異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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075 拾得物

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 目が覚めると、柔らかく滑らかなものが体にあたっていた。

 この腕の中にある温かな重みが、確かにロクサーヌは存在しているのだということをこれでもかと主張しており、安心感をもたらしてくれる。

 

 それにしても、昨晩のロクサーヌは本当にすごかった。

 

 何度も受け入れてくれたばかりか、彼女自身も気持ちよくなろうと動いていたのだ。

 今までは俺を気持ちよくすることを優先していたように思う。

 いや、それももちろん嬉しいのだが、彼女が我を忘れ、貪るように求めてくれたことに衝撃を受けた。

 快楽を得るため必死になって腰をふるうロクサーヌは、神秘的な美しさと妖艶な魅力が同居しており、そんな彼女を引き出したことで自尊心が満たされるというか、自己肯定感を覚えるというか、何とも言い難い優越感を得ていたことを否定できない。

 

 ……調子に乗らないように自分を戒めておこう。

 

 

 

 彼女の体を抱きしめ、柔らかな背中の毛をゆっくりと撫でていく。

 

「おはようございます、ご主人様」

「おはよう、ロクサーヌ」

 

 俺が起きたことに気が付いたのだろう。朝の挨拶を交わし合う。

 

「ロクサーヌ。本当にありがとう。昨晩は信じられないくらい気持ち良かった。間違いなく今までの人生で一番だと断言できるよ」

「私もです。あんな快感があったなんて思いもよりませんでした。最後の方は頭が真っ白になってしまって……」

 

 ロクサーヌは昨夜のことを話していたが、気まずくなったのか言い淀んだ。

 俺の方は満足感でいっぱいで、目覚めてから気力が充実している。

 しかし、彼女には無理をさせてしまっただろうか……。

 

「抑えが利かなくてごめんね……。これからは無理をさせないように気を付けるから、ロクサーヌのほうもきついと思ったら遠慮することなくそう言ってほしい」

「いえ! そうではないのです!」

 

 俺の言葉を聞くと彼女は大声を上げて否定するが、その後の言葉は恥ずかしそうに小声で続けられた。

 

「無理をしたということはなくて……、ええっと、私もまたあの快感を味わいたいと、そう、思ったのです……。ご主人様、これからもかわいがっていただけますか?」

 

 かわいらしいお願いに、ロクサーヌの体を抱きしめている腕の力が強くなる。

 

「もちろん。これからもいっぱいかわいがるから、ロクサーヌも俺のことを受け入れてくれる?」

「当然のことです。ご主人様に満足していただけるように頑張りますね」

 

 俺のほうこそ、彼女に満足してもらうために頑張らないとな。

 

 

 

 朝の支度を済ませて大切なルーティーンを終えたところで、今日のミーティングを行う。

 

「この後は、ベイルの迷宮八階層の続きから探索を再開だね。とにかく九階層へ上がることを優先しよう」

「かしこまりました」

 

 上の階層を目指すと聞くと、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべながら頷いた。

 

「九階層へ上がったら一度戦闘をしてみて、魔法一発で魔物が倒れなかった場合はおとなしくクーラタルの七階層へ戻り、そこでラピッドラビットを狩ろうと思う」

「たとえ二発になっていたとしても大丈夫だと思うのですが……」

 

 俺が続けた言葉を聞くと、今度は不満そうな表情を浮かべて反論する。

 

 ロクサーヌの言う通り、確かに戦えないことはないだろう。

 彼女は三匹なら問題なく引き付けてくれるし、一匹抜けてきても装備品とレベル補正のおかげで被ダメージもかなり軽減されるはずだ。

 

 しかし、わざわざ無理をする必要はない。

 原作だって、セリー加入前はクーラタルの七階層でレベル上げを行なっており、そこで探索者のレベルを30以上にしていた。

 スタッフとメギンギョルズなしでそこまで到達できるのだ。なら、それらを持ち、また八階層でレベル上げが出来るのなら、それ以上の成果を得られてもおかしくはない。

 

 それに、経験値効率で考えたとき、1確と2確では大きな差が出てしまうはずだ。

 魔法一発で倒れなかった場合、リキャストタイムが発生するため戦闘時間が長くなるし、必要な魔法の回数も多くなり、MP回復に費やす時間も長くなる。

 そうなると、倒せる魔物の数が少なくなってしまうだろう。半分以下になってもおかしくはない。

 

 八階層と九階層の魔物に獲得経験値の差があるとはいっても、二倍以上の差があるものなのだろうか?

 

 今まで迷宮探索を行ってきた俺の体感では、そこまでの差があるようには思えない。

 なら、1確できる魔物を高速で倒していくことこそが、レベルアップへの近道となるはずだ。

 レベルアップにより魔法の威力が増し、上の魔物をワンパンできるようになれば狩場を変えればいい。

 

 それに、今後は経験値効率四百倍や魔道士と遊び人の取得。

 そして、セリー加入のその日に、ひもろぎのスタッフを手に入れることも可能だ。

 しかも、仲間が増えると安定性も増していく。

 その都度プランを修正すればいいだろう。

 

 

 

「同じことを何度も言うようだけど、しばらくは安全第一でいこう。まあ、問題なければそのまま探索を続けてボス部屋を目指す」

「かしこまりました。ご主人様の実力をもってすれば、九階層など何の問題もないでしょう」

 

 ご主人様はそんなことないと思うけどなぁ……。

 

「迷宮探索が終わったらいつもの通りかな。じゃあ、ロクサーヌ。今日も一日よろしく」

「はい。私の方こそ今日も一日よろしくお願いしますね。それから……」

 

 そう言うと、彼女は俺の耳に顔を寄せる。

 

「今夜もたくさんかわいがってくださいね」

 

 その言葉が耳に入った瞬間、我慢が出来ず彼女を抱きしめて再度口づけを交わすのだった。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

八階層

 

 

 

 

 

 二日ぶりにベイルの迷宮で探索を行う。

 一昨日も探索して魔物部屋まで潰した階層だ。同じようにサクサク進んでいく。

 途中で朝食を挟んだものの、午前中のうちに待機部屋へ到着することが出来た。

 そして、ボスであるコラージュコーラルはクーラタルの迷宮で予習済みだったため、恙無く突破することに成功する。

 

 魔の七階層も、魔物が四匹になる八階層も問題なし。

 今のところ俺たちの迷宮探索は順調に進んでいるといえるだろう。

 キャラクター再設定というチート能力と、原作知識という攻略情報、そしてなにより、ロクサーヌが敵を引き付けてくれているおかげだ。

 それに、彼女がいるからこそ俺はモチベーションを維持して、迷宮に入っていられる。

 本当に彼女がこの世界に居てくれて良かった。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

九階層

 

 

 

 

 

 例によってロクサーヌに人の様子と待機場所について確認するが、いつもの通り人はそれほどおらず、待機部屋もわからないとのことだ。

 

「では、とりあえず一戦してみよう」

「はい」

 

 毎度おなじみの右手法で九階層の探索を開始した。

 通路を進んでいると程なくして、ロクサーヌの声が上がる。

 

「ご主人様、この先に敵がいます」

「わかった」

 

 スタッフをギュッと握りしめ、ゆっくり通路を進んでいくとそいつらの姿が目に入った。

 

スローラビットLv9

スローラビットLv9

コラーゲンコーラルLv9

エスケープゴートLv9

 

 駆け出す彼女を見送りながら念じると、火の粉が散り魔物の体が炎に包まれる。

 

 頼む! 一発で片付いてくれ!

 

 その様子を見ながら何かに願う。

 

 ロクサーヌは燃え盛るその体に近寄り、レイピアを突き刺して魔物の気を引き始めた。

 

 

 

 天に願いが届いたのかはわからないが、炎が消えると魔物達は次々倒れ、そのまま霧散していく。

 

 おっしゃ! 九階層もまだいけたぜ!

 

 スタッフとメギンギョルズのシナジーは本当にたいしたものだ。

 おかげでレベル上げが捗ることだろう。

 

 

 

「さすがご主人様です! やはり九階層の魔物をものともしませんでした!」

 

 ドロップアイテムを差し出しながら、満面の笑みを浮かべているロクサーヌに応える。

 

「問題なさそうだな。では、このまま探索を行おう」

「はい!」

 

 それらをアイテムボックスに放り込むと、再び通路を進む。

 

 

 

 途中にMP回復を行うものの、ロクサーヌが魔物を引き付けてくれるため、それを後ろから始末していく。

 四匹のグループに遭遇した際は、一匹抜け出してくることもあったが、タイマンで倒して残りを片付ける。

 魔物の攻撃をくらっても、装備品とレベル補正のおかげで特に問題はない。

 

 MP回復後に探索をしていると、ロクサーヌが告げた。

 

「ご主人様、そろそろお昼です」

「じゃあ、午前中はここまでにしておくか」

「はい」

 

 次の小部屋まで進み、キャラクター再設定を行う際にレベルを確認すると、ロクサーヌのレベルが上がっている。しかし、一方俺の方は動いていない。

 うーん……。やはり、レベルが上がるごとに必要経験値がえげつないことになってそうだなぁ。

 

 彼女にレベルアップを伝え、喜びを分かち合ってから迷宮を後にする。

 

 

 

 午後も同じように九階層の探索だ。

 魔物を焼き払いながら進んでいるとMPが心許なくなったため、回復を行うためにキャラクター再設定を開く。

 ついでに、レベルの確認を行うと、魔法使いが26になっていた。

 

 よし! これで魔法の威力が上がる!

 

 単純な知力の向上だけではなく、ダメージ計算式は不明なものの、メギンギョルズに付いている魔法攻撃力二倍のおかげで与ダメージにかなり影響を及ぼすだろう。

 

 その日のうちで待機部屋へたどり着くことは出来なかったが、終了時には探索者のレベルも上がっていた。

 

 

 

 翌日も朝からベイルの九階層の探索を続ける。

 そして、ロクサーヌからお昼が近いことを告げられた直後にそこへたどり着いた。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮九階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 午前中のうちに待機部屋へ到着したか。

 そんじゃ、午後からはウサギの肉集めだな。

 

 今回のボスであるラピッドラビットをワンパンすることは不可能だ。ロクサーヌに敵の注意を引いてもらわなければならない。

 そのため、彼女を待機部屋に残すわけにはいかないので、ここへ直接ワープで戻ることが出来ない。

 自分たちの分と帝都の高級服屋で依頼された分。それからソマーラの村へ渡す分で、多めに見積もって五十くらいの周回が必要だ。

 一番近い小部屋からの移動でも、待機部屋に直接ワープするのと比べれば、結構なロスになる。

 

 しかし、絶対に待機部屋へのワープを見られるわけにはいかない。

 

 セリーを購入できたのだ、別にそんなに急ぐようなことはないもんな。

 のんびり行こうじゃないか。のんびり。

 

 

 

 あ、どうせならアイテムボックスの二枠分を満たしておくか。

 それなら、自分達が食べたくなったときや、また依頼をされた場合でも、すぐに対応することが出来る。

 

 あとは、ボスを倒した後に十階層へ進み、一度戦闘をしてみるべきだろうか?

 

 ……ベイルの十階層はニートアントだ。

 通常攻撃でも毒になる可能性のある厄介な相手であり、スキル攻撃では確実に毒を受けるとのことだった。

 しかも上のほうで出現する場合、スキル攻撃の頻度が高くなるというヤバさだ。

 

 ニートアントは水属性が弱点のためワンパンできるはずだが、もし一撃で倒れなかった場合不味いことになる。

 パーティーメンバーが二人しかいない状況で、火力役である俺が毒になれば全滅という可能性が現実味を帯びてくるだろう。

 

 クーラタルの方で先に試すという手もあるが、そっちはそっちで糸攻撃という厄介なスキルを使うグリーンキャタピラーだ。

 糸攻撃をくらい身動きが取れないまま魔物にたかられてしまったら……。

 

 ……いや、一度試してみないことには何とも言えない。

 十階層の初戦では獲得経験値二十倍を外し、状態異常耐性装備である毘盧帽で耐性をガチガチに固めて戦闘を行ってみよう。

 確実に毒を与えるとはいっても、おそらく何らかの計算式は存在しているはず。

 スキルでの毒攻撃の付与率が百パーセントだとしても、対象の精神のパラメーターによる耐性で確率が減じ、また毒防御や毒耐性のスキルによって、さらに確率が落ちるものと考えられる。

 そして、毒無効のスキルは文字通り無効。つまり、完全耐性を得られるのだろう。

 たぶんこの推察は間違っていないと思うが、それに命をベットするのは怖いんだよなぁ。

 

 ……だが、やるしかないか。

 

 まあ、たとえワンパンできたとしても、十階層を狩場にするのはやめておこう。

 MP回復時に、毘盧帽なしに接近戦を挑むなんて危険すぎる。

 ニートアントとの本格的な戦闘は、毒を受けてもフォローが出来る人員を確保した上で、行うことにしよう。

 となると、クーラタルの九階層もニートアントが出現するんだ。そっちも保留にしておいた方がいいか。

 

 

 

 キャラクター再設定を終え、ロクサーヌに声をかける。

 

「では、行こう」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮九階層

ボス部屋

 

 

 

 

 

 ボス部屋に入ると、フロア内に装備品が転がっており、既にそこにいたラピッドラビットが、放たれた矢のように襲い掛かってきた。

 

「オーバーホエルミング!」

 

 叫ぶように上げたスキル名が何とか間に合い、赤い物体が空中でスローモーションに変わる。

 それを目掛けてラッシュを乗せた攻撃を浴びせていると、四回目の攻撃でラピッドラビットの体を霧散させることが出来た。

 

「ふぅ」

 

 思わず息が漏れてしまう。

 

 あー、びっくりしたー。

 こんなこともあるんだな。

 

 まあ、そりゃそうか。

 原作で確認した全滅は、どれもミチオの直前にボス部屋に入ったパーティーだけだった。

 しかし、普通に考えるならこんなことが起こってもおかしくない。

 いや、人が少ない迷宮の場合、こっちの可能性のほうが高いまであるな。

 

 逆に人の多い迷宮では全滅したパーティーがいたとしても、常に待機部屋で順番待ちが発生しており、その遺留品はすぐに回収されているのだろう。

 

 

 

「ご主人様! 装備品がこんなに! 運が良かったですね!」

 

 オーバーホエルミングが切れた途端にロクサーヌから歓声が上がる。

 

 おおう……。人死にを喜んでるで……。

 

 穏やかで優しい娘なのに本当にたくましいよなぁ。

 さすが魔物や迷宮、そして盗賊の脅威が身近にある世界で生きているだけあって、めちゃくちゃ頼もしいわ。

 

「そうだな、遺留品を集めたら十階層で一度戦闘をしてから戻ることにしよう」

「十階層で戦うのですか! それはワクワクしますね!」

 

 はいはい。君が喜んでくれて私も嬉しいよ。

 

 

 

「マジか……」

 

 集めた遺留品を確認していると、思わず声が漏れた。

 

強権のレイピア 片手剣

スキル 詠唱中断

 

 強権のレイピア……。そして防具は革シリーズで、革の鎧が五個に、一つだけ革のジャケットが混じっている……。

 おそらく、女性が一人いたのだろう……。

 

 ……まさか、あのときの奴らか?

 

 パーンは間違いなく突破していた。

 強権のレイピアがあったのだ、それほど問題はなかったのだろう。

 次のコラージュコーラルは、パーンよりだいぶ戦いやすい。おそらくこれも苦戦することなく倒せたはずだ。

 

 そして、九階層に上がっても、今までと同じ敵にスローラビットが追加されただけ。

 まったく問題なく戦えてしまったために、判断を誤りボスに挑んでしまったのか……。

 

 ラピッドラビットはスキル攻撃を多用するタイプではなく、その速度を活かして戦うタイプだ。強権のレイピアを持っていたとしても、それほど意味があったとは思えない。

 奴の速度に翻弄され、櫛の歯が欠けるように、一人また一人とやられていったのだろう……。

 

 ……俺たちも心しておかなければならない。

 身の丈を超えた挑戦をすると、そのツケを命で支払うことになる……。

 

 

 

 でもまあ、それはそれとして強権のレイピアを手に入れることが出来たのはラッキーだ。

 魔物のスキル攻撃をロクサーヌが潰せるというのは相当にでかい。

 

 彼女に強権のレイピアを差し出しながら告げた。

 

「ロクサーヌ、今手に入れたこいつは強権のレイピアだった。君の武器を変更しよう」

「強権のレイピア! このように高価な武器をお預かりしてよろしいのでしょうか……」

 

 躊躇しているロクサーヌに頷きながら言葉を続ける。

 

「もちろんだ、ロクサーヌが魔物のスキルを潰せるようになるのは本当に心強い。遠慮せずに受け取ってくれ」

「かしこまりました。このような素晴らしい武器を預けていただいたのです。ご期待に応えられるよう努めます」

 

 彼女はそう言って強権のレイピアを受け取ると、今まで使っていたレイピアを俺の方へ戻した。

 受け取ったそれと一緒に、集めておいた装備品をアイテムボックスにしまい込む。

 他にはスキル付きもスロット付きもなかったかぁ。

 

 その作業をしている間に、彼女は新しいおもちゃを手に入れた子供のごとく、楽しそうに武器を振るって感触を確かめていた。

 

 

 

 めちゃくちゃ嬉しそうにしてるぞ。

 本当に、人の生き死にに対してドライだわぁ。

 

 まあ、それを言うなら俺のほうこそか。

 

 このような事態に遭遇したのに、考えることといえば、無謀な真似はしないように気をつけようとか、強権のレイピアを手に入れて運が良かったくらいのものだ。

 それに、殺す覚悟なんてことをいちいち思い悩むこともないし、盗賊なら即殺してしまえる。

 

 日本にいたときには気が付かなかったが、我ながら異世界転移に向いた性格だったんだなぁ。

 

 魔結晶はすべて青未満だったため、手持ちの物へ融合しながら考える。

 

 さて、身の丈に合わない挑戦……。

 今回挑もうとしている十階層のニートアントはどうなのだろう?

 無謀なチャレンジではないのか?

 

 ここは一旦スルーして、セリー加入後に出直すか?

 

 ……おそらくそれがベストだ。

 ロクサーヌが三匹を抑え、セリーが足止めをしてくれるのなら、俺は攻撃に集中できるし、誰かが毒になってもフォローが容易となる。

 毘盧帽が本当に毒攻撃を無効化するのかもわからないし、今ここでリスクをとる必要はまったくないだろう。安定をとるべきだ。

 

 でもなぁ。ロクサーヌに十階層に上がって、試してみるって言っちゃってるしなぁ。絶対納得しないよなぁ。

 

 とりあえず説得してみるか。

 

「ロクサーヌ」

「はい?」

 

 武器の確認をしている彼女に呼びかける。

 

「ここで全滅した奴らは、自分たちの力と魔物の力を見極めることが出来なかったため、このようなことになったのだと思う」

「そうですね。迷宮探索を行うものとして最も大切な、彼我の戦力の見極めが出来ていなかったのでしょう」

 

 ……ロクサーヌさん、言うじゃないですか。

 

「俺たちも同じ轍を踏むわけにはいかない。十階層のニートアントは毒を用いた攻撃を行う厄介な相手だ。現状の二人パーティーでは手に余るだろう。今回は一旦出直すべきだと思うのだが、どうだろうか?」

「大丈夫です! ご主人様ならなにも問題ありません!」

 

 俺の言葉を聞いたロクサーヌは大声でそれを否定する。

 いや、君がさっき言っていた彼我の戦力を見極めた上での発言なんだけど……。

 

「もちろん殲滅力だけなら間違いなく通用すると思う。だが、万が一俺が毒をくらってしまえば、全滅しかねないのだ。無理をするわけにはいかない」

「ご主人様は私がお守りします。絶対に毒になるようなことはありません」

 

 強い光を目に宿し、彼女はそう宣言した。

 

「どんなことがあろうとも、ご主人様の身は私がお守りいたします。ですが、ご主人様がその言葉を信じることが出来ないということでしたら、私はそれに従います」

 

 こちらをしっかりと見据えて、放たれた言葉に心を奪われてしまう。

 ロクサーヌ……。いくらなんでもその言い方はずるいぞ。

 

 彼女が絶対に守ると言った。

 俺の女神であるロクサーヌがそう言ったのだ。

 間違いなく命がけで守ってくれることだろう。

 

 心の中の冷静な部分が流されるなと言っている。

 一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼすと言われればぐうの音も出ない。

 

 無謀な挑戦を行うわけにはいかないが、彼女にここまで言わせたのだ。

 今回はチャレンジを行おう。

 

 なあに、いざとなったらワープを使って逃げ帰ればいい。

 

「ありがとう。そこまで想ってもらえてとても嬉しい。前言撤回だ。十階層に挑んでみようと思う」

「ご主人様、私のことを信頼してくださりありがとうございます。絶対にその信頼を裏切ることはないと誓います」

 

 怖いくらいに鋭い表情をしたロクサーヌと見つめ合ったまま、声をかける。

 

「では、十階層で一度戦ったらお昼にしよう」

「かしこまりました」

 

 

 

 それにしても、十階層でたった一戦行うだけのことで、めちゃくちゃシリアスなやり取りをしてしまった……。

 なんか冷静になるとめちゃくちゃ恥ずかしいな。

 てれりこ、てれりこ。

 

 ……でも彼女の言った、どんなことがあろうとも守るという言葉には、本当にグッと来たんだ。

 毘盧帽もついていることだし、偶には一時のテンションに身を任せるのも悪くないんじゃないか?

 

 

 

 ボーナスポイントの振り分けが終わると、次の階層へ続く扉を潜る。

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv27 英雄Lv22 魔法使いLv26 戦士Lv24

装備 スタッフ 鋼鉄の盾 毘盧帽 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

詠唱省略:3

ワープ:1

結晶化促進四倍:3

アクセサリー四:15

頭装備:63

 

所持金:1,048,904ナール

 

春の14日目

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