異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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 今後は5日間隔で投稿してまいりますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。

 よろしくお願いいたします。


006 売却

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ソマーラの家

 

 

 

 

 

 ぐっ。

 ゲートを通り抜け村長宅の外壁から出たところでMPが抜ける感覚に襲われ気分が一気に下降する。

 先程の状態に比べればマシだがそれでもやはりきつい。

 

 英雄と魔法使い、そして僧侶のジョブを付けているためMPはだいぶ増えているはずなのにこの状態だ。スローラビット一匹では完全回復とはいかなかったのだろう。

 

 MP回復速度二十倍の効果を信じてしばらく深呼吸を繰り返していると多少落ち着いてくる。

 

「アユム様、戻られたのですか?」

 

 物音を聞きつけたのか村長が家から出てきた。

 

「ああ。先程狩りを終え今戻ったところだ」

「そうでございますか。やはり冒険者のフィールドウォークは便利ですね」

「そうだな。狩りの成果を売りに行きたいのだがビッカー殿のところで売れるだろうか?」

「はい。ウサギの毛皮でしたらこの村でも加工を行っておりますのでお売りいただければ大変助かります。ビッカーの家はあちらの建物ですので是非お願いします」

 

 村長はそう言うと三階建ての建物へ手を向ける。

 

「それから例の共犯者の件ですがインテリジェンスカードを確認したところ、あの男の兄弟が盗賊となっておりました。共謀して盗賊を引き入れていたのでしょう。こちらも奴隷身分へ落としましたので、明日併せて売却いたします」

「やはりそうだったのか。村にさらなる被害が出るのを防げてよかった」

 

 兄弟揃って盗賊になっている時点で間違いなく共犯だろうな。

 

「もし気づくことが出来ず再度襲撃があった場合、今度こそ村は全滅していたかもしれません。アユム様、本当にありがとうございました」

 

 そう言うと村長は深々と頭を下げる。

 

「そう気にしないでくれ。俺も村を救うことが出来て嬉しく思っている」

 

 ウソだからね? 気にしてくれよ? 報酬お願いね?

 

「それでは俺はウサギの毛皮を売ってこよう」

「はい。夕食の準備が出来ておりますのでそれが済みましたら当家へお戻りください」

「うむ。世話になる」

 

 村長に見守られながらその場を後にする。

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ビッカーの家

 

 

 

 

 

 入口が開いたままになっていたので中をうかがうと商人のビッカーが何やら作業をしていた。

 物音を聞きつけたのか顔を上げて手を止めると声をかけてくる。

 

「いらっしゃいませ。いかがなさいましたか?」

「村長からこちらでウサギの毛皮を売却できると聞いてな」

「ギルド加入者は通常アイテムについてはギルドにのみ売却するよう契約をしているはずですがアユム様は冒険者ギルドには加入していらっしゃらないのですか?」

「ああ。ギルドには加入していないのだ」

 

 確か作中ではそういう決まりがあったな。

 本当に加入していないし今後も加入することはないだろうから問題あるまい。

 

「それでは喜んで買取させていただきます。なにしろなかなか数を狩れませんので本当に助かります」

「では、頼む」

 

 背負っていたリュックをカウンターのような台に下ろして中からウサギの毛皮を出し台の上に置いていく。

 

「お、お待ちください。いくつあるのですか?」

「全部で二十三だな」

「なるほど、以前狩った分がアイテムボックスに入っていたのですね」

「いや、これは全て今日狩った分だ」

 

 その言葉を聞くとビッカーは驚き目を見開いた。

 

「まあ、ある程度迷宮探索を続けているとこのくらいはな」

「なんと。さすがにお一人で盗賊を全滅させてしまうほどのお方。今日一日で私の中の常識が崩れ去ってしまいました」

 

 そう言うと出されたウサギの毛皮を数え始める。

 

 あっ。そろそろ買取価格三十パーセント上昇をつけないと!

 いそいでキャラクター再設定を開きMP回復速度二十倍と入れ替える。

 

「はい。二十三枚確かに確認いたしました。買取価格は一枚十ナールとなりますがよろしいでしょうか?」

「かまわない。それで頼む」

「アユム様には村を救っていただいたご恩もございますので今回はウサギの毛皮二十三枚を二百九十九ナールで買取させていただきます」

 

 買取アップや値引のスキルを使ったときに相手が述べる口上は本人の中ではどう処理されているんだろうな?

 何かに思考を誘導されてるんだろうか?

 

 こっわ!

 

 でも、今の状況では使わないわけにはいかない。

 セリー、ミリア、ベスタについては今後稼いでいけばこれを使わなくても何とかなるかもしれない。

 しかし、今の俺ではどう逆立ちしても五日間で四十二万二千八百ナールなんて捻出できるはずがない。

 値引スキル先生、買取スキル師匠頼んます。

 

 銀貨二枚と銅貨を大量に受け取る。

 いや、九十九枚あるんだろうけどさぁ。これ確認するのめちゃくちゃ大変じゃね?

 銅貨はアイテムボックスにも入らないし細かい買い物があるときはどうしているんだろう? ジャラジャラ持ち歩くんだろうか?

 

「銅貨を一枚足していただければ銀貨に両替いたしますが」

 

 銅貨を持て余しているのを見かねたビッカーが言ってくれるが、まさか目の前の人物が素寒貧だとは思いもよらないのだろう。

 

「すまん。細かいのがないのだ」

「でしたら差し上げますのでこれをお使いください」

 

 そういうと彼は巾着袋を差し出してきた。

 

「悪いな。ありがたくいただいておこう」

 

 受け取った巾着袋に硬貨を全て入れ、さらにそれをリュックへ収める。

 

「ところで村長から耳にしたのだがビッカー殿はキュピコを育てているそうだな。一つ分けてはもらえないか?」

 

 本当に厚かましい。日本にいたときはこんなこと絶対に言えなかったのになぁ。

 家族以外にちょっと頂戴なんて絶対言えない男だったのにたった一日でずいぶん変わっちまった。

 

「おお。アユム様には是非ご賞味いただきたいと思っておりました。菜園から採ってまいりますので少々お待ちいただけますか」

「いや、俺も一緒に行こう。自分で採った新鮮な果物を食べるのは格別だからな」

「なるほど。ではアユム様に直接採っていただきましょう」

 

 おっしゃ! 農夫のジョブゲットだぜ!

 

 朝に見かけた菜園まで来たところでビッカーが期待半分不安半分といった様子で薦めてくる。

 

「どうぞ、お好きな物をお選びください」

「では遠慮なく」

 

 確か赤くなっているのが食べごろだったよな。

 辺りを見回し一番熟してそうな物を選んでもぎ取りそのまま齧り付いた。

 

 多少酸味は強いが十分美味い。

 これなら今後見かければ買ってもいいな。

 

「うむ。美味い。これなら立派な特産品になるだろう」

「ありがとうございます。それを聞いて不安が解消されました。これからも自信をもって育ててまいります」

 

 俺の言葉に安心した様子でお礼を述べてきた。

 大丈夫。ルート分岐した未来では特産品になってたんだ。そのまま邁進していってくれ。

 

 

 

 ビッカーと別れ村長の家に戻る道すがらボーナスポイントを振り分ける。

 

 買取価格三十パーセント上昇を外してジョブ設定をつけ、それを開いてみると新しいジョブが表示された。

 

農夫Lv1

効果 腕力小上昇

 

 オッケーオッケー。ちゃんと農夫のジョブを手に入れることが出来た。

 確認が済むとジョブの変更はせずそのまま設定画面を閉じる。

 この調子で条件の緩いジョブは積極的に取っていこう。

 次は商人あたりかな。売却はさっき済ませたしベイルで買い物をすれば自ずと獲得しているだろう。

 あとはなるべく早く石鹸を作って低レベルのうちはお世話になるだろう錬金術師を手に入れたい。

 しかし、宿暮らしで鍋を使わせてもらえるのだろうか? なかなか難しそうだよなぁ。

 それに石鹸は高級品だ。がっちり利権で囲われていることだろう。

 誰に見られるかわからない場所では試行錯誤もままならない。

 残念だがこれは家を手に入れてからになるか。

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ソマーラの家

 

 

 

 

 

 村長宅に戻り用意されていた夕食を取ったあとにトイレを貸してもらう。

 腰掛けるタイプではないが陶器でできた便器があり、蓋のついた入れ物と水が入った桶、それからケツを拭くようだと思われる布があった。

 蓋を開けてみると……。

 

 ぐあっ。しまった。汚物入れだ。

 

 おそらく拭き終わった布をここに入れるのだろう。

 今回はションベンだからいいけど明日の朝これを使うのはなかなか勇気がいるな。

 

 

 

 リュックを置いていた部屋に戻り念のためリュックの確認を行うが荷物は全て揃っていた。

 中からインテリジェンスカードを取り出し貰った方のリュックに入れなおす。

 騎士団にインテリジェンスカードを渡すときにファスナーを開けて取り出すのはまずいだろうからな。

 

 明日は朝早くに出かけるんだ。今のうちにキャラクター再設定を済ませておこう。

 

 ベイルへ行く途中ではおそらくグミスライムとの戦闘が発生するだろう。

 というかないと困る。グミスライムを狩ったことをアランに伝えてもらわなければならない。

 コミック版、アニメ版では存在しなかったが、これを行い少しでもビッカーに強さを印象付けておく。

 

 奴隷を売却し再び商館に戻るまでの間にアランはロクサーヌにミチオの活躍を語ったはずだ。

 たぶんそれがあったおかげでロクサーヌは最初から購入されることに積極的だったのだろう。

 ロクサーヌとアランの間ではミチオに購入してもらうという意思確認は取れていたと思われる。

 

 逆にもしロクサーヌが購入されることに消極的だった場合アランは販売を強行するだろうか?

 彼女ならたとえ販売するための条件である狼人族やそれに関わる者を除いたとしても売先に困るはずがない。

 ということは強引に販売されるということは考えにくい。

 

 であれば俺は少しでもロクサーヌのお眼鏡にかなう確率を上げるために強さや功績を盛っておく必要がある。

 そのためにはデュランダルを使いグミスライムをワンパンで倒しておきたい。

 強力な魔物を一撃で仕留めるところを見せつけビッカーからアランにそれを伝えてもらおう。

 ……まあ、ハリボテの強さなんだがな。

 

 キャラクター再設定とサードジョブを除き全ての項目を解除してボーナスポイントを捻出する。

 必要経験値十分の一まで解除するのはかなりもったいない気がするが仕方ない。

 

 ボーナスポイント98

 

 ファーストジョブの英雄はそのままで腕力上昇の効果を持つ剣士と農夫を、それぞれセカンドジョブとサードジョブに設定しておいた。

 

 鑑定をセットして腕力上昇に34ポイントつぎ込み残りはデュランダルの分として確保しておく。

 

 ボーナスポイント63

 

 できれば盗賊のジョブと盗賊のバンダナの組み合わせも使いたいがビッカーは俺が盗賊のバンダナを持っていることを知っている。

 前日につけていなかったバンダナをいきなりつけていたら不審なんてものじゃない。

 言いくるめたとしても疑念は残るだろう。

 さすがにこのリスクは負えない。

 

 明日は騎士団とベイル亭でインテリジェンスカードのチェックがある。英雄は絶対に表に出せないのでベイルに入る前に忘れずにファーストジョブを交換しておかなくては。

 

 戦士辺りをつけておいて報奨金の受け取りと宿のチェックインをやり過ごして迷宮に入り次第、探索者、英雄、魔法使いに変更だ。

 ボーナスポイントはもったいないがファーストジョブは探索者でいこう。インテリジェンスカードのチェックがあるときに付け替え忘れてしまうと面倒なことになるからな。

 その後は冒険者取得までファーストジョブから動かさない。

 

 

 

 ……そして、明日起こる出来事でとんでもなくクズなことを思いついている。

 ミチオがクーラタルで家を借りるとき、家賃と鍋の代金を合わせて支払うことで三割引を受けていた。

 しかし、これには違和感がある。支払相手は世話役の女性なのだ。

 不動産の世話役とは普通に考えるとその物件の所有者ではなく不動産の管理を請け負い売り手と買い手、もしくは貸し手と借り手の当事者間に入り仲介している人物の事だ。

 

 つまり値引スキルはその支払相手の所有物か否かにかかわらず、複数の支払をまとめて行うという事実が発生するとき、カルクを所有するジョブについている者に作用し強制的に値引きを行っているという事になる。

 

 ……ほむらのレイピア。

 あれを俺の戦利品とはまとめずに武器商人から価格を聞いた後でシミターと合わせてビッカーから買い取った場合、ほむらのレイピア一万八千ナールとシミター五百ナールで合わせて一万八千五百ナールだ。

 そして、三割引きをつけていれば一万二千九百五十ナールとなる。

 

 それをそのまま三割アップをつけ武器屋に売却するとほむらのレイピアは二万三千四百ナール。シミターは売却しないので考えないものとして差額が一万四百五十ナール。

 

 これをやってもいいのだろうか……。

 日本にいるときにめちゃくちゃ嫌いだった転売ヤーと同じ、いや人の命がかかっているかもしれないんだ。それより遥かに質が悪い。

 

 しかし、この世界では四肢を切断するような大怪我を負っても上位の傷薬である滋養錠で治ってしまう。しかもその滋養錠は六千ナールだ。一万二千ナールもあれば余裕で二個買える。

 

 俺が乱入しなければ間違いなく命を落としていたところを救われているのだ。

 正当な報酬として受け取っても罰は当たらないのではないだろうか?

 

 理論武装完了。

 

 

 

 今はロクサーヌを手に入れるために一ナールだって惜しい。

 本当にクズで申し訳ないが実行させてもらおう。

 

 

 

 ……明日か。

 明日はロクサーヌに会えるのだろうか?

 

 十数年恋焦がれた彼女はどんな姿形をしているのだろう。

 小説のイラストやコミック、アニメなどの面影はあるのか。

 声はアニメの声に似ているんだろうか。

 戦闘狂の気があったり、序列にこだわりがあったり、少し嫉妬深かったりするのだろうか。

 

 ああ。楽しみだ……。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

英雄Lv4 剣士Lv1 農夫Lv1

 

BP振分 残BP:63

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

鑑定:1

腕力上昇:34

 

所持金:299ナール

 

春の1日目

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