異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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041 グッドタイミング

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 帝都の冒険者ギルドから出て表通りを歩きながら、装備品についてロクサーヌへ確認してみる。

 

「やはりロクサーヌは金属製の防具だと厳しいか?」

「そうですね。重量のある防具だと動きが阻害されてしまいますので金属製は苦手です」

 

 そうだよなぁ。長所である回避能力を殺しては元も子もない。

 しかし、原作でロクサーヌは鉄の盾やダマスカス鋼額金を装備していた。

 動きに影響が出ないような物なら金属製でも問題ないのだろう。

 

「竜革の防具でもあればいいんだがなぁ」

「竜革製の防具は貴重ですから店売りだと難しいかもしれません」

 

 うーん……。

 原作ではダマスカス製の装備品は店頭にこそ並んでいなかったが、カウンターの奥に飾られ販売自体はされていた。

 一方、竜革製の装備品については、ミチオ達もバラダム家の放出品が出るまで目にすることがなく、そして入手機会も限られていた。やはり、そこらでホイホイ買えるようなものではないのだろう。

 

 

 

 その差は一体何だろうか?

 

 ウェブ版ではダマスカス鋼の加工が可能になるには竜革の加工経験も必要ということになっていたが、書籍版以降はその設定はなくなったようだった。

 

 それでも、製造難易度はおそらくそう変わらないだろう。

 それなのに、ダマスカス製は店売りされているのに対し、竜革は店売りされることなく貴重な装備品という扱いだ。

 

 やはり、素材の入手難易度だろうか?

 

 ダマスカス鋼がレアドロップとなっているレムゴーレムは魔法使いがいないパーティーでも倒せるため、市場に流れ鍛冶師の手に渡るのかもしれない。

 それにたいして竜革は、ウェブ版でこそボスではないドライブドラゴンからもドロップしたが、書籍版ではそのボスであるランドドラゴンのレアドロップへと設定が変更されている。

 ランドドラゴンの攻略難易度はレムゴーレムとは比較にならない。

 おそらくその素材はおいそれと手に入るものではないのだろう。

 

 まあ、ない物ねだりをしてもしょうがない。

 スロット付きのダマスカス製の額金と盾があればそれを買い、そのほかの部位はスロット付きの硬革防具で固めよう。

 

 

 

 しかし、たった一日でここまで防具に対する意識を変えられるとは思わなかった。

 オーバーホエルミングを使った俺の攻撃はロクサーヌに当たる可能性がある。

 レベル差があり、そのうえジョブマシマシなんだ。非装備品とはいえ、昨日の様子を見るに攻撃力もそれなりに高いはず。

ロクサーヌに万が一があったら後悔してもしきれない。これは絶対に必要なことだ。

 

 

 

 

 

帝都

防具屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内に入ると防具商人の挨拶の声が出迎える。

 

 

 

 店内を確認するが、やはり竜革装備は見当たらない。まあ、前回確認してからたった二日しか経っていないんだ。そうそう掘り出し物が入荷しているはずないわな。

 

 気を取り直して硬革シリーズの防具を確認するが、やはりこちらも複数スロットの品が一つもない。

 でもまあ、これはそのうちスキルをつけて売り払うことになるし、スロットが一つしかなくても問題ないさ。

 

 スロット付きの硬革のジャケットをいくつか取りロクサーヌへ手渡す。

 

「ロクサーヌ用の硬革のジャケットだ。この中から選んでもらえるか?」

「なるほど。これがそうなのですね。ご主人様、ありがとうございます」

 

 俺がスロット付きを選んだことに気がついたのだろう。ロクサーヌは納得したような表情を浮かべジャケットを受け取ると、表情を引き締め確認しだした。

 

 

 

 こうなると長いからな。その間に他の装備品を選ぶべ。

 

 スロット付きの硬革の鎧、硬革のグローブを二個、硬革の靴二個をカウンターへ持っていく。

 

「まだ他にもあるので、すまないがここに置かせてもらえるか?」

「はい。問題ありません」

 

 ひとまず硬革の防具をカウンターへ置き、その奥にある防具に鑑定をかける。

 

 

 

 おお!

 

 一昨日は全く買う気がなかったせいでスルーしていたが、ダマスカス鋼の額金とダマスカス鋼の盾にそれぞれ一つスロットが付いていた。

 

 店員にそれらを購入する意思がある旨を伝え持ってきてもらう。

 

 

 

 ダマスカス鋼の盾を見てみると逆三角形で二辺が丸みを帯びた形をしている。

 午前中に使った丸盾とはずいぶん形状が違うが使い勝手はどうなんだろう?

 

 試してみるか。

 

 手に取り取らせてもらい、ベルトに手を通して持ち手を握り一通り動かしてみる。

 

 

 

 重量については鉄の盾に比べそれほど重いと感じないので特に問題はない。

 

 だが、木の盾や鉄の盾の円形に比べると、その形の分少しだけ取り回しが悪くなっている気がする。

 今日初めて盾を使った俺ではどちらだろうと上手く扱えないため、あまり影響はないだろう。

 しかし、ロクサーヌは違和感を覚えるかもしれない。

 本人に確認してみよう。

 

 

 

 さて、問題は額金と盾をそれぞれあと一つどうするかだなぁ。

 

 ちゃんと確認していなかったせいで、クーラタルの防具屋にスロット付きのそれがあったかなんて全然覚えていない。そもそも、盾や額金自体あったのかすら記憶にないわ。

 

 うーん……。

 クーラタルの防具屋を確認してみて、そのときに決めればいいか。

 

 とりあえず、これらはロクサーヌの装備にしておこう。

 魔法攻撃を行うときは後衛にいるのでダマスカス製にこだわる必要はないだろう。

 デュランダルを出しているときは攻撃を喰らってもHP吸収が仕事をしてくれる。

 

 とにかくロクサーヌの安全第一だ。

 

 

 

 購入する物をカウンターへ置きロクサーヌを待っていると、しばらくして硬革のジャケットを持って近づいてきた。

 

「決まったのか?」

「はい、こちらをお願いします」

 

 それを受け取ってカウンターに置き、かわりにダマスカス鋼の盾を差し出す。

 

「木の盾とだいぶ形が変わるので、使い心地に問題がないか確認してくれ」

「はい」

 

 ロクサーヌは盾を装着して少し離れると舞を踊るかのように動き始めた。

 

 シャドーボクシングのように、仮想の敵から繰り出される攻撃をかわしたり、盾で受け流したりしているのだろう。だんだん動きが速くなっていく。

 

 これどんな敵を想定しているのかな?

 俺はロクサーヌがタイマンで物理攻撃を食らうところがいまいち想像できない。

 

 もし被弾するとしたら、原作でビープシープに食らった睡眠攻撃のような状態異常に陥っている場合か、もしくは必中の全体攻撃魔法を撃たれた場合。あとは、複数の魔物に取り囲まれて全方向から同時に隙間なく攻撃を受けた場合。おそらく、こんな状況ではないだろうか。

 

 見ているうちに動きは激しさを増していき、店内にはロクサーヌが奏でる、衣擦れと床を蹴る靴の音が響いていた。

 

 すごいな……。

 その美しさと華麗な動きが相まって、何か神聖な儀式でも見ている気になる。

 

 

 

 

 

 しばらくして使い心地を確認し終えたのか、動きを止めるとこちらへ戻ってくる。

 

「ご主人様。動きには支障ありません。形状には少しだけ違和感がありますが使っているうちに慣れるでしょう」

 

 大丈夫そうだな。

 よし、それじゃあ購入しよう。

 ロクサーヌから盾を受け取り、カウンターに乗せて防具商人に声をかける。

 

「では、これらの会計を頼む」

 

 彼は放心したようにロクサーヌの方をボーっと眺めていたが、俺が声をかけるとハッとしたように顔を引き締め、商品を確認しだした。

 

 わかる。気持ちはすごくわかる。

 女神降臨って感じだったもんな。

 こんなに美人でかわいくスタイル抜群なうえに、動きの美しさも加わってこの世のものとは思えなかった。

 そりゃもう、心が奪われても仕方がないだろう。

 

 でも、俺のロクサーヌだ。見るだけならいいが、何人たりとも手出しは許さない。たとえ貴族や皇帝であろうともだ。

 俺からロクサーヌを奪おうとするやつがいたら、そのときは持てるチート能力のすべてを使い全力で抗ってやる。

 

 

 

 防具商人は鑑定を終えると告げた。

 

「ダマスカス鋼の盾が一個、ダマスカス鋼の額金が一個、硬革の鎧が一個、硬革のジャケットが一個、硬革のグローブが二個、硬革の靴が二個で合計八万六千六十ナールとなりますが、大変良いものを見せてもらいましたので、今回は六万六百二十ナールといたします」

 

 三割引きでも金貨六枚が吹っ飛んだ!

 めちゃくちゃ痛い。めちゃくちゃ痛いが間違いなく迷宮探索や修行で役立ってくれるだろう。

 それにスキル結晶をつけて売却すれば確実に収支はプラスになる。

 これは散財ではなく先行投資だ。大丈夫、なんの問題もない。

 

 

 

 

 

帝都

武器屋

 

 

 

 

 

 武器屋へ入り店内を確認するが、やはりこちらも二日前と変わっている様子がなかった。

 複数スロットがついた武器はなく、ダマスカス製の武器にはスロット付きすらない。

 まあ、しょうがない。明後日はベイルの市が立つ日だ。そのときにまた来てみよう。

 

 店員に貴族向けの高級な雑貨を扱う店の場所を聞いて店を出る。

 

 

 

 

 

帝都

高級雑貨店

 

 

 

 

 

 高級雑貨店に入ると通路が広めにとられており、腰の高さほどの店舗什器に商品が美しく並べられていた。

 ベイルやクーラタルの雑貨屋とはだいぶ趣が異なるな。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内を見回していると店員に声をかけられる。

 紺色のクラシカルな女中服を着たきれいなお姉さんが静かに声をかけてくる。

 

 あれはロクサーヌのメイド服と同じデザインの物だろうか? 確か宮廷にいる侍女たちの服を模したものだったはず。

 

 エプロンを着けていないとこんな感じなのか。

 これはこれでありだな。ロクサーヌがメイド服を着るときにお願いして、エプロンを付けていないバージョンも見せてもらおう。

 

 

 

「歯を磨くブラシを探しているのだが、こちらで扱っているだろうか?」

「はい、取り扱っております」

 

 店員に案内され少し離れた什器へ移動する。

 

 

 

「お客様がお求めの品はこちらになります」

 

 商品を確認すると木の柄に毛が植えられた馴染み深い形の歯ブラシがあった。

 

 そう、これだよこれ!

 これじゃないと歯の裏とか磨きにくいもんな。

 

「こちらの歯ブラシはピックホッグが残す豚の毛を使用した、貴族向けの高級品となります」

「ピックホッグ! 十二階層以上に出現するピッグホッグのボスですか!」

 

 ロクサーヌが驚いたように声をあげた。

 

「はい。素材にこだわり、また職人が手間暇かけて作成していますので百ナールと値は張りますが必ずや満足していただけることでしょう」

 

 一本百ナール……。

 シュクレの枝は二本で一ナールだった。その二百倍か……。

 

 いや、でもこれは絶対に必要だ。買わないわけにはいかない。

 

「それでは、予備も含めてそれぞれ二本ずつだな。四本もらおう」

「ありがとうございます。それではあちらでお会計させていただきます」

 

 そう言うと店員はカウンターの方へ歩いていく。

 歯ブラシを四本持ちカウンターへ向かおうとするとクイクイと袖を引かれる。

 そして、ロクサーヌは俺の耳に顔を寄せると囁いた。

 

「ご主人様。奴隷にそのような高級品はもったいないです。私はシュクレの枝で問題ありません」

 

 何をおっしゃるオオカミさん。

 自分だけ高級品を使ってロクサーヌに粗末なものを使わせるなんてできるはずがない。

 

 ロクサーヌの耳に顔を近づけ小声で告げる。

 

「二人で歯をきれいに磨いてたくさんキスをしたいんだが、ロクサーヌはどうだ?」

 

 驚いたようにこちらを見たので目を合わせて頷く。

 すると、照れながら笑みを浮かべ俺の耳に顔を近づけて囁いた。

 

「私も歯をきれいにしてご主人様とたくさん口づけを交わしたいです」

 

 あーもー大好き! 今すぐ抱きしめてキスしたい!

 

 

 

 予備も含めて四本購入しリュックに入れる。

 そして、スパイスを扱っている店と魚醬を扱っている店の場所を教えてもらって外へ出た。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 教えてもらったスパイス屋へ行くと外までその独特な匂いがしている。

 

 中に入り店員にクミン、コリアンダー、シナモン、カルダモン、レッドペッパー、ターメリックを確認すると、どれも扱っており問題なく購入することができた。

 

 よっしゃ! 今日の我が家はカレー曜日だ!

 

 カレーを初めて食べるロクサーヌにスパイスカレーは難易度が高いかもしれない。というか俺も辛いカレーよりマイルドなカレーの方が好みだし、うちのカレーはそっち系になるだろう。

 

 

 

 スパイス屋を出てすぐ近くにある魚醬を扱っている店に行くと、こちらも外まで発酵した魚の匂いが漂っている。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 中に入ると店番をしている老婆が声をかけてきた。

 

「匂いが少なくてクセのない魚醬を探しているのだが、そういったものはあるだろうか?」

 

 問いかけると老婆はしかめっ面になり答える。

 

「本当に美味しいものはある程度のクセがあるもんなんだよ。それをなんだい。最近の若い者はそんなものばかり欲しがって」

 

 おいおい、婆さん。いきなり客に説教かますなよ。

 そんなことを言われても、無理なもんは無理なんだ。

 あんただって、生卵とか刺身、あと納豆を食えと言われても絶対無理だろうに。

 

 ……というか、この世界では俺も無理だな。

 サルモネラ菌の危険性があるので生卵は怖い。

 刺身についてはどの魚のどの部位が生で食えるかわからないうえに、寄生虫の心配もあって食う気になれない。たとえ迷宮産であってもだ。

 納豆を自作しても発酵なのか腐敗なのか区別がつかないだろう。

 

 これらはもう二度と食えないんだろうなぁ。

 

 

 

「すまないがうちには狼人族がいるんだ。鼻が敏感なためそういったものは厳しい」

 

 俺がそう言うと、ロクサーヌはうんうん頷き同意している。

 

「そうかい。それならしょうがないね」

 

 そう言うと老婆は小皿に少しだけ魚醬を入れ、こちらに差し出した。

 

「これがうちで一番クセのないやつだよ。試してみとくれ」

 

 小皿を受け取って指をつけ舐めてみると、魚の生臭さや発酵臭といったクセもなく、辛さと旨味、塩気を感じる。

 うん。全然問題ない。

 

 

 

「ロクサーヌも試してみてくれ」

「はい」

 

 小皿をロクサーヌの方に寄せると、指をつけ舐めている。

 

「これなら私の鼻でも問題ありません。ご主人様、お気遣いありがとうございます」

 

 よし。それじゃあこいつを買おう。今後リピートは確定だな。

 

「では、これをもらえるか」

「そこにある小さい壺が三百ナール。大きい方が五百ナールだよ。どっちにするんだい?」

 

 しばらくは二人だし小さい方でいいだろう。

 塩分濃度が高そうだから腐らないとは思うが、使いきれず長期間常温放置をして万が一があっても困る。

 今後リピートをするときに人数が増えたら大きい方を買えばいい。

 

 あ、そういえば空きペットボトルがあったな。

 小さい壺は五百ミリリットルもなさそうだし、あれに入れておくか。

 酸化や腐敗に対し、多少なりとも効果が望めるはずだ。

 

 

 

 支払いを終えて店を出る。

 

「一旦荷物を置きに家へ戻ろう。人目につかない場所へ案内してもらえるか?」

「はい。おまかせください」

 

 ロクサーヌの案内で路地裏へ入り、そこにある壁へワープゲートを展開した。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅へ戻り、買ってきた食材をキッチン収納へしまいこみ、今度はクーラタルの冒険者ギルドへワープを行う。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 クーラタルの冒険者ギルドから外へ出て、中心地を目指して歩く。

 スロット付きのダマスカス製の盾があればいいんだけどなぁ。

 

 

 

 あ。

 歩いている途中に雑貨屋を見つけ、歯磨き粉を取るのに用いる木製の小匙を買うつもりだったことを思い出した。

 

 雑貨屋へ入って目当てのものをパパっと購入し、再び通りを歩く。

 

 

 

 中心地へ着くと金物屋が目に入った。

 

「ロクサーヌ。武器屋と防具屋を回ったら、世話役のところでハーブの種を貰って、それから夕飯の食材を買いに行こう。その後は家に戻って庭作業だな」

「はい」

 

 中心地から騎士団詰め所の通りへ入り、武器屋と防具屋を目指し再び歩き出した。

 

 

 

 

 

クーラタル

武器屋

 

 

 

 

 

 先に中心地に近い武器屋の方から回ることにする。

 周囲を鑑定していくとカウンターの奥に飾られている、昨日はなかった武器が目についた。

 

強権のレイピア 片手剣

スキル 詠唱中断

 

 おー。良いものがあるじゃないか。

 詠唱遅延じゃなくて詠唱中断ってところがいい。

 片手剣なのもロクサーヌが使うと考えるとバッチグーだ。

 

 セリーが加入するまではロクサーヌ一人で前線を支えてもらわなければいけない。

 これがあればロクサーヌがスキル攻撃を潰すことができるため、安全性が飛躍的に向上するだろう。

 今の状況にマッチしためちゃくちゃ有用な武器だ。

 

 これはいくらなんだろう?

 張り紙がされているが文字が読めん。ロクサーヌに聞いてみるか。

 

 強権のレイピアを見つめて考えを巡らせているのに気付いたのだろう。ロクサーヌに確認する前に武器商人が声をかけてきた。

 

「こちらに目を付けるとは、お客様は大変お目が高くていらっしゃいます。ご覧いただいている品は詠唱中断のスキルが付いた強権のレイピアとなりまして、駆け出しの探索者から高階層に挑むベテランまで幅広くお勧めできる一品です。価格の方も本来ならば十一万二千ナールのところ、今なら十万八百ナールと大変お求めやすい価格となっております」

 

 無理無理無理! ありえないわ。

 二本あったら余裕でセリーが買えるじゃねーか。

 三割引でも七万ナール超えだぞ。

 

 いや、ぼったくりではなく適正価格だろうということは百も承知だが、確実にスキル結晶の融合を成功させることができる身からすると、絶対にこの価格では購入する気になれない。

 

 

 

 他にめぼしい物もなかったため、そそくさと店から退散する。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

「ものすごい金額だったな」

 

 店を出て少し歩いたところでロクサーヌに話しかけた。

 

「そうですね。やはりスキル付きの装備品は値が張ります」

 

 本当そうだわ。

 間違いなくスキル付きの装備品は、スキル結晶の融合に失敗した分の費用も乗った価格設定になっているな。

 セリーが加入すれば失敗なしに作成することが可能なんだ、伝世品を除いて今後もスキル付きの装備品を購入することはないだろう。

 

 

 

 

 

クーラタル

防具屋

 

 

 

 

 

 店内に入り鑑定をかけながら辺りを見回す。

 

 おいおいおい! マジか! 防具屋にも昨日はなかった装備品があるぞ!

 

竜革の帽子 頭装備

 

頑丈の鋼鉄盾 盾

スキル 物理ダメージ軽減

 

竜革のジャケット 胴装備

スキル 空き

 

竜革のグローブ

 

竜革の靴

スキル 空き

 

 あー、くっそー。やっちまったなぁ。

 帝都で硬革のジャケットと靴を買うんじゃなかった。

 

 ……まあ、買っちまったもんはしょうがない。いずれセリーかミリアが身に着けるだろう。

 

 

 

「ご主人様、それはもしかして……」

 

 大興奮で装備品を凝視している俺の様子を見てロクサーヌが問いかけてきた。

 

「ああ、竜革の装備品だな」

「まさか、竜革の装備がお店で売られているなんて。驚きました……」

 

 本当だよ。

 というか商品説明の張り紙もついていない。出したばかりだったんだろうか?

 

 買うかどうかは別にして、とりあえずすべて確保だ。

 

 

 

 大急ぎでカウンターの奥で一箇所にまとめられている、竜革シリーズの防具とスキル付きの盾について店員に問いかける。

 

「すまない。その奥に置いてある装備品をすべてこちらに持ってきてもらえるか」

 

 確保を依頼すると防具商人が声をかけてきた。

 

「お客様は大変運がよろしいですね。こちらの防具は本日の朝に買取りを行った品です。つい今しがた店内へ移してこれから陳列しようとしていたところなのです」

 

 うひょー! めちゃくちゃラッキーだ!

 今日防具を買うことにして本当に良かった。

 おそらく、明後日ここを訪れても残っていなかっただろう。

 

「さる商家が早急に資金を作らなくてはいけなくなり、装備品をいくつか売りに出したようです。スキル付きの武器も手放したそうなので、ご興味がありましたら武器屋も覗いてみた方がよろしいでしょう」

 

 なるほど。間違いなく先ほど武器屋で見かけた強権のレイピアも同じ人物が売った物だろうな。

 オークションが待てないほど急いで資金集めをしないといけないなんて、いったいどういう事情なんだ?

 

 うーん……。

 まあ、俺たちには関係ないか。

 

 

 

 おっと、竜革の防具を見つけたせいで興奮して、当初の目的であるスロットつきのダマスカスの額金と盾のことをすっかり忘れていた。そっちも確認してみよう。

 

 

 

 ……だめかぁ。カウンターの奥に展示されている物はスロットなしだ。

 

 一応、店頭に複数ではないがスロットつきの鋼鉄の盾はあったので、とりあえずこいつを確保しておこう。

 頭装備については硬革で妥協だな。

 

 

 

 さて、確保した装備品の中からどれを買うか決めなくてはいけない。

 

 まず、確定なのはスロット付きの竜革のジャケットと竜革の靴だ。

 そして、頑丈の鋼鉄の盾はどうせクソ高いだろうからスルーだな。

 

 問題はここからだ。

 スロットがついていない、竜革の帽子に竜革のグローブ、そしてあの展示されているダマスカスの盾。これらを買うべきか否か。

 

 防御力が上がることは間違いないが、後々売却するときに購入額よりだいぶ値段が下がってしまう。

 それに、非装備品の木剣を用いた修行と、現在行っている低階層の探索で使用すると考えれば、帝都で入手したものと今回購入するもので防御力は過剰なくらいだろう。

 

 そしてなにより、それらを買ってしまえば確実に十数万ナールが飛んでいってしまう。

 そうなると、セリーの購入やルークに依頼しているスキル結晶の購入に支障をきたす。

 

 スロットなしについては諦め、頭装備についてはスロットが一つ付いている硬革の帽子を選んでおこう。

 

「この四つを頼む」

「ありがとうございます。確認いたしますので少々お待ちください」

 

 防具商人は一つ一つ防具鑑定を行い確認していった。

 

 

 

「お待たせいたしました。ご購入の品は鋼鉄の盾が一個、竜革のジャケットが一個、竜革の靴が一個、硬革の帽子が一個で合計十一万八千ナールとなりますが、陳列前に目ざとく見つけたお客様のご慧眼と豪運に敬意を表し、今回は八万二千六百ナールで結構です」

 

 ……なんだその理由?

 

 でもよかった。とりあえず十万ナールは超えなかった。

 スキルなしも買っていたら、二十万ナールオーバーだったかもしれない。三割引を使っても十五万ナール以上だった可能性がある。

 買わなくて正解だ。

 

 とはいってもスロット付きだったら後先考えずに根こそぎいってただろうな……。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 店を出て通りを歩きながら、スロットの有無について考えを巡らせる。

 

 ミチオが買ったバラダム家の放出品である竜革の防具にはすべてスロットが付いており、中には三つ付いているものもあった。

 一方、今回俺が見つけた物は四個中二個にしかスロットが付いていなかったし、複数スロットはひとつもなかった。

 

 この差はなんだろう? ただの偶然なんだろうか?

 

 

 

 単なる思い付きだが、少々飛躍した仮説が浮かぶ。

 

 原作によると貴重な装備品は通常店売りされることはなく、知り合い同士で融通し合うらしい。

 だとすると、ミチオが買ったものはすべて同じ人物が製造したと推測できる。そして、俺が見つけたものについてもおそらくそうなのだろう。

 

 ということは、製造する人物によって有意な差が生じていると考えられる。

 

 スキル融合については空きスロットの有無のみが結果を左右するが、武器製造や防具製造については、何らかの要因がスキルスロットの有無や数に影響を及ぼしている可能性はないだろうか。

 

 

 

 あ、でもそれだと、誰々の作った装備品にはスキル結晶が付きやすいみたいなことになる

気がするが、特にそういうこともなさそうだしなぁ。

 やはりただの偶然なのか?

 

 同名の装備品なら、スロットの有無以外は見た目や性能に違いがない。

 そのため、同名の装備品についてはまったく同じものが製造されていると信じられており、スキル融合の成否は鍛冶師の腕に左右されると妄信し、地動説や万有引力のように、そこにある法則を見逃しているのだろうか?

 

 そもそも、俺がこの考えに至るのは、ボーナススキルの鑑定が使用可能でスキルスロットの存在を認識することが出来るうえに、原作知識があるからだ。

 そうじゃなければ、凡人の俺では何らかの法則性があったとしても、それに気づくことはなかっただろう。

 

 

 

 ここは個人の能力が数字で管理されている、ゲーム的なシステムが存在する世界だ。

 だとすると成否に関係しそうな要素は、普通に考えるなら器用のパラメーターだろう。

 先ほど確認したボーナス装備のヤールングレイプル。あれには器用五倍が付いていた。

 

 セリーに装備品を作ってもらう際にそれを身に着けてもらったら、もしかしたらすごいことになるかもしれない。

 

 まあ、その説の検証はセリー加入後だ。

 今は頭の片隅に留めておくだけにしよう。

 

 そして、装備品製造の回数を増やすため、消費MP半減と最大MP二倍の付いたボーナス装備を使用するのもありだろう。これについては説の真偽に関わらず間違いなく効果を発揮する。

 というか、デュランダルのMP吸収を用いた製造マラソンも有効だろうな。

 

 スロット数マックスの装備品を手に入れるため、今セリーは天井なし製造ガチャマラソンに同意なくエントリーされてしまったのかもしれない……。

 

 

 

 

 さて、妄想はこのくらいにして次だ次。

 

「では、世話役のところへハーブの種を貰いに行くか」

「はい。どのような種がいただけるのか楽しみです」

 

 確かシェーマを植えていたはずだ。

 後々その葉とウサギの肉でシェーマ焼きを作っていたよな。

 ロクサーヌの手作りシェーマ焼き。一体どんな味なんだろう?

 

「本当に楽しみだな」

「はい!」

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv24 英雄Lv19 魔法使いLv23 戦士Lv21 商人Lv18

装備 シミター

 

BP振分 残BP:6

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

鑑定:1

三十パーセント値引:63

ワープ:1

ジョブ設定:1

 

所持金:227,208ナール

 

春の5日目

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