目が覚めると滑らかで温かな感触が腕の中に収まっていた。
そうか……。昨日はルティナが仲間になったのか……。
本当に、本当に長い一日だった……。
真っ暗な部屋の中、華奢でありながら女性らしい柔らかさを備えた体を抱きしめ、サラサラとした長い髪を梳いていく。
俺がこの世界に来ようと思ったのはロクサーヌを一目見たかったからだ。
さらに叶うのであれば彼女だけではなく、セリー、ミリア、ベスタ、ルティナと共に生きていきたいと願っていた。
その絶対に叶わないと思っていた夢が、いま現実のものとなっている。
今後はこの幸せを維持するための努力をしていかなくてはならない。
そのためにはこの娘たちに手を出そうとする者を撥ね付けられるだけの、力と権力が必要だ。
魔物を倒してレベルを上げ、金や素材、スキル結晶を集めて強力な装備品を入手し、それを用いて迷宮討伐を果たし貴族に成り上がる。
結局のところ、これまでとやることは変わらない。
レベルを上げて何もかも粉砕する!
脳筋そのもののスローガンだが、キャラクター再設定という絶対的なアドバンテージを持つ俺たちにとっては、最も実現可能性の高い目標設定であることは確実。
とりあえず直近でやるべきことは、今日の午前中にハルバーの迷宮を撃破し、得られたギルド神殿でアスカロンの限定解除だ。
そして次は二個目のギルド神殿ゲットを目指し、ベイルの迷宮を撃破する。
んで、事がうまく運んだらセブンリーグブーツかスヴェルのいずれかを強化しよう。
我がパーティー最強であるロクサーヌの装備がパワーアップするのだ。きっと迷宮攻略が大幅に楽になるに違いない。
……いや。彼女は今でも必中である全体魔法以外の攻撃を食らっていないし、劇的に楽になることはないのか?
「おはようございます。ご主人様」
今後の予定について考えていると、涼やかで愛らしい声が耳朶を打つ。
「おはよう、ロクサーヌ」
彼女だけではなくセリー、ミリア、ベスタとも朝の挨拶を交わしていると、胸元から聞こえていた安らかな寝息が止まり、身じろぎをしたのが伝わってきた。
どうやら眠り姫もお目覚めのようだ。
「おはようございます、アユム様」
「おはよう、ルティナ」
「とても心地の良い目覚めで、驚きました。心と体がこれほどまでに安らいだのは生まれて初めてです。これもすべてアユム様の腕に抱かれていたおかげですね」
めちゃくちゃ可愛い娘だなぁ。朝っぱらからハートを撃ち抜かれてしまったぞ。
まあ、安眠できた功績のほとんどはスリープウール製のベッドのおかげなんだろうけどさ。
彼女の頭をさらりと撫で、その言葉に答える。
「ルティナを抱きしめていたおかげで俺も安眠できたよ、ありがとう。それじゃあ、朝の支度をしようか」
「はい」
さて、今日も一日張り切っていきますかね。
彼女たちに声をかけ、ベッドから立ち上がる。
寝癖を直し、顔を洗って歯を磨いたら今日はルティナに髭を剃ってもらう。
おっかなびっくりな手つきだったものの、横滑りでザックリなんてことはなかった。
安全剃刀なんてものはない世界なのだ。手元が狂った場合、『キレテナーイ!』ってわけにはいかない。
我が妻たちの中にぶきっちょさんがいなかったことに一安心。
そして支度を終えたら大切なルーティーン。朝のキスの時間である。
ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタと熱いベーゼを交わし、ルティナの番になったとき、彼女の顔に腑に落ちないという表情が浮かんでいることに気が付いた。
「どうかしたの?」
「一日の始まりの口づけはロクサーヌ姉様からで、一日の最後に交わす口づけもロクサーヌ姉様と行うのですよね?」
……もしかしてそのことに思うところでもあるんだろうか?
ここで不満を口にしようものなら、ウェブ版のルティナがされたようにロクサーヌとセリーから教育的指導をされてしまうぞ……。
案の定、ロクサーヌとセリーの雰囲気がピリッとしたものとなり、ミリアとベスタは不安そうにこちらを見つめている。
「そ、そうだね」
緊張感が漂っているなか、その問いに答えると、彼女は訝しげな表情で続きを口にした。
「あの、情事の最中、アユム様はわたくしたちとの口づけを求めてくださいましたよね? なので昨晩、最後に口づけを交わしたのはわたくしだと思うのですが、それは問題ないのですか?」
え? ん? あ、そうかも……。
確かに寝る前のキスと言ってるが、それをしているのは行為前。行為の最中もずっとちゅっちゅしてるよな……。
というか、以前は寝る前のキスもロクサーヌからだったのに、いつの間にか一日の最後もロクサーヌとすることになっている。一体いつの間に……。
思わずロクサーヌの方を見ると、彼女はにっこり笑ってこちらを見つめ返してきた。
……どうやらこの娘が順番を操作していたらしい。
優しい娘なのに、こういう抜け目のない部分も持ってるんだよなぁ。
そして彼女はルティナに顔を向ける。
「お情けをいただく際の口づけは勘定しません。私もそこまで口うるさく言うつもりはありませんので、あなたも気にしなくていいですよ」
「ロクサーヌ姉様は寛大なのですね」
ロクサーヌは感動しきりのルティナに対し、鷹揚に頷きを返す。
まったく、狡猾な一番奴隷さんだこと。
セリーとミリアはジト目で、そしてベスタは苦笑まじりにその様子を見つめていた。
これも『いせはれ!』のうちってことでいいのかね?
……それにしても、完全にルティナが俺とのキスの順番に対して不満を抱いていると思い込んでいたぞ。
我ながら思い上がりも甚だしい。恥ずかしー!
ルティナとのキスを終えたところでリビングに移動し、ソファーに腰を下ろしてミーティングを行う。
今日は朝から帝国解放会の昇格試験があるため、早朝の探索は早めに切り上げ、昨晩の残りで朝食を済ませて食休みをとる。
そして時間になったらボーデの宮城へ赴き、昇格試験だ。
我がパーティーの最高到達階層はエンカウント率がハンパない、未開地域の五十四階層。しかもバトルマーメイドとの戦闘については何度も予行演習をしているため、恐るるに足らず。
なんなら早く倒し過ぎないように、時間調整をしなければいけないことの方が辛いまである。
試験終了後の段取りを聞かされていないため、その後の予定は不明だが、まあ午後からはベイルの迷宮討伐に向けての探索かな。
そして探索と修行を終えたら、ルティナの歓迎会だ。
つらつらと予定を告げたところ、ベスタが疑問を口にする。
「早朝の探索はどこに入るのですか?」
ルティナのレベルが上がる可能性の高いベリッサ南か、それとも今後の討伐に向けてベイルに入るべきか。うーん……。
「ベリッサ南の方がいいと思います!」
どちらにするべきか考えていたところ、何かを叩く音と共に大きな声が響き渡る。
反射的に音のした方へ顔を向けると、ローテーブルに両手をつき、こちらへ身を乗り出しているミリアの姿が。
その顔からは常の天真爛漫なものが消えており、どこか必死さがうかがえた。一体どうしたんだろう?
あまりの形相に呆気に取られていると、ロクサーヌがため息を漏らした。
「ミリア、ベイルの迷宮も四十六階層からブラックダイヤツナが出現します。そちらを先に進めても問題ないのでは?」
それを聞いたミリアは、まるでネコミミの上で電球が光ったような表情を浮かべる。
「確かにそうですね……」
なるほど。ブラックダイヤツナのドロップが目的だったのね。
というかこの娘たち、よく迷宮ごとの魔物の配置を覚えてられるなぁ。俺なんてクーラタル以外はさっぱりだぞ。本当にすごいわ。
さて、眉間にしわを寄せて懊悩している魚マニアはともかく、どっちにするべきだろう?
五人で話し合った結果、早朝の探索まではベリッサ南でルティナのレベル上げを行うことにした。悩みに悩んでいたネコミミさんも特に異議はなさそうである。
まあ、昨日の午後上がっているうえに今回は時間も短いため、そう上手くはいかないだろうが、ワンチャン狙いってことで。
「それじゃあ、装備を整えてげんか――」
「ご主人様、お待ちください」
締めの言葉の途中で、セリーからちょっと待ったコールが入る。
なんだ、なんだ? まだ確認事項があるのだろうか?
その旨を問いかけたところ、彼女はその愛らしい顔に憎々しげな表情を浮かべながら続きを口にした。
「スコルというアクセサリーの再現実験を行うためには、ヤギのスキル結晶が一つとコボルトのスキル結晶が三つ必要になりますが、ヤギについては買い注文を取り消しています。仲買人に足元を見られるのは業腹ですが、今日の内に高値で買い注文を入れておくべきでしょう。本当に業腹ですが」
この娘、二回も業腹って言ったぞ……。マジで不本意なんだろうな……。
でも彼女の言う通り、確かにルークに足元を見られるのは気に入らないが、早めに再現実験をしておきたい。
「分かった。それじゃあ、朝食後に商人ギルドへ行ってくるから、君たちは迷宮討伐に向けて英気を養っててね」
女性陣は恐縮していたものの、万全の態勢を整えたいため、ここは押し切らせてもらった。
今度こそミーティングを締めようとしたところ、またもやセリーが声を上げる。
「それから、もう一点」
全員の視線が集まると、彼女は咳払いを一つして話し始めた。
「昇格試験中に身に着ける装備品や、ルティナの立ち回りについて、あらかじめ打ち合わせをしておきましょう」
「わたくしの立ち回りですか?」
セリーはあざと可愛く小首をかしげながら問いかけるルティナに頷きを返す。
「ええ。ご主人様の魔法があるため、このパーティーでのあなたの立ち回りは、味方に守られながら魔法を撃つ一般的な魔法使いとは異なり、魔物と矛を交えながら魔法を使用するというものになります。ですが他人がその立ち回りを目にしたら不信感を抱くことでしょう」
「セリー姉様のおっしゃる通りかもしれません。経験豊富な魔法使いや、歴戦の強者である魔道士ならともかく、迷宮に入りたてのわたくしがそのようなことをしていれば、間違いなく見る者に違和感を与えてしまいます」
なるほど。確かに昨日彼女へ課せられた課題は、固定砲台的な魔法使いとは全然違うもんな。
顎に手をあてて二人のやり取りを聞いていたロクサーヌが、おもむろに声を発する。
「ご主人様の秘密を探ろうとする者が出かねません。ルティナ、試験の際は後方で魔法を放つようにしてください」
「かしこまりました」
固定砲台を許さないスパルタな師匠も、さすがにこの状況では魔物と接近戦をしろとは言わないらしい。
まあ、こういうことに関してはクレバーな女性だしな。
ミリアとベスタも納得したように頷いていた。
そして、セリーはさらに続ける。
「それから装備品についてです。もしかしたら、今後スコルを複数入手できる可能性があります。しかし、このような形状のアクセサリーは確認されていません。そのためこれを目にした者は固有名を持つ装備品だと考えるかもしれません。そんなものを複数所有しているなんて、あまりにも不自然です。念のため人目には触れさせないほうがいいと思います」
あー。そういう問題があるのか。
「同じユニーク装備を持っていると不自然なんですか?」
ミリアが問いかけると、彼女はかぶりを振った。
「歴史上、同じ名称のユニーク装備が確認されたことはありません。ユニーク装備化が起こるのか、また起こったとして同じ名称が付くのかは不明ですが、バトルマーメイドなら難なく撃破できるのです。わざわざ危険な橋を渡る必要はないでしょう」
ふむ。実際のところどうなんだろう?
ボーナスポイント由来のユニーク装備は本当に唯一無二で、同じものが出現することはないのだろうか?
以前検討したことのある、お金を支払った上でパワーレベリングを施し、ジョブの固定をしてもらい、装備品が出た場合はこちらの物とする契約、仮称固定ガチャ。
問題が多いということだったので見送ることにしたのだが、仮にこれを大規模に実行したとして、絶対にダブることはない?
それとも単純にユニーク装備が出現する確率が低すぎて、これまでダブったことがないだけか?
それに融合によるユニーク装備化の方はどうなんだ?
同じものを量産できるのか、それともこちらも一個限定なのだろうか……。
考え込んでいるとベスタが大きく頷いた。
「以前はスコルもない上に、人数も少ない状態でバトルマーメイドを倒せていましたし、大丈夫だと思います」
さらにロクサーヌも同意を示す。
「ええ。こちらも秘匿するべきでしょう。そもそも五十階層のボスごとき、スコルどころか、アスカロンや剛腕のミスリル手甲すら不要です」
いや。それはない。絶対に必要だから。
内心でツッコみつつ、ユニーク装備について考えを巡らせる。
再現実験に失敗したら本当にユニーク装備は同じものが出ない可能性が高いだろうし、そのときは気にすることなく使うとしよう。
問題は量産できたときなんだよなぁ。まさかこんな懸念事項が発生するとは思わなかった。
仮に全員分作れたらどうすればいいんだ?
先ほどの話からすると、六人がまったく同じユニーク装備と思しき物を身に着けているなんて、『すわ天変地異の前触れか!』って感じになるんじゃないか?
これに引っかかるのはほぼすべての装備品を把握している、セリーのような人だけだろう。案外誰も気にしなかったり?
それとも開き直って、『同じユニーク装備ですがなにか?』みたいな顔してれば何とかなったり?
あとはワンチャン装備品じゃなくて単なる装飾品で、パーティーのトレードマークとして身に着けていると考えるかも。
……いや、ないか。それはあくまでもストール状であるスコルやアクセサリーだから成り立つことであって、それ以外の、例えば頭装備や胴装備では絶対にありえない。
どうしたもんかねぇ。
考え込んでいると、ルティナが俺の方へ顔を向ける。
「それでは試験の際にはよりしろのイアリングをお返しいたしますね」
おっと。起こってもいないことをあれこれ悩んでも仕方がない。取り越し苦労ということだってあるだろうしな。
「ありがとう、ルティナ」
ロクサーヌは若干不満そうにしていたものの、最上階のボス相手に縛りプレーをするわけにはいかないため、気付かないふりでやり過ごす。
「それじゃあ、装備を整えて迷宮へ行くとしよう」
愛しい女性たちに声を掛け、ソファーから立ち上がった。
装備を整えて迷宮へ出勤し、いつものように魔物を片付けていく。
これまでとは違い、俺も魔物とやり合いながらの魔法ブッパなので、たびたび攻撃を食らっている。
しかし、回避タンクでありながらヒーラーも兼務しているヴァルキリーが絶妙なタイミングで回復を入れるため、大事には至らない。
ほんと、安定感の申し子である。
防具商人のレベルが49とリーチ状態なため、頻繁にレベルを確認しながら進んでいると、拍子抜けするほど簡単にそのときが訪れた。
防具豪商
効果 体力大上昇 知力中上昇 精神小上昇 器用微上昇
スキル アイテムボックス操作 カルク 防具鑑定
武器豪商とほぼ同じため、特にみるべきところはないものの、これで三十六ジョブまで残り五つ。よきかな、よきかな。
しかも、俺だけではなくミリアの探索者が36、ルティナの魔法使いも24になっていた。いいじゃない、いいじゃない。
一頻り喜びを分かち合ったところで彼女たちに断りを入れ、鑑定を外してジョブ設定にポイントを振り、次にレベルを上げるジョブの選定に移る。
うーん……。今はレベルの上げやすさを優先ってことで、基本職の農夫にしてお……いや? 待てよ?
博徒を得るために賞金稼ぎを30まで上げてるよな? 50に到達するのはこっちの方が早いんじゃないか?
レベル30賞金稼ぎはアユム・タガワでいきます!
若き日のキンケドゥのようなことを考えながらジョブ変更とポイントの振り分けをサクッと済ませ、探索を再開だ。
知力微上昇のパーティー効果を持つ防具商人を外したものの、スコルのおかげなのかワンターンキルは継続中。
この階層ではルティナの魔法の出番はなさそうである。
いずれ与ダメが足りなくなり彼女の手を借りる日がくるだろうから、そのときに備えてレベルアップをしてもらおう。
「ご主人様、そろそろいい時間だと思います」
ひたすら魔物を狩っていると、ロクサーヌからタイムアップを告げられた。
いつもに比べてだいぶ早いなぁ。
興が乗ってきたところなのだが、この後は予定もあるため、まあ仕方がない。
こんなことを考えるようになるなんて、我ながら迷宮探索家業が板についてきたもんだ。
そんなことを考えながら帰り支度を整え、迷宮を後にする。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 頑強のアルバ オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:28/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
詠唱省略:3
キャラクター再設定:1
所持金:4,605,847ナール
夏の19日目