クーラタルと帝都の防具屋を回ったが、やはり性能のいい腕装備は見つからない。
硬革のグローブで妥協したものの、それですらスロットが二つ付いたものはナシで、一つですら両方の店舗で二つずつ。改めてスキルスロットの希少性を思い知らされる。
そりゃ、他の鍛冶師が融合に失敗しまくるわけだ。
ドワーフが奴隷に落とされる際、鍛冶師から他のジョブに変更するのもむべなるかな。
鑑定のありがたさを痛感しつつ、武器屋に立ち寄り盗賊のドロップ品を売り捌く。
んじゃ、職場に向かうとしますかね
迷宮へ着いたら装備品を身に着ける。
俺が準備を始めると、ロクサーヌもいつものように匂いを確認し出した。
一瞬、首をかしげたものの、いつものように愛らしい動作でスンスンと確認を続ける。
可愛いんじゃー。毎日見てても全然飽きないんじゃー。
ハートを撃ち抜かれながらも他の娘たちの様子をうかがうと、彼女たちも装備やアイテムの確認をしたり、軽い運動をしたりで、迷宮探索の準備に余念がない。
ほんと、真面目でいい娘たちだよなぁ。
俺がワンターンキルをするせいでマンネリ化し、惰性で探索を行いそうなものなのに、そんな様子は皆無だ。
きっと、日々気合を注入してくださる軍曹殿のおかげだろう。
そんなことを考えながら準備を終えたところで、今度は身代わり装備の作成に移る。
購入したばかりの硬革のグローブと、ラス一となった芋虫のスキル結晶を取り出し、セリーに差し出した。
「融合を頼む」
「かしこまりました」
彼女が融合に取り掛かるのを見ながら、思索を巡らせる。
それにしても、芋虫のスキル結晶はこれで在庫切れかぁ。
俺の装備に融合した芋虫のスキル結晶は硬革の帽子、竜革のグローブ、ミサンガで三つ。
ロクサーヌの分は今セリーが融合している硬革のグローブとミサンガで二つ。
ルティナの分がオペラグローブとミサンガで同じく二つ。
ベスタの分はバラダム家から巻き上げたやつだから別として、セリーとミリアのミサンガで一つずつ。
そして、バラダム家から巻き上げた身代わりのミサンガは八つ。
そのうちベスタの分で一つ、エルンストとレナーテにそれぞれ一つずつ。さらにバラダム家に売却した分が四つ。
アイテムボックス内にはフリーの身代わりのミサンガがあと一つ残っているが、芋虫のスキル結晶はナシ。
万が一、身代わりのミサンガが切れればストックがなくなってしまう。
そして、アクセサリー以外の身代わり装備が壊れたときには、代替品の用意もできない。
他のパーティーより恵まれていることは百も承知だが、自他ともに認めるチキン野郎の俺にとっては危機的状況だ。
……バラダム家から巻き上げた身代わりのミサンガのうち四つは、相場の一・九五倍という超ぼったくり価格で奴らへ買い戻させている。今にして思えば、あれは残しておくべきだったよなぁ。
身代わりの硬革帽子や竜革グローブが壊れた場合には対応できないが、身代わりのミサンガであれば、複数同時に壊れたとしても問題ナッシング。
もっとも、そんな事態に陥るような階層に行くつもりはないけどさ。
とはいえ、ルティナの弟妹に渡すことになるなんて思わなかったし、それ以上にユニーク装備を作れるようになり、パーティー間で装備品のスライドが起こるなんて、ミーミルの泉に片目を差し出したわけでもない我が身では予想することなど到底不可能。
まあ、これは今だから言えることだな。
あれこれ考えているうち、融合が無事に終わる。
ロクサーヌはセリーから出来立てほやほやの身代わりの硬革グローブを受け取り、手をグー、パー、グー、パーと動かし始めた。
それを何度か繰り返し、問題ないことが確認できたところで彼女は表情を引き締める。
「ご主人様、ご報告があります」
うん? どうした、どうした。
続きを促すと、真剣な声色で言葉を紡ぐ。
「どうやらこの階層にケヴィンさんのパーティーと、先ほどハルバーで会話を交わしたパーティーがいるようなのです」
うそっ!? ケヴィンたちとさっきの奴ら!?
「そうなのですか!?」
どうやら驚いたのは俺だけではないようで、セリーが大きな声を上げ、ミリアとベスタもびっくりした顔でロクサーヌを見つめていた。
「はい。間違いありません」
マジかよ。もう二度と会うこともないと思ってたやつらと、こんなに早く遭遇することになるなんてなぁ。
それにケヴィンたちについてもそうだ。
ゴンザレスが魔道士にジョブ変更した際、ある程度余裕ができるまでは三十四階層以上に進むのを控えた方がいいと忠告をしていたのだが、どうやらそれは聞き入れてもらえなかったらしい。
いや。もしかしたら奴らの基準では十分強くなり、階層を上げても問題ないという判断をしたのかもしれない。
最後に会ったのはベスタが加入してすぐの、ベイルの冒険者ギルドだったはず。
あのときゴンザレスのレベルはいくつだっただろう? まったく覚えていない。というか鑑定をしたかどうかすら記憶にない。
いずれにせよ、迷宮探索稼業は何があっても自己責任。よそのパーティーの方針に口を出すのは憚られるし、彼らがそう判断したというのならそれでいいさ。
「ケヴィン? 先ほどのパーティーと揉めていた者たちですか?」
ルティナだけは頭の上にハテナが浮かんでいるような顔で首をかしげている。
ああ。この娘は奴らと会ったことがないもんな。
ミリアとベスタがケヴィンパーティーの情報をルティナに話しているのを見ながら、思索を巡らせる。
俺たちの戦闘スタイルは人に知られていいようなものじゃない。どちらのパーティーとも鉢合わせないように探索しないと。
ロクサーヌに確認をしてもらいながら、彼らを避けることにしよう。
まあつまり、いつも通りってことなんだけどさ。
彼女にその旨を伝えたところでキャラクター設定を開き、武器六にポイントを振ってデュランダルを取り出した。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 聖剣デュランダル ズケット 頑強のアルバ 剛腕のミスリル手甲 オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
オッケー、オッケー。準備完了。
「実験を行うのですね!?」
俺の行動を見たセリーが、瞳を輝かせながら問いかけてくる。
「うむ。見せてもらおうではないか。限定を解除した聖剣アスカロンの性能とやらを。まずは比較としてデュランダルを振るってみよう」
どこかの赤い彗星のようなことを宣うと、彼女は大きく頷いた。
「はい! 素晴らしいお考えだと思います!」
だしょー? めっちゃ気になるもんね。
しかし、テンションの上がっている俺たちとは違い、他の娘たちは苦笑交じりの顔でこちらを見つめていた。
別に俺たちは好奇心を満たすためだけにやろうとしているわけじゃない。比較検証は大切なことなんだぞ?
内心の反論を飲み込み、ロクサーヌに指示を出す。
「では、魔物のところへ案内してくれ」
「かしこまりました」
匂いを確認しながら小部屋から出た彼女に続き、俺たちも通路に足を踏み出した。
エンカウントしたのはスパイススパイダー二匹にハントアント二匹、そしてラピッドラビットが一匹。
彼女たちが魔物の攻撃を引き付けている間に、ルティナが相手取っているハントアントの背後へ回り込む。
そして袈裟懸けからの切り上げを叩き込むと、その二発で奴の体が実体を失った。
二発! 攻撃スキルも属性付与も使ってないのに二発! ヤベー! 俺TUEEE!
あまりのことにテンション爆上がり。嵩に懸かって魔物に襲い掛かる。
結局、魔物はすべてデュランダルを二回振るうだけで片付いてしまった。
腕力二倍のスキルまで乗っているとはいえ、これは結構すごいんじゃないだろうか?
自画自賛していると、ロクサーヌとルティナが興奮した様子で声を上げる。
「さすがご主人様! すごいです!」
「まさか属性付与も、スキルの使用もなしに四十四階層の魔物を二回の攻撃で倒してしまうだなんて! さすがアユム様です!」
ミリアとベスタもすごいすごいと大興奮。
ハハハハ。ナイスリアクション。
しかしお嬢様方よ、そう褒めてくれるな。これは装備品の性能のおかげだというのに、調子に乗ってしまうではないか。
浮かれ気分でロックンロール状態になっている俺だったが、ドロップアイテムを抱えたセリーが勢い込んで話しかけてきた。
「そんなことよりアスカロンの確認です! ご主人様、早くアイテムをしまってください!」
そんなことって……。
それにこの娘、全員が興奮している間に一人でアイテムの回収を済ませてんぞ……。
実験大好きコンビだったはずなのに、相方との温度差を感じてしまう……。
反論する時間ももったいないので、彼女から受け取ったアイテムをしまい、キャラクター設定を開いた。
武器六に振っていた分をアクセサリー五に振りなおし、いくつかの装備を変更する。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv33 料理人Lv36
装備 聖剣アスカロン 身代わりの硬革帽子 頑強のアルバ 剛腕のミスリル手甲 オラクルビットローファー ブリーシンガメン
うん。オッケー。
今回の肝はブリーシンガメン。こいつは攻撃力五倍を持っているため、これでデュランダルとアスカロンのパッシブスキルによる性能差は埋まっている。
以前、アスカロンの属性付与を使わず素の攻撃力を比較した際、若干だがデュランダルの威力が勝っていた。
しかし、それはあくまでも少しだけであり、ほとんど差はないと言っても過言ではない。
つまり、次の検証で結果に大きな差が生じた場合、制限解除によって基礎攻撃力が向上したことになる。
セリーが浮かれポンチになるのも当然だ。俺も興奮してきたぜー。
「ロクサーヌ、次の魔物のところへ案内してくれ」
「かしこまりました!」
俺たちの高揚に影響されたのか、彼女は尻尾をブンブン振りながら通路を歩き出した。
程なくして遭遇したのはスパイススパイダー、ラピッドラビット、ハントアントが二匹ずつ。
オッケー! 相手にとって不足なし! アユム! いきまーす!
先ほどの戦闘の焼き直しのように、ルティナが受け持っているハントアントの背後に回る。
オラッ!
横に薙ぎ払ったその一撃でアリの体がブルりと震え、そのまま靄のように消えていく。
ワンパン! 攻撃スキルも属性付与も使ってないのにワンパン! ヤベー! 圧倒的じゃないか! 我が軍は!
いまの俺を止められる者など誰もいない! さあ、かかってきやがれ!
内心で叫び声を上げながら、背後から魔物に襲い掛かった。
すべての魔物を一刀のもとに切り伏せ、戦闘が終了すると、通路に絶叫が響き渡る。
先ほどとは違い、今度はセリーも含めてすごいすごいの大合唱。
マジでそれな。スゲーよ。ユニーク装備の限定解除はマジスゲーよ。
さすが聖ゲオルギオスが竜退治に用いた剣の名を冠しているだけのことはある。秘められた性能が解放されたのだ、今後ボス戦で真価を発揮していくことだろう。
彼女たちの称賛を浴びながらも、どうして他の人たちはこれをしないのだろうという疑問が沸き上がってきたが、すぐにその理由に思い至る。
他の人にとってのユニーク装備は美術品や工芸品、あるいは投機の対象であり実用品ではない。
迷宮で使うことがない上に、限定を外して装備制限がかかるようになれば、取り扱いに難が生じる。
それにギルド神殿には各ギルド用の設備としての重要な使い道もあるし、試す者すらいないのだろう。
ぶっちゃけ、めちゃくちゃもったいないよなぁ。これをすれば迷宮探索の難易度がグッと下がるだろうに。
クーラタルの迷宮九十一階層に到達した、英雄のジョブを持っていた初代皇帝が制限を解除したユニーク装備で固めていれば、ワンチャンもっと上まで行けたんじゃないのかね?
あっ。というか勇者ではなく英雄でそこまでたどり着いているのだ。持っていた可能性もあるな。
もしかしたら帝宮の宝物庫にあるかもしれん。
落ち着きを取り戻したところで装備品とボーナスポイントの振り分けを行い、探索開始だ。
「では、始めよう」
「はい!」
通路に美しいハーモニーが響き渡る。
「ご主人様、そろそろお昼になります」
次の階層を目指してガンガン進んでいたのだが、ロクサーヌからすぐにタイムアップを告げられた。
まあ、午前中は昇格試験やハルツ公との話し合いもあったしな。
装備とボーナスポイントの変更をしながら確認したところ、俺の賞金稼ぎと料理人、それからルティナの魔法使いのレベルが上がっている。
結構、結構、コケコッコー。いいじゃない、いいじゃない。
全員で喜びを分かち合い、迷宮を後にする。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv34 料理人Lv37
装備 頑強のアルバ オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
BP振分 残BP:29/160
ワープ:1
獲得経験値二十倍:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
詠唱省略:3
キャラクター再設定:1
所持金:6,769,922ナール
夏の19日目