ワープゲートを抜けクーラタルの冒険者ギルドへ出る。
ここはいつ来ても寂れてるなぁ。
まあ、順番待ちをしなくてもいいのは助かるんだが。
買うものは、いざという時の保険として滋養錠を二個。それから、戦闘中の回復手段として滋養丸を1スタック分。ついでに強壮丸も1スタックになるように買い足しておくか。
それから、状態異常の対抗策として柔化丸と抗麻痺丸もいるな。五個ずつあれば大丈夫だろう。毒消し丸は明日ベイルの迷宮でウドウッドを狩れば、リーフがドロップして薬草採取士のジョブを獲得できるはず。そのあとに自分で作ればいい。
あとはコボルトフラワーとコボルトスクロースだな。多めに十個ずつ買っておくか。アイテムボックスに入れておけば腐らないから多めにあっても問題ないしな。
受付嬢の座るカウンターへ行き買うものを告げると、例のごとく一個ずつ精算していくので結構な時間を費やしてしまった。
一万五千ナール以上が一気に吹っ飛んでいったぞ……。
滋養錠二個で一万二千ナールもしたし、三割引が効かないのも痛い。
でも、これさえあれば四肢を切断するような大けがを負っても何とかなる。安全を買ったと思えばいいんだ。
よし、次はパン屋だな。
パン屋へ入るとおかみさんの威勢のいい声が出迎えてくれた。
「いらっしゃい。お客さんタイミングがいいですね。ここにあるのは、たった今焼きあがったばかりのパンですよ」
それを聞いてロクサーヌは嬉しそうにしている。
「焼きたてですか。柔らかそうでいいですね」
「そうだな。どうせ食べるなら美味しいものを食べたいからな」
おかみさんに確認してみよう。
「一番柔らかくて美味いパンをもらえるか?」
「でしたら、この高級パンですね。こちらは真っ白で風味豊か、そのうえフワフワで柔らかく当店一番のお勧めです」
昨日買ったものと同じか?
まあ、昨日のパンも美味かったし、わざわざ違うものを選ぶ必要もない。
今日から三食に戻すし、あの大きさなら一つでも二人で食べるには十分だな。
「ではそれを頼む」
「ありがとうございます。ひとつ八ナールとなっております」
支払いを済ませてパンを受け取り店から出る。
さて、次はハムと葉野菜だな。この二つは肉屋と八百屋で扱っているから特に問題ない。
他は牛乳にチーズにバター、それから卵か。どこで買えるかロクサーヌに聞いてみよう。
「ロクサーヌ。牛乳とチーズとバター、それから卵はどこで買えるだろうか?」
「すべて牛乳屋で取り扱っていると思います。ですがご主人様、牛乳を買うためには入れ物が必要です」
あー、確かに原作でも牛乳を買うには容器がいるみたいな話があったわ。
さすがにミネラルウォーターのペットボトルを使うわけにいかないしなぁ。水がめを買うときに一緒に買っておくんだった。
壺屋が開いているか確認しながら牛乳屋に寄るか。
もし空いてないなら牛乳だけはお昼に買えばいいだろう。
家へ戻りキッチン収納へ買ってきたものをしまっておこう。
やはり壺屋が開いてなかったため牛乳を買うことが出来なかったので、それについてはお昼にもう一度行くとしよう。
食材をしまい終えたところでロクサーヌに火を渡しポトフを温め直してもらう。その間に俺は掃除をしておこう。
「俺は掃除をしているから、準備ができたら声をかけてもらえる?」
「家事は奴隷である私の仕事なのに、ご主人様にしていただくのは申し訳ないです」
何をおっしゃるオオカミさん。
「これだってロクサーヌとの二人暮らしの一部なんだ。そう思うと掃除だって楽しみの一つだよ」
「ご主人様!」
おっと。
感極まったのか、抱きついてきた体を受け止める。
そして、ロクサーヌは俺の体をぎゅっと抱きしめると目を閉じ少しだけ顔をあげた。
キス待ち顔!
これはいいんだよな? ちゅーしちゃっていいんだよな?
柔らかくて弾力があり、良い匂いのするロクサーヌの体を抱きしめ、唇を重ねる。
すると、待ちきれないというようにこちらの口内に舌を侵入させ、俺の舌へと絡め始めた。
「ご主人様、ありがとうございます。そのお気持ちが本当にうれしいです」
ロクサーヌは抱き合っていた体を離すと、はにかみながら笑みを浮かべそう告げる。
こんなに積極的な行動をとるなんて。やはり原作のロクサーヌとは違う俺だけのロクサーヌだ。
改めて俺のことを受け入れているのが伝わってきて嬉しくなる。
「俺の方こそ、食事や洗濯をしてもらって本当に助かっている。ロクサーヌ、ありがとう」
ちゃんと感謝の言葉は口にしておかないとな。
そして、キッチンを出て掃除を始めた。
二十分ほどたっただろうか。一階を掃き終わり気になるところを雑巾で拭いていると、近づいてきたロクサーヌに声をかけられる。
「ご主人様。ポトフが温め終わりました」
「それじゃあ、朝食にしようか」
キッチンに入るとダイニングテーブルにはポトフとサラダ、それからさっき買ったパンが置かれていた。
ポトフを取り分け、パンを半分にしてロクサーヌに渡す。
「いただきます」
久しぶりにいただきますって言ったわ。
一人で飯を食ってたせいで、まったく言ってなかったもんなぁ。
これからは、一緒に食べる相手がいるんだ。意識していただきますやごちそうさまを言うことにしよう。
スプーンで肉とスープを掬い口の中に入れると、昨日より明らかにうま味が増している。
コクがあるといえばいいのか。肉や野菜からうま味成分がスープに溶け出し味に深みが出ているのだろう。
これはちょっと感動ものだ。
「一晩寝かせたポトフを食べたのは初めてだけど本当に美味しい。ロクサーヌはすごいなぁ」
「ありがとうございます、ご主人様。喜んでいただけて嬉しいです」
じゃがいもや野菜も味が染みていて美味い。
しかしこうなると米が欲しくなってくるぞ。これ絶対米に合うだろ。
俺はビーフシチューやクリームシチューだって米の方が合うと思っている男。おじやにしても美味いだろうなぁ。
米があるならぜひ欲しい。ジャポニカ米なんて贅沢は言わないからとにかく米を!
あ、そうだ。一応試してみるか。
「ロクサーヌ、お米ってどこかで買える?」
おお! ブラヒム語に翻訳されたよ!
間違いなくこの世界にも米はあるぞ!
「おこめですか? それはどういったものでしょうか?」
マジかぁ。ロクサーヌが知らないということはこの辺にはないのかぁ。
「俺の故郷で主食として食べられていたものなんだけど、聞いたことない?」
「申し訳ありません。私は初めて耳にしました」
原作ではどうだったんだろう? ミチオはお米に対して執着がなかったせいで、まったく探していなかったからわからないが、これから買い物の際には意識して探してみよう。
あとはそうだな、セリーが加入した時に聞いてみるか。物知りのセリーなら何か知っているかもしれない。
それに、知らない場合でも図書館に行くときに調べてもらうのもありだな。
「ごちそうさま。ロクサーヌ、ありがとう。とても美味しかった」
「こちらこそありがとうございます。喜んでいただけて嬉しいです」
朝食も取ったし歯磨きとお手洗いを済ませたら、少しばかり予習をして迷宮に戻ろう。
部屋からリュックを取ってきてリビングに入ると、待っていてもらったロクサーヌが問いかけてくる。
「ご主人様。何をするのですか?」
「念のためクーラタルの迷宮に出てくる魔物の確認をしようと思うんだ」
俺の言葉に頭の上にはてなが浮かんだような顔をしたが、すぐに思い当たったのか納得の表情になる。
「あの本で調べるのですね」
「うん。細かい違いはあるだろうけど、万全を期すためにね」
ロクサーヌとソファーに腰かけながら書籍版の三巻をパラパラ捲り確認する。
あれ? 書籍版だとクーラタルの迷宮三階層は、雑魚がスパイスパイダーでボスもスパイスパイダー? 誤植か?
念のためウェブ版を確認すると、雑魚がスパイスパイダーで、ボスがスパイススパイダー。
WIKIの方もウェブ版と一緒だな。こっちの方がわかりやすいから、こっちを参考にするか。
やっば! スパイスパイダーも毒を持ってるじゃねーか。すっかり忘れてたわ。
明日自分で作るなんて悠長なことは言ってられない。再度迷宮に行く前に冒険者ギルドで買っておこう。
なんせ、あのミチオですら毒を受けたら前後不覚に陥ってるんだ。俺がくらったらそのまま死んでもおかしくない。安全第一だ。
四階層の雑魚がチープシープで、ボスがビープシープ……。
ビープシープはめちゃくちゃ印象に残っている。
作中数少ないロクサーヌが被弾した相手だ。
デュランダルで攻撃をし続け、眠りスキルを発動させないように気を付けておこう。
五階層は、雑魚はコラーゲンコーラルでボスがコラージュコーラル。
逆にコラージュコーラルは全然印象にないなぁ。作中に出てきたっけ? それとも名前だけ出たのかな?
んで、六階層がミノにハチノス。七階層がスローラビットにラピッドラビットか。
まあ、今日の探索は午前中だけなんだ。六階層や七階層まで行くことはないだろうから、ここまでにしとくか。
書籍とパイプファイルを閉じるとロクサーヌが尋ねてくる。
「ご主人様。わかりましたか?」
「一応ね。これによると三階層がスパイスパイダーでボスがスパイススパイダー。四階層がチープシープでボスがビープシープ。五階層がコラーゲンコーラルでボスがコラージュコーラル。六階層がミノでボスがハチノス。七階層がスローラビットでボスがラピッドラビットだった」
うんうん頷きながら聞いていたロクサーヌが、目を輝かせながら言葉を発する。
「今日の午前中だけで七階層のボスまで倒すのですね! さすがご主人様です!」
違います! 念のために調べただけです!
「いや、これは念のため調べただけで、目標はあくまでも魔法一撃で倒せる敵の確認と、MP回復拠点確保のために人の少ない階層を探ることだから」
「なるほど。余裕があれば狙うということだったのですね」
あれ? いや、うん。まぁそういうことになるのか?
「そうだね。魔法一発で倒れるようならそこまで行ってもいいかもしれない」
俺の言葉を聞き、ロクサーヌは嬉しそうに返事を返す。
「はい! ご主人様なら問題ないでしょう!」
いやぁ、ご主人様は問題あると思うなぁ……。
「よし、それじゃあ準備も済んだし冒険者ギルドに寄ってから迷宮に戻ろう」
「はい!」
ロクサーヌが嬉しそうにしているし、まあいいか。
冒険者ギルドで無事に毒消し丸を用意したし、レベル上げとMP回復拠点確保の続きといきまっしょい。
とりあえず、MP回復速度二十倍を獲得経験値二十倍に戻しておこう。
念のためロクサーヌに毒消し丸を十個渡しておく。
これでどちらかが毒になってもお互いにフォローできる。
……ロクサーヌが攻撃を受けて毒になるとは考えにくい。フォローされるのは俺だけなんだろうなぁ。
そして、三階層の混み具合について確認するため、顔を寄せ耳打ちをする。
「混み具合はどうだ? 魔法を使えそうか?」
問いかけると、こちらの耳に顔を寄せ囁いた。
「だいぶ多いようです。戦いを見られる可能性があるので魔法やデュランダルは使わない方がいいでしょう」
マジかぁ。
1確できる魔物の確認も、MP回復量の確認も、そしてレベル上げすらできないな。
「ご主人様。クーラタルの迷宮は三階層と四階層の人数が多くなっています。ですが、五階層以上になると徐々に人が減っていきますので、上を目指した方がいいのではないでしょうか」
どうするべきだ? 三階層、四階層はロクサーヌの鼻で通り抜けて五階層から戦うか?
それとも、一旦河岸を変えてベイルの迷宮へ行くか?
……そうだな。一度五階層を試してみるか。
五階層での一戦目は63ポイントをフリーにしておいて、危ないと思ったらオーバーホエルミングを使い、ロッドとデュランダルを持ち換えてラッシュで一気に片づける。
一戦目でオーバーホエルミングの出番がないようなら、獲得経験値二十倍に戻してレベル上げとMP回復量の確認をしよう。
「ロクサーヌ。三階層と四階層の魔物は避けて五階層から戦おうと思う。ボス部屋まで案内を頼めるか?」
「はい。おまかせください、ご主人様」
地図を確認しつつ、鼻をスンスンさせながら歩くロクサーヌのあとをついて行く。
さすがロクサーヌの鼻だわ。一度も魔物に出会うことなく待機部屋まで来ることが出来た。
本当にとんでもない能力だよな。
姐さん、これからもお世話になりやす。
うわー。ここもめちゃくちゃ人が並んでるよ。
クーラタルの迷宮はメジャーな迷宮のため、地図があり、ノウハウも確立されているはず。それに人が多いおかげである程度の間引きもされていて事故の確率が低いのだろう。
初心者が挑むにはこれ以上ないほどの好条件ってわけだ。
そして、初心者を脱するころにはそれぞれのパーティーに合った迷宮や階層へ挑戦するってことか。
列に並び順番を待っていると、またもやロクサーヌがあからさまな視線にさらされている。
恥ずかしそうにしながらもチラッチラッとロクサーヌの顔と胸部をうかがうチェリーっぽい僕ちゃん。昨日までの俺を見ているようでいたたまれないからやめたまえ。
こちらを見ながらニヤニヤと笑い、仲間と何やら話しているやつら。
男性三人、女性三人の狼人族のパーティー。男性メンバーは三人ともロクサーヌをガン見し鼻をヒクヒクさせている。
ロクサーヌから狼人族しか感じ取れないフェロモンでも出ているのだろうか?
そして、男性陣が夢中になっているのが気に食わないのか憎しみのこもった視線を向ける女性陣。
美人は美人で大変なんだなぁ。
でもまあ、俺だけのロクサーヌなんだ。誰にも絶対渡さない。
見ているだけならともかく、ちょっかいをかけてくる奴はただじゃ置かん。
順番待ちをしている間にキャラクター再設定を見直すか。
ボス戦では安全のためデュランダルで戦うことになる。今のうちに63ポイントをフリーにしておこう。
そして、デュランダルを使う関係上どうしても経験値効率が落ちてしまう。それなら万全を期すため商人から僧侶に変更した方がいいな。
そうこうしているうちに俺たちが最前列となり、ボス部屋の扉が開く。
「それじゃあ、行くか」
「はい、ご主人様」
どうせ斬りつけるとMPが回復するんだ。開幕オーバーホエルミングからラッシュを打てるだけ打ってみよう。
ボス部屋に入るとお馴染みのエフェクトでボスが現れる。
スパイススパイダーLv3
こっわ! 人よりでかい蜘蛛って威圧感半端ないぞ。
「行きます!」
でかい蜘蛛に怯むことなく飛び出し、スパイススパイダーの正面に立って、複数の脚から繰り出される攻撃を掻い潜りタゲを取り続けている。
さすがロクサーヌ! 俺も続くぞ!
オーバーホエルミング
念じた途端、ロクサーヌとスパイススパイダーの動きがスローモーションになった。
一気にスパイススパイダーの背後に回り、その丸っこい腹を目掛けデュランダルを振り下ろしながら念じる。
ラッシュ
剣が腹を通過した勢いのまま、身を翻しそのまま得物を薙ぎ払いながら再び念じた。
ラッシュ
まだ倒れないのか!
デュランダルを体の近くに戻し、突き入れながら再度念じる。
ラッシュ
剣身が丸ごと蜘蛛の腹に埋まったところで、その体が空気に溶けるように辺りへ散っていった。
「ふぅ」
通常の時の流れに戻されたところで、思わず息が漏れる。
やっぱり雑魚とボスでは緊張感が全然違うわ。
1確できないため反撃を食らう可能性があり、心理的プレッシャーが常にかかり続ける。
ロクサーヌとの修行でこのプレッシャーを克服できるだろうか?
「たった三回の攻撃で三階層のボスを倒してしまうなんて! さすがご主人様です!」
さすごしゅありがとさん。
でも、これ真正面でタゲを取り続けていたロクサーヌのおかげなんよなぁ。
ボスの正面に立って回避タンクなんて恐ろしいこと俺には絶対無理だ。
「攻撃を当て続けることができたのは、ロクサーヌがスパイススパイダーの正面でずっと気を引き続けてくれたおかげだ。本当にありがとうな」
褒められたのが嬉しかったのか、ニコニコ笑顔で尻尾が揺れている。
「ふふ。こちらこそありがとうございます。これからもご主人様のお役に立てるよう頑張りますね」
本当にこの娘めちゃくちゃかわいいわぁ。
ドロップアイテムの胡椒をアイテムボックスに放り込む。
さてと、デュランダルをポイントに戻したし、シミターも腰に差した。四階層に進むか。
「それじゃあ、四階層に行こう」
「はい」
ボスを倒して開いた扉へ向け俺たちは歩き出した。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv22 英雄Lv18 魔法使いLv22 戦士Lv19 僧侶Lv15
装備 シミター 皮の帽子 皮の鎧 皮のグローブ 皮の靴
BP振分 残BP:63
キャラクター再設定:1
フィフスジョブ:15
鑑定:1
必要経験値十分の一:31
詠唱省略:3
ワープ:1
ジョブ設定:1
結晶化促進四倍:3
腕力上昇:1
所持金:370,384ナール
春の5日目