異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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312 検証

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮五十三階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 背後から扉の締まる音が聞こえた瞬間、フロア中央から煙が上がる。

 一斉に走り出したところで、涼やかな声が耳に届いた。

 

「心通わすともがらの、連なり築く八重垣の、堅陣、防壁展開」

 

 緑色の光が俺たちを包み込み、それが各々の体に吸収されていく。

 

 よし。これで物理防御力が大幅に強化されたことになる。

 全員身代わりスキルの付いた装備品を身に着けているし、万が一の可能性も潰れたはずだ。

 

 そんなことを考えながら、魔物の後ろへ回り込むべく大回りをしていると、やがて煙が晴れ、その中から凶悪そのものといった禍々しいフォルムが目に飛び込んできた。

 

 頭に凶悪な鋏を持つ植物が四体。

 うち二体は身の丈三メートルはありそうなほどの巨体に、相手を捕らえるためではなく食い千切ることを目的にしているとしか思えない鋭利な刃が幾重にも連なっており、しかも頭部だけではなく左右に伸びた長い蔓の先にも備え付けてある。

 挟まれてしまえば絶対にただでは済まないだろう。背筋の悪寒が止まらない。

 

 あまりのインパクトにビビり散らかしていると、凛々しくも愛らしい声が響き渡る。

 

「赤きほむらのかぎろひの、燃え立つ野辺に火影舞う、噴流、ファイヤーストーム」

 

 ルティナが呪文を唱え終わったところで、はさみ式食虫植物たちの体に炎が巻き付いた。

 

 おお! 走りながらでも詠唱に成功したぞ! やるじゃん!

 うっしゃ! 追撃じゃい!

 

「ガンマ線バースト! バーンストーム! サンダーストーム!」

 

 熱いシャウトを発した瞬間、まるで地獄の窯でも開いたかの如く、雷を纏う紅蓮の炎が噴き上がる。

 

 雑魚戦と比べても遜色ないどころか、明らかにエフェクトの規模が大きいぞ。

 ズケットとカッカラ、それから知力二倍のスキルもないというのに、それを補って余りある。

 さすがドラウプニル! 魔法攻撃力五倍は伊達じゃない!

 

 大威力の魔法を叩き込んだことでヘイトを取ってしまったのだろう、奴らは俺を狙うべく、体の向きを変えようとした。

 しかし、頼れるヴァルキリーズがそんなことを許すはずなく、魔物に突貫して各々得物を振るう。

 彼女たちはあっという間に俺へのヘイトを剥がして自分たちに注意を引き付けると、激しく攻撃を加え始めた。

 

 オッケー! 俺もいくぞ!

 

「火炎剣!」

 

 先に属性付与を使用しておくことで、発動時間の基準を通常の時間にすることが可能。

 つまり、オーバードライビング中は発動時間の減りを緩やかにできるってわけだ。いわゆる裏技ってやつだな。

 

 アスカロンが炎に包まれるのを確認したところで、チートスキルを使用する。

 

「オーバードライビング!」

 

 その瞬間、俺以外の動きがスローモーションになった。

 引き延ばされた時間の中で、ベスタが対峙しているヒューマントラップに躍りかかりながら声を上げる。

 

「バッシュ!」

 

 アスカロンを握る手に力が増し、袈裟懸けに放った一撃が奴の体を通り抜けた。

 そして、そのまま切り上げながら再度シャウトを放つ。

 

「スマッシュ!」

 

 詠唱省略を付けていないせいでダブルアタックを放つことができず、これまでのボス戦に比べてDPSは大きく低下しているだろう。

 しかし、そんなものは数で補えばいい。このまま何発でも叩き込んでやるぞ!

 

 

 

 オーバードライビングを延長し、攻撃スキルを乗せた斬撃を放ち続けていたところで、ヒューマントラップの体がぶるりと震えて手ごたえがなくなり、まるでタイミングを見計らっていたかのようにボーナスタイムが終了する。

 そして覆っていた炎と雷のエフェクトと共に、その体も空気に溶けるように消えていき、ついでとばかりにアスカロンを覆っていた炎も見えなくなった。

 

 次の獲物を探して辺りを見回すと、アニマルトラップの姿も見当たらない。

 

 よし。雑魚は魔法で片付いたようだな。んじゃ、残った一匹を処理しよう。

 

「火炎剣」

 

 即座に次の獲物を屠るべく属性付与を発動しようとしたものの、炎が剣を覆うことはなかった。

 思わず舌打ちをしてしまう。

 

 くそっ。クールタイムに引っかかったか。裏技も一長一短だな。

 

「ガンマ線バースト、バーンストーム、サンダーストーム」

 

 念のため魔法名を口にしたものの、やはりこちらも発動することはない。

 

「オーバードライビング」

 

 すると、クールタイムなど知るかとばかりに、時の流れが堰き止められた。

 

 さすがは安心と信頼のチートスキル。超有用なだけではなく、クールタイムも短くていらっしゃる。ほんと、頼りになるわぁ。

 

 先ほどと同じようにオーバードライビングをかけなおしながらバッシュとスマッシュの連打をかましていると、伸びきったカセットテープのような声が耳に届き、ヒューマントラップの体に炎が纏わりつく。

 

 おっ。クールタイムが明けたのか。

 

「火炎剣、ガンマ線バースト、バーンストーム、サンダーストーム」

 

 ブラヒム語で紡いだスキル名に反応し、アスカロンに炎の力が宿り、ヒューマントラップはまるで地獄の業火に焼かれているかのような有様だ。

 

 よっしゃ! ラストスパートいくぜー!

 

 

 

 それまでのダメージが蓄積していたためか、はたまた魔法によるダメージも大きかったのか、ヒューマントラップの姿が薄くなり、やがて霞のように見えなくなった。

 そして入れ替わるように、奴のいた場所にほのかな光を放つ六角形の物体が現れる。

 

「スキル結晶!? マジか!?」

 

 あまりのことに思わず声を上げてしまったところ、ロクサーヌもそれに続く。

 

「人参かと思いましたが、まさかスキル結晶が残るなんて!」

「はさみ式食虫植物! 有用なスキル結晶です!」

「これはベスタがドラウプニルを勧めたおかげだよね! 本当にすごいよ!」

 

 さらにセリーとミリアもびっくりした顔で、スキル結晶とベスタへ視線を送っていた。

 

 ほんと、ミリアの言う通りだわ。

 こいつをゲットできたのは、ベスタがスキル結晶ドロップ率二倍を持つドラウプニルをプッシュしてくれたおかげだろう。

 スキル結晶のドロップ率は数千分の一、もしくは数万分の一だから二倍になったところで誤差みたいなものだが、今回の抽選で引き当てることができたのは、こいつの効果に違いない。

 さすがベスタ、さすベスだ。

 

「スキル結晶が残るところを目にしたのは初めてなので驚きました。これは本当にベスタ姉様のおかげなのですか?」

「そんなことはないと思うんだけど……」

 

 興奮している俺たちとは違い、二十日ほど前に成人した二人は困惑した様子で顔を見合わせている。

 

 いや、間違いなくベスタの功績だから。ファインプレーだったから。ナイス進言だったから。

 

 自覚のない彼女にその旨を告げると、はにかんだような笑みを浮かべていた。

 うむ。実に愛らしい。

 

「それにしても、目にも留まらぬアユム様の動きには驚嘆いたしました。あれが先ほどおっしゃっていたオーバードライビングなのですね。あのような動きが可能なのであれば、アユム様は世界一の強者なのではないでしょうか?」

「ええ。間違いありません」

 

 ドヤ顔で頷いている我が最愛の人と、頷いている娘たちを見ながら頭の中でぼやく。

 

 そんなことないんだよなぁ。

 おひいさま。信じられないことに、あの状態から繰り出される攻撃を完全に見切っている人と、ある程度対応できる人がいるんですよ? それもあなたの目の前に。とんでもないでしょ?

 

 そんなことを考えながら、次の雑魚戦の準備に取り掛かるためキャラクター設定を開いた。

 アクセサリーに振っていた分を外してジョブ設定に振り、今度はジョブ設定画面を開く。

 

 お? 武者と剣士のレベルが上がってる。

 強力な対ボス用スキルを持つジョブであり、しかも明日は最上階のボスに挑むことになっている。ここでレベルが上がるのはありがたい。

 もっともこの後は雑魚戦となるため、この二つはお役御免。防具商人と神官へサクッとチェンジと相成った。

 最強の物理攻撃を行うためにレベルを上げなければいけないが、それまではボス戦でのワンポイント起用となるだろう。

 

 ジョブの入れ替えを済ませたところでジョブ設定を外し、獲得経験値二十倍にポイントを振る。

 そして、装備もスペルキャスター用の物へ変更した。

 

 準備が終わるのを待っていたロクサーヌが、苦笑を浮かべながら近づいてくる。

 

「ご主人様、どうぞ」

 

 差し出された彼女の手のひらには、半夏が二つと乾燥した木の根っこが載っていた。

 

 鑑定を付けてないせいで名称を直接確認することはできないが、根っこの方は間違いなく初見のドロップアイテム……。

 

 呆然としていると、さもありなんといった表情で頷きながら、セリーが告げる。

 

「どうやらレアドロップとスキル結晶の両方を入手していたようですね」

 

 ほんと、ベスタのリアルラックはとんでもないなぁ。

 マスクデータとして運のパラメーターがあれば、確実にカンストしているだろう。

 

 受け取った物をアイテムボックスへしまいながら、内心でそんなことを呟いた。

 

 

 仕切り直すために一度咳払いをして問いかける。

 

「セリー、五十四階層から出現する魔物は何だ?」

「ブラックダイヤツナです! たくさん狩ることになるので、赤身だけではなくトロもいっぱい手に入りますよ!」

 

 しかし、質問に答えたのはお魚大好きミリアさん。

 セリフを横取りされたセリーだけではなく、ロクサーヌとベスタの顔にも苦笑が浮かんでいる。

 

「五十四階層に出現する魔物はブラックダイヤツナ、アニマルトラップ、ボトルマーメイド、ネペンテス。そしてごく低確率でピッグホッグとなります。ブラックダイヤツナとボトルマーメイドの弱点は土属性ですが、ピッグホッグが耐性を持っているため、アニマルトラップとネペンテスの弱点であるファイヤーストームを使用した方がいいでしょう」

「かしこまりました」

 

 頷きを返すルティナにロクサーヌが告げた。

 

「ボス戦では接近戦に入る前に詠唱を行っていましたが、雑魚戦では先ほどまでと同様、戦いながら呪文を唱えるようにしてください。そうでなくては訓練になりませんからね」

 

 あまりの言葉に彼女の表情が凍り付く。

 

 近接戦に入る前に魔法を発動しておくという、折角見つけた攻略法を取り上げられたのだ。そうなるのも無理はない。

 

 普段は優しい良い娘なのに、こと戦闘に関しては本当に容赦がない師匠である。

 でもまあ、言っていることはもっともだし、俺が師匠に異議を唱えられるはずがない。

 

 ポニーテールのお姫様はすぐに再起動すると、整った顔を引き締めた。

 

「……分かりました。では、そのようにいたします」

 

 この娘、本当にまっすぐで芯が強いよなぁ。ポニーテールはふり向かないって感じだぞ。そのうちガチで超有能な魔法使いになるだろう。

 

 ルティナよ、我と共に最強のスペルキャスターを目指そうではないか。

 汗が飛ぶ、血が騒ぐ。涙なんてごめんだね、いま青春(ハートビート)だ。

 

「ご主人様、ご主人様。早く五十四階層に行きましょう!」

 

 馬鹿なことを考えていると、我慢できない様子のミリアに急かされる。

 

 はいはい。お待ちください、お嬢様。

 

 遊び人のスキルを下級雷魔法から中級火魔法に変更したところで、次の階層へと続く扉に向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

ベリッサ南未開地域の迷宮

五十四階層

 

 

 

 

 

 五十四階層に上がった直後の戦闘は、ブラックダイヤツナが四匹にアニマルトラップが一匹。

 ルティナもロクサーヌの課題をこなすために戦闘を行いながら呪文を唱えようとしたものの、先ほどのボス戦とは違い、接近戦を行いながらだったため、やはり発動することはなかった。

 だというのに、俺のトリプルスキルで問題なくワンターンキルに成功。その成果に全員驚きを隠せない。

 

「アユム様の魔法はこれほどの威力を誇るのですね……」

 

 表情を引きつらせながら、ルティナが呟きを漏らした。

 

 いや。ぶっちゃけ、これに関しては俺も驚いている。

 五十三階層に上がった時点では、ワンターンキルは不可能だった。

 あれから勇者、魔道士、遊び人のレベルが上がって、それが可能となっていたものの、まさかさらに上の階層でもワンパンを継続するとは……。

 これまでの必要な魔法の数の推移を鑑みるに、この階層からは確実にもう一発必要になると思っていたんだがなぁ。

 

 予想外の事態に驚いていると、セリーが呟きを漏らす。

 

「もしかしたらレベルアップだけが要因というわけではないのかもしれません」

 

 うん? どういうことだ?

 

 続きを促すと、彼女はこの状況についての推察を語り始めた。

 

「以前、この迷宮を探索していた時と今回では、レベルアップ以外にもご主人様の状況で大きく変わったものがあります」

 

 それを聞いたミリアが右手で拳を握り、その底の部分で左手のひらをポンと打つ。

 

「そうです! スコルを装備していますよね!」

 

 あっ。そうか。彼女の言う通り、その要因も考えられるな。

 

 俺だけではなくロクサーヌ、ベスタ、ルティナの顔にも理解の色が浮かぶ。

 

「そうなのです。スコルは固有名を持つ装備品。魔法攻撃力を強化する効果があっても不思議ではありません」

 

 セリーはそう言うと、好奇心で目をキラキラと輝かせながら俺を見つめた。

 

「検証のため、次の戦闘ではご主人様のスコルとルティナのよりしろのイアリングを交換してはいかがでしょうか?」

 

 スコルとよりしろのイアリングは、どちらも魔法攻撃力二倍と知力二倍のスキルが付いており、容易に比較検証が可能。

 確かにスコルの性能を確認する絶好の機会だな。

 それに、仮にワンパンできなかったとしても、もう一発か二発追加すれば問題ないだろう。

 

 セリーだけではなく、他の四人もワクワクした様子でこちらをうかがっている。可愛いなぁ。

 

「よし。セリーの言う通り、次の戦闘では実験をしてみよう」

 

 腰に巻いていたスコルを外し、ルティナのイアリングと取り換える。

 スコルを装備している彼女に対し、セリーは次の戦闘では魔法を使わないよう、言い含めていた。

 

 その様子を見ながら、こちらも耳にイアリングを装着する。

 

 ついさっき俺のもとを去っていったばかりだというのに、すぐに戻ってきちゃったよ。

 まあ、次の戦闘限定なんだけどさ。

 

 実験を行うため、大急ぎでドロップアイテムを回収したものの、残念ながらトロは残っていなかった。

 ネコミミさんはガッカリしていたが、確率を考えればこの結果もむべなるかな。

 今後、試行回数はガンガン回るし、嫌ってほど手に入るから気を落とさず。

 

 ……この娘がトロを嫌になるはずないか。

 

 横道に逸れた思考を振り払い、ロクサーヌに声をかける。

 

「では、次の魔物の所へ案内してくれ」

「かしこまりました」

 

 彼女は楽しそうに頷くと、弾むような足取りで歩き出した。

 

 

 

 程なくして遭遇した魔物は、ブラックダイヤツナ四匹にアニマルトラップが二匹。先ほどの構成とほとんど変わらず、まさに絶好の実験体。

 彼女たちが走り出したのに合わせて、魔法名を叫ぶ。

 

「ガンマ線バースト! バーンストーム! バーンストーム!」

 

 今回は実験なので、近接戦を行わず魔物の様子をうかがっていると、奴らの体を覆っていた炎が消え、それと共に頭にハサミを持つ植物も空気に溶けるように見えなくなった。

 しかし、宙を跳び回る大型の魚は健在だ。

 

 弱点を突くことができたアニマルトラップは倒せても、そうではないブラックダイヤツナが倒れるほどのダメージを与えられていなかったのだろう。

 つまり、さっきと比べて確実に魔法攻撃力は落ちている。

 

 ……違うか。先ほどは魔法攻撃力が引き上げられていたと言うべきだな。

 セリーの推測通り、スコルには魔法攻撃力を上昇させる効果があることは確定だ。

 

 

 

 クールタイム明けにダートストームを叩き込んだところ、シングルだというのにブラックダイヤツナはあっさり倒れてしまう。

 

 とりあえず、五十四階層であっても、トリプルスペルにあと一発加えることで魔物を片付けることが可能なようだ。

 いや。もしかしたらトリプルスペルの構成をガンマ線バースト、バーンストーム、ダートストームに変更することで、よりしろのイアリングでもワンターンキルが可能かもしれない。

 

 そんなことを考えていると、ロクサーヌから声が上がる。

 

「本当にスコルには魔法攻撃力が増す効果がありました! このような装備品を作り出してしまうなんて、さすがご主人様! すごいです!」

 

 彼女だけではなく、他の娘たちもすごいすごいの大合唱だ。

 

 確かにこの、えーっと、暫定的に『ユニーク装備化』としておくが、この現象はとんでもない。

 これが再現可能な現象なのか、それともランダム発生なのかは定かではないが、高階層の迷宮を攻略するにあたって、とんでもないアドバンテージとなるだろう。

 

 とりあえず、なるべく早くヤギとコボルトのスキル結晶を用意して、追加検証を行わなければ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 防具商人Lv47 神官Lv49

装備 カッカラ 倹約のダマスカス鋼盾 ズケット 頑強のアルバ 身代わりの竜革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:0/160

ガンマ線バースト:1

必要経験値二十分の一:63

獲得経験値二十倍:63

シックススジョブ:31

詠唱短縮:1

キャラクター再設定:1

 

所持金:4,601,274ナール

 

夏の18日目

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