異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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290 決起

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 監禁部屋へ戻るとすぐに夕食が運ばれてきた。

 人数分の大きなパンに、肉野菜炒め。さらにカブ、じゃがいも、玉ねぎと肉を煮込んだスープ。そしてオリーブオイルとビネガーで味つけされたサラダ。

 さすが公爵家が出した料理だけのことはあり、どれも実に美味である。

 この雄山を唸らせるとは、たいしたものよ。

 

 食事が終わると歯磨きを行い、食器を下げてもらう。

 普段ならここで風呂となるわけなのだが、そんな贅沢を言うわけにはいかない。

 ワープで自宅へ戻って風呂に入ろうと俺の中の悪魔が囁くが、そんなことをすれば一発でバレてしまう。

 監視をしている者にお湯を頼めば用意してくれるのだろうが、そこまで要求するのはさすがになぁ。

 用意されている水でタオルを濡らし、それで体を拭くだけに留めておく。

 

 現代日本人の俺だけではなく、彼女たちもすっかり毎日の風呂に慣れてしまっているため、明らかに満足していない様子が見受けられた。

 お湯で汗を流し、石鹸で体を洗い、湯船に肩まで浸かる。それと比べれば天と地ほどの差があるもんなぁ。そりゃそういう顔にもなるわ。

 

 蝋燭の明かりを頼りにトランプをするわけにはいかないし、今後の作戦を話し合おうにも、扉の真ん前に人がいる状況だ。

 俺たちには聞かれたらまずいことが山ほどあるため、そんなことをするわけにはいかない。

 そのため、体調を万全にするべく、睡眠をとることにした。

 先ほどハルツ公から聞いた作戦決行の二時間くらい前にはロクサーヌが起こしてくれるそうだし、安心して熟睡できる。

 ベッドで一塊になり、おやすみなさい。

 

 

 

「ご主人様、そろそろ時間です。起きてください」

 

 んっ……。ああ、ハルツ公の城か……。

 

 ロクサーヌの涼やかでありながら艶に満ちた声で目が覚めた。

 しかし、すぐに準備をする必要がないからだろう。彼女たちもまだベッドの中で体を横たえている。

 

「作戦開始まであとどのくらい?」

「既に日をまたいでいます。予定通りであれば、あと二時間ほどで決行となるでしょう」

 

 ロクサーヌが答えると、セリーの声も耳に届く。

 

「何が起こるか分かりませんからね。時間までに体の状態を万全に整えておかなくてはいけません」

 

 確かになぁ。普段の早朝の探索に比べると不確定要素はこちらの方が大きい。念入りに準備をしておかなくては。

 

「じゃあ、ストレッチでもやろうか」

「ストレッチですか?」

 

 不思議そうに問いかけてきたミリアに答える。

 

「筋肉や関節を伸ばして動きやすくしたり、怪我をしにくくする準備体操みたいなものかな?」

 

 正確な定義は分からないけど、たぶんそんな感じだったはず。

 あとは整理体操的な効果もあるんだっけ?

 

 そんなことを考えていると、ベスタがおずおずと口を開く。

 

「あの、ご主人様。口調が自宅にいるときのものになっているようなのですが……」

 

 あっ、やべっ。寝起きだったせいで完全に気を抜いてた。

 

「うむ。まあ、運動をする前にストレッチを行うと、いろいろな効果が期待できるのだ。襲撃に参加する前に、よく体をほぐしておこう」

 

 威厳に満ちた喋り方と声のトーンを意識していたというのに、ロクサーヌが喜色の混じった声を漏らす。

 

「ふふ。ご主人様、可愛らしいです」

 

 彼女だけではなく、他の三人もクスクス笑っている。

 

 ええい。からかうでない。

 

「麻呂の言葉がそんなに面白かったでおじゃるか?」

 

 すると、彼女たちの笑い声がさらに大きくなった。

 まったく。箸が転んでもおかしい年頃のお嬢さんたちである。

 

 ……それにしてもこれだけ笑いを誘うだなんて、自動翻訳君? いったいどんな訳し方をしたの?

 

 

 

 蝋燭の頼りない明かりの中、ストレッチ方法をレクチャーしながら皆で体をほぐす。

 なんか、インストラクターになった気分だぞ。

 

 そのうちドラゴンボールやシティーハンターでお馴染みのエアロビクスを伝授したいところだが、実のところエアロビクスがどういうものなのかがさっぱり分からない。

 俺の中ではレオタードを着た女性が、陽気な音楽に合わせて、笑顔でワンツー、ワンツーと言いながら体を動かしているイメージだ。

 

 ……だいぶ偏見が混じっている気がするな。

 まあレオタードも音源もないし、諦めておこう。

 

 体の調子を整え、念のために装備の点検を行い、それを身に付ける。

 そしてキャラクター再設定の確認だ。

 

 

 

 緊張をほぐすために他愛ない会話をしていると、不意にロクサーヌが匂いを確認しだした。

 しばらくすると、顔をこちらに向けて告げる。

 

「ご主人様、公爵様とカシア様、他にも何人かの方がこちらへ向かってきているようです」

 

 どうやら、いよいよそのときがきたらしい……。

 

 

 

 やがて扉が開き、真剣な表情の公爵夫妻が姿を現した。

 さらに彼らの後ろにはフィーネと、知らない男女が控えていたが、三人の顔は強張っており、その緊張の度合いがうかがえる。

 

 今まで見たことがないよな? 誰だ?

 

 疑問に思った瞬間、反射的に彼らへ鑑定をかけていた。

 

コンラート・ノルトシュヴァルツ・アンセルム ♂ 24歳

森林管理官Lv48

装備 耐火のミスリル額金 頑強の聖銀メッシュウェア 耐水のオリハルコン手甲 オラクル竜燐靴 身代わりのミサンガ

 

 ルティナと同じ家名に、セルマー伯爵家の継嫡家名……。

 なるほど。彼がそうなのか。

 

リディア・リューデンヴァルト ♀ 24歳

冒険者Lv29

装備 オラクル竜燐帽子 ミスリルのブレストプレート 頑強の竜燐手甲 耐風の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

 隣の女性は彼と同じ年齢の冒険者。おそらく彼のパーティーメンバーなのだろう。

 

 こちらの視線に気がつき、ハルツ公がコンラートという男を手で示す。

 

「アユム殿。もう間もなく作戦開始となるが、その方にはあらかじめ紹介しておいた方が良かろうと思い同行させた。この者こそが新たなセルマー伯爵となる男、コンラート。そしてそのパーティーメンバーであるリディアだ」

 

 そして、今度はこちらに手を向ける。

 

「コンラートよ、この者が先ほど申したアユム・タガワ。その方は今後、ひとかたならぬ助力を受けることになる。感謝を伝えておくがよい」

 

 その紹介を聞き、驚きの表情を浮かべたものの、すぐに表情を引き締めた。

 

 原作では動揺していたというのに、どうやら覚悟は決まっているらしい。

 もしかしたら、ここに来る前に公爵夫妻とセルマー伯爵継承について話し合いをしているのかもしれない。

 

 あっ、いや。原作では名前が出てなかったため、同一人物なのかは分からない。まったく別人だということも考えられる。

 

 思索を巡らせていると、コンラートが前へ出た。

 

「先ほど公爵からうかがいました。今回のセ二号作戦だけではなく、私がセルマー伯爵となった後も領内の迷宮に入っていただける上、迷宮を討伐した際にはその功績をお譲りいただけるとのこと。アユム殿のお力添えに心より感謝申し上げます」

 

 ああ。そういえばそんな話になっていたな。

 功績なんかどうでもいいが、セルマー伯爵領の迷宮攻略に力を貸すとルティナと約束したんだ。それは絶対にやり遂げる。

 

「微力ですが、セルマー伯爵領を救うためには協力を惜しみません」

 

 俺の返事を聞き、コンラート、いや数時間後のセルマー伯爵が頭を下げた。

 

「本当にありがとうございます」

 

 自由民である俺に頭を下げて感謝をすることができるのか。

 今後はハルツ公の派閥に加わりバックアップを受けるのだろうし、この男なら崖っぷちの伯爵領を立て直すことができるかもしれない。

 

 さらに、カシアも頭を下げた。

 

「アユム様、弟にお力添えいただけること、またわたくしの故郷から迷宮の脅威を取り除くための助力をいただけること、そしてルティナを守ってくださること、感謝の言葉もございません。これほど大きな御恩を賜ったのです。いずれ必ずお返しいたします」

 

 これはルティナとの約束を果たすためにやることで、別に感謝されるようなことじゃない。

 約束云々にしたって、彼女のためというより俺がやりたいからやるというだけのことだ。

 言ってしまえば徹頭徹尾、自分のためってことさ。

 それに何より、戦いたがりの娘さんたちがやる気になってるんだもん。

 

「頼もしい仲間たちが腕試しの場所を求めているだけのこと。カシア様、どうかお気になさらないでください」

 

 すると、快活な笑い声があたりに響き渡る。

 

「迷宮討伐が腕試しか。ヴェルナーのパーティーをあのように鮮やかにあしらうのだ。それも当然よな」

 

 笑い続けるハルツ公だけでなく、他の四人も憑き物が落ちたかのような表情を浮かべていた。

 一方、うちの娘さんたちは渾身のドヤ顔を披露中。

 

 君たち? めちゃくちゃ可愛いけど、外ではやめておきなさいね?

 

 一頻り笑ったところで、公爵は表情を引き締めた。

 

「もう間もなく作戦開始の時刻となる。フィールドウォークを使用する場へ移動するぞ」

「かしこまりました」

 

 監視役の騎士たちも含め、その場の全員で移動を開始する。

 

 

 

 たどり着いたのは先ほど模擬戦を行なった大広間。

 さらに人数は増えており、全校集会の体育館のように人がひしめいていた。

 かがり火が燃える匂いと彼らの香水や体臭が混じり合った、一種独特な臭気が鼻を刺す。

 壁際には公爵家のエンブレムが刺繍された垂れ幕がいくつもぶら下げられている。

 

 俺たちを伴い中央へ進み出ると、公爵が高らかに声を上げた。

 

「これよりセルマー伯爵家へ攻め込むための作戦を伝える。まずは第一段階としてフィールドウォークで直接ノルトセルムの城へ移動可能なアユム殿が冒険者五名とパーティーを組み、移動可能な人数を増やす。そしてそれを三度繰り返せばここにいるほとんどを、四度繰り返せば全員をあちらへ送ることができる。ここまでは第一段階だ」

 

 原作と作戦が違う?

 確か最初は次期セルマー伯爵が乗り込み、城の人たちに語り掛けて抵抗を抑えるんじゃなかったか?

 

 考え込んでいると、ハルツ公が言葉を続ける。

 

「もし乗り込んだ先に人がいた場合、騒がれぬよう始末せよ。それが不可能であれば、アユム殿がここへ戻れるよう、他の五名は何としてもエンブレムを死守するのだ。そうなってしまえば穏便に制圧することなどできぬ。戦力を順次送り込み、圧倒的な武力によりセルマー伯爵家を粉砕する」

 

 そんな事態に陥ればかなりの犠牲が出てしまうだろう。

 おそらく他の人では気付かれないように始末することなど不可能。

 俺がオーバードライビングを使って、その場に居合わせた人を手にかけなければならない。

 他人に危害を加える盗賊とは違い、真っ当に生きているだけの人を殺せるのか?

 

 ……正直、かなり難しい気がする。

 

 あるいはアスカロンで四肢を飛ばし、あとで滋養錠を渡せば何とかならないだろうか?

 

 ……いや、無理だな。そんなことをすれば悲鳴を上げるだろうし、城の者に気付かれてしまう。

 

 ……いくら考えても答えなんか出ない。それに人がいるかもわからないんだ。あまり考えすぎないようにしよう。

 

「次に第二段階だ。次期セルマー伯爵となるコンラートが仲間と共に乗り込み、セルマー伯爵領の置かれている状況を語ることで家中の者の心を挫く。これにより抵抗は小さくなるであろう。その間に余らはエンブレムのある部屋を拠点として守りつつ、抵抗する者を倒していく。ただし、今回の目標はセルマー伯爵ただ一人。なるべく人死には避けるように」

 

 第二段階になれば殺さなくて済む。

 できれば問題なくそこへ到達したいものだ。

 

「無事、セルマー伯爵を発見すれば第三段階となる。手筈を整えた上で報いを与え、新生セルマー伯爵家の掌握を行う。以上で作戦終了だ。特に注意すべきこととしては、伯を見つけたとしても決して殺すでないぞ。また自害などさせてはならぬ。そうなってしまえば爵位が令嬢へと移り、その令嬢の命まで奪わなければならなくなるのでな」

 

 おそらく正規の手順が踏めないため、ルティナに移った爵位をさらに移譲するというわけにはいかないのだろう。

 そうなった場合は彼女の助命を嘆願し、もしそれが受け入れられないようなら五人を連れてこの国を出るしかない……。

 

 万が一があったときの身の振り方を考えていたところ、公爵が言葉を重ねる。

 

「作戦を滞りなく進めるため、冒険者たちはあらかじめ五人一組でパーティーを組んでおくがよい。第一陣としてノルトセルムの城へ乗り込む手筈となっている者はアユム殿の前へ」

 

 その言葉でフィーネとリディア、それに先ほど戦ったグリースタ男爵のパーティーの冒険者、そして見知らぬ男性冒険者二名が進み出た。

 

「アユム殿、彼らをパーティーに加えるのだ」

「承知いたしました」

 

 そのまま申請を飛ばすわけにはいかないため、急いでキャラクター再設定を開き、詠唱省略を外す。

 それが済んだところで、パーティー編成をしようとしたところ、広間のあちらこちらから詠唱が聞こえてきた。

 

 あれ? 詠唱共鳴は?

 確か複数の詠唱が重なった場合、共鳴が起きて発動しないんじゃなかったか?

 

 ……いや。帝都の冒険者ギルドは常に混み合っており、パーティー編成やフィールドウォークの詠唱が飛び交っていたが、詠唱共鳴が発生している様子はなかった。

 もしかしたら共鳴が起こるのは、同じパーティーにいるときだけなのかもしれない。

 

 あっ、でも、それならパーティーを組まず、魔法使いをたくさん集めて飽和攻撃ができるんじゃないか?

 ボス部屋には一組しか入ることはできないためボスには使えないが、そうすれば楽に魔物を倒せるよな?

 

 ……いや、それをいうなら、物理攻撃だって同じことか。

 大勢で迷宮に入り、魔物を取り囲んでタコ殴りにすればいい。

 それをしないってことは、おそらく経験値効率だったり、他にも何らかのデメリットがあるのだろう。

 

「アユム殿? いかがいたした?」

 

 考え込んでいると、公爵がいぶかしげに問いかけてきた。

 

 おっと、いかんいかん。

 

「申し訳ありません。すぐに取りかかります」

 

 ロクサーヌたちをパーティーから外し、目の前の男女を加えていく。

 

 

 

 全てのパーティー編成が終わったところで、公爵は朗々と声を上げた。

 

「今宵集いし勇士たちよ。貴族に課せられた責務を忘れ、淫蕩に耽る者への怒りを胸に抱きし勇士たちよ。民の血と涙から目を逸らし続ける不届き者へ正義の鉄槌を下す! これより作戦を開始する!」

 

 その瞬間、そこかしこから雄叫びが上がり、まるで燃え移るかのように部屋中に広がっていく。

 

 しかし、ルティナのことを想うと俺はどうしてもその熱狂に乗ることができない。

 セルマー伯はここまで疎まれているのだ。もしかしたらその娘である彼女だって色眼鏡で見られてしまうかもしれない。

 俺たちのパーティーに加入した後、他人から邪険に扱われたり、誹謗中傷を受けることがあるかもしれない。

 

 ロクサーヌたちの方をうかがうと、彼女たちも興奮はしておらず神妙な面持ちでこちらを見つめている。

 そして、こちらの想いを察したのか、しっかりと頷いた。

 

 ……そうだな。たとえそんなことが起きようとも、俺たちでルティナの心身を守ればいいだけのことだ。何の問題もない。

 

 ボルテージの上がっているエルフたちを見ながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 剛腕のミスリル手甲 オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

巫女Lv39

装備 貫通のミセリコルデ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ

 

セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv37

装備 強権の聖槍 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ミリア ♀ 15歳

探索者Lv35

装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

ベスタ ♀ 15歳

竜騎士Lv32

装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 耐風のダマスカス額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:28

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

 

所持金:10,643,619ナール

 

夏の18日目

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