異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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053 お裾分け

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

四階層

 

 

 

 

 

 やらかしてしまったので、その後は魔物の動きに注意を払いながら屠っていく。

 調子に乗ると視野狭窄に陥り、目の前の敵しか見えなくなってしまうことだろう。

 特に接近戦をするときは、常に魔物の位置を確認しながら戦うべきだった。

 

 

 

 MP回復を終えると、デュランダルと獲得経験値二十倍を付け替え、アイテムボックスからロッドと鋼鉄の盾を取り出し装備する。

 

「では、また魔法で倒していく」

「はい」

 

 

 

 再び魔法一発で片付く戦闘を行っていることで、考え事をする余裕が出てきた。

 正直この余裕が良いことなのか悪いことなのか判断がつかないんだよなぁ。

 

 余裕があるおかげで考えを巡らせることが出来るが、魔物との戦闘を作業に感じてしまい緊張感がなくなる要因にもなる。

 

 武道経験があると、漫画でよく見る残心ってやつが出来るんだろうか?

 それとも心構え次第で武道経験は関係なかったりするのか?

 手探りになるが、撃破後もドロップアイテムを確認するまで、警戒し続けることを心掛けよう。

 

 

 

 敵を薙ぎ払いながら突き進んでいると、通路のない小部屋に突き当たった。

 

 ただの突き当たりか? それとも待機部屋? もしかしたら魔物部屋の可能性もあるか。

 

「ロクサーヌ。奥の壁の向こうから魔物の匂いはするか?」

「いいえ。魔物はいないようです」

 

 ということは少なくとも魔物部屋ではないわけだな。

 

 まあ、とりあえず進んでみるか。

 

「では、進んでみよう」

「はい」

 

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮四階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 下がった壁の奥へ進むと、その先にはボス部屋へと続く扉が見える。

 よし、待機部屋だ。人もいないしチャチャっと準備を済ませよう。

 

「準備をするので少し待ってくれ」

「はい」

 

 ロッドと鋼鉄の盾をアイテムボックスにしまい、キャラクター再設定を開いて獲得経験値二十倍を外し、余ったポイントを武器六につぎ込み出現したデュランダルを手に取った。

 

「それじゃあ、ボス部屋へ入ろう」

「かしこまりました」

 

 扉の前へ進むと音を立てて扉が開くので、その隙間へ体を潜らせる。

 

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮四階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 俺たちが部屋へ入った事に反応し、フロア中央に靄が集まっていくとロクサーヌは飛び出し、正面を取るべく駆け出した。

 

 速攻あるのみ! 俺も続くぞ!

 

オーバーホエルミング

 

 靄の動きが緩やかになる中、敵の背後を衝くためロクサーヌの逆サイドに陣取ると、その中から魔物の姿が現れる。

 

ハチノスLv4

 

 体もツノもめちゃくちゃデカい!

 ミノとは比べ物にならないぞ!

 

 だが、ロクサーヌが正面を取ってくれているんだ! ビビってられるか!

 

ラッシュ

 

 ハチノスの巨体へラッシュを乗せたデュランダルを叩き込み、二度、三度と繰り返す。

 すると、スローモーションで後脚が迫ってきたため、大きく後ろへさがった。

 そこで時間の流れが元に戻ると、ロクサーヌは風切り音が聞こえるハチノスの攻撃をギリギリでかわし、攻撃を入れ続けている。

 

 こっわ。クソ恐ろしいことをやってんなぁ。完全に見切っている感じだぞ。

 

 おっと。見惚れている場合じゃない。さっさと片付けなければ!

 

オーバーホエルミング

 

 再び目の前で行われている、巨大な牛とマタドールの闘いがスローモーションになったところで、後ろに回り込みラッシュを使いデュランダルを振るっていった。

 

 

 

「ふぅ」

 

 目の前で消えていくハチノスの体を見ながら思わずため息が漏れてしまう。

 

「お疲れ様です。ご主人様」

「ロクサーヌもお疲れ様。魔物の攻撃を受け持ってくれて助かった」

「私の方こそありがとうございます。ご主人様がすぐに倒してくださるおかげで、まったく負担はありません」

 

 あんな体もツノもデカくて威圧感のある牛の攻撃をミリでかわしているのに負担がないんですか……。

 ハンパねぇなぁ。

 

 

 

 ……さて、気を取り直してドロップアイテムを拾おう。

 

ハツ

 

 ハツ!? ハツってあのハツ? 心臓の?

 ハチノスを倒してドロップするのがハツなのか……。

 ミノを倒して皮が手に入るんだ。そういうこともあるのか?

 ……謎に満ちた世界だなぁ。

 

 コミック版やアニメ版でウサギの肉が床に直置きされていたように、これもそのまま地面に転がっている。

 ……まあ、洗えばセーフだろう。

 ハツを拾ってアイテムボックスにしまったところで、ロクサーヌに声をかける。

 

「ボス部屋を見つけるまで結構時間がかかったが、今どのくらいだろうか?」

「夕方まではまだまだ時間があります」

 

 ふむ。

 今日はキュピコをお裾分けに行ってもらわないといけないからな。

 ちょうど切りがいいし、ここまでにしておくか。

 

「では、今日はここまでにしておこう。扉を抜けたらすぐにベイルの探索者ギルドへ移動する」

「はい」

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 五階層のブクマを済ませ、ドロップアイテムの売却をして探索者ギルドの外へ出る。

 アランの館とその周辺を確認してみるが、鑑定に盗賊が引っかかることはなかった。

 

 ……おそらくまだ頭数をそろえている最中なのだろう。

 だが、遠くないうちになんらかの動きがあるはずだ。

 これからも毎日確認しなくてはいけないな。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 夕食の買い物を済ませ家に戻ると、すぐに修行を開始する。

 

 昨日とまったく同じように、なんの成長も感じられず、またオーバーホエルミングを使った修行でもロクサーヌに有効打をあてることができない。

 

 何の成果も!! 得られませんでした!!

 

 ……本当にこれはどうしたらいいんだ? 続けているうちに成長を実感できるようになるんだろうか?

 

 それに、被ダメ問題もあるんだよなぁ。

 非装備品を使い、防具を身に着け、おまけにレベル差まであるのに、なんでロクサーヌの攻撃でここまでダメージを受けるんだろう?

 

 原作でバラダム家の女とロクサーヌが最初に戦ったときは、全く攻撃が通らなかったということだった。

 出会ったときのロクサーヌのレベルは獣戦士が6。

 相手は半年でだいぶ強くなったと言っていたが、そうそうレベルが上がるとも思えないので、作中に出てきた獣戦士レベル29としておく。

 そうなるとレベル差は23だ。

 

 一方俺とロクサーヌの場合は、俺が探索者レベル25。ロクサーヌが戦士レベル11でレベル差14。

 

 俺たちは木剣を使った訓練なのに対し、そのときはガチの武器を使っているのに攻撃が通っていない。

 レベル9の差とはそれほど補正値に影響するのだろうか?

 あとは、あの女の防具が高性能だったということも考えられる。

 それに、作中の決闘時サボーと組んでパーティー効果を得ていたように、そのときも仲間を引き連れてパーティー効果を盛っていた可能性も高い。

 

 

 

 ん? あ! パーティー効果だ!

 ロクサーヌはゴリゴリチートな英雄のパーティー効果を受けている。

 もっとレベル差が開けば痛みは軽減されていくのかもしれないが、現時点では英雄の腕力中上昇の補正を受けているため、攻撃が通ってしまうのだろう。

 なるほど。それだと納得ができる。

 

 となると修行中はパーティーを解散したほうがいいのか?

 

 でもなぁ……。

 俺の性格的に痛みがなくなってしまえば、モチベーションを維持することが出来なくなる気がする……。

 

 うん。今後もパーティーを組んだまま修行しよう。

 とにかく、ゆっくりでもいいから歩みを止めずに進んでいく。

 歩だけにな!

 

 内心で十八番をさく裂させドヤ顔をきめていると、こちらを見ながら不思議そうな表情を浮かべているロクサーヌが目に入る。

 そして、目が合うと優しいほほえみを浮かべた。

 

 やめてー! そんな優しい顔で俺を見ないでー!

 

 

 

 

 

 修行を終えて汚れを落としてリビングに移動する。

 

 ソファーに腰を下ろし並んで装備品の手入れをしている時に、午前中に考えていたロクサーヌのジョブについて説明することにした。

 

「ロクサーヌ。午前中に話した暗殺者についてなんだけど、ロクサーヌは暗殺者になりたい?」

 

 突然の質問にロクサーヌは驚いたような表情を浮かべながら答える。

 

「いえ、あの、私はご主人様に望んでいただいた巫女を目指すつもりです。なので、暗殺者になりたいということなどありません」

 

 めっちゃ早口になるやん。

 

「本当のことを教えてほしいな。実際のところはどうなの?」

 

 まあ、暗殺者になりたいって言われると困るんだがロクサーヌの本心を知っておきたい。

 もし、どうしても暗殺者になりたいというのなら、今後のパーティー編成について考え直さなくてはならないだろう。

 

 再度問いかけると少し悩んだ後におずおずと切り出した。

 

「あの、巫女も悪くないとは思うのですが、私は攻撃に向いているような気がします。それに、暗殺者が一番ご主人様のお役に立てる気がして……」

 

 うーん……。

 確かに次々と魔物を石に変えていく姿はパーティーの花形に見えるし、貢献度が高く感じてしまうのかもしれない。

 

 でも、ロクサーヌの能力はそういうレベルじゃないんだ。

 敵の攻撃を回避し続け、常に安定した状態で戦闘が行えて、その上鼻を用いた索敵による貢献を考えれば、絶対に替えの利かない唯一無二の存在だとわかりそうなものだが……。

 

 俺の役に立てるかどうかという話をするのなら、今でもロクサーヌに頼り切りだし、今後パーティーメンバーが増えても絶対にそれが変わることはないだろう。

 

 これだけの美人さんなのにその外見について自覚に乏しかったり、ロクサーヌって変なところで自己評価が低いよな。

 

 

 

「ロクサーヌの気持ちは分かった。でも少しだけ俺の話を聞いてもらえる?」

「はい……」

 

 主人の意向に逆らっていると思っているのだろうか、少し気まずそうな表情になっているロクサーヌの手を取り、目を見つめながら話し始めた。

 

「何度も言うけど俺がこの世界で一番信頼しているのはロクサーヌだ。それが揺らぐことは絶対にない」

「はい……」

「特にロクサーヌの回避能力はとんでもないし、世界一だと言われても納得すると思う。そして、俺はそれに全幅の信頼を寄せているんだ」

「いえ、そのようなことは——」

 

 謙遜の言葉を遮り話を続ける。

 

「だからどんな状況であっても、安定して戦闘を行えるロクサーヌが回復役でいてくれるのは、本当に心強いんだよ」

 

 その言葉を伝えると俺の手がぎゅっと握られた。

 

「ロクサーヌなら戦闘を行いながら呪文の詠唱を行えるだろうし、視野も広いので仲間が傷つけば適切なタイミングで回復を行える。そしてなにより、絶対に裏切られる心配がないので安心して回復役をまかせることが出来る」

「ご主人様……」

 

 見つめ合っているロクサーヌの瞳がだんだんと輝きを増していく。

 

「どうしても暗殺者を目指したいというなら、ロクサーヌの気持ちを第一に考える。これは絶対だ。でも、俺の役に立ちたいという気持ちで暗殺者になりたいのなら、巫女を目指してもらった方が心強いんだ」

 

 話し終わると、見つめ合ったまま彼女へ向けて頷いた。

 

 

 

 ロクサーヌは少しだけ考える素振りをした後、こちらを見つめ頷くと口を開いた。

 

「ご主人様。信頼してくださって本当にありがとうございます。私が巫女としてそのような活躍が出来るかは分かりませんが、ここまでご期待いただけたのです。是非目指してみたいと思います」

「ありがとう。ロクサーヌなら間違いなく素晴らしい回復役になれる」

「ありがとうございます、ご主人様」

 

 見つめ合ったまま笑顔を交わし合う。

 巫女になれるのはまだまだ先のことだが、ロクサーヌが巫女になることで、いざというときに備えられるのは本当に心強い。

 

「とても頼もしいよ。これからもよろしく、ロクサーヌ」

「こちらこそよろしくお願いします。ご主人様」

 

 

 

 

 

 その後装備品の手入れを続け、それが終わるとロクサーヌはソファーから立ち上がった。

 

「では、今からお裾分けに行って、ご近所の方と顔を合わせてこようと思います」

 

 それなら、俺は石鹸の作り貯めをしておくか。

 

「俺も石鹸づくりをしておくから、そっちはお願いね」

「はい、では準備をしてきます」

 

 

 

 キッチンに移動して石鹸を作る準備をしていると、部屋にリュックを取りに行っていたロクサーヌが入ってくる。

 

「キュピコはどのくらい持っていきましょうか?」

 

 うーん……。

 俺とロクサーヌでそれぞれ三本もあれば十分かな?

 

「俺たちの分を六本くらい残して、あとは全て渡しても大丈夫だよ」

「では、リュックサックに入るだけ入れて、なくなったら取りに戻りますね」

 

 そう言うと山のようにあるキュピコを次々とリュックに入れていく。

 そして、パンパンに膨らんだリュックを背負いロクサーヌは歩いていった。

 

 玄関まで見送りに行き、遠ざかる後姿を眺める。足を動かすたびに揺れている尻尾がめちゃくちゃかわいいぞ。

 本当にロクサーヌと過ごせる俺は幸せ者だ。

 

 さて、俺も石鹸作りを始めますかね。

 

 

 

 おー! 成功だ!

 前回は失敗してしまった、オリーブオイルとシェルパウダー、そして水だけの石鹸も無事に作ることが出来た。

 今日は用意していなかったが、次に作るときはミントの精油を混ぜてみるのもありだろう。

 おそらく、歯磨き粉を買った店で取り扱っているはずだ。

 女性用に花や果物の精油を使った物を作るのもいいかもしれない。

 

 あ、強すぎる匂いだと鼻が利きすぎるロクサーヌは不快感を覚えるか。

 精油を混ぜる場合は立ち会ってもらい、確認しながら作ることにしよう。

 

 

 

 

 

 作業を続けていると、リュックを空にしてロクサーヌが戻ってくる。

 

「どうだった?」

「はい。留守の家もありましたが、お渡し出来たところでは、とても喜んでいただけました」

 

 様子を尋ねると、ロクサーヌはニコニコと笑みを浮かべながら返事を返した。

 

「この辺の家はほとんどがクーラタルの迷宮に入る人ばかりなので、井戸で立ち話をすることも少ないとのことです。まったく顔を合わさない人たちもいるようなので、私たちが不審に思われることもないでしょう」

 

 なるほど。クーラタルは迷宮の町だしそういうこともあるか。

 水汲みに現れないのを不審に思われることはなさそうで安心したわ。

 原作で問題になっていなかったのもそういうことだったのだろう。

 

 ロクサーヌに無駄な作業をさせることがなくて本当によかった。

 

 

 

「では、続きに行ってまいります」

 

 六本を残して他のキュピコを全部リュックに詰めてそう言うと、再び出かけていった。

 

 それじゃあ、俺も石鹸作りに戻ろう。

 

 

 

 

 

 買っておいた五つの調理バットのうち四つを使用し、出来上がった石鹸を物置部屋へ移して乾燥させる。

 前回仕込んだ緩い石鹸を全て使い切るころには乾燥しているはずだ。

 人が増えれば使用量も増えていくだろう。今後はタイミングを見計らって作っておかないとな。

 

 ロクサーヌの気配はだいぶ遠くにあり、まだまだ帰ってくる様子はない。方向的に金物屋で話に花が咲いているのだろう。

 

 どうせやることもないんだ。ロクサーヌが戻ってくるまでに食事の支度をしておくか。

 

 

 

 

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

 

 ちょうど食事の支度を終えたところでロクサーヌが戻ってきた。

 

「おかえり。問題はなかった?」

「はい。ほとんどの家へお渡しすることが出来ましたし、世話役のオネスタさんにもとても喜んでもらえました」

 

 それは重畳。これで何かあったとしても、すぐに俺たちが疑われてしまうようなことはないだろう。

 いざとなれば自由民として自力救済の権利を行使させてもらうが、何もないに越したことはないからな。

 

 よし、それじゃあ食事にするか。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv22 僧侶Lv15

装備 サンダル

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

結晶化促進二倍:1

MP回復速度二十倍:63

敏捷:7

 

所持金:168,265ナール

 

春の7日目

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