異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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043 防具

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「今から商人ギルドへ行ってスキル結晶を受け取ってくるから、その間に水やりをお願いね」

「はい、おまかせください」

 

 洗濯用のたらいと水がめを持ってきてウォーターウォールで水を貯める。

 

「それじゃあ、行ってくる。戻ったら食材の買い出しに行こう」

「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 そう言うとロクサーヌは美しい礼を執った。これ良いわぁ。メイド喫茶とかにハマる人の気持ちがわかる気がするな。

 キャラクター再設定を開き三十パーセント値引にチェックを入れてからワープで移動する。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 商人ギルドの壁に展開されたワープゲートから出ると、先日来た時より騒がしく、そこにいる人たちは少し興奮しているようだ。

 

 何かあったのだろうか?

 

 ……まあ、気にしてもしょうがない。受付に声をかけルークを呼び出してもらおう。

 

 

 

 しばらく待っているとルークがやってきて商談室に案内される。

 

「連絡を差し上げてからすぐに来ていただけるとは思いませんでした。ありがとうございます」

「いや、今日は偶々庭仕事をしていたところだったのでな。普段なら迷宮にいる時間だから今後は連絡を受けても、顔を出すのは翌日以降になるだろう」

「そうでしたか。それは重畳でございました」

 

 そう言うと薄い笑みを浮かべた。

 そうだ、ロビーの様子についてルークに聞いてみるか。

 

「ところで、ロビーが何やら騒がしいようだったがあれはいつものことなのか? それとも何かあったのか?」

 

 問いかけるとルークは少しだけ顔を引き締め答える。

 

「いえ、あのような喧騒は滅多にあることではございません。実はあれはアユム様も無関係ではないのです」

 

 はあ? 商人ギルドの騒がしさがなんで俺に関係するんだ?

 何の心当たりもないんだが。

 

「本日のオークションで目玉商品となった物が、なんとMP吸収まで付いたひもろぎのカッカラでした」

 

 なんと、とか言われても知らんがな。

 いや、知力二倍とMP吸収がついていて目玉になっているってことは、たぶんスタッフよりすごい杖なんだろうなってことは想像がつくけどさ。

 

 俺はあのクソ会社で問題なく過ごすために必須だった『話を合わせる』というスキルを持っている。

 とりあえず今はこいつの出番だ。

 

「ほう。それは大変なものが出品されたのだな。固定で出た品か?」

 

 俺の言葉にルークは頷いて答える。

 

「はい。MP吸収についても商人ギルドで効果を確認しております。数年に一度あるかどうかの出物でしょう。これを固定で出した者は今後お金に困ることはなくなるはずです」

 

 いやぁ。そう上手くいくかぁ?

 現代日本だって宝くじをあてたら、犯罪に巻き込まれたり、あったこともない親戚や自称友人が湧いてきたり、金銭感覚が狂って破産したりしているぞ。

 とても金に困ることがなくなるとは思えないんだが……。

 

「その者は少しでも早くお金が欲しかったようで、昨日こちらに持ち込むと、本日の出品を希望されたのです」

 

 いくらなんでもせっかちすぎん?

 それだと周知が足りなくて参加者が少なくなるんじゃないのか? それに参加者も金を集めるのに苦労するだろう。

 

 ……ん? あれ? なんかわかったかもしれない。

 

「そういった事情があったため、ひもろぎのカッカラを本気で狙う者達は、昨日から急遽資金集めに奔走し、貴重な装備品をオークションではなく知人に売却したり、武器屋や防具屋に売り払ったところもあったとのことです。ご興味があればそれらを巡ってみるのもいいかもしれません」

 

 やっぱりそういうことか。

 今日見かけた装備品にはそういった事情があったんだな。

 めちゃくちゃラッキーだったわ。

 

「それで、俺に関係するとは?」

 

 問いかけるとルークは一つ頷き言葉を続ける。

 

「はい。ひもろぎのカッカラは抽選の結果、最後の出品となりました。そのためそれ以外の入札に躊躇が生まれ、ご依頼いただいたスキル結晶についてはアユム様の希望された価格での落札が可能でした」

 

 本当に? だって俺以外にも落札依頼をしていた人はいたんじゃないの?

 その場合、依頼を受けている仲買人にはひもろぎのカッカラなんて関係なくない?

 あらかじめお前が根回しをしていたんじゃないのか?

 

 まあでも、追及してもいいことなんてないしな。

 希望価格での落札が叶ったんだ素直に喜んでおくさ。

 

「ほう。それはありがたい。今後ともこの調子で頼むな」

「なかなかこのような機会はないでしょうが、私も全力を以って取り組ませていただきます」

 

 しかし、ひもろぎのカッカラか。

 一体どのくらいの価格だったんだ?

 めちゃくちゃ気になるよなぁ。

 

「ちなみに、そのひもろぎのカッカラの落札価格はいくらだったんだ?」

「はい、その価格は……」

 

 ルークは勿体付けるように一度言葉を切り、こちらの様子をうかがってから金額を告げる。

 

「二百九十八万ナールです」

「はあー!?」

 

 やっべ。思わず声が出てしまった。

 

「貴族家の代理で入札を行っていた仲買人が二名、大店商人の身内である仲買人一名で三つ巴の争いになりまして、ドンドンと価格が吊り上がっていきました」

 

 それにしたって二百九十八万ナールはすごいわ。

 三割引なしでもロクサーヌ六十万、セリー二十五万、ミリア四十万、ベスタが六十四万で合計百八十九万ナールだ。それより百九万ナールも高い。三割引を使えば彼女たちが二人ずつ買えちまうほどの馬鹿げた価格になる。

 

「で、どこが落札したんだ?」

「なんと、貴族家を出し抜き、落札したのは商家となります」

「ほう。そうなのか」

 

 この世界においての、貴族と商人の力関係がよくわからないため適当に相槌を打つ。

 原作ではバラダム家が好き勝手やっているのを貴族に咎められているような描写はなかったし、決闘時の無体な行いについてゴスラーはスルーしている。

 

 それに、商家の嫡男が魔法使いである公爵家の令嬢を娶ることも可能なのだ。

 貴賤結婚が制限されているような封建制度ではないのだろう。

 

 俺の相槌を受け言葉を続ける。

 

「はい。その家には優秀な魔法使いがおりますので、これで勢いをつけて迷宮攻略を成し遂げ、貴族への叙爵を狙っていることでしょう」

 

 なるほどな。成り上がるための投資というわけか。

 しかし、思い切った投資をしたものだ。

 その決心ができるほど、スタッフとカッカラでは性能差が大きいのかもしれない。

 それに、おそらくスキルが二つということはないだろう。他にも確認できていないスキルがありそうな気がするよなぁ。

 一目見てみたかったわ。

 

 

 

 一頻り話をするとルークはアイテムボックスを開き次々とスキル結晶を取り出していく。

 鑑定で確認すると、ウサギ、コボルト、ヤギ、サンゴ、芋虫。

 うん。問題なし。

 

「それではギルド神殿へご案内いたします」

 

 ああ、そうか。普通なら見分けがつかないからギルド神殿を利用することになるのか。

 でもなぁ。もう確認できているのにギルド神殿の使用料を取られるのはもったいないぞ。

 適当に言い訳をしておくか。

 

「いや、それには及ばない。ルークのことは信用している。疑うような真似をしたら紹介してくれた者にも申し訳が立たないのでな」

「さようでございますか」

「うむ。それでは、支払金額を教えてくれるか」

「はい。今回落札のスキル結晶は芋虫のスキル結晶四千ナール、ウサギのスキル結晶四千五百ナール、サンゴのスキル結晶四千四百ナール、コボルトのスキル結晶四千八百ナール、ヤギのスキル結晶四千七百ナールとなります」

 

 今朝までなら余裕だったのに、今だとこの金額は結構な負担だな。

 

「先払い手数料を超過した分の四件については別途お支払いいただくこととなります。また、継続してご依頼いただく場合は再び先払いで手数料を頂戴いたしますが?」

「うむ。継続するのでそれで頼む」

 

 負担なのは確かだが、買い漁りが行われていない今のうちに買っておくべきなのは間違いない。

 金策を頑張ることにして、ここはそのまま継続しておこう。

 

「スキル結晶が五点で合計二万二千四百ナール。手数料が五件分で二千五百ナール。合計二万四千九百ナールとなりますが、このような特別な機会なのでサービスいたしまして、今回は二万四千百五十ナールで結構です」

 

 

 

 支払いを行いアイテムボックスにスキル結晶をしまい込んだ。

 

「では、引き続き頼む」

「かしこまりました。今後ともよろしくお願いいたします」

 

 差し出された手を握ってから、ルークに見送られ部屋を出る。

 そして、ロビーの壁にワープゲートを開きそれを潜った。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅の壁から出ると菜園にロクサーヌの姿はなく農具類やたらい、水がめなども見当たらない。

 作業が終わって片づけてくれたのだろう。

 

 

 

 家の中へ入るとパーティー編成の効果で二階にいるのがわかったが、ロクサーヌの方も気づいたのだろう。こちらへ向かってくる。

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ただいま、ロクサーヌ。これから食材の買い出しに行くけど、今日の夕食は俺が作るから」

「よろしいのですか」

「もちろん」

 

 今日の我が家はカレー曜日だから!

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 まずは八百屋へ行き、玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモを購入する。最初はオーソドックスなカレーを食べてもらおう。

 あとは、サラダ用の葉野菜を買っておくか。

 

 続いて肉屋で牛肉を購入する。豚肉や鶏肉も美味いがやはりここは定番のビーフカレーだよな。

 

 小麦粉とバターは残っているからいいとして、あとはパンを買えばオッケーだ。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 購入してきた食材をロクサーヌと手分けをしてキッチン収納にしまい込む。

 そして、魚醬を慎重にペットボトルへ移し、歯磨き粉が入っているフリーザーバッグに木製の小匙を入れておいた。

 

 さて、夕食の準備をするにはまだ早い。

 ロクサーヌに修行をつけてもらおう。

 

 まずは装備品の更新からだな。

 

「ロクサーヌ。装備品の更新をするから、防具を持って物置部屋に来てもらえる?」

「はい、かしこまりました」

 

 

 

 二階に上がり物置部屋でロクサーヌを待つ間にアイテムボックスから、皮の帽子、皮の鎧、皮のグローブ、皮の靴を取り出しクローゼットにしまい込む。

 

 うーん……。

 皮シリーズの防具については収納スペースの無駄だし、明後日武器屋と防具屋を回るときに売り払うか。

 これらにスキルを付けることはないし、今後増えるメンバーが装備することもないはずだ。わざわざ残しておく必要もないだろう。

 

 

 

 そして、硬革のジャケットと硬革の靴か。

 ロクサーヌが竜革のジャケットと竜革の靴を装備する以上、セリー加入まではクローゼットの肥やしになるがしょうがない。

 あー、無駄な買い物だったなぁ。

 

 

 

 装備品をクローゼットごとに売る物と残しておく物に分けていると。ロクサーヌが部屋に入ってきた。

 

「お待たせしました、ご主人様」

「それじゃあ、装備品の更新をしようか。このクローゼットが売却する装備品を入れる用だから、ロクサーヌが持っている防具は全部ここに入れておいて」

「はい」

 

 ロクサーヌが防具をしまっている間に、ダマスカス鋼の盾、ダマスカス鋼の額金、竜革のジャケット、硬革のグローブ、竜革の靴を取り出す。

 そして、防具をしまい終えたところで声をかけた。

 

「これが、今後ロクサーヌが身に着ける防具になる。今までと同じように管理はまかせるね」

「え! いけません! ご主人様、これはダマスカス鋼と竜革の防具ですよね!?」

 

 やっぱりなぁ。言われると思ったんだよ。

 装備してもらうには、ちゃんと説明して納得してもらわないといけないか……。

 

「これにはちゃんと理由があるんだ。ロクサーヌはレベル補正という言葉を聞いたことはある?」

「先ほどご主人様が仰っていたデュランダルについているという、レベル補正無視に関係することですか?」

 

 おお。さすがロクサーヌ。やるねぇ。

 

「うん。もちろん関係する。以前言ったようにどのジョブにもレベルがあり、レベルが低い者から高い者へ攻撃した際に、レベル補正が働きダメージが減少してしまう。それはレベル差が大きければ大きいほど減少率が高くなると思われる」

 

 ロクサーヌの攻撃を受けた際、木剣を使っていたのに俺が受けたダメージと、武器を使っていただろうにバラダム家の女が受けたダメージの差を考えると、おそらくそうに違いない。

 

「なるほど。長くジョブの経験を積んでいる者に対して攻撃が通じなくなるのは、そういうことなのですね」

 

 レベル補正そのものは知らなくても、経験則としてこの世界では認知されているのか。

 

「俺とロクサーヌではレベルアップの速度に差があるため、今後どんどんレベルに開きが出てくる。そのため俺の攻撃はレベルアップの効果で威力も増していくし、補正を受けることなくそのまま通ってしまう」

「でしたら、私は訓練のときだけこれを身に着け、迷宮ではご主人様が装備するべきではないですか?」

 

 うーん……。

 それもなぁ。

 

「まず、俺は低階層の魔物より圧倒的にレベルが高いためレベル補正の恩恵が大きい。そして、迷宮でとる行動は後衛にいて魔法を放つか、デュランダルを持って敵を倒すことになるはずだ」

「はい」

「デュランダルを出しているときはHP吸収のおかげで攻撃をあてるたびに回復している状態だし、後衛にいるときはロクサーヌが魔物を抑えてくれる。それに、明日からはボーナス装備品であるメギンギョルズを常に装備することになるけど、たぶんこれは防御力も高いと思うんだ」

 

 理由を説明したが、それでも納得がいっていないようで反論を口にした。

 

「ですが、硬革の装備でも奴隷に与える防具としては信じられないほど恵まれた品です。やはり良い防具はご主人様から整えていくべきだと思います」

 

 この頑固者めー。

 

 ……でも、本心から俺の身を案じているのが伝わってくる。

 今まで生きてきて、ここまで想われたことがあっただろうか?

 その気持ちが本当に嬉しくてたまらない。

 

 そうだな。俺もロジックではなく想いを伝えるか。

 

「ロクサーヌ。俺はロクサーヌの回避能力を疑うことはないし、俺のことを守ってくれると信じている」

「ありがとうございます。ご主人様」

 

 俺の言葉に一瞬驚くが、すぐに笑顔になり礼を述べた。

 

「だけど、俺はロクサーヌを失うことが何より怖い。元の世界のすべてを捨ててこの世界に来たのは君に会うためだ。その君に万が一があったら俺は生きていけないだろう。俺を大切に思ってくれるのは嬉しいけど、自分のことも大切にしてほしい」

 

 俺の言葉を聞き困惑の表情を浮かべている。

 その気持ちはわかる。我ながら大袈裟だと思うし、激重感情をぶつけられて戸惑うのも無理はない。

 でも、これが偽らざる気持ちなんだよなぁ。

 

「ご主人様……」

「頼む。ロクサーヌ」

 

 重ねてお願いするとロクサーヌは苦笑いを浮かべ口を開く。

 

「本当に私のご主人様は頑固で優しい方です。わかりました。この防具を身に着け全力でご主人様をお守りいたします」

 

 良かった。納得してもらえた。

 ロクサーヌの矜持も理解できるし、俺が死んだらロクサーヌも殉死してしまうのは百も承知だ。

 だが、ここは絶対に譲るわけにはいかない。

 

 とにかくこれが杞憂であるよう、今後も安全マージンを取って慎重な行動を心がけよう。

 

「では、防具を身に付けたら修行開始だ」

「はい、ご主人様」

 

 

 

 お互いに防具を身に着け、立てかけられている木剣を手に取り外へ出た。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv24 英雄Lv19 魔法使いLv23 戦士Lv21 商人Lv18

装備 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴

 

BP振分 残BP:6

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:159,285ナール

 

春の5日目

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