「ユニークそ――」
「四回連続で融合が成功するだけでもおかしいというのに、形まで変わってしまうなどあり得ません! どうしてこのようなことが起こるのですか!?」
動揺から思わず言葉が漏れたところ、パニックを起こしたらしいルティナがそれを掻き消し、セリーの両肩をがっちり掴んで前後にガクガク揺らしながら問いかけている。
「そ、そんなことを言われても、私も何が何だか分かりません! ご主人様! どうなっているのですか!?」
セリーが狼狽えた様子で尋ねると、他の四人もこちらへ顔を向けた。
いや。俺に聞かれても困るよ。
原作ではこんな現象は起こっていなかったし、まったく訳が分からない。こっちだって驚いてるんだ。
念のため、もう一度セリーが持っている白くて長い毛皮に鑑定をかけてみた。
スコル アクセサリー
スキル 魔法攻撃力二倍 知力二倍 攻撃力二倍 腕力二倍
やはり形だけではなく、名称も違う……。
通常装備品は、この世界を構成するシステムの命名規則によって厳格に定められた名称が付けられている。
ユニーク装備以外でスキルが付いている装備品の命名規則は、一スロット目についたスキルによって付与される文言に『サッシュ』のようにそのままの名称か、『鉄の剣』なら『鉄剣』といった感じで助詞を省いた名称が加えられる。これは絶対の法則だ。
先ほどまでは確かにその法則に沿った、よりしろのサッシュという名称だった。
しかし、現在は『よりしろの』というスキルの付与名称が外れており、おまけにサッシュですらなくなっている。
つまり、スコルというのは間違いなく固有の名称ということになるわけだ。
そしてこのスコルという名称、これにも違和感が拭えない。
スコルとは北欧神話に登場する、フェンリルの子供とされる狼のこと。
そして、その逸話は太陽神ソールを食らおうと追いかけ続けているというものだったはず。
そう。先ほど手に入れたスヴェルと浅からぬ関係があるのだ。果たしてこれは偶然だろうか?
それともそれとは一切関係ない、スコルという名称を持った神話や伝承の装備品が存在するのか?
これまで目にしてきたユニーク装備は明確な由来があるものばかり。
もちろん俺が知らない神話や伝承は数限りなくあるだろうから、スコルという毛皮が何らかの物語に登場している可能性だってあるだろう。
だが、どうにも腑に落ちない……。
……いや。今はそんな考察をしている場合じゃないか。目の前で起こった現象について考えなければ。
整った顔に戸惑いの表情を浮かべている女性陣に見守られながら考えを巡らせていると、ある仮説が頭に浮かぶ。
特定の組み合わせでスキルを付けると、ユニーク装備に変化するのか?
原作でもそうだったのか、それともこの世界だけの仕様なのかは不明だが、その可能性が高い気がする。
以前、持っていた貫通のオリハルコン剣には五つのスキルが付いていた。それも全て有用な物がだ。それなのにあれには固有名が付くことはなかった。
そのことからも、やみくもに融合したところでユニーク装備にならないことは確実だろう。
きっと決められた組み合わせで融合した場合のみ、ユニーク装備化が発生するに違いない。
思いついた仮説に納得しそうになったところで、別の可能性が頭を過る。
……あっ、待てよ? 単純にランダム発生の可能性もあるか?
ボーナスポイントを振って出現するボーナス装備の中で、ユニーク装備となっているのはスキルが四つ以上の物ばかり。
つまり、キーとなっているのはスキルが四つ以上ということになる。
四つ目のスキルを融合した際にランダム抽選が行われ、それに当選するとユニーク装備化が起こる。その可能性はないだろうか?
となると、スロットが三つ以下の装備品ではユニーク装備化は起こらない?
……いや、駄目だ。情報が少なすぎる。今は結論を急ぐべきではないだろう。そもそもこれが本当にユニーク装備なのかどうかも不明だしな。
幸いトロール、サイクロプス、鳥のスキル結晶は手元にあるし、コボルトのスキル結晶も一つはある。しかもスロット四つのサッシュだって待機中。
ヤギ一個とコボルト三個をゲットしたら、追加検証を行おう。
たとえ同じ現象が起こらなかったとしても、超貴重な装備品であることには変わりない。そのままルティナに回せばいいさ。
ある程度の仮説が立ったところで、固唾を飲んでこちらを見つめている女性たちに顔を向けた。
「俺も予想外で驚いてるんだけど、とりあえず魔法攻撃力二倍、知力二倍、攻撃力二倍、腕力二倍のスキルは問題なく付いている。ただ、形状が変わっただけじゃなくて、スコルという固有のものと思われる名称に変化していた」
その瞬間、物置に悲鳴のような声が上がる。
セリーなどは動揺のあまり持っていたそれを取り落としそうになり、地面に付けないよう必死で抱きとめていた。
「ごしゅ、ご主人様!? このようなことまでおできになるのですか!?」
長い毛皮を抱えながらセリーが声を上げると、ミリアとベスタもそれに続く。
「意味が分かりません! こんなのありなんですか!?」
「あの、あの、あの、ご主人様は、あの、本当になん、なんでもおできになるのですか?」
あまりの勢いに、思わず反論の言葉が口をついた。
「いやいやいや。これについては完全に予想外だから。狙ってやったわけじゃないから。俺も驚いてるから。だから落ち着いて」
だがロクサーヌだけは、どこか恍惚とした表情で言葉を漏らす。
「人知を超越した御業をこうも易々と……。さすがご主人様……。きっと神の使い、いいえ、神そのものに違いありません……」
君は本当に落ち着け。絶対に他所でそんなことを言うんじゃないぞ?
四人を何とかなだめていると、今度はルティナが問いかけてくる。
「アユム様。予想外であれば、どうしてその毛皮に固有名が付いていることをご存じなのですか?」
その顔には訝しげな色が浮かんでおり、納得していないことがありありとうかがえた。
まあそうだわな。鑑定を知らない以上、疑問を覚えて当然だ。
論より証拠。装備品の準備も整ったことだし、予定通り迷宮に行こう。そこで起こる超常現象を目の当たりにすれば、俺の事情を説明したときにリアリティーが増すだろう。
「まずは迷宮へ行って、俺たちの戦いを見てもらう。事情はその後に必ず説明するから、少しだけ待ってもらえる?」
ルティナは逡巡したものの、すぐにコクリと頷いた。
「……承知いたしました。アユム様を信じます」
そして、両手をぎゅっと握りしめる。
「迷宮では必ずお役に立ちますので、わたくしの魔法にご期待ください!」
あー! 罪悪感が刺激されるー!
「そ、そうだね。それじゃあ、どこの迷宮に行こうか! ロクサーヌ、どこがいいと思う!」
「え、あ、はい。そうですね……」
気まずそうな表情を浮かべていたロクサーヌに話を振ると、少し考えてから意見を述べる。
「本来であれば、一刻も早く最上階にたどり着くためにベイルの迷宮へ入るのがいいのでしょうが、明日は帝国解放会の試験日となっています。今日はベリッサ南の五十三階層でルティナの経験を積んだ方がいいのではないでしょうか?」
その言葉にミリアとベスタも頷きながら同意を示した。
「お姉ちゃんの言う通りです。明日は最上階のボスに挑むんですから、たとえ1でもレベルを上げておくべきです」
「そうですね。ご主人様とロクサーヌさんがいればそこまで危険なことはないでしょうが、できることはしていた方がいいと思います」
だが、それを聞いたルティナは困惑した表情で彼女たちの言葉に訂正を入れる。
「あの、ミリア姉様、ベスタ姉様。確かに上の階層で経験を積むことで能力が成長することはありますが、レベルが存在するのは探索者だけです。わたくしは魔法使いなのでレベルはありません」
すると、セリーが苦笑まじりに告げた。
「まあ、言葉の綾のようなものだと思って、今はあまり気にしないでください」
言葉は飲み込んだものの、それでもルティナの顔には戸惑いの色が残っている。
そりゃ、気にしないなんて無理だよなぁ。後でちゃんと説明しないと。
ボーナスポイントの振り分けを済ませ、セリーからスコルを受け取ると、心地よい感触が手に伝わってくる。
ふわふわしてんなぁ。ふわふわ時間だわ。放課後ティータイムだわ。
それにしてもめちゃくちゃシャレオツだよなぁ。こんなのファッション雑誌を購読してるような女性しか身に着けないんじゃないか? 俺なんかが着けたら違和感がハンパないだろ。
イアリングもハードルが高かったが、こちらはさらにヤバい。
そんなことを考えながらも、とりあえず首に巻いてみる。
すると、ミリアがシュバッと手を上げた。
「ご主人様、ちょっと待っててくださいね!」
そういうや否や、彼女はものすごい勢いで物置を出ていく。
全員、呆気に取られていたものの、やがてロクサーヌからため息が漏れた。
「まったく、あの娘は。注意したばかりだというのに……」
まあまあ。『それがあのこのいいところ』ってやつだから。
メロディーに合わせて歌いたくなったものの、そんなことをすれば俺の方に飛び火してしまうため、ここはスルーするんだけどね。
苦笑を浮かべている四人に見守られながら、首元のスコルを調整する。
激しく動いたら外れそうな感じはするものの、頭に載っているだけのズケットが何の問題もないのだ。きっと装備品にかかっている魔法とやらで、自分で外そうとしない限り外れることはないのだろう。
でも、夏場にこれは少々厳しいかもしれない。
迷宮以外で身に着けることはないだろうし、その迷宮は年中同じ温度で保たれているが、動き回れば『体の一部がホット! ホット!』になることは確実だろう。
うーん……。首に巻くのはなしかな。
「ご主人様! どうぞ!」
スコルを外そうとしたところでミリアが物置に飛び込んできた。
彼女は鏡を抱えており、それをこちらへ向けている。
ああ。なるほど。それを取りに行ってたわけね。
「ミリア、ありがとう」
感謝を伝えて鏡を覗き込むと、白い礼拝服に白い襟巻きを合わせたクソダサ不細工と目が合った。
全然似合ってねー!
きっと彼女たちであれば見栄えもするのだろうが、俺には無理だ。
白い毛皮を首から外し、腰に巻き付ける。
確認したところ微塵も似合っていなかったが、それでもこちらの方がだいぶマシだ。
「さすがご主人様、よくお似合いです」
はいはい。さすごしゅ、ありがとさん。
ロクサーヌだけではなく、他の娘たちもこちらの方がいいと言ってくれたし、今後もこいつは腰に巻くことにしよう。
ミリアが鏡を戻しに行っている間に身代わりの竜革グローブをはめ、倹約のダマスカス鋼盾を装着し、ズケットをかぶる。
俺の姿を見たルティナの顔には、またしても困惑の色が浮かんでいた。
だが、いまは説明することができないため、ミリアが戻ってきたところで彼女たちに声をかける。
「さあ、迷宮へ行こう」
「えっ!? 迷宮!? どうして!? どうして迷宮にいるのですか!?」
自宅玄関から直接迷宮へ移動したところ、ルティナの口から絶叫が上がる。
先輩たちが落ち着かせようと声をかけているのを見ながら、キャラクター再設定を開き、ワープと鑑定を外してガンマ線バーストと詠唱短縮にポイントを振った。
さらにアイテムボックスを開いてカッカラを取り出し、準備完了。
戦闘態勢が整ったところで、盾が装着されている左手でパニックを起こしているルティナの背中を撫でた。
「これから色々驚くことがあるだろうが、家に帰ったらすべての秘密を打ち明ける。今は俺たちを信じて、迷宮探索に専念してもらえないか?」
彼女は呆然とした表情をこちらに向けていたが、段々とその顔に生気が戻ってくる。
やがて、しっかりと目を合わせて頷いた。
「……はい。わたくしはアユム様を信じております」
「ルティナ、ありがとう。では、いつものように探索を行おう。ロクサーヌ、君の判断で防壁展開か障壁展開のどちらかを使用したら案内を頼む」
ルティナのレベルは21。この階層の魔物との間には30以上の差があるのだ。
メッキが使えない以上、確実に防御力を上げておかないと。
すると、ロクサーヌはドヤ顔で答えた。
「私たちが魔物を抑えるので、防壁展開より障壁展開の方がいいでしょう。ですが、先ほど使用した障壁展開の効果時間がまだあと数分残っています。このまま先へ進みましょう」
いつもながら正確な体内時計だよなぁ。ほんと頼りになる娘さんだこと。
匂いを確認しながら歩き出したロクサーヌに続き、俺たちも移動を開始する。
ルティナは一瞬、カッカラに視線を向けたものの、疑問を飲み込みついてきてくれた。
少し進んだところで、すぐにロクサーヌから声が上がる。
「ご主人様、この先に魔物が。アニマルトラップ、ピッグホッグ、ボトルマーメイドの組み合わせです」
「狼人族の鼻は魔物の種類まで判別可能なのですね。嗅覚に優れているという話は聞いておりましたが、そこまでだとは思いませんでした」
いや。それはこのお嬢さんだけみたいよ。
感心したように言葉を漏らすお姫様を見ながら、先輩四人に指示を出す。
「分かった。戦闘はいつもの通りに頼む」
そして、次にルティナに顔を向けた。
「今回は見学だ。俺たちが普段どのように戦っているのかを確認してくれ」
自分の魔法を俺たちに見せたかったのだろう。その整った顔に少しだけ不満の色が浮かぶ。
だが彼女はすぐにそれを拭い去り、頷きながら答えた。
「承知いたしました」
納得いかないだろうがロクサーヌ以外、加入直後は見学からスタートしている。
セリーとベスタはジョブを得るために一度戦闘を行っているものの、あれはノーカンでいいだろう。
後ろから魔法を撃たせてもいいのだろうが、ガンマ線バーストとサンダーストーム二発でワンターンキルが可能となっているため、正直この階層で彼女の魔法に頼ることはない。
「よし。では、進もう」
魅力の異なる華やかな返事が耳に届き、にやけそうになるのを堪えながら歩き出す。
魔物が見えたと同時に走り出す女性陣に合わせ、アニメの主人公よろしく熱いシャウトを叩きつけた。
「ガンマ線バースト! サンダーストーム! サンダーストーム!」
魔物の体に稲妻が纏わりつき、バリバリと音を立てながらそのまま纏わりつく。
「えっ!? これは魔法ですか!?」
予想通り、背後からルティナの声が上がったものの、今は戦闘中のため説明することはできない。
カッカラを構えながら、魔物の動きを阻害しているロクサーヌたちの様子を見守り続けた。
やがて、通路に静寂が戻り、魔物の体が風に流されるように消えていく。
奴らが存在していた痕跡は床に転がるドロップアイテムだけだ。
よっしゃ。問題ナッシング。
四人がドロップアイテムの回収を行なっているのを見ながら、MP回復のために強壮錠を取り出そうとしたところで通路に絶叫が響き渡る。
「何なのですか!? あれはいったい何だったのですか!?」
反射的にそちらへ体を向けると、錯乱したような表情のルティナがこちらに詰め寄ってきた。
「魔法ですよね!? あれは魔法ですよね!? アユム様がお使いになったのですか!?」
ちょっ。つよい、つよい。圧が強いって。
いきなりの行動に驚いていると、セリーが間に入り彼女の体を押さえつけた。
「落ち着いてください。ご主人様の能力を初めて見たときは、私たちもあなたと同じように驚きました。あとで必ず説明しますので、今は目の前で起こる事実だけを受けとめてください」
そしてミリアがニコニコ顔でルティナの頭を撫でる。
「そうそう。いきなりこんなの見せられたらびっくりするよねー」
さらにベスタも背中をさすりながら声をかけた。
「ルティナだけじゃないから、大丈夫だよ」
確かに彼女たちの言う通り、最初に見たときは全員度肝を抜かれていた。
魔法を見て驚くというのは、我がパーティー加入の通過儀礼と言っても過言ではない。
もっとも、ロクサーヌだけは驚きつつも、さすごしゅを決めていた気がするのだが。
そちらに視線を向けると、微笑みながら四人の様子を見守っていた。
年長者の余裕だろうか? 泰然自若としてんなぁ。
そんなことを考えていると、ルティナは大きく息を吐き出し口を開く。
「……分かりました。今はあるがままを受け入れますので、迷宮を出たら説明をお願いいたします」
「ああ。もちろんだ。では、探索に戻ろう」
彼女たちからドロップアイテムを受け取り、それをしまってから探索を再開する。
「ご主人様、そろそろお昼になります。時間もありませんので、バトルマーメイドとの戦闘訓練は午後に回した方がいいでしょう」
意気揚々と戦闘を行なっていたものの、ほんの数回でロクサーヌからタイムアップを告げられた。
この娘がボス戦を後に回すってことは、ガチで時間がないのだろう。
ほんと、今日は色々あったもんなぁ。
この後は話し合いがあるし、食材の購入や料理をする時間もない。
……そうだな。
「分かった。このまま家に帰ってルティナに俺の事情を説明しよう。それが済んだら久しぶりにベイル亭で食事をするか」
それを聞き、ミリアの顔に笑みが浮かんだ。
「お姉ちゃんたちから話を聞いて、一度行ってみたかったんです! ベスタ、ルティナ、楽しみだね!」
「はい。とても美味しいということなので、本当に楽しみです」
「ベイル亭ですか?」
期待で表情を輝かせているベスタに対し、ルティナは可愛らしく首をかしげている。
あれ? ミリアも行ったことはないんだっけ?
そういや、最後に行ったのはいつだっただろう?
ロクサーヌとセリーも交えて楽しそうに話している女性陣を見ながら、帰り支度を整える。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv47 神官Lv49
装備 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー スコル
BP振分 残BP:28/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
詠唱省略:3
キャラクター再設定:1
所持金:4,601,994ナール
夏の18日目