奥の部屋に入ると、俺が落札した物の出品者二名が待っていた。
目玉商品が何かわかったし、今の懐事情で更に別の物を入札するというのは厳しい。
保留して会場に戻らなくてもいいだろう。
両名と挨拶を交わしたあと、フロア内に置かれているテーブルのうち一番近いテーブルへと案内され、それを挟んで向かい合った。
これは落札後に手続きを行う用のテーブルだったりするんだろうか?
まあいいや、潅木のスキル結晶を出品していた者に話しかける。
「待たせて悪かったな。では、目的は果たしたので購入させてもらおう」
「この度は落札いただき誠にありがとうございます。こちらが潅木のスキル結晶となります」
そう言うと、近くにいた職員がトレーに載せられたスキル結晶を持って近づいてきた。
そして、そのままテーブルの上にトレーを置く。
スキル結晶 潅木
よし。間違いない。
「こちらはあらかじめ職員立会いの下、ギルド神殿で確認を済ませております。もしご希望でしたら、お客様のご負担にて再度ご確認いただけますが、いかがなさいますか?」
いや、俺には完全に見えてるから。
それが潅木だってわかってるんだわ。
まあ、見えていなかったとしても、この持ってきた職員がずっと監視していたのだろうし、信用することが出来そうだ。
職員とグルにでもなっていない限り、すり替えることなど不可能だろう。
「いや、大丈夫だ。そのまま購入させてもらおう。ここで支払いを行ってもいいのか?」
「ありがとうございます。ではこちらへお願いします」
返事をすると、男はテーブルの下からもう一つトレーを取り出し、スキル結晶の隣に置いた。
手慣れてるなぁ。おそらくこいつは仲買人で、持ち主に代わって代理で出品を行っているんだろうな。
素人が自分で出品するのは、なかなかハードルが高そうだ。
いや、その場合は隣にいるギルド職員がフォローをするんだろうか?
まあいいや。とっとと支払いを終えよう。
おっと、その前に詠唱省略を外しておかないと。
大急ぎで詠唱省略を外し、ついでにMP回復速度二十倍と三十パーセント値引を付け替えておく。
このあとルークからスキル結晶を買わないといけないからな。
呪文を唱え、アイテムボックスから銀貨五十七枚を取り出しトレーに置いた。
ドロップ品の売却で日々銀貨がめちゃくちゃ貯まるので、こういう機会に大放出だ。
男は数え終わるとそれを袋に納め、こちらへスキル結晶の載ったトレーを近づける。
俺がアイテムボックスにしまったのを確認すると、手を差し出し握手を交わした後に、テーブルを離れていった。
取引を終えると、もう一人の出品者が歩み寄る。
お、鑑定してみると武器商人だった。
なるほど。そのツテでスタッフの出品をまかされたのかもしれない。
テーブルを挟んで向かい合わせになると口を開く。
「ではこちらも取引を始めたく存じます」
すると、スタッフを載せたトレーを持った職員が近づいてくる。
スタッフ 杖
スキル 空き 空き 空き
よし! 間違いない。
「うむ。頼む」
俺の返事を確認して男が話し始めた。
「こちらが落札いただきましたスタッフとなります。装備品のため商人ギルドでは確認を行っておりません」
装備品はギルド神殿で見分けることが出来ないみたいだしな。武器商人の武器鑑定か、防具商人の防具鑑定を使う必要があるのだろう。
それじゃあ、何を担保にこれをスタッフだと言ってるんだ?
「お待ちしておりますので、武器商人をお連れください」
なるほど。
購入者が用意した武器商人や防具商人に鑑定させるということか。
本人も直接確認できるギルド神殿とは違い、武器鑑定や防具鑑定では他者を介した間接的な確認だ。
相手が用意した者やギルドに所属している者だと疑念が残ってしまうので、それを避けるためにこうなっているのか。
でもまあ、問題ないことはわかっているしなぁ。
しかも、俺には武器商人の当てなんかまったくないぞ。
だが、武器商人を呼ばず、相手の言うがままに取引を続けてしまうと、疑うことを知らない間抜けだと侮られてしまう可能性がある。
……よし。ここ数日で得意になりつつあるハッタリで切り抜けよう。
「大丈夫だ。それには及ばない」
「えっ、あの、しかし……」
男は俺の言葉に戸惑いの声を漏らした。
「俺は自由民だからな。もし欺かれていたのなら然るべき報いをくれてやるだけだ」
そう告げると、目を見開き唾を飲んだ。
「は、はい。もちろんそのようなことはございません。ご安心ください」
なんか、そんなに狼狽されると、罪もない一般人を脅しているチンピラになったような気分だな……。
変に反感を買うのも怖いし、自力救済の権利に頼るのは程々にしておこう。
金貨五枚と銀貨三十枚をトレーに置くと、男は数え始める。
そして、数え終わるとアイテムボックスにしまい、握手を交わすとこの場を去っていった。
「ふぅ」
思わず息が漏れる。
……大金を使っちまったなぁ。
いやまあ、潅木にスロット三つのスタッフだ。
どちらも絶対に見過ごすことが出来ないため、入札しないという選択肢は存在しなかった。
しかし、それにしてもだよなぁ……。
ルークからスキル結晶を買えば、十万ナールどころか九万ナールを割ってしまう。
早急に金策に走らなければ……。
商談を終え会場に戻ると、ひもろぎのスタッフのオークションは既に始まっており、白熱した戦いが繰り広げられている。
椅子に座るとルークはこちらにチラリと視線をよこすが、すぐに入札に戻る。
会場の様子を見ていると、価格は十五万ナールを超えてしまう。
すっげー金額だな。
さっき手に入れたスタッフが五万三千。ヤギとコボルトで一万ナールだとしても六万三千。
これを融合するだけで少なくとも八万ナール、いや今さらに入札があったから九万ナールの儲けになるのか。
しかし、これは装備品とスキルの組み合わせが良いからだろうな。
適当な武器に適当なスキルを付けても、こんな高値はつくはずがない。
それに、ひもろぎのスタッフを作って稼ぐにしても、いつそれらが出品されるかわからない上に、スタッフにスロットが付いているかどうかも不明だ。
そうなると、セリーの作った装備品に、安いスキル結晶を融合して売却した方が安定するか。
まあ、それを実行できるのは彼女が加入後。そしてある程度資金に余裕ができてからだ。
今考えることではないだろう。
……今考えるべきことは、どうやってセリーの購入費用を用意するのかと、今後も継続して行うルークへのスキル結晶の代理購入の支払いについてだ。
あれこれ頭を悩ませていると、遂に価格は二十万ナールを突破する。
マジか。
聖槍の落札額が十五万ナールだったことを考えると、ものすごい額だと感じてしまう。
もっとも、聖槍は仲買人たちの価格操作によって不当に安く買いたたかれていた。しかし、それでも基本的な性能差を考えるとなぁ。
それだけスキル結晶の融合に失敗が多いということか。
原作でも安く手に入れたとはいえ、聖槍をMP吸収の付いた吸精のスタッフと交換していたのだ。
やはり、有用なスキルの付いた装備品は貴重なのだろう。
「二十五万」
既に入札の速度は緩やかになっていたが、俺の隣にいる男が声を発した後は沈黙が訪れた。
「二十五万。現在の価格は二十五万ナールです。ほかにありませんか……」
司会者が声を上げるが、入札を行うものは現れない。
「二十五万。現在の価格は二十五万です。ほかにありませんか……。ありませんね。それでは、ひもろぎのスタッフは二十五万での落札です。出品者と落札者は奥の部屋へ行き、商品の受け渡しを行ってください」
その声を聞くとルークは席を立ち、俺の方へ向き告げた。
「では、私はひもろぎのスタッフを受け取ってまいりますので、こちらで少々お待ちいただけますか」
「うむ」
頷きを返すと、ルークは一礼して奥の部屋へと消えていった。
いやぁ、マジかぁ。
ひもろぎのスタッフってこんなにすんの? セリーと同じ額だぞ?
かなりの衝撃なんだが……。
スタッフとヤギ、コボルトのスキル結晶で六万三千。まあ、価格は前後するだろうから多めに見積もって仮に七万とした場合、三倍以上か。
ん? あれ? これ妥当か?
何度も融合に失敗してその費用を乗せていると考えれば、たとえスタッフをリサイクルしていたとしても、そこまで極端な金額というわけではないな。
原作で公女を迎えた家はとんでもない数のスキル結晶を溶かしていた。
きっと、それ以上の出費があったはずだ。
吸精のスタッフだといくらになるのだろう?
鑑定が使える俺たちからすれば、スロットが五つ付いた聖槍との交換はシャークトレードそのものだ。
しかし、交換相手や仲介したルークからすれば、逆にシャークトレードだと感じるのかもしれない。
「お待たせいたしました。では、スキル結晶の引き渡しを行いたく存じます」
思索にふけっていると、いつの間にかルークが戻っていた。
「うむ。頼む」
彼の後をついて歩き一階へ降りると、以前取引を行った部屋へ通される。
向かい合ったソファーに座ったところで、ルークはアイテムボックスを開き、次々とスキル結晶を取り出していく。
スキル結晶 芋虫
スキル結晶 はさみ式食虫植物
スキル結晶 コボルト
スキル結晶 コボルト
うん。問題ない
「では、ギルド神殿へご案内いたします」
「いや、それには及ばない。ルークのことは信用しているのでな」
「そうですか……」
俺の言葉を聞いたルークは、少し緊張した表情を浮かべている。
なんだ?
「あの、失礼ですがアユム様は自由民だとか」
「うむ」
「なるほど……。腕に相当な自信をお持ちなのですね」
ああ。確か原作でもこんな会話があった気がする。
というか俺はルークに苗字も、自分が自由民だとも伝えていない。スタッフを出品したあの男、俺の情報を伝えやがったな。
個人情報保護法はどうなっとんねん。警察へ相談に行くぞ。
しかし、この様子を見るに、偽物を掴ませたら大変なことになると考えたのかもしれない。
お互いに誠意をもって取引を行えば何の問題もないのだ。それほど気にすることもないさ。
まあ、三割引や三割アップを使うやつの言うことではないが。
「では、精算を頼む」
「かしこまりました。今回も買い注文を継続いたしますか?」
おっと、そうだ。サンゴは取り消しておかなくては。
「それなのだが、サンゴは前回のスキル結晶が融合に成功してな。これについては取り消しを頼む」
「それはそれは、おめでとうございます」
「おかげさまでな。この調子で今後も注文を頼みたい」
「ありがとうございます。では、今回落札分は芋虫のスキル結晶が三千九百ナール。はさみ式食虫植物のスキル結晶が五千八百ナール。そして、コボルトのスキル結晶が五千ナールと五千二百ナールで合計一万九千九百ナール。また、手数料が超過した分と継続分で計四件。二千ナールとなりますが、あのような気迫のこもった力強い入札を拝見できたのです。今回は合計二万一千三百ナールといたします」
なんじゃその理由……。
……まあいいや、さっさと支払いを終えてロクサーヌの下に帰ろう。
アイテムボックスを開いて硬貨を取り出し、支払いを行う。
そして、受け取ったスキル結晶を放り込んだ。
それじゃあ、帰るとするか。
「それにしても、アユム様は本日幸運に恵まれたようで」
ん? 幸運?
腰を上げようとしたところでルークが話しかけてきた。
「幸運とは?」
「潅木のスキル結晶の相場は通常六千ナールほどです。また、スタッフは七万ナールを超えることも珍しくなく、八万ナール以上になることもあるのです。ですが、今回は最後にひもろぎのスタッフがあったため、買い控えが起こっていました」
マジかぁ。
そんなに安く落札できていたのか。
「通常は同一のオークションで、スタッフとひもろぎのスタッフのような組み合わせが出品されることはまずありません。その場合、出品の順番次第ですがスタッフの入札額が低くなるのは目に見えております」
確かにそうかもしれない。
鑑定が使えないのなら、未完成品に見えてしまうことだろう。
しかも、今回の様にスタッフが先だと入札に躊躇が生じる。
「どうしても急いでお金が必要になり、今回の出品を決めたようでしたが、通常なら回避していたでしょう」
なるほどなぁ。
もし、昨日すぐに来ていたら、スタッフの入手はバラダム家の放出品を待つ必要があったのかもしれない。
本当に今日来てよかったー!
「それに、スタッフの入札で行った、絶対に引かないという意志のこもった十倍上げで、会場が動揺しておりました。そのため他の者は勝負を降りたのでしょう」
じゅうべぇ界王拳にも効果があったのか。
「見事なオークションテクニックでした」
完全に理性が飛んだ馬鹿な行いが偶然ハマっただけなのに、それを褒められてもなぁ。
「うむ。そうか」
一つ頷くと席を立つ。
「では、これで失礼する」
「はい。本日はありがとうございました」
ルークに見送られ部屋を出る。
さて、ボーナスポイントを振りなおして、さっさと帰るか。
もう、だいぶ時間が経っている。ロクサーヌに心配をかけているかもしれない。
洗濯カゴは夕食の買い出しのときだな。
キャラクター再設定を終えるとワープゲートを開き、そこへ飛び込んだ。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv25 英雄Lv21 魔法使いLv24 戦士Lv22
BP振分 残BP:16
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値十分の一:31
鑑定:1
詠唱省略:3
ワープ:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:85,282ナール
春の9日目
連続更新はここまでとなります。
GWに連続更新を行おうとずっとストックを貯めていたのですが、まさか原作13巻の発売が重なるとは思いませんでした。
今後は再び五日ごとの更新となりますが、お楽しみいただければ幸いです。