異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

66 / 300
065 イメージ

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮三階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

「さすがご主人様です! やはり、ご主人様はいずれ大きなことを成し遂げるお方なのでしょう!」

 

 あ、はい。

 

 自分よりずっと興奮している人を見ると、少しだけ引いちゃうのはどうしてなんだろうな。

 

 

 

 多少の温度差はあったものの、しばらく喜びを分かち合ったところでロクサーヌに尋ねる。

 

「今の時間はどのくらいになるだろう?」

「まだまだ、夕方までは時間があると思います」

 

 そうなのか……。

 でもなぁ。今から六階層のボス部屋を目指して探索を始めるのは厳しい気がする。

 今は黄魔結晶を手に入れた興奮で疲れが飛んでいるが、通常の探索を行っているうちに、それもすぐに戻ってくるだろう。

 そうなれば、取り返しのつかないミスを犯してしまうかもしれない。

 ミチオ曰く、まだはもうなりだ。

 

 

 

 ……よし。今日はこのまま終わりにしよう。

 

「ロクサーヌ。まだまだ早いようだが、連続でのボス狩りはさすがに疲れた。今日はここまでにしておこう」

「はい。本当にお疲れ様でした」

 

 それじゃあ、MPの回復をしてから帰るとするか。

 

 

 

 

 

ベイル

探索者ギルド

 

 

 

 

 

 ワープで移動したベイルの探索者ギルドは、いつものように閑古鳥が鳴いている。

 しかし、それでも探索者らしき数人が張り紙を確認しているのが見えた。

 

 くそー。あいつらさっさと出て行かないかなぁ。

 

 ギルドに来てから、心臓の鼓動がだいぶ早くなっている。

 十万ナール以上の売却を見られると狙われるような気がして、どうにも緊張が収まらない。

 考えすぎだとは思うが、念のためギルド職員以外には見られないようにしておこう。

 

 

 

 まんじりともせず待っていると、張り紙を見ていた者たちは、俺にはわからない言葉で話し、頷き合いながらギルドを出て行った。

 

 よし、行ったな。

 それじゃあ、さっさとやることを済ませてずらかろう。

 

 ……本来ここまでコソコソする必要はないはずなのに、どうしても人の目が気になってしまう気の小ささに我ながら呆れてしまうな。

 

 おっと。一応念のために、ちゃんと三割アップが付いているかを確認だ。

 うん。オッケーオッケー。

 では、行くか。

 

 

 

 誰も並んでいないカウンターへ進み、買取依頼だと伝えると、いつものように受付嬢がトレーを出してきた。

 原作でミチオがやっていたようにまずは黄魔結晶を置き、それを他のドロップアイテムで覆い隠す。

 

 あ、これはまずいか?

 ドロップアイテムはほとんどコボルトフラワーで、それ以外は最後にMP回復のために狩った分が数個だ。

 

 毎日ここで売却を行っているため、最長でも一日で狩った分だと推察されてしまう。

 いくらなんでも、この数のボスを一日で狩っているのは不自然だ。

 

 

 

 ……ん?

 ああ! もうすでにやらかした後だ!

 

 昨日既にここで大量のコボルトフラワーを売り払っているし、お昼にはクーラタルの冒険者ギルドでも同じことを行っている。

 

 やばい。どうする? どうするべきだ?

 

 

 

 ……落ち着け。大丈夫だ、落ち着け。

 冷静になって自分に言い聞かせる。

 

 俺は仲の良い他のパーティーから、ついでに売却するようお願いされてギルドに来ているだけだ。

 なにもおかしいことはない。

 

 そうさ、俺は誰とでも仲良くなれるパリピであり、ザギンでシースーを食ったり、ディスコでフィーバーする類の、コミュ力だけで人生を渡っている男なのだ。気軽に頼まれ事もされるさ。

 

 そうだそうだ。そういうことだってあるはずだ。

 全然、まったく、これっぽっちも不自然な点は見当たらない。

 

 

 

 頭をフル回転させていると、いつの間にか受付嬢が硬貨を載せたトレーを持って戻ってきたので、それを大急ぎで確認する。

 

 ある! 金貨が十三枚だ!

 よし、アイテムボックスに放り込んだらとっとと退散しよう。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 アランの館の確認を行ってからクーラタルへ戻り、歩きながら考える。

 

 今日も盗賊の姿は見当たらなかった。

 おそらく原作の十二日より前には現れないと思うが、念のため夕方にもう一度確認に行ってみよう。

 探索を切り上げた時間が早かったせいで空振りしている可能性があるからな。

 もし、この後見張りが現れて、商館が襲撃されるようなことがあったらシャレにならない。

 

 

 

 店で買い物を行いながら、さらに思索に耽る。

 

 ……それにしても一日半で金貨十三枚か。

 かなりきつい作業だったが確実にそれ以上のリターンが見込める。

 ただでさえこの世界の金銭感覚が身についていないというのに、その感覚が吹き飛びかねないほどの壊れっぷりだ。

 これに慣れてしまうと、今以上に金遣いが荒くなりそうで正直怖い。

 

 やはりボスマラソンはいつまでも続けられることじゃないな。

 待機部屋へのワープを見られてしまう可能性や余剰人員の問題だけではなく、黄色や白の魔結晶を過剰に売却することでギルドに目を付けられるリスクがつきまとう。

 

 これについてはセリー加入前に白金貨を作り、それ以降は自重しよう。封印指定だ。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 風呂を沸かしていると、思わずため息が漏れてしまった。

 今日の修行でもロクサーヌは余裕そのもので、オーバーホエルミングを使った俺の攻撃を軽々と対処していた。

 

 人知を超えた速度で動いているはずなのになぜか捕捉しているし、フェイントをしかけてもまったく引っかからない。

 マジでどうすればいいんだろうなぁ。

 

 

 

 ええい、やめやめ。

 考え込んでもどうにもならない。このまま地道に努力を重ねて俺が強くなるしかない。

 一年後になるか五年後になるか、それとも十年後なのかはわからないが、いずれレベル差が開き、複数ジョブによる補正効果も大きくなっていくことだろう。

 そうなれば、身体能力の差でなんとかなるはずだ。

 きっと、たぶん、おそらく、だといいなぁ……。

 

 

 

「ふぅ」

 

 口から一つ息を吐き、風呂を沸かす作業を続ける。

 さて、水がめに貯まっている水をお湯にしよう。

 

 ファイヤーボールを放つ際になんとなく指パッチンをしながら念じてみた。

 

ファイヤーボール

 

 左手の親指と中指をはじくと、バスルームに良い音が鳴り響き、それに合わせて発生した火球が水がめに着弾する。

 

 おお! すげー気持ちいい!

 めちゃくちゃマスタング大佐っぽいな!

 

 ……待てよ。あれができるかも。

 

 

 

 大急ぎで庭に出ると、胸元に手のひらを持ってくる。

 

 よし、いくぞ!

 

 パンっと手を合わせ、それを離して両手のひらを地面に付けて念じた。

 

サンドウォール

 

 すると、数メートル先に砂の壁が吹き上がる。

 

 おお! これはすごい! 手合わせ錬成が出来ちゃったよ!

 まるで錬金術師になったみたいで興奮するな。

 

 ん? あ、数日前から錬金術師だったじゃん。

 

 

 

 さて、次は俺の幼いころからの夢、いや全男子のあこがれであるアレをやってみよう。

 

 足を肩幅に開き、両手首を合わせながら声を出す。

 

「か~」

 

 その手を腰の方に移動させながら続きを口にした。

 

「め~」

 

 さらに手を動かしながら続けていく。

 

「は~」

 

 手を腰の後ろに持っていき、そこに気を溜めるイメージを浮かべる。

 

「め~」

 

 両手を前に突き出し、大声で叫びながら念じた。

 

「波っ!!!!」

 

ファイヤーボール

 

 手首を合わせた手のひらから打ち出された火球はグングン進み、川に着弾すると音を立てて消えていった。

 

 あれ、なんか思ったのと違うな。

 かめはめ波はビームっぽく手から出続けるもんだ。これだと繰気弾になっちまう。

 

「うーん……。違うんだよなぁ」

 

 別に繰気弾が悪いわけじゃないんだが、俺が撃ちたいのはあくまでもかめはめ波なのだ。

 

「あの、ご主人様? なにをなさっているのですか?」

 

 声が聞こえた瞬間、思わず体が跳ねてしまう。

 

 ヤバい! 見られた!

 

「えっと、なに?」

 

 不思議そうにこちらをうかがうロクサーヌの質問に、質問で返してしまった。

 

「いえ、あの、魔法を使っていらしたので、なにをなさっているのかなと……」

 

 やめてー! そこはスルーしてよ!

 

「あれ、あの、そう。風呂を沸かしながら、修行をするときに魔法の使い方を工夫できないかと考えていたら、ちょっとしたアイデアが思い浮かんだから試していただけなんだ」

「なるほど。そういうことだったのですね。さすがご主人様です」

 

 そう言うと、彼女はとても優しい表情を浮かべている。

 

 いやー! そんな顔で俺のことを見ないでー!

 

「それじゃあ、俺は風呂を沸かす作業に戻るね」

 

 恥ずかしさをごまかしながら急いで戻ろうとして、ロクサーヌの前を横切ったときに声をかけられる。

 

「ご主人様。とてもかわいらしかったです」

 

 な!

 バッと振り向き顔を確認すると、そこにはいたずらっぽい表情が浮かんでいた。

 

 こ、こやつ。俺が恥ずかしがっていることに気付いておった。

 あえて泳がせた上でからかうとは……。

 

 ロクサーヌ……、おそろしい子!

 

 

 

 バスルームに戻り、風呂を沸かす作業を再開しながら考える。

 

 言い訳で修行のための工夫といったが、実際ヒントになるのではないだろうか。

 これまでは、オーバーホエルミングや歩雲履、それから魔法等を使ってはいたものの、地球の格闘技を想像して攻撃を行っていた。

 

 だが、ここは訳の分からない能力が使える世界なんだ。それに囚われる必要はない。

 

 これまでの人生で見てきた漫画やアニメ、ゲームで培ってきたイメージを活かすべきだ。

 

 この気づきは、後々大きなターニングポイントとなっているのかもしれない。

 いや、もしかしたらこれこそが俺の覚醒イベントだった可能性があるな。

 恥ずかしい思いをした甲斐があるというものだ。

 

 

 うっしゃ。なんかやれそうな気がしてきた。

 ロクサーヌ! 明日の俺は一味違うぞ!

 

 

 

 その後、MP回復のタイミングでアランの館に立ち寄ってみたが、やはり盗賊を見かけることはなかった。

 そして、夕食をとり、風呂で疲れを癒してから寝室でロクサーヌと口づけを交わす。

 

「ご主人様。この二日間、本当にお疲れさまでした」

「ロクサーヌの方こそお疲れ様。ただ待っているだけの退屈な時間だったはずなのに、ずっと気を張り続けて大変だったでしょ?」

「いいえ。ご主人様のご苦労に比べると、私の役割など大したことはありません」

 

 そう言うとロクサーヌは俺の背中に回していた手をゆっくりと動かし、撫で始めた。

 

「あの、ご主人様の疲れを癒すために、マッサージをさせていただけませんか?」

 

 マッサージ……。

 好きな女性にマッサージで労わってもらえる。

 俺の人生にこんなことが起こるなんて想像もできなかった。

 

「ありがとう、ロクサーヌ。それじゃあ、お願いしてもいいかな」

「はい! おまかせください!」

 

 

 

 ロクサーヌは俺の手を引いてベッドへ仰向けにすると、ゆっくり肩をもみ始めた。

 

 あー。きもちいいんじゃー。

 全身の力が抜け、無意識に口が開いてしまった。

 

「ご主人様。痛みはないですか?」

「大丈夫。めちゃくちゃ気持ちいいよ」

「ふふ。喜んでいただけたようで、嬉しいです」

 

 そのまま背中、腕、腰、ふくらはぎと全身揉みほぐされ、あまりの気持ち良さに身も心もロクサーヌに委ねてしまう……。

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 目が覚めると、腕の中に温かく滑らかで心地よい手触りを感じた。

 そして、気分も爽快で自分でも驚くほど、目覚めた直後からやる気に満ちている。

 

「おはようございます、ご主人様。疲れは残っていませんか?」

 

 俺が起きたことに気づき、ロクサーヌが朝の挨拶をしてくれた。

 

「おはよう、ロクサーヌ。ロクサーヌがしてくれたマッサージのおかげで、疲れは全然残ってないよ」

「ふふ。それは良かったです」

 

 俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑いながら答えたが、すぐに残念そうな声で言葉を続ける。

 

「喜んでいただけたのは嬉しいのですが、そのままご主人様がお休みになって、お情けをいただくことが出来なかったのは残念です」

 

 それを聞いた途端に思いっきり抱きしめてしまう。

 なんて嬉しいことを言ってくれるんだ!

 

「確かに俺もそれは残念だよ。今日はたくさんかわいがってもいい?」

「はい。昨日の分も合わせていっぱいかわいがってくださいね」

 

 まったく。こんな殺し文句を放つなんて、君はどれだけ俺を虜にするつもりなんだい。

 

「そうだね。何度も一つになろうね、俺のかわいいロクサーヌ」

「よろしくお願いします。私の素敵なご主人様」

 

 

 

 一頻りイチャイチャしたところで今日の予定を伝えて、その後は身だしなみと装備を整え、玄関でワープゲートを開く。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

六階層

 

 

 

 

 

 迷宮に移動したところでキャラクター再設定を開き、ワープのチェックを外して結晶化促進二倍を付けておく。

 そして、ポイント振りが終わったところで腰のロッドを引き抜いた。

 六階層はロッドで1確できていたからな。

 このまま使い続けて、こいつで1確できる上限階層を確かめてみよう。

 そうすれば、スタッフとの性能差もわかるはず。

 

 よし、それじゃあ六階層のボス部屋探しを再開だ。

 

 

 

 今日も恙なく探索を行っていく。

 MP回復を挟みながら、二回目の魔法攻撃での探索をしていると、ロクサーヌからパン屋の開店時間を告げられたので、次の小部屋まで進み、きりの良いところで探索を終える。

 

 その際に鑑定で確認すると魔法使いのレベルが上がっていた。

 昨日一昨日と必要経験値十分の一を外していたが、それを戻してすぐにレベルアップをしているのを見るに、影響はなかったと考えていいのだろうか?

 それとも、影響はあったがその上でこの結果なのか?

 

 うーん……。いまいちわからない。

 まあ、気にしたところで結論は出ないか。いつものように棚上げってことで。

 

 

 

 朝食と休憩をとると、迷宮に戻り探索再開だ。

 

 早朝と同じように魔法で戦い、MPが少なくなるとデュランダルに持ち替え回復を図る。

 ルーティンワークのようにこなしているが、心身にかかる負担はボスマラソンに比べるとだいぶマシだ。

 常に全力で歩き、まったく同じ動作を繰り返すことは、あんなにも疲れるものだったんだなぁ。

 俺はジャスタウェイ工場に採用されても、坂田さんみたいに手際よく作業を行うことはできそうにない。

 

 

 

 とりとめもなく考えながら魔物を倒していると、突き当りの小部屋へたどり着く。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮六階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

「ロクサーヌ、ここは待機部屋だろうか?」

「壁の向こうから魔物の匂いが漏れてきませんので、魔物部屋ということはありません。その可能性が高いでしょう」

 

 よし。それじゃあキャラクター再設定を済ませたら、ボス部屋へ入ろう。

 

 おお! ポイントが1余っている! 探索者のレベルが上がったのか!

 そんじゃ、鑑定っと。

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv26 英雄Lv21 魔法使いLv25 戦士Lv23

装備 ロッド 鋼鉄の盾 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

 よし! よし! 順調順調!

 この調子でガンガンレベルを上げていけば、ハルツ公領の災害救助までに冒険者になれる可能性があるな。

 そうなれば誰はばかることなく、お天道様の下を歩けるってなものだ。

 

 一応念のため鑑定っと。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

戦士Lv12

装備 レイピア ダマスカス鋼の盾 ダマスカス鋼の額金 竜革のジャケット 硬革のグローブ 竜革の靴

 

 うん。まあ、そりゃそうだよな。

 

 

 

 さて、1ポイントの余裕が出来たのだ、ポイント振りを見直さなければ。

 今は、戦士と僧侶をすぐに入れ替えるためジョブ設定を付けているが、これを外せば2ポイントが余り、結晶化促進を四倍にすることが出来る。

 

 手当てを使うのに工数が増えることは不安だが、なにかあったときは滋養錠でしのごう。

 それに、今でも僧侶を外しているので即座に手当てを使うことが出来ないんだ。大きな影響はないはず。

 

 あとは、オーバーホエルミングを使うからな。鑑定を外して詠唱短縮に振っておこう。

 

 では、キャラクター再設定も終わったし、ボスに挑むとしますかね。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv26 英雄Lv21 魔法使いLv25 戦士Lv23

装備 聖剣デュランダル 硬革の帽子 硬革の鎧 技工の革グローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

アクセサリー四:15

結晶化促進四倍:3

腕装備二:3

武器六:63

詠唱短縮:1

 

所持金:218,838ナール

 

春の11日目

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。