは爆上がり。

 俺たちはまるで覇王とその配下の如く、威風堂々と自宅へ続く田舎道を行進する。

 

 しかし、セリーは気になることがあったらしく、こちらを見上げて話しかけてきた。

 

「ハルバーとベイルの分を合わせると二つのギルド神殿が手に入りますが、何に使用するのですか?」

 

 二つ? 五十階層のボスは二匹出現するよな? 四つじゃないのか?

 

 それを確認しようとしたところ、俺に先んじてミリアが首をかしげながら疑問を投げかける。

 

「二つの迷宮を討伐するのなら、倒すボスは四匹ですよね? 手に入るのは四個じゃないんですか?」

 

 するとセリーは首を横に振って疑問に答えた。

 

「いいえ。ギルド神殿は最後に倒したボスからしかドロップしないのです。そのため、一つの迷宮につき一つしか入手することはできません。これはボスが三匹出現する六十七階層以降の場合でも同様です」

 

 なるほど。そういう仕様になっているのか。

 ギルド神殿はめちゃくちゃ貴重だという話だし、考えてみれば当然かもしれない。

 

 俺とミリアだけではなく、ロクサーヌとベスタも感心したような表情を浮かべていた。

 どうやらこの世界の人たちにとっても、一般的なことではないらしい。

 

 まあいいや。それはともかく、使い道についてだよな。

 

「まずは、何と言ってもアスカロンの限定解除だ。そうすることでボス戦の時間を大幅に短縮することができるだろう」

「オーバードライビングと属性付与、それからトリプルアタックのおかげで、今でも信じられないような速度でボスを倒すことができるというのに、それがさらに短縮されるのですね……」

 

 ベスタが慄くように声を漏らすが、まだまだこんなものじゃないぞ。

 

「そしてもう一つはロクサーヌのセブンリーグブーツに使用する。きっとさらにロクサーヌの安定感が増すことだろう」

 

 おそらく防御力だけではなく、敏捷のパラメーターも増すのではないだろうか?

 現状、オーバーホエルミングを使ってもこの娘に負け越しているのだ。きっとどうやったって太刀打ちできない無双モードに突入するに違いない。

 

 ……冷静に考えると、とんでもないなぁ。

 

 そんなことを考えていると、我が最愛の人が感極まったように声を上げる。

 

「ご主人様、ありがとうございます! そのご期待に応えられるよう、今後も励んでまいります!」

 

 彼女の表情は決意と喜びが混じり合い、大輪の花が咲き誇っているかのようだ。

 そして、その背後からは激しく揺れ動く、愛らしい尻尾が見え隠れしている。

 ほんと、世界一可愛いわぁ。

 

「ああ。頼りにしてるぞ」

 

 その言葉で尻尾の動きがさらに勢いを増す。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 今日は夏の十六日目。そう、ルークの伝言が届く日だ。

 先日の話し合い通り、玄関の扉にパピルスが挟まれていた。

 

 いつものようにロクサーヌがそれに手を伸ばす。

 

 さて、落札したものがなくても伝言をするということになっていたが、今回はどうなのかね?

 

 パピルスを開き、そこに視線を落とすと、彼女は表情を引き締める。

 

 うん? 何かあったのか?

 

 ロクサーヌはキュッと口を結んでから顔を上げ、俺と目が合うと一つ頷いた。

 そして、再びパピルスに視線を向ける。

 

「……読み上げます。コボルトのスキル結晶が五千ナール、ウサギのスキル結晶が四千八百ナール、カエルのスキル結晶が五千九百ナール、鯉のスキル結晶が六千七百ナール。スキル結晶は以上です」

 

 ほう。カエルと鯉はともかく、コボルトとウサギは需要が多いだろうに、他の仲買人とキッチリ話を付けたようだ。

 ルークめ、ちゃんと心を入れ替えているじゃないのさ。

 これが続くようなら、安心して奴との取引を継続できる。

 ルーク君。いや、ルーくん。今後も期待を裏切らないでくれたまえよ?

 

「そして――」

 

 益体もないことを考えていると、ロクサーヌの硬い声が耳に届く。

 

「ハルツ公爵様からのご伝言です。明朝、いつもの時間にボーデの宮城へ来られたしとのことです」

 

 はあ!? ハルツ公からの伝言!?

 

 心拍数が一気に上がり、動揺していることを否が応でも自覚させられた。

 それでも冷静になるよう自分に言い聞かせながら、思考を巡らせる。

 

 やがて、二つの予想が頭に浮かぶ。

 

 ありそうなのは、三日後の帝国解放会の昇格試験について。

 公爵も試験を見学するらしいし、あらかじめ最上階の待機部屋付近にダンジョンウォークのブクマ登録を行うなど、何らかの打ち合わせを行うという可能性。

 普通に考えるならこちらの線が濃厚だ。

 

 しかし、問題はもう一方……。

 

 まさか帝国側と全エルフ最高代表者会議に、セ二号作戦の話が付いたんじゃないだろうな……。

 もしそうなら、話が漏れてセルマー伯に伝わる懸念がある以上、作戦はすぐに決行されるはず。

 襲撃するのであれば、狙うのは相手が寝静まった深夜。

 明朝、話をするとなれば、決行は最速で明日の深夜ということもあり得る……。

 

 こっちの可能性はどれほどだ?

 

 そう考えつつ彼女たちの様子をうかがうと、真剣な顔で俺の方を見つめていた。

 

「明日だと思う?」

 

 念のため主語をぼかして問いかけたところ、眉間にしわを寄せたセリーが口を開く。

 

「用件がそのことについてなのかも、また仮にそうだったとしても明日なのかは分かりません。ですが、状況を考えると近日中に決行されることは間違いないと思います」

 

 ……だよな。

 まったく迷宮探索が行われていなかった原作とは違い、きっとルティナは討伐を目指して今日も迷宮に入っているはず。

 このまま彼女のパーティーがそれなりの成果を上げてしまえば、迷宮攻略を怠っているセルマー伯を討ち、頭を挿げ替えるという大義名分が失われてしまう。

 もしそうなれば、討伐を目指して領内の迷宮に入るのはルティナのパーティーのみ。

 彼女たちが早期にセルマー伯爵領から迷宮を一掃する可能性と、領地が迷宮に呑まれる可能性。どちらが高いかなんて火を見るよりも明らかだ。

 領土を削られてしまう帝国、影響力が大きく低下してしまうであろうエルフ。そしてなにより、現在進行形で被害を受け続けているセルマー伯爵領の領民たち。いずれの事情であっても、放置するわけにはいかないだろう。

 たとえ今回がその件じゃなかったとしても、話は早晩まとまるに違いない。

 

 ……ルティナに情けをかけてひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガを渡し、戦う術を授けたのは俺だ。

 根本の原因がセルマー伯の領内統治にあるとはいえ、ここまで状況を悪化させたのは間違いなくその影響が大きい。

 くそっ。いろんな人に迷惑をかけてるな……。

 

 ……いや。今更そんなことを悩んでもしょうがない。

 セルマー伯排除自体は確実に起きただろうし、早いか遅いかの違いだけ。

 自己欺瞞がないとは言わないが、余計なことを考えるよりやるべきことを明確にしておこう。

 そう。俺のやるべきことはただ一つ。

 

「ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタ。ルティナを助けるぞ」

 

 頼もしい返事が、オレンジの空に昇っていった。

 

 

 

 今日もレベルが上がったセリー、ミリア、ベスタは意気揚々と物置部屋へ赴き、高性能装備品を試していたが、まだまだ十全に使いこなせるというわけにはいかず、少しだけテンションが落ちていた。

 しかし、ロクサーヌ師匠は本気モードを継続中。

 俺たち四人はいつも以上に気合の入った攻撃で、ボコボコに叩きのめされてしまう。

 続いてのオーバーホエルミングを用いた修業でも、常軌を逸した速度で繰り出されているであろう俺の攻撃をかわし続け、他の娘たちへの攻撃も的確に防がれてしまった。

 しかも、こちらはダメージを受けまくるという体たらく。

 

 ロクサーヌさんや。せっかくシリアスに決めたんだ、もうちょっと俺の格好いいところを継続させてはくれませんかねぇ。

 

 でもまあ、厳しい修業のおかげなのか、空気はすっかりいつも通りに戻っていた。

 ピリピリした雰囲気は性に合わない。こっちの方が俺たちらしいよな。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv67 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv48

装備 頑強のアルバ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv39

装備 貫通のミセリコルデ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv37

装備 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

探索者Lv35

装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ベスタ ♀ 15歳

竜騎士Lv32

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 耐風のダマスカス額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

詠唱短縮:1

ワープ:1

買取価格三十パーセント上昇:63

 

所持金:10,654,597ナール

 

夏の16日目

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