異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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058 お絵描き

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

五階層

 

 

 

 

 

 ワープゲートから出て五階層へ到着する。

 とりあえず、ボーナスポイントの振り直しを済ませておくか。

 

 キャラクター再設定を開きワープを解除して、結晶化促進を二倍まで落とす。

 そして、元々残っていた1ポイントと合わせて捻り出した32ポイントを、獲得経験値上昇につぎ込み二十倍にする。

 

 うん。オッケーだな。

 

 

 

 さて、今日からベイルの五階層の探索となる。

 とはいっても、この階層で追加される魔物はチープシープで、以前クーラタルの迷宮でも戦っている相手だ。

 初見ではないため、気負うことなく挑むことが出来るはず。

 

 一応、探索を始める前に人が集まっている場所があるのか、ロクサーヌに確認をしておこう。

 

「ロクサーヌ。人が集まっている場所はわかるか?」

「少々お待ちください」

 

 問いかけると鼻を鳴らし始め、しばらくそれを続けてから答える。

 

「申し訳ありません。人が集まっているような場所は確認できませんでした。それに、この階層自体も、あまり人は多くないようです」

「そうか。ありがとう、参考になった」

 

 うーん……。

 発生したばかりの迷宮で、まだ人があまり集まっていないのだろうか?

 

 いや、この迷宮はまだ一階層にすら探索終了宣言が出ていないのだ。

 だとすると魔物部屋を警戒して、実力のないパーティーは尻込みしている可能性も考えられる。

 魔法も特別な武器もない初心者パーティーが魔物部屋へ踏み込めば、全滅するのは火を見るよりも明らかだ。

 そのため、二の足を踏んでいるのかもしれない。

 

 やはり、地図が完備され、魔物部屋が潰してあり、適度に間引きもされているクーラタルの迷宮は、実力を磨くにはうってつけだな。

 あの混み具合も納得できるというものだ。

 

 ベイルの迷宮でこの先に出会うのは、自分たちの力に自信があり、他のパーティーと競合しないブルーオーシャンを求めている者たちなのだろう。

 

 そして、今の俺にはまだ、道なき道を切り開いて進む力はない。

 もうしばらくは舗装された道を歩み力をつけていこう。

 

 よし。商館の襲撃が終わったあとは、とっとと河岸を変えるか。

 

 

 

「では、探索を始めよう」

「かしこまりました」

 

 いつものように、階層入口の小部屋から、三方向に延びている通路の右側を進んでいく。

 少し歩いたところでロクサーヌから声が上がった。

 

「ご主人様、魔物です」

 

 警戒しながらさらに進むと、反対側から影が近づいてくる。

 

チープシープLv5

チープシープLv5

ミノLv5

 

 鑑定で確認し即座に念じた。

 

ファイヤーストーム

 

 チリチリと舞う火の粉が魔物に触れ、炎が一気にその体を覆う。

 盾とロッドを構えながらその様子を確認した後、炎が消えると同時に体が霧のようにサラサラと流れていった。

 

 よし! 五階層も一発で済んだ!

 さすが、ロッドとメギンギョルズ! 頼りになるー。

 

「五階層の魔物も一撃で倒してしまうなんて、さすがご主人様です!」

 

 それを見ていたロクサーヌから、称賛の言葉がかけられた。

 その言葉へ、腰に巻いているベルトをポンと叩き答える。

 

「こいつのおかげだな。魔法攻撃力二倍の威力はたいしたもんだ」

「はい。本当にすごいですね」

 

 首をコクコクと動かし同意しているロクサーヌを見ながら言葉を続けた。

 

「五階層の魔物も一撃で倒せることがわかったんだ。どこまで行けるのかを確認するために、なるべく早く六階層に上がるようにしよう」

「かしこまりました!」

 

 このお嬢さん、めちゃくちゃ嬉しそうにしているぞ。

 尻尾がぶんぶん揺れて、顔には満面の笑みが浮かび、目なんかキラキラ輝いているようだ。

 

「では、いくか」

「はい」

 

 ロクサーヌからドロップアイテムを受け取り、それをアイテムボックスへしまって歩き出す。

 

 

 

 出現する魔物を次々と片づけていき、MPが少なくなったところでロクサーヌに声をかける。

 

「MP回復を行いたい。準備をするので、少し待ってもらえるか」

「かしこまりました」

 

 返事を確認し、ロッドと鋼鉄の盾、それから硬革のグローブをアイテムボックスへしまい込む。

 

「えっ」

 

 それを見ていたロクサーヌから声が漏れた。

 

 ん? どうしたんだ?

 

「あの、ご主人様。腕装備も外すのですか?」

 

 ああ、そういえばこれについては説明していなかったか。

 

「うむ。五階層の魔物はデュランダルでも一撃というわけにはいかないからな。以前ウドウッドで実験したように、これ以降は腕装備の腕力上昇のスキルと組み合わせていく」

 

 それを聞くと納得したような表情を浮かべて口を開いた。

 

「なるほど。そういうことですか。これで五階層の魔物も一撃で倒せるようになるのですね。本当にご主人様は短い間にドンドン強くなっていくので、一体どれほどの偉業を成し遂げるのか想像もつきません」

 

 いやぁ、それはご主人様の強さではないと思うんですが……。

 まあ水を差すようなことは口に出さないでおこう。

 

 

 

 キャラクター再設定を開き、獲得経験値二十倍と詠唱省略を解除して、先に腕装備二にチェックを入れ、出現した技工の革グローブを腕にはめる。

 そして、武器六をチェックし、デュランダルを握りしめた。

 

「では、行こう」

「はい」

 

 

 

「ご主人様、この先に魔物が」

 

 通路を歩いていると、警戒を促す声が聞こえてきた。

 

 デュランダルを構えながら進むと、反対側から魔物が現れる。

 

チープシープLv5

ミノLv5

グリーンキャタピラーLv5

 

 鑑定で確認しているうちにロクサーヌが飛び出し、すべての魔物に攻撃を入れて注意を引き付け始めた。

 

 この隙に片づける!

 

 俺の正面にケツを向けているミノへ駆け寄り、剣身を突き立てる。

 深々とめり込むと体を霧に変え散っていく。

 

 次!

 

 ロクサーヌにいなされているチープシープの背後に回ってデュランダルを振るい、そのままグリーンキャタピラーに近づいて、横っ腹へ剣を振り下ろした。

 

 

 

「ふぅ」

 

 口から安堵の息が漏れる。

 大丈夫だ。物理攻撃でも五階層の魔物なら一撃だ。

 

「さすがご主人様です。やはり、五階層の魔物では相手になりませんね」

 

 ロクサーヌが近づきながらドロップアイテムを差し出し、そう言った。

 受け取ったアイテムをしまいながら答える。

 

「ありがとう。では、このままMP回復を続けるので案内を頼む」

「かしこまりました」

 

 

 

 その後、満タンまでMPの回復を行い、それが終わると再び魔法を使って魔物を蹴散らしていく。

 そして、MPにまだ余裕がある状況で、ロクサーヌが話しかけてきた。

 

「ご主人様、そろそろパン屋が開く時間です」

 

 もうそんな時間か。

 今日は実験から始まったせいで、そんなに数が狩れなかったな。

 まあ、ボスの魔力が五だとわかったのは大きな収穫だ。全然問題ない。

 

「では、次の小部屋でクーラタルへ戻ろう」

「はい」

 

 

 

 途中チープシープ二匹を仕留めて、小部屋へたどり着く。

 

「ボーナスポイントの振り分けを行うので、少し待っていてもらえるか」

「かしこまりました」

 

 ロクサーヌに断りを入れ、キャラクター再設定を開く。

 

 獲得経験値二十倍とアクセサリー四のチェックを外し、MP回復速度二十倍とワープに付け替えた。

 残り14か……。

 まあ、大した違いはないだろうが体力にでも振っておこう。

 

 ロッドと鋼鉄の盾をアイテムボックスしまい、準備オッケー。

 

 おっと、念のためレベルの確認をしておくかな。

 

鑑定

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv22

装備 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴

 

 ……まあ、倒した数も少なかったし、しょうがない。

 

 一応ロクサーヌも鑑定っと。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv12

装備 レイピア ダマスカス鋼の盾 ダマスカス鋼の額金 竜革のジャケット 硬革のグローブ 竜革の靴

 

 ん? あれっ!? 上がってる!?

 昨日ロクサーヌのレベルが11になった後に、俺のジョブはどれも上がっていないよな?

 経験値効率には十倍以上の開きがあるのに、俺より先にロクサーヌのレベルが上がった……。

 

 つまり、俺とロクサーヌでは次のレベルまでの経験値に、十倍以上の差があるということだ。

 今後レベルが上がるにつれて、倍率はもっとエグイことになりそうだな。

 

 ……いや、それならまだマシな方だろう。

 敵とのレベル差によって取得経験値にマイナス補正がかかっていたりすると、今後のレベル上げに支障をきたす。

 そして、本当に最悪なのは階層ごとにレベルキャップが設定されていた場合だ。

 そうなると、低階層ではいくら魔物を狩ってもレベルを上げることが出来ないため、迷宮攻略のプランが崩壊してしまう。

 

 

 

 ……まあ、いくら考えたところで、今やることに変わりはない。

 しばらくは地道に探索を続けていくさ。

 

「それじゃあ、クーラタルに戻ろう」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 買い物を済ませ自宅に戻ると、ロクサーヌに話しかける。

 

「ロクサーヌ、少しやっておきたいことがあるから、朝食の支度をお願いしてもいい?」

「大丈夫ですよ。ご主人様、私におまかせください」

 

 嫌な顔一つせず、頼みごとを引き受けてくれるのが本当にありがたい。

 改めて思うが、マジで良い娘さんだよなぁ。

 

 

 キッチンへ食材を運び、薪に火を付け手渡した。

 

「それじゃあ、申し訳ないけどよろしく」

「はい」

 

 にこやかに微笑んでいるロクサーヌに一言告げて、キッチンを後にする。

 

 

 

 部屋に戻ると、鍵の掛かるチェストからパイプファイルを取り出した。

 そして、コピー用紙を一枚外し、パイプファイルはチェストへ戻す。

 さらに、筆記用具をしまっているフリーザーバッグを取り出して、それとは別に羽根ペンとインク壺、それからパピルスを手に取った。

 

 よし、準備オッケーだ。

 

 さて、どこで描こうかなぁ……。

 部屋にはまだ机も椅子も用意していない。

 この家で絵が描けそうな場所は、食卓のあるダイニングかローテーブルのあるリビングくらいだ。

 

 うーん……。

 ダイニングは朝食の用意でロクサーヌが使うかもしれない。

 リビングにしておくか。

 

 

 

 リビングへ移動して筆記用具をローテーブルに置き、絨毯に胡坐をかいて座る。

 そして、鉛筆と消しゴムを取り出した。

 

 うっしゃ。それじゃあ描いていこう。

 

 

 

 描いては消しを何度も繰り返し、ようやくそれなりのものが描き上がる。

 

 ……しかし、これ合ってんのか?

 俺は生まれてこの方、女性用下着とは無縁な生活をしてきた男だ。

 グラビアや動画で見た知識しかない。

 

 目に見える部分はなんとなくで描いたが、裏側がどうなっているのか全然わからん。

 伝え聞くところによると、ブラジャーのカップにはパッドが入っていたり、ワイヤーで形を整えるようなものもあるという。

 それに、留め具にもいろいろな工夫がなされているのだろう。

 正直、その辺はさっぱりだ。

 

 それに、日本から持ち込んだ俺の下着がトランクスなのも痛い。

 ブリーフなら参考になったんだろうが、そんなもん小学校低学年以来履いてないぞ。

 ブリーフ派を貫いておくべきだったわ。

 

 しかし、こんなことになるなら、グラビア雑誌の一つも持ち込んでおくんだったな。

 

 

 

 あ、思い出した!

 

 確かコミック版では、ミチオの妄想で下着姿の女性が出てくるシーンがなかったか?

 それに、初めてロクサーヌの下着を買う場面で、ブラジャーとパンティに身を包んだ姿を妄想していたはずだ。

 

 部屋から取ってこよう!

 

 

 

 確認してみると、一巻で娼館の近くを通った時に下着姿を妄想している。

 その後もパラパラと捲り確認していくが、これ以上の描写はないようだ。

 それに、ブラジャーはまったく出てこない。

 

 いや、本命は二巻のロクサーヌの下着姿を妄想する場面。

 『肌着を買ってもよろしいですか?』のシーンだ。

 

 コミックを捲り、そこにたどり着くが妄想している場面がない。

 

 あれ? なかったっけ? あったよな?

 『この世界にこんなブラやパンティはないか』ってミチオの声も思い出せるんだが……。

 

 あ、これはアニメ版だけか?

 考えてみればそうだったかもしれない。

 

 そっかぁ……。コミックにはなかったかぁ。

 

 

 

 しゃーない。とりあえずパンティの修正だけしておこう。

 そして、注文の時に形だけを伝えて、あとは店の者に丸投げだな。

 俺は漠然とした知識のみを伝えて、細かい調整は使用者であるロクサーヌとしてもらえばいいさ。

 

 それじゃあ、—— 同調(トレース)開始(オン)

 

 

 

 コピー用紙にパピルスを重ねてガラス窓に押し付ける。

 浮かび上がった線を羽根ペンでなぞっていくが、これめちゃくちゃ描きにくいぞ。

 

 やめやめ。羽根ペンはなしだ。普通にボールペンを使った方がいいな。

 インクの違いに気が付くことなんてないだろう。問題ないはずだ。

 

 ボールペンに持ち替えてトレースを再開するが、やはりこれもかなり描きにくい。

 でもまあ、羽根ペンよりはマシなんだ。さっさと終わらせよう。

 

 

 

「ふぅ」

 

 ようやく終わった。

 それにしても、パピルスと羽根ペンの組み合わせはめちゃくちゃきついぞ。

 帝都の高級店で紙を持ってきた理由がわかったわ。

 パピルスだとまともに描けないか、もしくはだいぶ時間がかかると思ったのだろう。

 

 しかし、鉛筆やボールペン、それにコピー用紙はいつまでもあるというわけではないのだ。今後は羽根ペンとパピルスに慣れていかないとな。

 

 ローテーブルの上に出しっぱなしの筆記用具を片付け、消しゴムのカスを一箇所に集める。

 ……カスとはいえ、今後二度と手に入らないものだよな?

 このまま捨てるのはもったいない気がする……。

 

 いや、でもまあ、何に使えるわけでもないしなぁ。

 

 うーん……。

 一応、筆記用具を入れているフリーザーバッグに入れておくか。

 

 

 

 片づけ終わったところで、コピー用紙とパピルス。そして、筆記用具を持って部屋へ戻り、一旦すべてチェストの上に置いておく。

 そして、筆記用具の入ったフリーザーバッグを鍵の掛かるチェストへしまい、コピー用紙は再びパイプファイルに綴って、同じようにそこへ戻し鍵をかけた。

 羽根ペンとインク壺、それからパピルスはそのままチェストの上でいいだろう。

 

 うん。オッケーだな。

 それじゃあ、ロクサーヌの手伝いに行こう。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv22

装備 サンダル

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

結晶化促進二倍:1

MP回復速度二十倍:63

ワープ:1

体力:14

 

所持金:168,244ナール

 

春の8日目

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