異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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298 継承

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「ご主人様、そろそろ公爵様のお城へ行く時間ですよ。起きてください」

 

 ……ん。

 ああ……。そうか……。

 

 艶やかで美しい声と、ゆさゆさと体を揺すられる感触で意識が浮上していく。

 目を開けると窓が開けられており、部屋は日の光に包まれていた。

 視線を移したところ、こちらを見つめている五人の女神が降臨中。

 

 改めて見るととんでもない光景だなぁ。

 

 彼女たちは目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべてくれる。

 そして、寝る前に泣いていたルティナも、はにかんだような表情で視線を合わせてくれた。

 あら、可愛い。

 

 完全に吹っ切れたというわけではないだろうが、どうやら気持ちは落ち着いたようだな。

 彼女がちゃんと立ち直れるよう、俺たちで支えていかないと。

 

 心が浮き立つような高揚感を覚えつつ、朝の挨拶を交わして支度の開始だ。

 

 

 

 身だしなみを整えたところでアイテムボックスから銀貨五枚を取り出し、ロクサーヌへ差し出した。

 

「メニューは任せるから、これで朝食の食材を買ってきて。おつりは返す必要はないから、皆で分けてね」

「はい。ご主人様、ありがとうございます」

 

 嬉しそうに返事をするロクサーヌと、喜んでいるセリー、ミリア、ベスタ。

 しかし、どうやらルティナは戸惑っているようだ。

 

 その様子を見ながら、頭の中にある記憶がよみがえる。

 

 今の俺、ちょっと親父っぽくなかったか?

 

 小学校のころは頻繁に親父から煙草のお使いを頼まれていた。

 近所にコンビニなんてものはなく、普通の個人商店で購入していたが、当時も子供が煙草を買うことは禁止されていたはず。

 それなのに、普通に売ってくれてたんだよなぁ。

 いま考えると、おおらかというか、ルーズというか、とんでもない時代である。

 

 そんで、親父はおつりをお駄賃にしてくれていた。

 駄菓子や雑誌を買いたい気持ちを抑え込み、俺はそれをコツコツ貯めていたのだ。

 

 そして、貯め続けた金でトロフィーたるファミコンジャンプを購入したときの胸の高鳴り。

 自分の力で手に入れたという特別感からか、記憶の中に鮮明に焼き付いている。

 このソフトを叩くやつは絶対に許さない。

 

 俺には嫌いな人間のタイプが三つある。

 ファミコンジャンプをクソゲー扱いする奴。FF8をクソゲー扱いする奴。サガ3を『サガシリーズじゃなければ普通だけど、サガシリーズとしてみれば駄作だよね』とか言う奴。

 あと、ドラゴンボールをドラゴボって略す奴と、センチメンタルグラフティをセングラって略す奴な。セングラじゃなくてセンチだっての。

 

 もっとも、大好きだった俺ですらセンチのゲームについては……。

 

 い、いや。もちろん全員を最短でせつなさ炸裂状態にするとか、どれだけ帰宅を遅らせることができるかとか、ヒッチハイクのみでクリアみたいなやり込みをしてたし、決して嫌いではない。嫌いではないんだ。

 

 でもなぁ。複数人を同時攻略しないとグッドエンドにたどり着けないシステムとか、美麗なキャラクターイラストがのっぺりとしたCGにされていたりと、とにかく問題が多すぎた。

 イラストに関しては、同窓会がサターンに移植されたときに元のクオリティーを保ってたんだから、できないはずがないのにさぁ。

 あと、2はいくら何でもひどすぎる。

 不評だったからって前作主人公を殺すことはないじゃんよ。それで仕切り直しとか、納得できるわけがない。

 まあ、それについてはぺろぺろCandy2という、さらに上がいるけどな。しかもこっちは発売前にその情報がないときたもんだ。

 あのストーリーとシステムで、前作主人公と恋人になった後に死に別れたヒロインを攻略するってのはどうなのよ。作中でそれを明かされたときは唖然としたぞ。

 同時期に発売されてた記憶があるが、どっちが先だったんだっけ?

 

 ……何の話だっけ?

 

 ……ああ。煙草のお使いだったか。

 まあそれはともかく、数年後には子供が煙草を買えないようになったし、高校に上がるころにはそういった店は町から消えていた。

 いわゆる郷愁ってやつかもしれない。

 

 あれ? そういえば……。

 

 とりとめのないことを考えていると、あることに気がついた。

 

 そういえば、この世界にきてから煙草を吸っている人を見たことがない?

 いや。それどころか灰皿や煙草そのものすら、目にした記憶がないぞ。

 よく考えたら原作にも煙草は登場していなかった気がする。

 もしかしたらこの世界には存在していないのか?

 

「煙草」

 

 試しに呟いたところ、口から出たのはブラヒム語ではなく日本語だ。

 自動翻訳がされないってことは、どうやらこの世界に煙草は存在していないらしい。

 

「煙草の葉」

 

 こっちも翻訳されないか。

 

 未発見だったり、名前が付いていないだけの可能性はあるものの、それを乾燥させて吸うという行為が行われていないのは確実だ。

 

 ゲーム的なシステムが存在するこの世界は、間違いなく何者かの意志が介在している。

 もしかしたら意図的に煙草を排除している可能性もあるだろう。

 どうやら、世界を創造した神様だか、高次生命体だかは大層な嫌煙家であらせられるらしい。

 

 

 

 世界に対する考察をしていると、ルティナが気まずそうな顔で俺の前にくる。

 

 うん? どうしたんだ?

 

「あの、アユム様。もしもの時のために肌着に金貨を縫い付けてあるのです。おつりをみんなで分けるということなのに、わたくしだけが金貨を持っているのはいけませんよね……。後ほど取り出してアユム様へお渡しいたします……」

 

 ああ。そういうことね。

 まだ給与の話も貯金通帳の話もしていないため、先輩たちを差し置いて一人だけ大金を持っているという状況にバツの悪さを覚えたのか。

 

 ルティナさんや。この娘さんたちは、それぞれ十万ナールを超える資産を持ってるんですぞ?

 

 他の四人に視線を向けたところ、全員柔らかな表情で大きく頷いた。

 

 どうやら彼女たちも同じ考えらしい。

 ほんと、良い娘たちだわ。

 

「ルティナ、それは俺に渡す必要はないよ。君のものとして持っておくといい」

「ですが、わたくしだけが財産を持っているというのは……」

 

 彼女が困ったようにそう言うと、明るい声が耳に届く。

 

「大丈夫! 私たちも財産を持ってるから、心配しなくていいよ!」

 

 ニコニコ顔のミリアに続き、ベスタも口を開いた。

 

「お姉ちゃんの言う通りです。全員同じなので安心してください」

「同じですか?」

 

 二人の言葉に戸惑っているルティナにセリーが告げる。

 

「ええ。私たちは五日ごとに給金をいただいており、それを貯金しているのです」

「まぁ」

 

 彼女はその言葉に驚いたようだったが、口元を手で覆い隠していた。

 

 大口を開けるところを見せないようにしてるのか?

 まさか狙ってやっているわけではないだろうし、反射でそういう所作が出るのだろう。貴族令嬢ってスゲーわ。

 

 そして、ロクサーヌが付け加える。

 

「この後に、ルティナもさらなる大金を得るかもしれないのです。通帳の用意をしておかなくてはいけませんね」

 

 それを聞いた彼女は、頭の上に大きなハテナマークが浮かんでいるような表情を浮かべていた。

 めちゃくちゃキュートだわぁ。

 

 先輩たちはあざと可愛く首をかしげているルティナへ通帳の説明を始める。

 

 その様子を見ながら思索を巡らせた。

 

 ロクサーヌが言っていた大金を得るってのは、魔結晶の融合のことだろう。

 しかし、ベスタのときは特殊な例で、今回も黄魔結晶になるってことはないはず。

 一人だけ貯金額が少ないのも可哀想だし、ルティナの分も早めに換金できるようにしておかないと。

 まあ、それは明日の帝国解放会の昇格試験である、ハルバーの迷宮討伐を成し遂げてからだな。

 

 目の前で『いせはれ!』を繰り広げている、愛しいお嬢様方に告げる。

 

「じゃあ、そろそろ行くから後はお願いね」

 

 すると、先輩四人は優雅で美しい所作で礼を執る。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 ピタリと揃った挨拶の声からワンテンポ遅れ、ルティナも頭を下げた。

 

「い、いってらっしゃいませ、アユム様」

 

 ほんと、すごい光景だなぁ。

 

 五人に見送られながらワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 ボーデの城へ移動したところ、まだまだ緊張感に満ちており、いまだに非常態勢が敷かれていることがうかがえた。

 セ二号作戦実行からまだ数時間。この喧噪も当然だろう。

 

 顔馴染みの騎士はこちらに気が付くと、すぐに近寄ってきた。

 

「アユム殿が到着したら執務室へお通しするよう申し付かっております。そのままお進みください」

「ええ。ありがとうございます」

 

 軽く言葉を交わして、廊下を歩き出す。

 

 

 

 ノックを行い、促されて扉を開くと公爵だけではなくカシアとフィーネ、それからコンラートとリディアも同席していた。

 彼らの表情は一様に引き締められており、深刻な話をしていたことがうかがえる。

 

 コンラートはこれからセルマー伯爵家を率いていく立場となるし、伯爵夫人になるのかは分からないが、リディアもその補佐をするだろう。

 カシアとフィーネはセルマー伯爵家の出身だし、色々確認することがあるのかもしれない。

 

 えっと取り込み中でしたよね? 出直した方がいいです?

 

 この場を辞すべきなのかを考えていたところ、公爵がこちらに近づいてくる。

 

「アユム殿、よくまいった。セルマー伯爵家の今後についての話し合いをしておったのだが、その方も交えて方針を定めるべきであろう」

 

 いきなりぶっこんできたで、おい。

 相変わらずのせっかちさんである。

 

 伯爵家の今後の方針なんて、小人である俺の手には余るぞ。他をあたってくれないだろうか。

 

 ……でもまあ、小人たる俺が公爵閣下に意見などできるはずがない。

 それにことはルティナの故郷に関わることなのだ。

 

「承知いたしました。公爵閣下やカシア様、それに生まれ変わったセルマー伯爵家のお役に立てるのかは分かりませんが、私などでよろしければ、是非」

 

 返事を聞いた彼らの雰囲気が、ふっと和らいだ。

 

「ありがとうございます。俊英と名高いグリースタ男爵をいともたやすくあしらったアユム殿の実力をお借りすることができ、安心いたしました。これで領内に巣くう迷宮の、早期討伐が叶うことでしょう」

 

 表情を緩めながらコンラートが言葉を漏らすと、カシアもそれに続く。

 

「十年以上経過している迷宮もありますが、アユム様であれば問題なく撃破可能でしょう。よろしくお願いいたします」

 

 ちょっと、奥様。何で一番きつい迷宮を俺に充てようとしてんのよ。

 十年以上が経過した迷宮ってのは、いったい何階層まで育ってんのさ。

 そこは公爵家騎士団の出番じゃないの?

 

 ハルツ公が不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「魔法なしで五十階層の待機部屋へたどり着ける、その類まれなるパーティーに魔法使いが加わったのだ。まさに龍に翼を得たる如しというものよ」

 

 戸惑っている俺を置き去りにしたまま、彼らは口々に感謝を伝え、頭を下げる。

 

 マジか……。これ、完全に俺たちが最前線に立つ流れだぞ……。

 

 ……まさか鉄砲玉にされてるんじゃないだろうな?

 

 そんなことが頭をよぎったものの、コンラートとリディアはともかく、これまでの付き合いでハルツ公とカシアはそんなことをする人たちではないと確信している。

 それだけ俺たちの実力を信頼しているということなのかもしれない。

 

 今すぐは無理でも、経験値効率四百倍でレベルを上げてパラメーターの暴力でゴリ押せば何とでもなる。

 

「現在攻略中の迷宮がもう少しで撃破できそうなので、そこが済み次第、セルマー伯爵領の迷宮に入りたいと思います」

 

 現在攻略中といっても、本格的にベイルの迷宮に挑み始めたのは昨日からだったりするんだけどね。

 ハルバーとベイルの迷宮を討伐してギルド神殿を手に入れれば、アスカロンとセブンリーグブーツの限定を解除できる。

 本格的に中階層や高階層に挑むのは、これを済ませてからだ。

 

「うむ。討伐間近というのであれば、そこを優先すべきであろう。もちろんそこが片付いてからで構わぬ」

 

 まあ、横取りされる可能性があるわけだし、そう言うしかないよね。

 無理を通すってんなら、ギルド神殿を補填しろって話になるだろうしな。

 

 ベイルの迷宮討伐後はセルマー伯爵領の迷宮退治といきませう。

 

 

 

 公爵夫妻の対面に俺とコンラートが座り、フィーネとリディアがそれぞれの背後に控えたところで、カシアが少しだけ表情を曇らせながら切り出した。

 

「ルティナの様子はどうですか?」

「張りつめていたものが切れてしまったようで、就寝前は涙を流しておられました。ですが、気持ちの整理がついたのか、それとも私たちが慰めたことで安心なさったのか、今はすっかり落ち着いたご様子です」

 

 すると、カシアの顔に安堵の色が浮かぶ。

 

「そうなのですね。あの娘も信頼できる仲間を得たことで安心したのでしょう。アユム様、今後もルティナのことをよろしくお願いいたします」

「ええ。もちろんです。お任せください」

 

 彼女は微笑みながら頷いたものの、すぐに何かに気が付き表情を引き締めた。

 

「アユム様、ルティナはあなたの奴隷となったのです。今後はあの娘に対して敬語を使用してはなりません。それはアユム様にとっても、あの娘にとっても、よいことにはならないでしょう」

 

 ハルツ公も顎をさすりながら、同意をしめす。

 

「うむ。身分の差という、決して越えられぬ壁があるのだ。それを蔑ろにしていては、見る者に不信感を抱かせるであろう」

 

 そして、隣のコンラートや公爵夫妻の背後で控えているフィーネも深く頷いていた。

 

 なるほど。確かにそういうこともあるかもしれない。

 

 ルティナに対して迂闊に敬語を使用した場合、俺が奴隷に遠慮しているとか、奴隷の言いなりになっていると勘繰られるだろう。

 この世界においては、相当な変わり者だと受け取られるはずだ。

 妙な疑念を抱かれても面倒だし、今後は改めるとしよう。

 

「ご忠告いただき、ありがとうございます。今後はそのようにいたします」

 

 感謝の言葉と共に深く頭を下げた。

 

 

 

 頭を上げたところで、ハルツ公がローテーブルに置いてある、折りたたまれた布を手で示す。

 

「セルマー伯爵家の今後を話し合う前に、これを渡しておこう」

 

 彼が丁寧にそれを開くと、一房の金糸が目に映る。

 

 もしかして……。

 

 頭の中にある考えが浮かぶと同時に、陰鬱な表情で公爵が告げた。

 

「前セルマー伯爵の遺髪だ。何度も選択を誤り、民に多大な犠牲を強いた愚か者であったが、その最期は子らと家臣、そして民を案じる立派なものであった。それを伝えた上でルティナ嬢に渡すがよい」

 

 前セルマー伯爵……。継承が無事すんだんだな……。

 

 隣に座っているコンラートに対し、鑑定を使用する。

 

セルマー伯爵コンラート・ノルトシュヴァルツ・アンセルム ♂ 24歳

森林管理官Lv48

装備 オラクル竜燐靴 身代わりのミサンガ

 

 そうか……。つまり、ルティナの父親はもうこの世のどこにもいないということか……。

 いったいそれをどう伝えればいいというのだろう……。

 

 彼女にどう伝えるべきか考えていると、カシアがぽつりとつぶやいた。

 

「叔父上はとても優しい方でした。わたくしの父や次兄とは異なり、人と争うことができず、迷宮に入ることすら厭うような方だったのです。わたくしたち甥や姪に対しても、なにくれとなく気にかけ、話を聞いてくれるような、そんな方だったのです……」

 

 彼女はため息を吐き、言葉を続ける。

 

「家督争いさえなければと、わたくしにできることはなかったのかと、今でもそう考えずにはいられません……」

 

 重たい言葉が部屋に響き、耳にその重さが伝わってくるようだった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:25

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

詠唱省略:3

 

所持金:5,143,119ナール

 

夏の18日目




いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。
また投稿が遅れてしまい、本当に申し訳ありません。

個人的な事情でごたついており、なかなか執筆の時間が取れないため、少しの間投稿間隔が不規則になるかもしれません。

楽しみにしてくださっている皆様にはご迷惑をおかけしますが、これからもお付き合いいただければ幸いです。
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