異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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062 落札

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 今日も心地良い感触が肌から伝わり、綺麗な声が耳に入ってくる。

 ロクサーヌと過ごすようになってから、毎日幸せに目覚めることが出来るため、布団の中でウダウダ過ごすことがなくなった。

 

「んーっ」

 

 大きく伸びをしたら、今日の予定の確認だ。

 

「それじゃあ、今日も朝の支度をしたら早朝の迷宮探索に出よう」

「はい」

「朝食を挟んだらもう一度迷宮探索を行う。そして、お昼になったらアイテムの売却と食材の買い出しを終えたら昼食だね。俺は商人ギルドへ行ってスキル結晶を受け取ってくるから、今日はロクサーヌに昼食の支度をまかせてもいい?」

「おまかせください。ご主人様に美味しいものを召し上がっていただけるように頑張りますね」

 

 本当に良い娘さんだ。

 好き! 大好き!

 

「それじゃあ、朝食は俺が作ろうかな」

「よろしいのですか?」

「うん。おまかせあれ」

 

 そうだなぁ。この前ホットケーキを喜んでもらえたから、今回はフレンチトーストでも作ろうか。

 他にはゆで卵とサラダ、それから牛乳でいいだろう。

 まあ、甘いものを飯の代わりにするのは健康的ではないが、毎日めちゃめちゃ運動をしているし問題ないはずだ。

 

 あ、ロクサーヌは甘いものでも大丈夫だろうか?

 

「朝食は甘いものでもいい?」

「甘いものですか! 以前ご主人様が作ってくださったホットケーキがとても美味しかったので、今日も楽しみです!」

 

 うおっ! めちゃくちゃ食いついてる。

 

「そ、そうなんだ。楽しみにしてもらえて嬉しいよ」

「はい! よろしくお願いします」

 

 こんなに楽しみにしてもらえるとめちゃめちゃ嬉しいよな。

 よし、がんばろう。

 

「昼食後は休憩を取ってから、また探索だね。それが終わるとベイルの探索者ギルドで売却を済ませて、アラン殿の商館を確認して帰宅する」

「はい」

 

 返事をするロクサーヌと頷き合い、話を続けた。

 

「家に戻ったら、修行と夕食、それからお風呂を済ませて就寝かな」

「改めて聞くと、本当に信じられないほど贅沢な生活です……」

 

 彼女は感動したようにポツリと呟いた。

 確かになぁ。大好きな女性とこんな充実した生活が送れるなんて、本当に贅沢な話だ。

 

 

 

 二人して、しみじみと幸せをかみしめたあとに、声をかける。

 

「それじゃあ、今日も一日よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

六階層

 

 

 

 

 

 朝の支度を終えると迷宮へ赴き、前回の続きから探索を再開だ。

 一度のMP回復を挟んだ後、ボスを突破することに成功する。

 その間に戦士のレベルも上がっていた。

 

 さて、ここからは六階層になる。

 ベイルの六階層はナイーブオリーブ。クーラタルの迷宮で戦ったことがあるため、気負いもない。

 

 ロッドとメギンギョルズのセット、それからデュランダルと技工の革グローブのセットのおかげで、六階層の魔物も魔法と物理両方とも一撃で片がついたため、滞ることもなく探索を行い、ロクサーヌの腹時計に従って早朝の活動を終えた。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 買い物を終えて帰宅すると、ロクサーヌが掃除をしている間に俺は朝食の支度にとりかかる。

 

 鍋に火をかけ卵を放り込む。今回はハードボイルドでいいだろう。

 その間に卵液を作る。シナモンくらい用意しておけばよかった。

 できれば、バニラエッセンスにしたいところだが、おそらくこの世界にはないだろうからなぁ。

 

 完成した卵液にスライスしたパンを浸しておく。

 数時間浸したかったところだが、思いついたのが今朝だし、それに常温で放置するのも怖い。

 魔道士になれば氷が作れるようになるから、それを利用した冷蔵庫も作れるようになるんだが。

 でも、冷凍庫はどうやっても無理なんだよなぁ。

 この世界にも永久凍土はあるのだろうか?

 そういうところに冷凍庫を作って、ワープで出入するみたいな感じで利用できればいいんだが。

 もしかすると、標高のある山の中には、年中気温がマイナスの場所があったりするかもしれない。それを探すのもありだろう。

 

 まあ、そんなところがあるのかわからないし、あったとしても今のレベルでは探すことすらままならない。

 ゆくゆくは、だな。

 

 

 

 よし、フレンチトーストも焼き終わったし、ゆで卵もオッケー。サラダもばっちりだ。

 それじゃあ、ダイニングに運んで朝食にしよう。

 

 食事を運んでいると匂いで気づいたのだろう。すぐにロクサーヌが現れて手伝ってくれた。

 すべて運び終わり、カップに牛乳を注いで準備完了。

 

「では、いただきます」

「いただきます」

 

 ナイフでフレンチトーストを切り、フォークで口に運ぶとめちゃくちゃ美味い。

 牛乳のおかげか卵のおかげか、それともコボルトスクロースのおかげだろうか。

 本当に贅沢な食卓だわ。

 

「ご主人様! とても美味しいです! これはいったい何なのですか!?」

 

 おおう。すごいでかい声だ。

 なんかめちゃくちゃ興奮してんなぁ。

 

「気に入ってもらえてよかった。これは卵と牛乳とコボルトスクロースを混ぜた液体に、パンを浸して焼いたものだよ」

「朝からこんなに美味しいものをいただけるなんて、信じられないくらい幸せです」

 

 満面笑顔で食べているのがかわいいなぁ。

 本当に作り甲斐があるわ。

 

 

 

 食事を終え、歯磨きと洗い物を済ませ、ゆっくりと食休みを取ってから、再び迷宮へ戻る。

 そのまま、いつもと同じように探索を続けて、お昼になったところでドロップアイテムの売却を済ませ、食材を購入してから帰宅する。

 

「それじゃあ、俺は商人ギルドへ行ってくるから、あとはお願いね」

「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

 綺麗なお辞儀で見送られ、ワープゲートを潜った。

 

 

 

 

 

クーラタル

商人ギルド

 

 

 

 

 

 商人ギルドへ到着すると、少し慌ただしい雰囲気が漂っており、ロビーにいる人の数も少ないように見える。

 いつもなら結構な数の仲買人たちがロビーにたむろしていたが、今日はその連中もいないようだ。

 

 受付に近づき、ルークを呼ぶように伝えると、少し困ったような表情を浮かべ、受付を離れて階段を登っていった。

 

 なんだ? なにかあるんだろうか?

 

 

 

 程なくして、ルークが慌てた様子でやってくると話し始めた。

 

「申し訳ありません。もう間もなく本日のオークションが行われるため、すぐに商談を行ってもよろしいでしょうか?」

 

 あー、なるほど。そういうことか。

 仲買人たちは既に会場へ入っているのだろう。

 つまり、ルークは会場から呼び戻されてしまったというわけだな。

 

 でも、これはチャンスだ。

 この機会にオークションを体験しておきたい。

 

「忙しい最中に来てしまいすまないな。しかし、ちょうどいい。オークションの様子を一度見てみたいと思っていたのだ。物は相談なのだが、スキル結晶の売買は後に回していいので、案内を頼めないか?」

 

 ルークは少し驚いた表情を浮かべたが、本当に急いでいるのだろう。すぐに返事を口にする。

 

「本日は目玉商品があるため、本当に助かります。それでは、すぐにご案内いたします」

 

 そう言って急いで歩き出したルークの後に続き、階段を登り二階へ上がる。

 それにしても目玉商品か……。

 くっそー。それがなんなのかわからないが、今の金欠状態では手が出ねー!

 

「本来なら、あらかじめ出品されるものを確認することができるのですが、本日はこの後すぐにオークションが開始されるため申し訳ありませんが、ご確認いただけません」

 

 いきなり参加したいなどと言った俺が悪いんだ。まあ、しゃーない。

 

「大丈夫だ。ただ雰囲気を確認したいだけなので、問題ない」

「ありがとうございます。オークション会場はこちらの部屋です」

 

 案内された広い部屋に入ると、広いステージがあり、その前には椅子がずらりと並べられ、三十人ほどの人が座っている。

 

 おお。こういう感じなんだなぁ。

 ここで聖槍のオークションを見たり、ベスタを落札したのだろうか?

 なんかちょっと感動してしまうぞ。

 

 キョロキョロと辺りの様子を見ていると声を掛けられた。

 

「アユム様。もう間もなく始まります。お席の方へ」

 

 おっと、呆けている場合じゃない。

 

「すまん」

 

 席に座ると同時に、ステージの脇から人が出てきて話し始めた。

 

「これより、オークションを開始いたします。本日最初の出品はコウモリのスキル結晶となります。もちろん、ギルド神殿にて確認済みです」

 

 コウモリ……。確か回避力上昇だったか?

 まあ、今すぐ必要なものではないな。

 

「アユム様。オークションに参加しなかった場合、参加費がかかってしまいますので、入札を行ってください。最初の出品では上げ幅が百ナール刻みとなり、どなたでも参加しやすいようになっています」

 

 出品物が紹介されるとルークが耳元で囁く。

 

 ちょ! おい! 俺は男のASMRボイスを聞く趣味はねーんだよ!

 ちょっとゾクゾクしてしまったのが、めちゃくちゃ悔しい。

 

 

 

 しかし、原作でもそんな感じだったな。参加費は実質無料ってことだろう。

 

 ベスタを落札した季節変わりの休日に行われるオークションでは、参加費は先払いで、落札価格から差し引かれるんだったか。

 確かそれで三割引が効いていたような……。違ったかな? どうだっただろう?

 

 入札がドンドン進んでいくので、意を決して声を上げる。

 

「千六百!」

「千七百」

 

 すると、すぐにルークが続けた。

 うん。知ってた。原作でもそうだったもん。

 

 そのまま入札は続いているが、商人ギルドの職員だろうか、男性が近づいてきてパピルスを手渡していった。

 

 これが参加証明書か。なんかすげーちゃちな作りだな。

 まあ、凝った作りにする必要もないし、これで問題ないのだろう。

 

 すると再びルークが耳元で囁いた。

 ええい。それをやめい。

 

「入札にはマナーがあり、上乗せできる最低額は、現行価格が一万ナール未満だと百ナール。一万ナールから十万ナール未満だと千ナール。そして、十万ナール以上は一万ナールが最低入札額となります。そして、この最低額の十倍を超えた額で入札を行ってしまうと、マナー違反となり、報復が行われる可能性があります」

 

 そのマナーは怖すぎだわ。

 一般人には浸透していないため、普通に入札したつもりなのに報復をくらうとかきつすぎる。

 原作で報復のために、周りの人がカンパをしていたのとかドン引きだったもん。

 

 ……でも、金が足りなくても、マナー違反野郎と競った場合、ワンチャン落札できるかもしれないのは旨いよな。

 まあ、それをあてにするわけにはいかないけどさ。

 

 

 

 その後も値段は上がっていったが、徐々にペースが落ち、三千ナールで入札が止まる。

 

「三千。現在の価格は三千ナールです。入札はありませんか」

 

 司会者が確認をするが、入札する者はいなかった。

 

「三千です。現在の価格は三千。ほかにはありませんか……」

 

 そう言うと男は会場中を見回す。

 

「ありませんね。それでは三千ナールでの落札となります」

 

 最初のオークションが終わると、再びルークが話しかけてくる。

 

「会場全員が入札を行ったので、次からが勝負となります。申し訳ありませんが、目玉商品の件もありますので、ここからは私も全力で事に当たりたいと存じます」

 

 つまり、お前に構っている暇はねぇってことですね?

 仕事の邪魔をしてすまんな。

 

「問題ない。オークションを体験できただけで満足なのだ。ルークは自分の仕事を行ってくれ」

 

 それを聞いて、少しだけ目を見開くと、アルカイックスマイルを浮かべ軽く会釈をした。

 

 

 

 いくつかのオークションの後、次の出品物が運ばれてくる。

 

「では続いての品は、潅木のスキル結晶です。もちろん、こちらもギルド神殿で確認済みとなります」

 

 お! 潅木!

 あ、いや。これは俺が入札してもいいもんなのか?

 他の人はともかく、依頼を行っているルークと競合しちまうぞ。

 

 ルークの方をうかがうと、一つ頷き囁いた。

 

「私は手を出しませんので、どうぞご入札ください」

「すまんな。ではそうさせてもらおう」

 

 ラッキー。手数料の五百ナールが浮いた。

 

 

 

「では、開始価格は千ナールです」

「千」

 

 司会の男が言い終わると、即座に声が上がる。

 

「千百」

「千二百」

「千三百」

 

 ドンドン上がっていく価格を聞きながら、様子をうかがう。

 俺はネットオークションでも終了間際にしか入札しない派だからな。

 最後の確認のときにかぶせよう。

 

 ……まあもっとも、これはあくまでも取り返しがつく品の場合だ。

 ベスタのときには最初から全ツッパでいくぞ。

 

 しばらく入札が続いていくが、四千を超えたあたりで徐々に勢いが衰えていく。

 

「四千八百。現在の価格は四千八百です。ほかにはありませんか……」

 

 ここかな。

 

「四千九百」

「五千」

 

 俺が声を上げるとすぐにかぶせてきたやつがいた。

 原作では六千、えーと、六千いくらだっけ?

 まあ、一応六千までは入札してみよう。それ以上はつき合わん。

 

 

 

「五千五百」

 

 声を上げるが、今まで即座にかぶせてきた声が聞こえない。

 そのまま競り合うのか悩んでいるのだろうか?

 

「五千五百。現在の価格は五千五百です。ほかにありませんか……」

 

「五千六百」

「五千七百」

 

 相手の入札を速攻で潰すと、再び沈黙が訪れる。

 

「五千七百。現在の価格は五千七百です。ほかにありませんか……。ありませんね。それでは、潅木のスキル結晶は五千七百ナールでの落札です。出品者と落札者は、奥の部屋へ行きスキル結晶の確認と商品の受け渡しを行ってください」

 

 司会の言葉に従い席を立つとルークが話しかけてきた。

 

「アユム様、幸運でしたね」

 

 ん? そうなん?

 

「皆、この後の目玉商品のため入札を控えているのでしょう。相場よりかなり安く入手できています」

「ほう、それは幸運だったな」

 

 しかし、目玉商品か。見てみたいな。

 ルークに尋ねてみるか。

 

「この後のオークションも確認したい場合はどうすればいいんだ?」

「奥の部屋へ行き、出品者にその旨を伝えると購入を一旦保留にして、この部屋へ戻ることが出来ます」

 

 なるほど。んじゃ、そうしよう。

 

「では、行ってくる」

「はい」

 

 

 

 奥の部屋へ入ると、そこで待っていた出品者にあとの出品も確認すると伝え、オークション会場に戻る。

 

 俺が席に着くと司会者が新たな出品物を紹介し始めた。

 

「それでは、続いての出品はこちら、スタッフとなります。装備品のためギルドでは確認を行っていませんので、ご注意ください」

 

スタッフ 杖

スキル 空き 空き 空き

 

 き、きたーーーー!!!!

 

 スタッフだ! それも空きスロットが三つもある! 欲しい! なんとしても手に入れたい!

 

 しかし、そうか……。 これだったのか……。

 

「これが目玉商品か……」

 

 思わず漏れた呟きを聞いて、ルークが口を開く。

 

「いいえ。あれは目玉商品ではありません。この後出品されるひもろぎのスタッフが目玉商品となります」

 

 なに!? マジか!?

 俺は自分でスキルを付ければいいため、そっちには全く興味がないが、他の者はひもろぎのスタッフのために、入札を控えるんじゃないのか?

 

 これワンチャンいけるぞ!

 

 うっしゃ! なんとしても落とす!

 

 

 

「それでは、スタッフの入札を開始します。最低入札価格は一万ナールです」

 

「一万ナール」

「二万ナール」

 

 こっちとら全力で行くつもりじゃ、速攻で最低入札額の十倍にしてやった。じゅうべぇだー!

 

「二万千ナール」

「三万千ナール」

 

 誰が引くか。こいつは俺の物だ。

 

「三万二千ナール」

「四万二千ナール」

 

 さらに十倍で被せると、会場がざわつき始めた。

 

「ア、アユム様。これはただのスタッフです。ひもろぎのスタッフではありません」

 

 焦ったようにルークが囁いてくるが、そんなことは百も承知だ。

 俺はこの空きスロットが三つ着いたスタッフが欲しいんだよ!

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

 ルークに頷いて答えていると、司会者が声を上げる。

 

「え、あ、えー。四万二千。現在の価格は四万二千ナールです。ほかにありませんか……」

 

「四万三千」

「五万三千」

 

 どうした! こいよ! 俺は絶対に引かんぞ!

 

「五万三千。現在の価格は五万三千ナールです。ほかにありませんか……。ありませんね……。それでは、スタッフは五万三千ナールでの落札です。出品者と落札者は、奥の部屋へ行き、商品の受け渡しを行ってください」

 

 っしゃおらー!

 空きスロット三つのスタッフゲットだぜ!

 

「では行ってくる」

 

 ルークに一声かけて席を立ち、奥の部屋へと歩いていく。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv21 魔法使いLv24 戦士Lv22

 

BP振分 残BP:16

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

詠唱省略:3

ワープ:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:165,282ナール

 

春の9日目

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