もしかしたら翌日はセ二号作戦の決行日かもしれないというのに、昨夜は何度も彼女たちを求めてしまった。
我ながら節操がないとは思うものの、嬉々として応じてくれるんですもの。
奮い立たなければ男が廃るというものだ。
ほんと、俺は世界一幸せな男だよ。
身支度を整え、ミーティングと給与の支給を行う。
早朝の探索を済ませたらボーデの宮城に顔を出さないと。
その後、朝食を済ませたら五日に一度の買い物と帝都の高級服屋でベスタのドレスの進捗確認。
俺はその間に商人ギルドでスキル結晶を受け取ってこよう。
あとはいつも通りだな。
打ち合わせを終えたところで、早朝の探索へ出発する。
さて、今日からはベイルの迷宮に挑戦だ。
とはいっても昨日まで探索していたのは、攻略する者がいないせいで難易度が増している迷宮の五十三階層。
できたばかりのこことは比べ物にならない。
最上階の五十階層まで突っ走って、叩き潰してくれるわ。
意気揚々と、ゲートの横に立っている男へ声をかける。
「最高到達階層はどうなっている?」
「四十四階層となっております。若い迷宮ですので、おそらくこれ以上の階層更新報告はないでしょう」
まあ、横取りを警戒するだろうし、当然か。
出現する魔物についてはセリーがバッチリ調べているし、わざわざ尋ねる必要はない。
そんじゃ、いきますかね。
アイテムボックスから取り出した銀貨を差し出し、告げる。
「では、四十四階層まで頼む」
セリー先生によれば、四十四階層から出現する魔物はスパイススパイダー。
以下、ハントアント、ラピッドラビット、コラージュコーラルと続くらしい。
弱点と耐性が噛みあわないものの、ガンマ線バーストとサンダーストームで何とでもなるだろう。
あ、いや待てよ?
ハルバーの四十四階層で戦っていた時は、メテオクラッシュ二発で片付いていた。
あのときから遊び人、勇者、魔道士のレベルがそれぞれ10以上アップしている。
ワンチャン、メテオクラッシュとサンダーストーム二発で何とかならないかな?
スパイススパイダーとコラージュコーラルは土属性に耐性があるため、メテオクラッシュの与ダメは落ちるが、試してみる価値はある。
その旨を告げたところ、ロクサーヌが大きく頷いた。
「そうですね。ご主人様はあれからとてもお強くなっていますので、きっとトリプルスペルで倒せると思います」
その言葉を聞き、ベスタがボソッと声を漏らす。
「二十日も経っていないのにそれだけ強くなれる人がいるだなんて……。このパーティーに入れていただかなければ、とても信じられなかったと思います……」
「ほんとだよねー。私もご主人様と一緒に過ごす前は、絶対に信じられなかったと思うもん」
ミリアもどこか呆れたような表情で、そうこぼした。
お嬢様方? 人のことをとやかく言ってるけど、ロクサーヌを筆頭に君たちも大概だからね?
微妙な空気になったものの、気を取り直すようにセリーが咳払いを行う。
「たとえメテオクラッシュが二発必要だったとしても、ガンマ線バーストを使うよりMPの節約になります。強壮剤の消費を抑えるためにもその方がいいのではないでしょうか」
いや。もしメテオクラッシュが二発必要だった場合、戦闘時間は魔法のクールタイムも含めて二倍以上になる。
確かに強壮剤の節約にはなるが、それはよろしくない。
そのときはガンマ線バーストに切り替えて、時短を図るべきだ。
まあ、うだうだ考えるより、まずは試してみよう。
キャラクター再設定を開き、ガンマ線バーストとメテオクラッシュを入れ替える。
「では、待機部屋を目指そう」
田川ヴァルキリーズの返事と共に、通路へ足を踏み入れた。
迷宮内に鳴り響く、ベスタの金属鎧とグリーヴの音をBGMに通路を歩いていると、程なくしてロクサーヌから警告の声が上がる。
警戒しながら先へ進むと、天井や壁に張り付いているスパイススパイダーとハントアントがそれぞれ二匹、さらに地面をピョンピョン飛びながらこちらへ向かってくるラピッドラビット二匹の群れが姿を現す。
「メテオクラッシュ、サンダーストーム、サンダーストーム」
俺の魔法名を叫ぶ声を合図に、彼女たちは戦闘を開始した。
ロクサーヌとミリアは蜘蛛とアリの間を跳び回りながら攻撃を加え、セリーとベスタはウサギを一匹ずつ担当している。
普段はもっと上の階層で戦っているのに加え、毎日の修業の成果があるのだろう。
全員、余裕をもって魔物をあしらっていた。
ほんと、すごい娘たちだこと。
感心しながらその様子を見守っていると、ふと気付く。
あれ? なんとなくだけど、魔物の攻撃をどうさばけばいいのかが分かるぞ?
おそらく、あのすばしっこいラピッドラビットであっても、問題なく対処ができるだろう。
彼女たちだけではなく、俺も強くなってるのか?
考えてみれば、バトルマーメイドとの戦闘訓練でもほとんど攻撃を食らうことはなくなっているし、空中に逃げられないような立ち回りもできている。
もちろん、高レベルのジョブを複数設定していることによる、パラメーター増加によるところも大きいのだろうが、俺自身の戦闘技術や判断能力も向上しているのではないだろうか?
もしかして、始まったのか? 田川歩の時代が始まっちゃったのか?
そんなことを考えているうちに、魔法のエフェクトが消え、それに続くように実体を失った魔物も次々と空気に溶けていき、辺りに静寂が戻る。
おっしゃ! ワンパンじゃーい!
土属性に耐性を持つスパイススパイダーに対して、メテオクラッシュの与ダメは減衰していただろうに、まったく問題にならなかった。
やっぱ強くなってる。俺、強くなってるよ。
それもスペルキャスターとしてだけではなく、近接戦闘能力も含めてだ。
ヤバい。本当に俺の時代がきたのかも。
内心で自画自賛しながら、受け取ったドロップアイテムをしまい、探索を再開だ。
恙なく探索を終え、バトルマーメイドとの戦闘訓練と食材の買い出しを済ませて自宅へ戻る。
一言告げてからボーデの宮城へ向かおうとしたところ、彼女たちは怖いくらいに真剣な表情でこちらを見つめていた。
……もしかしたら、今日にでもセルマー伯爵家へ攻め込むかもしれないのだ。そうなるのも無理はない。
「どういう用件なのかは分からないけど、心構えはしておこう」
その言葉にロクサーヌは小さく頷いた。
「ルティナの匂いはしっかり覚えています。襲撃の際はすぐに彼女の下へご案内いたしますので、ご安心ください」
食材を抱え直しながら、セリーもそれに続く。
「たとえ伯爵家の騎士団が相手でも、ご主人様とロクサーヌさんがいれば問題ないでしょう」
こらこら。好戦的すぎるぞ。
ロクサーヌの鼻で伯爵家の人を回避し、見つかることなくルティナを無事に確保するのが目的なんだ。騎士団と戦うつもりはないっての。
ミリアとベスタは顔を見合わせながら、言葉を交わしている。
「ルティナはともかく、セルマー伯爵は迷宮や盗賊団を放置していたんだもん。排除されるのは仕方がないよね」
「そうですね。贅沢な暮らしをしているのに、義務を果たさないのでは、領民は何のために税金を払っているのか分かりません」
優しい娘たちなのに、この辺の感覚は実にシビアだ。
かくいう俺も、義務を果たさず淫蕩に耽る彼については、誅されるべきだと考えている。
たとえルティナの父親だったとしてもな。
そうでなければ、貴族は専横を極め、あっという間に国ごと迷宮に呑まれるだろう。
それは絶対に防がなければならない。
決意を新たに、彼女たちに声を掛ける。
「じゃあ、いってくるよ」
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
ピタリと揃った声とお辞儀に見送られ、ワープゲートを開いた。
ワープゲートを抜け出すと、こちらに気付いた馴染みの騎士が声を掛けてくる。
「アユム殿、お待ちしておりました。閣下よりそのままお通しするように申し付かっておりますので、執務室へとお進みください」
ここに来るようにと伝言をしたんだから、当然話も通しとくわな。
右手を上げながら感謝を伝え、執務室へと続く廊下を歩き出す。
扉をノックし、促されるままに部屋へ入ったところ、デスクに肘をついて豪華なチェアに座っているハルツ公と、その後ろで控えているゴスラーの姿が目に飛び込んできた。
普段は泰然自若としており、常に余裕のようなものを感じる公爵だが、どこか張り詰めたような雰囲気を漂わせている。
あるいは俺の先入観によって、そう見えているだけだろうか?
判然としない状況に戸惑っていると、彼は椅子から立ち上がる。
「アユム殿、よく参られた。まずは腰を下ろされよ。ゴスラー、施錠を済ませ、その方も余の隣へ座るがよい」
「はっ」
公爵の言葉に答え、ゴスラーは扉へと向かう。
……鍵を閉めるってことは、気のせいじゃないな。
本当に今日がその日なのかもしれない。
ただ事ではない事態に、心の中で気合を入れ直す。
俺がハルツ公の対面に座り、その斜め向かいにゴスラーが座ったところで、公爵は話を切り出した。
「今回その方を呼び立てたのは、セ二号作戦の進捗を伝えるためだ。かねてより調整を行っていたセルマー伯爵討伐であるが、昨日帝国と全エルフ最高代表者会議の内諾が得られた」
やっぱりか。やっぱりその話だったか。
「内諾となっているのは、セルマー伯爵側へ情報が伝わらぬようにするためだ。陛下のご裁可はもちろん、エルフの代表者各位も全会一致で伯の排除を支持しておる」
腹の中にずっしりと重たい何かを入れられたような感覚に陥りながら、問いかける。
「決行日はいつになるのでしょうか?」
「後になるほどセルマー伯に気取られる危険が増すゆえ、本日深夜を予定しておる。昇格試験を控えたアユム殿には申し訳ないが、どうか理解してはもらえぬか」
俺の都合で決行日を伸ばし、そのせいでセルマー伯に逃げられたらとんでもないことになる。これは絶対に拒否できない。
「承知いたしました。微力ですが、ご協力は惜しみません」
その言葉にハルツ公だけではなく、ゴスラーまでもが安心したように大きく息を吐き出した。
「アユム殿の助力により、作戦成功に大きく近づくことであろう。その方に感謝を」
どうやら俺がごねる可能性を考えていたらしい。
自宅以外では強者としての振る舞いをしているせいで、ロクサーヌたち以外は本当の姿を知らないもんなぁ。
しかし、実際は長いものに巻かれまくる、事なかれ主義者。
権力者の頼みを突っぱねられるわけがないし、協力させていただきますとも。
でも、スケジュールはどうなっているんだろう?
その旨を尋ねたところ、ゴスラーがこちらをじっと見つめながら口を開いた。
「この後、騎士団の冒険者たちが計画に賛同している方々に声をかけてまわり、この城に集める手はずとなっております。そして、セルマー伯爵家の者たちが寝静まる深夜を見計らい、作戦を開始する予定です」
さらに圧迫感を伴った表情と声で公爵が続く。
「その方の出番はそこだ。騎士団の冒険者をパーティーに加え、セルマー伯爵家に垂らされているハルツ公爵家のエンブレムが刺繍された垂れ幕へ移動してもらいたい」
「全ての冒険者が移動可能になったところで、アユム殿の役目は終了です。襲撃に加わる必要はありませんので、作戦終了までこの城でおくつろぎください」
うーん……。それだと困るんだよなぁ。
何とか俺たちも襲撃に参加して、ルティナを探し出さなくてはならない。
どうやってその話に持っていくべきか……。
考え込んでいるとゴスラーがさらに説明を続ける。
「アユム殿にもご都合があるでしょうが、決行まではどこにもいかず、このままこの城で待機していただきたく」
「うむ。その方を疑うわけではないが、万が一を考え外部との接触は慎んでもらうのがよかろう」
彼らの言葉に思わず息を呑んだ。
いやいやいや! それは困るって!
ルティナを救出するとなると、ロクサーヌの鼻が必要不可欠だ!
俺一人だと彼女を探し出すことができない!
不味いぞ。一体どうすればいいんだ? どう言い包めればいい?
必死に頭をフル回転させるも、それらしい言い訳は一切思い浮かばず、ただただ空転するばかり。
どうする? どうすればいい?
焦りばかりが募り、事ここに至っては舌先三寸で彼らを納得させられないことに思い至る。
……その場しのぎの虚言では絶対に納得してもらえない。
何もかもつまびらかにして頼む方が、まだ可能性があるだろう。
そう決意すると、焦りが腹の中で覚悟に変わっていった。
「公爵閣下。一つ提案したいことがございます」
俺の言葉を聞き、彼は訝しげに問いかけてくる。
「ほう? 申してみよ」
どうやら話を聞いてくれるらしい。
「ありがとうございます」
深く頭を下げ、改めて提案を行う。
「以前、セルマー伯爵家へ赴いた際、私はルティナ様にひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガをお渡しした上で、戦うための術をお伝えしました」
「うむ。そうであったな」
どうやら論点を把握したらしく、公爵は渋面を浮かべながら相槌を打つ。
戦えるってことは作戦の障害になるってことだもんなぁ。そんな顔になるのも無理はない。
ほんと、余計なことをして申し訳ない。
「以前、カシア様にうかがったところによりますと、かのご令嬢は魔法使いのジョブを得て、精力的に迷宮探索にも取り組んでいるのだとか」
公爵だけではなく、ゴスラーの顔にも苦いものが浮かんでいる。
「自らの家が襲撃を受けるのです、魔法使いともなればその抵抗は激しいものとなるでしょう。そうなると閣下の騎士団や協力者の方々も、手加減をするというわけにはいかないはずです」
「いかにも。余らは大義によって立っている。もしセルマー伯の娘御がそれを阻むというのであれば、排除せぬわけにはいかぬ」
ハルツ公の顔には高潔な決意が浮かんでおり、呵責の色は一切うかがえない。
被害を受けているセルマー伯爵家の領民を救い、伯爵家が一つなくなることにより発言権が低下する可能性があるエルフの地位を押しとどめ、領土を削られる帝国の危機を防ぐ。
まさに大義そのものだ。
でもな。それでも俺はあの娘の命が失われるなんて、絶対に認めるわけにはいかない。
「閣下。以前にも申し上げましたが、ルティナ様はどんなことがあっても私がお救いいたします。それだけは、どんなことがあろうとも、それだけは絶対に認めるわけにはまいりません」
その瞬間、ハルツ公の顔に冷徹な笑みが浮かび、重力さえ感じるような声で問いかけてきた。
「ほう? どのようにだ?」
気圧されるな! 俺にはオーバードライビングが付いている! 対人戦なら無敵の男だろ! 意志を貫いてみせろ!
持てる気合の全てを掻き集め、その言葉に応じる。
「私はルティナ様よりハンカチを託していただきました。そして、ロクサーヌはその匂いを覚えています。我がパーティーを襲撃に加えていただければ、確実にあのお方を探し出し、説得して御覧に入れます」
「なんと……」
思わず声を漏らしたゴスラーに対し、ハルツ公はあごに手を当て、何やら考え込んでいる。
やがて顔を上げると、鋭い視線でこちらを射抜いた。
「いかに狼人族の鼻が優れていようと、匂いなどそう長い間残るわけではあるまい。となれば、受け取った直後にロクサーヌ嬢に嗅がせていたことになる。その方、いつからこの計画を立てておった?」
反射的に舌打ちが出そうになるのを必死にこらえる。
クソッ。察しが良すぎる。
そんなことはスルーしてくれよ!
ここで誤魔化しても碌なことにはならないだろう。
本当のことを話して頼むと決めたんだ。地球のことやキャラクター再設定にまつわること以外は真実を伝えるさ。
「ここで閣下とゴスラー殿からセ二号作戦についてお聞きしたとき、私の助言でルティナ様が力を得ていれば、作戦決行時に激しく抵抗するのではないか、その結果あのお方の命が危うくなるのではと思い至りました。そして、それを防ぐためにはどうするべきなのかを、必死に考えたのです」
一人じゃなくロクサーヌやセリーと一緒に考えたんだけど、嘘はついてないぞ。
あんぐりと口を開けてこちらを見つめていたものの、ハルツ公はすぐに我を取り戻す。
「あの時点でそこまで見通すか。まさに神算鬼謀よな」
原作知識というカンニングのおかげだけどさ。
一発かましたところで、もう一度頼み込む。
「パーティーメンバーを迎えに行く際は監視者に同行していただいても構いません。どうか彼女たちと共に作戦に参加させていただけないでしょうか」
そして、深く頭を下げた。
やがて、大きく息を吐き出す音が聞こえたかと思うと、すぐに優雅なバリトンボイスが耳に届く。
「よかろう。アユム殿にも参加してもらうとしよう」
よっしゃー! さすが公爵! 一生ついていきます!
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49
装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:29
キャラクター再設定:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
MP回復速度十倍:31
所持金:10,643,619ナール
夏の17日目
いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
更新を続けていけるのは素晴らしい原作と、お読みいただいた皆様のUA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応のおかげです。
そこで、今回の更新からGW中は連続更新を行いますので、お楽しみいただければ幸いです。