スローラビットLv1
森の中を延々と歩き続け、ようやく目的の姿が目に映る。
やっと見つけた。魔物とのファーストエンカまでクッソ長いぞ。
内心でため息を吐いていたが、すぐにあることを思い出す。
おっと。忘れるところだった。
リュックを下ろして中から盗賊のバンダナを取り出し、頭へギュッと巻いておく。
オッケー、準備完了。
相手はノンアクティブ。先制とバックアタックを確実に取れるんだ。慌てず、騒がず切りつける!
よっしゃー! 行くぞ!
慎重に白いウサギに近づき、その体に一撃浴びせ、さらに返す刀でもう一撃くれてやる。
すると三度目の攻撃をする前に、まるで霧が風に流されるかのように散っていった。
へー。魔物を倒すとこんな風に消えるんだな。
そして、奴のいた場所には白いフワフワな物が残されている。
ウサギの毛皮
鑑定で確認したところ、頭の中に文字が浮かび上がった。
おお! これがウサギの毛皮か! 記念すべき初ドロップだ!
浮かれそうになるものの、今の戦闘について少しだけ引っかかる。
俺のレベルが1だったのに二撃で済んだな。
つまり、先ほど考えていたほどフラガラッハの攻撃力は低いわけじゃないのか? それとも盗賊バンダナのおかげだろうか?
うーん……。まあ検証する暇なんてない。このまま続けよう。
おっと。その前にレベルを確認だ。
田川 歩 男 18歳
村人Lv2 英雄Lv1 盗賊Lv2
装備 フラガラッハ 盗賊のバンダナ 皮の鎧 皮の靴
村人と盗賊が2で英雄が1。ファーストジョブに設定している村人のレベルが上がっているな。これでボーナスポイントをゲットできたのだろうか?
キャラクター再設定を開くと、残ポイントのところに燦然と輝く1という数字。
原作と同じだ! やはりファーストジョブのレベルが上がるとボーナスポイントを得られるということになる。こいつはとんでもないアドバンテージだぜー!
テンションが一気に上がったものの、とりあえず村人のレベルが5になるまでは体力に振っておくことにする。
さあ。続きだ、続き。
あれからしばらく森の中を彷徨い、ようやく二匹目を発見した。
ゆっくりと近づき剣を二回振ったところ、先ほどと同じくスローラビットの体は空気に溶けるように消えていく。
うん。エンカウント率がクソなのはともかく、戦闘自体はまったく問題ない。
残ったウサギの毛皮をリュックに収め、自分に向けて鑑定を使用する。
田川 歩 男 18歳
村人Lv3 英雄Lv1 盗賊Lv3
装備 フラガラッハ 盗賊のバンダナ 皮の鎧 皮の靴
……このレベルの並びには見覚えがある。
確かミチオがスローラビット狩りを切り上げてから、ベイルの迷宮に行くまでのレベルだったはず。
最初の盗賊戦で村人と盗賊のレベルが2に上がり、スローラビットを経験値効率二十五倍で三匹狩ったところでその二つのレベルは3になっていた。
その後は経験値効率二百倍で一匹、そして二十五倍で六匹狩っても村人と盗賊は4に上がらず、英雄にいたっては1のまま。
効率的にはスローラビット三百五十匹分の経験値を得ているのにもかかわらずだ。
しかもベイルに着くまでにおそらく二十五倍でグミスライムも狩っている。
それだけの数を倒してもなお、レベルが上がりやすい村人ですらレベル3から4に届いていない。
経験値テーブルのグラフがえげつない曲線を描いていることは容易に想像がつく。
そして魔物の種類とレベルによって、獲得経験値に大きな隔たりがあろうことも想像に難くない。
安全な魔物のみを狩ってレベルを上げ続けるというわけにはいかないのだろう。
……キャラクター再設定を持たない人がレベルを上げるのはかなりの苦行だな。
もっとも、探索者以外にレベルはないと思われているため、他のジョブについている者はそれを苦行と感じることはない。
だが、探索者だけは話が別だ。
彼らはレベルが確認できるため、それを上げようと躍起になるに違いない。
しかも探索者のレベルが50に到達すれば、フィールドウォークという移動魔法を持つ冒険者にジョブ変更ができるときている。
それを目指して仲間と共に、経験値が多い強力な魔物を狩ろうと迷宮の階層を駆けあがるのだろう。
……そう考えると原作でラピッドラビットにやられた、あのソロの男。あいつはかなりヤバい。
あいつはたった一人で魔物が最大四匹出現する八階層に足を踏み入れ、ボス部屋までたどり着いている。
実力ももちろんだが、この世界の基準からすれば相当な変わり者だ。
まあ、傍から見れば俺もそうだと思われるのだろうけどさ。
もっとも、こちらはキャラクター再設定なんて代物が付いている。
チート野郎でごめんやで。
それからスローラビットを五匹狩ったときに英雄のレベルが上がり、六匹目で村人、七匹目で盗賊が上がる。
そのタイミングで思い出したかのように腹が鳴ったため、いったん昼休憩を挟むことにした。
乾いた木の根元に腰を下ろして、そのまま幹に体を預ける。
リュックからペットボトルを取り出し、一気に半分ほど飲み干した。
そして、包んでいたラップを剥がしておにぎりを口へと運ぶ。
……これが人生最後のおにぎりかもしれないなぁ。
そう実感すると自分でも驚くほど動揺してしまい、涙がこぼれそうになる。
人を殺しても、人を騙しても、人を奴隷に落としても、それほど心が動くことはなかったというのに……。
あまりにも自己中心的な自分に、思わず笑いそうになった。
俺は元々こういう人間だったのだろう。
日本にいるときは様々なものに抑圧されて生きてきたが、いざその枷が外れるとこの有様。
そして、それに対しても特になんとも思わないんだよなぁ。
まあ、悩みが少ないことはいいことさ。
今はロクサーヌを手に入れることだけに思考のリソースを割きたい。余計なことを考えて彼女と共に過ごす機会をふいにするわけにはいかないからな。
おにぎりを食べ終え、水を飲み干し、ラップと空のペットボトルをリュックにしまおうとしたところでふと思いつく。
このペットボトル売れるかね?
……いや、無理だろうな。俺には何の伝手もない。
それにこんな製造方法が想像もつかないような物体を売って、権力者に目をつけられるのは危険すぎる。
小説やコミックと一緒に、ずっと手元に置いておくことにしよう。
食事を終えると少々催したので、野ションを決め込むことにした。
うわー。手が洗えない。マジかー。気持ち悪いわー。
もう一本のミネラルウォーターを使うわけにもいかないし、我慢するしかないのか……。
マジであり得ないわー。
嫌悪感を覚えていると、すぐにあることに気が付く。
これ、今後迷宮で催したりしたらどうなるんだ?
男だけなら立ちションでもいいんだろうが、俺が目指すのはハーレムパーティー。そういうわけにもいくまい。
原作のミチオのパーティーはどうしていたんだろうな?
彼以外は全員女性だったわけだし、ワープを使ってこまめにトイレ休憩を入れていたんだろうか?
……余計なことを考えてないで、とっとと狩りに戻ろう。
十二匹目のスローラビットを狩ると、遂にそのときが訪れた。
田川 歩 男 18歳
村人Lv5 英雄Lv3 盗賊Lv4
装備 フラガラッハ 盗賊のバンダナ 皮の鎧 皮の靴
おっしゃ! 村人のレベルが5になってる!
ということは、初級ジョブが解禁されたということだ!
大急ぎでジョブ設定を開くと、頭の中に期待していたものが表示される。
戦士Lv1
効果 体力小上昇 HP微上昇
スキル ラッシュ
剣士Lv1
効果 腕力小上昇 HP微上昇
スキル スラッシュ
魔法使いLv1
効果 知力小上昇 MP微上昇
スキル 初級火魔法 初級水魔法 初級風魔法 初級土魔法
イェス! イェス! きた! 魔法使いだ! 魔法使いきた! 勝った! これで勝った!
すぐにでも魔法を用いた経験値効率二百倍を試したくなるが、この先はデュランダルもフラガラッハもない状態で戦うことになる。HP回復手段は絶対に確保しておかなければならない。
まずは先に僧侶のジョブを得ておこう。
まずはキャラクター再設定を開き、必要経験値減少と獲得経験値増加、それから体力に振っていた分を解除する。
そしてサードジョブからフォースジョブへと変更し、ファーストジョブの村人を盗賊に、サードジョブを魔法使い、フォースジョブを腕力上昇の効果がある剣士へと変えた。
田川 歩 男 18歳
盗賊Lv4 英雄Lv3 魔法使いLv1 剣士Lv1
装備 フラガラッハ 盗賊のバンダナ 皮の鎧 皮の靴
アニメでミチオがニードルウッドを素手で倒したときは、腕力に13ポイントを振ってフラガラッハで一撃入れ、その後フラガラッハを解除して残りのボーナスポイントを全て腕力につぎ込んで倒していた。
しかし、それは今の俺よりずっとレベルが高い状態で、だ。
さらにスローラビットとニードルウッド、どちらのHPが高いのかもわからない。
うーん……。15で試すのすら危ない気がするな。とりあえず20から刻んでいこう。
オッケー、準備完了。それじゃあミッションスタート!
しばらく探し回り、ようやく白い毛玉を見つけ出す。
スローラビットLv1
全力で走り、すれ違いざまにフラガラッハを叩きつけ、そのまま走り抜けて木の陰に隠れた。
そして大急ぎでキャラクター再設定を開き、フラガラッハを解除して残ったポイントを全て腕力上昇にぶち込み、木の陰から出る。
だが、ターゲットのHPは先程の一撃で全損していたらしく、蜃気楼のように消えていくところだった。
くそっ。駄目だったか。探すのにめちゃくちゃ時間がかかるってのに面倒だな。
ウサギの毛皮をリュックに詰めてキャラクター再設定を開き、腕力に振っていたポイントを19に下げて再びフラガラッハを出す。
次だ、次。
結局、スローラビットが一撃で倒れなかったのは腕力上昇のポイントを15にした時だった。
木の陰に隠れながら大急ぎでキャラクター再設定を開き、武器五を消して残ったポイントを全て腕力上昇につぎ込む。
そして攻撃される前に急いで駆け寄り、サッカーボールのような丸っこい体を思いっきり蹴り上げてやった。
奴はそのまま飛んでいき、木にあたってべしゃりと落ちると、サラサラと風に流されるように消えていく。
「ふう」
ようやくか……。
あー、もう。原作と同じく15ポイントでよかったのかよ。六匹分の経験値をふいにしてしまった。
……いや。ゲームと違って死んだら終わりなのだ。たとえ遠回りだったとしても、安全第一でいこう。
自分にそう言い聞かせながらジョブ設定を開くと、そこにはお目当てのものが表示されている。
僧侶Lv1
効果 精神小上昇 MP微上昇
スキル 手当て
これでようやく必要な手札がそろったな。
よし。ここからはジョブとボーナスポイントの運用を大幅に見直そう。
まずはジョブだ。何をおいても優先すべきは英雄と魔法使い。
本人の努力や才能では絶対に取得できず、迷宮探索において圧倒的なアドバンテージを誇るぶっ壊れジョブ。おそらくこの世界でも有数の組み合わせだろう。
……もっとも、他の人はジョブを組み合わせること自体ができないんだけどさ。
明日、迷宮に入って探索者を獲得した後は、この三つのジョブを軸に運用していく。
必要に応じて物理攻撃スキルの使える戦士や剣士、回復スキルの使える僧侶と切り替えるってことで。
ボーナスポイントについては、基本的には経験値重視でいこう。
デュランダルやフラガラッハを使用せず、獲得経験値二十倍と必要経験値十分の一にポイントを振り、与ダメージは魔法で稼ぐ。
そしてMPが少なくなったらミチオに倣い、獲得経験値二十倍をデュランダルと入れ替えてMP回復を図ればいい。
作中で推察されていたように、必要経験値減少は動かさない方がいいはず。
ロクサーヌを手に入れるまではこれを基本方針とする。
ベイルの商館でロクサーヌを紹介され、売約した後の支払期限はおそらくウェブ版の十日ではなく、書籍版の五日。
様々な要素がウェブ版ではなく書籍版なので、そう考えておくべきだ。
ボーナスポイントを用いた金策で思いつくのは、結晶化促進六十四倍にポイントを振ることだが、それだとおそらく期限までに間に合わない。
デュランダルに結晶化促進六十四倍、それからワープが併用できれば、ボスを倒して直接待機部屋に戻ることを繰り返すマラソンも可能。
しかし、それには最低でも128のボーナスポイントが必要となる。
最初から取得している99ポイントを除くと、29ものポイントを確保しなくてはならない。
そのためには探索者のレベルを30まで上げる必要がある。
ファーストジョブを探索者ではなく、レベルが上がりやすい村人にしたところで、先に期限がくるのがオチだろう。
よしんば間に合ったとしても、ボスマラソンをやる時間は絶対にない。
それに、ダンジョンウォークで移動できない待機部屋に直接移動するのはとんでもなく不自然だ。
もし目撃されてしまえば、どんな疑念を抱かれるか分かったものじゃない。
それを防ぐためには匂いで人が来るかわかるロクサーヌの嗅覚が必須になる。
ワープを使わず、ボス部屋に一番近い小部屋へダンジョンウォークで移動するという手もあるが、時間効率が落ち実用的とは言い難い。
ボスマラソンについては今ではなく、もっと余裕が出来てから試すことにしよう。
他に危険を伴わない方法で思いつくのは、ボーナス装備の決意の指輪を売却することで資金を確保し、その後兇賊ハインツを倒した際に手に入る同じ品をポイントに還元すること。
デメリットは、万が一、決意の指輪を手に入れることができなければ、ボーナスポイント3が永遠に失われること。
また、よしんば手に入ったとしても、ポイントに還元してハルツ公爵へ返還しなかった場合、その後の流れが大きく変わる。
ルティナの父親であるセルマー伯爵との会見に同席する流れがなくなり、そのためセルマー伯爵の討伐に声がかかることもない。
つまり、ルティナを手に入れることが出来なくなってしまうということだ。
……やはり盗賊を狩って懸賞金を狙うしかない。
とても現代日本人とは思えないような結論にたどり着いてしまうが、俺は既にそれをやってしまっている。
しかも、特にトラウマになることもなく、だ。
まあ、ミチオも同じことをしてたし、問題ないだろう。
そしてこれを行うとなれば、ボーナスポイントの振り分けは地力を上げるため、やはり経験値重視ってことになるわけだ。
考えを巡らせていると、不意に喉の渇きに気が付いた。
背負っていたリュックを下ろし、ミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干す。
ああ。これで日本から持ち込んだ飲食物はなくなったか。
空のペットボトルをリュックに戻しながら少しだけ切なくなった。
……落ち込んでいる暇はない。続きだ、続き。
フォースジョブをサードジョブに変え、キャラクター再設定とジョブ設定、それから鑑定を除き他は全て解除した。
それからファーストジョブを英雄に、セカンドジョブを魔法使い、サードジョブを僧侶に変更し、ついでに盗賊のバンダナを外してリュックに放り込んでおく。
そして、獲得経験値二十倍と必要経験値十分の一を設定した。
ボーナスポイント1
鑑定とジョブ設定を解除し詠唱省略を入れておく。
ボーナスポイント0
よっしゃ! ここからは俺の魔法が火を噴くぜー。
しばらく探し回り、やっとみつけたスローラビットに魔法攻撃を行おうとしてはたと気付く。
……火を噴いたら駄目じゃね? これ、ファイヤーボールだとまずいよな?
ファイヤーボールやファイヤーウォールは、魔物のみに作用するわけじゃなく延焼する。
枯葉や枯れ枝がある森の中でそんなものを使えば、山火事待ったなしだ。
確かストーム系は魔物のみを対象に作用しているような描写があったし、ファイヤーストームを使うか?
……いや、やめておくべきだ。
魔物が炎にまかれた後に燃え移ることがないとは言えない。
それに原作とは仕様が異なっている可能性だってある。
おそらく問題ないだろうが、最悪死ぬようなリスクがあることを試すわけにはいかない。
うーん……。他の属性を使うべきか?
作中ではラビット系の魔物に対しては火属性の魔法しか使っていなかったが、特に弱点や耐性といったものはなかったはず。
……よし。安全策で行こう。
経験値が無駄になるが、今回は実験としてデュランダルを出し、火以外のボール系の魔法を使用する。
とりあえず五発を上限に試し、五発撃っても倒れない場合はデュランダルの出番だ。
獲得経験値二十倍を外してデュランダルを出す。
目の前で長考に入っていたというのに、スローラビットはその場でぼーっと佇んだままだ。
待っててくれてありがとな。お礼にこいつをやるよ。
ウォーターボール
魔法名を念じると頭上に水の球が出現し、スローラビット目掛けてものすごいスピードで飛んでいく。
そして、そのまま直撃し水が弾けた。
攻撃を受けたというのに慌てる様子がなく、ゆっくりと体の向きを変えようとする。
ウォーターボール
がら空きになっていたその土手っ腹に二発目がぶつかり、奴の体は霧が風に流されるように消えていった。
あー! 水でもいけたんじゃん! 経験値損したー!
もったいなさに身悶えしそうになりながら、次の準備に取り掛かる。
二発で沈むってんなら、まだMPを回復する必要はないはずだ。
キャラクター再設定を開いて武器六を外し、獲得経験値二十倍をつけなおす。
なんか行ったり来たりで無駄なことをしている感があるが、安全第一ってことで。
コンティニューはないのだ。少しの手間を惜しんで命を危険に晒すような真似をするわけにはいかない。
再びスローラビットを探し回り、ようやく見つけたそいつをウォーターボールで片づける。
倒し終わったところでキャラクター再設定を開くと、ボーナスポイントが1つ増えていた。
おお! 英雄のレベルが上がったのか!
鑑定を設定し自分に向けて使ってみる。
田川 歩 男 18歳
英雄Lv4 魔法使いLv2 僧侶Lv2
装備 皮の鎧 皮の靴
英雄も上がっているが魔法使いと僧侶も上がっていた。
最初に魔法で倒したときに上がっていたのだろうか?
それとも今の経験値効率二百倍で倒したときに上がった?
……まあ、今は考えている場合じゃないな。続きだ、続き。
気分の落ち込みは特に感じないし、まだいけるだろう。
再びスローラビットを探して歩き回る。
しかし、このエンカ率の低さはどうにかならないものかねぇ。
村の近くにある森で鬼湧きする方がやばいのはわかるが、現実でレベル上げをするとなると、歩き続けなければいけないのがきつすぎるぞ……。
その後もスローラビットを探し求め、さらに三体倒したところでいきなり倦怠感を覚えた。
狩りが面倒になり、何もかも投げ出してしまいたくなる。
明らかに通常の精神状態ではない。これはすぐにMPを回復させないとまずいぞ……。
キャラクター再設定を開いて獲得経験値二十倍を外し、デュランダルを手に取った。
森の中を歩き回りながらも、頭の中では次々とネガティブな言葉が浮かんでくる。
さっきから同じようなこと繰り返して、俺は頭がおかしいんじゃないのか?
いや、そもそも本当にこの世界に来てよかったのか?
ベイルの商館にロクサーヌがいる保証なんてどこにもないし、よしんばロクサーヌがいたとしても購入を断られる可能性だってあるだろう。
本人はイケメンのつもりはないようだが、小説の挿絵やコミック、アニメ等を見てもわかる通り、ミチオは割とイケメンだ。
それに比べて、俺は四十五になっても女性と付き合うことが出来なかったガチの不細工。
おまけにこのまま年を重ねるとハゲることが確定している。
ロクサーヌが俺の顔を見たら速攻で拒否をすることだろう。
それにロクサーヌに拒否権がなく、運良く売約することができたとしても、資金集めの途中に死んでしまうのがオチだ。
後ろ向きなことばかりが頭の中をぐるぐるまわり、落ち込みながら森を歩いていると白い塊を発見する。
面倒だと思う心を抑えつけ、何とかそいつをデュランダルで切りつけた。
その瞬間、嘘のように思考の靄が晴れていく。
……今までのマイナス思考はMP不足のせいか?
作中で何度も出てきていたが、実際に体験するとこれはヤバい。
こんなこと繰り返すと絶対に精神がおかしくなってしまうだろう。
魔法主体で戦うにしても、MPには常に注意を払っておかなければ不味いことになる。
少しでも気分の落ち込みを感じたら、デュランダルで回復しなければ。
そして保険として、ベイルに行ったら迷宮に入る前にMPを回復する強壮丸を買っておかないと。
ああ。ついでに黒魔結晶もいるな。
うん。大丈夫だ。この世界に来たのは間違いじゃない。
安全マージンをしっかりとって、命の危険がないように慎重な行動を心掛けよう。
きっとロクサーヌだって手に入れることができるに違いない。
ポジティブに行こう、ポジティブに。
それに若いうちから気をつけていれば遺伝子の呪いに打ち勝ち、いつまでもフサフサなままさ。
大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせながら、再びスローラビットを求めて森の中を徘徊する。
気が付けば空は薄暗く、オレンジがかってきていた。
ここいらが引き上げ時だろう。
田川 歩 男 18歳
英雄Lv4 魔法使いLv4 僧侶Lv4
装備 皮の鎧 皮の靴
鑑定で確認をすると、魔法使いと僧侶のレベルが4になっていた。さすが経験値効率二百倍。
これはなかなかの成果なのではないだろうか。
無駄なところは山ほどあっただろうが、まったくのゼロから始まった初日としては満足のいく成果だ。
キャラクター再設定だけでなく、原作知識もだいぶチートだな。
それじゃあ村に戻るとしますかね。
キャラクター再設定を開いて鑑定、ジョブ設定、獲得経験値上昇を外し、ワープとMP回復速度二十倍にポイントを振る。
よし。オッケー。
近くにあった大きな木の幹に向かい、村長の家の壁を思い浮かべながらワープと念じると目の前に黒いゲートが出現した。
そして、そのゲートに向け踏み出し体を埋めていく。
田川 歩 男 18歳
英雄Lv4 魔法使いLv4 僧侶Lv4
装備 皮の鎧 皮の靴
BP振分 残BP:0/102
ワープ:1
必要経験値十分の一:31
サードジョブ:3
MP回復速度二十倍:63
詠唱省略:3
キャラクター再設定:1
所持金:0ナール
春の1日目