異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

65 / 300
064 金策

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ワープゲートから出ると、目の前でロクサーヌが掃き掃除を行っていた。

 そして、俺が戻ったのに気がつき綺麗なお辞儀を披露する。

 

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「ただいま、ロクサーヌ。遅くなってごめん。それに、待っている間に掃除をしていてくれたんだね。本当にありがとう」

 

 謝罪と感謝を述べると一瞬ロクサーヌが動揺したようだったが、すぐに恥ずかしそうな表情を浮かべると返事をした。

 

「いえ、あの、ご主人様が戻られる場所は決まっていますので、ここを掃除していれば、すぐにお出迎え出来るとおも——」

 

 あまりにもいじらしい言葉に、思わず抱きしめて唇を奪ってしまう。

 

 

 

 激しく口づけを交わした後、どちらからともなく体を離す。

 

「えっと、じゃあ、食事にしようか」

「はい」

 

 

 

 ロクサーヌが作ってくれた昼食をとり、歯磨きと洗い物を済ませてからリビングへ移動した。

 そして、彼女の温かく柔らかな体をバックハグで抱き寄せ、そのままソファーにもたれかかる。

 

 すると、彼女は抱きしめている俺の方へ首をひねり、口を開く。

 

「あの、ご主人様。どうしてこんなに時間がかかったのですか?」

 

 ああ、そりゃ気になるか。

 うん。これは説明しておくべきことだろうな。

 

「商人ギルドに行ったら、ちょうど今日のオークションが始まる時間だったんだ。ルークもすぐに俺の対応が出来るような状況じゃなかったし、ちょうどいい機会だからオークションに参加させてもらったんだよ」

「そういうことだったのですね」

 

 その言葉を聞くと納得したように頷いた。

 

「ロクサーヌを待たせて迷惑をかけてしまったけど、参加した甲斐はあったかな」

「何か手に入りましたか?」

 

 ふふん。聞いちゃう? それを聞いちゃう?

 

「本当にタイミングが良くてね。良い品物を二つも手に入れることが出来たよ。どちらも相当な安値での落札だったらしい」

「そうなのですか?」

 

 こちらを見つめているロクサーヌに頷き、話を続ける。

 

「うん、そうなんだよ。今日は目玉商品があってさ、そのせいで買い控えがあったみたいだ」

「なるほど。そのようなことが」

 

 彼女は納得したように二つ、三つと頷いている。

 

「まず、買いを入れていた潅木のスキル結晶が出品されて、これを手に入れることが出来た。俺が直接落札したから、安かった上に手数料を払う必要もなかったよ」

「ふふ。お得でしたね」

 

 彼女はかわいらしく相槌を入れる。

 

「そして、その後がすごかった。スキルスロットが三つもついた、高性能な杖であるスタッフが出品されてね」

「それはとんでもないことです。全員が狙ったのではないですか?」

「いや、普通はスキルスロットに気がつかない。他の人にとってはただのスタッフだ。それに目玉商品は別にあってさ、その更に後に出品されたひもろぎのスタッフがそうだったんだ。そのせいで、オークションに参加した人たちはスキルが付いていないスタッフの入札に躊躇していた様子がうかがえた」

「それでご主人様が落札なさったのですか?」

 

 ロクサーヌは輝くような笑みを浮かべながら問いかけた。

 

「そう。いろいろな条件が重なって幸運にも手に入れることが出来たよ」

「運も味方にしてしまうなんて、さすがご主人様です!」

 

 その言葉を聞いてロクサーヌから大きな声が上がる。

 はいはい。さすごしゅありがとさん。

 でも、そのさすごしゅはさすがに無理があるぞ。

 

 

 

 ロクサーヌの体を抱きしめお腹をゆっくり撫でていると、いつの間にか静かになっており、力を抜いて俺の方へ体を預けている。

 リラックスしている? そうだと嬉しいんだが。

 

 そのまま彼女を撫でながら、思索に耽る。

 

 ……所持金が十万ナールを切り、八万五千ナールとなってしまった。

 セリーの購入価格は三割引で十七万七千八百ナールだ。

 購入日は春の三十三日目なので、あと二十四日で九万三千ナールを用意する必要がある。

 生活費も考えると、一日四千ナールほど稼がなくてはならない計算だ。

 通常の探索だけでは到底不可能な金額だろう。

 

 ……やはり、ボスマラソンを行うしかないか。

 しかし、そうなると問題はいつ行うかだ。

 

 昨日はワープを二回使うので、詠唱省略を付けるために探索者のレベルが34になったら行おうと考えていた。

 しかしその後、詠唱短縮を使用することになったが、ワープという短いスキル名なのも影響しているのだろう。スキル名だけで発動する詠唱短縮だと、さほど時間は変わらなかったように思う。

 つまり、探索者のレベルは32でも問題ない。

 

 だが、今の探索者レベル25だと、あと7つも上げる必要がある。

 もし良い装備品を見つけたり、ルークが立て続けにスキル結晶を落札してしまえば、資金がショートしてしまう。

 

 ……当面の資金を確保するため、一度ボスマラソンを行うか?

 

 現時点でそれを行っても時間効率的に旨味が全くない。

 ボスマラソンをやるつもりなら、リスクを最小限に抑えるため、高効率で短期間に済ませるべきだ。

 だが、探索者レベル25では、デュランダルと結晶促進化六十四倍が併用できないため、めちゃくちゃ効率が悪い。

 

 最初は結晶化促進六十四倍とフラガラッハで挑むことになる。

 ボス部屋の出入りに使用するワープは、一人で短距離の移動なので、MP回復なしでもおそらく二、三十往復は行けるだろう。

 そして、MPが少なくなったら、結晶化促進三十二倍とデュランダルにスイッチする。

 数匹狩ればMPは満タンなはず。そしたらまた持ち替えだ。

 キャラクター再設定を行う時間が必要だし、デュランダルを出している間は結晶化促進の効果は半減する。

 

 しかし、それでも十万ナールの黄魔結晶を作るのに、丸二日かかるということはないだろう。

 今日の午後と明日一日でいけるはず。

 

 ……よし。やるか。

 白魔結晶を目指す本番へ向けて、ボスマラソンを試すいい機会だと思えばいいんだ。

 問題ないない、ナイチンゲールだ。

 

 そうと決まれば、ボスは何を狙うべきか。

 

 本当なら、一個八十ナールで売却可能なリーフを残すウドウッドを狙いたいところだ。

 それに、一日半でドロップする程度なら、生薬生成で毒消し丸を作って売りさばいたとしても、問題にならないだろう。

 複数のギルドに分散すれば相場を荒らすようなことはないはず。

 正直めちゃくちゃそれをしたい。

 

 しかし、ベイルの一階層は人が多いし、クーラタルの八階層だと、そこまで行くのに時間がかかる上に、フラガラッハでは絶対にワンパン出来ないだろう。

 他の迷宮でウドウッドを探すのもなぁ。

 

 フラガラッハでもワンパンで倒せるくらい弱く、しかも不人気で人が寄り付かないボス。

 ……やはり、ベイル三階層のコボルトケンプファーが安定か。

 

 よし。今回はこいつにしておいて、本チャンではしっかり吟味しよう。

 

 コボルトケンプファー! キミに決めた!

 

 

 

 考えがまとまったところでロクサーヌに声をかける。

 

「ロクサーヌ。オークションに参加したせいで想定外の出費があったから、今日の午後と明日一日は、連続でのボス狩りをしようと思う」

「かしこまりました。私は人が来ないか確認をすればよろしいのでしょうか?」

 

 さすがロクサーヌ、察しがいいな。

 

「うん。退屈な作業をさせてしまうだろうけど、よろしくね」

「おまかせください。ご主人様の秘密を守るため全力を尽くします」

 

 本当にめちゃめちゃいい娘だわ。

 

「それじゃあ、ボチボチ行こうか」

「はい」

 

 抱きしめていたロクサーヌの体を離してソファーから立ち上がり、そのままリビングを出た。

 

 

 

 準備を整え玄関でロクサーヌを待つ間にボーナスポイントの見直しだ。

 MP回復速度二十倍を結晶化促進六十四倍に付け替える。

 フラガラッハは迷宮で出せばいいので、必要経験値十分の一はそのままにしておこう。

 

 悩ましいのは残っている16ポイントを何に振るかだ。

 候補としては最大MP上昇が付いているメギンギョルズ。もしくは敏捷二倍と移動力増強を持つタラリア。

 どちらの方が効果的なのか……。

 

 うーん……。

 

 あ、フォースジョブをサードジョブに、それから詠唱省略を詠唱短縮に落として6ポイントを捻出し、余っている1ポイントと合わせて足装備三に振って、加速のブーツを出せばいいんだ。

 そうすれば移動力上昇に敏捷上昇、そして最大MP上昇を併用することが出来る。

 現時点のボーナスポイントではこれがベストかもしれない。

 

 んじゃ、ロクサーヌが来る前に装備しておこう。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 メギンギョルズを腰に巻き、靴を履き替えるとロクサーヌが現れた。

 

「大丈夫。全然待ってないよ。じゃあ、ロクサーヌが靴を履き替えたら迷宮へ行こう」

「はい」

 

 彼女はサンダルと竜革の靴を履き替えていると、俺の靴がいつもと違うことに気付いたのだろう。不思議そうに問いかけてくる。

 

「ご主人様。それはブーツではないのですか? 硬革の靴より劣る装備のはずですが……」

「ああ、この前確認したボーナス装備の加速のブーツだよ。こいつには移動力上昇と敏捷上昇とがついているからね。少しでも時間短縮を図るために履き替えたんだ」

「なるほど、そういうことだったのですね。さすがご主人様です」

 

 さて、準備も整ったしそろそろ行くか。

 

「ワープ」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に一番近い小部屋から待機部屋へ移動し、パーティーを解散してからロクサーヌに声をかける。

 

「これから連続でボスを狩っていくが、最初の一回目は秒数を数えてくれるか?」

「おまかせください」

 

 加速のブーツの効果があるのか確認しておかないとな。

 タイムにたいした違いがなければ経験値の方に振ることにしよう。

 

「では、行ってくる」

「はい。ご主人様、お気をつけて」

 

 ロクサーヌの声を聞きながら呟いた。

 

「ワープ」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋へ出た途端に、フロア中央に集まる靄へ向けて早足で歩き出す。

 すると、その速度は明らかに通常時とは異なっていた。

 システム的にはもう戦闘状態に入ったことになっているのかもしれない。

 そのまま歩き続け、鑑定に反応があったため、フラガラッハでぼんやりと浮かび上がる影を薙ぎ払う。

 

 そして、そのままドロップアイテムを拾い、壁へ向かい歩きながら呟いた。

 

「アイテムボックス」

 

 開いた空間へコボルトフラワーを放り込み、近づいてきた壁に向かって呟く。

 

「ワープ」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋へ戻ったところで、大急ぎでロクサーヌに確認した。

 

「今のタイムは!」

「八十八秒でした」

 

 その報告を聞くと少し微妙な気持ちになってしまう。

 

 いや、確かに七秒刻んだのはすごいんだけど、うーん……。

 七秒かぁ。正直思ったほどではなかったな。

 

 

 

 ……まあいいや。七秒が積もり積もって数時間の短縮につながるかもしれない。

 このまま行こう。

 

「この後は、待機部屋へ戻るとロクサーヌの方を見るので、人が近づいてきたら声に出して教えてくれ。あとは、夕方になったときもだな」

「かしこまりました」

「では、頼む」

 

 見つめ合って頷くと、ワープゲートへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 ボス部屋の周回を続けているうちに、MPが残り少なくなったため、キャラクター再設定を行いデュランダルに持ち替える。

 ボーナスポイントの振り分けを行いながらも、正直頭の中は不安でいっぱいになっていた。

 

 これかなりきついぞ。

 まだ二十回もやっていないのに、もう最初の速さが出なくなっている。

 間違いなくタイムは落ちていることだろう。

 八十八秒はあくまでもファステストラップであり、常にこの速度を維持できるわけがなかった。

 このあとは遅くなる一方だろうな……。

 

 

 

 あれから何度もフラガラッハとデュランダルを持ち替え、周回を繰り返す。

 ボス部屋に入ると、今出せるマックスのスピードで歩き、剣を振り、ドロップアイテムを拾うために腰をかがめ、再び歩いてワープゲートを開く。

 この一連の流れを繰り返すたびに、ダメージと疲労が体に蓄積されていくのを感じる。

 そして、肉体的な辛さに加え、ずっと同じことを繰り返していることで生じる精神的疲労も半端ない。

 いつもの迷宮探索がどれだけ恵まれていたのかを理解させられた。

 

 しかし、待機部屋に戻るたびに、彼女が向けてくれる笑顔のおかげで作業を続けることが出来ている。

 そこにいるだけで俺に活力を与えてくれるロクサーヌの存在が、本当にありがたく心強い。

 

 

 

 

 

 肉体的にも、精神的にも疲労を抱えながら作業を続けていると、ロクサーヌに声をかけられる。

 

「ご主人様。そろそろ夕方です」

 

 夕方?

 ああ、やっと終わった……。

 

 

 

 ……俺は白金貨を目指してこれを十日以上続けるつもりだったのか。

 今考えると、我ながらどうかしているな。

 

 連日同じことを繰り返すのは絶対に無理だ。頭がおかしくなっちまう。

 やるなら午前か午後のどちらか。もしくは、一日おきにしておくべきだろう。

 

 なんなら、効率的になしだとおもっていた、通常の魔物四匹を結晶化促進六十四倍で倒していくプランの方がまだマシかもしれん。

 そのくらいこの作業はきつい。

 しかし、今回は明日まで続けなければいけないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却を済ませ、アランの館を確認し、食材を購入し自宅へ戻る。

 体が悲鳴を上げているものの、ロクサーヌに愛想を尽かされないため修行に励んだ。

 そして、夕食を取った後は風呂に浸かって疲れを癒す。

 

 ベッドに入った後も体が休息を求めていたのか、三度目の精を放ったところでいつの間にか眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 今日も早朝からボスマラソンを行う。

 朝食、昼食を挟みひたすら周回を続けていると、ロクサーヌからストップがかかる。

 

「ご主人様。誰か来ます」

 

 遂にきたか。

 それにしても、丸一日以上ずっとここに陣取っているが、これでようやく一組目だ。

 コボルトケンプファーよ。君は一体どんだけ不人気なんだい?

 

 念のために抜き身のフラガラッハをポイントに戻し、体を休める。

 

「はぁ」

 

 疲労のせいか、力を抜いたとたんにため息が漏れた。

 それを聞き申し訳なさそうな表情でロクサーヌが呟く。

 

「ご主人様……。お疲れですよね……。私が代われたらいいのですが……」

 

 

 結晶化促進は自分にしか効果がないので、他の人に代わってもらうわけにはいかないからなぁ。

 

「大丈夫だ。ロクサーヌのその気持ちだけで、やる気が戻ってきた」

 

 始める前の魔結晶に魔力がどのくらい貯まっていたか不明な上、途中で狩った数もわからなくなっている。

 だが、おそらくもう少しで終わるはずだ。

 向かってくる奴らをやり過ごしたら、ラストスパートといこう。

 毎回リュックを開けて確認するのは面倒だから、ボーナスポイントの振り分けをするタイミングで確認してみるか。

 

 

 

 ロクサーヌと話をしながら体を休めていると、六人組の男たちがやってきた。

 

「あんたたちは並んでないのか?」

 

 俺たちが扉の前に立っていないのが気になったのだろう。その中の一人が話しかけてくる。

 

「ああ、ここまで急いできたのでな。少し休憩をしてから挑むつもりだ」

「そうなのか」

 

 男たちは頷き合うと、俺たちから少し距離をとってブリーフィングを始めた。

 コボルトケンプファーでも打ち合わせをするんだな。

 

 全員レベルが一桁で魔法使いがいない上に、装備品は貧弱でスキルもついていない。

 見るからに初心者といった出で立ちなのだ。慎重に挑むつもりなのだろう。

 

 まあ、実際は間違いなく俺の方が初心者なんだろうけどさ。

 

 

 

 しかし、こいつら打ち合わせをしながらも、ロクサーヌの方をチラチラ見てやがる。

 元々彼女は美人でかわいくスタイル抜群のため見られていることが多かったが、石鹸で体を洗い、髪のケアをしだしてから、さらに人目を引くようになったよなぁ。

 

 だが、俺のロクサーヌだ。見るのは許しても触れることまかりならん。

 

 

 

 ボス戦前の打ち合わせだというのに、気もそぞろといった様子で、ずっと彼女を気にしている。

 こいつら大丈夫か? なんか嫌なフラグが立っている気がするぞ。

 次のアタックでボス部屋に彼らの装備品が転がっているのを見てしまったらテンションが落ちてしまう。

 俺のロクサーヌを見続ける不届き者たちだが、無事に切り抜けてほしいものだ。

 

 

 

 打ち合わせを終えるとこちらに声をかけてくる。

 

「じゃあ、お先に」

「ああ、頑張ってくれ」

 

 扉が開くと、全員もう一度目に焼き付けるようにロクサーヌをガン見した後、ボス部屋へと消えていった。

 

 

 

「なんか、めちゃくちゃロクサーヌを見ていたな」

「ええっと、あの、はい」

 

 普段は人の目をあまり気にしない彼女でも、さすがにあれだけ凝視されると戸惑うようだ。

 そりゃそうだ。いくらなんでもあれは見すぎだわ。

 

 

 

 扉の前に立ちロクサーヌとしゃべりながら待っていると、程なく大きな音を立てて開いた。

 

「では、続きに行ってくる」

「はい。ご主人様、お気をつけて」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋に入ると念のためあたりを見回す。

 

 良かった。フロア内に装備品が散乱しているようなことはなかった。

 やはり、以前にもこういうことがあったが、たとえファンタジックな世界だろうと、現実ではそうそうフラグ回収なんて起きないのか。

 まあ、そうだよな。

 

 

 

 さて、気を取り直してルーティーンをこなすとしよう。

 そのまま中央に移動し、確認できた影をフラガラッハで斬りつける。

 コボルトケンプファーの体が霧散し、ドロップアイテムを拾うためにかがんだところで、鑑定にこれまでとは違う情報が現れた。

 

スキル結晶 コボルト

 

「きたーーーー!!!!」

 

 ヤベー! これマジか! うわー! ヤベー! マジでヤベー!

 

 一気にテンションが上がり、疲れなんかどこかへ吹き飛んでしまう。

 スキル結晶を拾い上げ、手のひらにあるそれを見つめていると、何とも言えない達成感が湧いてくる。

 自引きする機会なんて、そうそうないはずだ。我ながらなんと幸運なのだろう。

 

 ああ。この瞬間の喜びをロクサーヌと分かち合いたかったなぁ。

 

 

 

 さて、このまま喜びに浸っていたいところだが、さっさと戻らないと待機部屋に人が来てしまうかもしれない。

 それに、ロクサーヌにも早く知らせたいからな。

 

 壁に移動し展開したワープゲートへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 待機部屋に戻ると、こちらを見つめているロクサーヌに近寄って告げる。

 

「ロクサーヌ! スキル結晶を手に入れた!」

 

 思わず大きな声が出て彼女を驚かせてしまう。

 一瞬体をビクッと震わせ驚いたような表情を浮かべたが、意味を理解したのだろう。すぐに笑顔で声を上げた。

 

「こんなにも早くご自分の力でスキル結晶を手に入れるなんて、さすがご主人様です!」

 

 さすがかどうかはわからないが、俺もこんなに早く自引きが出来るとは思ってもみなかった。

 昨日のオークションといい、幸運に恵まれすぎだ。

 揺り戻しがないか不安になってしまうぞ。

 

 

 

 一頻りロクサーヌと喜びを分かち合うと、ボスマラソンを再開する。

 このスーパーハイテンションでスパートをかけて作業を終わらせよう。

 

 

 

 フラガラッハからデュランダルへの持ち替えを二度挟み、再びフラガラッハで周回を続け、MPが心許なくなってきたところでキャラクター再設定を開き、ボーナスポイントの振り分けを行う。

 

 そして、念のためリュックを確認すると、知らないうちにゴールテープが切られていた。

 

 恐る恐る、黄色い輝きを放つそれを掴みリュックから出してみる。

 

 

 

 黄魔結晶だ……。

 やった! やり遂げたぞ!

 

 この喜びをロクサーヌにも伝えなければ!

 

「ロクサーヌ! 遂に黄魔けっ——」

「たった一日半でこのようなことを成し遂げるなんて! ご主人様! すごいです!」

 

 話しかけようとした俺の声は、黄魔結晶を見つめながら上げた、ロクサーヌの歓声にかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv25 英雄Lv21 魔法使いLv24

装備 聖剣デュランダル 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 加速のブーツ メギンギョルズ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

鑑定:1

詠唱短縮:1

ワープ:1

結晶化促進三十二倍:31

アクセサリー四:15

足装備三:7

武器六:63

 

所持金:87,559ナール

 

春の10日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。