異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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073 いせはれ!

 

 

 

 

 

ベイル

アランの館

 

 

 

 

 

 部屋に一人残され待っていると、ロクサーヌを購入したときのことを思い出す。

 

 あのときは本物のロクサーヌを目にし、そしてその彼女を手に入れたことで頭がおかしくなりそうなほど興奮していた。

 そのため、時間が経つのが遅く感じてやきもきしていたなぁ。

 

 だが、今は穏やかな気持ちで待つことが出来る。

 いつもロクサーヌと共に行動しており、パーティーを組んでいることで常に彼女の存在を感じられるため、焦ることはない。

 日本にいた頃とは比べ物にならないほど密度の濃い時間を過ごしてきたため、たった十日前のことなのに、ずいぶん前のことに感じてしまう。

 

 

 

 物思いにふけっているとロクサーヌが一人で戻ってきた。

 彼らは二十日間のブラヒム語講習についての打ち合わせでもあるんだろうか?

 

「ご主人様、ただいま戻りました」

 

 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら俺の隣に腰を下ろす。

 

「話はできたか」

「はい。普段の生活のことを話したのですが、それを聞いてとても驚いていました。こんなに良くしてもらっている奴隷など聞いたことがないそうです」

 

 そう口にしながら彼女は得意気な表情を浮かべている。

 この世界の他の奴隷とはかけ離れた生活を送っているとは思うのだが、この娘は一体どんな話をしたのだろう?

 その顔を見ていると、ちょっと不安になるんだが……。

 

「話を聞いていたセリーも驚いていたので、うちに来ることになれば強くてお優しい素敵なご主人様の下で、美味しいご飯をお腹いっぱい食べ、新品の綺麗な服を着て、毎日お湯で体を拭いて清潔に過ごし、柔らかなベッドで眠ることが出来ると伝えておきました」

 

 いや、もちろんそうするつもりだけどさぁ……。

 セリーもあの女性もそんなことを言われて面食らったんじゃないか?

 

「そうか。もちろんロクサーヌが一番大切だが、これからはセリーのことも大切にしなければな」

「ありがとうございます、ご主人様。そうおっしゃるということは決まったのですね」

「うむ。来てもらうことになったが、予定通りブラヒム語の教育を受けてもらい、その後に引き取ることになる」

「どのくらいの期間になるのでしょう?」

「二十日間だな。今日を起算日に二十日間ということだったので、彼女を迎え入れるのは春の三十二日目になるはずだ」

 

 これで合っているはずだよな?

 一応念のためにアランに確認しておくか。

 

「では、それまでは私だけのご主人様ですね」

 

 そう言うとロクサーヌは見惚れるほど美しい笑みを浮かべた。

 

「そうだな。それまでは二人きりの生活を楽しもう」

「はい!」

 

 あらま、良い子のお返事だこと。

 

 

 

「あの、ご主人様……」

 

 彼女は俺の耳に顔を寄せ、そっと囁く。

 

「セリーの事情はご主人様がおっしゃる通りでした」

「やはりそうか」

 

 返事をすると顔を離し、普通のトーンで話し始めた。

 万が一のことを考えて、セリーの事情を知っていることを悟られないように小声で話したのか。

 さすがロクサーヌ。気が回る。

 

「聞いたところ、一家の生活を支える大黒柱であった兄が迷宮で怪我をしたのだそうです」

「ふむ」

「とても大きな怪我だったらしく、治療のためには上位の傷薬が必要だったようです」

「なるほど」

 

 ……そうか、この世界でもその出来事は起こってしまったんだな。

 俺たちには防ぎようがなかったとはいえ、それが起こることを知っていたのにもかかわらず、何も手を打たなかったことに罪悪感を覚えてしまう。

 

「セリーは薬代を工面するために自分を奴隷として売るよう家族へ持ちかけたそうです。彼女の家には小さな弟妹しかおらず、そうするしかなかったのだとか」

 

 結局、そうなってしまったのか。

 偽善者すぎていやになるが、俺にできることといったら彼女を大切に扱い、購入されてよかったと思ってもらえるように努力することだけだ。

 

「先ほども言ったが、これからはセリーのことも大切にしたいと思う」

「はい。是非そうしてあげてください」

 

 ロクサーヌは俺と二人の生活を望んでくれていた。自惚れでもなんでもなく、そう思ってくれていただろう。

 だが、本当に申し訳ないことに、セリーをはじめミリア、ベスタ、ルティナを手に入れないという選択肢を選ぶことはできない。

 彼女に我慢を強いることになるだろう。本当に申し訳ない……。

 

 

 

 今後について思い悩んでいると、ロクサーヌがおずおずと声をかけてくる。

 

「あの、ご主人様……。差し出がましいことなのですが、意見を申し上げてよろしいでしょうか?」

 

 彼女は改まった表情でそう切り出した。

 

 なんかめちゃくちゃ言い辛そうにしている? どうしたんだ?

 

「ああ、大丈夫だ」

「セリーのことなのですが、この後ベイルの市で服や肌着、それから小物等を買い与えていただけないでしょうか?」

「セリーの?」

「はい。私もそうだったのですが、奴隷として商館にいると不安を抱き続けるのです」

 

 なるほど。確かにそうかもしれない。

 これから自分がどんな主人の下へ行くのかわからないし、そこでどんな扱いを受けるのかもわからない。

 不安に駆られてしまうこともあるだろう。

 

「彼女の場合は既に購入されているので多少は軽減されるのでしょうが、それでもどういう扱いをされるのか、本当に迎えに来てもらえるのかなど、いろいろ考えてしまうことでしょう」

「ふむ」

「ですが、今日それらを買い与えられると、大切にしていただけていると実感できて安心すると思うのです」

 

 出過ぎたことをしていると思っているのだろう。そう言いながらも恐縮している様子だ。

 

 当然のことだが、ロクサーヌはセリーのことを百パーセント心から歓迎しているということはないだろう。

 それなのに、こんなことを思いつき、そして出過ぎたことと思いながらも主人に意見できるのか……。

 

「あっ」

 

 ロクサーヌの体を抱きしめながら、彼女の思いやりに満ちた願いに応える。

 

「もちろん俺に異存はない。クーラタルや帝都へ連れて行くわけにはいかないが、ベイルの市でセリーの買い物をしよう」

「ありがとうございます。ご主人様」

 

 俺の体を抱きしめ返しながら嬉しそうに答えた。

 

「それにしても、ロクサーヌは本当に優しいな」

「これから一緒にご主人様を支える仲間ですから」

 

 ロクサーヌはいつも穏やかで心優しく、思いやりのある女性だ。

 しかし、同時に嫉妬深くて独占欲が強く、序列に厳しい。

 その上したたかでちゃっかり者、そしていたずらっ子な一面も持つ。

 戦闘狂の気があり好戦的ですぐに戦いたがるし、魔物や盗賊には容赦がない。

 

 何と複雑で魅力に満ちた女性なのだろう。

 生涯共にいても彼女の魅力に飽きることはないと断言できる。

 そして、やはり原作で見知っていたロクサーヌとはどこか違う。

 俺の、俺だけのロクサーヌだ。絶対に彼女を手放すわけにはいかない。

 

「ロクサーヌ。いつもありがとう。これからもよろしく」

「こちらこそ、いつもありがとうございます。ご主人様、これからもよろしくお願いします」

 

 

 

 その後、お世話になった女性と交わした会話や、ロクサーヌから見たセリーの印象などを聞いていると三人が部屋に戻ってくる。

 

 セリーが裸足なのを見て硬革の靴を持ってきていることを思い出した。

 契約締結前だがもう支払いを済ませている。ロクサーヌの時も大丈夫だったんだから、もう靴を渡しても問題ないだろう。

 

「アラン殿、彼女に靴を渡しても問題ないだろうか?」

「はい。問題ありません」

 

 アイテムボックスから靴を取り出してセリーの前に置き、それを履くようジェスチャーで促す。

 俺の言いたいことを理解したのだろう。彼女は笑みを浮かべると、俺の方を見て口を開いた。

 

「ご主人様、ありがとう、です」

 

 それを聞いていた女性はセリーに何かを伝える。

 

「ご主人様、ありがとう、ございます」

 

 ブラヒム語の指導が入ったのか。

 たどたどしいものの、今度は正しい言葉遣いで感謝を口にする。

 

 なあに、いいってことよ。気にするねぇい。

 

 

 

 セリーが靴を履き終わり、ソファーへ腰を下ろしたところでアランが口を開く。

 

「ブラヒム語の教育を受けられるよう、お気遣いいただいたことを伝えたところ、彼女はとても喜んでおりました」

 

 アランの言葉を年配の女性が伝えると、セリーはキラキラ輝くような笑顔で感謝の言葉を口にする。

 

「うれしい、です。ご主人様、ありがとう、ございます」

 

 これ本当にかわいいなぁ。

 片言でも気持ちが伝わるように一生懸命喋ってくれるのが、いじらしくて俺のハートにクリティカルだぞ。

 

「ちゃんと話せるようになって一緒に暮らせるのを楽しみにしている」

「はい! がんばる、です!」

 

 それを女性から伝えられたセリーがぐっと両手を握りしめ、力強く答えた。

 装備品やスキル結晶、それからジョブに魔物。それらの情報収集は、君のブラヒム語にかかっているんだ。

 頼むぞ。セリー。

 

 

 

 俺たちの会話が終わるとアランが話し始める。

 

「それでは、契約内容を再度確認させていただきます。本日を起算日に二十日間セリーをお預かりしてブラヒム語と礼儀作法の教育を施します。そして、その間の彼女の食費等については当家で負担するものとします」

「よろしく頼む」

 

 たぶん人様から預かった者なのだ。

 きっと気を使ってくれるだろう。

 

「引き渡しは春の三十二日目となりますので、午前中に当家へお越しください。その際に侍女服と帝都の奴隷商への紹介状もお渡しいたします」

「うむ。感謝する」

 

 その日はベイルの市が立つ。俺たちは市が立つ五日ごとにこの町に来ているので好都合だ。

 

 ん? あ、そうだ。

 どうせ五日ごとにベイルの武器屋と防具屋も回るんだ。進捗状況を確認しながらセリーの顔を見に来よう。

 そうすることで、先ほどロクサーヌが言っていたような不安も軽減されるはず。

 この後、買い物にセリーを連れ出す件と併せて、アランに確認してみるか。

 

「アラン殿、提案したいことがあるのだが」

「何でしょうか」

「俺たちはこの後、市で買い物をする予定だったのだが、セリーも連れて行っていいだろうか?」

「セリーを買い物にですか?」

 

 提案を聞いたアランは、目を細めてじっとこちらを見ている。

 いや、だから目力半端なくて怖いんだって。

 

「うむ。もう俺の所有する奴隷となったのだ。服装や身だしなみに気をつけてもらいたくてな」

 

 アランはチラリとロクサーヌの方をうかがうと、納得したように答えた。

 

「なるほど。アユム様は並々ならぬこだわりをお持ちのご様子。私どもは問題ありません」

 

 おいこら、今俺のことを女に入れ込む放蕩者だと思ったな?

 ああ、その通りだよ! それこそがこの世界に来た目的だからな! 胸を張ってその称号を受け入れるぞ!

 

「それから、五日ごとにベイルの武器屋と防具屋を回っているのだが、その際にセリーの顔を見に来てもいいだろうか?」

「もちろんです。彼女の励みになることでしょう」

「アラン殿、感謝する」

 

 ロクサーヌの様子を確認すると、目が合い笑顔で頷いてくれた。

 

 俺の提案を伝えられたセリーは、満面の笑みで感謝の言葉を口にする。

 

「ご主人様、ありがとう、ございます」

 

 

 

 契約内容の確認が済み、提案を受け入れてもらったところで、アランは俺とセリーに左手を出すように促し、インテリジェンスカードの操作を行い始めた。

 しばらくブツブツと呟きながら作業を行うと、顔を上げ俺の方を見る。

 

「契約は完了です。これでセリーはアユム様のものとなりました。インテリジェンスカードをご確認ください」

 

 左手から出ているそれに目を通す。

 

田川歩 男 18歳 探索者 自由民

所有奴隷 ロクサーヌ セリー

 

 良かった。本当にセリーを手に入れることが出来たんだ。

 彼女には鍛冶師として、迷宮攻略に置いて重要な要素である、装備品の製造とスキル結晶の融合を一手に引き受けてもらうことになる。

 そして、それと同じくらいに大切なジョブや魔物等、様々なことについて調べてもらわなければならない。

 

 これからよろしく、セリー。

 

 

 

「どうぞ」

 

 自分のカードを確認していると、セリーが俺の方へ左手を差し出した。

 

セリー ♀ 16歳 探索者 初年度奴隷

所有者 田川歩

 

 うん。大丈夫だ。確かに俺の奴隷になっている。

 確認が済むとこちらも左手をセリーの方へ寄せた。

 

 戸惑ったように俺のほうをうかがうので一つ頷く。すると安心したのだろう、笑みを浮かべて頷き返し、インテリジェンスカードの確認を始める。

 それが済んだところで、もう一度こちらを向いて頷いた。

 

 確認が済みカードを手の方へ押すと、そのままヌルンと入っていく。

 何度見ても不思議な光景だよなぁ。

 

 

 

 俺たちがカードを戻すと、アランはロクサーヌのときにも口にしていた、奴隷の所有者として果たすべき義務について説明している。

 衣食住の提供をすること、奴隷の税金は主人が納めること、不当な扱いをしないこと。

 細部までは覚えていないが、おそらくまったく同じことを言っている気がするので、ミチオが推察していたように、販売時の告知義務とそのための定型文があるのかもしれないな。

 

 

 

「この度はお買い上げいただき誠にありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」

 

 アランと年配の女性に見送られ、俺たちは商館を後にした。

 

 

 

 

 

ベイル

 

 

 

 

 

 商館から少し離れたところで、念のためにセリーの変更可能なジョブについて確認してみることにする。

 キャラクター再設定を開きボーナスポイントを振り直し、パーティー項目解除とパーティージョブ設定にチェックを入れた。

 

 買い物が済むと彼女は商館に戻ることになるのだ、詠唱がなくてもスキルを使えるなどという、余計な情報は持たせない方がいいだろう。

 なにせ現在の彼女とはまともな会話が成立しない。

 そのため、ミチオの代名詞でもある必殺の『内密にな』を用いて言い聞かすことすらできないのだ。

 そうなると、これから見聞きする情報のうち、なにが隠すべき情報なのか判断できるはずもない。

 いや、まあ彼女は賢いので理解しそうではあるが、何もわざわざ危ない橋を渡る必要はないだろう。

 

 パーティー編成を行うためにセリーの方を向くと、それに気づいた彼女は上目遣いでこちらを見上げる。

 

 うっわ、やっば……。

 かわいすぎだろ。

 至近距離でくらう美少女の上目遣いとは、こんなにもすごいものだったのか。

 今までの人生で味わったことがなかったので知らなかった。

 

 ……お願いしたらロクサーヌもやってくれるだろうか?

 

 

 

 いかんいかん。余計なことを考えていないで早いとこパーティー編成を済ませよう。

 

「友に応えし信頼の、心のきよむ誠実の、パーティー編成」

 

 彼女は迷宮にも入っていたようだし、パーティーも組んでいたのだろう。

 慣れた様子で申請を受理する。

 

 よっしゃ。じゃあ確認してみるべ。

 

探索者Lv10 村人Lv3 薬草採取士Lv1

 

 うーん……。原作と変わりなしか。

 村人のレベルが5に達していないため、初級ジョブすら解放されていない。

 村人のときに経験を積んでいなかったのか、それとも探索者になるのが早すぎたのか……。

 

 まあ、俺たちと迷宮に入れば二十倍で経験値が入る。

 言うなれば常にメタルスライムやはぐれメタルを狩っているようなものだ。

 正式加入後、あっという間にレベルも上がるだろう。

 別にこの状態でも何の問題もない。

 

 パーティージョブ設定を閉じてロクサーヌに声をかける。

 

「では、そろそろ行くか」

「ご主人様、少々お待ちください」

 

 そう言うと彼女はセリーに何かを伝えようと、身振り手振りを交えながら話しかけている。

 

 一体なんだ?

 

 しばらくやり取りをして理解したのか、セリーはコクコクと頷き俺の左側へススっと寄ってくる。

 それを見て満足そうな表情を浮かべると、ロクサーヌは逆サイドへ移動した。

 

 訝しげな表情でも浮かべていたのだろう。彼女は俺の顔を見ると説明を行う。

 

「こうすることで、ご主人様の警護をスムーズに行うことができるのです」

 

 ああ、なるほど。そういうことか。

 商人ギルドの商談室だけではなく、町中や迷宮を歩いているときにも、彼女はずっと俺のことを守ってくれていたのだろう。

 

 それが本当に嬉しく、愛おしさが湧き上がってくる。

 

「ロクサーヌ。いつもありがとう」

「ご主人様をお守りするのは当然のことです」

 

 感謝を伝えると微笑みながらそう言った。

 当然のことか……。俺も彼女の献身に報いていかねば。

 

 

 

 

 

ベイル

市場通り

 

 

 

 

 

 彼女たちを左右に従え、表通りを練り歩く。

 なんか今の俺、フリーザ様みたいだな。

 

 追うんですよ、ロクサーヌさん!! つかまえなさい!!!!

 セリーさん、上部ハッチを開けなさい。

 

 

 

 最初は雑貨屋に立ち寄り、リュックサック、シュクレの枝、コップ、タオルなど、今後必要になる物も含めて買っておくことにした。

 支払いを済ませると、セリーは購入した物を詰め込み、そのままリュックを背負う。

 

「ご主人様、ありがとう、ございます」

 

 彼女は感謝の言葉を口にすると、ぴょこんと頭を下げた。

 頭を上げるとその顔には、はにかんだような笑みが浮かんでいる。

 

 こうして見ていると改めて思う。セリーもかなりの美少女だわ。

 日本に居たら即スカウトされてトップアイドル間違いなしだろう。

 絶対にロクサーヌのことを特別扱いしてしまうだろうが、彼女のこともちゃんと大切にしていかなければならないな。

 

 

 

 俺たちが商品の購入をしている間に、商品棚をひっくり返す勢いで何かを探していたロクサーヌだったが、目当ての物を見つけたのかこちらへ近づいてくる。

 彼女はセリーに近寄ると手に持っていた櫛を見せながら、ジェスチャー交じりで話しだす。

 ロクサーヌの伝えたいことを理解したのか、同じようにセリーも身振り手振りを加えながら言葉を発し、二人は嬉しそうにコミュニケーションをとっている。

 

 すげー、とんでもないレベルの美少女二人が、笑い合いながらやり取りをしているぞ。

 夢のような風景だよなぁ。まるで日常系アニメの世界にいるみたいだわ。

 うん。楽しそうにほのぼのとした雰囲気が実に良い。

 きっと、そのアニメは平和な世界観なのだろう。

 

 さしずめタイトルは『異世界迷宮でハーレムを』からとって『いせはれ!』だろうか?

 いや、『いめはを!』なんてのもあり得るな。

 ウェブ版の『異世界迷宮で奴隷ハーレムを』の方から拝借して、『いめどは!』ってのもいいかもしれない。

 

 

 

 二人から少し離れた場所で取り留めもないことを考えながら、その尊いやり取りを眺めているとロクサーヌが持っていた櫛を購入し、セリーに手渡した。

 

 ああ、自分の給金で購入した物をプレゼントしたかったのか。

 本当にいい娘だよなぁ。

 

 セリーはそれを受け取ると、深く頭を下げ感謝をしている。

 ロクサーヌは彼女の頭を上げさせると、再びジェスチャーしながらやり取りを交わす。

 その後セリーは大切そうに櫛をリュックにしまい、もう一度ロクサーヌへ頭を下げた。

 

 

 

 なんか完全に傍観者として蚊帳の外に置かれているが、いいもんを見たなぁ。

 これからも仲良くしてくれるといいんだが。

 

「ご主人様、お待たせいたしました」

 

 ロクサーヌは目的を果たしたのか、セリーを伴って俺の方に近づいてくる。

 

「セリーにプレゼントを渡したかったのだな」

「はい。私も商館にいた頃は自分だけの櫛が欲しかったので、どうしてもセリーに渡しておきたいと思ったのです」

 

 なるほどなぁ。

 いくらアランのところでそれなりに大切にされていたとはいえ、それでも扱いは奴隷としてのものだったのだろう。自分専用の道具がないことは想像に難くない。

 その気持ちがわかるからこそのプレゼントか。

 

 

 

「それじゃあ、次は服屋だな」

 

 店を出て通りを歩きながら声をかける。

 

「おまかせください。セリーにぴったりの服を見繕います」

「ありがとう、ございます」

 

 ロクサーヌはフンスと気合を入れて答え、セリーは嬉しそうに感謝を述べた。

 

 ……ロクサーヌさんがやる気に満ちていらっしゃる。これは長くなるだろうなぁ。

 まあ、今日は休みにしているし問題ないか。

 彼女たちが選んでいる間、俺はそれを眺めながら目の保養をさせてもらうとしよう。

 

 

 

 十日前に俺たちも購入した新品の服を扱っている店へ入り、ロクサーヌに伝えておく。

 

「上着の上下三着ずつ、それから下着の上下を三着ずつ。そして靴下も三足ずつ選んでくれるか」

 

 それを聞いたロクサーヌはクスクス笑いながら答える。

 

「ふふ。十日前の私たちと同じですね」

 

 ああ、確かに似たようなことを言った気がするわ。

 ロクサーヌは選ぶのに時間がかかると原作で知ってはいたのが、あのときは予想していた以上に時間がかかったので驚いたんだった。

 

「そうだな。今回は時間をかけても構わないから、良いものを選んでやってほしい」

「はい、おまかせください」

 

 彼女は自分の物だけではなく、人の物でも楽しそうに選ぶんだよなぁ。

 根っからの買い物好きなんだろう。

 

 

 

 店内の壁際に設置されている椅子に座り二人の様子を眺めていると、それぞれ気に入った服を手に取り、ああでもないこうでもないと相談しながら、キープしたり、リリースしたりを繰り返している。

 しかし、よく意思の疎通が図れるなぁ。

 やはり、ブラヒム語と他の言語は似ているのだろうか?

 

 美少女二人が仲良く楽しそうに服を選んでいる。

 見ているだけで心が安らぎ、満たされていくような風景だ。

 こんな娘たちと暮らすことが出来る俺は、本当に幸せ者だよなぁ……。

 

 

 

 

 

「ご主人様、選び終わりました。起きてください」

 

 んっ……。

 

 ああ。買い物の途中だったか……。

 

 普段より早く起きて、盗賊退治を行った疲れが出たのか、彼女たちを見ながらいつの間にか眠ってしまったようだ。

 

「悪い。もういいのか?」

「はい。バッチリ選び終わりました」

 

 セリーのほうを確認してみると、はにかんだような笑みを浮かべながら口を開く。

 

「ご主人様、ありがとう、ございます。あたらしい、ふくを、うれしい、です」

 

 喜んでもらえたようで本当に良かった。

 彼女を迎え入れる日には帝都の高級服屋でキャミソールと上等な服を買い、エプロンとランジェリーの注文を行う。

 さらにストッキングとガーターベルトを扱っている店でそれらを購入し、その店でもランジェリーの注文を行うぞ。

 

 我ながらなんと完璧な計画だろう。自分で自分が恐ろしくなるな。

 

 

 

 支払いを終えセリーがリュックに服をしまうのを確認して店を出る。

 

「では、アラン殿の商館へ戻ろう」

「かしこまりました」

「はい、です」

 

 おお! 『はい、です』だ! ミリアの十八番をここで聞けるとは!

 

 一気にテンションの上がった俺を、四つの瞳が不思議そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

ベイル

アランの館

 

 

 

 

 

 商館に戻ってきたところでセリーをパーティーから外す。

 

「あ……」

 

 すると悲しそうな声が聞こえてくる。

 そちらを見遣ると、心細そうに俺を見上げているセリーの姿が……。

 

 いや、これめちゃくちゃ罪悪感を覚えるぞ……。

 彼女についてはクールで合理的な印象があり、こんな表情をするとは思いもよらなかった。

 

 ……いや、無理もないか。

 自ら望んで奴隷になることを持ちかけたとはいえ、まだ売られて数日で気持ちの整理もついていないだろう。

 それなのに、自分でいうのもなんだが条件の良いところに買われて、奴隷とは思えないような厚遇を受けたのに、また商館へ逆戻りだ。

 心細くもなるよなぁ……。

 

 すると、ロクサーヌがセリーに近づき、その体を抱きしめて告げる。

 

「大丈夫ですよ。ご主人様は絶対にセリーを迎えに来ます。なので、あなたは何の心配もすることなく、ご主人様のお役に立てるようにブラヒム語の勉強を頑張ってください」

 

 そう言って体を離すと目を合わせて頷き、彼女の背中に手をやって俺の方へ優しく押し出した。

 近づいてきたその体を受け止め、ロクサーヌがしていたように彼女を抱きしめる。

 

「ロクサーヌの言う通りだ。絶対にセリーのことを迎えに来るから安心してくれ。二十日後を楽しみにしているぞ」

「はい、です」

 

 おそらく、俺たちの言葉を完全に理解しているわけではないだろう。

 だが、気持ちは伝わっていると信じたい。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv26 英雄Lv22 魔法使いLv25 商人Lv18

 

BP振分 残BP:1

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

ワープ:1

MP回復速度五倍:15

三十パーセント値引:63

パーティー項目解除:1

パーティージョブ設定:3

 

所持金:1,045,018ナール

 

春の12日目

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