自宅からベイルの冒険者ギルドへ飛び、そのままベイル亭へ移動する。
「いらっしゃ――。おお? パーティーメンバーが揃ったのか?」
受付カウンターに向かうと、俺たちに気付いたいつもの旅亭が出迎えの挨拶を途中で止め、驚いたような表情で問いかけてきた。
前から思っていたが、旅亭ギルドに加入しているそれなりのグレードの宿だってのに、この男の接客はめちゃくちゃフランクだよな。
アランやルーク、それからコハク商人なんかとは全然違う。
もっとも仕事は丁寧だし、全然悪いことではないんだけどさ。
「ああ。今日フルメンバーになったばかりだ」
俺の返事を受けると、男は我が愛しの妻たちを見回し、呟きを漏らす。
「一季節と二十日くらいの間で、これだけのメンバーを揃えたのか……。とんでもないな……」
ふふん。せやろ? これだけ美人で可愛いのにとんでもなく有能。おまけに声もめちゃくちゃ綺麗で性格も最高なんだぜ? こんな素敵な娘たちは世界中探しても見ることはできないぞ? どうよ? どうよ?
恥も外聞もなく彼女たちの自慢をしたいところだが、俺は奥ゆかしい日本男児。ここは自重しておかねばなるまい。
でも、この世界ではどうなんだろうな?
ヨーロッパっぽい世界観だが、この封建社会で自分の配偶者を自慢したりするのかね?
……ああ。以前ハルツ公はロクサーヌたちのことを評し、『余の妻であるカシアには及ばぬ』とか事実とは異なることを口にして間接的にのろけていたわ。
確かにカシアも美人だが彼女たちには到底及ばないっての。贔屓目が過ぎるぞ。
そんなことを考えつつ、彼の言葉に答える。
「まあな。間違いなく世界で五本の指に入る女性たちが俺の下へ来てくれたのだ。俺ほど恵まれた男は他にいないだろう」
すると、ロクサーヌが静かに言葉を紡ぐ。
「私たちの方こそ、世界一のご主人様にお仕えすることができ、本当に恵まれています」
セリー、ミリア、ベスタ、そして今日加入したばかりだというのに、ルティナまでもが大きく頷き、同意を示した。
なんって良い娘たちなんだ! 好き! 大好き!
彼女たちと互いに顔を見合わせ笑い合っていると、呆れを含んだ呟きが耳に届く。
「……ああ。そうかもな」
そちらに視線を向けたところ、揺らぐことのない厳然たる事実を述べただけだというのに、彼の顔には白けたような表情が浮かんでいた。
どうやら知らず知らずのうちに、オープンな欧米人のように自分の愛する妻を自慢していたらしい。
別にダーリンやハニーと呼んだわけではないので、日本男児としての矜持は守られているはず。何も問題ない。
……でも、ダーリンやハニーって呼び合うのも悪くないよな。
暗黒の青春時代を過ごした身からすれば、『ダーリン、うちだっちゃ』とか『ハニー、大好きなの』とか言われたり、『あゆみゅんダーリンのこと、だいだいだーすきだみゅん』とか言うのに憧れてしまうぞ。
脳内でイチャイチャパラダイスを繰り広げていると、男が問いかけてくる。
「で、今日は食事でいいのか?」
おっと、いかんいかん。浮かれポンチになっている場合じゃない。
「ああ。頼む」
「一人前が百二十ナールで六人だから、七百二十ナールだ」
「うむ」
そのまま支払いを行っていると、ルティナ以外の顔に訝しげな表情が浮かんでいることに気が付いた。
そういえば、これからは三割アップと三割引を使うつもりがないことを伝えてなかったわ。
秘密を打ち明けることで頭がいっぱいでそれどころではなかったし、まあしょうがない。
食事を終えて自宅に戻ったときに説明しておかないと。
内心でそんなことを考えていると、硬貨を数え終わった旅亭の男が口を開く。
「七百二十ナール、確かに。それじゃあ、うちの自慢の料理を楽しんでくれ」
片手を上げて歩き出すと、腑に落ちない顔のまま彼女たちも付いてくる。
人目があるところで質問するわけにはいかないため、どうやら疑問を飲み込んだらしい。
すぐに説明するから、少し待っててもろて。
メニューはお馴染みの肉野菜炒めにパンとシチューがセットになっているものと、肉野菜炒めが白身魚のムニエルになっているもの。
魚大好きミリアさんは特徴的な虹彩の瞳をキラキラ輝かせながら、ムニエルに飛びついてた。
うん。まあそうなるよね。
俺とロクサーヌ、ベスタが肉野菜炒め、セリーとルティナがムニエルを選んで食事を開始する。
ミリアとベスタだけではなく、伯爵令嬢であらせられたルティナまでもが美味しそうに食べていた。
さすがはこの雄山の舌を唸らせただけのことはある。
ベイル亭の料理人よ。いずれ美食倶楽部に招くこともあるだろう。これからも精進するがいい。
馬鹿なことを考えつつ、満足感を覚えながら宿を後にする。
自宅へ戻り、リビングへ移動したところ、ロクサーヌが微笑みながらルティナに声を掛ける。
「先ほど部屋で説明した通り、今回はあなたの番です。さあ、思う存分ご主人様に甘えてください」
どうやらあらかじめ食休みのローテーションについて話し合いをしていたらしい。セリー、ミリア、ベスタも柔らかな表情で彼女を見守っていた。
好意を持たれていることについては微塵も疑っていないが、果たして俺とソファーに座って体をくっつけることを喜んでくれるものなのだろうか?
臭いとか言われたら三日は落ち込むぞ。
疑問を覚えながらルティナの方をうかがうと、朱に染まった頬とはにかんだような笑みが目に飛び込んでくる。
可愛い! 俺のルティナが可愛すぎる! 思わず抱きしめたくなるじゃないのさ!
興奮を抑えながらソファーに座ると、他の四人に促されたルティナが脚の間に体を滑り込ませた。
背後からでも細長い耳が真っ赤に染まっていることが確認できる。
あー。可愛いんじゃー。
彼女の体に腕を回してこちらへ導いたところ、いささかの抵抗もなくもたれかかってくれた。
めちゃくちゃ良い匂いがするんじゃー。たまらないんじゃー。
浮世のしがらみを忘れてルティナの体温と芳香に浸っていると、特徴的で愛らしい声が耳に届く。
「先ほどから気になっていたのですが、今日は一度も三割引を使用していませんよね? 何かあったのですか?」
うん? あ、そうか。そのことを話そうと思ってたんだっけ。
問いかけてきたセリーに顔を向け、事情を説明することにする。
「そのことなんだけど、三割アップや三割引といったスキルは取引相手の利益を不当に削っている。舐めた真似をするような奴らならともかく、まっとうな商売をしている者に対して使用するのは以前から気が咎めていたんだ。君たち五人と出会うことができたし、それなりの蓄えもある。いい機会だしこのスキルは封印しようかなって」
それを聞くなり、我が最愛の人がドヤ顔で言い放つ。
「取引相手のことを考え、自分を律するなど常人には難しいことでしょう。ためらいもなくそれを実行するとは、さすがご主人様です」
いや、あの、昨日まで普通にこれを使いまくっていただけに、そのさすごしゅはちょっと……。
「労せず大金を得ることができるため惜しい気がしますが、はたから見ていると確かに不自然さもありました。もったいないですが、ご主人様がそうおっしゃるのであれば仕方がありません」
少しばかり未練もあるようだが、セリーはそれでも納得してくれた。
「今でも大金持ちなんですから、ガツガツ稼がなくてもいいですもんね」
「はい。他の人に損をさせなくて済むのであればその方がいいと思います」
ミリアとベスタにも異存はないようだ。
そして、抱きしめていたルティナが振り返り、困り顔でこちらを見上げる。
「セリー姉様のおっしゃっていた通り、第三者がその場面を目にすれば違和感を覚え、アユム様が忖度を求めたように映るかもしれません。そうなればいたずらに民の生活を困窮させるようなことをしたと、諸侯会議で糾弾される可能性があります。やはり自重しておくべきでしょう」
おお! 諸侯会議だって! めちゃくちゃルティナっぽい!
でも、うちのルティナは何が何でもそれに参加しようって感じではなく、俺が困るかもしれないと心配してくれている。それがなんとも嬉しく、愛おしい。
抱きしめていた腕に少しだけ力を加え、彼女に笑いかける。
「そうだね。貴族になろうというのであればなるべく隙を見せない方がいいし、他人の利益をかすめ取ること自体も問題だ。やはりこれらのスキルを使うのはここまでにしておこう」
「はい。その方がよろしいかと」
ルティナも笑顔で同意を示した。
神々しいほど美しいのに、めちゃくちゃ可愛い娘だなぁ。見つめ合ってるだけで照れてしまうぞ。
あと、この細長い耳。セリーもそうだが、これは本当に神秘的だ。触らせてもらえないだろうか?
そんなことを考えていると、彼女たちは思いつくままに話し始めた。
うん。良好な関係を築けているようで一安心。よきかな、よきかな。
会話を楽しんでる五人を見ながらのんびり過ごす。
「ご主人様、そろそろ午後の探索の時間になります」
ロクサーヌからタイムアップを告げられる。
もうそんな時間か。んじゃ、迷宮へ行くとしますかね。
「あっ……」
抱きしめていた腕を解くと、ルティナの口から声がこぼれた。
すると、ミリアがニコニコ笑いながら彼女に話しかける。
「そんなにご主人様とくっついていたかったの? でも残念がることはないよ。さっき言った通り、今日はお風呂もルティナの番だから。ふふ。今度は肌と肌を直接くっつけられるね」
この娘さん、とんでもないことを言うなぁ。
呆気に取られていると、ルティナが首を後ろに向け、上目遣いでこちらを見上げる。
あざと! あざと可愛い!
「あの、アユム様。よろしくお願いいたします……」
その言葉を聞いた瞬間、再び彼女を抱きしめていた。
好き! ルティナ、大好き!
午後の探索を行うべく、ベリッサ南の五十三階層へ移動したところで、ロクサーヌが口を開く。
「今回からご主人様とルティナも魔物と対峙するようにしてください」
あ、はい。そうでしたね。接近戦をしながら魔法を使うんでしたよね……。
新たな課題にプレッシャーを感じていると、彼女の表情がふっと緩んだ。
「とはいえ、詠唱が要らないご主人様はともかく、ルティナにとっては厳しい課題となるでしょう。私も戦闘をしながらの詠唱にはかなり手こずったので、大変さはよく分かります。少しずつ慣れていきましょう」
「ロクサーヌ姉様……。はい! どんな状況でも魔法を放てるよう、精進いたします!」
師匠の激励を受け、ルティナは感激したように声を上げた。
ミリアとベスタは微笑ましげにその様子を見守っている。
めちゃくちゃ麗しいやり取りをしているけど、君が手こずっていた記憶が俺には全然ないのですが……。
おそらくセリーも同じことを考えていたのだろう。苦笑を浮かべながら二人のやり取りを眺めていた。
……まあいいさ。それじゃあ、午後の探索を開始しよう。
「ロクサーヌ、いつものように頼む」
「お任せください!」
彼女たちと共に薄暗い通路を歩き出す。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv47 神官Lv49
装備 カッカラ 倹約のダマスカス鋼盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー スコル
ロクサーヌ ♀ 17歳
巫女Lv39
装備 貫通のミセリコルデ スヴェル ティアラ アルバ 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv37
装備 強権の聖槍 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
探索者Lv35
装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv32
装備 強権のレイピア ダマスカス鋼の剣 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
ルティナ ♀ 15歳
魔法使いLv21
装備 ひもろぎのスタッフ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 身代わりのオペラグローブ バックルシューズ よりしろのイアリング
BP振分 残BP:0/160
ガンマ線バースト:1
必要経験値二十分の一:63
獲得経験値二十倍:63
シックススジョブ:31
詠唱短縮:1
キャラクター再設定:1
所持金:4,601,274ナール
夏の18日目