異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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003 再会

 

 

 

 

 

ソマーラの村

 

 

 

 

 

 接着剤でも塗られているのかと錯覚するほどガチガチに握りしめていたグリップから指を放し、デュランダルを地面に突き立てて体を預ける。

 すると、思い出したかのように新鮮な酸素を求めて浅く速い呼吸が始まった。

 

 まるで別の生物でも入っているみたいに、心臓も今まで体験したことが無いような速さで打ち鳴らされている。

 落ち着きを取り戻すため、意識して大きな深呼吸を繰り返す。

 

 ……やれたな。

 

 いや。これはもう望外の成果といっていいだろう。

 これだけの人数を葬ったというのに、心の中に浮かぶのは困難な目標を達成した満足感と報酬に対する期待。それから死なずに済んだことへの安堵だけ。

 

 現代日本の倫理観を有しているのに、まったく罪悪感が湧いてこない。

 ただ死体が気持ち悪いのと、自分がああならなくてよかったと思うだけだ。

 ミチオがこの世界がゲームじゃないと気付いた時には多少の動揺があったはず。

 しかし、俺は最初から人だと認識していたというのに、この惨状を作り出せてしまった。

 サイコパスやソシオパスの類ではないかと少しばかり不安になるが、改めて自分の中を確認してみたところで積極的に人を害したいという衝動もなければ、人が傷つくところを見たいという欲求もない。

 

 たぶんそういうものなのだ。

 

 戦争に従軍し、相手を殺傷した兵士は全員が全員PTSDを発症するわけではない。逆にそっちの方が少ないくらいだったはずだ。

 まあ、直接的か間接的か、近距離でやったか遠距離からやったか、命令されたのか自発的にやったのかで違いは出るのかもしれない。

 ただ、動機や大義名分さえあればやれてしまう人間はいるものなのだろう。

 

 俺にはロクサーヌを手に入れるという明確な目的があった。

 そのために盗賊を狩って資金を集めるという動機が発生しており、しかもこの世界では襲ってくる盗賊を殺すのは称賛される行為となっているのだ。

 それだけの理由があればこんなことができてしまい、PTSDを発症することも無い。

 まあ、俺も多数派の兵士と同じそちら側の人間だったというだけさ。

 

 理論武装完了。

 

 つらつらととりとめのない思索に耽っていたところ、村長が目の前に現れ理解できない言葉で話しかけてきた。

 

「あの、私はブラヒム語しか……」

 

 思わず敬語で応対しそうになってしまう。

 高卒で社会人となって二十七年。その間に叩き込まれていた言葉遣いが、とっさに出てしまった。

 他人と話すときは基本敬語。社会人になってから自分のことを俺なんて言っていたのは、家族の前かネットの書き込みをしている時だけ。

 しかし、今後この殺伐とした世界で生きていこうというのであれば、舐められることは命に係わるだろう。

 誰にでも敬語で話すと、気弱な人間が下手に出ているとみなされるにちがいない。

 つけこめると思われたら、手ごろな鴨だと狙われてしまうはず。

 明確に格上だとわかる相手じゃない限り、敬語はやめておいた方が身のためだ。

 

 必死に考えを巡らせていたところ、ソマーラ村長が再び話しかけてくる。

 

「ブラヒム語話者の方でしたか。単独で盗賊全員を倒すその強さに加え、堪能なブラヒム語。名のある冒険者の方でしょうか?」

「いや。地元ならともかく、遠くから旅をしてきたのだ。この辺りに俺のことを知っている者はいないだろう」

 

 銅剣者どころか、人生において初めて行った戦闘行為がついさっきだったのだが、適当に話を合わせておく。

 

 彼は納得したように頷くと、深く頭を下げる。

 

「この度は助力いただき誠にありがとうございます。おかげさまをもちまして、怪我人こそ出ましたが住人に死者はおりませんでした」

 

 マジか! あの男は生きながらえたのか!

 

「それは重畳。余計な世話かとも思ったが、俺も助太刀した甲斐があったというものだ」

 

 ここぞとばかりに恩着せがましく言っておく。

 

 死者が出なかったんだ。お礼は期待してますぜ、村長さん。

 

 ……しかし、大量殺人をやらかした後に、この利己的な言動。我ながらいくらなんでもクズすぎん?

 

「余計な世話などとんでもございません。まさか自爆玉を備えた盗賊が襲ってくるなど想像もしておりませんでした。貴方様がいなければ、この村は全滅していたでしょう」

 

 ああ。等量交換を見られていたんならそう思うわな。

 

「なに、身代わりのミサンガは切れてしまったが、人命には代えられない」

 

 これは売った恩に更に高値がついたのではないか?

 

 倍率ドン! さらに倍ってなもんだ。村長はん、ホンマたのんまっせ!

 

 期待でテンションが上がっていると、村長は言葉を続ける。

 

「できる限りのお礼をさせていただきますので、どうかわたくしどもの家でおくつろぎください」

「すまない、世話になろう。だが、その前に荷物の回収をさせてくれ。助太刀するときに放り出してしまったのでな」

「ええ。承知いたしました」

 

 

 

 ソマーラと共に先程の場所まで戻ると、リュックがなくなっているということもなく、無事に回収することができた。

 

「それではわたくしどもの家までご案内いたします。申し遅れました。この村の村長、ソマーラと申します」

「自由民のアユム・タガワだ」

 

 ここはブラフをかましておこう。

 自由民には自力救済の権利が認められている。俺に下手なことをするとその権利を行使されると想像し、妙な考えは抱かないはずだ。

 

 ……インテリジェンスカードは確認していないけど、いいんだよね? 自由民でいいんだよね?

 

 自分の身分についてそこはかとない不安を覚えていたところ、村長の顔が驚きに染まる。

 

「なんと、自由民の方でしたか。道理で……」

 

 村長は納得したかのように呟くと、もう一度こちらへ頭を下げてから歩き始めた。

 なにが『道理で』なのかがよくわからんのだが……。弱い自由民だっているだろうに……。

 まあ、そう思われていた方が都合がよさそうだし、全力でその流れに乗っておくんだけどさ。

 

 

 

 先導に続き歩いていると男がこちらへ駆け寄ってくる。

 そして、近くまで来ると一度俺に向かって軽く頭を下げ、すぐに村長と話し始めた。

 何を話してるんだろうなぁ。

 

 わたしは言葉がわからないー 迷子になったらなんとしょう

 

 心の中で青い眼の人形に思いをはせている間も、彼らは会話を続けている。

 

 村長がしたり顔で男に何事かを告げると、驚愕したような声を上げて俺の方へと顔を向けた。

 

 なんだ? 話は俺に関することだったのか?

 

「どうした、何に驚いているのだ?」

 

 村長に問いかけたところ、何故か誇らしげに答える。

 

「たったお一人で全ての盗賊を倒してしまわれたことに驚いておりましたので、アユム様はブラヒム語が堪能な名のある冒険者であると伝えておきました。加えて自由民でもあるため、この結果は当然だとも申し添えております」

 

 ちょいちょいちょーい!

 自由民だとは言ったけど、ブラヒム語が堪能とも高名な冒険者とも言ってないじゃん! 否定してないだけじゃん!

 それに、なんでお前がちょっとドヤ顔やねん!

 

 これはまずいか?

 ハッタリを利かせすぎたせいで盗賊とつながりがある男が二の足を踏み、この後盗賊のバンダナを盗まないかもしれない!

 

 くそっ! どうする?

 今からでも触れ回らないように言い含めるか?

 

 原作では盗みを働いた男を奴隷に落とし、そいつを売却するとなったことで、村長から手紙を預かってベイルの商館へ行くことできたのだ。

 さらに同行した商人が奴隷商人のアランに功績を吹聴することで、彼に興味を抱かれ、奴隷購入を持ち掛けられたという流れになっている。

 これらがあったからこそ、ある程度の信用を得られ、お金が足りなかったのにもかかわらず、ロクサーヌを売約済みにして資金が用意できるのを待ってもらえたのだろう。

 それがなくなってしまえば、飛び込みで商館を訪れることになる。その場合、同じような厚遇は期待できない。

 それにロクサーヌは込み入った事情のある奴隷だ。信用のおけないものに顔見世をするはずがない。

 功績を誇ることも必要だが、盗みもしてもらいたい。俺はどうするべきだ?

 

 脳みそをフル回転させるが、良いアイデアは思い浮かばない。

 

 ……いや、もう目の前の男に話は伝わっている。人の口に戸は立てられないというしな。

 ましてや俺は言葉が理解できない。目の前で吹聴されたところで止めようがない。

 今更どうしようもないのなら流れに任せるのみ。

 

 それに普通なら防具鑑定がないとすり替えたところで気づくはずがないし、原作でもほぼ一人で盗賊を全滅させたミチオに対して盗みを働いていたんだ。

 そんな後先考えないようなやつなら、どうせこの状況でもやらかすはず。

 

 期待しているぞ、コソ泥くん。

 

 腹を括って村長の言葉に答える。

 

「そうか。少々おもはゆいな」

「なにをおっしゃいます。アユム様の成されたことを考えれば当然の事かと存じます」

 

 そして、俺たちの様子を見ていた男は一礼し、大慌てで駆けていった。

 

「何やら急いでいたな」

「この村には娯楽が少のうございます。住民たちに新たな立志伝を伝えに行ったのでしょう」

「そ、そうか」

 

 立志伝って……。やべーよ。俺、成り上がると思われてんじゃん。

 これこのまま流れに身を任せても問題ないの? 本当に大丈夫?

 

 ……でもまあ、そうか。ロクサーヌだってミチオと行動を共にしてすぐに、ご主人様は立派な仕事を成し遂げると言っていた。

 キャラクター再設定はそれだけのポテンシャルを秘めているんだ。それはちゃんと自覚しておこう。

 

 男の姿が見えなくなったところで、村長がこちらに顔を向けた。

 

「我が家までもうすぐです。まいりましょう」

 

 彼に促され、踏み固められた土の道を進む。

 

 

 

 しばらく歩くと畑があり、そこには木に赤いニンジンが生えているという何とも不思議な光景が目に映る。

 

 おっ。原作に出てきた謎果物だ。

 

「キュピコか」

 

 思わず呟きを漏らすと、ソマーラが頷きながら答える。

 

「はい。あれは村の者が育てているもので、ゆくゆくはこの村の特産品にしていこうと考えております」

「ほう。俺もキュピコは好きだからな。それは楽しみだ」

 

 いや、食ったことはないけどね。

 なにせ、収穫という農作業をこなせば、農夫のジョブを獲得できるのだ。

 こう言っておけば、ワンチャン採らせてもらえたりしないだろうか?

 

「それは是非ともお召し上がりいただきたく存じます。村の商人が育てているので、この後アユム様の分を用意させましょう」

 

 ソマーラさんや。それは違う。それだと何の意味もないのだよ。

 自分で採らないとジョブをゲットできないのですぞ?

 

 せっかくの申し出に対し、おためごかしをぶちかます。

 

「いや。それは悪い。せっかく食べさせてもらえるのであれば、その者に対してこちらからお願いするのが筋というものだろう」

「なるほど。アユム様は義理堅いのですね」

 

 村長は感心したような表情で呟きを漏らした。

 

 すまぬ。親切で言ったことに対し、徹頭徹尾、自分の都合を優先させて本当にすまぬ。

 

 内心で謝り倒しながら、再び歩き出した。

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ソマーラの家

 

 

 

 

 

「こちらになります」

 

 彼は二階建ての家の前で立ち止まり、そう言って扉を開ける。

 中にいた奥さんであろうおばさんにブラヒム語じゃない言葉で声をかけ、すぐに俺の方に顔を向けた。

 

「狭い家ですが、どうぞお入りください」

 

 これで狭いってんなら、俺の住んでいた部屋はどうなんねん。

 

 心の中でツッコミを入れながら、促されるままに家の中へと入った。

 

 廊下を歩き、殺風景な小部屋へ案内されたところで村長が告げる。

 

「ただいまお湯を用意させております。準備ができ次第お持ちいたしますので、今しばらくお待ちください」

「心遣いに感謝する。少々疲れたので、それまで腰を下ろさせてもらうとしよう」

「ええ。ゆっくりとおくつろぎください」

 

 彼はそう言うと、一礼して部屋を出ていった。

 

 

 

「ふぅ」

 

 一人になったところで、思わず大きく息を吐き出してしまう。

 

 ようやくキャラクター再設定を開くことができるな。

 とりあえず、今のうちに確かめておかないと。

 

 キャラクター再設定を開こうと考えたところ、即座に頭の中に設定画面が浮かび上がった。

 

 まずは武器六とアクセサリー二と足装備四、それから詠唱省略と等量交換、そして敏捷に振っていた分を解除してポイントに戻す。

 さらにサードジョブをセカンドジョブに変更し、ジョブ設定にチェックを入れ、英雄のジョブを確認しようとしたところで、脳内に情報が描き出される。

 

英雄Lv1

効果 HP中上昇 MP中上昇 腕力中上昇 体力中上昇

   知力中上昇 精神中上昇 器用中上昇 敏捷中上昇

スキル オーバーホエルミング

 

 これはすごいな……。

 

 凄まじい効果とスキルに、思わずうっとりしてしまう。

 

 結局詳しい条件はわからなかったが、最初に頭目のウーゴを殺った時点で英雄を取得していた。

 この強力な効果とオーバーホエルミングがなければ、頭目を倒した後はどうなっていただろう? あそこまでスムーズに事が運んだだろうか?

 

 ボーナス装備があったにせよ、死ぬ可能性は低くなかった。いや、そうなる可能性の方が高かったに違いない。

 数えきれないくらい何度も読み返し、飽きもせずずっと妄想し続けていた甲斐があった。

 

 そして、魔法使いのジョブだ。

 等量交換は間違いなく発動していたし、確実に条件は満たしたはず。

 人のレベルが5に達するのを楽しみに待つとしよう。

 

 

 

 気分が落ち着いたら、血で汚れたジャンパーの感触が気になってきた。

 そのまま脱いで土間に置き、中に着ていたポロシャツとジーパン、そして靴下を確認するとこれらにも血が染み込んでいる。

 

 うわぁ……。血みどろだよ……。

 ここまでしみ込んでいると、どうしようもない。

 もういいや。お湯が来るまでそのままでいよう。

 

 いったんそのことを頭の中から追い出し、キャラクター再設定の続きに戻る。

 

 この後はレベル上げのために森へ繰り出し、狩りを行うつもりだ。

 集団戦かつ高レベル者のいた盗賊戦とは違い、レベル1のスローラビットと一対一。デュランダルでは明らかにオーバーキルだろう。

 そうなると63ものポイントを使うのはもったいない。

 おそらくフラガラッハであっても、二度三度と攻撃すれば倒せるはず。

 MP回復の手段がない以上、緊急時を除きオーバーホエルミングを使うわけにはいかないが、幸いスローラビットはノンアクティブ。安全に後ろに回ることができ、さらに確定で先制が取れる。

 

 しかし、こういったゲーム的なシステムはあれど、ここは紛れもなく現実の世界であり、さらに現実はターン制バトルではない。

 相手が反撃してくる前に畳みかければ、数回の追撃を加えることくらいは可能ではないだろうか。

 

 基本ジョブを解放するためには村人のジョブをレベル5まで上げる必要がある。

 しかし、このジョブにはスキルがなく、たいした効果も持っていないため、いつまでも付けているわけにはいかない。

 さっさと卒業するためにも、スローラビット戦は経験値特化で挑むべきだろう。

 

 こうなると悩ましいのが必要経験値減少スキルと、獲得経験値上昇スキルの組み合わせだ。

 例えば必要経験値二十分の一と獲得経験値十倍のセット。それから必要経験値十分の一と獲得経験値二十倍のセット。

 どちらの方が効率がいいのだろう?

 

 日本にいたころから何度も考えていたが、答えはまったくでない。

 それもそのはず。倒した魔物から獲得できる経験値も分からなければ、経験値テーブルも不明。

 さらにレベルアップ時の仕様についても、余った経験値は繰越すのか否かも定かではないし、相手とのレベル差によって獲得経験値が異なる可能性すら考えられる。

 

 実際に倒してみて検証するという手もあるのだろうが、途方もない労力が必要だろう。

 知的探求心や使命感でもなければやってられない。

 根気がないうえに数字にも弱い俺なら飽きて放り出すのは目に見えている。

 

 下手の考え休むに似たりというものだ。

 グダグダ考えるよりスパッと決め、一匹でも多く魔物を狩ればいいさ。

 

 ……無難に行こう。

 

 獲得経験値上昇はパーティーメンバー全員に恩恵をもたらす。

 対して、必要経験値減少の効果は自分にしか及ばない。

 今後、パーティーを組むにあたっての重要度が桁違いだ。

 なら今のうちから獲得経験値の方を優先しておいた方がいいだろう。

 

 まあ、とはいっても魔法使いを得るまではフラガラッハを出さなければいけない以上、今回は獲得経験値十倍と必要経験値十分の一での運用になるんだけどな。

 

 結論が出たところで、タイミングよくノックの音が響いた。

 

「アユム様、お湯と着替えの用意ができました。今お召しになっているものはこちらで洗濯させていただきますので、どうぞお召し替えください」

 

 村長と先程のおばさんが、お湯の入ったたらいと服を持って部屋に入ってくる。

 

「血で汚れて難儀していたのだ。助かる」

「いえいえ。その返り血は村を守るために浴びたもの。お湯を用意するくらいなんでもありません」

 

 ソマーラがそう答え、二人は土間に敷かれている板の上に運んできたものを置く。

 そして、揃って一礼するとすぐに退室していった。

 

 そんじゃ、体を拭いて着替えんべ。

 

 まずは彼らが持ってきた服を確認したところ、白とブルーのトップスに、ネイビーのボトムスだ。

 

 おー。ミチオが着ていた服とまったく同じデザインだ。いや、それそのものなのか?

 これはちょっとテンション上がるぞ。

 

 だが、下着と靴下までは用意されていない。

 まあ、そこまで望むのは厚かましいというものだ。

 

 高揚感を覚えながらポロシャツとジーパンを脱いで体とパンツを確認すると、こちらの方は汚れている様子がなかった。

 

 よし。パンツを履き替える必要はないらしい。

 こいつが汚れていた場合、ノーパンで過ごす羽目になるところだった。

 

 お湯が汚れないように気を付けながら手ぬぐいを濡らし、手にこびりついた血を拭っていく。

 ある程度手の汚れを落としたところでリュックからタオルを一枚取り出し、こちらもお湯に浸けた。

 汚れと一緒に、激しい運動をしたせいで噴き出ていた汗も拭っておく。

 

 体を拭き終わると、最後にたらいへ頭を突っ込んで髪を洗う。

 

 幸せだ……。

 もう二度と会えないと思っていた君に、再び触れることができるなんて……。

 今度は大切にするから、末永く付き合っていこうじゃないか。

 

 洗い終わり、リュックからタオルをさらに一枚取り出した。

 せっかく再会できたんだ。今後はゴシゴシ擦るようなことはせず、相棒に負担をかけないように優しく拭き上げていこう。

 これからは気を付けて生活していかないとな。

 

 あの頃はコンプレックスだったクリクリの天然パーマも、一度なくしてしまうとそのありがたみが理解できるというものだ。

 

 うん。ある程度汚れは落ちたかな。

 これ以上を求めるなら風呂に入るしかないが、貴族ぐらいしか湯に浸からないこの世界で、そんな贅沢を求めるわけにはいかない。

 まあ、こんなところだろう。

 

 着替え終わったところで手鏡を取り出し自分の姿を確認してみた。

 

 なんというか、完全にコスプレだこれ。

 地味な陰キャ顔の上に老け顔なせいで、全然似合ってねー。

 

 しかし高校のころからおっさんみたいな顔で周りからも老けていると言われてきたが、こうしてみるとやはり若い。

 どんな存在がどのような意図を持ちこの状況を作り出しているのかわからないが、もう感謝しかないな。

 

 それじゃあ、キャラクター再設定の続きといこう。

 

 設定作業に戻ろうとしたところで、再び部屋にノックの音が響いた。

 

「失礼いたします。アユム様、お着物はお召しになりましたか?」

 

 そして、確認の声が耳に届く。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

村人Lv1 英雄Lv1

 

BP振分 残BP:95/99

セカンドジョブ:1

鑑定:1

ジョブ設定:1

キャラクター再設定:1

 

所持金:0ナール

 

春の1日目

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