異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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321 連携

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮

五十階層

 

 

 

 

 

 ハルバーの迷宮へ飛び、待機部屋に一番近い小部屋に移動すると、そこには魔物が湧いていた。

 

 以前きたときから十数日が経過してるのだ。そりゃリポップもしますわな。

 

 もちろん今更この程度の魔物に後れを取るはずもなく、恙なくクリアリングを終えたところでミリアがシュバッと右手を上げる。

 

「ご主人様。それじゃあ、迎えに行ってきますね」

 

 彼女はそう言うとパーティーから離脱し、ダンジョンウォークの呪文を唱え、ゲートが開くと躊躇なくそれに飛び込んでいった。

 

 ほんと、度胸の据わった娘だなぁ。

 もっとも、移動先は一階層の入口だし、魔物に襲われる心配はない。ビビる方がおかしいのだろう。

 

 ……でも、俺だったら一人で移動するのは勘弁してほしいなぁ。

 

 そんなことを考えていると、ロクサーヌとセリーが話しかけてきた。

 

「ご主人様。予定通り、公爵様たちの目の前で行う雑魚戦では武者と剣豪のジョブはつけないでくださいね」

「武者と剣豪には会心の攻撃があります。万が一それが連続で発動して二、三回の攻撃で倒すところを見られてしまえば違和感を与えてしまうでしょう」

 

 はいはい。分かってますとも。ビビりの俺でもさすがにそんなことはしませんって。

 

 彼女たちの言葉を承諾すると、ベスタが言葉をこぼした。

 

「雑魚戦が終わったら、最上階のボスと戦うのですね……。私がそのようなパーティーに加わるなんて、想像もしていませんでした……」

「わたくしもベスタ姉様と同じように迷宮に入り始めてからまだ日が浅いため、高揚感もありますが、正直戸惑いの方が大きいです」

 

 ベスタとルティナは顔を見合わせ頷き合っている。

 身長差があるため、何とも微笑ましい光景だ。

 

 でもまあ、彼女たちの言う通りなんだよなぁ。ぶっちゃけ俺も驚いてるもん。

 今日は夏の十九日目。原作だとルティナ加入どころか、帝国解放会に入会すらしていない状態だ。

 さらにウェブ版でも書籍版でも、夏の後半になってもミチオは迷宮を倒していない。

 まさかこんなにスケジュールを巻くことになるなんてなぁ。原作知識様様である。

 

 

 

 他愛のない雑談をしていると壁にダンジョンウォークのゲートが開き、愛らしいネコミミが生えてきた。

 そして、明朗快活な声が小部屋に響く。

 

「お待たせしましたー」

 

 花丸笑顔のミリアがイケメン二人を従え、ゲートから姿を現した。

 一人は線の細いエルフだし、もう一方は清潔感のあるハンサムガイ。改めて見るとどちらもかなりの美形である。

 こういう風にパーティーを組んで一緒に戻ってくるのを、目の当たりにすると……。くっ。

 

 信じて送り出したネコミミ彼女がドリカム編成を組んで戻ってくるなんて……。脳が、脳が破壊されてしまう!

 

 いやまあ、彼女たちが外見の良さにつられて俺を捨てるなんて欠片も疑ってはいないのだが、それはそれとして嫌なものは嫌だ!

 我ながら独占欲の強い男である。ロクサーヌのことをどうこう言えんぞ。

 

 一人で懊悩していると彼らはさっさとパーティーを解除し、ダンジョンウォークでこの場を後にした。

 

 それを見届けたところで、ベスタがミリアに声を掛ける。

 

「お姉ちゃん、お疲れさまでした」

「このくらいなんでもないよー」

 

 それを合図にフォーメーションの最終確認を始めた女性陣を見ながら、どうでもいいことが頭に浮かぶ。

 

 あいつら、めちゃくちゃ可愛いネコミミ娘とパーティーを組んで送ってもらったってのに、ドギマギしている様子が欠片もなかったぞ。淡白にもほどがあるだろ。

 俺なら間違いなく挙動不審になるぞ。どうしてあんなにクールでいられるんだろう? キンタマついてんのかね?

 

 

 

 アホなことを考えていると再びゲートが開き、二つのパーティーがどやどやと小部屋に入ってきた。

 ハルツ公は俺たちの姿を確認し、試験官殿に声を掛ける。

 

「アユム殿らは用意が整っておるようだ。ヴォルフよ、試験を始めようではないか」

 

 抜き身の剣を携えているのだ。準備万端なのは一目瞭然だわな。

 

 というかデュランダルやフラガラッハもそうだが、鞘がないのはどうにかならないもんかね?

 防御力無視が付いた武器を抜き身で持つのは怖すぎるぞ。

 もしエクスカリバーというユニーク装備があったらどうなるんだろう? エクスカリバーの真価は鞘の方にあるんだよな? ない場合は性能が半減するんじゃないか?

 でもまあ、名前の元ネタってだけで、別にそれそのものというわけじゃないし、どうでもいいと言えばどうでもいい。

 

 思索を巡らせている間にヴォルフも俺たちを見回した。

 

「確かに問題なさそうだな。では、まずは待機部屋に行く前に戦闘の様子を確認させてもらうことにしよう。パーティーメンバーに狼人族がいるのだ、魔物など簡単に見つけ出せるだろう?」

「ああ。彼女であればそのくらい造作もない」

 

 ふふん。ロクサーヌの鼻はマジですごいからな。そのおかげで魔物を効率的に狩りまくってレベル上げと金策が捗る捗る。

 美人で可愛くスタイル抜群で声と性格まで最高な上に、鼻を使った索敵までこなす世界一の女性だぞ。恐れ入ったか。

 

 内心で鼻を高くしていると、世界一の女性が輝くような笑顔をこちらへ向ける。

 

「お任せください。それではご案内いたします」

 

 あら、可愛い。

 

 ブンブンと尻尾を振りながら動き始めたお嬢様を先頭に、小部屋の外に飛び出した。

 

 

 

「ご主人様、この先に魔物がいます」

 

 ロクサーヌはそう言って足を止めた。

 

 オーケー。五十階層の魔物相手だし気負う必要はないが、褌を締めなおさなければ。

 

 腹にぐっと力を入れ、見学者たちの方へ振り返りながら言葉を発する。

 

「俺たちはこのまま進み、戦闘を開始する。ブロッケンたちはある程度距離を取ってついてきてくれ」

 

 ハルツ公はワクワクが抑えきれないというような表情を浮かべながら口を開いた。

 

「うむ。その方らの戦い振り、しかと確かめさせてもらおう」

 

 他の面々も興味深そうにこちらの様子をうかがっている。

 

 きっと、ロクサーヌとミリアの戦闘を見て度肝を抜かれるんだろうなぁ。

 

 うちの娘たちの方に視線を向けたところ、こちらは殺る気満々マンドリル。

 どうやら気合は十分なようで、全身から剣呑な雰囲気を漂わせていた。

 ほんと、頼りになる娘たちだこと。

 

「では、いくぞ」

 

 通路にそれぞれ魅力の違う美しい声が響き渡り、さらにロクサーヌは呪文を唱える。

 

「心通わすともがらの、幾重に織りし瑞垣の、方陣、障壁展開」

 

 言葉が終わると同時に、淡い光が俺たちの体を包み込んだ。

 

「障壁展開? まさかそのようなスキルの付いた装備品を所有していたとは……」

 

 思わずといった様子で声を漏らすヴォルフだけではなく、彼のパーティーメンバーも驚愕の表情をロクサーヌに向けている。

 いや、より正確に言うのなら、視線の先は彼女の持っている盾。

 明らかに一点ものだと分かる神々しさを放つ装備品なのだ。そりゃ一目瞭然だよな。

 

 事情を知っている公爵家の面々は何も言うつもりはないらしく、華麗にスルーを決め込んでる。

 まあ、つっこまれても面倒なんで俺たちもスルーするんですけどね。

 

 んじゃ、いきますか。

 

 

 

 通路を進むと、ほどなくして魔物とエンゲージ。

 逆側からこちらへ向かってきたのはボトルマーメイド、オイスターシェル、マダムバタフライが二匹ずつ。

 

「サンドストームを!」

「かしこまりました!」

 

 セリーの指示が飛ぶとルティナが詠唱を開始し、その声に合わせるかのようにロクサーヌが宙を舞い、ミリアが地を駆けていった。

 

 さすが我がパーティーの誇るツートップ。いつもながらたいしたものだ。

 

 一方、移動速度に劣る俺、セリー、ベスタは彼女たちに遅れながらもそれに続く。

 

 ロクサーヌとミリアが魔物を翻弄し、ヘイトを取ったルティナへ向かおうとする奴はベスタが阻み、セリーは要所要所で強権の聖槍を突き入れてスキルの詠唱を潰していた。

 

「ハアッ!」

 

 メインアタッカーたる俺は、彼女たちが引き付けている魔物にバックスタブを叩き込んでいく。

 そしてリキャストタイムが明けると、ルティナが再び魔法を叩き込んだ。

 

 なんと見事な連係プレー。自分たちの成長を改めて感じてしまうな。

 五十階層程度ではオーバードライビングにも、トリプルスペルにも、ダブルアタックにも頼る必要がなくなっている。

 いやまあ、複数ジョブと勇者のパーティー効果でパラメーターは盛り盛りだし、装備品は反則そのものだと言われれば返す言葉もないが、成長していることは明らかだ。

 

 俺たちは強い!

 

 ヘイトを取らないように気を付けつつ、意気軒昂と魔物の背中へ攻撃を叩き込む。

 

 

 

 恙なく戦闘を終え、拾い集めたドロップアイテムをしまっていたところ、見物人たちがぞろぞろと近づいてくる。

 そして公爵閣下は興奮した様子で声を張り上げた。

 

「その方らの戦い振りは実に見事なものであった! 特にロクサーヌ嬢の働きよ。壁や天井、さらには魔物の体までもを足場にした、華麗でありながら変幻自在な動きは言葉にならぬ!」

 

 ふふん。せやろ? うちのロクサーヌは超すごいんだぜ?

 

 内心で鼻を高くしていたところ、試験官殿が俺たちを見回す。

 

「魔法の威力とアユムの圧倒的な攻撃力もさることながら、前衛二人の回避能力と竜人族の女性の安定感。そして、的確に詠唱を潰していたそちらの女性。本当にバランスの取れたいいパーティーだな」

 

 ゴスラーも感心したように口を開く。

 

「実際にこの目で見て合点がいきました。これであれば、たとえ魔法使いがいなくても五十階層の待機部屋へたどり着くのも道理というものです」

 

 カシアはルティナに近づき、柔らかく微笑みながら声をかけた。

 

「ルティナ、素晴らしい働きぶりでした。あなたの魔法は間違いなくアユム様の大きな力となることでしょう。この調子で励むのですよ」

 

 一瞬、微妙な表情を浮かべたものの、彼女はすぐにそれを拭い、笑顔で応じる。

 

「はい。わたくしたちはこれからもアユム様をお支えいたします」

 

 ……きっと、自分の魔法と俺のボーナス呪文込のトリプルスペルを比べたんだろうなぁ。

 

 迷宮内だというのに、公爵家御一行も試験官殿たちも、先ほどの戦闘がいかに常識外れだったかを語り合っていた。

 うちの娘たちは得意気な表情で、その称賛を浴びている。

 ほんと、可愛いわぁ。

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮五十階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に入ったところで、フィフスジョブとシックススジョブを武者と剣豪に変更し、遊び人のスキルをバッシュに変更する。

 さらにキャラクター設定を開いて詠唱省略を付け、クリティカル率二十五パーセント上昇までポイントを振っておいた。きっと短期決戦には絶大な威力を発揮してくれるはず。

 そして、ボス戦前のお約束。

 

「装備は問題ないか?」

「問題ありません」

 

 ロクサーヌの返事に合わせ、四人も頷いた。

 

「回復薬はどうだ?」

 

 彼女たちは一斉にリュックの中身を確認し、それが終わるとセリーが口を開く。

 

「滋養剤、滋養錠、万能丸。すべて揃っています」

 

 オッケー。次だ。

 

「身代わり装備は着けているな?」

 

 問いかけるとロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタは左の足首を、ルティナだけはオペラグローブを前に出した。

 ……まあ、鑑定で一目瞭然なんだけどね。

 

 というかルティナは昨日加入したばかりだというのに、完全にうちのルーティーンに馴染んでんなぁ。

 実に空気の読めるお嬢様である。

 

 まあ何はともあれ、システム、オールグリーン!

 

「では、ハルバーの迷宮を叩き潰すとしよう」

「かしこまりました!」

 

 我が妻たちの言葉がピタリと重なった。

 テンション上がるわぁ。

 

「貴公のパーティーでは常にそのような確認をしているのか?」

 

 問いかけてきたヴォルフに答えようとしたところ、ハルツ公に機先を制される。

 

「以前、待機部屋で鉢合わせた折にも、この者らは確認を行っておった。まこと用意周到なものよ。その心掛けがあってこその力なのであろう」

「ふむ。であれば我がパーティーで取り入れるのもよいかもしれんな……」

 

 安全衛生管理は大事だからな。指差呼称は是非取り入れてくれたまえ。

 ぶっちゃけこれのおかげで助かったことがあるのかは不明だが、そう感じていないことこそが成果と言えるだろう。準備不足や確認不足を実感したときにはもう遅いのだ。

 俺には安全衛生推進者として彼女たちを守る義務があるからな。

 以前は眠気との戦いだった、安全衛生推進者養成講習も今なら真剣に取り組める気がする。

 

 気合を入れなおしていると、カシアが張り詰めたような表情で俺たちの前に進み出た。

 

「アユム様、皆様。ルティナは迷宮に入るようになってから日が浅く、まだまだ至らないことも多いでしょう。どうか、どうか、この子のことをよろしくお願いいたします」

 

 そう言うと彼女は深く頭を下げる。

 

 ……公爵夫人が自由民と奴隷に頭を下げるのだ。その覚悟はいかばかりか。その想いを無碍にできるはずがない。

 

「ルティナのことは私たちにお任せください。必ず無事に戻ってくるとお約束いたします」

 

 俺の言葉にロクサーヌたちも笑みを浮かべながら頷いた。さらにネコミミ娘が親指を立てた拳をカシアに向ける。

 

「任せてください!」

 

 ミリアさん? サムズアップはやめようね? 相手は公爵夫人だからね?

 

「ミリア!」

「いけません!」

 

 諫めようとした俺に先んじ、ロクサーヌとセリーから 責の声が飛び、ミリアは耳を伏せ首をすくめた。

 

 しかし、カシアは彼女たちの様子を見てクスクス笑いながら言葉を紡ぐ。

 

「よいのです。帝国解放会に世俗のしがらみを持ち込むのはご法度。先ほどのアユム様のお言葉の方こそ誤りと言えましょう。わたくしにも公爵やヴォルフ様に対するように接してくださいませ」

 

 いやまあ、その通りなのかもしれないけど、俺はあなたの神々しいオーラに当てられたんですけどね。

 

 あいまいな笑みでやり過ごし、ニヤニヤしながらこちらを見つめているハルツ公とヴォルフの方に顔を向ける。

 というか、真面目そうに見えるがこの子爵、割と茶目っ気のあるタイプなのか?

 そういや、さっき根こそぎのアユムとか言ってた気がするぞ?

 

 ……まあいいや。そんなことより、今は最上階のボス戦だ。

 

「では、俺たちは最上階のボス部屋に入るので、よろしく頼む」

 

 そう告げると彼らは表情を引き締めた。

 

「うむ。アユム殿らであれば問題あるまい。外で顔を合わせるのを楽しみにしておるぞ」

 

 ハルツ公の言葉に頷き、ヴォルフが朗々と述べる。

 

「これより帝国解放会第三位階昇格試験を開始する。弛まぬ努力を重ね、日々磨き上げたその実力を存分に発揮するのだ」

 

 おうともよ!

 

「ああ! では、いってくる!」

 

 俺たちは肩で風を切り、威風堂々とボス部屋へと続く扉を潜る。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 武者Lv9 剣豪Lv8

装備 聖剣アスカロン 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:13/160

ワープ:1

クリティカル率二十五パーセント上昇:31

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

MP回復速度五倍:15

鑑定:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

キャラクター再設定:1

 

所持金:4,482,247ナール

 

夏の19日目

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