意気揚々とボス部屋に乗り込んだものの、相手はこれまで何度も予行演習を重ねたバトルマーメイド。
しかも予行演習時とは異なり、本番の今はスキルが解禁されているのだ。戦意は高くとも気負いはまったくない。
扉が閉まったと同時にミッションスタート。各々が自分の役割を果たすべく、一気に走り出した。
バトルマーメイドLv50
バトルマーメイドLv50
ボトルマーメイドLv50
ボトルマーメイドLv50
ラッキー! 雑魚も同じ系統だ! 弱点が揃ってるぞ!
砕岩剣
オーバードライビング
出し惜しみをするつもりは一切ないので、初手から属性付与とクイックムーブの札を切る。
引き延ばされた時間の中、ボトルマーメイドの後ろへ回り込み、スキル名を念じながらガラ空きの背中へアスカロンを叩き込んだ。
バッシュ
バッシュ
スマッシュ
狙い通り、その一発で奴のHPは全損し、体の縁がぶれる。
明らかにオーバーキルではあるものの、万が一がないとは言えない。出し惜しみはなしだ。
返す刀をもう一方のボトルマーメイドへ振るう。
バッシュ
バッシュ
スマッシュ
アスカロンが体を通り抜けたと同時に、奴の存在が揺らいだ。
オッケー! 次!
ロクサーヌが引き離している方は無視してセリー、ミリア、ベスタが対峙しているバトルマーメイドへ攻撃を開始する。
俺たちの担当であったバトルマーメイドは属性攻撃とトリプルアタック、それにクリティカル率二十五パーセントのおかげで、一回目のオーバードライビングが切れる前に撃破済み。
ドロップアイテムを回収した後は、ロクサーヌの絢爛舞踏を見学だ。
「ロクサーヌ姉様は本当にすごいですね……」
ロクサーヌとバトルマーメイドが繰り広げている空中戦を見ながら、ルティナは呆けた顔で呟きを漏らす。
一度目にしているとはいえ、どうやら彼女の常識外れの動きに耐性はついていなかったようだ。
すると苦笑交じりでベスタとミリアが口を開いた。
「あんなことができる人なんて他にはいないでしょうから、ルティナが驚くのも無理ありません」
「そうだよねー。お姉ちゃんの動きはちょっと真似できないかなー」
彼女たちの言葉に大きく頷き、セリーも同意を示す。
「正直、ロクサーヌさんの動きとご主人様の能力は訳が分かりません」
セリーさんや。私をあの戦女神と同じカテゴリーに入れないでもらえます?
ロクサーヌは詠唱を潰す以外の攻撃を控え、ワクワクした表情でバトルマーメイドの繰り出す攻撃を延々とかわし続けている。
めちゃくちゃ楽しんでんなぁ。装備品が壊れるかもしれないというプレッシャーは、これっぽっちもないらしい。
人魚と戯れているイヌミミ美女という、ファンタジー感あふれる光景に心を奪われていると、セリーが話しかけてきた。
「ご主人様、そろそろ頃合いかと」
うん? もう二十分経ったのか。
「では、終わりにしよう」
天井付近で丁々発止とやりあっているロクサーヌに、大声で呼びかける。
「おーい! そろそろ時間だー! バトルマーメイドを叩き落としてくれー!」
彼女は小さく頷くとこれまでの自重を放り出し、攻撃に転じた。
複数の手でも持っているのかと錯覚するほどの速度で剣戟を放つその様は、さながら阿修羅の如し。八部衆からスカウトがきてもおかしくはない。
ほんと、武神っぷりが極まってんなぁ。
まあいいや。それじゃあ、こっちも準備をしよう。
「ルティナ、魔法を頼む」
「かしこまりました」
まあ必要ないだろうが、念には念を、ってね。
ルティナの詠唱を聞きながらロクサーヌの方に目を向けると袈裟懸け、斬り払い、突き。剣を激しく振るっている。
そしてまるでコンボ攻撃の最後の大技のように、ミセリコルデを天高く振りかぶった。
強烈な一撃を食らったバトルマーメイドはそのまま地面に激突し、二度、三度とバウンドしながらこちらへ転がってくる。
「サンドストーム」
さらに追い打ちをかけるようにルティナの声がフロアに響くやいなや、魔物の体を大量の砂が覆い、まるで意志でも持っているかのように、轟音を立てながら激しく動き回り始めた。
よし。それじゃあ、とどめといこう。砕岩け――。
しかし、そんな状態だというのにバトルマーメイドはバネのように跳ね起き、魔法を放ったルティナの方へ飛んでいく。
やばい! 止めないと!
突然の攻撃に狼狽しながら何とか動き出そうとしたものの、それに先んじて魔物とルティナの間に大きな体が差し込まれる。
それを目にした瞬間、思わず声を発していた。
「ベスタ!」
金属が破壊される音が響き渡り、複数の悲鳴が上がる。
オーバードライビング
くそったれ!
ベスタに対する心配と、自分に対する怒りで頭がどうにかなってしまいそうになるが、優先順位を間違えるわけにはいかない。
砕岩剣
装備品を破壊したバトルマーメイドへ駆け寄りながら属性付与をかけ、スキル名を念じつつ全力でアスカロンを叩きつける。
「ベスタ! 大丈夫!?」
バトルマーメイドが倒れ、オーバードライビングの効果が切れると、ミリアが声を上げながらベスタに駆け寄るのが見えた。
しかし、彼女は破損したガントレットで柄だけになった剣を握りしめ、呆然と立ち尽くしたままだ。
「怪我をしたのですか!?」
「痛いところはありませんか!?」
ロクサーヌとセリーも呼びかけるが、まったく反応を示さない。
常の柔らかな笑みはどこにも見られず、健康的な小麦色の肌はそれと分かるほど血色が悪かった。
おそらく自分のせいだと思っているのだろう、ルティナも血の気の引いた顔を強張らせながら彼女を見つめている。
今回のことは完全に俺の失態だ。
深く考えることなくルティナに魔法を撃たせてヘイトを向けさせたこと。慢心から指示を出した直後に攻撃へ移らなかったこと。バトルマーメイドが襲い掛かってきたときに動揺して即座にオーバードライビングを使えなかったこと。どれも言い訳のしようもない。
徹頭徹尾、俺の間抜けさが招いたことであり、この娘たちが気に病むことではない。
「ベスタ。体は大丈夫?」
近づいて尋ねたところ、まるで糸が切れたかのように膝をつく。
そして顔を歪め、ぽろぽろと涙をこぼし、しゃくり上げながら言葉をこぼした。
「わ、私、装備品をこわ、壊して……。ご、ご主人様、もうしわけ、あ、ありません……」
さらに蒼白の顔を強張らせながらルティナが謝罪の言葉を口にする。
「ベスタ姉様、申し訳ございません……。わたくしが気を抜いていたばかりに……。本当に申し訳ござ――」
「あなたたちのせいではありません!」
しかし、ロクサーヌによってその言葉が遮られた。
彼女は悲壮感に満ちた顔を俺へ向けると、さらに声を上げる。
「バトルマーメイドを落とす場所を考えていなかった私の責任です! ご主人様! 責めを負うべきは私です!」
セリーとミリアも不安そうな顔でこちらをうかがっていた。
今回の件は俺のミスが招いたことであり、この娘たちのせいじゃない。
アスカロンをアイテムボックスにしまい、膝をついて涙をこぼしているベスタの頭を胸元に寄せ、額金に覆われていない真っ赤な髪を撫でながらそのことを伝える。
「ご主人様……」
彼女は俺の言葉を聞くと、ゆるゆると顔を上げた。
「ベスタ、ありがとう。君のおかげでルティナには傷一つついていない。あの状況でとっさにルティナをかばうことができるなんてたいしたものだ。俺たちはいつも君が体を張って魔物の攻撃を防いでくれているおかげで、安心して戦うことができている。本当にベスタはすごいよ」
「で、ですが、貴重な装備を……」
怯えたような表情のベスタへ、表情筋を総動員して笑顔を作り言葉を続ける。
「君たちが怪我をするくらいなら装備品なんていくら壊れても構わない。仮にユニーク装備だったとしてもだ。どんな装備品だろうが君たちの代わりにはならないからね」
しかし、今度はロクサーヌが悔恨の表情で口を開いた。
「ですが、私がバトルマーメイドをもう少し離れた場所へ落としていれば……」
「それは違うよ」
首を振りながら彼女の言葉を否定する。
「このパーティーの責任者は俺だ。パーティー内で発生した問題の責任はすべて俺が負うべきなんだ。メンバーや部下にそれを押し付けるような者に、責任者たる資格はない」
俺はあのクソ会社のクソ役員どもとは違うぞ! 成果は自分のもの、失敗は誰かのせいにしていた奴らとはな!
家族だけでポストを独占し、会社の金を好き放題使いやがって! 地獄に落ちろ!
「もちろん責任の有無とは別に、改善できる部分は改善しよう。俺は指示の出し方や気を抜いていたこと、即座に攻撃へ移れなかったことを改めるように努力する」
そう告げると、ロクサーヌがふっと表情を緩めた。
「私は魔物を地面に落とす際は、どこに落とすかを考えるようにします」
さらにルティナもそれに続く。
「わたくしは魔法を放った後も油断しないようにいたします」
「え、えっと、私は……」
二人の言葉を受け、自分も何かを言わなくてはいけないと思ったのだろう。ベスタは口を開くも、何を反省すべきか分からないようだった。
正直、この娘に反省すべき点があったとは思えない。
ぶっちゃけ、身代わり装備を身に着けていたため、攻撃を食らってもルティナが致命傷を負うことはなかった。
しかし、だからといってそんなことをとっさに判断できるはずがない。
それをできるようになれというのは、いざというときに判断が鈍る原因になりかねないし、取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。
「ベスタの行動には一切問題なかった。君はパーティーにとって最善の行動をとったんだ。本当にすごいよ」
彼女は一瞬驚いたものの、すぐに恥ずかしそうに控えめな笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます……」
他の四人はその様子を優しく見守っていた。
和やかな雰囲気に包まれていたところ、突然フロアに拍手が鳴り響く。
驚いてそちらへ視線を向けると、まるでブロードウェイミュージカルでも観たかのような表情で拍手をしている、ハルツ公爵家とホーホヴァイデ子爵家の人たちが目に入った。
「さすがアユム殿。見事な言葉であった!」
「ええ。仲間を想うその尊きお心に感動いたしました」
公爵夫妻はそんなことを宣いながらつかつかとこちらへ近づき、ルティナをねぎらっている。
……なるほど。最上階のボスを倒したせいで扉が開いたのか。
あれ? アスカロンをしまうとき無詠唱でアイテムボックスを開いたよな? それを見られたか?
いや。その時は離れていただろうから、聞こえなかっただけだと思うはず。きっとそう、きっと……。
内心で焦りまくっていると、試験官殿が声を掛けてくる。
「破壊された装備品はあったようだが、人員が欠けることも、深刻な怪我を負った様子もない。そして討伐に要した時間は驚異的な短さ。文句なしの合格だ」
彼はそう言うと右手を差し出してきた。
抱きしめていたベスタを離し、それに応じながら答える。
「仲間に恵まれているのでな。彼女たちのおかげで何事もなく済んだ」
それを聞いたヴォルフは忍び笑いを漏らす。
「そうか。では会長と副会長にはその旨も伝えておくとしよう」
ええ。是非そうしてくださいな。
「余らは一足先にロッジへ戻っておるぞ。アユム殿らもすぐに来るがよい」
俺たちに一頻り賞賛の言葉を浴びせると、彼らは迷宮を後にした。
良い雰囲気をぶち壊されたという思いは無きにしも非ずだが、まあおかげでベスタも気持ちの切り替えができたようだし、結果オーライ。
いつもの柔らかな笑みに戻った彼女を見ながら、そのまま鑑定をかけてみる。
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv32
装備 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
まあ、ないよな。
剣身がなく柄だけの武器はともかく、ガントレットは千切れているが拳の部分は覆われているので、ワンチャン無事だったりしないかと思ったが、そう都合よくはいかないらしい。
「ご主人様、どうぞ」
そんなことを考えているとセリーが近寄り、うっすらと光を放つ玉っころを差し出してきた。
どうやら俺がベスタの件で動揺しているときに、彼女はしっかりと回収していたらしい。実に頼もしい限りである。
癖になっている鑑定を使用したところ、頭に文字が浮かび上がった。
ギルド神殿
おお。やっぱりこれがギルド神殿なのか。とうとう手に入れたんだな。
感動していると、ネコミミさんがセリーの手のひらをのぞき込む。
「へー。設置される前のギルド神殿って、こんな形なんですねー」
ロクサーヌとルティナも興味深そうに見つめながら呟きを漏らす。
「私も初めて見ました。実際にギルド神殿を目にしたことのある人は少ないのではないでしょうか?」
「そうだと思います。迷宮討伐を成し遂げたものか、領主や各ギルドの幹部、技工士くらいではないでしょうか?」
そうだよなぁ。普通に生きていればそうそう目にする機会なんかないだろうし。
というか、『物知りセリー』ですら帝国解放会の書庫を調べるまで知らなかった技工士のスキルを知っているらしい。さすが元伯爵令嬢。
受け取ったそれをアイテムボックスにしまうと、セリーが好奇心で瞳を輝かせながら問いかけてきた。
「アスカロンの限定を解除する前に、技工士のギルド神殿設定のスキルでどのようなギルドが設定できるのか確認してみませんか!」
「即座に決定されたりしない?」
問いかけるとかぶりを振ってこたえる。
「選択可能な以上、即座に使用されることはないはずです」
なるほど。道理だ。
「じゃあ、試してみよう」
アイテムボックスからギルド神殿を取り出し、ジョブを変更しようとしたところで、ロクサーヌが呆れ顔で言葉を発した。
「あの、公爵様たちがロッジで待っているので、今はそんなことをしている場合ではないのでは……」
あっ。忘れてた。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:31/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
キャラクター再設定:1
所持金:4,482,247ナール
夏の19日目