異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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299 インテリジェンスカード

 

 

 

 

 

ボーデ

宮城

 

 

 

 

 

 傍らに置いていたリュックに遺髪を収めたところでふと気づく。

 

 インテリジェンスカードを渡してもらうわけにはいかないのだろうか?

 

 その旨を確認したところ、部屋にいた者たちの表情が変わる。

 ハルツ公は鋭い視線でこちらを見つめながら、威圧感のある声で語り始めた。

 

「庶民や自由民であれば、遺されたインテリジェンスカードは家族の下へ行くのが筋であろう。しかし継嫡家名を持つ者の場合はそうはいかぬ。遺言を残さぬまま当主が没した場合、継嫡家名が記載されているインテリジェンスカードはそれ自体が遺言の役割を担い、家督争いが生じてしまう恐れがあるのだ」

 

 え? でも、セルマー伯爵家の例でもそうだったように、自動的に最も継承順位が高い人が継ぐんじゃないのか?

 

 俺が疑問を覚えていることに気付いたのだろう。カシアが補足を入れる。

 

「通常であれば問題になりません。ですが、仮に継承権第一位の者が失態を犯し、廃嫡される寸前であった場合はいかがでしょうか。その場合、当主の死に関与している可能性が限りなく高くなります。そのような事態が生じた際は、他の継嫡家名を持つ者が当主のインテリジェンスカードを公儀に持ち込み、継承無効を訴えることが可能となっております」

 

 その状況でも盗賊に強制ジョブチェンジはされることはないのか。

 まあ信念に基づいた正しい行為である可能性も否定できないし、それに対抗する手段が国によって用意されているのだろう。

 

 さらにコンラートも言葉を添える。

 

「一方、継嫡家名を持つ者の中にも、家督を得ようと当主のインテリジェンスカードを入手し、爵位を継承した者が不正な手段で相続したと訴えることも考えられます。そのような事態を防ぐためにも、継嫡家名を持つ者のインテリジェンスカードはその貴族家で厳重に保管されているのです」

 

 つまり、ルティナが帝国に訴える可能性を潰しておかないといけないってことだな。

 実際、今回のケースは武力による簒奪そのもの。帝国や全エルフ最高代表者会議の承認を得ていたとはいえ、確実に問題になるだろう。

 

 でも普通に考えたら、当主殺しを実行した場合、インテリジェンスカードをそいつが確保していたり、始末していたりするはずだよな?

 それに、当主のインテリジェンスカードがなければ帝国に訴え出ることができないってのはどうなんだ?

 やったもん勝ちになるんじゃないのか?

 

 それを問いかけたところ、万全の用意を整えて事を起こし、滞りなく家中を掌握できるような者なら領主としての能力に問題はないと判断されるとのこと。

 また、訴えるにしても、自力で当主のインテリジェンスカードを確保できないような者であれば、統治能力に欠けると見做されるようだ。

 もっとも、他の貴族からは白い目で見られ、迷宮討伐が上手くいかなかったり、災害が起きたりしても助けを期待することはできないらしい。

 

 ……なんとも殺伐とした世界である。

 まあ、立法も司法も行政もまともに機能しておらず、決闘なんて行為がまかり通っている世界なのだ。そういうものなのかもしれない。

 

「そういう事情でしたら、ルティナも納得していることでしょう。余計なことを申しました。ものを知らず申し訳ありません」

 

 別に悪いとは思っていないものの、とりあえず謝罪の言葉を口にすると、場の空気がふっと緩み、ハルツ公が口を開いた。

 

「なに。貴族でなければ耳にする機会はないであろう。それにこれは帝国の慣習であり、他国の出であるアユム殿であれば知らぬのも道理である。気にすることはない」

 

 ええ。まったく気にしていませんとも。

 

「しかし、アユム殿はそう遠くないうちに帝国貴族として叙勲される身なのだ。その方だけではなく、今後産まれてくるであろうその方の子らも、インテリジェンスカードが遺族に渡ることはない。貴族になるとはそういうことなのだ。よくよく心に刻みつけておくがよい」

 

 ハルツ公だけではなく、カシアの瞳にも決意の色が見える。

 

「死後、わたくしの魂たるインテリジェンスカードはセルマー伯爵家へと戻り、公爵や子供たちとは永久の別れとなるのです。ですが、それこそが貴族家に生を受けた者の宿命。決して避けることは許されません」

 

 彼女の言葉にコンラートも大きく頷いていた。

 

 この世界の住人からすれば、かなりの覚悟を伴うことに違いない。

 

 でも、インテリジェンスカードなんてものがない世界から来た俺にしてみれば、どうでもいいと言えばどうでもいい。

 ぶっちゃけ、あんまり気にならないかなぁ。

 

「ええ。しかと心に刻みつけておきます」

 

 とはいえ、そんなことを言えるはずもないし、当たり障りのない言葉でお茶を濁しておいた。

 

 

 

 その後は攻略する迷宮についての打ち合わせを行う。

 コンラートパーティー及びセルマー伯爵家騎士団は、領都であるノルトセルムと比較的新しいイェツェラ? とかいう迷宮に入るとのことだ。

 公爵家騎士団については、明日俺がハルバーの迷宮を撃破する予定ではあるものの、領内にはまだ二つの迷宮が残っているため、いくつかのパーティーを派遣するにとどめるらしい。

 しかし、派閥内の貴族家からも騎士たちを派遣し、それらの連合軍で四つの迷宮に入ることである程度の安全を確保しつつ、フリーのパーティーを呼び込み、迷宮の活動を抑えるそうだ。

 

 ……そして領内の東の果てにある最も古いオストハインの迷宮については、俺たちのパーティーが担当することとなった。

 最高到達階層は四十二階層だが、十年以上経過しているため、いったい何階層まで育っているか見当もつかないらしい。

 

「――間違いなく六十階層は超えているであろう。ことによると六十七階層に到達しているやもしれぬ。だが、アユム殿であれば問題あるまい」

 

 ほんと、何で最難関ダンジョンを俺に任せるんですかねぇ。

 

 でもまあ、拒否なんてできるはずもないし、そもそもうちのお嬢様たちがそんなことを許すはずもない。

 

「承知いたしました。非才の身ではありますが、全力を尽くすことをお約束いたします」

 

 俺の返事を聞いたカシアの顔に微笑みが浮かぶ。

 

「ふふ。アユム様になら安心してお任せできます」

 

 あなたたちのその俺に対する信頼はどこからきてるんですかねぇ。

 

 公爵夫妻の満足そうな顔に何と返すべきかと考えていると、コンラートが立ち上がり、こちらに体を向けて深く頭を下げる。

 さらに彼の背後にいたリディアも同じく頭を下げた。

 

「本当にありがとうございます。突然セルマー伯爵家の統治を行わなくてはならなくなり不安が募っておりましたが、アユム殿と知己を得ることができたことは僥倖でした。これからもよろしくお願いいたします」

 

 知己を得るってほどの仲じゃない気がするんだが……。

 

 それにしても、伯爵になったってのに、腰の低い人だなぁ。

 そのまま民を慈しむ素晴らしい領主になってくれることを願うよ。

 

「こちらこそ、セルマー伯爵閣下とのご縁を賜り僥倖でございます。私にできることであれば協力は惜しみませんので、何なりとお声掛けください」

 

 社交辞令だからね? 本気にしないでね?

 

 しかし俺の内心には気付かず、セルマー伯爵閣下は大層感激しておいでであった。

 なんともリップサービスを解さないお方である。

 

 

 

 その後、セルマー伯爵領の統治機構の再編や領民の支援策、それにエルンストとレナーテの教育方針などについても話を終えたところで、公爵とカシア、コンラートが目配せを交わす。

 

 何? 目と目で通じ合ってんの? かすかに色っぽいの?

 

 そして小さく頷き合うと、ハルツ公が咳払いをして話し始めた。

 

「此度のセ二号作戦は驚くほど迅速に事が進んだうえ、双方ともに一人の犠牲者も出さずに済んだ。それは直接、ノルトセルムの宮城へ一気に戦力を送り込むことが可能だったことが要因であろう」

 

 さらにコンラートが言葉を重ねる。

 

「伯爵家の抵抗が収まったのは、ルティナが新しい伯爵家と領民に尽くすよう、騎士たちに告げたおかげです。そして彼らがその言葉を他の者に伝えた事で我らに対する反発もほとんど見られません。それも偏に彼女を説得したアユム殿の功績と言えるでしょう。他にも殉死する予定だった侍女たちを助命し、セルマー伯爵家の財産を守ってくださいました」

 

 カシアもこちらに視線を注ぎ、口を開く。

 

「アユム様は叔父上の最期の願いを聞き届け、ルティナを守るだけではなく、エルンストとレナーテの支度金を用立て、さらに身代わりのミサンガまで贈ってくださいました。本当に感謝の言葉もございません」

 

 なんだ、なんだ? そんなに褒められたら鼻を高くしながら木に登ってしまうではないか。ほめ殺しにしようってのか?

 

 少しばかり浮き足立ちそうになっていると、公爵が指を一本立てる。

 

「一番の功労者でありながら、伯爵家の財産を守り、前伯爵の子らのために身銭を切っているその方への報酬がルティナ嬢だけとなれば、余は吝嗇家との誹りを免れず、帝国中から物笑いの種となろう。そこでだ、アユム殿には追加の報酬を支払うことといたす」

 

 その言葉にカシアとコンラートだけではなく、フィーネとリディアもしっかりと頷いた。

 

 我がパーティーにルティナが加わったという、これ以上ない報酬を貰っている。

 この状況だと遠慮しておく方がいいのかもしれないが、俺の信条は『貰えるものは貰っとけ』だ。

 遠慮なんかしないもんね。

 

「そこまで評価していただき光栄の極みでございます。また、皆様のお心遣いに感謝を申し上げます」

 

 その言葉と共に頭を下げる。

 感謝の言葉なんてどれだけ使ったところで減るもんじゃないし、いくらでも感謝しちゃうぞ。

 ありがたやー。ありがたやー。

 

 頭を上げたところで、ハルツ公は言葉を続けた。

 

「うむ。その報酬なのだが、セルマー伯爵家の宝物庫より一つだけアユム殿の物として持ち出すことを認める」

 

 ウソー!? マジで!?

 ワンチャンユニーク装備があってもおかしくないぞ!?

 いや、たとえそれがなかったとしても、スロット付きの高性能装備品があるかもしれない!

 こいつはヤベー!

 

「アユム殿であればセルマー伯爵家の窮状に心を痛め、選択の権利を辞退するのであろうが、そのような気遣いは不要だ。その方が選んだ装備品の評価額の半分を余が伯爵家に補填するゆえ、遠慮は無用である。これはセルマー伯爵たるコンラートと、ハルツ公爵たる余の名による決定であり、いかなる者であっても口出しは許さぬ。その方は吟味した上で遠慮なく望みの品を選ぶがよい」

 

 公爵閣下。私のことを随分と買い被っておいでのようですが、この田川はそのような殊勝な人間ではございません。

 公爵家が補填をしようがしまいが、さらに言うと伯爵家が損をしようがしまいが、遠慮なく一番良い装備品を選ばせてもらいますとも。

 

 内心でそう嘯いていると、ハルツ公がニヤリと笑う。

 

「だが、余らは装備品についての助言はせぬし、その方が他の者へと助言を乞うことも認めぬ。選ぶ装備品は自らの目利きのみで決めるがよい」

 

 公爵だけではなく、他の四人もいたずらっぽい笑みを浮かべ、こちらを見つめていた。

 

「ふふ。わたくしは直接目にしたことはありませんが、歴代のセルマー伯爵が集めた固有名称の付いた装備品もあると聞きます。アユム様であれば、間違いなくそれらを見抜くことでしょう」

 

 天女のようなかんばせで無茶なことを宣う公爵夫人である。

 

 それってスカを引く可能性も割とあるんじゃない? 完全にガチャみたいなもんだぞ。

 大きなつづらとか、玉手箱みたいなことはないだろうけど、そんなんで報酬と言えるのだろうか?

 こんなことをしたと世間に知られたら、普通にケチだと言われると思うんだが。

 

 もっとも、このアユムの目をもってすれば装備品の情報など丸裸も同然。ユニーク装備があるってんなら、必ずそれを見つけ出してみせる!

 

 くっくっく。我が眼力を侮ったな? 一番性能の高いものを掻っ攫ってくれるわ。

 

 テンションが爆上がりしつつも、脳裏にある考えがよぎる。

 

 ……それにしても、淫蕩の限りを尽くした前セルマー伯爵でも、さすがに先祖伝来のユニーク装備には手をつけなかったんだな。

 どうしようもない人物だったものの、悪あがきをしなかったことと、最期に残した言葉、そしてこの部分については評価に値する。

 やはりカシアの言っていた通り、心底悪い人物というわけではなかったのだろう。

 しかし、そのような者であっても、状況によっては簡単に堕落してしまうのだ。

 成り上がりを目指している以上、俺もこれを他山の石として教訓にしなければならない。

 

 そう心に刻みつけながら、彼らと共に部屋を後にする。

 

 

 

 

 

ノルトセルム

宮城

 

 

 

 

 

 昨夜というか、今日未明というか、数時間前とは違い、今回は視察のときに利用したフィールドウォークの発着場へ移動した。

 まだまだ落ち着いているとは言い難いものの、剣呑な雰囲気はだいぶ薄れている。

 この様子なら早晩、落ち着きを取り戻すだろう。

 

 ズンズンと先へ進む公爵に続き歩いていると、二人の騎士が守っている重々しい扉の前にたどり着く。

 

 ここが宝物庫……。めっちゃそれっぽい感じだなぁ。まるでドラクエみたいだぞ。

 

 空気に圧倒されていると、カシアがぽつりと呟きを漏らす。

 

「ハインツ一味の襲撃があった折りは、ここを死守せんと多くの騎士が命を散らしたと聞きます。他の場所にあった金品や、決意の指輪を始め武器庫の装備品は失われましたが、彼らの尽力の甲斐もあり、セルマー伯爵家の財宝は守られたのです」

 

 なるほど……。

 如何に名の知れた盗賊団に不意を突かれたとはいえ、何人もの手練れが討ち取られたというのはどうにも腑に落ちなかったが、そういうことだったのか。

 

「セルマー伯爵家の係累は彼らの犠牲から目を逸らしてはなりません」

「カシア様……」

 

 扉を守っていた騎士が、沈痛な面持ちで言葉を漏らす。

 

 おそらくここを死守した者の同僚だったり、後輩だったりするのだろう。

 彼らの顔には深い悔恨の色がうかがえた。

 

 彼らに視線を向けつつ、公爵が口を開く。

 

「決意の指輪を伯爵家に返還せねばなるまい。あれは盗賊退治において無類の効果を発揮するであろうからな」

「お心遣いに感謝いたします」

 

 ハルツ公は鷹揚に頷き、そのままコンラートに言葉をかける。

 

「うむ。では開くがよい」

「ええ」

 

 短いやり取りを済ませると、コンラートは警備をしている者たちに指示を出す。

 

「聞いての通りだ。扉を開くので、そこをどいてもらえるか」

「はっ」

 

 彼らはまるでバッキンガム宮殿を守る近衛兵のような動きで、ザッザッと横にずれる。

 いや、実際に見たことはないから近衛兵がそんな動きをするのかは分からないけどさ。

 赤い服に黒い帽子、直立不動で宮殿を守っているその様子をテレビで見て、憧れを覚えたもんだ。

 

 そんなことを考えている間にコンラートはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込みゆっくり回す。

 そして、辺りにカチリと音が響く。

 彼は振り向き、一言告げた。

 

「では、中へ入りましょう」

 

 さてさて、どんなお宝が俺の下へ来たがっているのだろうか。

 

 胸を高鳴らせながら、公爵たちと共に扉を潜る。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:25

キャラクター再設定:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度十倍:31

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

詠唱省略:3

 

所持金:5,143,119ナール

 

夏の18日目

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