異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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045 薬草採取士

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目覚めると暗い部屋の中で柔らかく滑らかで手触りの良い体を抱きしめていた。

 こんなに清々しく目が覚めたのは生まれて初めてかもしれない。

 

 ロクサーヌは一昨日初めてを迎えたばかりだというのに何度も俺を受け入れてくれた。

 乱暴にならないように気をつけたつもりだが痛みはなかっただろうか?

 

「おはようございます、ご主人様」

 

 俺の目覚めに気づきロクサーヌが挨拶をしてくれる。

 

「おはよう、ロクサーヌ。昨日は何度も受け入れてくれてありがとう」

「こちらの方こそたくさんかわいがっていただきありがとうございます」

「体は辛くない? もし痛みがあるようだったら手当を使うから無理せずに教えてね」

「大丈夫です。昨夜も手当を何度も使っていただいたのですよね? ご主人様のお気遣いのおかげで何の問題もありません」

 

 よかった。

 こんな俺を受け入れてくれたロクサーヌに無理はさせたくないからな。

 

 

 

 さあ、それじゃあ今日も一日張り切っていこう。

 

 この世界に来て本当に良かった。

 こんなに前向きな気持ちで朝を過ごすなんて、日本にいた頃では考えられない。

 平日の朝はいつも憂鬱で、考えることといえば会社に隕石が落ちないかなぁとか、誰か労基に駆け込んで全社員の待遇が改善されないかなぁとか、宝くじが当たったらすぐやめるのになぁとか、そんなことばっかりだった。

 

 それが、今は毎日が楽しく希望に満ち溢れている。

 

 それもこれもロクサーヌがいてくれるからこそだ。

 大好きな女性が自分を受け入れ、共に過ごしてくれる。こんなに幸せなことがあるだろうか。

 

 俺は宝くじが当たるより遥かに低い確率を手にした幸運な男だな。

 

 

 

 歯を磨き、髭を剃ってもらい、一通り身だしなみを整えたところで大切な朝のルーティーンだ。

 

 抱きしめて口づけを交わすと、ロクサーヌはこちらの口の中へ舌を侵入させ俺の舌を舐め始めた。

 それを唇でホールドして絡めながら吸い上げる。

 すると、ゆっくり自分の口の方に舌を戻したので、それを追いかけてロクサーヌの口の中に舌を入れると、お返しとばかりに甘噛みをしながら舌で愛撫をしてくれた。

 

 

 

 夢中になって重ねていた唇を離す。

 

「俺のかわいいロクサーヌ。今日も一日よろしく」

「私の素敵なご主人様。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 顔を見合わせて笑い合う。

 うん。今日も良い一日になりそうだ。

 

「今日から日中は迷宮に入ることになる。本格的な迷宮探索の始まりだ」

「はい。今日からいよいよですね」

「そうだね。これから一緒に頑張ろう」

 

 これからは迷宮探索を生業に生きていくんだ。気を引き締めないとな。

 

 そして、アランの館へ盗賊の襲撃が起こるまではベイルの迷宮に入るようにしよう。

 原作ではロクサーヌを購入した五日後。春の十二日に襲撃が起こっていた。

 しかし、ソマーラの村で盗みを働いた男の他に、その兄弟まで奴隷にしているせいで時期がズレるかもしれない。もしくは襲撃が起こらない可能性もあり得る。

 その場合でも、セリー購入までは毎日確認しておいた方がいいだろう。

 

 

「以前にも説明したけど、『異世界迷宮でハーレムを』の話では、近々ロクサーヌのいた商館を盗賊が襲う。それを発見するためには商館を見張っている盗賊を発見しなくてはいけない」

「はい」

「なので、無事に解決するまではベイルの迷宮を探索して、帰りに商館を確認しようと思う」

「ありがとうございます。ご主人様」

 

 感謝を述べるとロクサーヌは俺の体をぎゅっと抱きしめた。

 こちらからも抱きしめ返し、愛らしい犬耳を撫でる。

 

「ロクサーヌにはいつも心穏やかに過ごしてほしいからね。これくらいなんでもないさ」

 

 俺の言葉に背中に回されている手の力が強くなった。

 

「お世話になった人がいるんだろう? ちゃんと守らないとね」

「本当にありがとうございます。大好きです。ご主人様」

 

 そう言うとロクサーヌは唇を重ねてくれた。

 

 

 

 装備品を身に付け、ボーナスポイントの見直しを行う。

 

 クーラタルの迷宮とは違い、地図がないためサクサク階層を上げるというわけにはいかない。

 経験値効率二百倍を維持しつつ魔法の攻撃力アップと撃てる回数を増やすため、魔法攻撃力二倍と最大MP上昇が付いているアクセサリー四のメギンギョルズを使用するべきだろう。

 

 フィフスジョブをフォースジョブへ下げ、MP回復速度二十倍と敏捷に振っている分を解除した。

 そして、獲得経験値二十倍に鑑定、それからアクセサリー四にチェックを入れ、出現したベルトを身に着ける。

 

 残り1ポイントはワープに振って、迷宮に入ったらジョブ設定に付け替えよう。

 手当てを使うために、いつでも戦士と僧侶を変更できるようにしておかないといけないからな。

 

 あとは、滋養丸を十個ロクサーヌに渡しておく。

 ベイルの迷宮は十階層のニートアントまで状態異常攻撃をしてくる敵はいないから状態異常回復薬は必要ないだろう。

 

 よし。準備オッケーだ。

 玄関で靴を履き替え、ワープゲートを展開する。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 ワープゲートから三日前に探索の途中だった場所へ出たところでロクサーヌに尋ねる。

 

「ロクサーヌ。人の数はどうだ?」

 

 問いかけるとかわいらしくスンスンと匂いを確認しだす。

 しばらくそれを続けてから答えた。

 

「そんなに人の数は多くないようです。魔法を使っても問題ないでしょう」

 

 ゲームなら取りこぼしがないように隅々まで確認して宝箱を探すところだが、この世界の宝箱は迷宮でやられた人の遺留品だ。そうそうおいしいものはないだろう。

 そんなことに時間を使うなら、さっさと先に進んでレベル上げをした方がいいはずだ。

 

 しかし、地図がないせいで闇雲に探すしかないのが厳しいなぁ。

 

 あ、ロクサーヌの鼻で待機部屋がわかったりしないだろうか?

 

「ロクサーヌ。匂いで待機部屋がどこにあるかわかるか?」

「申し訳ありません。人が多い場所はわかるのですが、そこが待機部屋かどうかまではわかりません」

 

 まあ、そりゃそうか。

 でも、人がまばらにしかいない中で、一箇所に集まっている場所があるのなら、そこが待機部屋の可能性が高いよな。

 まずはそこを目指してみよう。

 

「では、そこへ案内してもらえるか」

「おまかせください、ご主人様」

 

 

 

 探索を開始する前にキャラクター再設定を開き、ワープとジョブ設定を付け替えて腰に差していたロッドを引き抜く。

 

 おっと、念のため今のレベルを確認しておこう。

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv24 英雄Lv19 魔法使いLv23 戦士Lv21

装備 ロッド 鋼鉄の盾 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

 探索者が24、英雄が19、魔法使いが23、戦士が21か。

 英雄とそれ以外の差がだんだん開いてきたな。

 ついでにロクサーヌも確認しておこう。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv10

装備 レイピア ダマスカス鋼の盾 ダマスカス鋼の額金 竜革のジャケット 硬革のグローブ 竜革の靴

 

 騎士を取得するまでは戦士のままで問題ないだろう。

 そういえば、騎士取得のために槍で魔物を倒さないといけないがやっていなかった。

 まあ、戦士のレベルが30になってからでもいいか。急ぐ必要もないだろう。

 

 よし、確認も済んだし探索開始だ。

 

 

 

 ロクサーヌの案内で迷宮を進み、道中に出現するニードルウッドをファイヤーボールで片っ端から焼いていく。

 

 一時間ほど過ぎたころにロクサーヌから声が掛かった。

 

「ご主人様。この先に人がたくさんいます。魔法は使わない方がいいでしょう」

 

 お、待機部屋だろうか?

 念のためロッドと鋼鉄の盾をアイテムボックスへしまい込み、いつでもデュランダルを出せるように獲得経験値二十倍を解除しておく。

 

 それにしても、ファイヤーボールを二十発以上撃っているのに、まだまだMPには余裕が感じられる。

 たった数日でとんでもない成長をしているぞ。

 まさに、チート野郎の面目躍如だな。

 

 ……まあ、そのチート野郎も隣にいる娘さんにまったく歯が立たないんだが。

 

 

 

 人がたくさんいると言った小部屋の奥まで進むと、壁がスライドして下がりその奥に新たな部屋が現れた。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮一階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 中に入り確認すると、三組くらいのパーティーだろうか。二十人近い人たちが行列を作りボス部屋が開くのを待っている。

 

 うそだろぉ……。

 クーラタルじゃないのに、早朝から待機列ができてんのかよ……。

 ウェブ版では待機列があったが、書籍版では並んでなかったのにー!

 

 

 

 しゃあない。俺たちも並ぶか。

 そのまま移動して待機列の最後尾につける。

 

 

 

 くっそぉ。この状況ではここでのボスマラソンは不可能だな。

 

 ウェブ版でミチオが考察していたように、ウドウッドからドロップするリーフは薬草採取士の生薬生成を使用すると毒消し丸を十個作ることができる。

 毒消し丸のギルドでの買取価格は二十五ナール。そして、ギルドへの売却には三割アップが効くのだ。一回の戦闘で三百二十五ナールの利益を得られることになる。

 

 ギルドからリーフを買い取ることは不可能だが、自力で調達したものを生成して売却する分には問題ないはずだ。

 一階層ならそんなに強くないだろうから、もしデュランダルで1確できるなら結晶化促進六十四倍と合わせて、とんでもない効率の稼ぎ方ができる狩場だったのになぁ。

 

 

 

 しかし、薬草採取士たちは低階層に出現するウドウッドの周回をして稼ごうとは思わないんだろうか?

 毒消し丸は抗麻痺丸や柔化丸と販売価格が同じなのに、素材の入手難易度に著しい差がある。そのため、かなりの儲けになりそうなのに原作ではこれをやっている様子がないんだよなぁ。

 

 まあ、俺たちとは違いデュランダルがないため攻撃力が低く、ウドウッドとの戦闘にどうしても時間がかかる。パーティーに魔法使いがいたとしてもMPの回復にも時間を取られるのだろう。

 ワープがないのでボスマラソンをするのに手間もかかるはずだ。

 

 それなら、薬師ギルドから素材を卸してもらって生成した方がリスクを減らせるか。

 利幅は薄くなるだろうが、そのほうが安全だし手間もかからない。

 おそらく、ギルドに加入していないもぐりの薬草採取士はほとんどいないだろうし、それが一般的なのかもしれないな。

 

 

 

 それに、迷宮探索を行おうとする場合、俺やミチオのように複数ジョブが使えないなら、攻撃能力が低く、攻撃魔法や移動魔法も持たず、回復スキルもなければアイテムボックスすらない薬草採取士はかなりの苦行だ。なろうと思う者も少ないだろう。

 また、パーティーメンバーを選ぶ際にも、そんな中途半端な者を入れようとは考えないはずだ。

 

 だとすると、そんな状況で高レベルに至った薬草採取士はとんでもなくレアな存在だな。

 そして、その上位ジョブだと思われる薬師の貴重性は相当なものなのかもしれない。

 

 だからこそ、上位の回復薬や万能薬系は貴重で高価な品になっているのだろう。

 

 そうなると、1確が出来て過疎っているウドウッドのボス部屋があれば、かなりのブルーオーシャンだな。

 それが見つかったなら、白金貨目指して金策に励んでもいいかもしれない。

 

 そして、エリクシールの素材を自力で入手できるようになれば、ものすごい稼ぎが期待できそうだ。

 

 

 

 ……とはいかないだろう。

 いろいろ考えたがこれは完全に机上の空論だろうな。

 

 一日に三千から四千もの毒消し丸を売却するなんて不自然極まりないし、複数のギルドに分散して売却するにしても確実に値崩れを起こす。

 それでも売却を続けていると、買取拒否をされたり、そんなつもりはなくてもダンピングのようなことになってしまい、他の薬草採取士の生活が立ち行かなくなるだろう。

 そうなると、間違いなく薬師ギルドの不興を買ってしまう。

 いや、薬師ギルドだけではなく、売却先である探索者ギルドや冒険者ギルド。それに、役人や貴族にも目を付けられてしまう可能性もあるだろう。

 

 そして、エリクシールはもっとやばい。

 これを量産できることが公になってしまうと、怪我や病気を負った人々が救いを求めて押し寄せてくるはずだ。

 金を取ると守銭奴扱いをされ、金がない人からは恨まれ、提供が間に合わなかった人の身内からは逆恨みされる。

 碌な目に合わないことは確実だろう。

 エリクシールは自分たちで使うための備えと、いざというときに取引材料とするためのストックを用意しておくくらいでとどめておくべきだな。

 

 あー、それにしても惜しい。これがゲームなら間違いなくやっちゃうんだけどなぁ。

 

 

 

 とりとめもなく考えていると、いつの間にやら俺たちの番になっており、後ろにも二組のパーティーが並んでいた。

 

「それじゃあ、行くか」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮一階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋へ入ってすぐにキャラクター再設定からデュランダルを取り出し、それを握りしめてボスが出現する前に靄が集まっている部屋の中央目掛けて駆け出した。

 未練がましいが素の状態で1確できるのかを確認するために、オーバーホエルミングとラッシュを使わずに挑んでみる。

 

 走り寄ると集まっていた靄から煙が噴き出し、それが晴れると左右それぞれ二本の枝のような腕を生やした巨大な木人が見えた。

 

ウドウッドLv1

 

 そいつの脇を駆け抜けながらデュランダルを振り抜く。

 

 そのまま走り、距離を取ってから振り向くとウドウッドは倒れておらず、ロクサーヌがヘイトを取り攻撃をかわしていた。

 

 くそっ! ラッシュなしじゃ一発ってわけにはいかないか。

 

 ロクサーヌが引き付けているため、後ろから近寄り袈裟懸けに斬りつけると体が空中に溶け込むかのように分解され消えていった。

 

 

 

「ふう」

 

 一階層のボスとはいえ、やはり昨日のコボルトケンプファーとは格が違う。

 1確するためにはラッシュが必要になるのか。

 

 いやでも、もしかするとボスマラソンができる探索者のレベルが31になるころにはワンパンが可能になっているかもしれない。

 良さそうな狩場を見つけたら試してみるのもありだろう。

 

 

 

 「ご主人様。ウドウッドの残したリーフです」

 

 ウドウッドを倒した後に考え込んでいると、ロクサーヌがドロップアイテムを拾い、かわいらしく微笑みながら俺に手渡す。

 

「ありがとう」

 

 それを受け取りアイテムボックスの中へ入れたところではたと気付いた。

 

 リーフは俺が拾わなきゃダメじゃん!

 馬鹿か俺は。ぐだぐだと考え込んでないでさっさと拾うか、あらかじめロクサーヌに俺が拾うと伝えておくべきだろうが。

 

 

 

 ……しゃーない。二階層のブクマが済んだら一番近い小部屋に移動して待機部屋に戻り、もう一戦しよう。

 

 っと。その前にロクサーヌに言っておかないとな。

 

「ロクサーヌ。もう一度ウドウッドと戦おう。今度は俺にリーフを拾わせてくれるか」

「はい。分かりました」

 

 それを告げると返事をした後、ロクサーヌは不思議そうな顔をしながら尋ねてきた。

 

「あの、ご主人様。ご主人様がリーフを拾うのには何か理由があるのですか?」

 

 まあそりゃそうか。リーフを集めるためにもう一戦というなら理解できるだろうが、自分で拾いたいからもう一戦するなんて、ロクサーヌからしたら、おまえは何を言っているんだって感じだろう。

 

 これはちゃんと理由を説明しておくべきだよな。

 

「リーフを拾うと薬草採取士のジョブを獲得できるのだ。今後回復薬を自分たちで工面するためにも、これは絶対に取得しておかなければならない」

「なるほど。そういうことだったのですか……」

 

 説明を聞くと、ロクサーヌは少し暗い表情になった。

 

「あの、ご主人様……。余計なことをして申し訳ありませんでした……」

 

 え! 余計なこと!? 何を言ってんの!

 

「余計なこととは?」

「ご主人様より先にリーフを拾ってしまい、ご迷惑をおかけしてしまいました……」

 

 いやいやいや!

 まったくそんなこと思ってないから!

 

「ロクサーヌは気を利かせてくれただけだろう? いつもドロップアイテムを拾ってもらって本当に助かっている。ありがとうな」

「ご主人様……」

「今回のことはあらかじめ説明していなかった俺の落ち度だ。全然気にする必要はない。それに、ロクサーヌが俺のためにしてくれた行動に対して、迷惑だと思うなんて絶対にないから安心してくれ」

 

 その言葉を聞いて不安が解消されたのか、ロクサーヌの顔に笑みが戻る。

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 社会人生活を二十七年も過ごしていながら、情報共有の重要性について意識していなかった。

 何でもかんでも一人で考え、一人で決め、一人で行動に移すなんて真似をすると、ロクサーヌも戸惑ってしまうことだろう。

 ミチオのようにすべてを自分で背負いこんで、パーティーメンバーにも事情を明かさなければそういうものだと思うだろうが、俺はすでに自分のことを打ち明けているのだ。

 それなら、ロクサーヌが不安に思うことがないよう、あらかじめ説明をしておかなければいけない。

 

 今後何かを行うときは、ちゃんと言葉に出して伝えよう。

 

 

 

「では一度二階層へ進んでから、一階層の待機部屋に近い小部屋に戻ろう」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

二階層

 

 

 

 

 

 そうだ。ちょっと実験をしてみるか。

 キャラクター再設定を開き、デュランダルを外す。

 

 そして、余ったポイントで腕装備二にチェックを入れた。

 

技工の革グローブ 腕装備

スキル 器用上昇 腕力上昇

 

 硬革のグローブを外してアイテムボックスにしまい、出現した技工の革グローブを身に着ける。

 

 技工の革グローブの腕力上昇とデュランダルの攻撃力五倍の効果は重複するのだろうか?

 おそらく重複するとは思うが念のために確認だ。

 先ほどは二回の攻撃が必要だったウドウッドをワンパンできれば、重複していると確信できる。

 

 

 

 さて、先ほどの反省を活かしてロクサーヌにも伝えておこう。

 

「ロクサーヌ。次のウドウッドとの戦いではちょっと試してみたいことがある」

「試してみたいことですか?」

「ああ、腕力上昇と攻撃力五倍のスキルが重複するかの確認だ。ウドウッドが一撃で倒れたら間違いなく重複するということになるだろう」

「そんなことが可能なのですか! ご主人様、すごいです!」

 

 目をキラキラ輝かせながらこちらを見ているのが無茶苦茶かわいいぞ。

 

「それじゃあ、一階層に戻ろう」

「はい」

 

 ワープゲートを開き、その黒い壁へ歩いて行く。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

一階層

 

 

 

 

 

 ワープゲートを通り、ボス待機部屋の手前の小部屋へ戻ってきたところで再びキャラクター再設定を開き、今度は詠唱省略のチェックを外して、すぐにデュランダルを出せるように63ポイントをフリーにしておく。

 先ほどはオーバーホエルミングもラッシュも使わなかったし、詠唱省略を外しても問題ないだろう。

 

 

 

 準備が整ったところでロクサーヌに声をかける。

 

「では、待機部屋へ戻ろう」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮一階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に戻ると扉の前に六人の男が立っていた。

 彼らは振り返ってこちらを見ると驚いたような表情になる。

 

 なんだ?

 

 そして、その中の一人が話しかけてきた。

 

「あんたたち二人なのにずいぶん早くボスを倒してたよな? 入ってすぐに扉が開いたから驚いたよ」

 

 あ、やばっ。

 ボスを倒す早さなんて気にしてなかった。

 後ろに並んでいる人がいるときに異常な早さで倒すと、待機部屋の扉も早く開くことで、あいつらには何かあると勘ぐられてしまうかもしれない。

 今回のように待機部屋へ戻る場合は、より印象に残ってしまうだろう。

 そのまま上に進む場合はともかく、待機部屋に戻る場合は今後気を付けないといけないな。

 

 とりあえず、今回ははったりをかまして切り抜けよう。

 

「まあ、一階層のボスごとき物の数ではないからな」

 

 そう言うと、横でロクサーヌも言うまでもないという表情で頷いている。

 さすがロクサーヌ。ナイスアシスト。

 

 ……いや。あの顔ははったりだと思っていないな。

 素で当然だと思っているのだろう。

 

 

 

「そうなのか。見たところ良い装備を身に着けているようだし、普段はもっと上の方を探索しているのか?」

 

 なんだこいつ? 俺のデフォルトでついているパッシブスキルの話しかけるなオーラをものともしないぞ。

 さてはお前、相手の都合をお構いなしに話しかけてくる床屋の理容師やタクシー乗務員なんかと同じタイプの人間だな?

 しかも、こちらの装備品までチェックしてやがった。

 他のパーティーメンバーは会話をそいつにまかせ、興味深そうに俺たちの方を見ている。

 

「ああ。普段はクーラタルの方に行っているんだが、新しく見つかったという迷宮を確認してみようと思ってな」

「しかし、なんだってもう一度待機部屋に戻ってきたんだ?」

 

 勘弁してくれ……。

 こっちには隠さないといけないことが山のようにあるんだ。

 迷宮内で他人と雑談に興じる気にはなれない。

 

 ……そんなことを内心では思っていても口に出せるはずもない。

 何食わぬ顔でのらりくらりと適当な返事でお茶を濁していると、あとから来て後ろに並んだ奴らもこちらの話に耳をそばだてているのがうかがえる。

 本当に、勘弁してくれ……。

 

 

 

 オーバーホエルミングを使っているのかというくらい長い体感時間の中、ようやくボス部屋の扉が開く。

 

「それじゃあ、先に行かせてもらうな」

 

 そう言うと男たちは次々に扉を潜っていった。

 

「ふう」

 

 思わずため息が漏れてしまう。

 

「おしゃべりな方でしたね」

「そうだな」

 

 気のいい奴だったんだろうが、隠し事がある身からすれば、ああいうのは勘弁してほしいわ。

 表面上の会話だけなら問題ないが、こちらの情報を渡すような会話には注意が必要だからな。

 

 

 

 扉が開くのを待っているとロクサーヌが話しかけてきた。

 

「ご主人様。そろそろパン屋が開く時間です」

 

 もうそんな時間か。

 

「では、ウドウッドを倒したらパンを買って朝食にしよう」

「はい」

「今日の朝食は昨日の残りのカレーとパン。それとサラダにするか」

「あの美味しいカレーを今朝もいただけるなんて、本当に幸せです」

 

 おお。ロクサーヌがカレーを気に入ってくれている。

 近いうちにまた作ってみよう。

 今度はポークカレーやバターチキンカレーもいいかもしれない。

 

 

 

 カレーについてロクサーヌと話しているとボス部屋へ続く扉が開いた。

 

「では、行こう」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮一階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 先ほどと同じように、ボス部屋へ入るとすぐにデュランダルを取り出し、靄が集まっている部屋の中央へ走る。

 

 そして、出現したウドウッド目掛けデュランダルを振るい、剣身がその体を通り抜けるやいなや、再び靄に戻り散っていった。

 

 よっしゃあ! ワンパンじゃーい!

 腕力上昇の効果があった! 攻撃力上昇と腕力上昇は重複する!

 腕力上昇で上がった分の攻撃力がさらに五倍されたのだろう。

 これは今後が楽しみだぞ。

 

 スキルの重複を実感していると、ロクサーヌから大きな声が上がる。

 

「本当に一撃で倒してしまうなんて! ご主人様、すごすぎます!」

「ちゃんと腕力上昇と攻撃力上昇の効果は重複するようだな」

「はい。これを有効に使えばすぐにでも迷宮攻略を行えますね!」

 

 いや、それはない。さすがにそこまでは思ってないから。

 

 

 

 そして、リーフを拾いジョブ設定で戦士を変更しようとすると、狙い通りにそれが現れた。

 

薬草採取士Lv1

効果 知力小上昇

スキル 生薬生成

 

 おし! おし! 薬草採取士ゲットだぜ!

 

 俺が興奮しているのに気づいたのだろう。ロクサーヌが問いかけてくる。

 

「ご主人様、薬草採取士のジョブを得たのですか?」

「ああ。見ていてくれ」

 

 戦士と薬草採取士を入れかえ、手のひらに置いたリーフに向けて念じる。

 

生薬生成

 

 すると一瞬リーフが煙で覆われ、それが晴れると手のひらに緑の丸薬が十個乗っていた。

 

「ご主人様! すごいです!」

 

 目を輝かせたロクサーヌから声が上がる。

 

「ありがとう。素材さえ入手できれば今後は自分たちで回復薬を用意できるようになるな」

「はい。これさえあればすぐにでも迷宮攻略が可能でしょう」

 

 まさかの天丼!?

 ロクサーヌさん。私たちの基本方針は安全第一なのです。そんなに急ぐ必要はありませんよ。

 

 

 

 毒消し丸をアイテムボックスに入れ、先ほどのリーフを取り出して再び生薬生成を行い、作成した毒消し丸をしまい込む。

 

 ……昨日買った分と合わせて四十個もの毒消し丸があるぞ。

 さすがにアイテムボックスを二枠使っているのはもったいないから、1スタック分を残して売っちまうか。

 

 

 

 フォースジョブを戦士に戻し、武器六、腕装備二、アクセサリー四、獲得経験値二十倍を解除して、詠唱省略とMP回復速度二十倍を付ける。

 

「では、朝食に戻るか」

「はい」

 

 ロクサーヌに声をかけ、二階層へと続く黒いゲートを潜ったのだった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv24 英雄Lv19 魔法使いLv23 戦士Lv21

装備 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革の靴

 

BP振分 残BP:14

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:158,855ナール

 

春の6日目

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