異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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007 目標

 

 

 

 

 

ソマーラの村

ソマーラの家

 

 

 

 

 

 目が覚めると薄暗い部屋にいた。

 どんなに暗くても普段なら何かしらLEDの光が目に付くはずだが一切見当たらない。

 

 よかった。夢じゃない。

 

 昨日は日中の疲れからかすぐに寝てしまったのでかなり早く目が覚めたようだ。

 いや、疲れもそうだが娯楽がないせいもあるだろう。

 たとえ疲れていてもスマホがあればグダグダいじり続けて寝るのが遅くなっていたはずだ。

 

 ああ。今日はロクサーヌと会える。

 早く目が覚めたのは興奮で気持ちが高ぶっているせいもあるのかもしれない。

 

 何かやり残したことはないか?

 ボーナスポイントの設定は昨晩で済ませた。

 荷物は洗濯をしてもらったもの以外は全て両方のリュックに入れてある。

 

 何気なくあごに手をやり生えかけのヒゲをジョリジョリ擦りながらふと気づく。

 ヒゲめっちゃ濃いじゃん! カミソリを持ち込んでない!

 転移の準備をしているときにはなるべく落ち着いて事を運んだつもりだったが改めて考えると全然冷静ではなかった。

 文具と手鏡それに爪切りはいいとして泡立て器って……。

 他に必要なものはいっぱいあっただろうに……。今後も後悔するんだろうな。

 

 十八歳のころにはもうヒゲを剃っていたし、数日剃らないと無精ヒゲボーボーで見苦しくなるのにどうしよう?

 今日ベイルの市でヒゲ剃り道具を探してみるか。

 おそらくこの世界にT字カミソリはないだろう。ましてや電気シェーバーやシェービングフォームは絶対にない。

 これはなかなかにきついぞ。

 

 

 

 考え事をしていると催してきた。

 薄暗い部屋を出て既に起きていた村長に一言断りトイレへ行く。

 

 

 

 ……俺はこれに慣れることができるのだろうか。

 

 用足しから戻ると村長が声をかけてきた。

 

「アユム様、こちらが昨日洗濯した物になります。着ていらっしゃる服は差し上げますのでそのままお使いください」

 

 そう言うと服とタオルを差し出す。

 

「すまない。助かる」

「そろそろ出発する時間になります。準備はよろしいでしょうか?」

「ああ、荷物を取ってこよう」

 

 部屋に戻りジャンパーとポロシャツにジーパン、それからタオル二枚を村長からもらったほうのリュックに入れる。

 日本から持ってきたリュックを背負い、村長にもらったリュックは肩から掛け部屋を出た。

 

「またせたな」

「いえ、こちらは朝食になります。道中にお召し上がりください」

「ありがたくいただこう」

 

 受け取りそのままリュックに入れる。

 

「それからこちらがこの度アユム様にお世話になった謝礼でございます」

 

 村長から手渡された巾着袋を受け取るとずっしりと重い。

 人様からもらった謝礼金を目の前で確認するなんぞ下品極まりないがそんなことには構ってられない。すぐに中を開けて確認する。

 

 金貨がたくさんある! すげー! これ原作の十五枚超えてんだろ!

 

 ……十八、十九、二十。二十枚!

 二十万ナール!? マジか!

 

「十九名もの盗賊をお一人で倒され、また村に潜んでいた裏切り者を見つけ出していただき誠にありがとうございました。些少ではございますがお納めください」

「こちらこそ世話になった」

 

 うわー。テンション上がるー!

 念のためもらったリュックの奥にしまい込む。

 そして村長の後に続き家を出た。

 

 

 

 

 

ソマーラの村

村はずれ

 

 

 

 

 

 村はずれまでくると馬車があり荷台には無数の荷物と檻が置かれている。

 あの檻小さくね? 男二人を入れたらギチギチで身動き一つとれないんじゃないか?

 

 何やら準備をしていたビッカーがこちらに気づき挨拶をしてくる。

 

「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか」

「おはよう。程よい疲れがあったからかよく眠れた」

 

 程よいどころじゃないけどな。マジで昨日は激動の一日だったわ。

 文字通り生まれて初めての体験ばかりだった。

 手を出す喧嘩をした経験すらないのに殺し合いをしたり森の中を歩き回り狩りをしたりな。

 普段寝つきはいいほうではないのに昨日はぐっすりだったわ。

 迷宮に入ることを生業にしていくと考えれば今後はこれが俺の日常になっていくのかもしれない。

 

「来ましたな」

 

 ビッカーとあいさつを交わしていると村長がつぶやいた。

 手枷をつけられた男が二人連れてこられ檻の中へと入れられる。

 うっわ。めっちゃくちゃ密着してるよ。

 あの状態で馬車に揺られながら移動とか地獄やんけ。

 

「この二人をベイルの奴隷商に売却いたします。こちらが紹介状になりますので奴隷商人にお渡しください。昨日話した通り売却金は全てアユム様の物となります」

「うむ。ありがたく受け取っておく」

 

 村長の言葉にお礼を返し紹介状を受け取ってリュックの中に入れる。

 マジで助かるわ。本当にありがとう。

 

 

 二人合わせて六万ナール。三割アップで七万八千ナール。

 先ほど村長からもらった謝礼金が二十万ナール

 そして懸賞金が原作どおりなら十六万ナール以上。

 合計四十三万八千ナール!

 買える! ロクサーヌが買える! 今日買える!

 

 いいのかこれ!? 完全にRTA状態じゃねーか!

 

「さあ、そろそろ日も昇ります。出発しましょう。アユム様、御者席の隣にお座りください」

 

 ビッカーに促され馬車に乗り込むと村長が話しかけてきた。

 

「アユム様、この度は本当にお世話になりました。貴方様がいなければ今日という日を迎えることはできなかったでしょう。迷宮討伐を成し遂げ叙爵される日を楽しみにしております」

「こちらこそ世話になった。これからの村の発展を祈っている」

 

 完全に村長の中では俺が成り上がることになっているな。

 いやまあ、ルティナも手に入れるつもりだから目指すけどさ。

 これ噂が広まったりしないだろうな?

 

 村長と別れの挨拶を済ませるとビッカーが馬車を出し、ゆっくりと村から遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

ベイルへの街道

 

 

 

 

 

 どうしよう。よく知らない人と並んで馬車に乗って移動とか普通に気まずい。

 この世界のことは原作に出てきたこと以外は知らないことだらけだ。

 そんな状態で雑談をするとどんな地雷を踏んでしまうかわからない。

 

 この状況でやることといったらいつもの妄想シミュレーションだな。

 まさかこれが役立つ日が来るなんて思いもしなかった。

 グミスライムを見逃さないように注意をしながら妄想して時間をつぶそう。

 

 

 

 この後騎士団へ行き懸賞金を回収すれば手持ちが四十三万ナールを超え、そのままロクサーヌを購入することができるだろう。

 だが、その場合ミチオが懸賞金目当てで狩った盗賊を狩るべきかという問題がでてくる。

 金額はでかいが自分のペースで進めることができる迷宮と違い命の危険が大きい。

 そして、この派閥は俺が倒したウーゴの派閥を跡目争いで追放していた。

 ということはこいつらから復讐をされる心配はない。

 

 逆に後ろの檻にいる奴らの派閥は明確に俺を狙う理由がある。

 こちらについては残党が今どこにいるのか全然予想がつかないためアジトを襲撃するというわけにもいかない。

 本来なら兄弟が奴隷落ちをしてベイルの奴隷商に売られたことを告げたであろう男も一緒に奴隷落ちをしている状況だが、いつまでも連絡がつかないと不審に思い原因を調べるだろう。

 そして、少し調べればすぐに事情を把握するはずだ。

 時期は遅くなるかもしれないが奴隷商への襲撃は起こると思っていたほうがいい。

 そこで俺個人を狙われる前に片づけておくべきだ。

 まあもっとも、事前に襲撃を知っている状態だったにせよ商館の人間だけで対処しているのだ。俺がいなくても問題なさそうではある。

 しかし、自分のいた商館が賊に襲われたと知ったらロクサーヌは気にするはずだ。

 もし親切にしてくれたおばさんが死傷していたら気に病むことだろう。

 ロクサーヌには心健やかに過ごしてもらいたい。

 

 それに時期によってはセリーが在籍しているかもしれない。彼女に何かあったら取り返しがつかない。

 やはりこの一件には介入すべきだ。

 

 

 

 うーん。しかし、前者の盗賊を狩ると七万ナールか。

 それだけあればすぐにでも家を借りることができるんだよなぁ。

 

 このリュックの中身をずっと持ち歩くのは現実的ではない。

 原作ではベイル亭には鍵がかかるクローゼットがあり、さらに遮蔽セメントが使われているがそれでも貴重品を置かないように言われていた。

 宿に置いておくと盗難の可能性がそれなりにあるということだろう。

 そして、迷宮では邪魔になること間違いなしだ。動きが阻害され命を落とす危険性が高まるはず。

 自宅を確保すれば盗難の可能性をゼロにはできないが限りなく低くすることは可能だ。

 早いうちに金を工面することができれば懸念事項がなくなり迷宮探索に集中できる。

 

 よし。殺るか。

 

 ……いま完全に盗賊を金としか見てなかったな。どこのインバースさんだ俺は。

 

 ロクサーヌは鼻が利くし追跡にはもってこいの人材だ。協力してもらえれば一人で探すよりアジトを突き止める事が容易となるだろう。

 ウェブ版では盗賊レベル18の後をつけアジトを確認後に襲撃した。

 しかし、書籍版とコミック版はレベル9のやつと交渉し盗賊のバンダナを餌にアジトに案内させ始末している。

 後者の場合、そいつもこちらを襲って物を奪うつもりだったのだ。こちらが二人組だった場合、警戒してアジトに案内することはないだろう。

 そうなれば接触せずに後をつけて場所を確認した上で襲撃する必要がある。

 とりあえず娼館街をブラつき鑑定でレベル9か18の盗賊を見つけ出す。そして、ロクサーヌの鼻で気づかれない距離から追跡しアジトを突き止めた後は中が確認できればワープで踏み込む。確認できない場合はデュランダルでドアを切って侵入だな。

 デュランダルと強壮丸でMP回復を図りオーバーホエルミングの連続運用で始末する。

 

 やろうとしていることが完全に押し込み強盗のそれで我ながらドン引きだがこれでいこう。

 

 娼館街やスラムに美人がいたらそれだけで因縁をつけられる可能性が高まるだろう。

 ロクサーヌが居たら目を引くこと間違いなしだ。

 フード付きの外套を二人分用意して追跡するか。

 

 あー。となると今日はおあずけだな。

 原作では処女喪失後、翌日には迷宮探索をしていたがこちらはことに及んだ直後に追跡に出なければならないんだ。さすがにそれは無理をさせすぎだよなぁ。

 僧侶の手当てを使っても精神的な疲れは残るだろうからな。

 今日が童貞喪失の日とはならないか。

 

 まあいいさ。ロクサーヌが手に入りさえすれば焦ることはない。

 お互い初めてなんだ。家を手に入れてからゆっくりと夜を過ごす方がいい。

 それに宿でいたして隣の部屋にいる奴にロクサーヌのあられもない声を聞かれるなんぞ我慢できん。

 四十五年間全く機会がなかったんだ、あと数日延びるくらい余裕余裕。

 

 

 

 ……はあ。

 

 

 

 小腹がすいてきたので村長からもらった朝食を取り出す。

 ビッカーの朝食はどうなるんだろう。

 この状況で一人だけ食べるのは気まずいんだが。

 

「小腹がすいたのでな。村長からいただいた朝食を食べようと思うのだがビッカー殿はどうするのだ?」

「私は出発前に取っておりますので気になさらないでください」

「そうか、では遠慮なく」

 

 おし。さっさと食っとくか。

 

 

 

 パンがパサパサしていたため食い終わると喉が渇く。

 水筒を持っていないし、まさかペットボトルを水筒代わりに使うわけにもいかない。

 ここでウォーターウォールを使うことも出来ないし、ベイルの宿に行くまではしばらく我慢をしなくてはいけないか。

 

 

 

スローラビットLv1

 

 おっ。スローラビット発見。

 経験値稼ぎをしたいがここはスルーだな。

 

「スローラビットがいるな。追ってはこないのでそのまま通り抜けてしまうのがいいだろう」

「わかりました。このまま進めさせていただきます」

 

 道のわきにいたスローラビットの横を何事もなく通り抜けていく。

 

「確かにスローラビットでした。アユム様は目がいいのですね」

「まあ、悪くはないだろう」

 

 マジでな。日中はずっと仕事でパソコンに向き合い、帰ってからもスマホやパソコンをいじりっぱなし。

 それなのに視力は落ちていないし老眼の兆しもなかった。視力に関しては人並み以上だっただろう。

 まあ、今回は鑑定のおかげなのだが。

 

グミスライムLv1

 

 見つけた。こいつは狩っておかなければ。

 

「止まれ。グミスライムがいる」

「グ、グミスライムですか?」

 

 ビッカーは速度を徐々に落とし馬車を止めると提案してくる。

 

「本当にグミスライムがおります。危険ですので遠回りになりますが別の道からまいりましょう」

「いやその必要はない、俺が狩ってくるからここで待っていてくれ」

「アユム様、危険です。グミスライムは村人総出で当たっても犠牲を覚悟しなければならないほどの難敵です」

「大丈夫だ。任せておけ」

 

 脅かさないでくれよ。大丈夫だとわかっていてもそこまで言われたら不安になるやんけ。

 馬車を降りキャラクター再設定を開いて腕力上昇に振っていたポイントから3ポイント減らして詠唱省略をつける。そして、残ったポイントでデュランダルを出した。

 ……まあ、念のためね。危険が危ないだからね。ビビったわけじゃないからね。

 

オーバーホエルミング

 

 念じた途端に俺以外の動きがスローモーションになっている。

 引き延ばされた時間の中グミスライムへ駆け寄りデュランダルを振りぬく。

 すると、剣身が青い体を通り抜けた瞬間にまるで霧のように景色へ溶け始めた。

 

 おっしゃ! ワンパン! ビッカー見たか?

 

 うん。オーバーホエルミングを使っても英雄レベル4だとそれほど負担もないな。

 キャラクター再設定を開きデュランダルを買取価格三十パーセント上昇に変える。

 そして、ドロップしたスライムスターチを拾い馬車に戻る。

 

「とてつもない強さです! 目にもとまらぬ速さで動き気が付いた時にはグミスライムが倒れておりました!」

「出来すぎだったな。まさか一撃で倒れるとは思わなかった。自分で思っているより強くなっていたようだ」

 

 ビッカー頼むよ? アランに伝えてくれよ?

 

「アユム様、スライムスターチを拾われましたか?」

「ああ。これだ」

「どうでしょう。守っていただきましたのでお礼にギルドの買い取り額である四十ナールの十倍、四百ナールで買取させてはいただけませんか?」

 

 原作でも思ったけどお礼に十倍はすごいよな。

 

「うむ。では頼む」

「グミスライムを一撃で倒すというめったに見ることのできないものを見せてもらいましたので今回は特別に五百二十ナールでお引き取りいたします」

 

 リュックから昨日ビッカーにもらった方の巾着袋を取り出し、受け取った硬貨を入れて再びリュックへしまう。

 

「さあ、もうすぐベイルです。まいりましょう」

 

 そう言うと彼は馬車の歩みを再開した。

 

 そうか、もうすぐベイルか。

 もうすぐ会える。

 どうにも気持ちが落ち着かずロクサーヌのことだけを考えてしまいそうになるが、まだこなさなければならないことがある。キャラクター再設定をしながら少し心を落ち着けよう。

 

 大きく息を吐きだすと設定を開き腕力上昇に振っていた分を全て解除してジョブ設定をつける。

 ファーストジョブを戦士、サードジョブを魔法使いに替え自分へ向けて鑑定を掛けた。

 

田川 歩 男 18歳

戦士Lv1 英雄Lv4 魔法使いLv4 

装備 皮の鎧 皮の靴

 

 よし。とりあえずこれでインテリジェンスカードのチェックはしのげる。

 ボーナスポイントの振り分けはどうするか。

 このあと必要になるのは買取アップスキルと値引スキル。

 今日は夜の盗賊捜索までは戦闘の予定はない。それまではこのままにしておこう。

 

 あ、違うわ。

 盗賊を追跡するためロクサーヌに同行してもらうなら一緒にワープで移動する必要がある。そのためにはパーティーを組まなければならない。

 盗賊捜索前に探索者になっておく必要があるな。

 装備品を売却した後アランの館に戻る前に一旦迷宮に入り探索者のジョブを取得したほうがいいか。

 それとも重要な物と四十万ナール以上の大金を持ったままうろつくのはやめた方がいいのか。

 

 ……そうだな、俺はまだアイテムボックスを持っていないんだ。大金をリュックに入れて持ち歩くのは正直怖い。

 すぐにでもロクサーヌを身請けして身軽になっておいた方がいいよな。

 身請け後ベイル亭へ行って貴重品以外はそこに置き、その後一緒に装備品や日用品の買い出しをしよう。

 それが済んだら迷宮に入り探索者のジョブを取得したらすぐに出てベイル亭へ戻ろう。

 ロクサーヌがただ入って出るだけに納得してくれるかはわからんが。

 

 よし。ワープにもボーナスポイントを振っておこう。

 そして、この後は重い荷物をもって歩き回るんだ。効果があるかはわからないが残りは体力に振っておくかな。

 

 ボーナスポイントの設定がちょうど終わったタイミングでビッカーに声をかけられた。

 

「アユム様、見えてまいりました。あれがベイルの街です」

 

 おお! コミックやアニメで見たとおり四角い街だ!

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

戦士Lv1 英雄Lv4 魔法使いLv4 

装備 皮の鎧 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

鑑定:1

詠唱省略:3

買取価格三十パーセント上昇:63

ジョブ設定:1

ワープ:1

体力上昇:26

 

所持金:200,819ナール

 

春の2日目

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