異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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304 財布

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 買い物しようと町まで出かけたら、財布を忘れていることに気が付いたものの、銀貨、金貨、白金貨はアイテムボックスだし、銅貨は巾着袋に入れている。元々財布なんて持ってなかったわ。

 まあ、広義では巾着袋も財布なのかもしれないけどさ。

 

 財布ないのに気付いて、そのままドライブといきたいところだが、今度は車もないことに気が付いた。

 馬車は存在しているが、自動車は世界中どこを探しても絶対にない。

 たとえ馬車を所有していたとしても、気軽にドライブなんてめちゃくちゃハードルが高そうだよなぁ。

 

 行楽や家族サービスで遠出とか、衝動的に買い物がしたくなってお店に行くとか、失恋した憂さ晴らしに夜の海を見に行くとか、貴族や富豪などは馬車でそういうことをしているんだろうか?

 

 ……あっ。そういう場合はフィールドウォークを使うのか。

 でもそれってなんだか味気ない気がするな。

 そういうのは移動手段も含めての楽しみや気晴らしだったりするわけで、ドアツードアでいきなり目的地に到着なんてのは、いくら何でも風情に欠ける。

 現代人は忙しなさすぎだ。心にもっとゆとりを持たなくてはいかんよ。

 

 妄想に浸っていたところで、ふと気づく。

 

 ……何の話だっけ?

 いや。どうでもいいか。のんびり歩こうじゃないの。

 

 アホな妄想を脳内から追い出し、クーラタルの表通りを進む。

 

 

 

 本当なら先に金物屋に顔を出し、ルティナの紹介をしておきたいところだが、それは夕方に回すことにして、まずは雑貨屋へ向かった。

 

 雑貨屋ではリュックとコップ、それからタオルを購入する。

 いつもならものすごい時間をかけて店中の品を確認するロクサーヌさんも、この後ギチギチに予定が詰まっているからか、ルティナが選んだものを確認するだけに留めていた。

 とは言ってもリュックを裏返したり、引っ張ったりして縫製を確認していたし、タオルの縫い目を凝視していたわけで……。

 

 ……うん。まあ、頼もしい限りである。

 

 次に武器屋と防具屋を回ったのだが、当然掘り出し物は見つからない。

 今の俺たちの求める水準の装備品が店売りされている可能性は低いだろうし、仕方がないことだ。

 セリーのこさえた装備品のみを売却し、店を出る。

 

 ……ちなみにこの間、三割アップも、三割引も使用していない。

 俺は決めたことを守る男なのだ。

 

 先輩四人は訝しげな表情でこちらを見つめていたものの、まだルティナにキャラクター再設定のことを伝えていないため、質問してくることはなかった。

 彼女に秘密を打ち明けた後に、これについても説明することにしよう。

 

 クーラタルでの買い物を済ませたところで帝都へ飛ぶ。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 帝都の武器屋と防具屋にもやはりこれといった品はなく、売却だけを済ませて高級雑貨屋へ移動した。

 とりあえず歯ブラシの予備を購入しておかないとな。ストックを常に用意しておかないと、へたったり、壊れたりしたときに困るだろう。

 そして、ロクサーヌたちはお金を出し合い、ルティナに櫛とハンカチをプレゼントしていた。

 あどけない笑顔でそれを受け取っていたのが、本当に愛らしい。

 作り物と見紛うほどの整った相貌に無邪気な笑み。そのギャップであやうくノックアウトされるところだったぞ。

 

 

 

 

 

帝都

服屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 既に馴染みとなっている服屋に入ると、挨拶と共にいつもの女性店員がにこやかに近づいてきた。

 だが、ルティナに目を留め、店員の動きが止まる。

 

 この娘は庶民ぽくないというか、見るからに貴族っぽいしなぁ。彼女が戸惑うのも無理はない。

 

 しかし、そこは帝都に店を構えている服屋の店員。すぐに平静を取り戻し、俺たちに声をかけてきた。

 

「今日は何をお求めでしょうか?」

「新しい仲間が加わったのでな。彼女用の服を買いに来た」

 

 それを聞いた店員は笑みを湛えた顔で両手を合わせる。

 

「まあ。メンバー枠がすべて埋まったのですね。それはおめでとうございます」

 

 そして、ロクサーヌたちを順番に見回すと感心したように言葉を漏らす。

 

「これほど美しい方々と迷宮探索を行っているのは、帝国広しといえどもお客様だけでしょう」

 

 ふふん。まあね。

 この世界の人たちの顔面偏差値はえげつないし、エルフのパーティーなどは美男美女揃い。

 しかし、我がパーティーはその比じゃありませんから。

 

 ……もっとも、例外がいるんだけどさ。

 

 一人でとんでもなく顔面平均を下げている男がいたんですよー。

 なぁーにぃー!? やっちまったなぁ!

 男は黙って。

 月代!

 男は黙って。

 月代!

 この世界じゃあ、ただの変質者だよぉー。

 

 脳内で開催されているコントライブを振り払い、彼女たちに声をかける。

 

「これまでと同じようにルティナの服を選んでくれ」

 

 その言葉に、セリーが購入する物について問いかけてきた。

 

「何をどのくらい購入しましょうか?」

 

 うーん……。この辺で全員の服の数を揃えておくか。

 

 下着はベスタの十セットを基準にするとして、カジュアルな上下を五着ずつに肌シャツも五着、そして靴下を五足。こんな感じかな?

 

 ……いや、面倒だ。全部十ずつにしよう。

 

 その旨を告げると、ロクサーヌの顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。

 

「ご主人様! ありがとうございます!」

 

 おー。テンション爆上がりだ。ほんと、買い物好きな娘さんだこと。

 

 他の娘たちが口々に礼を述べる中、ルティナだけは戸惑っている。

 それを見たロクサーヌは彼女の後ろへ回り、背中に手を添えた。

 

「さあ、行きましょう」

 

 その行動にルティナの表情が綻んだ。

 

「ふふ。はい。よろしくお願いいたします」

 

 そして、首を回してこちらに顔を向ける。

 

「アユム様、ありがとうございます」

「なに。必要なものを用意するだけだ。気にすることはない」

 

 すると、ミリアがニヤニヤした顔で口を開いた。

 

「そうそう。これから買うものを見てご主人様も喜ぶんだから、気にしなくていいんだよー」

 

 いやまあ、その通りではあるんだけど、何もこんなところで言わんでも……。

 

「そうなのですか?」

 

 首をかしげながらあざと可愛く尋ねるルティナに、苦笑まじりでベスタが近づき耳元で囁いた。

 その様子を眺めていると、彼女の顔がみるみる赤くなっていく。

 

 何を吹き込んでるんですかねぇ。

 

 やがて、羞恥と決意が混じった表情を俺に向け、消え入りそうな声を漏らす。

 

「ア、アユム様に喜んでいただけるような肌着を選びます……」

 

 なにこの娘。めちゃくちゃ可愛いんだけど……。天使か何かなの?

 

 呆然としている間に、女性陣は店員と共に店を回り始める。

 

 予定があるというのに、彼女たちは熟考に熟考を重ねて服を選び続けた。

 いや、全員分を揃えると言ったら、こうなるのは自明の理。これは俺が悪かったな。

 

 

 

 長期戦を覚悟していたものの、この後に予定が詰まっていることを考慮したのか、彼女たちはこれまでよりだいぶ早く選び終え、こちらに戻ってくる。

 全員、満面の笑みを浮かべているのが何とも可愛らしい。

 その中でも、一際興奮しているのがエルフのお姫様。

 彼女は俺の目の前までくると、綺麗なターンを決めた。

 

「アユム様! ご覧ください! この胸当て肌着のおかげでとても動きやすいのです!」

 

 はしゃいでいる様子がめちゃくちゃキュートである。

 

 ルティナはテンション高く言葉を続けた。

 

「以前、女性エルフの会合に出席した際、新作の肌着が噂になっていたのですが、このように素晴らしいものだったとは想像していませんでした! アユム様、ありがとうございます!」

 

 何かを持っているロクサーヌを筆頭にセリー、ミリア、ベスタも微笑ましげな表情で、その様子を見守っている。

 

「それに、このセットの肌着を考案されたのはアユム様だとうかがいました。本当にアユム様はすごいです」

 

 いや、俺が考えたわけじゃなく、知っていることを伝えただけなんですが……。

 

 何と返したらいいものかと悩んでいたところ、一番奴隷さんがドヤ顔で言い放つ。

 

「ご主人様はその実力に加え、何者にも勝る知識と、誰よりも優しいお心の持ち主。これほど仕え甲斐のあるお方は、他にはいないと断言できます。あなたも、誠心誠意お仕えするのですよ」

 

 それはいったい誰の話なんですかねぇ……。

 力はキャラクター再設定という借り物のおかげだし、知識も現代地球由来のずるっこ。おまけに心は俗物そのものだぞ。

 

 しかしルティナは表情を引き締め、それに答える。

 

「はい。わたくしの全てを賭し、アユム様のお力になることを誓います」

 

 その言葉にロクサーヌだけではなく、他の三人も満足そうに頷いていた。

 

 ベスタはともかく、セリーとミリアまで……。

 ご主人様教はその勢力をどんどん拡大しているらしい。

 普段のちゃらんぽらんな様子を目にしているのに、どうしてそんな風に頷けるのだろう?

 

 彼女たちの様子に疑問を覚えつつ会計を行ったところ、その総額は十一万千三百七十五ナール。驚異の十万超えである。

 スキルの付いていない竜革やダマスカス鋼製の装備品なら軽く買えてしまう金額だ。

 

 内心、動揺したものの、それが伝われば彼女たちが遠慮をしてしまう。

 俺は大金持ちなんだと自分に言い聞かせながら支払いを行った。

 

 だが、ルティナ以外の四人は支払いを終えた俺に、正気を疑っているかのような目を向けている。

 

 そりゃあ、さっきとは金額が桁違いだもんなぁ。

 三割引を使えば七万七千九百六十二ナールにすることが可能なわけで、その差は実に三万三千四百十三ナール。そりゃそんな目にもなりますわ。

 

 もっとも説明をするわけにもいかないため、曖昧な表情で物問いたげな視線を華麗にスルーする。

 それを見て、事情があると察したのか、彼女たちは自分たちの用件を済ませることにしたようだ。

 ロクサーヌが手に持った品を店員へ手渡すと、それぞれのリュックから巾着袋を取り出した。

 それなりの金額だったこともあり、誰がどのくらい出すかで言葉を交わしていたが、結局均等に払うことにしたらしい。

 

 なんか、後ろに人が並んでいるのにレジ前で財布を出して、ああだこうだ言っていたうちのお袋と叔母たちを連想してしまった。

 何とも生活感にあふれた娘たちである。

 

 彼女たちは支払いを終えるとルティナを連れて俺から離れた。

 そして、みんなで輪になりボソボソと会話を交わす。

 他の娘たちから何かを伝えられたルティナの顔が、林檎のように赤く染まっているのが見えた。

 

 ……さきほど店員に手渡していたのはガーターベルトとストッキング。

 そのうち失楽園に誘われてしまうに違いない。

 そう。俺は翼の折れたエンジェル。田川は二発エンジェル。

 

 

 

 どうでもいいことを考えていると、やがてニコニコ顔の先輩たちと恥ずかしそうにしている後輩が戻ってきた。

 

「アユム様に喜んでいただけるよう、わたくしも頑張ります……」

 

 ほんと、何を吹きこまれたんですかねぇ……。

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

 次は高級服屋へ移動し、購入する物を伝えていく。

 

 ルティナ用として外套を一つに、エプロンとドレスのオーダー。

 それからここでも服の数を揃えることにした。

 

 フォーマルな上下を五セットにセクシーランジェリーを五セット、そしてキャミソールを五着。

 下着とキャミソールについてはベスタに合う既製品がないため、彼女だけはオーダーで対応だ。

 

「奴隷の身となったというのにドレスを仕立てていただけるなど、想像もしておりませんでした。アユム様、本当にありがとうございます」

「なに。君たちが着飾っているところを俺が見たいだけだからな。気にすることはない」

 

 感激しきりのルティナに続き、恐縮した様子でベスタも口を開く。

 

「吊るしの服が入らないせいで、ご主人様に無駄なお金を使わせてしまいます……。本当に申し訳ありません……」

 

 何をおっしゃるウサギさん。もとい、ドラゴンさん。

 君のその胸には宇宙が、そして夢が詰まっているのだ。そんなことを気にするでない。

 

 彼女に近づき、その顔を見上げながら手を伸ばす。

 温かな頬に手のひらを添えながら、ベスタに告げた。

 

「無駄なことは一切ない。申し訳なく思うより、喜んでもらえた方が嬉しいんだがな」

 

 すると褐色で美人系の顔に、はにかんだような笑みが浮かぶ。

 

「はい。大切にしていただけて、とても嬉しいです。ご主人様、ありがとうございます」

 

 可愛い! 俺のベスタが超可愛い!

 

 二人の魅力にやられながらも、ロクサーヌに告げた。

 

「俺は商人ギルドへ行ってくるので、後のことは頼む」

「はい。お任せください」

 

 力強く答えた彼女に頷きを返し、店を後にする。

 

 ……それにしても、店内で寸劇を繰り広げてしまったというのに、店員たちは全然狼狽える様子がなかったな。

 さすが音に聞こえし帝都の高級服屋。教育が行き届いている。

 

 感心しながら、適当な壁にフィールドウォークのゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 いつものようにルークを呼び出すと、奴は意味ありげな表情で現れる。

 

 うーん……。この表情は約束をぶっちぎったことについてなのか、それともその原因となったことについてなのか。

 

 気になったものの、ここで話すことではないと判断したのか、彼は言葉少なに商談室へと促した。

 

 

 

 商談室へ入り、向かい合って腰を下ろしたところでルークが口を開く。

 

「まずはスキル結晶の引き渡しを行いましょう」

 

 こちらに異存はないため、その提案に応じた。

 

「ああ。頼む」

 

 キャラクター再設定を開いて詠唱省略を付け、ルークが取り出したスキル結晶の確認を行う。

 コボルト、ウサギ、カエル、鯉。オッケー、問題ナッシング。

 もちろんギルド神殿を使用するはずはない。

 奴もすでに慣れてしまっているため、それについては何も言うことはなかった。

 

 支払った二万四千四百ナールをアイテムボックスにしまうと、ルークは胡散臭い笑みを浮かべる。

 

「ノルトセルムでは大変なご活躍だったそうで」

 

 ……やはりそっちか。

 というか、こいつはどこまで知ってるんだ?

 

「ずいぶんと耳が早いな」

 

 とりあえず牽制を入れたところ、彼はかぶりを振って答える。

 

「いいえ。私の耳が早いのではなく、噂の足が速いのです。アユム様の名前こそ表に出てはおりませんが、ハルツ公爵様の助けを借り、新しいセルアー伯爵家が成立したことは既に帝国中に広まっております」

 

 エグッ! ラジオもテレビもネットもない世界で、そんなに早く噂が伝わるのかよ!

 

 あ、いや。フィールドウォークなんて移動魔法があるんだ、地球の情報伝達の歴史とは違うわな。

 

 そのことについては納得しながらも、他にも気になることがある。

 

「ほう。では、お前はどうして俺が関わっていると知っているのだ?」

 

 問いかけたところ、奴は憎たらしい笑みを浮かべた。

 

「これまで、アユム様は交わした約束を破られたことはありません。それに加え、公爵様の覚えもめでたく、またその実力も確か。それであれば作戦に従事していたのではないかと考えた次第です。もちろん言いふらすつもりはございませんので、ご安心ください」

 

 これまでの言動とその表情のせいで、いまいち信用できないんだよなぁ。

 もっとも、今後俺たちは迷宮を討伐しまくることになるため、どんどん名は広まっていくだろう。言いふらされたところで、早いか遅いかの違いでしかない。

 

 ルーくんや。それで俺の弱みを握ったなどと思い込んでいた場合、痛い目を見るぞ?

 

 お互いに不敵な笑みを浮かべながら、握手を交わし、その場を後にした。

 

 うーん……。今回は三割引を自重したが、あいつに対しては常時使用した方がいいのかしらん?

 

 廊下を歩きながら、益体のないことを考える。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ

 

BP振分 残BP:25/160

ワープ:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

MP回復速度十倍:31

鑑定:1

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

詠唱省略:3

キャラクター再設定:1

 

所持金:5,014,994ナール

 

夏の18日目

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