異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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059 ランジェリー

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 キッチンへ入ると既に火は落とされており、ロクサーヌは出来上がった食事を運ぼうとしていた。

 

「ありがとう、ロクサーヌ。運ぶのを手伝うよ」

「よろしいのですか?」

「もちろん。それじゃあ、俺はミネストローネの鍋を運ぼう」

「ご主人様、ありがとうございます」

 

 ニコニコと嬉しそうに笑みを浮かべている彼女へ頷き、寸胴鍋を持ってダイニングへ移動する。

 

 

 

 料理をすべて運び終え、ミネストローネを取り分けて椅子に座ると、彼女に声をかけた。

 

「では、朝食にしよう。いただきます」

「いただきます」

 

 パンに切れ目を入れて、焼き目が付いたソーセージと卵焼き、それからサラダの葉野菜を挟んでそのまま齧り付く。

 

 うん。美味い。

 

「そういう食べ方も美味しそうですね。私もやってみます」

 

 それぞれ別に口へ運んでいたロクサーヌは、俺の食べ方を見て同じようにサンドイッチを作って齧りついた。

 

 幸せそうにモシャモシャ食べているところもかわいいなぁ。

 

 

 

 デザートのキュピコも食べ終わったところで、洗い物と歯磨きを済ませてリビングに移動する。

 そして、ソファーに腰を下ろすと、脚の間に座ったロクサーヌを抱きしめ、そのまま背もたれに寄り掛かった。

 

 

 

 抱きしめながら、目の前にある愛らしい犬耳をハムハムと甘噛みしていると、ロクサーヌの口から吐息が漏れる。

 

「んっ……。ご主人様。く、すっ……、ぐったい、です」

 

 おっと、いかんいかん。

 耳から口を離して、謝罪をした。

 

「ごめんね。くすぐったかった?」

 

 すると、照れたような声色で答える。

 

「いえ、あの、くすぐったかったのですが、その、気持ち良かったです」

 

 おお! 気持ち良かったのか!

 

「じゃあ、続けてもいい?」

「それはダメです」

 

 続けていいかお願いすると、即答で断られてしまった。

 えー。お預けはいけないと思いまーす。

 

「朝から気持ち良くなってしまい、我慢できなくなると、その、困ります……」

 

 恥ずかしそうにしながら、その言葉を口にしたロクサーヌがめちゃくちゃかわいい。

 

 まあでも、そうか。ロクサーヌがよがり声でも上げてしまったら、俺の方も絶対に我慢できなくなるだろう。断言できるわ。

 

 それじゃあ、まったりとイチャイチャタイムを堪能するか。

 

 

 

 ゆっくりとした時間が流れ、お互いの体に触れあう。

 会話はないものの、その無言の時間が気まずいなんてことはなく、逆にそれを楽しむことができている。

 いつの間にか、ちょっかいをかけて相手が声を漏らしたら勝ちのような、暗黙のルールが発生し、お互いにいたずらを仕掛け合う。

 

 

 

 一進一退の攻防が続き、二人とも動きがダイナミックになってしまい、とうとう見つめ合い笑ってしまった。

 

「これは引き分けかな」

「そうですね。勝負がつきませんでした」

 

 朗らかな笑みを浮かべているのが本当にかわいい。

 夢中になっている間に、体勢を変え俺の方に向いているロクサーヌの体を抱きしめ、柔らかな髪と犬耳をゆっくりと撫でた。

 

「ふふ。ご主人様に抱きしめられ撫でていただけると、とても心が安らぎます」

 

 目の端に映る尻尾がピクピク揺れている。

 

「俺もロクサーヌと触れ合っていると本当に幸せで、心が満たされるようだよ」

 

 その言葉にロクサーヌは顔を上げ、そのまま俺の方へ近づけてきた……。

 

 

 

 食休みを終えると、部屋へ戻りパピルスをリュックにしまう。

 装備を整え玄関に向かうと、既にロクサーヌが待っていた。

 

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 ワープでクーラタルの冒険者ギルドへ移動し、桶屋を目指して表通りを歩く。

 

 いよいよ今日だな。

 遂にロクサーヌと風呂に入れるんだ。

 あまりの喜びに鼻歌の一つも口ずさみたくなるぞ。

 

 そういえば、歌を歌ったら、この世界の人にはブラヒム語に聴こえるんだろうか?

 その場合譜割りがぐちゃぐちゃになりそうだよなぁ。

 やはり、意味不明な言葉として聞こえるのかもしれない。

 

 まあ、忘れてなければ風呂に浸かっているときに、ビバノンロックの方のいい湯だなでも歌ってみるか。

 

「ご主人様。とても嬉しそうですね」

 

 俺が内心浮かれていることに気づいたのだろう。ロクサーヌは微笑ましいものを見るような表情を浮かべながら、声をかけてきた。

 

「うむ。なにせ風呂だからな。少々浮かれているのかもしれない」

「ふふ。本当にご主人様は綺麗好きですね」

 

 それについてはあくまでもついでであり、枝葉末節の話。今喜んでいるのはロクサーヌと一緒に風呂に入ることが出来るためだ。

 まあ、それは口に出さないでおこう。

 

「一緒に入ろうな」

「はい」

 

 楽しみだぜー。

 

 

 

「いらっしゃい」

 

 五日前に訪れた桶屋に入ると、前回対応した男が声をかけてきた。

 

「特注の桶を頼んだアユムだが、先日は世話になったな」

「おお。こちらこそ世話になった。桶ならもう完成しているぞ」

 

 そうか。もう出来ているのか。

 なんなら、このまま受け取って路地裏からワープで運びたいところだが、いくらなんでも不自然すぎるわな。

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

 

 考えていると、男が問いかけてきた。

 

「いや、今日配達してもらうことになっていたが、時間を確認していなかったのでな。何時頃になりそうなんだ?」

「そうだなぁ……。夕方頃になるだろうから、その前には家に居るようにしてもらえるか?」

「うむ、わかった。そのようにしよう」

 

 おっしゃ。午後の探索は程々で切り上げないとな。

 

 

 

 挨拶を交わし、店を出てからロクサーヌに話しかける。

 

「桶の搬入があるため、予定通り午後の探索は早めに切り上げよう」

「はい」

「それじゃあ、帝都へ行くので人のいない場所を教えてくれ」

「かしこまりました。ご主人様、こちらです」

 

 ロクサーヌの後ろを歩き、人気のない路地裏でワープゲートを開いた。

 

 

 

 

 

帝都

 

 

 

 

 

 人で溢れている冒険者ギルドを出て、服屋を目指して歩き出す。

 

 

 

 ロクサーヌがストッキングとガーターベルトを購入した店で、ランジェリーのオーダーを行うつもりだが、考えてみれば高級店に依頼するのもありか。

 なんせ、あの品質のキャミソールを作ることが出来る店なのだ。

 きっと、ランジェリーでも良い仕事をしてくれることだろう。

 

 ストッキングやガーターベルトを高級店に依頼するのなら、試作品を販売してくれた店に対し義理を欠いた行為だろうが、今回依頼するランジェリーについては地球の知識なのだ。後ろめたく思う必要はない。

 

 それとも、両方に依頼するか?

 どうせ何セットか依頼するつもりだったんだ。例えば二セットずつそれぞれに発注するというのもありだろう。

 

 あー。でもなぁ。

 依頼した商品を巡って元祖や本家で争い、俺がそれに巻き込まれる可能性もないとはいえない。

 この世界ではまだ、ブラジャーもパンティも作られていないのだ。

 貴族や富豪向けとして独占的に販売できれば大きな利益を得ることも出来るだろう。

 そうなると激しい争いになり、担ぎ出されるようなことが起きてもおかしくはない。

 

 

 

 ……いや。考えすぎか?

 知的財産権の保護なんてない世界なんだ。

 どんなに画期的な商品でも、すぐに真似されてしまうことだろう。

 

 それに、俺が自分で考えたなどと言って、権利を主張するような真似をせず、故郷の伝統的な下着を再現して欲しいと伝えれば、そういうものかと思うはずだ。

 

 そうだな。両方の店へ発注しておこう。

 

 

 

 冒険者ギルドから近い高級店に近づいたところでロクサーヌから声がかかる。

 

「ご主人様、購入したのはこちらのお店ではありません」

 

 いやいや、わかっている。

 いくらなんでもそこまで馬鹿じゃないぞ。

 

 ……馬鹿じゃないよな?

 ……いやでも、割とそのレベルで馬鹿かもしれない。

 欲しいものがあってコンビニに行ったのに、他のものに夢中になって、それを買い忘れて家に戻ることなんてしょっちゅうだった……。

 

 ……いや、大丈夫だ。

 今、頭に搭載されているのは十八歳の脳味噌なはず。問題ないだろう。

 まさか、四十五の脳味噌ってことはないよね? 大丈夫だよね?

 

 

 

「この店も見事なキャミソールを作っているだろう? なので、両方の店に注文をしておこうと思ってな」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 その言葉に納得したように頷いている。

 

「それなら、今後購入する場合、作りが良かった方に依頼すればいいですからね。さすがご主人様です」

 

 いや、そこまでは思ってなかったんだが……。

 本当にこういう部分についてはシビアな娘だなぁ。

 すげー頼もしいわ。

 

「それじゃあ、入ろう」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 店内に入ると挨拶の声が聞こえてくる。

 そちらへ目をやると、昨日注文を行った紳士風の店員が頭を下げていた。

 

 

 

「昨日は世話になった」

「こちらこそ、ご注文をいただき誠にありがとうございます」

 

 そう言うと再び深々と頭を下げた。

 

「連日で悪いが、今日もオーダーを行いたくてな」

「滅相もございません。本日もご注文いただき、誠にありがとうございます」

 

 店員はまたもや頭を下げる。

 いくら何でも丁寧すぎやろ。

 

「彼女が使用するものになるのだが、俺の故郷で使われていた伝統的な女性用の肌着を作りたいのだ。出来れば女性の店員に相談をしたい」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 そう言うと男性店員は店内の奥へ行き、女性の店員に声をかけている。

 

 

 

「お待たせいたしました。女性ものの肌着ということですので、別室で伺います」

 

 ロクサーヌと一緒に、歩き出した女性店員の後ろに続く。

 店内を進み、奥にあったいくつかの扉のうちの一つを開くと、俺たちを招き入れる。

 

 部屋の中には対面になっているソファーと、その間にローテーブル。そして、壁には映りのいい鏡が備え付けられている。

 あの鏡はおそらくペルマスク製なんだろうな。

 

「準備をしてまいりますので、こちらに掛けてお待ちください」

 

 中に入ると、店員はソファーに腰を下ろすよう勧め、部屋を出て行った。

 

 原作ではこんなことはなかったはずだが、女性用の下着をオーダーすると別室に案内されるのか?

 もしかしたら、ドレスのオーダーなんかでもそうなのかもしれない。

 しかし、こんな扱いを受けると金額の方が心配になるんだが……。

 一体、いくらになるんだろう?

 

 

 

「あの……、ご主人様。大丈夫でしょうか?」

 

 俺の動揺が伝わったのだろうか、不安そうに尋ねてきた。

 ロクサーヌに不安を抱かせるわけにはいかない。

 

「大丈夫だ、問題ない。かわいいロクサーヌの為だからな」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 

 

 取り留めもなく話していると扉が開き、女性店員が戻ってくる。

 そして、その後ろから飲み物を持った女性も入ってきた。

 先輩後輩の間柄だったりするのかな?

 

 おお、ちゃんとロクサーヌの分も用意してあるぞ。

 まあ、彼女が奴隷だと気付いていない可能性もあるか。

 原作のイラストやコミックと違い、ロクサーヌは首輪をつけていない。

 一見しただけで奴隷と気づくのは難しいだろう。

 

 鑑定では身分が表示されないため、ぶっちゃけ俺だって誰が奴隷なんだかさっぱりわかってないからなぁ。

 聡い人なら雰囲気などで気づくものなのだろうか?

 

 

 

 俺たちの前に飲み物を置くと、仮称後輩店員は一礼してから部屋を出ていった。

 

 扉が閉まると仮称先輩店員に飲み物を勧められる。

 俺たちがカップに口を付けている間に、店員は準備を始め、壁際に置かれているデスクの引き出しから筆記用具を取り出して、ローテーブルに置き、再びソファーに腰を下ろすと彼女は商談を始めた。

 

「女性ものの肌着をオーダーとのことですが、どのようなものでしょうか?」

「うむ。彼女に着てもらうことになるのだが、俺の故郷の伝統的なものでな。この辺りでは見かけなかったため、注文させてもらおうと思ったのだ」

「左様でございますか」

 

 俺の言葉に相槌を返すと、手元の紙に何やら書き込んでいる。

 今の話にメモを取るようなことがあったか?

 

 ……まあ、気にしてもしょうがない。

 足元のリュックからパピルスを取り出し、ローテーブルに置き話を続けた。

 

「まず、これを見てもらいたいのだが、こちらの上に描いてある方が胸を覆う肌着だ。大まかな形を描いてあるだけだが、これにレースなどをあしらって美しく、そしてセクシーに仕上げてもらいたい」

「拝見いたします」

 

 店員の方に向けると、じっくりと確認している。

 

「なるほど。拝見したところ、貴族女性が身に着ける胸まで覆うタイプのコルセットから、胸の部分だけを切り出したような形状ですね。レースをあしらうところも似ています」

 

 えっ! コルセットがあるの? マジで?

 というか、地球ではブラジャーとコルセットはどっちが先にできた物なんだろう?

 でもまあ、ガーターベルトがあるような世界なら、あってもおかしくないのか?

 いやぁ……。そうかぁ? うーん、どうなんだろう? 知識がないせいでよくわからん。

 

 いずれにせよ、似たようなものがあるのなら問題なく作れるかもしれない。

 

「すまないが、その貴族女性用のコルセットを確認させてもらうことはできるか?」

「問題ございません。取ってまいりますので、少々お待ちください」

 

 そう言うと店員は部屋を出ていった。

 

 

 

「貴族女性が身に着けるようなものを、私が着けても良いのでしょうか……」

 

 二人になったとたん、遠慮したように問いかけてくる。

 ロクサーヌは俺のことをわかってないな。

 

「全然問題ない。何度も言うがロクサーヌは世界一美人でかわいいんだ。とても似合うことだろう。それに、色々な衣装を身に纏った君の姿を見ることは俺の望みなんだから、気兼ねすることなく着てもらいたい」

 

 その言葉にはにかんだような笑みを浮かべ、感謝の言葉を口にした。

 

「ありがとうございます。私も着飾った姿をご主人様に見ていただきたいです」

 

 うんうん。

 それもこの世界に来た理由の一つなんだから、遠慮なんかしないでほしいぞ。

 

 

 

 ロクサーヌに今後どんな服を着てみたいのかリサーチしていると、扉が開いて布を持った店員が戻ってくる。

 

「お待たせいたしました。こちらになります」

 

 彼女が広げたそれを確認すると、かなりイメージしたものに近く、これなら期待できそうだ。

 胸の部分はカップになっているし、肩紐もついている。それに、レースもあしらわれており、割と煽情的に見える。

 逆にこれだけのものがあって、何故ブラジャーがないのか不思議だよなぁ。

 

「素晴らしい。この胸の部分だけを抜き出したような形で制作してもらえるか」

「お気に召していただけて嬉しく存じます」

 

 

 

 続いてパンティの絵を見てもらいながら説明も行うと、再度店員から似たようなものがあると告げられる。

 

「貴族の男性が好んで身に着ける肌着によく似ています。こちらもご確認なさいますか?」

 

 貴族の男性!?

 なに!? この世界の高貴な男はセクシーランジェリーを履いてんの!?

 

「あ、ああ。確認させてもらいたい」

 

 動揺を抑えながら頼むと、また店員は部屋を出ていった。

 

「あの、ご主人様……。私は男性用の肌着を身に着けなければならないのでしょうか……」

 

 めちゃくちゃ戸惑った様子でロクサーヌが問いかけてくる。

 正直俺もめちゃくちゃ戸惑っている。まったく訳が分からない。

 

「いや、俺の故郷では男性用ではなかったんだが、この辺では違うのだろうか?」

「そうなのですか?」

「ああ、男性用と女性用では一目でわかるほど形が異なっていて、この形状は主に女性向けなんだ」

 

 言いながらパピルスに描いてあるパンティを指さした。

 

 

 

 二人とも動揺したまま待っていると、店員が部屋へ戻ってくる。

 

「こちらになります」

 

 そう言うとこちらへ向けて小さな布を広げた。

 

 おいおいおい。紐パンじゃねーか!

 あ、いや、紐パンというかなんというか、もっさりブリーフなのにサイドを紐で結ぶ形になっている。

 そりゃ、男性用だろうな。

 

 しかし、これを貴族が履いてんのか……。

 俺の脳裏に、もっさり紐ブリーフを履き、腰に手を当て仁王立ちをしているハルツ公の姿がよぎる。

 

 完全に変態じゃねーか! どんなにイケメンだろうが、こんなもんアウトだわ!

 

 ……いや、地球でもこういう下着を身に着けている人がいるかもしれないのだ。偏見は良くないか。

 

 

 

「形状は確かに似ているが、彼女に履いてもらうものとしては優雅さに欠ける。レースをあしらうなどして、もっと美しいデザインにしてもらうことは可能だろうか?」

 

 デザインの変更を求めると、店員は少し考え口を開く。

 

「いままで、このタイプの肌着で女性用をお求めになるお客様はいらっしゃらなかったのですが、仮に女性用と考えた場合、あまりにも野暮に過ぎるようです」

 

 だよなぁ。

 というか、こういうものって女性用の方が先に作られそうなもんなのに、何で男性用しかないんだ?

 

「美しさと艶やかさを追求することは可能です。しかし、その場合かなり高額になるかと存じます」

 

 そうなんだよなぁ。

 そこが気になるところだ。

 

 よし、都合がいいことにこの女性は商人だ。三十パーセント値引に付け替えて金額を確認してみよう。

 

「ちなみに上下のデザインを統一したものを、二セット依頼した場合、いくらになるのだ?」

「少々お待ちください」

 

 問いかけると、今度は長考に入った。

 きっと、脳内ではカルクを使った原価計算が行われていることだろう。

 

 

 

 しばらくすると、店員はこちらに視線を合わせて口を開く。

 

「胸部を覆う肌着は、コルセットのノウハウを活かせると思いますので、一着当たり千四百ナール。下の肌着については完全に一からの製作のため一着千六百五十ナールで、合計六千百ナールとなりますが、このように斬新なデザインをご提案いただけたのです。今回は四千二百七十ナールとさせていただきたく存じます」

 

 おいおい。なんか矛盾した事を言ってるぞ。斬新なデザインだから費用がかさんでいるんだろうに。

 

 それにしても高いなぁ。

 キャミソールが八百ナールなことを考えると、結構な額だ。

 いや、でもこれは絶対に買わなければならない。俺は躊躇なんかせんぞ!

 

「うむ。注文させてもらおう。では、細かい調整や採寸は彼女と行ってくれるか」

「ありがとうございます。それでは、準備を行いますので……」

 

 これは俺に出て行けと言ってるんですね?

 紳士検定三級を持っているから、そういうのはわかるのだ。

 

 ……まあ、嘘だけど。

 

「それでは、よろしく頼む」

 

 部屋の外へ出て店内に戻ると、紳士風の店員から椅子を勧められたので、腰を下ろして辺りを見回す。

 ロクサーヌが来るまでは店内を観察しながら時間を潰すか。

 

 

 

 

 

 ……いや。遅くね?

 確実に一時間以上ここに座っているんだが……。

 

 店員や他の客の目が、何してんだこいつと言っているように感じる。

 間違いなく被害妄想の類だと思うが、こんなおしゃれ空間に一人でいると場違い感が半端ない。完全にアウェー状態だ。

 

 ロクサーヌー!!!! はやくきてくれーっ!!!

 

 

 

 それから、針の筵に座っているような気持ちで時が過ぎるのを待っていると、ようやくロクサーヌのいる部屋の扉が開く。

 やっとか。めちゃくちゃ長かったなぁ。

 

 ロクサーヌはやり切ったというような、満足そうな笑みを浮かべてこちらに向かってきた。

 一方、その後ろからくる店員は疲れ果てたような表情を浮かべている。

 

 マジですみません。おそらく、うちのロクサーヌが細かい部分までしつこく無茶な注文を行ったんですよね?

 本当に申し訳ない。

 

「ご主人様。お待たせいたしました」

「問題なく注文できたか?」

「はい。色々な要望を伝えたところ、とても親身になって相談に乗っていただけました」

「そ、そうか。それは良かったな」

 

 いたたまれなくなり、店員の方を向いて感謝を述べる。

 

「要望を聞いてもらい感謝する。本当に助かった」

「とんでもないことでございます。このように先進的な肌着の作製に携わることが出来て、こちらの方こそ感謝に堪えません」

 

 こんなことを言えるなんて、よくできた店員だよなぁ。

 この店の接客は本当にたいしたものだわ。

 

 

 

 その後、支払いを終えると、もう一つの服屋へ向かい、そこでも同じように別室に通され、注文を行った。

 そして、ロクサーヌさんはまたもや、鬼のように注文を付けたのだろう。店内で待っていた俺のところに来た頃には、相当な時間が経過していた。

 支払いを終えると、引き渡しは十日後だと伝えられる。さっきの店も同じだったな。

 おそらく、その前にはできているのだろうが、余裕を持った日にちを伝えているのだろう。

 まあ、十日後を楽しみにしていよう。

 

 

 

 店を出て少し歩いたところでロクサーヌに話しかける。

 

「それではベイルの迷宮に移動しよう。人気のないところへ頼む」

 

 問いかけると、ワタワタと焦りだした。

 

「あ、いえ、あの、ご主人様……」

 

 ん? なんだ? 何をそんなに動揺しているんだ?

 

「あの、もうそろそろ――」

 

 何か言いかけたロクサーヌを遮るように、鐘の音が響き渡る。

 ああ、なるほど。

 

「お昼です……」

 

 彼女はきまりが悪そうにそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv20 魔法使いLv24 戦士Lv22

装備 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

BP振分 残BP:14

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ジョブ設定:1

詠唱省略:3

結晶化促進二倍:1

三十パーセント値引:63

ワープ:1

体力:14

 

所持金:159,494ナール

 

春の8日目

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