異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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052 好事魔多し

 

 

 

 

 

ベイル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 ワープゲートから抜け出すと辺りは人で賑わい、カウンターには列が出来ている。

 周囲を見回しスンスンと鼻を鳴らすとロクサーヌが問いかけてきた。

 

「え? ベイルの冒険者ギルドですか?」

「うむ。今から食事の支度をすると午後の探索へ出るのが遅くなるからな。今日の昼食はベイル亭でとろう」

 

 宿泊では朝食と夕食の時間がキッチリ決められていたが、食堂は食事だけの営業もしているという話だった。

 それなら、朝夕しか開いていないということはないだろう。

 いや、普通に考えるなら宿泊客は時間が決まっているのだから、それ以外を食堂の営業に当てているはずだ。

 

 

 

「申し訳ありません。ご主人様」

 

 俺の言葉を聞いてロクサーヌが謝罪をする。

 これはこれで楽しいんだから気にすることないのに。

 

「外食をするのもデートの締め括りらしくて良いじゃないか。一緒に食事を楽しもう」

「はい。ありがとうございます」

 

 うん。笑顔が戻った。

 やはりロクサーヌにはいつも笑顔でいてもらいたいからな。

 

「では、行こう」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイル

ベイル亭

 

 

 

 

 

 ベイル亭と冒険者ギルドはすぐ近くにあるため、さほど時間もかからず到着する。

 中に入り受付へ向かうと、エマーロ族の男がこちらに気がついたようだ。

 

「いらっしゃい。今日はどうしたんだ?」

「以前食事だけの利用もできると言っていただろう? それが気になったので足を運ばせてもらった」

「おお、ありがとう。それなら、食堂へ行って従業員に声をかけてくれ」

「うむ。ありがとう」

 

 旅亭の男へ片手を上げて、食堂へ歩き出す。

 

 そういえば、この男はかなりの情報通で盗賊の動向に精通していたな。

 帰るときにウーゴ一味の残党について聞いてみるか。

 

 

 

 食堂に入ると複数のグループがテーブルを囲み食事をしている。繁盛しているようだ。

 俺たちが宿泊していた時の食事も美味かったし納得できる。

 

 入口付近に立っている旅亭の女性が声をかけてきた。

 

「いらっしゃいませ。お食事をご希望ですか?」

「うむ」

「ありがとうございます。このテーブルに置かれている物の中からお選びいただけます。牛肉野菜炒めとシチューのセットが百ナール。白身魚のムニエルとシチューのセットが九十ナールとなります」

 

 両方とも以前食べたことがあるな。どちらも文句なしに美味かった。

 俺と同じものと言いそうな気がするが、ロクサーヌにも確認しておこう。

 

「ロクサーヌはどちらにする?」

「ご主人様と同じものをお願いします」

 

 ……やっぱり。

 まあ、本人がそれでいいなら問題ないが、いずれ自分の好きな物を選んでほしいものだ。

 

 ここ数日で牛肉は何度か食べたし魚にしておくか。

 

「俺は魚の方にするがロクサーヌもそれでいいのか?」

「はい。お願いします」

 

 

 

 旅亭の女性に注文を伝えて支払いを行い、ついでに三割引をMP回復速度二十倍に付け替えて、空いている席に着く。

 

「ロクサーヌの手料理を毎日食べられるのも本当に幸せだが、たまにはこういう風に外食をするのもこれはこれでいいもんだな」

「そうですね。とても贅沢な気分になります」

「そうだな。どうしても食事の用意が難しいときは無理をせず、今後も外食ですませよう」

「はい」

 

 軽く話している間に先ほどの従業員が食事を持ってきた。

 以前もそうだったがめちゃくちゃ早い。

 メニュー数が少ないためある程度作り置きがされているのだろうか?

 

 まあ、いいか。冷めないうちに食べよう。

 

「では、いただきます」

「いただきます」

 

 うん。美味い。

 やはりこのムニエルは抜群に美味いぞ。

 マーブリームの白身やコボルトフラワーを使っていたりするのだろうか?

 

 遠くないうちに我がパーティーには、大の魚好きさんが加わることになる。

 そうなると家でも頻繁にこの白身が食卓に上がるはずだ。

 ムニエルもいいがフライもいいな。きっと金物屋に依頼している撹拌機が大活躍することだろう。

 それに、天ぷらや竜田揚げ、煮込みにしても美味そうだ。

 マーブリームを狩れるようになったら、ミリアが来る前でも魚パーティーの開催といこう。

 

 

 

 

 

 

 食事を終え、食堂を出て受付に近づくと旅亭の男が声をかけてくる。

 

「うちの自慢の料理はどうだった?」

「宿泊しているときにも思っていたがとても美味いな。調理をしているものはたいしたものだ」

「ありがとうな。調理場の者に伝えたら喜ぶはずだ。また食べに来てもらえるとありがたい」

「うむ。また寄らせてもらおう」

 

 一頻りあいさつを交わしたところで本題を告げることにする。

 とりあえず、適当に水を向けてみよう。

 

「ところで、噂を耳にしたのだがベイルのスラムから追い出されて、どこかの村を襲って返り討ちに遭った派閥の残党がベイルに戻っているというのは本当だろうか?」

 

 俺の言葉に表情を変えると、小さな声で答えた。

 

「もう町でも噂になっているのか……」

 

 マジ? ってことは本当に戻ってきているのか?

 男はさらに続ける。

 

「そいつらを追い出した派閥の一つが壊滅した話をしただろう?」

「そうらしいな」

 

 誰だか知らないが酷いことをする奴がいるもんだ。盗人の上前を取るなんて碌なやつじゃないぞ。

 きっと、とんでもないチート野郎なのだろう。

 

「そのせいで、グループの力関係が流動的になっていて、追放された奴らの残党はそこに食い込むべく勢力拡大を図っているらしい」

「そうなのか?」

「ああ、スラムの若い奴らに声をかけたり、評判の悪い探索者に近づいているようだ」

 

 ……これはアランの館への襲撃は起こるな。

 仲間である奴隷の二人を買い取ることで人数を増やし、襲撃の手引をさせて財産を奪うつもりだろう。

 それがいつ実行されるのかはわからないが、ある程度頭数が揃えば確実に狙うはずだ。

 

 今後も商館の確認を怠らないようにしておこう。

 

「しばらくはスラムに近づかない方がよさそうだな」

「そうしたほうがいい。それだけの美人を連れているんだ。今のスラムに近づくと碌な目に合わないだろう」

「うむ。忠告感謝する」

 

 男に感謝を述べてベイル亭を後にする。

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 外に出てしばらく歩き、人気がなくなったところでロクサーヌに近寄り囁いた。

 

「どうやら襲撃は起こるようだ」

 

 ロクサーヌの顔は強張っており、世話になった人のことを心配していることがうかがえる。

 

「はい。あの、ご主人様……」

 

 不安そうな表情を浮かべ、縋るように俺のことを見つめる。

 

「大丈夫だ。もちろん介入するしロクサーヌが世話になった人が傷つくようなことなど絶対に起こらない」

「ご主人様!」

 

 その言葉を聞いたロクサーヌは俺の体をぎゅっと抱きしめた。

 

 おお。今日のロクサーヌは感激屋さんだ。

 しかし、こういう風に喜びを伝えてくれるのがめちゃくちゃ嬉しいぞ。

 

「私の頼もしいご主人様。本当にありがとうございます」

 

 なーに。いいってことよ。

 

 

 

 名残惜しいが体を離す。

 さて、午後の探索はどうするべきか。

 ベイルの迷宮はここからすぐ近くなので、食休みを取らずにそのまま探索するか、それともクーラタルの自宅まで戻ってのんびり過ごすか……。

 

 うーん……。

 ロクサーヌにも確認をしてみよう。

 ……でも、このお嬢さんに聞いたら迷宮一択な気がする。

 

「ロクサーヌ。この後の予定なのだが、このままベイルの迷宮へ行くか、それとも一度自宅へ戻って食休みを取るか。どちらの方がいいだろうか?」

 

 確認をすると、キョトンとした表情を浮かべ言葉を返す。

 

「ご主人様。私の防具は全て部屋にありますので、このまま迷宮へ行くことはできません」

 

 あ、そうだわ。

 レイピアこそ腰に差しているが防具は全て置いてきている。

 迷宮に行く場合でも一度戻る必要があるなら、休憩を挟んだ方がいいな。

 

「では、自宅へ戻ろう」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅に戻り歯磨きを済ませるとロクサーヌは購入したものを部屋に置きに行き、俺も銀貨を鍵のかかるチェストに戻しておいた。

 

 リビングへ行くと既にロクサーヌがソファーに座っていたので、そのまま近づき隣に腰を下ろす。

 

 どうしよう? 腰に手を回してイチャイチャしたいがパッチテスト中なんだよなぁ。

 でも、外出しているときに何度も抱きしめられているし今更感もある。このまま抱きしめてもいいのではないだろうか?

 いや、でもなぁ。ロクサーヌの肌がかぶれたら可哀そうだしなぁ。

 ここは断腸の思いで我慢しておくか。

 

 結論を出したところでロクサーヌが俺の腕を取りぎゅっと抱きしめた。

 

 えー! 俺が葛藤の末に出した結論が無駄にー!

 

「先ほどご主人様に抱きついても大丈夫だったので、これも問題ないと思います」

 

 ロクサーヌがすごく積極的だぞ。

 でもまあ、そうだな。問題なさそうだし。イチャイチャタイムを楽しんでもいいだろう。

 

 抱きしめられている腕を離してもらい、ロクサーヌの体を掬い上げ俺の右膝に座らせ、そのまま抱きしめた。

 

「必死にこらえていたのに、そんなことをされたら我慢が出来なくなってしまったよ」

 

 すると、ロクサーヌは嬉しそうに微笑みながら言葉を返す。

 

「ふふ。ありがとうございます。やはりご主人様と触れ合えないのは寂しいです」

「そうだね。俺もロクサーヌと触れ合えないのは辛いな」

 

 顔を見合わせ笑い合って、ゆっくり唇を近づけていった。

 

 

 

 

 

 しばらくイチャイチャしたところで、キッチンにおいてあるキュピコのことを思い出す。

 とても二人で食べきれるような量じゃない。少なくない量を腐らせてしまうだろう。

 お裾分けをしようにも、知り合いなんてほとんどいないしなぁ。

 

 とりあえず金物屋の夫妻にはめちゃくちゃ世話になっているから渡しておくか。

 あとは、今後付き合いが出てくるだろうし、ご近所さんにも渡しておこう。

 原作でも地域活動をさぼるような奴は、何かあった時に濡れ衣を着せられてしまうような、まずいことになるかもしれないと考察されていた。

 まめに近所づきあいをする気は全くないが、貰い物で歓心を買うことが出来るならお得なもんだ。

 まあ、ご近所さんといっても他の家からだいぶ離れているんだがな。

 

「ご主人様。何か考え事ですか?」

 

 ん?

 気になった事を気軽に尋ねてくれることが、心を開いているようで嬉しいもんだ。

 

「さっき貰ったキュピコなんだけど、二人だと全部食べきることはできないだろうなと考えていたんだ」

「そうですね。あれだけのキュピコをお店で買ったのならすごい金額になりますので、腐らせてしまうのはもったいないです」

 

 頷いているロクサーヌへ話を続ける。

 

「なので、お裾分けをしようと思うんだ」

「さすがご主人様。それはとても良いお考えですね」

 

 さすがというほどのことではないと思うんですが……。

 ロクサーヌよ。そんなに俺のことを甘やかさないでくれ。

 

 ……まあいい。続けよう。

 

「世話になっている金物屋の夫妻とご近所に渡しておこうと思うんだけど、どうかな?」

「はい。良いと思います。オネスタさんにはとてもお世話になりましたし、ご近所ともある程度の付き合いは必要でしょう」

 

 オネスタさんって、いつの間にか世話役が名前呼びになっているぞ。

 俺がフードプロセッサーの注文をしているうちに、そんなに親しくなっていたのか?

 いったいどんな話をしたのだろう?

 

「それじゃあ、午後の探索が終わったら近所を回ろう」

「いえ、それはやめた方がいいと思います。ご主人様がお裾分けのような雑用をすると侮られてしまいます」

 

 え? そんな感じ?

 原作ではドブ掃除に主人自ら参加すると侮られるという話だったが、雑事を行ってもそう思われるのか。

 

「俺は行かない方がいい?」

「はい。ここへ越してきてから井戸水を汲みに行っていないので、ご近所の方にご挨拶が出来ていませんでした。ちょうどいい機会ですのでご挨拶を兼ねて私がお渡ししてきます」

 

 なるほど。語源通りの井戸端会議が行われている世界なのだな。そこを中心に女性たちがコミュニケーションを取っているのかもしれない。

 

 しかし、それだと困ったことになるぞ。

 絶対に水汲みに現れない住民なんて不審すぎる。

 どうやって水を確保しているんだと近所で話題になってしまうだろう。

 

「ロクサーヌ。今俺たちは井戸へ行かず魔法で水を確保しているけど、これだと近所から不審に思われるかな?」

「そうですね……。まだ越してきたばかりですので、入れ違いになっていると思われているでしょうが、これが続くとまずいかもしれません」

 

 まいったなぁ。

 原作では特に問題になっている様子はなかったが、どう処理をしていたのだろう?

 

 俺が悩んでいると、ロクサーヌが告げた。

 

「私が一日一度水を汲みに行きます。姿が確認できれば不審に思われることもないでしょう」

 

 仕方ない。無駄な作業をさせてしまうことになるがロクサーヌに頼むしかないか。

 

「じゃあ、悪いけどお願いね」

「おまかせください」

 

 

 

 三十分ほどイチャイチャしながらのんびり過ごしたところで、午後の探索を行うことにする。

 

「それじゃあ、迷宮へ行こうか」

「はい!」

 

 おー。嬉しそうにしちゃって。本当に戦うのが好きなお嬢さんだ。

 

 

 

 ロクサーヌが自室で装備を整えている間にアイテムボックスから防具を取り出して身に着け、ロッドを腰に差す。

 それから、キャラクター再設定を開き、MP回復速度二十倍を外してアクセサリー四にポイントを振り、出現したメギンギョルズを腰に巻いておく。

 

 そうこうしているうちにロクサーヌも二階から降りて来たので、靴を履き替えワープゲートを開いた。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

四階層

 

 

 

 

 

 迷宮へ移動したところでワープのポイントを外し、獲得経験値二十倍を付ける。

 腰のロッドを引き抜けば準備完了だ。

 

「では、早朝の続きと行こう」

「はい」

 

 入ってきた方から見て右側にある通路を進むとすぐにロクサーヌから声がかかる。

 

「ご主人様。この先に魔物がいます」

 

 少し歩くと反対側から魔物がこちらに向かってきた。

 

ミノLv4

ミノLv4

コボルトLv4

 

 先手必勝!

 

ファイヤーストーム

 

 念じた瞬間火の粉が舞い、魔物の体に炎が纏わりつく。

 そして、炎が消えると同時に魔物の姿も掻き消え、後にはドロップアイテムだけが残っていた。

 

 よし。午後も問題なし。

 絶好調である!

 

「さすがご主人様です。この調子で上にあがっていきましょう!」

 

 拾ったアイテムを俺に差し出しながらロクサーヌが話しかけてくる。

 

「そうだな。無理なく戦える階層を探すためにも、この調子で上を目指していくか」

「はい!」

 

 

 

 その後、MP回復を挟みながら出現する魔物を次々と焼き払っていく。

 ミノの威圧感にも慣れ、魔法はもちろんデュランダルでも緊張せずに狩ることが出来ている。

 複数の魔物が魔法一発で片が付き、近接戦もロクサーヌのおかげで背後から安全に攻撃することが可能だ。

 このコンビネーションが迷宮探索に抜群の安定感をもたらしており、もう一端の探索者といっても過言ではないのではないだろうか?

 

 この状態を維持できるなら、セリー加入前に四匹以上が出現する八階層以上をメインの狩場にすることも可能だろう。

 そうなると取得経験値が増して、目標レベルに早めに達することができ、経験値効率四百倍での狩りが行えるようになる。

 そして、これが出来るようになれば取得経験値がとんでもないことになり、派生ジョブや中級ジョブの取得も早くなる。

 また、ファーストジョブのレベルが上がることでボーナスポイントに余裕ができ、益々迷宮探索の安定感が増していく。

 

 本当に恐ろしいくらい順調だ。

 

 

 

 三度目のMP回復が必要になったためロクサーヌに声をかける。

 

 

「デュランダルを出すから少し待ってくれ」

「かしこまりました」

 

 ロッドと鋼鉄の盾をアイテムボックスにしまってキャラクター再設定を開き、獲得経験値二十倍とデュランダルを付け替える。

 

「では、先に進もう」

「はい」

 

 デュランダルを手に通路を進むとすぐに魔物の群れと遭遇した。

 

ミノLv4

ミノLv4

ミノLv4

 

 もはやミノ三匹編成にも怖気づくことはない。早朝の俺とは一味違うぞ。刮目してみよ! 今宵のデュランダルは血に飢えておるわ!

 

 内心で悦に入っていると、隣にいたロクサーヌが飛び出し、ミノ三匹に次々と攻撃を入れてヘイトを自分に向け、繰り出されるツノ攻撃を回避し始めた。

 

 さて、ダメージディーラーの出番だぜ!

 

 デュランダルを構え、こちらにケツを向けているミノへ駆け寄り薙ぎ払うと、あっさりその体を霧散させる。

 

 俺のメインウエポンの威力を見たか!

 

 一匹目が消えたのを確認し、次の獲物へ移ろうかというときに大きな声が上がった。

 

「ご主人様! 危ない!」

 

「ぐっ」

 

 ロクサーヌの声が聞こえると同時に背中に衝撃を受け、口から声が漏れてしまう。

 

 なんだ!? 攻撃を受けたのか!? 俺が魔物の攻撃を受けた!?

 まずい! すぐに始末しなければ!

 

オーバーホエルミング

 

 スローモーションで流れる景色を置き去りにして振り返り、追撃を行おうとしているミノを切り払う。

 そして、ロクサーヌへ攻撃をしている個体へ駆け寄りデュランダルを突き入れる。

 

 

 

 魔物の体が空気に溶けているのを確認しながら、一気に上がった鼓動を抑えるため深呼吸をしていると、いつの間にかオーバーホエルミングの効果が切れていた。

 

「ご主人様! 大丈夫ですか!?」

 

 血相を変えながらこちらへ駆け寄ってくるロクサーヌへ、荒い息で答える。

 

「大丈夫だ」

 

 冷静になってみれば、何かがぶつかった感触はあったものの大した痛みはなかった。

 それなのに、初めて魔物から攻撃を受けたことで気が動転してオーバーホエルミングまで使ってしまった。

 

「ふう」

 

 口から大きなため息が漏れる。

 

 めちゃくちゃ情けないなぁ。

 そして、さっきまでの俺は完全に調子に乗っていたな……。

 迷宮探索が順調なことで慢心し、魔物への対応がどこか遊び半分だった。

 口では命が懸かっているだの、安全確保だのと言いつつ、魔物や盗賊からダメージを受けることがなかったため、全然危険性を実感できていなかったのだろう。

 

 自分の命を脅かしかねない魔物に対し、安全に撃破できるゲームの雑魚敵くらいの意識しか持っていなかった。

 

 とんでもない大馬鹿野郎だ。

 情けなさと恥ずかしさでのたうち回りたくなる。

 

 

 

「ふー」

 

 大きく息を吸って、そのまま吐き出す。

 今は迷宮探索の途中だ。落ち込むことはマイナスにしかならない。気持ちを切り替えろ。

 

 それに収穫もあった。

 今のレベルと防具であれば、四階層の魔物の攻撃では大きなダメージを受けない事が分かったのは大きい。

 もちろんだからといって油断するわけにはいかないが、今後は臆することなく魔物に立ち向かうことが出来るだろう。

 

 

 

 こちらを心配そうに見つめるロクサーヌに声をかける。

 

「ロクサーヌ。申し訳なかった。魔物に対し自分が攻撃を受ける可能性を考えず、安直に攻撃をしていた。どうやら俺は知らず知らずのうちに慢心していたようだ」

「私の方こそ魔物を引き付けることが出来ず、申し訳ありませんでした」

「いや、常にすべての魔物を引き付け続けるということは不可能だろう。ならば、緊張感を持ち戦闘を行うべきだった」

 

 とにかく、俺のするべきことは同じ過ちを繰り返さない事だ。

 まずは、魔物を侮ることなく戦闘を行う。

 そして、攻撃を受けても動揺しないようにならなければ。

 それほど痛みは感じなかったし、なんなら修行の時にロクサーヌから受けている攻撃の方が痛いくらいだ。

 落ち着いて対応していれば今回のような醜態をさらすこともなくなるはず。

 

 

 

「では、探索に戻ろう」

「はい」

 

 ……しかし、四階層とはいえ魔物の攻撃を受けるより、ロクサーヌの木剣を使った攻撃の方が痛いのは一体どういうことなのだろう?

 しっかり防具を身に着け、非装備品の武器を用いており、さらにレベル差もあるのにダメージを受けすぎではないだろうか?

 

 ……まさか、覇気とか使えないだろうな?

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv22

装備 聖剣デュランダル 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

結晶化促進二倍:1

アクセサリー四:15

武器六:63

 

所持金:165,801ナール

 

春の7日目

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