異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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306 スヴェル

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 家具屋でルティナ用の鍵付きチェストを購入すると、いつものように店員は無料で配達を行うと言ってくれたが、前回同様それを断った。

 視線を送るとベスタは小さく頷き、チェストを持ち上げる。

 

 おいおい。まるでセカンドバッグでも持つみたいな手軽さじゃないのさ。

 竜騎士のレベルが上がったおかげで、さらにパワフリャーになってるぞ。

 

 半ば呆れていると、ルティナが心配そうに問いかける。

 

「ベスタ姉様、ありがとうございます。重くはありませんか?」

 

 それを聞いたベスタは控えめな笑みを返した。

 

「大丈夫。このくらいなんでもないよ」

「話には聞いていましたが、本当に竜人族は力に優れた種族なのですね」

 

 ルティナの感心した顔を見て、彼女の表情が照れたようなものへと変わる。

 

 夏の休日に成人を迎えたばかりの二人の様子に、俺だけではなくロクサーヌたちもほっこりしているようだ。

 

 気付いたのだが、ルティナに対するベスタの口調は安定していない。

 ロクサーヌやセリーは誰に対しても丁寧な言葉を使うし、ミリアは先輩二人と後輩二人では明確に口調が異なる。

 しかし、ベスタは先輩三人には丁寧な言葉で話すが、この数時間、ルティナと会話するときだけはそれが崩れることが何度もあった。

 もちろん。全然悪いことじゃない。このまま気兼ねなく話せるような間柄になることを期待するとしよう。

 仲良き事は美しき哉、だもんな。

 

 店を出て適当な壁にフィールドウォークのゲートを開くと、ベスタはセリーの手を借りてチェストを水平に持ち替えた。

 そんじゃ、買い物も済んだことだし、我が家へ戻りませう。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻り、靴を履き替えて二階へ上がると、ロクサーヌが弾んだ声を発した。

 

「ご主人様、私たちは購入していただいたものを片付けてから、物置に向かいますね」

「オッケー。それじゃあ、装備を整えたら先に行って待ってるよ」

 

 彼女たちはその言葉に笑顔で頷くと、はしゃぎ声を残して自分たちの部屋へと消えていく。

 ほんと、めちゃくちゃ可愛い娘たちだよなぁ。今期の覇権は『いせはれ!』に違いない。

 

 清涼な風が心の中を吹き抜けていったような気分に浸りながら、自室の扉を開く。

 

 

 

 準備万端整ったところで物置に移動し、クローゼットを開けてルティナの装備品を確認だ。

 ティアラとアルバ、それからオペラグローブにサッシュ。これらにひもろぎのスタッフとバックルシューズ、さらに盾を加えたものが当面の間、彼女が迷宮で用いる装備品。

 ルティナは俺と同じくスペルキャスターとしてのロールになるため、迷宮内外でアクセサリーを切り替えることになる。

 本来ならヒーラーのロクサーヌもそうした方がいいのだろうが、回復量が十分な現状ではその必要性は薄い。彼女についてはスキル結晶に余裕ができてからだな。

 

 このうち空きスロットはアルバに一つ、オペラグローブとバックルシューズにそれぞれ二つずつ、そしてサッシュに四つ。

 それに対して付けるべきスキルは物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減、さらに魔法攻撃力二倍と身代わり。この四つはマストだ。付けないなんてあり得ない。

 

 魔法攻撃力二倍は武器かアクセサリーにしかつけることができないため、これはサッシュで確定。

 知力二倍、腕力二倍、攻撃力二倍もサッシュに付けたいところだが、知力二倍は武器に付いているし、今はルティナの物理攻撃力を上げてもあまり意味はない。

 この三つもロクサーヌと同じく、スキル結晶に余裕ができてからだ。

 

 身代わりスキルについては発動すれば装備品が壊れるという性質上、アルバに付けておくのが無難だろう。

 スキルが一つ付いた装備品と二つ付いた装備品。壊れた場合の損害が大きく、またその後の戦闘能力低下が懸念されるのはどちらか。

 うん。考えるまでもない。

 

 次は物理ダメージ削減と魔法ダメージ削減をどちらに融合するかについて。

 バックルシューズには既にエナメルのハイヒールブーツという、スロットが三つ付いている上に高性能な後継装備がスタンバっている。

 装備制限をクリアしたら速攻で履き替えることが確定しているため、こちらに付けてしまえば、更新のタイミングでもう一度融合し直しだ。

 売却すればいいので無駄にはならないだろうが、そのとき手元にスライム、貝、コボルトのスキル結晶が残っているとは限らない。

 やはり後々のことも考え、両方オペラグローブに付けた方がいいだろう。

 

 盾についてはおさがりで対応だ。

 スヴェルはロクサーヌに装備してもらい、剛健のダマスカス鋼盾をルティナにスライドさせる。

 パーティーの安定を考えた場合、攻撃をかわしまくるロクサーヌよりミリアかルティナに装備させる方がいいだろう。

 しかし、やはりここはロクサーヌを優先で。

 申し訳ないがこればかりは絶対に譲れない。そう『ゆずれない願い』ってやつだ。魔法騎士(マジックナイト)レイアースだ。

 

 あとは残ったバックルシューズのスロットに何を付けるかだよなぁ……。

 属性攻撃や状態異常に対する備えをするか、それとも精神二倍で魔法防御力や状態異常耐性の底上げを行うか、はたまた移動力増強や敏捷二倍、跳躍力二倍などを付けて機動力の強化を図るか……。

 

 

 

 考えを巡らせていたところ、扉の向こうから賑やかな声が聞こえてくる。

 

「お待たせいたしました、ご主人様」

「大丈夫。全然待ってないよ」

 

 ロクサーヌと定番のやり取りをして笑い合っていたところ、ひもろぎのスタッフを背負ったルティナがおずおずと近づいてきた。

 

「あの、アユム様。本当にこのようなものをいただいてしまってよろしいのでしょうか……」

 

 彼女の手には緑魔結晶二つと青魔結晶一つが握られている。

 

「それはもうルティナの物だよ。遠慮しなくていいからね」

 

 その言葉に頷きつつ、セリーも口を開く。

 

「部屋でも言いましたが、私たちもいただいているので気にしなくていいのですよ」

 

 他の娘たちもルティナに優しく笑いかけていた。

 その様子を見た彼女は、整った相貌に花のような笑みを咲かせる。

 

「はい。ありがとうございます」

 

 あら、可愛い。

 

 お姉様方に勧められてルティナは魔結晶の融合に挑んだものの、当然色が変わることはない。

 

 うん。そりゃそうだ。この組み合わせで黄色になるなんて、そうそうあるわけないもん。

 ベスタのケースはあくまでも例外であり、これが普通なのだろう。

 

 ロクサーヌ、セリー、ミリアはホッとしたような、それでいて残念がっているような、なんとも形容しがたい表情を浮かべていた。おそらく俺も同じ顔をしているはずだ。

 一方、ベスタとルティナは困惑したように俺たちのことを見つめている。

 

 年少ペアさんや。あんまり気にしないでくださいな。

 

 内心でそう呟きつつ、気を取り直して話題をルティナの装備品へと変更する。

 

 開けっ放しだったクローゼットからティアラを取り出し、彼女に差し出しながら告げた。

 

「まずはこれを装備して」

 

 ルティナはそれとクローゼットの中の装備品に視線を向け、感心した様子で言葉を紡ぐ。

 

「巫女であるロクサーヌ姉様の分だけではなく、魔法使い用のティアラも用意していたのですね。他の装備品も魔法の威力を高めるものばかり。さすがアユム様です」

 

 はいはい。さすアユ、ありがとさん。

 

 ティアラを身に着けているのを見守っていると、ミリアが彼女に問いかける。

 

「騎士たちと迷宮に入っていたときは何を装備してたの?」

「アユム様より賜ったひもろぎのスタッフと身代わりのミサンガ以外は、ティアラ、ローブ、オペラグローブ、ビットローファーを身に着けておりました」

 

 それを聞いたベスタも不思議そうに尋ねた。

 

「スタッフとミサンガ以外の装備品にスキルは付いていなかったのですか?」

「はい。いかに伯爵家といえど、スキル付きの装備品は希少な品。騎士団の魔道士や魔法使いが使用しており、武器庫には在庫がございませんでした。わたくしは騎士たちに守られながら迷宮探索を行っておりましたので、それを徴発するのは気が咎めたのです」

 

 いや、武器庫にはなかったんだろうが、宝物庫にはヤバそうなもんが山ほど転がってたぞ……。

 ゲームなんかでもありがちだが、宝物庫に伝説の武器や防具があるのに、その城の兵士が使うことはないのはおかしい気がするよなぁ。

 それを使えば迷宮討伐や盗賊撃退ができただろうに、死蔵していたのは本当にもったいない。

 もっとも、それらを実用品としてしか見ていない俺の方が異端なんだろうけどさ。

 

 そんなことを考えていると、ティアラを装着したルティナがこちらへチラチラと視線をよこす。

 本当にあざと可愛い娘さんである。この欲しがりさんめ。

 

「とっても似合ってて可愛いよ」

「本当ですか? 嬉しいです」

 

 彼女は恥ずかしそうな笑みを浮かべながら、しきりに頭の上のティアラを触っている。

 

 言わされた感はなきにしもあらずだが、ガチで可愛いよなぁ。

 

 すると、同じくティアラを付けた女性が、期待のこもった目でこちらを見つめていることに気がついた。

 

「ロクサーヌもめちゃくちゃ似合ってるね。我が家に天女が舞い降りたのかと思ったよ」

「もう。ご主人様は大げさです」

 

 そう言いつつも、まんざらではない顔で尻尾をブンブン振っている。

 この娘、マジで可愛すぎますわ。

 

 二人の様子を見たセリー、ミリア、ベスタも意味ありげな視線をこちらへ向ける。

 

 いや、君たちの頭装備は野暮ったい帽子と額金なんですが……。

 

 そう思いつつ可愛い、似合っている、綺麗だと告げたところ、彼女たちも嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 どうやらこれでよかったらしい。

 

 彼女たちが落ち着きを取り戻したところで、次の話題に移る。

 

 セ二号作戦において敵味方を問わず、前セルマー伯爵以外の犠牲者が出なかったことが俺たちの功績として認められ、ハルツ公と新生セルマー伯であるコンラートから褒賞をもらえることになったこと。

 そして、その褒賞というのがセルマー伯爵家の宝物庫から装備品を一つだけ選び、自分の物としてよいという権利だったことを伝えたところ、先輩四人がにわかに色めき立つ。

 まあ、この娘たちは鑑定スキルのことを知ってるし、そんなリアクションになるのも当然だ。

 

「伯爵家の宝物庫となれば、当然ユニーク装備があるはずですよね」

 

 忍び笑いと共に漏れたセリーの言葉に、ルティナが首をかしげる。

 

「ユニーク装備?」

「固有名を持つ装備品のことです」

 

 ロクサーヌが補足を入れると、彼女は得心のいった表情を浮かべた。

 

「なるほど、唯一無二の装備ですか……。言い得て妙ですね」

 

 え? そんな訳がされてんの? 俺的には汎用品じゃないとか、通常品じゃないくらいの意味だったんだけど……。

 

 自動翻訳くんのスタンドプレーに戸惑っていると、彼女はそのまま言葉を続けた。

 

「どのような品なのかまでは教えていただけませんでしたが、確かに当家には……」

 

 しかし、一瞬言葉に詰まり、頭を振って言い直す。

 

「セルマー伯爵家には、先祖より受け継いでいる固有名を持つ装備品があるそうです……」

 

 もう自分の家ではないことを実感したのだろう。ルティナは少し辛そうな顔でそう述べた。

 しかし、俺たちが心配していることに気が付いたのか、彼女はその空気を払拭するように微笑みながら口を開く。

 

「それで、アユム様はどのような装備品を選択されたのですか?」

 

 猫のような笑みを浮かべつつ、ミリアもその言葉に乗ってきた。

 

「ご主人様なら一番良い装備品を手に入れてるはずですもんね」

 

 ロクサーヌ、セリー、ベスタもワクワクした顔で同意を示す。

 

「ええ。間違いありません」

「はい。あれがありますから」

「きっとすごい装備品なのでしょうね」

 

 五人は整った顔に期待の表情を浮かべ、こちらに視線を向けていた。

 

 まあまあ。頑是ないお嬢様方よ。落ち着きなされ。

 

 アイテムボックスを開いてゲットした拝領品を取り出し、高々と頭上へ掲げる。

 それにつられてみんなの顔がついと上を向いた。その動作が実に愛らしい。

 いや、ベスタだけは下を向いていたのがフラットになっただけなんだけどさ。

 

 それを掲げたまま、朗々と謳い上げる。

 

「さあさ、お立ち会い。ここに取り出したるこの逸品。お目の高い皆さまであれば、一目見ただけで尋常のものではないと気付くはず。いかにも、いかにもその通り。三千世界に轟き響く、素性も確かなスキル六個のユニーク装備。あの太陽神ソールが放つ膨大な熱から大地を守護する偉大な番人。こいつがいなけりゃ、地表はアチチの大騒ぎ。おまんまが食えるのも、あったかい布団で眠れるのも、いい人とチョメチョメできるのも全てこいつのおかげって寸法だ。その名は地表を冷やすものという意味を持つ、スヴェル。とくとその麗しい目に焼き付け、その愛らしい耳に名を刻みつけてくださいませ。なに、ケチなことは申しません。それだけならロハ! さあさ、そちらのイヌミミが魅力的な女神様、小さく愛らしい妖精さん、キュートなネコミミを持つお嬢さん、優しげな雰囲気の天女様、清楚可憐なお姫様、どうぞ、どうぞ、ずずずいっとお近づきください」

 

 しかし、渾身の口上を披露したというのに、みんなの顔には困惑の表情が浮かんでいた。

 

「太陽神ソールですか? そのような神の名は聞いたことがないのですが……」

 

 セリーが呆れたようにそう言うと、ルティナも続く。

 

「はい。わたくしも初めて耳にしました。その盾が太陽の熱を防いでいるのですか?」

 

 さらにミリアとベスタも呟きを漏らす。

 

「えっと、なんかすごそうですねー……」

「チョメチョメ……」

 

 そして、ロクサーヌは優しい笑みを浮かべた。

 

「ご主人様は独特の感性をお持ちですから」

 

 やめて! そんな顔でそんなことを言わないで! まるで俺が滑ったみたいじゃん!

 

 舞い上がっていた自分に羞恥を覚えていると、ミリアが問いかけてくる。

 

「よく分からない話はともかく、それにはスキルが六つ付いているんですか?」

 

 よく分からないって……。この娘の言い方よ……。

 

 少し傷つきながらも、その問いに答える。

 

「そう。このスヴェルには火抵抗、物理ダメージ半減、魔法ダメージ半減、防壁展開、障壁展開、不壊のスキルが付いている」

 

 その瞬間、再び物置に歓声が響き渡った。

 

「さすがご主人様! すごいです!」

「はい! 本当にすごいと思います!」

 

 ロクサーヌとベスタがそう言うと、セリーとミリアも続く。

 

「どれもこれも有用なスキルですよ! 信じられません!」

「攻撃が当たってもダメージを受けないんじゃないですか!?」

 

 そしてルティナが呆然とした顔で呟きを漏らす。

 

「まさか当家にそのような装備品があったなんて……。想像もしておりませんでした……」

 

 彼女たちのテンションは、まるで贔屓の球団が日本シリーズを制したかのようだ。白髪の老人が川に投げ込まれてもおかしくないぞ。

 

 女性陣が落ち着きを取り戻したところで、こいつを見つけたときから気になっていたことを尋ねる。

 

「セリー、防壁展開と障壁展開というのはどんなスキルなの?」

 

 他の娘たちも知らないのだろう。一斉に顔をセリーへ向けていた。

 俺たちの視線を一身に浴びながら、彼女は右手の人差し指を立てる。

 

「まずは防壁展開。このスキルを使用すると一定時間、十分ほどだそうですが、パーティー全員の物理防御力を高めるのだそうです」

「ヤベー! 神スキルじゃん!」

 

 思わず声が出てしまった。

 いや、だってスクルトじゃん! マジで神スキルすぎる!

 

 俺だけではなく、ロクサーヌたちも驚いているようだ。

 

 それを見たセリーはニヤリと笑い、中指も立ててピースサインを作る。

 

「次に障壁展開。こちらも同じく、パーティー全員の魔法防御力を高めてくれるそうです」

「エグッ! 効果がエグすぎる!」

 

 こっちはフバーハじゃん! あ、違うわ。フバーハじゃない。マジックバリアだ。

 なんか、マジックバリアっていまだにお客さんみたいな感じがするのはどうしてだろう? オリジナルの名称じゃなくて英語そのままだからなのかね?

 あとドルマ系とかメラガイヤー、バギムーチョなんかもそんな感じなんだよなぁ。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。とにかく今はこの神スキルが付いた盾をゲットしたことを喜ぼう。

 

 踊り出しそうなほどのテンションで喜びを分かち合っていると、セリーが再び口を開く。

 

「ですがアスカロンがそうだったように、おそらく一つの装備品に付いているスキルは、重ね掛けができないのではないでしょうか? 迷宮で使用する前に確認しておいた方がいいと思います」

 

 なるほど。確かにアスカロンの仕様を考えると、その可能性が高そうだ。

 だが武器とは違い、防具なら複数の装備品に付けることもできるわけで、そうすれば重ね掛けもオーケーだったりしないかね?

 強力な物理攻撃と魔法攻撃を持った魔物と対峙する際には、どちらも使用しておきたいため、スキル結晶の融合で作り出せるといいんだが。

 

 その旨を尋ねたところ、防壁展開はつぼ式食虫植物の最上位種である、ブロッキニアからドロップする円筒食虫植物のスキル結晶。障壁展開ははさみ式食虫植物の最上位種である、ドラゴントラップからドロップする捕竜食虫植物のスキル結晶で付けることができるらしい。

 そのうち絶対にそれらのスキル結晶を入手して、試してみなくては。

 

 それにしても、属性付与の付いた武器を二つ用意し、竜騎士の二刀流スキルによってそれぞれの手に装備した場合、両方のスキルを発動させることができるのだろうか?

 セリーに問いかけても、そんな話は聞いたことがないとのことだった。

 まあ、実用性もあまりないし、試した人がいないのだろう。

 

 横道に逸れた思考を戻して、スヴェルをロクサーヌに差し出しながら告げる。

 

「これはロクサーヌが装備するべきだと思う。正確な時間感覚を持つ君なら効果が切れるタイミングを把握して適切に張り直せるはずだ。それに他の娘が使用した場合、君の回復スキルと同じタイミングで詠唱を行えば、詠唱共鳴が起きてどちらのスキルも発動に失敗してしまう。それは絶対に避けたいからね」

 

 ただでさえ魔物の攻撃を回避しまくるおかげで抜群の安定感を誇る彼女だが、スヴェルを装備すればその防御性能のおかげで絶対に落ちることはなくなるだろう。

 そんな存在が、回復スキルとバフ系のスキルを持っているなんて、心強いどころじゃない。

 たとえパーティーが窮地に追い込まれたとしても、きっと彼女が立て直してくれるはず。

 

 セリー、ミリア、ベスタ、ルティナも納得したように頷いているが、ロクサーヌは逡巡するそぶりを見せる。

 しかし、すぐに表情を引き締めると左手に装着していた盾を外し、それをルティナへと渡す。

 

 どうやらおさがりが行く先に気付いていたらしい。

 

 続いてオラクルティアラを外し、ルティナのティアラと取り換えた。

 

 え? あ、そうか。オラクルティアラの魔法ダメージ削減とスヴェルの魔法ダメージ半減は同系統のスキルであり、両方つけていてもどちらか一方の効果しか発現しない。

 それなら確かに、スキルの付いていないティアラと交換しておくべきだろう。

 

 さらにロクサーヌは頑強の竜革ジャケットを脱ぐと、それもルティナに手渡した。

 

 うん。まあそうだよな。物理ダメージ耐性についてもまったく同じことが言えるわけだ。

 

 お姫様がジャケットを身に着けるのを見ながら、考えを巡らせる。

 

 となると、アルバはロクサーヌが装備することになるんだよな?

 彼女は巫女だから回復スキルの回復量が増加するというメリットはあるものの、ルティナの魔法攻撃力が当初の想定より少し落ちてしまう。

 

 うーん……。でもまあ、メイン火力は俺なわけで、まだまだレベルが低い彼女の魔法を底上げしたとしてもそこまで劇的な変化はないはず。

 ルティナの魔法強化については、ロクサーヌの胴装備が見つかったときに考えることにしよう。

 

 ルティナが頑強の竜革ジャケットを身に着けたのを見届けると、ロクサーヌはこちらへ近づき跪いた。

 その瞳は爛々と輝いており、スヴェル授受の儀式に期待していることがうかがえる。

 

 めちゃくちゃプレッシャーを掛けられている気がするんですが……。

 そのまま『はい、どうぞ』と手渡した場合、絶対がっかりするよなぁ。

 

 愛しい女性のためだ。期待に応えるとしますかね。

 

 大きく息を吸い込み、頭の中のスイッチを入れた。

 

「天下無双の武人にして、碧血丹心の忠臣。我が誇りの体現者たるロクサーヌよ」

「はっ!」

 

 声デッカ! このお嬢さん、ノリノリだぞ。

 

「そなたのこれまでの比類なき働き、実に見事なものであった。また、我はそなたの献身に数え切れぬほど救われてきた。それらの功にいまここで報いよう」

「ありがたき幸せにございます」

 

 彼女は跪いたまま頭を下げる。

 

「我がタガワ家に伝わりし秘宝。この世に二つとない金城鉄壁たる盾、スヴェル。これをそなたに取らす」

「我が主の御心に深く感謝を申し上げます」

「うむ。我はそなたがこれまで以上の功績を挙げることを確信しておる。ロクサーヌよ、励むがよい」

 

 スヴェルを差し出すと、彼女は跪いたまま恭しく受け取った。

 そして、凛とした笑みを浮かべて口を開く。

 

「敬愛する主、アユム・タガワ様。このロクサーヌのことを信頼してくださり、まことにありがとうございます。我が身命は生涯に渡り、いいえ、死してなお、主と共にあることをここに宣言いたします」

 

 その表情はさながら絵画の中の戦女神。俺の視線を捉えて離さない。

 お芝居だというのに、あまりの美しさと気高さに魂が揺さぶられてしまった。

 

 そして、物置に割れんばかりの拍手が響き渡る。

 ただの物置のはずなのに、まるでブロードウェイか、カーネギーホールだ。

 手を打ち鳴らしているセリー、ミリア、ベスタ、そしてルティナの顔は感動で彩られていた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv46 神官Lv49

装備 頑強のアルバ サンダル よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:28/160

ワープ:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

MP回復速度十倍:31

鑑定:1

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

キャラクター再設定:1

 

所持金:4,601,994ナール

 

夏の18日目

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