公爵家パーティーに続いてロッジへ移動すると、セバスチャンと侍女服の女性が恭しく俺たちを出迎えた。
「アユム様。第三位階へのご昇格、まことにおめでとうございます。さすがはブロッケン様が見込まれたお方。このセバスチャン、感服いたしました」
彼の言葉を受け、ハルツ公が誇らしそうに答える。
「そうであろう? 余の見込んだ通りよ」
彼だけではなく、うちの娘たちやカシア、ゴスラーにフィーネまでもが得意げな顔で頷いていた。
なんか完全に公爵家の身内になってんなぁ。まあ、ありがたいことだけどさ。
穏やかな笑みを浮かべながらも、セバスチャンは傍らの女性に耳打ちを行い、彼女がこの場から離れると俺たちを促す。
「それでは中会議室へ参りましょう。エステル様、ブルーノ様、ヴォルフ様がお待ちです」
中会議室? てことは大や小もあるのかね?
なんか商工会議所とか、自社ビルを持っているような上場企業みたいだな。
益体もないことを考えながら、書記長殿に続き廊下を進む。
案内された部屋に入ると、コの字に配置された会議用テーブルが目に飛び込んできた。
片側に十脚ずつ備え付けられた椅子が向かい合っており、それらを連結している横のテーブルにも五脚の椅子が並ぶ。
そのうち中央の椅子にエステルが、こちらから見て左側にブルーノ、右側にはヴォルフが腰を下ろしている。
さらに後方ではヴォルフのパーティーメンバーが控えていた。
これで中会議室? めちゃくちゃでかいんですけど……。
大ならどんだけ広いんだろう? 数百人規模の株主総会ができるレベルだったりして……。
どうでもいいことに思いをはせていると、エステルにブルーノ、それからヴォルフが立ちあがった。
そして、会長であるエステルが問いかけてくる。
「だいぶ時間がかかったようだが、何かあったのか?」
どう答えたものかと考えていると、公爵は喜色満面で先ほどの大捕り物について語り出す。
「――というわけなのだ」
情感たっぷりに語り終えたところで、ヴォルフが言葉を漏らした。
「なるほど。我らが戻った後にそのようなことがあったのか」
一緒に迷宮へ入っていたというのに、俺たちだけが時間がかかっていたのだ。何があったのか気になっていたのだろう。
ブルーノも顎をさすりながら口を開く。
「普通ならまんまと逃げおおせたのだろうが、匂いを覚えられていたとはな。よくよく運のない盗賊どもだ」
「うむ。余の領地を荒らしていた不届き者を捕らえられたのは僥倖であった。アユム殿らには感謝の言葉もない。余も誠意を見せねばな」
公爵閣下。誠意は言葉ではなく金額。努々、それを忘れてくださいませぬよう。
いや、嘘だけどね。ルティナを俺たちのパーティーに預けてくれたし、セルマー伯と共同でだけどスヴェルだって譲ってくれた。これ以上はもらいすぎだ。
……もちろん、何かくれるってんならやぶさかじゃないけどね?
ゲスい心根が表に出ないよう、アルカイックスマイルでやり過ごしていると、エステルが手を打ち鳴らす。
「さて、それでは試験結果を伝えるとしよう。全員、席へ着け」
この世界に上座下座の概念があるのかは分からないが、セバスチャンの誘導により、議長席に向かって左側、ブルーノに近い方からハルツ公、カシア、ゴスラー、クラウス、フィーネ、探索者が。そしてヴォルフに近い側から俺、ロクサーヌ、セリー、ミリア、ベスタ、ルティナの順で腰を下ろす。
全員が席に着いたところでセバスチャンは部屋を出て行った。
しかし、直後にワゴンを押している侍女服の女性たちと共に部屋へ戻ると、お茶を配り始める。
どうやら俺たちがロッジに到着する前から、ある程度の段取りはできていたらしい。
お茶出しが終わると侍女たちは静かに退出し、セバスチャンは壁際に移動する。
日本でもそうだったけど、この時間ってなんか微妙な空気になるよね。
そのまま用件を切り出したり、雑談をしたりするのは駄目な気がするし、かといって黙っているのもそれはそれで気まずい。
とはいえ、お茶出ししている側はしている側で、マナー違反をしていないかが気になって緊張しっぱなしだろう。
総務が一人しかいなかったせいで、お茶出しは俺の仕事だったのだ。どちらかと言えば先ほどの女性たちの方に感情移入してしまう。
どうでもいいことに気を取られていると、議長席のエステルが一つ咳払いをして話し始める。
「結論から伝えよう。雑魚戦の戦いぶりや、討伐にかかった時間等、ヴォルフから受けた報告を総合的に判断した結果、立会人の全会一致で合格だ」
よっしゃ。何が変わるというわけでもないが、正会員の仲間入りっと。
とりあえず、これで不祥事以外に退会の心配はなくなった。
口々に伝えられる祝福に、一頻り感謝を述べたところで、会長殿は話を続ける。
「入会の際にも説明したが、改めて第三位階について伝えておこう」
彼曰く、発生する義務としては、第二位階以上は総会へ参加しなければならないことに加え、第三位階からは入会試験の試験官を任されることがあること。
さらに持ち回りで役員として会を取り仕切らなければならなかったり、会の運営に参加しなければならない。
一方、権利の方はというと、討伐予定の迷宮をあらかじめ伝えておくことで、撃破した際に叙勲がスムーズに進むこと。
そして、見どころのあるものを会員に推薦可能になることなど。
そのほかについては現在の待遇と変わらない。
うん。前に聞いていた通りだな。
「それから、新たに第三位階となったアユムと他の会員との顔合わせを行いたい。これは男性部会だけではなく女性部会も含めたものとなるため、予定の調整に時間がかかるだろう。日時については決まり次第連絡するので、自宅の住所をセバスチャンに伝えておいてくれ」
個人情報を握られるのは嫌なんですが……。DMとか送ってこないでね?
まあ、電話番号やメアドを知られるよりはマシか。
説明を終えたところで、彼は表情を引き締める。
「そして、第三位階として最初の業務を頼みたい」
えー。ぎょうむー? たったいま昇格したばかりなんですけどー。
研修なしに業務をさせるなんて、ブラック企業なんですけどー。どこかのクソ会社みたいなんですけどー。
内心でげんなりしていると、エステルは言葉を続けた。
「近々、ブルーノの推薦である者が入会試験を受けることになっている。アユムにはその試験官を務めてもらいたいのだ」
ブルーノの推薦で入会試験を受ける……。しかも近々ということは、おそらく夏の間に試験が行われるのだろう。
……めちゃくちゃ嫌な予感がするんだが。
それを聞いたハルツ公、ブルーノ、ヴォルフの顔色が変わる。
「まさか、へ――。かのお方の試験を担当させる気か?」
公爵は口走りそうになったものを飲み込み、別の言葉で問いかけた。
あの、公爵閣下……。公爵たるあなたが『かのお方』とおっしゃった時点で、相手が限定されるんですが……。
「当会は俗世の身分には囚われぬ規則となっているのだ。何の問題もあるまい」
エステルがそう答えると、ブルーノも口を開く。
「確かに会の規則を天聴なされた折に、かの御仁は自らに対し、気安く接する者が現れることへ興味を示しておられた」
天聴って……。隠す気ゼロですやん……。
ヴォルフも納得したように言葉を漏らす。
「なるほど……。いかに規則があろうとも、我らでは気安く接することなどできないだろうからな」
いやいやいや。エステルは男爵なのに、子爵であるあんたはもちろん、伯爵であるブルーノや、ハルツ公爵に対してもタメ口じゃん。
それにこの男、原作ではその皇帝にだってぞんざいな口をきいてたぞ。
しかし、俺がこの時点で皇帝が入会予定だということを知っているのは不自然なため、反論や辞退をすることは不可能。
こうなれば公爵閣下に期待するしかない。
縋りつくような思いで、形のいい顎をさすっている公爵に視線を向けていたものの、彼は少し考えてから言葉を紡ぐ。
「確かにそうかもしれぬ。アユム殿が適任か……」
あなたの可愛い子分がヤバい案件を押し付けられそうになってるんですよ! 丸め込まれないでください!
「うむ。決まりだな。これについても追って連絡を入れよう」
しかし、俺の内心の叫びは届かず、エステルが話を締め括った。
爵位持ちや公爵夫人たるカシアが晴れやかな表情をしている一方、公爵家の家臣であるゴスラーたちや、ヴォルフのパーティーメンバーは気の毒そうな顔を俺に向けている。
もっとも、我が愛する妻たちは誇らしげで、この任務に前向きな様子。
主人が皇帝と気安く接するような関係を築けるということに、自尊心を刺激されているのだろう。
……うん。まあそうだな。
これを機に親しくなれるのであれば、とんでもない後ろ盾が得られる。
表立って便宜を図るなどということはないだろうが、たとえ貴族ともめた場合でも、自由民の持つ皇帝直訴権を握りつぶされる心配がなくなるだろう。
元から好感度を稼ぐつもりだったのだ。いい機会だと思えばいい。
自分にそう言い聞かせて、折り合いをつける。
説明が終わったところで改めて祝福の言葉を掛けられ、お開きとなった。
どうやら入会時とは違い、昇格には性的嗜好を開示するという罰ゲーム的な儀式はないようだ。
衆人環視どころか、愛する妻たちもいるのだ。この場で自らのフェティシズムをさらけ出す度胸などない。一安心、一安心。
会長であるエステルと副会長のブルーノ、それからヴォルフパーティーが退出することになったのだが、俺たちの脇を通る際、ブルーノが品定めするような視線をセリーに向ける。
彼女は戸惑いながらも、その顔を見上げていた。
……そういやこの男、原作ではロリコンだったよな? まさか彼女に興味を持ったのか?
い、いかん! セリー、そんな美しい顔で見つめ返しては駄目だ!
不穏な空気になりかけたものの、彼は小さく息を吐きだすと、拍子抜けだという表情で肩をすくめてそのまま通り過ぎる。
この娘はドワーフなので確かに背は低いが、顔は可愛い系と奇麗系なら奇麗系寄りだし、手脚がすらりと長くてスタイルも良い。
そのおかげで彼のストライクゾーンからは外れていたようだ。
……でも、それはそれでなんかむかつくぞ。
うちの娘たちは間違いなく、世界で五本の指に入る美女ぞろいだってのに。
その魅力が理解できないなんて、頭か目に問題を抱えているに違いない。
セリー、俺は誰よりも君の魅力を理解しているからな。安心してくれ。
その想いを視線に乗せて彼女へ送るも、呆れたような表情を返された。
どうやら俺の愛情はちゃんと届いていないようで、セリーだけではなく、他の娘たちも苦笑しながらこちらを見つめている。
壊れるほど愛してるのに、三分の一も伝わっていないらしい。
腑に落ちない気持ちを抱えつつ、セバスチャンへ自宅の住所を告げると彼はさらさらとメモを取る。
さらにゴスラーが彼に声をかけ、写しをもらっていた。
あの、私は同意していません……。個人情報保護法違反の現行犯なんですが……。
これって、今後はルークを通しての連絡ではなく、公爵家の家臣が直接家に押しかけてくるんじゃ……。
……いや。一昨日はクラウスがうちへ来てるし、今更か。
ゴスラーがそれをしまうのを確認したところで、公爵が顔をこちらへ向ける。
「余らは城へ戻るが、先ほどの盗賊の件もある。アユム殿も参るがよい」
おっと。俺たちはまだやることがあるのだ。
「申し訳ありません。私たちは装備品を見たいので、それが済んでからうかがいます」
ベスタの武器と腕装備がお釈迦になっているからな。
予備や置換用の高性能品はあるが、確認しておいた方がいいだろう。
「であるか。ではそれが済む次第、顔を出すがよい。待っておるぞ。それと、いまは帝国解放会の会員同士なのだ、口調には気をつけよ」
彼はそう言うと、ニヤリと笑いパーティーメンバーを引きつれ部屋を出て行った。
そんなことを言われても、こっちとら下っ端暮らしが長いんだ。つい出ちゃうんだってばよ。
内心で言い訳していると、セバスチャンが声をかけてくる。
「売店を利用なさるのですね。ご案内いたします」
促されるままに、俺たちも部屋を出る。
さて、掘り出し物はありますかね。
売店を確認したものの、スロットが付いているものはゼロ。収穫なしである。
なんの成果も!! 得られませんでした!!
まあそうだわな。そう簡単に高性能なスロ付き装備が手に入るのなら苦労はない。
それほど期待していなかった俺や他の娘たちとは違い、ベスタの表情はどことなく暗いように見えた。
装備品が壊れたのはこの娘のせいじゃないし、本当に気にすることないのになぁ。
ベスタに近づき、腕をポンポンと叩く。
ハッとこちらに顔を向ける彼女に笑いかけ、思っていることを伝えた。
「ベスタのせいじゃない。気にするな」
ロクサーヌ、セリー、ミリア、ルティナも微笑みながら頷くと、ベスタの表情が和らいでいく。
「……はい。ありがとうございます」
なあに。いいってことよ。
柔らかな雰囲気に包まれながら、ロッジを後にする。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 頑強のアルバ オラクルビットローファー よりしろのイアリング
BP振分 残BP:31/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
キャラクター再設定:1
所持金:4,668,792ナール
夏の19日目