異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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296 別離

 

 

 

 

 

ノルトセルム

宮城

 

 

 

 

 

 ベイルからノルトセルムの城へ戻ると、謁見の間に詰めていたゴスラーが声を掛けてくる。

 

「そちらが先程おっしゃっていた奴隷商人ですか」

 

 すぐに部屋へ戻りたいところだが、無視をするわけにもいかないため、アランの紹介を行う。

 

「ゴスラー殿、ご紹介いたします。こちらはベイルで誠実な商いを営んでいる、アラン殿。私が最も信頼している奴隷商人です」

 

 続けて、今度はゴスラーを手で示す。

 

「アラン殿。こちらはハルツ公爵家で騎士団長を務めておられる、ゴスラー殿。領内に発生した迷宮の最前線で戦っておられる強者だ」

 

 すると、アランは例の執事っぽい礼を執り、言葉を発した。

 

「はじめまして。アランと申します。過分なお言葉を賜り、汗顔の至りではございますが、アユム様には何かとお引き立ていただいております。公爵家の騎士団長殿にお目にかかれてまことに光栄でございます」

 

 苦笑を浮かべたゴスラーがそれに応じる。

 

「ゴスラーです。魔法使いなしの五人パーティーで私たちを追い抜き、五十階層の待機部屋にたどり着いたアユム殿に強者などと言われると、歯が浮いてしまいます」

 

 その言葉を聞き、アランの表情が変わった。

 

「魔法使いなしの五人パーティーで、五十階層の待機部屋……。つまりすぐにでも叙勲される可能性があるということですか?」

 

 思わずといったように漏らした問いに、ゴスラーが頷きながら答える。

 

「ええ。アユム殿は五十階層であれば、いえ、五十四階層までであれば問題なく撃破できる力をお持ちです。狙い目の迷宮を発見できれば、すぐにでも貴族に列せられるでしょう」

「なんと……。お強いとは存じておりましたが、まさかそこまでの実力をお持ちだったとは……」

 

 無表情が常の彼らしくなく、呆然とした様子でこちらを見つめていた。

 

 まあ、俺はどっからどう見ても強そうに見えないもんなぁ。

 たとえソマーラの村を襲撃した盗賊を一人で撃退したとか、商館を襲った盗賊を倒したことを知っていても、迷宮討伐ができるレベルだとは思っていなかったのだろう。

 

 まあ、そんなことはどうでもいい。今は早く戻らないと。

 

「ゴスラー殿、それでは失礼いたします」

「ええ。事はセルマー伯爵家の財産に関わるのです。よろしくお願いいたします」

 

 ゴスラーに見送られながら、部屋を後にする。

 

 

 

 廊下を移動していたところ、先ほどまで通路に響いていた、この襲撃の正当性を主張する声と戦闘の音が聞こえないことに気がついた。

 おそらくセルマー伯爵を捕らえたことで抵抗する者がいなくなり、作戦は最終フェーズに入ったのだろう。

 スムーズに新体制に移行できるといいのだが。

 

 そんなことを考えていると、ふと別のことが頭を過る。

 

 そういえば、何も伝えずに連れてきたというのに、アランはまったく質問してこないな。

 

 ……高額な奴隷の売買となれば、普通は貴族や富豪が相手となるはずだ。その場合、表に出せない事情が絡んでいることもあるだろう。

 今回は貴族、それも公爵が関わっているのだ。おいそれと事情を聞くわけにはいかないと考えているのかもしれない。

 まあ、俺に気を遣っている可能性もあるだろうけどさ。

 いずれにせよ、この状況でいちいち説明するわけにもいかないため、彼の振る舞いはありがたい。

 

 余計な思索を振り払い、先を急ぐ。

 

 

 

 部屋へ戻ると、人が増えていた。

 先ほどいた者以外にも、コンラートとそのパーティーメンバーであるリディア。彼女の表情が曇っているのが少し気になる。

 それからセルマー伯爵家の者と思われる騎士が三人。そして、侍女服を身に付けた、それぞれ異なる魅力を持つ美女が七人。もちろん全員エルフであり、顔面偏差値がエゲツない。

 

 ……もしかして、彼女たちはセルマー伯の奴隷なのか?

 拘束されている三人と合わせたら十人だぞ? この男、ことによると11Pを楽しんでやがったな?

 

 まったく。何人もの奴隷を購入してハーレムプレイを楽しむなんて、品性下劣で見下げ果てた男だ。わずかにあった同情心がどこかへ消えてしまったぞ。

 大切な人たちだけに愛を捧げる、俺の気高い精神を見習えってんだ。

 

 内心で冴えわたるブーメランの妙技を見せつけていたところ、アランは表情を変えないまま、視線を動かし部屋の様子を確認していた。

 だが、ロクサーヌたちのところで目を留める。

 おそらく彼女たちがこの場に居合わせていることを訝しんだのだろう。

 

「おお。アユム殿、戻ったか。その者が馴染みの奴隷商人なのだな?」

 

 ハルツ公の言葉を受け、先ほどゴスラーにしたのと同じ紹介を繰り返す。

 しかし、そこはポーカーフェイスがトレードマークのアラン。公爵を紹介されたというのに、表情を動かすことはない。

 やはりこの男、とんでもなく肝が据わっている。

 

 それぞれの紹介が済むと、せっかちな公爵はすぐにアランへ話しかけた。

 

「その方もすでに察しているであろうが、現セルマー伯爵家の一族を排し、新たなセルマー伯爵家を立てることとなった」

 

 アランの体がほんのわずかに動く。

 

「私などがそのようなことを耳にしてもよろしいのでしょうか」

「なに。今後、生まれ変わったセルマー伯爵家を大々的に喧伝していかねばならぬのだ。気にすることはない」

 

 ハルツ公は何でもないことのように答え、続きを口にする。

 

「家臣や財産は全て新たなセルマー伯爵家へ引き継がれるべきなのだが、事は急を要しておる。代替わりをスムーズに行うため、現セルマー伯が所有している奴隷については諦めるより外なしと考えていたところ、アユム殿よりすぐに奴隷商人の都合を付けるとの申し出があったのだ」

「なるほど。それで私に声が掛かったのですか」

「うむ。費用については後日、その方の下へ赴いて言い値を支払うゆえ、早速だが、取りかかってはもらえぬか? まずは所有者を外すがよい」

「これほど重要な仕事を任せていただけるのです。奴隷商人の矜持にかけ、万難を排したうえで、ご要望を遂行いたします」

 

 そう言って深々と頭を下げた。

 

 やがてアランは頭を上げると、後ろ手に縛られ、椅子に腰を下ろしているセルマー伯に近づき、声を掛ける。

 

「失礼いたします。インテリジェンスカード操作のスキルを使用してもよろしいでしょうか?」

「余も承知しておることよ。そなたは遠慮なく遺言の変更をするとよい」

 

 伯爵の言葉を聞き、アランの顔に驚きの色が浮かぶ。

 

 これから処刑される人物がこんなに潔く協力するんだ。そりゃそうなるよな。

 

 しかし、アランはすぐに平静を取り戻し、セルマー伯へ告げた。

 

「ご協力に感謝いたします。それでは始めさせていただきます」

 

 重々しいバリトンボイスによって紡がれる、インテリジェンスカード操作の呪文が部屋に響き渡る。

 

 

 

 彼の作業を見ていると、俺の中の悪魔が囁いた。

 

 ……アランはまだ俺のパーティーに加わったままだ。

 つまり、彼の所持しているジョブを確認することが可能ということになる。

 覗き見みたいで少しばかり気が咎めるが、個人情報的に考えると普段使いまくっている鑑定とそう変わらない。ここは行くしかないでしょう!

 

 キャラクター再設定を開いて、詠唱省略にポイントを振り、アランへ向けてパーティージョブ設定を使用する。

 

奴隷商人Lv45 村人Lv6 探索者Lv1 薬草採取士Lv1 戦士Lv1 商人Lv30 剣士Lv1 武器商人Lv1 防具商人Lv1

 

 へー。探索者のレベルが1なのか。

 俺は先に探索者のレベルを上げたし、書籍版のミチオも同様だったから気がつかなかったが、武器商人や防具商人とは違い、探索者のレベルを上げる必要はないらしい。

 まあ、奴隷商人にはアイテムボックス操作のスキルがないし、考えてみれば当然か。

 

 獲得しているジョブを見るに、寄り道なしで一直線に奴隷商人を目指していたことがうかがえた。

 村人のレベルについては多少の超過があるものの、商人は30に到達してすぐに奴隷商人へジョブ変更している。

 レベルを確認できないことを考えると、これはかなりすごい。

 間違いなく、定期的にジョブ変更を試みていたのだろう。おそらく、相当な数の空振りを繰り返したはずだ。

 

 

 

 アランのジョブを確認しながら考察している間も遺言の書き換えは順調に進んでいき、程なくして彼は頭を上げる。

 

「奴隷十名分の遺言を変更いたしました。ご確認ください」

 

 ハルツ公はセルマー伯の背後へ回り、どれどれといった感じで視線を落とした。

 

「うむ。確かに伯は奴隷を所有しておらぬな。次は所有権の変更だ。アラン殿、そちらの男が新たなセルマー伯爵となるコンラート。所有者をこの者とするのだ」

 

 その言葉に、コンラートのそばで控えていたリディアの表情がさらに曇る。

 

 もしかして、彼らは恋人同士だったりするのだろうか?

 そうだとすると、恋人がいきなり十人もの美人奴隷を手に入れるのだ。彼女が不安になるのも無理はない。

 いや。今日いきなり恋人が伯爵になると聞かされるのも、かなりの衝撃だよなぁ。

 

「コンラート、ここへ」

 

 公爵が声をかけると、彼は僅かにリディアを気にするそぶりを見せたかと思うと、すぐに表情を引き締める。

 

「ハルツ公爵。それについてなのですが、現在の伯爵領を立て直すとなると、家中の人手ももちろん大切ですが、それ以上に荒れた領内の復旧や領民の慰撫、それから他家に助力を乞うための大量の資金が必要となります。幸い、奴隷商人が来ているため、彼女たちを売却に回すことはできないでしょうか?」

 

 俺も含め、部屋にいた者は彼の言葉に意表を突かれた。

 

 ……いや。でもこれはありかもしれない。

 彼女たちはそういうことを目的に購入された性奴隷。確かに見目は良いものの、おそらくこれといった能力は持っていないはず。

 崖っぷちに立たされた状態のセルマー伯爵家にとっては、ほとんど役には立たない。

 平時ならともかく、この非常時に彼女たちを抱え込む余裕があるとは思えない。

 それに彼女たちは伯爵の愛人だったわけだし、このままここに残ったところで、針の筵に座るようなものだ。

 それなら、売却された先で大切にされるのを期待する方がいいだろう。

 

 同じ結論に至ったのか、他の者たちも納得したような顔で頷いていた。

 

「アラン殿、彼女らはいかほどになるのであろうか?」

 

 公爵が尋ねるとアランは顎ヒゲを触りながらしばし考える。

 そして彼に断りを入れてから、逆に侍女たちへ質問を始めた。

 

 年齢と出身地、ブラヒム語が話せるのか、読み書き計算はできるのか、家事はできるのか、伯爵家の礼儀作法を学んだか、戦闘経験の有無、現在のジョブなどなど多岐にわたる。

 

「最後に男性経験の有無をうかがいます。あなたたちは処女でしょうか? 奴隷商人に売却された際は担当の女性が確認いたしますので、偽りなくお答えください」

 

 えらいこと聞くなぁ。日本だと一発アウトだぞ……。

 いや。奴隷制度自体がアウトもアウト、ドンアウトだったわ……。

 

 驚いたことにというか、予想通りというか、彼女たちは全員処女だった。

 挿入以外は、一通りのオーラル行為やその他のプレイをしているとのことだったが、一線は超えていないらしい。

 

 ……それを聞いているうちに、ルティナの表情からどんどん色が抜けていく。

 父親の性生活を聞かされるだなんて、どんな罰ゲームだよ……。

 最期の別れだってのに、とんでもないことになってんなぁ。

 

 全員が見るともなしに伯爵へ視線を向けると、彼は気まずそうに呟きを漏らす。

 

「子ができてしまえば継承問題が発生するであろう。そのせいで余の人生は大きく変わっておるのだ。それだけは何としても防がなければならぬと考えておった」

 

 ルティナの表情が、さらに微妙なものへと変わる。

 

 いや、そんなことを言うくらいなら性奴隷なんか買いなさんな。

 

 全員の顔に呆れの表情が浮かんでいた。

 

 

 

 一頻り確認したところで、アランがハルツ公へ体を向ける。

 

「戦闘は難しいですが、全員が全員、これほどの美貌に加え、年も若く、ブラヒム語の読み書きや計算にも長けている様子。また家事にも問題なく、侍女としての礼儀作法も身に付けておりますし、伯爵家に仕えていたという実績も大きいでしょう。そして何より生娘。彼女たちであれば、そうですね……。十人合わせて三百五十万ナールほどが相場になるかと存じます」

 

 三百五十万ナール!? エグいわ!

 

 十人で三百五十万ってことは、一人三十五万ナール。

 販売時は概ね四倍だから、百四十万ナールの価値を見込んでいるということだ。

 おいおい、ロクサーヌとセリーとミリアの購入額を足した額を優に超えている。

 能力的にも、性格的にも、そして美貌という意味でも三人の方が遥かに上。

 それにもかかわらず、ここまでの差が付いているのは、おそらく貴族家に仕えていたという実績が大きな付加価値となるのだろう。

 

 少しばかり納得はいかないものの、まあ俺には関係ないし、それだけあればセルマー伯爵家を立て直す助けになるはずだ。

 

 そんなことを考えていると、ハルツ公がコンラートに声をかける。

 

「その額で問題なければ、売却するがよい」

「ええ。ありがとうございます」

 

 コンラートは一つ頷き、彼女たちを見回した。

 

「聞いての通り、君たちを売却することとなった。元々は殉死するはずだった命を拾ったのだ。今後はそれを無駄にすることがないようにな」

 

 そして、アランに顔を向ける。

 

「アラン殿。買取をお願いしてもよいだ――」

「お待ちください!」

 

 しかし、ここでまさかのちょっと待ったコール。

 

 声の聞こえてきた方へ視線を向けると、拘束されたまま椅子に座っているタチアナの姿が目に入った。

 こいつ、次期セルマー伯爵の言葉を遮りやがったぞ。そんなことして大丈夫なのかね?

 

 ……全然関係ないけど、俺がアランを迎えに行っている間に座らせてもらったらしい。

 まあ、いつまでも床に転がしておくわけにはいかないだろうし、当然か。

 

 彼女はなぜか、眼光鋭く俺を睨みつけながら、言葉を発する。

 

「あなたは迷宮討伐を成し遂げられるほどの力があるのですよね? 私を妻とするのであれば、体を重ねることも許します。あのときは断りましたが、今回は購入しても構いません」

 

 えっと、この人はいったい何を言っているんだろう? どうして俺が自分を欲していると考えてんの?

 帝都の奴隷商館で会ったときにも伝えたが、俺にその気は一切ない。

 ここまで自分本位だとビビるわ。

 

 あまりの言葉に呆気に取られていると、地の底から響くような声が耳に届いた。

 

「ご主人様の優しさや実力に気が付かず、悪口雑言を投げつけておきながらいまさら何を虫のいいこと言っているのです。世迷言は程々にしてください」

 

 迷宮探索中のように鋭い目つきで告げたロクサーヌに続き、セリーも口を開く。

 

「ロクサーヌさんの言う通りです。考えなしに行動する者を身内に迎えるわけにはいきません」

「そうですよねー。全然戦えないみたいですし、戦う気もなさそうですから、うちではやっていけないと思いますよ?」

 

 ミリアがそう言うと、ベスタも困り顔ではあるものの、頷きながら同意を示す。

 ルティナはその様子を戸惑いながら見つめていた。

 

 ぶっちゃけ、今の状況だとハウスキーパーは要らないしなぁ。

 それになにより、彼女たち以外の女性を妻にする気なんかない。

 

「以前にも伝えたがその気はない。売却先で頑張ってくれ」

 

 俺の答えを聞き、タチアナの顔に憎々しげな表情が浮かぶ。

 

「私を購入しなかったことを後悔しますよ」

「そうだな。その場合は君が幸せになったということだから、それはそれで良いことだ」

 

 すると、その表情がますます険しくなった。

 どうやら何を言っても彼女の気に障るらしい。

 

 えー? 別に煽ったつもりはないんだけど……。理不尽すぎん?

 

 それにしても、こんな性格で大丈夫なのかね?

 セルマー伯爵との関係には問題なかったようだが、次のところでは大きな問題を起こすんじゃないか?

 まあ、俺が面倒を見る義務もなければ、気にかける筋合いもない。

 今後幸せになることを祈っておくさ。

 

 俺たちのやり取りに、部屋にいる人たちのほとんどは呆気にとられたような表情をしていたが、アランは無表情を保ったままで、ハルツ公は喜劇でも観ているかのような顔をこちらへ向けている。

 相変わらず困った人だなぁ……。

 

 コンラートは落ち着きを取り戻すと、再びアランへ問いかける。

 

「アラン殿。買取をお願いしてもよいだろうか」

 

 だが、その言葉を受けたアランは、かぶりを振って答えた。

 

「申し訳ございません。三百五十万ナールともなると、一介の奴隷商人ではすぐに用意することが難しくございます。また、売却する際はオークションへ出品することになるのですが、それだけの人数をまとめて、私どもが加盟しているクーラタルの奴隷商人ギルド主催のオークションへ出品した場合、値崩れを起こしてしまうでしょう。複数の奴隷商人へ売却するのがよろしいかと存じます」

 

 アランの言葉を受け、コンラートは困り顔で呟きを漏らす。

 

「なるべく早めに現金を確保しておきたいですし、方々を回って商談をする時間的な余裕もありません……」

 

 公爵は顎に手をあてながら、問いかけた。

 

「ふむ。アラン殿、何か案はないだろうか?」

 

 その提案を受け、アランは考え込む。

 

 うーん……。アランは以前、奴隷商人同士で融通し合うことがあると言っていた。

 彼女たちを引き取りさえすれば、帝都を始め、別の地域の奴隷商人に売却することも可能だろう。

 ネックとなっているのは資金不足。つまり現ナマさえあればどうとでもなるってことだ。

 できれば万全の態勢でセルマー伯爵領の立て直しに取り組んでほしいし、ここは一肌脱ぐとしますかね。

 

「アラン殿。三百五十万ナールについては俺が立て替えよう。その上で、あなたがオークションに出品したい者以外を他の奴隷商人に売却するというのはどうだ? 返済はオークション後でも構わないし、利息を取るつもりもない。これなら何とかなるのではないか?」

 

 彼はこちらをジッと見据えると、静かに口を開いた。

 

「よろしいのですか?」

「ああ。セルマー伯爵領の今後に関わることなのだ、十分な対策を講じておきたい」

 

 すると鈴が転がるような愛らしい声が耳に届く。

 

「セルマー伯爵領にご配慮いただき、ありがとうございます。アユム様は本当にわたくしの救世主です」

 

 声の上がった方へと顔を向けたところ、透明感のある微笑みでこちらを見つめる天使の姿が。

 

 そして、セルマー伯が縛られたまま頭を下げる。

 

「アユム殿、そなたに感謝を。その心遣いにより、領内の復旧が進むであろう」

 

 さらにコンラートとリディアも揃って頭を下げた。

 

「アユム殿、本当にありがとうございます。賜ったご厚意に応えられるよう、セルマー伯爵領の統治に励んでまいります」

 

 我が妻たちはそれを見て渾身のドヤ顔を披露していたが、他の人たちはまたもや驚きの表情を浮かべていた。

 だが、やはりハルツ公の顔にはニヤニヤ笑いが張り付いている。

 

「先ほど二百万ナールをポンと出したかと思えば、今度は三百五十万ナール。まこと剛毅なものよ。その方、どれほどの財貨を有しておるのだ?」

 

 何ちゅうことを聞くんだ、この人は。

 

「それはお答えいたしかねます」

 

 俺の返事を聞き、くつくつと笑い声を漏らす。

 

「当然よな。警戒なく答えるようであれば、今後の付き合いを考えるところであった」

 

 どうやらからかっていただけらしい。

 ほんと、人が悪いなぁ。

 

 

 

 ハルツ公が証人となり、俺とアランの間で三百五十万ナールの金銭消費貸借契約を締結する。

 アイテムボックスから取り出した白金貨三枚と金貨五十枚を、アランと公爵がそれぞれ数え、問題ないことを確認したところで、契約書を俺はリュックへ、アランは懐へとしまう。

 契約が済んだところで、彼はそのお金をそのままコンラートへ支払い、侍女たちの所有者を自分へ書き換えた。

 

 それを見届け、公爵が告げる。

 

「これで奴隷売却の手続きは完了だ。この後は血生臭いことになるゆえ、その方らは疾く戻るがよい」

「承知いたしました。我々はこれで失礼いたします。アラン殿、参りましょう」

 

 アランに声を掛け、この場を辞そうとしたところで、ルティナがセルマー伯へと近づいた。

 

「父様、これまで育てていただき、ありがとうございます。先ほども申し上げましたが、ルティナは父様と母様の娘として生まれ幸せでした」

「後悔ばかりの人生であったが、そなたやエルンスト、レナーテのような子をもうけることができたことは余の誇りだ。ルティナよ、幸せになるのだ。誰が何と言おうと、そなたにはその権利がある。必ず幸せになるのだ。さあ、もう行くがよい」

 

 彼女は今にも泣きだしそうな顔でこちらへ戻ってくる。

 そして、部屋を出ようとしたところで、声を掛けられた。

 

「アユム殿。ルティナを幸せにしてたもれ! そなたならそれを叶えられると確信しておる! 何卒、何卒、頼む!」

 

 彼を責める言葉が出そうになるのをぐっと堪え、今後の目標だけを告げる。

 

「言われるまでもありません! ルティナはどんなことがあろうと、俺が幸せにします! ルティナだけではありません! エルンストとレナーテのこともお任せください!」

「アユム殿、そなたに心よりの感謝を!」

 

 きっとこの言葉に嘘はない。

 保身ではなく、心の底から湧き出た言葉だと信じることができる。

 

 最期に俺、ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタ、そしてルティナでセルマー伯爵に頭を下げた。

 そして扉を開き、部屋を後にする。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 剛腕のミスリル手甲 オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:28

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

所持金:5,143,619ナール

 

1年目 夏の18日目

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Re:異世界迷宮で奴隷ハーレムを(作者:載せられた人)(原作:異世界迷宮で奴隷ハーレムを)

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