出来立てほやほやのスコルを見ながらどうしたものかと考えを巡らせていると、セリーが口を開く。
「スコルはご主人様とルティナが使うことになるかと思いますが、ご主人様がこれを装備するのは主に魔法攻撃を行う場面であり、カッカラやズケットも身に着けていることになります。他人に装備している品を隠さなくてはならないという状況自体は、現在とそう変わりません」
「確かにそうだね。今だって人に遭遇しそうな場合は装備を変更しているわけだし、あまり変わらないかもしれない」
俺の相槌を受け、彼女は言葉を続けた。
「なので、対外的にはルティナの装備品ということにしておきましょう」
それがいいわな。スコルに付いてる魔法攻撃力二倍、知力二倍、攻撃力二倍、腕力二倍のうち、魔法攻撃力二倍と知力二倍は攻撃魔法か回復スキルを使うときにしか役に立たないし、腕力二倍は剛腕のミスリル手甲で補える。ぶっちゃけ、魔法を使わないときにはそれほど重要度は高くない。
納得していると、困惑顔のルティナが言葉をこぼす。
「加入したばかりのわたくしが固有名を持つ装備品をお預かりしてもよいのでしょうか……」
その様子を見たロクサーヌは、微笑みを浮かべながら彼女へ話しかけた。
「あなたはこのパーティー唯一の魔法使いなのです。スコルを使用するのはあなたをおいてほかにありません」
ベスタとミリアもそれに続く。
「ロクサーヌさんの言う通りです。ルティナ、気にしなくていいからね」
「そうそう。それにご主人様とセリーさんなら絶対に私たちのユニーク装備だって用意してくれるはずだから!」
このネコミミ娘、とんでもないプレッシャーをかけてきおった。
チラリとセリーの方をうかがうと、彼女も突然重圧を背負わされたことで顔を引きつらせている。
大丈夫。今まで通りスキル結晶融合の際は、パーティー全員で話し合って責任を分散するぞ。俺たちだけの責任にはならないから安心してくれ。
その後、ルティナの装備していたよりしろのイアリングを、ヒーラーであるロクサーヌにスライドするかが議題に上がったものの、そうなるとアクセサリー以外の箇所に身代わりスキルのついた装備品を身に着けなくてはならなくなる。
しかし現在彼女が装備しているのはユニーク装備であるスヴェルとセブンリーグブーツ、さらに空きスロットのないティアラと剛腕の古代樹手甲、そしてスロットを温存しておきたいアルバ。スキル結晶の融合をする余地がない。
他の娘の装備品と入れ替えるかという意見も出たが、そこまでする必要はないだろうということで話はまとまった。
まあ、今の装備でも全然問題ないし、最善の組み合わせを追求するような段階じゃないってことで。
よりしろのイアリングをルティナから受け取り、装備を整えるために二階へ上がる。
早朝の探索でレベルが上がったミリアがフランベルジュを装備できるか試していたが、残念ながら今回も手に不自然な重さがかかっているということだった。
しかし、それでも確実に扱いやすくなっているということなので、次かその次あたりには装備可能になってるんじゃなかろうか?
……それにしても、ロクサーヌがミセリコルデを装備可能になったのは巫女のレベルが32になったときだったはず。
現在セリーの鍛冶師が37で、ミリアの探索者が36。ここまで違うものなのかね?
いや。もちろんその装備品自体が要求するレベルやパラメーターの違いがあるだろうし、ジョブや種族にも左右されるんだろうけど、本人の能力によるところも大きそうだよなぁ。
ほんと、ロクサーヌさんは規格外なお人やで。
そんなことを考えつつ、一階へ降りる。
いつものように顔パスでハルツ公の執務室へ移動したところ、部屋の中には主である公爵とその奥方、さらに彼のパーティーメンバーであるフィーネとクラウス、探索者の男。そしてゴスラーが待ち構えていた。
俺たちの姿を見たハルツ公はその整った口元をニヤリと歪める。
「アユム殿、よく参った。この後はその方らの戦いぶりを確認させてもらうゆえ、存分に実力を示すがよい。期待しておるぞ」
嫌な上司みたいな圧を掛けてくるなぁ。
でもまあ、バトルマーメイド如き何するものぞ。ロクサーヌがいれば確実に完封できるし、余裕のよっちゃんなんですけどね。
「ご期待に沿えるかは分りませんが、閣下の領地に湧いた迷宮は確実に始末してご覧に入れます」
そう口にしたところ、我がパーティーメンバーの顔に好戦的な表情が浮かぶ。
公爵家の家臣たちはその言葉に驚いているようだが、ハルツ公は俺たちの姿を見まわし再び笑みを浮かべた。
「なるほどな。ロクサーヌ嬢が装備しておるのはスヴェルとセブンリーグブーツ。それから武器は携えておらぬがアユム殿は聖剣アスカロンを持っておったはず。さらにルティナ嬢が身に着けておるその毛皮、それも固有名を持つ装備品であろう?」
あー。やっぱ見る人が見ればすぐバレるよなぁ。
彼の問いかけに答えようとしたところ、カシアの声が上がる。
「ルティナ、アユム様から固有名を持つ装備品を賜ったのですか?」
ルティナはその言葉に頷くと、お腰に巻いたスコルを撫でながら微笑んだ。
「はい。こちらは四つのスキルが付いたアクセサリーであるスコル。アユム様はこちらをわたくしに預けてくださいました」
その瞬間、複数の息を呑む音が耳に届く。
「ルティナ嬢に預けるということは魔法使い用のスキルが付いているのであろう? 差し支えないのであれば……スコルであったか? そのアクセサリーについているスキルを聞かせてはくれまいか?」
うーん……。この人たちはすでにスヴェルとセブンリーグブーツのスキルを知っている。おそらくアスカロンについてもルーク経由で把握しているだろう。
それなのに寄こせと言われたことはない。というかスヴェルに関して彼と新セルマー伯爵からもらったものだ。
きっとスコルのスキルを聞いたところで、奪い取ろうとすることはないはず。
それに俺はハルツ公爵派閥に肩までどっぷり浸かっているし、ルティナの弟妹だって彼に預けているわけで、生涯派閥を抜けるつもりはない。オヤビンとは既に一蓮托生。
このくらいは開示していた方が信用を得られるかも。
そんなことを考えつつ視線を向けると、五人も笑みを浮かべながら頷きを返す。
どうやら彼女たちも同意見らしい。でもまあ、一応保険は掛けておくか。
「ここだけの話にしていただきたいのですが、こちらは我がタガワ家に代々伝わる由緒正しいアクセサリーであるスコル。これには魔法攻撃力二倍、知力二倍、攻撃力二倍、腕力二倍のスキルが付いております」
そう口にしたと同時に部屋に悲鳴のような声が響き渡る。
「なんと!? そのような装備品を持っていたと申すのか!?」
「ルティナにそのような装備品を!?」
勢い込んで話しかけてくる公爵夫妻に対し、家臣の皆様方は訳の分からない生物を見るような眼をこちらへ向けている。
……わお。大混乱だぞ。またオレ何かやっちゃいました?
しばらくして混乱が収まったのか、ハルツ公は大きく息を吐きだしつつ言葉をこぼす。
「なるほどな。それだけの装備品を用意したのであれば、先ほどの言葉にも得心がいくというものよ。これまでパーティーに欠けておった魔法使いが加入しただけではなく、魔法ダメージを大きく引き上げる算段も既にその方の手中にあったということか。まこと良きタイミングでルティナ嬢が加入したものだな。まさに運命と言うほかあるまい」
いえ。全然違うっす。ボス戦におけるダメージソースは複数の倍率アップスキルを重ねがけした物理攻撃。メインアタッカーはルティナではなく、あちきでありんす。
内心で突っ込んでいると、カシアが表情を引き締めルティナに話しかける。
「これほどの装備品を託されたのです。あなたの魔法でアユム様をお支えするのですよ」
「はい、姉様。ですが、アユム様の栄達をお支えするのはわたくしだけではございません。わたくしたち五人でお支えいたします」
「まあ」
カシアは目を見開き、口元を覆い隠した。
ほんと、可愛い人妻だなぁ。
しかし、すぐに女神のようなかんばせにいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ふふ。そうなのですね。アユム様? これほどの女性たちに支えられているのです。立身出世は約束されたようなものですね?」
その言葉を聞き、ハルツ公もくつくつと笑い声を漏らす。
「うむ。アユム殿であれば叙爵はもとより、一代での陞爵すら夢ではあるまい」
「ええ。本当に」
この夫婦、無茶苦茶言いおるで。迷宮討伐をして男爵になってから、さらに子爵にステップアップするってことだろ? そんなん無理に決まってんじゃん。
しかし、俺の内心をよそにロクサーヌとセリーが声を上げた。
「はい。ご主人様であればそう遠くないうちに、陞爵をも成し遂げることでしょう」
「信じられないような力をお持ちですからね」
さらにミリアとベスタもそれに続く。
「ご主人様だけじゃなくて、お姉ちゃんもすごいですからねー」
「そうですね。ご主人様とロクサーヌさんがいればどんなことがあっても大丈夫だと思います。それにルティナの魔法も加わりましたから」
現状、あまり役に立っていないルティナの魔法にさりげなくフォローを入れるベスタさん。
だが、本人もその自覚があるのだろう。微妙な表情を浮かべながらルティナも口を開く。
「わたくしの魔法がどれほどお役に立てるのかはわかりませんが、できることを精いっぱいいたします」
公爵家の人たちはその言葉を謙遜していると受け取ったのか、微笑ましげな表情を彼女へ向けていた。
それぞれのパーティーに分かれて、ボーデの宮城から帝国解放会のロッジへ飛ぶと、総書記のセバスチャンだけではなく、会長のエステルと副会長のブルーノ、それから見知らぬ壮年の男とその後ろに控えている者たちの姿が目に映る。
白髪が若干混ざった茶色い髪に鋭い眼光、俺より二十センチ以上高い身の丈に、まるでアメフト選手のようなガッチリとした体格。
フル装備なことも相まって、歴戦の戦士感がハンパない。
今まで顔を合わせたことはないよな? 誰なんだろう?
疑問を覚え、鑑定を使おうとしたところ、機先を制してエステルが話しかけてくる。
「よく来た、アユム。まさかこれほど早く、しかも飛び級で昇格試験を受けるとは思わなかったぞ」
その言葉に続き、男臭い笑みを浮かべながらブルーノが口を開いた。
「大言に違わぬその実力、実に見事。卿であればいずれ大望を成し遂げることだろう」
おお! ブルーノ! 我が心の友よ! 卿と我で交わしたあの誓い、必ずや成し遂げてみせようぞ! 手始めにハルバーの迷宮を更地にしてくれるわ!
テンションアゲアゲで決意を新たにしていたところ、エステルが見知らぬ男を掌で示す。
「顔を合わせるのは初めてだろう? 今回、試験官を務めるヴォルフだ」
次にこちらへ手を向ける。
「この者はアユム。魔法使いなしで迷宮討伐を成し遂げんとする剛の者。その名をよくよく覚えておくが――」
「いや。それなのだがな」
ハルツ公が彼の言葉を遮った。
「つい昨日のことなのだが、アユム殿のパーティーに魔法使いが加わった」
「なんだと?」
それを聞いた瞬間、俺たちとハルツ公のパーティーメンバー以外の顔色が変わる。
「よもや迷宮討伐に際し、外部から人を招いたのではあるまいな?」
冤罪っす。俺はこの娘たち以外とパーティーを組む気はないっての。
釈明した方がいいんだろうか?
すると、公爵は表情を引き締め、反論を口にした。
「誤解するでない。その方らもセルマー伯爵家については聞き及んでおろう? アユム殿にはその助力を乞うておったのだ」
公爵の言葉に全員の顔がルティナの方に向けられる。
「なんという美貌! いや、その娘だけではない! 他の娘も聞きしに勝る美しさ! アユム! お前は俺の友ではないのか! なぜだ!? なぜお前だけ!?」
いや、そんなことを言われましても……。
その場にいた全員がブルーノに戸惑いや呆れの表情を向けている。
この人のせいで緊張感がどっかいっちゃったなぁ。
ハルツ公やカシアがルティナの事情や、俺は既にハルツ公爵派に属している旨の説明をしているのを見ていると、ふと気が付く。
そういやヴォルフに鑑定をかけてないわ。んじゃ、鑑定っと。
ホーホヴァイデ子爵ヴォルフ・ハングバッハ・ツィーゲンアルム 男 45歳
剣豪Lv48
装備 激情のオリハルコン剣 オリハルコンの額金 頑強のミスリスメッシュウェア 剛腕の聖銀手甲 耐火の竜燐靴 身代わりのミサンガ
頭に浮かぶ情報を確認した瞬間、度肝を抜かれた。
子爵って! 剣豪レベル48って! 装備もヤベーぞ!
情報量の多さに声を上げそうになってしまうが、何とかそれを抑え込み、その後ろに控えている者たちにも鑑定を使用していく。
聖騎士、探索者、冒険者、魔道士、禰宜。全員男で高レベル、おまけに身に着けている装備品もガチガチのガチ。
おそらく彼の領地に発生する迷宮の最前線を張っている騎士団員たちなのかもしれない。
俺のようなチート野郎を除いた場合、トップクラスの実力を有しているのではないだろうか?
……もっとも、俺のキャラクター再設定がなかったところで、ロクサーヌ師匠がいる以上、我がパーティーが世界最強なことは揺るがないのだが。
なんなら、彼女一人でヴォルフのパーティーを制圧することも容易いだろう。毎日の修行で俺たちにやっているように……。
改めて最愛の人のバグキャラっぷりに慄いていたところ、話が終わったのかヴォルフが俺の方へ顔を向ける。
「貴公の名は会員のみならず、様々な方面からも聞き及んでいる。アユムよ、随分と暴れまわっているようだな」
はあ? 暴れまわる? 控えめで慎ましやかなこの俺が?
どこのどいつだ、そんな出まかせを触れ回っている奴は。開示請求してやるぞ。
心当たりが一切ない俺を見て、彼はハリウッドスターのような顔に武骨な笑みを浮かべた。
「セブンリーグブーツが出品されたオークションでは弟が世話になった。根こそぎのアユムよ」
ん? えっ!? この人、バラダム家のオークションに参加してた豪商の兄貴!?
呆気に取られていると、彼はそのまま言葉を続ける。
「貴公の一挙手一投足は商人たちの注目の的らしいぞ。まあ、叙勲を目指すのであれば遅かれ早かれそうなるのだ。あまり気にすることはない」
あの、隠さないといけないことが山ほどある身だし、めちゃくちゃ気になるんですが……。
いやでも、彼が言う通り、貴族になった場合の注目はその比じゃないだろうし、気にしない方がいいのか?
妻たちに視線を向けたところ、得意げな顔でこちらを見つめている。
どうやら秘密を隠さなくてはいけないことより、貴族並みに注目を浴びていることで誇りをくすぐられているらしい。実に可愛い。
「では、これより試験場所であるハルバーの迷宮へ移動するぞ」
ヴォルフがそう告げると、エステルとブルーノが口を開く。
「アユムであれば問題あるまい」
「うむ。我が友よ、卿の野望に至る第一歩を踏み出すがいい」
どうやらこの二人は見学しないようだ。
「アユム様のご武運をお祈りしております」
そして、セバスチャンが頭を下げた。
よっしゃ。いっちょ、やってやりますか!
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
ロクサーヌ ♀ 17歳
巫女Lv40
装備 スヴェル ティアラ アルバ 剛腕の古代樹手甲 セブンリーグブーツ 身代わりのミサンガ
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv37
装備 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
探索者Lv36
装備 オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv32
装備 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル ダマスカス鋼のガントレット オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
ルティナ ♀ 15歳
魔法使いLv24
装備 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 身代わりのオペラグローブ バックルシューズ スコル
BP振分 残BP:31/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
キャラクター再設定:1
所持金:4,482,247ナール
夏の19日目