異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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323 天網恢恢

 

 

 

 

 

ハルバーの迷宮五十階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 最上階のボス部屋にも次の階層へ続く扉が設置されており、ハルツ公や試験官たちもこの扉を潜って移動していった。

 

 撃破した後の迷宮はダンジョンウォークの行き先がすべて入口につながってしまう。

 迷宮内外、お構いなしに移動できるワープは明らかに通常の仕様とは異なっているため、これを使うのは怖すぎる。

 仮に次元の狭間や事象の地平線に飛ばされたり、ポリゴンとポリゴンの間に挟まってスタックしたり、はたまたオブジェクトと同化し『いしのなかにいる』なんてことになったら目も当てられない。

 自分たちの命を実験材料に世界の仕組みを解き明かす気はないので、彼らに倣ってこの扉から外へ出よう。

 今後、他の奴らが迷宮を討伐したときに居合わせたとしても、原作のミチオと同じくワープは使わずダンジョンウォークで脱出だな。

 いやまあ、キャラクター再設定で取得しているボーナス呪文なので、おそらく問題はないと思うんだけどさ。

 

 準備を整え、彼女たちに声を掛ける。

 

「では、外に出よう」

 

 通常なら近づいただけで開く扉だが、今回はすぐには開かない。

 原作で考察していた通り、すべてのダンジョンウォークの行き先が入口に変更されるという仕様上、順番待ちが発生しているのだろう。

 

 まるで『Now loading』の表示が出てそうなシチュエーションだよなぁ。

 それにしても、CPUやRAM、光学ディスクの読み込み速度に制約のあった昔のゲーム機ならともかく、いまのゲーム機はマシンパワーも飛躍的に上がっているし、ストレージにインストールするからロード時間が短縮されてもよさそうなものなのに、体感はほとんど変わってない。

 もっとも、ネオジオCDみたいに、とんでもない待ち時間を要求するようなゲーム機はさすがになくなったけどさ。

 あれ体感的には格ゲーの一戦にかかる時間とロード時間が同じだったもん。いくら何でもヤバすぎだろ。

 

 益体もないことを考えているうちに扉が開いたため、それを潜る。

 

 

 

 

 

ハルバー

 

 

 

 

 

 迷宮を抜け出した俺たちを出迎えたのは喧騒だ。

 周囲には公爵家の騎士や、迷宮探索を生業にしている者たちの姿が見えた。

 てっきりロッジへ移動しているものだと思っていた公爵は、大勢の人の前で演説をぶっている。

 一瞬こちらへ視線を向けたものの、すぐに周囲を見回し、話を続けた。

 

「ハルバーの迷宮はその勇士らの手により、無事に討伐された! だがその者らの活躍も、帝国並びに我がハルツ公爵領の平穏が保たれたのも、偏に諸君らの協力があってこそ! 迷宮探索を行っておったすべての者に感謝を!」

 

 その言葉に周囲から鬨の声が上がる。

 口々に互いの奮闘を称え、帝国やハルツ公爵領の繁栄と安寧を願っていた。

 

 ほんと、カリスマ性にあふれた人やなぁ。

 でも、この国威高揚的な雰囲気に引いている俺もいたりして……。

 前時代的というか、非民主主義的というか、こういうのはちょっと……。

 

 いまいち乗り切れないままその様子を眺めていると、近くにいた狼人族がローブを纏った猫人族に話しかけた。

 

「まさか騎士団以外の奴らが迷宮討伐を果たすとはな。近いうちに新たな貴族家が生まれるかもしれん」

「ああ。騎士団を出し抜けるなんざ、よほどの腕っこきなんだろうぜ。だが、俺たちも負けてられねぇ。次の迷宮を探して経験を積まねぇと」

 

 そう言って彼らは、近くにいた仲間であろう奴らと頷き合っている。

 

 どうやら騎士団ではなく、フリーのパーティーが討伐したことが意外だったらしい。

 でもまあ、考えてみれば当然か。迷宮を撃破できるような腕があったとしても、騎士団は大規模に戦力を投入しているのだ。

 組織的に攻略を行っている集団と、単独で攻略を行っているパーティー。どちらが迷宮を倒す確率が高いかなんて比べるまでもない。

 

 そんなことを考えているとゲートが揺らぎ、新たなパーティーが姿を現した。

 風体の悪い男が六人。装備品に見るべきものはないが、目つきの鋭さがどうにも引っ掛かり、反射的に鑑定を使用する。

 

イゴール 男 37歳

盗賊Lv42

装備 鋼鉄の剣 硬革の帽子 鉄の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴

 

 はあ!? 盗賊!?

 

 慌てて他の奴らも確認したところ、盗賊が四人に探索者が一人。イゴールという男ほどではないが、どいつもこいつもそれなりのレベルだ。

 

 こいつらマジか? ここは兇賊ハインツの盗賊団が始末された迷宮だぞ? そんなところで盗賊稼業に精を出すなんて、頭がイカれてやがる。

 騎士団員が頻繁に巡回していただろうによくやるわ。危機感がなさすぎだろ。

 

 ……いや、そんなことはどうでもいい。

 こいつらは間違いなくパーティーを吟味し、初心者を脱したばかりの者たちを襲っていただろう。

 この娘たちと自分のことが最優先だし、正義の味方を気取るつもりは毛頭ない。

 俺の義侠心という名の網はめちゃくちゃ目が粗く、ちょっとやそっとの悪事であれば素通ししてしまう。

 それに、お前自身は罪を犯していないのかと問われれば返す言葉もない。

 しかし、こいつらを見逃せるかとなれば話は別。気に入らないものは気に入らないのだ。

 ただただ弱者を狙い、食い物にする行為には反吐が出る。

 

 そそくさとこの場を立ち去ろうとしている男たちを見ながら、ロクサーヌたちだけに聞こえるように囁いた。

 

「奴らは盗賊だ、制圧するぞ」

 

 その言葉で五人の顔色が変わる。

 

「ロクサーヌとミリアはかく乱、ベスタとセリーは武器を奪え。ルティナは逃げようとする者がいたらウォール系の魔法で妨害してくれ。ただし、他にも仲間がいるかもしれないので情報を得たい。それにいきなり殺してしまえばハルツ公に不信感を与えてしまうだろう。それはナシだ」

 

 指示を出すと、彼女たちは真剣な表情で頷きを返した。

 

「いくぞ!」

 

 声を上げると我がパーティーの頼れるツートップが飛び出し、俺たち三人もそれに続く。オーバードライビングを使うまでもない。

 

 徒手空拳のロクサーヌとミリアが奴らに襲い掛かったところで、奴らから声が上がる。

 

「何のつもりだ!」

「いきなり襲い掛かってくるとは、お前ら盗賊か!?」

 

 どの口が言うとんねん。

 

 彼女たちはその問いかけを華麗にスルーし、攻撃を継続。それを見てハルツ公も声を発した。

 

「その方らは何をやっておるのだ! 疾く攻撃を止めよ!」

 

 彼だけではなく、周囲にいた人たちからも俺たちを諫めるような声が次々と聞こえてくる。

 二人に気を取られている隙に背後から強襲し、武器を奪い取りつつ怒鳴り返す。

 

「こいつらは盗賊です! お叱りは後ほどいかようにも!」

 

 その言葉でバレたことに気が付き、奴らの抵抗が激しさを増すも、対人戦の経験なら盗賊にだって負けちゃいない。

 俺たちが毎日対峙しているのは阿修羅の化身ことロクサーヌ。盗賊如き、物の数じゃないっての!

 

 

 

 武器は使用していないため命に別状はないが、盗賊共を立ち上がれない程度に叩きのめしてやった。

 もちろん俺たちに怪我はない。この程度の相手に手傷を負うような、やわな鍛えられ方はしていないのだ。

 ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタの顔にも余裕の表情が浮かんでいる。

 もっとも、昨日加入したばかりのルティナだけは胸をなでおろしていたわけなのだが。

 

 戦闘が終了すると、怒気を纏ったハルツ公がこちらへ近づいてきた。

 カシアとゴスラー、それに公爵家の家人たちも険しい顔でその後ろに続く。

 

「この者らが盗賊だと申すのだな?」

 

 切れそうなほどの鋭さを感じさせる声で、公爵が問いかけてくる。

 

「はい。間違いありません」

「なぜ断言できる?」

 

 ここからはハイパーハッタリタイムの開幕だ。はったり帝国の逆襲だ。王様はロバだ。

 

「私たちは以前、迷宮で始末した盗賊と彼らが行動を共にしていたのを目にしております。しかし、その時は盗賊だと気が付いていなかったため、見過ごしておりました。しかし、そこは類い稀な嗅覚と記憶力を併せ持つロクサーヌ。彼らと遭遇した瞬間、すぐにそのことに気が付いたのです」

 

 彼女に目配せを送ると、阿吽の呼吸でフォローを入れる。

 

「はい。ご主人様のおっしゃる通りです。これほどまでに特徴的な悪臭を漂わせていれば、間違えることなどありません」

 

 ナイスアシスト。さすがロクサーヌ、さすロクだ。

 

 その場にいた狼人族たちは一斉に匂いを嗅ぎ始め、納得したように頷いている。どうやら説得力のある言葉だったらしい。

 しかし敵もさるもの、往生際が悪いことにイゴールという男が弁明を始める。

 

「ハルツ公爵様とお見受けいたします! 私たちは一介の探索者パーティー。盗賊など、まったく身に覚えがありません! ただこの場に居合わせただけでございます! どうかそいつらに惑わされないでください!」

 

 はあ? 何を抜かしやがる。こっちには絶対に間違えない鑑定さんが付いてるんだぞ。へそで茶を沸かすわ。

 

 内心でツッコミを入れていたものの、ハルツ公は顎に手をやり、こちらに顔を向ける。

 

「ふむ。こう申しておるぞ?」

 

 エコーズを使って『信じて!』という文字を貼り付けるまでもない。

 

「インテリジェンスカードを確認していただければ明らかになるかと。万が一、私の判断に誤りがあった場合はどのような罰であろうとも受け入れます」

 

 その瞬間、盗賊たちの顔が強張った。

 彼らの様子を見た公爵の顔に納得の色が浮かぶ。

 

「道理であるな。通常、理由なくインテリジェンスカードを検めることなどないが、その方らも濡れ衣を晴らしたいであろう? よもや拒否はすまいな? もっともこのような事態となっておるのだ、拒否など認められぬがな」

 

 ハルツ公は振り返ると、指示を飛ばす。

 

「この者らのインテリジェンスカードを検めよ!」

「はっ!」

 

 騎士たちは地面に転がっている盗賊共に近づくと、呪文を唱え始めた。

 

 さすがオヤビン、話が早い。

 

 

 

 当然のことながら、インテリジェンスカードのチェックは黒。

 探索者が一人混じっているものの、彼はそうと知りつつパーティー編成とダンジョンウォークを使い盗賊たちに協力していたのだ。公爵家騎士団の裁定でも一味とみなされた。知らなかったなんて言葉が通るはずない。

 

 盗賊である彼らの持ち物はすべて俺たちのものとなったため、ギャラリーに見守られながら戦利品の回収に移る。

 

 アイテムを隠し持っているであろう探索者については、騎士たちが盗賊たちをそれぞれ離れたところへ連行し、アイテムボックスの枠となるレベルの確認を行う。

 もし異なる回答があった場合、少なく答えた者は虚偽の可能性があるため、死を望むほどの拷問を加えると脅した上でだ。

 さすがにこの期に及んで虚偽を述べる者はおらず、彼らの答えたレベルは38で鑑定と一致。

 すべてのアイテムを吐き出させたうえで、念のために銀貨を用いた試しを行ったが、合計千四百四十四枚の銀貨が問題なく収まった。よきかな、よきかな。

 

 所詮は迷宮探索に挑まず、初心者を卒業したばかりの者を狙う三下の盗賊。取るに足らないアイテムにしょぼい装備品、わずかな金と戦利品はいまいちパッとしなかったが、バラダム家との決闘のときと同じく、今回も下着に縫い付けてあった金貨まで回収してやりましたとも。

 

 だが、魔結晶についてはなかなかの成果だった。

 緑魔結晶が六つで、少なくとも六万ナール。いいじゃない、いいじゃない。

 とはいえ、これはルティナに回すんだけどな。

 機会を見て彼女の魔結晶を育てようと思っていたし、ちょうどいい。

 グッジョブ盗賊。ナイスタイミングで迷宮に入っていたと誉めてやろう。

 

 周囲の奴らと共に、騎士たちに連行されていく犯罪者たちを見ていると、ハルツ公が話しかけてきた。

 

「賞金首がいた場合は追って懸賞金を取らそう。また、奴隷に落とす場合もその方へ戻すゆえ、事が済み次第、余らと共に城へ参るがよい」

 

 賞金首がいた場合、そいつの生死はどうなるんだろう? おそらく手配書はデッドオアアライブなんだろうが、そのまま生かしておくのかね?

 それにどいつもこいつも盗賊のレベルが高い。間違いなく罪もない人を大勢殺していると思われる。

 そんな奴らを奴隷落ちだけで済ませていいんだろうか?

 

「あんたたち、とんでもなく強いな」

 

 思索に耽っていると、ふわふわ尻尾の男がパーティーメンバーを伴い話しかけてきた。

 

 お? さっきの狼人族じゃん。

 

バルガ ♂ 27歳

獣戦士Lv48

装備 催眠のエストック 頑強のダマスカス鋼盾 ダマスカス鋼の額金 耐火の竜革鎧 古代樹の籠手 耐風の竜革靴 身代わりのミサンガ

 

 思わず鑑定をかけたところ、高レベルかつ装備もそれなりに整っている。

 

 その言葉に人間族の冒険者も続く。

 

「迷宮を討伐したのはあんたたちだったのか。まだ若いだろうに信じられない強さで驚いたぞ」

 

 さらに猫人族の魔法使いがミリアを見ながら口を開いた。

 

「そっちの同族の嬢ちゃんも成人したばかりなんだろ? 本当にたいしたもんだ」

 

 魔法使いってインテリなイメージだけど、こんなしゃべり方の奴もいるのか。

 

 ……あっ。バラダム家の魔法使いはクソ野郎だったわ。

 

 しかし、こういうのってどう答えればいいんだろう?

 謙遜するのは嫌味だと受け取られかねないし、『まあそんなことあるけどね』とか言ったら反感を買うに決まっている。

 

「パーティーメンバーに恵まれたのでな」

 

 結局、いつもの言葉でお茶を濁しておいた。

 

 獣戦士の狼人族、人間族の冒険者、猫人族の魔法使い、猫人族の探索者、エルフの沙門、人間族の剣豪のパーティーに褒め殺しのようなことをされ、答えに苦慮しているというのに、我が妻たちは『お前たちはよくわかっている』と言わんばかりの表情で頷いている。

 

 あの、ご主人様を助けてくれませんかねぇ。

 

 俺の内心を理解してくれたのか、ハルツ公が苦笑交じりに助け舟を出した。

 

「アユム殿、そう時間に余裕があるわけではない。そろそろ参ろうではないか」

「かしこまりました」

 

 それに頷き、彼らに顔を向ける。

 

「というわけなのだ。申し訳ないが、話の続きは次の機会ということにさせてくれ」

 

 すると、バルガという男が男臭い笑みを浮かべ口を開く。

 

「ああ。引き留めて悪かった。次に会ったときは一杯やりながら、迷宮討伐について聞かせてくれ」

 

 次の機会なんかないけどね。それに俺は酒を飲むわけにいかない事情があるし。

 

「ああ、また会おう」

 

 とはいえ、そんな角が立つようなことを言うわけにはいかないため、適当に話を合わせてその場を後にする。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36

装備 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 倹約の硬革グローブ オラクルビットローファー よりしろのイアリング

 

BP振分 残BP:31/160

ワープ:1

必要経験値二十分の一:63

シックススジョブ:31

MP回復速度十倍:31

鑑定:1

ジョブ設定:1

キャラクター再設定:1

 

所持金:4,668,792ナール

 

夏の19日目




いつも拙作をお読みいただき本当にありがとうございます。

投稿を始めてからもうすぐ三年。
ここまで更新を続けていられるのは素晴らしい原作の魅力と、お読みいただいている皆様のおかげです。
UA、お気に入り、感想、評価、ここすきといった反応のおかげでモチベーションを維持できています。

なので、ストックはほぼありませんが、少しだけ連続更新を行いたいと思います。

お楽しみいただければ幸いです。
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