六巻をローテーブルに戻し七巻を取りページを捲ると、口絵に描かれているバラダム家の女が目に入る。
……そうか。この巻だったか。
「ハルツ公爵の騎士団へハインツ一味のインテリジェンスカードを持ち込んだことで、ミチオは更に公爵から目をかけられることになる」
「悪名高い狂犬のシモンを擁する盗賊団を倒したのですから、そうなるのも当然です」
ロクサーヌはその言葉を聞いて納得したように頷いていた。
「そして、手に入れた決意の指輪は、ハルツ公がカシア夫人を娶るときにセルマー伯へ結納品として渡した物だった。奴らはそれを盗み出していた」
「伯爵家に入り込んで盗み出したのですか?」
「うん。そうなんだよ」
「伯爵家の騎士団は防げなかったのでしょうか?」
普通なら騎士団や伯爵のパーティーメンバーが防ぐんだろうが、セルマー伯のところはなぁ。
「防げなかったらしい。狂犬のシモンに騎士団員が何人もやられたということだ」
「やはりシモンは相当な腕を持っているようですね」
こらこら。そんなに嬉しそうにするんじゃないの。
君の出番はないから。
「その話を聞いて決意の指輪を返却すると、公爵がセルマー伯との会談にミチオを連れて行くと言い出した。彼はそれを断ることができず会談に立ち会うことになる」
「貴族同士の会談に同席するなんてすごいです」
うん。まあ、すごいんだろうけど、当事者になるであろう俺にしてみれば、そんな場所に同席するなんて嫌すぎる。
でも、これをこなさないとルティナを得ることができないしなぁ。
「そして、この日公爵領にある漁村に案内してもらうんだけどこの村がとても重要でね、村の近くには滝があって、そこで滝行をすることによってロクサーヌは巫女のジョブを得るんだ」
「私はそこで巫女になるのですね。回復役としてご主人様のお役に立てるよう頑張ります!」
おー。気合十分だ。
すぐに滝行をするわけではないし、俺は神官を、ロクサーヌ以外も巫女を得るんだろうが余計なことは言わないでおこう。
ページを捲り大きな出来事を探していると遂にその場面が訪れた。
「ロクサーヌ。この後は君に深くかかわる話となるから心の準備をしてほしい」
「私のことですか?」
「うん」
彼女は驚いた顔でこちらを見る。
一つ二つと深呼吸をし、表情を引き締めると言葉を発した。
「ご主人様、お願いします」
「分かった」
……彼女が奴隷に落とされることになった理由を話していこう。
「ボーデの十二階層で狩りをしていたとき、ロクサーヌが知り合いの匂いがしたと言い出す」
「知り合いですか?」
「そう。相手にも気付かれていたのでその場で待っていると、現れたのはバラダム家の者達だった」
「バラダム家! 彼女ですか!」
ロクサーヌは驚きに目を見開き大きな声を上げた。
昔から目の敵にして、何かと突っかかってきた相手だ。そうなってしまうのも無理はない。
「奴らは狂犬のシモンを倒すために迷宮を回っていたらしい。サボーという獣戦士を擁し倒す自信があったようだ」
「サボー・バラダム。狼人族の間では有名な暴れ者です。相当な強さを持つとか」
まあ、正直シモンにもサボーにもロクサーヌが負けるとは思えないんだよなぁ。
レベル補正無視の武器さえあれば勝ち確、なくても引き分けの結果しか考えられない。
「そして、彼女はとんでもないことを口にする。ロクサーヌを奴隷に落とすため、バラダム家の力を使い君の家にお金が入らないようにしていたと言うんだ」
「まさか、そんな……。私のせいで……」
その言葉を聞いて彼女は衝撃を受けたようで、顔を伏せてしまった。
叔母さんの家に迷惑をかけたと思っているんだろう。
「ロクサーヌ、それは違うよ。叔母さんの家が困窮したのは君のせいではなく彼女のせいだ。そこを間違えてはいけない」
「ご主人様……」
彼女は顔を上げ、弱弱しく俺を見つめる。
ロクサーヌがこんな表情をするなんて……。
バラダム家の奴らを許すわけにはいかない。確実に落とし前を付けてやらなければ。
そして、もしかしたら間違っているかもしれないが、俺の推測も話しておこう。
「俺の推測になるがロクサーヌに話しておきたいことがある」
「なんでしょうか……」
彼女は力なく答えた。
「叔父さんは君に性奴隷となることを了承させ、代わりに狼人族には売らないという条件を付けている。そんな条件を付けなければもっと高く売れるはずなのにわざわざそんなことをしているんだ」
言葉を切りロクサーヌをうかがうと、縋るようにこちらを見つめている。
「おそらく叔父さんにはバラダム家からロクサーヌを引き渡すようにとの要求があったはず。しかし、彼はそれを突っぱねて君を奴隷として売り払った。バラダム家から君と家族を守るにはそうするしかなかったのだと思う」
「そんな……」
その言葉を聞くと彼女は顔を伏せ小さく嗚咽を漏らし始めた。
ロクサーヌが泣くなんて……。
体を抱き寄せて腕の中に納め、ゆっくりと背中をさする。
少しでも気持ちが落ち着くようにゆっくりと……。
「ご主人様。もう大丈夫です」
抱きしめていたロクサーヌが顔を上げたので手を離す。
「落ち着いた?」
「はい。ご主人様、慰めていただきありがとうございます。それから、叔父のことを教えていただいたことも本当にありがとうございます」
「俺の推測だけど、たぶん間違っていないと思う」
「はい、私もそう思います。あのことがあるまでは本当にやさしい叔父でしたから」
ロクサーヌはスッキリとしたような柔らかい笑みを浮かべていた。
しかし、少し顔を曇らせると言葉を続ける。
「でも、私を家族として受け入れてくれた叔母の家族に迷惑をかけてしまいました……。どうやって償えばいいのか……」
「ロクサーヌ。さっきも言ったけど、それは君のせいじゃない。あの女がロクサーヌに身勝手な嫉妬心を抱いて行ったことだ。もし、それでも気になるなら恩返しをしよう」
「恩返しですか?」
その言葉にキョトンとした表情を浮かべ聞き返した。
「そう、俺はロクサーヌを産み育てたご両親と、ご両親が亡くなった後に家族として面倒をみていた叔母さんのご家族にとても感謝をしている。今こうしてロクサーヌと過ごせるのは彼らのおかげだからね。今後、迷宮探索を進めお金に余裕ができたら恩返しをしたいと思う。ロクサーヌ、どうかな?」
「ご主人様!」
うおっ!
ロクサーヌが抱き着いてきた! こんな行動をするなんて!
「是非お願いします! 本当に私のご主人様はお優しくて素敵な方です!」
「よかった。それじゃあ、それをするためにも迷宮探索を頑張ろうね」
「はい!」
彼女を嫁に迎えるための結納の意味も含めて、しっかりと恩返しをしなくては。
「それじゃあ、続きを話していこうか」
「お願いします」
「その話の後に、彼女はロクサーヌとの決闘を持ちかけてくる」
「決闘ですか」
ロクサーヌの目が吊り上がった。
あんな話を聞いたんだ。殺る気満々なのだろう。
「決闘はハルツ公爵家の家人であるゴスラー殿の前で行われることになる。そして、これも後々大きな意味を持つんだ」
「段々と公爵家に縁ができていきますね」
本当にな。
「決闘は始終ロクサーヌの優勢で進む。完全に相手の攻撃を見切ってかわし続けるんだ。そして、強烈な一撃を放つと相手は倒れ込んで身代わりのミサンガが切れてしまう。そこで、ミチオが声をかけ決闘は引き分けで終わった」
「引き分けですか……」
彼女の顔には不満の色が浮かんでいる。
ミチオはロクサーヌに手を汚させないため、止めを刺そうとしたところで制止した。しかし、正直俺は止める必要はないと考えている。
この世界で生きている以上、今後も盗賊に襲われることはあるだろう。
毎回、自分一人だけで片付けることは難しい。
ロクサーヌや他のパーティーメンバーに頼ることもあるはずだ。
それになにより、彼女はあの女に対して復讐を望む明確な理由がある。
気持ちの整理をつけるためにも、それを遂げた方がいいのではないだろうか。
「ミチオは止めたが、俺は止める気はない。ロクサーヌはあの女に家族をめちゃくちゃにされているんだ。望むなら復讐を遂げてもいいと思う」
「ご主人様、ありがとうございます」
殺る気満々の笑みを浮かべ、彼女は感謝の言葉を口にしたのだった。
ただ、この一件でバラダム家の恨みを買うことは確実だ。
余計な手出しをされないよう、サボーを始末してバラダム家の力を削いでおく必要がある。
そのため、あの女との決闘の結果をもって手打ちというわけにはいかない。
最初に何とか理由をつけてロクサーヌとあの女で一戦した後、俺とサボーの二戦目を行うように話を持っていこう。
そして、どうせ恨みを買うんだ。装備品はいただいておこう。
原作のセリーによると、それ目当てに決闘を吹っ掛ける奴だと思われないため、決闘後に装備品を受け取ることは少ないということだった。
でもそんなの知ったことか!
こっちとら、可愛いロクサーヌが辛い思いをさせられていて恨みが骨髄まで入っている。そのうえ決闘を吹っ掛けられた側だ。誰はばかることなく根こそぎいったんぞ!
それに、サボーを失った後のバラダム家は貴重な装備品を手放し、魔法使いを奴隷として売るほど急激に傾いていく。それを加速させるためにも装備品は全ていただくべきだ。
そうすることで、ますますこちらに関わっている余裕などなくなるだろう。
原作では装備品を鑑定した描写はなかったからな。ドリル女にサボーくん、期待してるぞ!
さて、話の続きに戻ろう。
「引き分けで終わったんだけど、サボーが女に自爆玉を使い名誉の引き分けに持ち込めと言うんだけど、女は躊躇して自爆玉を使うことができなかった。そしたらサボーは女の首を飛ばし、再度決闘を挑んでくる」
「そうですか……。彼女はそんな最期を遂げたのですね……」
呟いたロクサーヌの胸中は分からない。
さんざん嫌がらせをされた相手が死んでせいせいしているのか、それともそんな相手でも身内に殺されたことを哀れに思っているのか。
「サボーとの決闘にロクサーヌは自分が戦うと言うんだけど、それを遮りミチオは自分が戦うことにする。彼には勝算があったからね」
「勝算ですか? 今日のご主人様のようにボーナスポイントを使ったすごい何かですか?」
食いつきが良すぎるんだけど。
顔を見るとめちゃくちゃ楽しそうな表情を浮かべてるぞ。
まさか、修行のときに使ってもらおうと思ってるんだろうか?
でも残念。そういう類のスキルじゃないんよ。
「サボーはドープ薬を使い獣戦士のレベルが上限だと思われる99になっている」
「レベルの上限は99なのですか?」
「恐らくそうだと思う。まあ、ボーナススキルの中にはその上限を超えることが出来るスキルもあるんだけどね」
それを聞いたロクサーヌの表情が輝く。
「ご主人様、すごすぎです!」
いやまあ、例によってすごいのはご主人様じゃないんだけどさ。
「そして、ボーナススキルの中にはエクストリームドロップデッドというスキルがある。これはレベルが99の相手を即死させるスキルなんだ。それを使ってあっという間にサボーを始末する」
「えー!」
そりゃ驚くだろう。こんなもん誰が聞いたって同じリアクションになるわ。
このスキルの真のやばさが発揮されるのは、九十九階層まである迷宮を探索するときだろうな。
迷宮内にいる魔物のレベルは出現する階層とイコールだ。
九十九階層の魔物を即死させるとかやばすぎるぞ。
狩りの効率がとんでもないことになり、レベル上げも金策も捗るに違いない。
そして、これがあれば九十九階層のボスも即死させられる。
百階層以上続くならそこでボスマラソンを行えるし、九十九階層で終わりなら迷宮討伐達成だ。
いつかはそこまでたどり着きたいものだな。
彼女の方をうかがうと、まだ衝撃が抜けていないようだった。
六巻と七巻を持ち替え、表紙のベスタをロクサーヌに見せながら話を続ける。
「彼女はベスタ。四人目の仲間で十五歳の竜人族。竜騎士の効果でパーティーに安定感をもたらし、ベスタ本人もロクサーヌと二人で前衛を支えてくれる」
「竜騎士ですか。それは頼もしいですね」
彼女がそう言うのも無理はない。竜騎士のパーティー効果による防御性能は圧倒的だからなぁ。
竜騎士がいるかいないかで生存率が大きく変わってくるだろう。
ペラペラとページを捲るが八巻で話しておくべき大きな出来事はこれだけだな。
八巻をローテーブルに戻して、九巻を手に取りペラペラ捲っていく。
あ、竜騎士のジョブを得るためデュランダルをベスタに貸そうとしたときのロクサーヌ!
嫉妬心全開やないか……。
これは明日にでもデュランダルを使わせておかないと……。
特に今話しておかなくてはいけないような大きな出来事はないか。
九巻と十巻を交換する。
表紙を見ると滝行をするための衣装を身に纏うロクサーヌのイラストが描かれていた。
そうか。ロクサーヌが巫女になるのは十巻だったか。
お。ミリアも暗殺者になっている。
カメリアオイル! これは常備しておかなければ!
オイルマッサージ……。なんと甘美な響きなのだろう……。
この巻でも特に大きな出来事はないようだ。
十一巻を取ると表紙のルティナが目に留まる。
最後の仲間だな。表紙をロクサーヌに見せて告げる。
「彼女が最後の仲間となるルティナ。十五歳のエルフで、魔法使いとして主に攻撃魔法で戦うことになる」
「魔法使いですか? 魔法攻撃ならご主人様もやっていますが……。それに詠唱共鳴が起こるのではないですか?」
「詠唱共鳴に関しては問題ないよ。俺は魔法やスキルを使うのに詠唱を行うことはないから共鳴も起こらない」
「ご主人様、すごいです!」
詠唱共鳴が生じる可能性があるのは、ロクサーヌの全体手当ての方だな。
その辺は二人で調整してもらうしかないか。
「ボーナスポイントのことについては絶対に他の人に知られるわけにはいかない。だから、俺は対外的には探索者や冒険者として振舞うことになる」
「はい。当然のことだと思います」
「そうなると、魔法攻撃をしているところを人に見られると違和感を持たれる。そして、クーラタルの迷宮では、一般的に魔法使いがいなくて倒せる最後のボスは三十一階層だといわれている。その先にいるのを見られてしまうと不自然なことこの上ない」
「確かにそうですね」
ノンレムゴーレム以降のボスを魔法なしで倒すのは、きっと縛りプレーにチャレンジするようなものだろう。
さすがに迷宮探索に対して安全意識が高くないこの世界の人でもそんなクレイジーなことはしないはず。
……俺の横にいるこの娘を除いて。
いや、きっとロクサーヌだってそんな真似はしないはずさ。たぶん、きっと、そうだといいなぁ……。
希望的観測に一縷の望みを託しながら続きを話す。
「だけど、ルティナがいると何の問題もなくなる。魔法攻撃は彼女が行っていると思われるし、三十三階層以降にいるところを見られても、彼女の魔法で突破したと思われる」
「秘密を守るために魔法使いの存在は必須となるのですね」
「そうなんだ。それにルティナは元貴族だから迷宮討伐を成し遂げ貴族になった際に、彼女から立ち居振る舞いを教えてもらうこともできる」
「貴族なのですか!? どうして奴隷に……」
そうだよな。そこは気になるよな。
「それじゃあ、続きを話していこう」
「はい。お願いします」
好奇心でいっぱいの瞳を向けてくる彼女を微笑ましく思いながら口を開く。
「ある日、ハルツ公爵からパーティーメンバーも含めて食事に誘われる」
「公爵から食事に誘われるなんて本当にすごいです」
普通はそうあることじゃないだろうしな。
「そして、その食事の誘いには別の目的があったんだ」
「別の目的ですか?」
「そう。決闘のとき、相手の攻撃を見事にかわしていたロクサーヌの動きが立会人を務めていたゴスラー殿の目に留まり、彼はそれを公爵へ伝えていた」
「なるほど……」
それを聞いた彼女は少し考え込んでいる。
「そして、それを確かめようと公爵は模擬戦を提案し、騎士団の中で最も腕が立つ聖騎士とロクサーヌの手合わせを画策する」
「騎士団で最も腕の立つ聖騎士ですか! 相手にとって不足はありません!」
うわー……。
表情はまさに喜色満面といった具合で、全身からやる気が滾っているようだ。
さすが戦闘民族のロクサーヌさんやで。
「そして、結果はもちろん、ロクサーヌは相手の攻撃をいなし続け、掠らせることもなかった」
「ふふ。そうですか。騎士団の聖騎士相手にその結果は出来すぎですね。運が良かったのでしょう」
言葉では謙遜しているが、彼女の笑顔や態度を見ると当然だと思ってそうだよなぁ。
「これまでのミチオの働きと、ロクサーヌの実力を確認した公爵からある提案をされる」
「提案ですか?」
不思議そうに問いかける彼女へ頷きを返し、再び口を開く。
「それは、帝国解放会に入らないかというものだった」
「帝国解放会……。聞いたことがありません……」
まあ、原作のロクサーヌも知らないようだったしな。
それに、物知りのセリーでも名前しか知らなかった。
……いや。逆に何で彼女は表立った活動をしていない秘密結社の名前を知っていたのだろう?
「帝国解放会は迷宮を倒せるような実力者たちの相互扶助組織で、貴重なアイテムの売買が行われていたり、迷宮の情報が共有されていたりといった様々な恩恵がある。そして、入っている迷宮を伝えておけば迷宮討伐を成し遂げたときに承認がスムーズに行われるらしい」
「なるほど。ご主人様の叙爵が円滑になされるためには入会しておくべきですね」
「そうだね。帝国解放会には絶対に入っておくべきだと思う」
おそらく、帝国解放会に入っていない者が倒した場合、どのパーティーが倒したかで揉めることがあるのだろう。
それに、気に食わない相手が迷宮討伐を成し遂げたとき、手続きの妨害に回る役人や貴族がいてもおかしくない。
だが、この会に入会すると高位貴族やときには皇帝すら後ろ盾となってくれる。
そんな者たちの支援を受けている者を相手に妨害なんてした日にはどうなってしまうのか……。考えるだけで恐ろしい……。
「ミチオは見事入会試験を突破し無事に入会することができた。すると、公爵から祝宴を行うので翌日、日が暮れてから来てほしいと言われるんだ。そして翌日、ボーデの城を訪れるとセルマー伯を討つための協力を要請される」
「えー!」
話を聞いていたロクサーヌから大きな声が上がる。
貴族を討伐するなんて話を聞かされたんだ。驚くのも無理はない。
「当代のセルマー伯は領内の迷宮討伐を疎かにし、淫蕩に耽っていたようで失爵や降爵の可能性も出ていたらしい。エルフでキープしている貴族家の数を減らすわけにはいかないため、頭を挿げ替えることにしたとのことだ」
「ですが、どうしてそれをご主人様に!」
同じことが起こるよう立ち回るつもりだけど、この話はあくまでもミチオのことであって俺のことじゃないんだが……。
「セルマー伯との会談に同席したことがあったでしょ? その時に訪れた居城にハルツ公爵家のエンブレムが掛けられているのを見ていたから、フィールドウォークで移動できると思われたんだ。そのため、協力を要請される」
「そうですか……」
理解はしたけど納得はしていないって感じだな。
……話を続けよう。
「その要請を承諾し協力してセルマー伯を討ち、頭を挿げ替えることになるんだけど、一つ問題があった」
「問題ですか?」
「うん。セルマー伯の子女に一人だけ成人を迎えている者がいてね。その者がいると、たとえセルマー伯を討っても伯爵位は彼女に継承されてしまい、挿げ替えることができない。だから彼女を奴隷に落とすことになる」
「あ、彼女が……」
そりゃあ、気づくよな。
「そう。彼女が五人目の仲間となるルティナだ」
「そういうことだったのですね」
彼女が納得したように頷いていた。
十一巻を置き、十二巻を取る。とうとう最後の巻だ。
「奴隷身分に落とされ、褒賞として下げ渡されたルティナは今までの怠惰な行いを反省し、パーティーの一員として迷宮討伐に挑む決意をする」
「成人した貴族の子女なのに迷宮討伐を怠っていたのはいただけませんが、反省し心を入れ替えご主人様の役に立とうとするとは。彼女はなかなか見どころがあります」
だから、俺のことじゃないんだよなぁ……。
「そして、探索する階層は遂に四十五階層に到達し、そろそろ倒すべき迷宮を考える時期が来ていた」
「四十五階層ですか!? これは春から夏の途中までに起きた出来事ですよね!? たったそれだけの期間で四十五階層に到達するのですか!?」
作中、当事者としてミチオと行動を共にし続けたロクサーヌと違って、うちのロクサーヌは話を聞いているだけだから衝撃を受けるのも無理はない。
実際、現地の人からすればありえない速度で迷宮を攻略していく異常なパーティーだろう。
俺も今後、なるべく攻略階層を知られないよう細心の注意を払わなければ。
驚きの表情を浮かべていたが、彼女は不意に何かに気が付いたようで考え始めた。
そして、輝くような表情で俺を見つめながら口を開く。
「よく考えれば、私のご主人様なら同じ期間で五十階層。いえ、それどころか迷宮討伐を成し遂げてもおかしくはありません」
この娘とんでもないことを言い出したぞ!
いやいやいやいや。無理だから! そんな考えは今すぐ捨ててください!
「……ロクサーヌ。昨日も言ったけど、俺の迷宮攻略に対する基本方針は安全第一だ。常に一定の余裕を持ち、決して仲間を失うことなく迷宮討伐を成し遂げる。ゆっくりとそして確実にだ」
俺の言葉を聞いたロクサーヌは一瞬不満げな表情を浮かべるが、すぐに微笑みを浮かべて言った。
「そうでした。私のご主人様は強く、すごい能力を持っています。でも、それ以上にとてもお優しいご主人様でした。誰かと張り合って無理をする必要なんてないですね」
おー! ロクサーヌが自重してくれた!
イケイケドンドンで迷宮探索を進めようとするあのロクサーヌが!
「そうだね。自分たちが無理なく攻略できる階層を着実に上がっていこう」
「はい。無理のない範囲で戦える一番手ごたえのある階層に挑み、自分たちを鍛えて上を目指しましょう」
ん? 同じようなことを言っていてもなんかニュアンスが違う気がするんだが気のせいだよな? 気のせいでいいんだよな?
彼女の言葉に引っ掛かりつつも続きを話す。
「ルティナが加入後、エルフ一族の長である老女と会談を持つことになる。そこでネスコという街の奥に、エルフが総力を挙げて討伐しようとしている迷宮があるという話を聞かされ、その討伐に協力するよう要請されるんだ」
「迷宮討伐の要請ですか……」
「うん。そこでこの巻が終わり、続きが出る前に俺はこちらの世界へ来ることになった」
グリニアを探す話は省略していいだろう。
今後、どこかの迷宮を討伐してミチオが領主になったりするのだろうか?
この世界に来た以上、どんなに望んでも『異世界迷宮でハーレムを』の続きを読むことはできない。
その先は原作主人公が切り開き舗装した道を歩むのではなく、俺自身が道を切り開き歩んでいく必要がある。
いずれ自分の足で歩むために、今しばらくは原作知識という補助を受けながら力をつけていかなければならない。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv21 英雄Lv18 魔法使いLv21 戦士Lv18 商人Lv2
装備 サンダル
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
鑑定:1
必要経験値十分の一:31
詠唱省略:3
ワープ:1
ジョブ設定:1
MP回復速度二十倍:63
結晶化促進四倍:3
所持金:386,357ナール
春の4日目