昨夜はすごかった。とても、とてもすごかった。
彼女たちはショートケーキにいたく感動し、感謝の気持ちと愛情が大爆発。色魔を擁するこの田川が圧倒されるほどの勢いで求められてしまったのだ。
いや、もしかしたら昇格試験のために前日は一巡だけでセーブしておいたことに対し、物足りなさを感じていた可能性もある。
まだ二日目のルティナは二回でノックアウトしてしまったが、他の娘たちからは二度、三度と求められ、結局最終的には四回ずつ愛し合ったところで満足していただけた。
人よりほんの少しだけ性欲が強い俺でも、色魔がなければすべてを受け止めることはできなかっただろう。
大切で愛しい女性たちに自分を求められ、その気持ちに応えることができる。これ以上幸せなことがほかにあるだろうか? いや、ない。
ネタジョブそのものの色魔だが、俺の中の有用ジョブランキングで勇者、遊び人、魔道士を抑えて堂々一位に躍り出たぞ。
そのうちレベル上げを行わなくては。
ベッドの中で滑らかな肌の感触と温かさ、混じり合った芳醇な香りを感じつつ、愚にもつかないことを考えていた。
ベイルの迷宮四十四階層へ行き、昨日の続きから探索を再開すると、すぐに待機部屋へたどり着く。
ボスはスパイクスパイダー。
既知であることもそうだが、以前戦った時とは状況が大きく異なっている。
パーティーの人数、それぞれのジョブとレベル、そしてなにより限定を解除したアスカロン。
お伴を連れていないボス二匹など物の数ではなく、一分も経たないうちに撃破してやりましたとも。
まさに秒殺。真・アスカロンにとっては試し斬りにもならぬ。我が愛剣は血に飢えておるわ。
……仮にも聖人が使った剣と同じ名を冠する武器に、その言葉はふさわしくないな。
我が愛剣は魔を断つ剣なり。主の威光を恐れぬのであれば、かかってくるがよい。
うん。こっちだな。もっとも、俺は無神論者なんだけどね。
あ、いや。異世界に転移させてもらっている以上、超自然的な存在や超越的な何かが存在していることは確実か。
神様だか仏様だかゾアメルグスター様だか知らないけど、この世界に転移させてくれてありがとう。信仰心はないしお供え物もしないけど、末永くよろしくお願いします。
装備の変更とボーナスポイントの振り分けを済ませ、ドロップアイテムをしまってから彼女たちの方へ顔を向けた。
「では四十五階層へ乗り込むぞ」
すると、全員好戦的な表情で口を開く。
「かしこまりました!」
ピタリとそろった声がなんとも心地いい。
うむ。大変結構。日光、結構、もう最高。出発、進行、絶好調。
アホなことを考えつつ、次の階層へと続く扉を潜る。
意気揚々と四十五階層の探索を始めたのはいいものの、メテオクラッシュとサンダーストーム二発のトリプルスペルではワンターンキルというわけにはいかず、サンダーストームをもう一発追加する羽目になった。
しかし、幸いなことにこの階層から出現する魔物はパットバット。さらに出現率が高い順にスパイススパイダー、ハントアントと続く。そう、すべて水属性を弱点としているのだ。
ごく低確率でラピッドラビットとコラージュコーラルが出現した場合は二ターン目が必要になるだろうが、打ち漏らしが発生する確率はそれほど高くはならないはず。
そのことを伝え、遊び人のスキル設定を変更しようとしたところ、ルティナが声を上げる。
「あの、ラピッドラビットやコラージュコーラルが出現した際は、魔物に接近する前に魔法を使用してもよろしいでしょうか? 弱点さえつけばわたくしの魔法もアユム様の助けになるかと」
彼女はそう言うと期待するような表情をロクサーヌに向けている。
別にいいけど、俺じゃなくてロクサーヌに許可を求めるんですね……。
いや、魔物と戦いながら魔法を使えるようになれとの指示を出していたのは俺ではなく師匠だし、こと戦闘においては彼女の判断の方が優れているから、全然いいんだけどさ。
気にしてないよ? 本当だよ?
どうでもいいことに引っかかりつつ、全員で一番奴隷さんのことを見つめていると、彼女は少し考え、小さく頷いた。
「もしあなたの魔法で倒せるようなら大幅な時間短縮となりますね……。今は先を急いでいる状況なのです。一度試してみましょう。それを見てから判断します」
微笑みながらそう告げたロクサーヌにルティナも笑みを返す。
「はい! ロクサーヌ姉様、ありがとうございます!」
二人の様子を見守っていたセリー、ミリア、ベスタも柔らかな表情で言葉をかける。
「おそらくご主人様がガンマ線バーストを使えば一発で済むでしょうが、それだと強壮剤を大量に消費してしまいますから、いいのではないでしょうか」
「私たちじゃ魔法を使うことができないもんね。ルティナだけの強みだよ」
「そうですね。ルティナの魔法はご主人様の力になると思います」
麗しい
すると、ロクサーヌがこちらへ顔を向ける。
「ご主人様、これでよろしいでしょうか?」
え? あ、はい。いいんじゃないでしょうか。
遊び人のスキル設定を下級雷魔法から中級水魔法に変え、探索に戻る。
エンカウントした魔物を蹴散らしながら進んでいると、数回目に遭遇したグループに、巨大な蜘蛛とアリ、それから二匹の蝙蝠に混じって赤い毛玉が存在していることに気が付いた。
おっ。ラピッドラビットだ。
ルティナの詠唱を聞きながら、魔法名を口にする。
「メテオクラッシュ、アクアストーム、アクアストーム」
フロアに隕石が降り注ぎ、魔物の体に大量の水がまとわりつき、その表面で暴れ狂う。
そして、凛とした追撃の声が上がった。
「ファイヤーストーム!」
迷宮の通路を彩る、隕石と水と火の共演。ここは白亜紀末のユカタン半島か。
程なくして一大スペクタクルが終了し、通路は元の静けさを取り戻す。
おー。ワンターンキルを継続だ。これで時短とMP節約を両立できたぞ。
「ルティナの魔法のおかげで、このまま探索を続けられそうだな」
「はい。本当にたいしたものです」
俺の言葉にロクサーヌが相槌を打つと、他の娘たちも口々に彼女のことを褒め称えた。
ルティナは賞賛の言葉に、はにかんだような笑みを浮かべながら答える。
「わたくしの魔法がアユム様のお役に立てるようで安心いたしました。ラピッドラビットかコラージュコーラルが出現した際は、わたくしにお任せください」
「うむ。次からもルティナに任せる」
「はい! ありがとうございます」
お姫様の整ったかんばせに童女のような笑みが浮かんだ。
あら、可愛い。
ドロップアイテムの回収をしようとしたところで、セリーから疑問の声が上がる。
「あの、今の魔物はご主人様とルティナ、どちらが倒したことになるのでしょうか?」
あ、そうか。その懸念もあるわな。
魔物を倒した際、魔結晶の魔力が入るのはラストアタックを取った者だけ。さらに獲得経験値二十倍の効果が乗るのも俺がラストアタックを取った個体のみ。
普通に考えるのであれば、ルティナが倒したのはラピッドラビットだけで、他の魔物はすべて俺が倒しているはずが、実際のところはどうなんだろう?
……この推論が間違っていたら面倒なことになるぞ。まかり間違ってすべてのラストアタックをルティナがとっていた場合、獲得経験値が事実上二十分の一になるのに等しい。
一匹、二匹の魔物を打ち漏らすだけならともかく、ルティナが魔法を撃つたびに経験値効率が落ちるのであれば、数年後には累計でとんでもない量の経験値を捨てることになる。
……よし。実験してみよう。
彼女たちに先ほどの考えを伝える。
「――というわけなので、実験をしようと思う」
「実験ですか!?」
案の定、実験大好きコンビの相方が瞳を輝かせた。
「ああ。こいつを使ってな」
アイテムボックスから黒魔結晶を取り出し、手のひらに載せたそれを女性陣に示す。
「なるほど。そういうことですか」
セリーは納得の表情を浮かべているものの、他の四人は一様に小首をかしげていた。
「それでどうやって確かめるんですか?」
思わずといったようにミリアが疑問を口にするが、ロクサーヌ、ベスタ、ルティナもどういう実験をするのか想像できないらしい。
「魔結晶の魔力が貯まるのは最後に魔物に攻撃を入れた者だけだろう? それを利用するのだ。だが、そのままでは何度も繰り返さないといけないため、結晶化促進三十二倍も使用する。そうすれば魔物を四匹倒したときに貯まる魔力は百二十八となり、魔結晶の色が紫に変わる。それで一目瞭然だ」
四人の顔に理解の色が浮かび、ミリアはポンと手を打った。
「なるほど! そういうことですか!」
その言葉に頷きつつ、話を続ける。
「なので、ロクサーヌにはラピッドラビットかコラージュコーラルが混ざっていて、なおかつそれ以外の魔物が四匹以上の群れがいる場所へ案内してもらいたい。それからルティナも先ほどと同じように魔法を頼むな」
「お任せください!」
「かしこまりました!」
二人は満面の笑みで頷きを返す。
ほんと、可愛い娘さんたちだこと。
ドロップアイテムの回収を済ませ、ロクサーヌの案内で歩き出した。
エンカウントしたのはコウモリが三匹に蜘蛛が一匹、そして赤いウサギが一匹の群れ。
さすがロクサーヌ。見事に注文にこたえてくれた。
四人が戦闘を開始し、ルティナが詠唱を始めたのに続き、魔法をぶっ放す。
「メテオクラッシュ、アクアストーム、アクアストーム」
雨あられと降り注ぐ隕石を見つつ、内心で独り言ちる。
さて、どうなりますかね。
戦闘が終了し、妻たちの五対の瞳に見守られながらリュックを開く。
しかし、そこにあった魔結晶の色は黒のまま。
嘘だろ? 黒? 赤ですらなく黒? マジで?
「通常、詠唱共鳴が発生するせいで複数の魔法が同時に発動することがないため確かめようもありませんでしたが、このような仕組みになっていたのですね……。興味深いです……」
最悪の想定が現実となったことで呆然としている俺とは異なり、我が相方は顎に手を当てながら呟きを漏らした。
いや、興味深いって……。実害が出とりますがな……。
さらにネコミミ娘が右の拳を突き上げながらそれに続く。
「じゃあ、今度はルティナが先に魔法を使って、その後にご主人様がトリプルスペルを撃つパターンを試してみましょー」
ベスタも頷きながら同意を示す。
「そうですね。それで問題なければ、今後はそうすればいいですからね」
ロクサーヌとルティナも首肯していた。
……確かにベスタの言うように、それでラストアタックが取れるのであれば問題ない。あまり考えすぎないようにしよう。
「では、次の実験だ。ロクサーヌ、案内を頼む」
尻尾を振りながら歩き出した最愛の人に続き、通路を進む。
次の群れはパットバット二匹とハントアント二匹、そしてコラージュコーラルが一匹。
今回は即座に魔法を撃つのではなく、ルティナの詠唱が終わるのを待つ。
彼女のファイヤーストームが発動したのを確認してから、こちらもトリプルスペルを叩き込んだ。
戦闘終了後、心臓の鼓動にせかされながらリュックを開くと、そこには仄かな紫の輝きを放つ楕円形の物体が。
それを取り出し、妻たちの方へと差し出すと、表情を輝かせたロクサーヌが声を上げる。
「さすがご主人様、すごいです!」
別に俺がすごいわけじゃないが、さすごしゅサンクス。
「継続的にダメージを与えているのか、それとも発動した段階で既定のダメージが入っているのでしょうか? どのように最後に攻撃した人を判定しているのでしょう? 実に不思議な現象です……」
マジでそれな。正直、判定がよくわからない。
複数の魔法が継続的にダメージを入れており、最後のHPを削り切った魔法を発動した者がラストアタッカーとなるのか?
……いや、それだと理屈に合わない。俺の魔法とルティナの魔法では数も威力も全然違う。俺の魔法がHPをゼロにする確率が高いはずで、一回目のような結果にはならない。
あるいは魔法の発動が終わるまでは、たとえHPがゼロになっても魔物の存在フラグがオンのままとか?
現に魔法のエフェクトが終わるまでは魔物は体を保っている。HPを確実に削り切っているであろう場面でもだ。
もしかしたら、その間も誰から攻撃を受けたかをシステムが判定し続けているのかもしれない。
……いや。これもないか。それだと、魔結晶を貯めたときに、貯まり方がおかしいと確実に気づく。
うーん……。まあ、考えても答えなんか出ないな。
推測を脇にうっちゃり、探索に戻る。
「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」
待機部屋を目指して探索を続けていると、ロクサーヌからタイムアップを告げられた。
そんじゃ、早朝の探索はここまでにしますかね。
装備とボーナスポイントの振り分けを行い、迷宮を後にする。
田川 歩 男 18歳
冒険者Lv62 勇者Lv57 遊び人Lv68 魔道士Lv62 賞金稼ぎLv40 料理人Lv42
装備 頑強のアルバ オラクルビットローファー 身代わりのミサンガ
ロクサーヌ ♀ 17歳
巫女Lv40
装備 貫通のミセリコルデ スヴェル ティアラ アルバ 身代わりの硬革グローブ セブンリーグブーツ よりしろのイアリング
セリー ♀ 16歳
鍛冶師Lv38
装備 竜革の帽子 オラクル竜革ジャケット 頑強の古代樹手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ミリア ♀ 15歳
探索者Lv36
装備 強権のエストック オラクル古代樹盾 耐火のダマスカス鋼額金 迅速の竜革ジャケット 頑強の竜革手甲 駿馬の竜革靴 身代わりのミサンガ
ベスタ ♀ 15歳
竜騎士Lv33
装備 ダマスカス鋼の剣 エストック 耐風のダマスカス鋼額金 ダマスカス鋼のプレートメイル 剛腕の古代樹手甲 オラクルダマスカス鋼グリーヴ 身代わりのミサンガ
ルティナ ♀ 15歳
魔法使いLv26
装備 ひもろぎのスタッフ 剛健のダマスカス鋼盾 オラクルティアラ 頑強の竜革ジャケット 身代わりのオペラグローブ バックルシューズ スコル
BP振分 残BP:28/160
ワープ:1
必要経験値二十分の一:63
シックススジョブ:31
MP回復速度十倍:31
鑑定:1
ジョブ設定:1
詠唱省略:3
キャラクター再設定:1
所持金:6,786,395ナール
夏の20日目