ロクサーヌが用意してくれた朝食をとり、食休みを済ませたら迷宮へ出勤だ。
盗賊を撃退してアランの館を確認する必要がなくなったため、今日からはホームであるクーラタルの迷宮に入ることにする。
彼女は地図を確認すると、待機部屋へ案内を始めた。
クーラタルの六階層はミノ。
ベイルの迷宮で予習済みのため、今更恐れることはない。
魔法で薙ぎ払いながら突き進む。
ロクサーヌが最短距離を案内してくれる上に魔法一発で魔物が沈むため、MP回復を挟むことなく待機部屋へ到着した。
やはり、人が多い迷宮だけあって、順番待ちをしているパーティーが列を作っていたので最後尾に並ぶ。
暇つぶしとリラックス効果を兼ねてロクサーヌとの会話を楽しむことにする。
だいぶ待ったところで、ようやく俺たちの番となったので、ボス部屋へと続く扉を通った。
六階層のボスはベイルで体験済みのハチノスだったため、問題なく撃破し七階層へ進む。
地図を確認しているロクサーヌを見ながら、七階層の敵を思い出す。
クーラタルの七階層はスローラビットだったな。
……あの、ラピッドラビットにやられた男は、今この階層で探索をしているのだろうか?
それにしても、魔法なし、攻撃スキルなしであるソロの探索者が、最大三匹で出てくる魔物によく対処できるもんだ。
しかも、二年もそれを続けることが可能で、ボス戦に挑む決意までするってことは、かなり安定して戦えていたのだろう。
仲間さえいれば一角の人物になるのかもしれない。
もしかしたら、帝国解放会に声をかけられる可能性もあり得るか。
まあ、だからといって忠告をすることはないんだけどさ。
「ご主人様、こちらです」
確認していた地図を俺に返し、ロクサーヌが案内を始める。
さて、余計なことを考えていないで迷宮探索に集中だ。
一度のMP回復を挟んだものの、ロクサーヌが迷いなく進むため、今日二回目の待機部屋へたどり着いた。
魔物の匂いを把握する鼻もすごいが、一度見ただけで地図を覚え、それに敵の位置を照らし合わせて案内ができる能力も本当にすごい。
これだけではなく、体内時計や超人的な回避能力も兼ね備えている。
まさに、迷宮探索をするために生まれたような娘さんだなぁ。
やはりここでも列が形成されているため、そのまま最後尾につける。
ようやく俺たちの順番になったところで、ロクサーヌが声をかけてきた。
「ご主人様、間もなくお昼になります」
結局今日は階層を上げるだけで終わっちまったな。
でもまあ、資金も確保できたし焦ることはないか。
「うむ。ボスを倒したら食事にしよう」
「はい」
ロクサーヌと頷き合いボス戦前の確認を行うと、扉へ向かい歩き出す。
ボス部屋に入ると即座にボーナスポイントの振り分けを行い、デュランダルを取り出す。
俺が準備をしている間にロクサーヌはフロア中央に向かって走り出した。
そこにはドンドン靄が集まっている。
いつものように背後をつくため迂回しながら走っていると、靄が集まった場所から煙があふれ、それが晴れると小さな魔物が姿を現した。
ラピッドラビットLv7
赤い体毛に覆われた体に、まるで鹿の角のような何股にも分かれた耳。かわいらしい風貌なのに、こちらを威嚇しているのか吊り上げられた目のせいで怖さしか感じない。
そいつを確認した瞬間に呟く。
「オーバーホエルミング」
ロクサーヌに飛びかかろうとしているラピッドラビットに駆け寄り、ラッシュを乗せたデュランダルを振るう。
そして、そのまま足を止めラッシュ攻撃を繰り返す。
時間の流れが元に戻った途端、奴は弾丸が撃ち出されるかのように彼女目掛けて飛びかかった。
だが、そこはさすがのロクサーヌ。その攻撃をかわしてレイピアを叩き込む。
魔物は弾かれると猛スピードでジグザグと複雑な軌道を描きながら、俺の方に向かってくる。
「オーバーホエルミング」
飛びかかろうとした姿勢のまま、スローモーションで空中に留まっているその体をデュランダルが通り抜けると、徐々に靄へと変わりそのまま空気に溶けるように消えていった。
時間の流れが元に戻ると、ロクサーヌの声が上がる。
「動きの速さでラピッドラビットを圧倒してしまうなんて、さすがご主人様です!」
「ロクサーヌの方こそ、あいつの動きに完全に対応していてすごかった」
「それは、オーバーホエルミングを用いた修行をつけてくださる、ご主人様の薫陶の賜物です」
いや、俺が修行をつけているってことはないだろうよ。
実際は俺の方がしごきを受けているぞ。
ロクサーヌさんは鬼軍曹です。
地面に転がっているウサギの肉をアイテムボックスにしまい、彼女に声をかける。
「八階層に上がったらベイルの町へ行こう」
「かしこまりました」
ベイルの冒険者ギルドへ移動するとカウンターの前には順番待ちをしている人の列があり、ギルド内は喧騒に満ちていた。
だいぶ待たされそうだなぁ。
ベイル亭に近いから冒険者ギルドの方に来たが、これなら探索者ギルドで売却をして歩いて行った方が良かったかもしれない。完全に失敗したわ。
ん? あ、違うか。
探索者ギルドで売却を済ませて、ワープで移動すればいいんだ。
ロクサーヌに声をかけ、再びワープを使用する。
探索者ギルドへ移動すると、こちらはカウンターの前に誰もおらず、ギルド内も寂しさを感じるほどの静かさだった。
やっぱこれだよ。俺はこっちの方が落ち着くわ。
カウンターへ行き、いつものように差し出されたトレーに売却物を載せていく。
ウサギの毛皮は帝都の服屋に売却するためにキープするとして、金欠状態は脱したので、皮も売らずに取っておこう。
しくったなぁ。こんなことになるんだったら、今までの鍛冶素材を売るんじゃなかった。
……まあ、しょうがない。原作知識があったところで何もかもを見通せるわけじゃない。
また集めればいいさ。
売却を済ませると再び冒険者ギルドへ移動する。
冒険者ギルドを出て、すぐ近くのベイル亭へ入りフロントへ近づくと、旅亭の男がこちらに気づき声をかけてきた。
「いらっしゃい。今日も食事に来てくれたのか」
「ああ。ここの食事は美味いからな。たまに食べたくなってしまう」
「ありがとうな。それを聞いたら厨房の者も喜ぶだろう」
そうだ、裏稼業についても詳しいこの男に商館の襲撃について聞いてみるか。
「ところで、今日の明け方前に奴隷商が襲われたみたいだな」
「そうなんだよ。そのせいで朝方の町は騒然としていたぞ」
噂が広まるスピードが半端ねぇ。
用心棒として雇われていたことは知られても構わないが、盗賊のアジトを襲撃したことはばれてないだろうな?
「以前、抗争によって構成員がやられたグループと、そこと対立するグループの幹部たちが討ち取られたという話をしただろう?」
「ああ、確かにあったな」
たぶん、そいつらを殺ったのは黒髪天パ平面顔な人間族と、美人でかわいくスタイル抜群な狼人族の二人組ではないだろうか。
盗人の上前を取るような真似をするなんざ、ふてぇ奴らだ。
「この間話した町に戻って勢力拡大を目指している奴らが、その構成員を殺られたグループと手を組んだんだ」
はぁ!?
マジか? 何でそんなことになってるんだ?
これは原作でもあったことなんだろうか?
「なんだってそんなことに?」
「構成員はそれなりの腕を持っていたらしくてな、そのグループとしては戦力の補填をしたかったようだ。それで、勢力拡大を目指していた奴らと思惑が一致して手打ちとなったらしい」
……これは俺の行動が引き起こしたことか。
構成員を殺っていなければ、こいつらが手を組むこともなかったはずだ。
襲撃が一日早くなったのは、原作より戦力が整っていたからか。
そして、アジトが二箇所だったのも、そういうことだったんだな。
「なるほど」
「だが、奴隷商館の襲撃に失敗した上に、頭目や幹部も情婦もろとも別グループに潰されてしまった。空いたシマを巡って、盗賊どもの情勢は混迷を深めるだろうな」
……俺の行いが抗争激化を招くのか。
まいったなぁ。
もし、一般人が巻き込まれたりすると寝覚めが悪いぞ……。
いや、起こってもいないことを気にしてもしょうがない。
「となると、スラムには近づかない方がいいか」
「ああ、そうした方がいい」
「そうだな。では食事をしてくる」
「おう、ありがとう」
男と挨拶を交わしフロントを離れる。
昼食をとった後、セリー購入のために銀貨と銅貨を取りに自宅に戻る。
めちゃくちゃスペースをとっているからな。ここで一気に大放出だ。
アイテムボックスの枠を五つも占有しているが、なるべく金貨は温存しておきたい。
そこから銀貨を十枚取り出し、ロクサーヌに手渡す。
「ロクサーヌ、いつもありがとう。少ないけど給金だよ」
「私のほうこそ、とても良くしていただいているのに、その上このようにお給金までいただけるなんて、信じられないくらい幸せです。ご主人様、本当にありがとうございます」
彼女はそれを受け取ると、輝くような笑みを浮かべていた。
本当にかわいい娘さんだな。この笑顔を見ているだけで幸せを実感できるわ。
二人のリュックに硬貨を詰めるとかなりの重量になってしまうが、まあ今回はしょうがない。
次は物置部屋に移動して、皮とウサギの毛皮をクローゼットにしまっておく。
それが済むと、戦利品である武器と防具をガンガンアイテムボックスに放り込んだ。
あ、ロクサーヌもそうだったが、きっとセリーも靴は履いていないよな。
使っていない硬革の靴も持っていくか。
さて、こんなもんかな。
「それじゃあ、一旦ベイルの武器屋と防具屋を回ってから、アラン殿のところに行こう」
「かしこまりました」
再びベイルに移動し武器屋と防具屋を回ってみるが目ぼしい装備品は見当たらず、売却だけを済ませて商館へと赴く。
いよいよだ。原作より二十日以上早いが、いよいよセリーの購入だ。
ドアノッカーを叩くと商人の男が顔を出す。
「お待ちしておりました。主人より案内を仰せつかっております。どうぞお入りください」
通されたところはロクサーヌを購入したあの部屋だった。
アランの本気を感じるな。セリーを売る気満々なのかもしれない。
「では、主人に知らせてまいりますので、ソファーに腰を下ろしてお待ちください」
彼が部屋から出て行くとロクサーヌに声をかける。
「座って待つことにしよう」
「はい」
俺たちがリュックを肩から下ろし床に置くと、大量の硬貨がぶつかり合う音が響き渡った。
さすがにこれだけの量は多すぎるからな。
セリーの購入でガツンと減らしておきたい。
ソファーに座ると、すぐ隣に彼女も腰を下ろす。
自宅でやっているように触れ合いたいなぁ。
「この後は注文していたエプロンが出来上がっているだろうから、帝都の服屋に受け取りに行こう」
「そのエプロンを身に着けて、ご主人様に美味しいものを召し上がっていただくために頑張りますね」
本当にいじらしくてかわいい娘だなぁ。
「それが済んだらそのまま帝都でロクサーヌの買い物だな」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます、ご主人様」
買い物や、その後の予定についてあれこれ話していると、アランが部屋に入ってくる。
そして、ソファーに腰を下ろすと話し出した。
「今朝は本当にお世話になりました。アユム様のおかげで、このように商いを行うことが出来ております」
「うむ。彼女が心配していたのでな。問題がなかったようで安心した」
セリーとミリアの短期集中ブラヒム語合宿講座で、これからも世話になる予定なんだ、何事もなくて本当に良かった。
「奴隷の準備を行っておりますので、もう間もなく参ります」
アランがそう言った途端に、ノックの音が聞こえてくる。
遂に来たか!
「入れ」
「失礼いたします」
アランが許可をすると、トレーにカップを三つ載せた使用人らしき若い女性が部屋に入ってくる。
フェイントかい!
彼女は俺とロクサーヌ、それからアランのもとにカップを置き始めた。
おお! 原作ではミチオとアランの分しか持ってきていなかったよな。
俺がロクサーヌのことを大切にしており、絶対に手放すことはないと伝わっているのだろう。
細かい違いだがめちゃくちゃ嬉しいもんだ。
使用人が部屋を出ていき、勧められてそれぞれカップに口をつけ、近況などを話していると再びノックの音が響いた。
「入れ」
アランがそれに答えると扉が開く。
すると、そこには教会のシスターがかぶっているような頭巾を身に着けた年配の女性が立っていた。
「準備が整いました」
女性はそう言って一礼する。
彼女を目にしたロクサーヌは嬉しそうに表情を輝かせていた。
コミックやアニメで見たのと同じような姿だ。
ロクサーヌが世話になったというおばさんが、あの女性なのだろう。
女性はロクサーヌを見ると驚いたような顔をするが、すぐに表情を戻して目礼をした。
ロクサーヌも嬉しそうにそれに応えている。
「では、セリーをここへ」
「かしこまりました」
アランが指示をすると女性は横を向き、ここからは見えないがそこにいるであろう人物を招き寄せた。
セリー ♀ 16歳
探索者Lv10
ああ、セリーだ。間違いない。
今朝見かけた時とは異なり、もこもこした毛量の多い髪を二つに束ね、それを赤い髪留めでまとめている。
ボディースーツのようなインナーに、丈の短い紫のベストと同じ色のショートパンツを身に纏っていた。
小説のイラストやコミックでよく見た格好だ。
こうやって近くで見ると、本当に可憐でかわいらしく、細長い耳も神秘的で美しい。
あの珍妙な髪型なのにそう思えるのはすごいことだな。
セリーの方もこちらを凝視している。
盗賊の襲撃の時もそうだったが、これはどういうことだ?
どんな意図で俺のことを見ているんだろう?
不細工がいる、とか思われているんだろうか?
もしそう思われているなら、俺は間違いなく泣いてしまうぞ。
見つめ合っていると、アランが話し始める。
「彼女が現在当家に居るただ一人のドワーフ、セリーでございます」
すると、年配の女性がブラヒム語ではない言葉でセリーに語り掛けた。
へぇ、彼女はドワーフの言葉を話すことが出来るのか。
アランの言葉を理解したのだろう、セリーが挨拶を始めた。
「セリー、です。よろしく、おねがい、です」
おお! セリーがミリアみたいに片言で喋ってるよ!
本当にまだブラヒム語が拙いんだな。
「俺の名前はアユムだ。今朝顔を合わせたよな?」
挨拶をしながらついでに襲撃の時について確認してみると、それを聞いていたアランが説明をする。
「彼女には今日の午後に顔見せを行うとあらかじめ伝えてありました。また、気になるなら確認するようにと、アユム様の風貌と二階を防衛する旨も併せて伝えていたのです」
なるほどな。黒髪の人間族なんてそうそういない。
すぐに俺が自分を買うかもしれない男だと気が付いたのだろう。
だからあんなに凝視していたのか。
女性に言葉を伝えられたセリーは俺の方を見ると、興奮したように話し出した。
「ご主人様、はやく、うごく、です。すごい、でした」
おちつけ。まだ君のご主人様になっていない。
しかしこれ、めちゃくちゃかわいいぞ。
アニメで聞いていた特徴のあるキュートな声でたどたどしく喋るセリーは、とても新鮮で愛らしく感じる。
もうこのままでもいいんじゃないかと思ってしまうほどだ。
……いや、いかんいかん。彼女には我がパーティーの頭脳となってもらわねば。
「お眼鏡にかなったようで何よりだ」
その言葉を伝えられたセリーは、こちらを見てコクコク頷いている。
一頻り話した後にロクサーヌを見ると、彼女は頷き口を開く。
「ご主人様の一番奴隷であるロクサーヌと申します」
いや、全然文句はないけど、それって本当に主人の許可はいらないのかね?
ロクサーヌが一番であることに否やはないが、俺やミチオじゃないと問題になっている気がするな。
それに、いずれは奴隷ではなく妻になってもらう。絶対にだ。
それを聞いたセリーはとても驚いたように女性の方を向くと、なにやら話しかけている。
一頻り彼女の言葉を聞いていた女性は、俺たちに向いて話し始めた。
「ロクサーヌのあまりの美しさに若奥様だと思っていたため、奴隷だと聞いて驚いたようです」
それを聞くとロクサーヌは恥ずかしそうな表情を浮かべ、モゴモゴと呟いている。
「いえ、そんな……。私がご主人様の妻だなんて……。畏れ多いです……」
うそ! 原作だと『若奥様なんて、とんでもない』と否定というか謙遜していたのに!
頬を朱に染め、照れながらも嬉しそうにしている!
めちゃくちゃ嬉しいぞ!
ロクサーヌが落ち着いたところで、俺たちと商館側の三人が向かい合わせる形でソファーに腰を下ろすと、アランが話し始める。
「彼女は既に探索者レベルが10になっており、鍛冶師ギルドでジョブ変更を試みております」
「そうか、もう鍛冶師になる可能性はないということだな」
「はい。その通りでございます」
まあ、そんなことはないんだけどな。
槌をもって迷宮に行き、一振りで二体の魔物をバチコーンとやれば、お手軽に鍛冶師の出来上がりだ。
しかし、よくこんな簡単な条件が解明されていないな。
……まあ、これは条件を知っているせいで簡単に思えるだけで、何も知らなければそうそう思いつくことではないのかもしれない。
女性が言葉を伝えると、セリーは焦ったように喋り出した。
そして、一頻りそれを聞くと、女性は俺の方を向いて話し始める。
「彼女は村でも一、二の力持ちで、ドワーフの中でも力が強いほうだということです。また背もドワーフの中では高いほうとのこと。それに、迷宮でもお役に立てるように頑張ると言っています」
おお! セリーが自己PRをしている!
俺に買ってもらいたいってことだよな? そう思っていいんだよな?
よかった。彼女の購入はマストだが、望んで来てくれるのなら絶対にその方がいい。
その後も、毎日迷宮に入ることや前衛をまかせること、他にも日々行う家事について説明し、条件を確認していった。
「そろそろよろしいでしょうか」
一頻り確認を終えるとアランが声をかけ、セリーと年配の女性を退室させる。
すると、ロクサーヌが俺に許可を求めた。
「あの、ご主人様。私も少し席を離れてもよろしいでしょうか?」
「うむ。問題ない。お世話になった方に近況報告をするといい」
「ありがとうございます! ご主人様!」
嬉しそうな笑みを浮かべると、彼女は一礼して部屋を出て行く。
「ずいぶんと大切になさっているのですね」
それを見ていたアランが話しかけてきた。
「ロクサーヌは俺の宝物だからな。手放すことなど考えられない。彼女に巡り合わせてくれたアラン殿には本当に感謝している」
この世界に転移してから嘘を吐きまくっているが、これに関しちゃ完全にガチだ。
アランには本当に感謝しかない。
「ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただき、奴隷商人冥利に尽きます」
アランは感謝を述べると、商談を再開した。
「セリーはいかがでしたでしょうか?」
「うむ。迷宮探索に対し積極的なところが気に入った。金額次第となるが悪くないだろう」
問いかけに応えると、こちらが前向きなことで手ごたえを感じたのか、セールストークを展開する。
「彼女は鍛冶師にこそなれませんでしたが、ドワーフであり力強さと頑丈さを兼ね備えております。また十六歳で処女、そして性奴隷となることも了承しております」
「ちょっと待ってくれ。十六歳なのか? あの耳は?」
すまん。感謝をしているのは本当なんだが、それとこれとは話が違うんだ。
ここは値切らせてくれ。
セリーも貶めるようなことを言ってすまない。
でも俺はその細長く尖った耳がかわいいと思っているから。
大好きです。今度は嘘じゃないっす。
「確かに彼女の耳は細くなっていますが、正真正銘十六歳です。ドワーフの老化について他種族は耳しか判断基準がないため、細くなっていると老人だと考えてしまいますが、逆に言うとそれ以外は老いていると感じることはないでしょう」
「ふむ。そうなのか……」
「もちろん、耳が細いことは確かですので、相場よりお求めになりやすい価格となります」
「なるほど」
他のパーティーメンバーに比べると、セリーは断トツで安いもんな。
耳と胸のサイズであそこまでディスカウントされてしまったのか。
正直俺からすると、どっちもたいした問題じゃないんだが。
細長い耳なんて萌えポイントでしかないし、大きいおっぱいも小さいおっぱいもどっちも大好きだ。おっぱいはおっぱいであるだけで最高なんだよ。
「また、彼女は初年度奴隷のため、税金の分もお安くなっております」
今安くなっても、冬にその分を払わなあきませんやん。
それは安くなっていると言えるんですかねぇ。
「数日前に来たばかりで教育も行き届いておらず、ブラヒム語も満足にしゃべることが出来ません。また、アユム様には盗賊の撃退にひとかたならぬご尽力を賜っております。それらを考慮した上で、二十五万ナールではいかがでしょうか」
あれ!? いきなり原作の底値だぞ!
あ、そうか、まだ来たばかりで教育や食事等のコストがかかっていないんだ。
ここから押せばまだ下がるか?
「二十五万か……」
「そうでございますか……」
考え込むそぶりをしたが、価格を下げる様子は見られない。
ダメか。まあ、二十五万でも問題ない。予定通りだ。
値切るのはここまでにして、ブラヒム語の教育について確認してみよう。
「彼女を購入するとしても、相談したいことがあってな」
「相談ですか?」
「うむ。俺はブラヒム語しか喋れないし、ロクサーヌはバーナ語とブラヒム語だけだ。そのため、パーティー間の会話はブラヒム語で行われる」
「はい」
俺の説明を聞きながらアランは頷く。
「そのため、ブラヒム語が喋れなければコミュニケーションに支障をきたす。なので、彼女を購入しても、今日すぐに引き取らず、ブラヒム語や礼儀作法を施してもらった後に引き取るということは可能だろうか?」
「なるほど……」
そう呟くとアランは目を閉じ考え込んでいる。
程なくして、目を開きこちらを見ると口を開いた。
「彼女は学習に対して意欲が高く、また物覚えもいいため、ここへきて数日ですが片言ながらブラヒム語を話そうと努力をしております。文字の方は奴隷になる前から習得しておりますので、問題なく話すことが出来るようになるには、そうですね……。二十日といったところでしょうか」
アランの見立てでも、たった二十日で問題ないってことか。
「それはすごいな」
「当家には言葉を教えることに長けた者がおりますので」
なるほど。やはり、何かしらのノウハウを持ってそうだ。
「当家で本日を起算日に二十日間お預かりして教育を施します。その間の食費等も含めまして一万ナールでいかがでしょうか?」
それを足すと原作より一万ナール高い……。
原作ではなかなか売れなかったからこそ、さらに下げたのかもしれないな。
しかし、今朝にも思ったが、あれだけかわいい娘が売れ残るなんてありえるのか?
正直信じられないわ。
「うむ。ではそのように頼む。それからもう一つあるのだが、ロクサーヌのとき一緒に購入した帝宮の侍女服を模した服があっただろう。あれも購入させてもらいたい」
「なるほど。あれは大変人気があり、どのお客様にも喜んでいただいております。一着四千ナールとなりますが?」
「では、それで頼む」
さて、これで交渉はすべて終わった。
あとは割引スキル先生にまかせよう。
「ありがとうございます。では、金額の確認を行います。セリーの販売額が二十五万ナール、教育を行う報酬が一万ナール、そして侍女服の金額が四千ナール、合計二十六万四千ナールとなりますが、アユム様にはひとかたならぬご恩がございますので、今回は十八万四千八百ナールといたします」
アランすまない。感謝をしているのは本当なんだが、今はまだこれに頼る必要があるんだ。
「うむ。問題ない」
「お買い上げありがとうございます」
これでセリーを買うことが出来た。
本当に良かった。
「支払いが細かくなるが大丈夫か?」
「はい、問題ございません」
アランがローテーブルの上に置いたトレーに、まずは大量の銅貨を載せていく。その数何と三千九百枚!
ヤバすぎるだろうよ……。
一枚のトレーには収まらず、アランはその横に二枚目を追加した。
「すまないな」
「問題ありません」
日本でなら絶対に嫌がられる行為だろう。
というか法律では硬貨はそれぞれ二十枚までしか使えなかったはずだ。
俺のせいではなく、この世界の貨幣制度が悪い。
えーっと。銀貨はどれだけ出せばいいんだ?
とりあえずカルクの出番だ。急いで戦士と商人を入れ替える。
購入額は十八万四千八百ナールで、銅貨で支払った分を除けば残り十八万九百ナール。
そして、今ある銀貨が千五百七十枚ってことは、差し引き二万三千九百ナールだな。
お釣りをもらうのも面倒だから、金貨三枚は出しておくか。
となると、十八万九百ナールから三万ナールを引いて十五万九百ナールだ。
トレーの上に千五百九枚の銀貨と三枚の金貨を載せると、アランが数え始める。
いやー、これめちゃくちゃ大変だわ。
絶対に、もっと硬貨の種類が要るだろう。
数え終わるとアランが声をかけてくる。
「では、手続きを行いますので少々お待ちください」
そう言うと人を呼び、一緒に硬貨を運びながら部屋を出て行った。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv26 英雄Lv22 魔法使いLv25 商人Lv18
BP振分 残BP:2
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値十分の一:31
詠唱省略:3
鑑定:1
ワープ:1
MP回復速度五倍:15
三十パーセント値引:63
所持金:1,046,155ナール
春の12日目
今回の連続更新はここまでとなります。
無事セリーを購入することが出来ました。
また五日ごとに更新していきますので、お楽しみいただければ幸いです。