異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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076 ウサギの肉

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

十階層

 

 

 

 

 

 十階層についたところで、ロクサーヌに待機部屋の場所を確認してもらう。

 今は探索することはないので、念のためだったのだが発見することは出来なかった。

 

 まあ、常に待機部屋に列が出来ているような迷宮じゃないと、匂いで探し出すのは難しいのだろう。

 そして、そんな迷宮なら確実に地図があるはずだしな。

 

「それでは、一戦してみよう」

「かしこまりました」

 

 小部屋の右側にある通路に入りそこを進んでいくと、すぐに魔物の群れと遭遇する。

 

ニートアントLv10

ニートアントLv10

コラーゲンコーラルLv10

 

 こっわ! デカいアリってめちゃくちゃ怖いぞ! これはヤバいだろ!

 こちらを威嚇するように、カチカチと顎を鳴らしている様子は、見ているだけで寒気がする。

 あの顎なんて、まるで鋏のようだ。あんなんで噛みつかれたら、肉を食い千切られるんじゃないのか?

 

 いやいやいや、無理無理無理。

 さっさと片付けよう!

 

ウォーターストーム

 

 魔物の周辺にしぶきが発生し、それがあたった瞬間、奴らの体を水流が包み込み、そのまま表面を動きだした。

 絶え間なく動き続けるその様子は、まるで意志を持った水に襲われているかのようだ。

 

 しばらくそれが続くと不意に水が消え、ニートアントが倒れ徐々に体が空気に溶けていく。

 しかし、コラーゲンコーラルの方は健在でロクサーヌへ向かい始めた。

 

 くそっ! 一発じゃダメか!

 

ファイヤーストーム

 

 リキャストタイム明けに、安心と信頼のファイヤーストームをお見舞いしたところ、今度は問題なく倒すことに成功する。

 

 

 

「ふぅ」

 

 毒針とコーラルゼラチンをアイテムボックスにしまうと、口からため息が漏れた。

 

 十階層はワンパン出来なかったか……。

 ニートアントは水が弱点のため一撃で倒れたが、他の魔物では二発必要になるのだろう。

 

 あ、いや。もしかしたら水魔法の威力が弱い可能性はないか?

 ファイヤーストームなら1確出来ていたはずなのに、ウォーターストームだったため倒せなかったと考えられなくもない。

 ニートアントは水が弱点だが、他の属性に耐性があるわけではないため、ウォーターストームだとオーバーキルだったとか?

 

 よし、もう一戦して確かめてみよう。

 

「ロクサーヌ。少し実験をしてみたい。もう一度戦ってもいいか?」

「実験ですか?」

 

 先ほどの考察を説明すると、彼女は嬉しそうに乗ってくる。

 

「さすがご主人様です。それでは、次の魔物へご案内いたしますね」

 

 そう言ってロクサーヌは、スタスタ歩き出した。

 おーい。一人でさっさか進むんじゃありません。

 

 

 

 彼女が案内する方へ歩いていると、すぐに魔物と鉢合わせた。

 本当、さすがロクサーヌの鼻だわ。

 

ニートアントLv10

ニートアントLv10

スローラビットLv10

エスケープゴートLv10

 

 姿を確認し、即座に念じる。

 

ファイヤーストーム

 

 いつものように魔物が炎に包まれると、ロクサーヌがこまめに攻撃を入れていた。

 今持っているのは強権のレイピアだからな。

 スキルを使おうとしても即座に潰すことが出来る。この行動はかなり有効かもしれない。

 

 しばらくして燃焼が収まるが、魔物は全て健在だ。

 

 くそっ、当ては外れたか。

 思わず舌打ちが出てしまった。

 

 動き出した魔物をロクサーヌが抑えているうちに、リキャストタイムが明けたため、もう一発撃ち込んでおく。

 

 

 

 そして、炎が消えると今度は全ての魔物が倒れていった。

 

「ご主人様、どうぞ」

「ありがとう」

 

 受け取ったアイテムをしまいながら考える。

 

 属性によって魔法の威力に差があるのかは正直よくわからなかったが、とりあえず現在の俺では、スタッフとメギンギョルズを用いようとも、十階層の魔物をワンパンすることは出来ないということがわかった。

 しかし、魔法使いと英雄のレベルが上がれば、パーティー効果の知力上昇も上げ幅が大きくなっていく。

 いずれは十階層の魔物も一撃で倒せるようになるだろう。

 

 それまでは九階層でレベル上げに勤しむさ。

 

 

 

 それにしても毒針が手に入ったな……。

 これがあれば暗殺者のジョブ獲得の条件を満たすことが出来る。

 ノンアクティブの魔物に使うと、毒になるまでは攻撃とは認識されないんだったよな。

 ソマーラの村の森で出てくるスローラビットはノンアクティブだ。

 しかも転移初日とは違い、今ならワープで森の中に移動することも出来るし、ロクサーヌの鼻ですぐに発見することも可能だろう。

 ウサギの肉が用意出来たらあの村へ行くことになるのだ、毒針を集めるのもありか?

 危険なニートアントはウォーターストーム一発で沈むため、リスクは小さいだろう。

 

 

 

「ご主人様?」

 

 思索に耽っていると、ロクサーヌが声をかけてきた。

 

 ……そうだな。今ここで悩むことじゃない。

 

「すまん、少し考え込んでいた」

 

 食休みのときにでもロクサーヌに相談しよう。そうしよう。

 

「では、戻ろう」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 自宅に戻ると、アイテムボックスを圧迫しているボス部屋に残されていた装備品と、ロクサーヌから受け取ったレイピアをリビングに置いておく。

 今日の手入れのときに一緒に磨いてから物置にしまい、次回の武器屋と防具屋巡りのときに売り払おう。

 彼女と交換したレイピアについてはスロットが付いているため、何か適当なスキルを付けてから売却だな。

 

 

 

 食事をとり、歯磨きを済ませて、ソファーに腰を下ろしたタイミングでロクサーヌに話しかける。

 

「ロクサーヌ。相談したいことがあるんだけどいいかな?」

「はい、何でしょうか?」

 

 後ろから抱きしめられている彼女は、顔をこちらに向けて返事をした。

 これめちゃくちゃかわいいなぁ。それに、後ろを向くため体をよじっているので、幸せが詰め込まれた大きくて柔らかな物体が腕にあたっている。

 

 しかし、この体勢だと相談事がしにくいぞ……。

 

「ちょっとごめんね」

「きゃっ」

 

 脚の間に座っていたロクサーヌを横抱きにして膝の上に座らせた。

 そして、そのまま抱きしめて顔を合わせる。

 

「ご主人様、強引です……」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「あの、嫌ではないです……。強引なご主人様も素敵です……」

 

 くっ。このまま何もかも忘れてイチャイチャしたくなるぞ!

 

 ……しかしそれはダメだ。

 風呂とベッドというお楽しみが待っているのに、日中のやるべきことを疎かにするわけにはいかない。

 

 ……だが、チューはいいよな?

 かわいいことを言うロクサーヌが悪いのだ。

 なら、チューはオッケーなはず。

 

 ゆっくりと顔を近づけると、彼女は目を閉じ受け入れてくれる。

 

 

 

「えっと、あの、相談があるのですよね?」

「うん。聞いてくれる?」

 

 口づけが終わり、こちらに問いかけるロクサーヌの顔は、朱に染まっており、はにかんだような笑みが浮かんでいた。

 

「どういったことでしょうか?」

「十階層のニートアントを倒して毒針が手に入ったでしょ? ソマーラの村の近くにある森ではスローラビットが出てくるんだ。いい機会だから、これを集めて暗殺者のジョブを取得しておこうと思うんだけど、どうかな?」

「ウサギの肉を持っていくついでに可能なので、とても良いお考えだと思います。毒針を二十個ほど用意しておけば、間違いなく毒を与えることが出来るでしょう」

 

 ロクサーヌ的には問題ないようだ。

 まあ、ニートアントにビビっているのは俺のほうだもんな。そりゃそう言うわ。

 

「それじゃあ、午後一番は毒針集めから始めよう」

「はい、ご主人様は私がお守りいたします」

 

 そんなこと言われたら、恋に落ちる音が聞こえてくるぞ。

 好き! ロクサーヌ大好き!

 

 

 

「その後は、アイテムボックスの二枠をウサギの肉で埋めようと思う」

「二枠……。ご主人様の探索者レベルは27ですよね?」

「うん。今日はまだ上がってないからね」

 

 問いかけに答えると、彼女は驚いたような表情を浮かべる。

 

「……すごい言葉です」

 

 ロクサーヌは、驚いたような、感心しているような、呆れているような、何とも言い難い複雑な顔で、そう呟いた。

 

「すごい言葉?」

「昨日探索者のレベルが上がっているのに、今日はまだ上がっていないなんて、普通の人は絶対に口に出来ない言葉だと思ってしまいました」

 

 あ、確かにそうだわ。

 今日も上がるかもと思っていない限り、そんな言葉は出ないだろう。

 他人の前で似たようなことを言うと不味いぞ。気を付けなければ。

 

 

 

「ええっと、まあ、それは置いといて、レベル27だから五十四個だね」

 

 集める個数を告げると、彼女は頷いた。

 

「それだけあればソマーラの村の分や依頼を受けた分、それから自分たちで使用する分を含めても十分だと思います」

「じゃあ、午後からは毒針とウサギの肉集めってことで」

「かしこまりました」

 

 午後の目標が決まったところで、両手をロクサーヌの頬に添えて告げる。

 

「それじゃあ、もうしばらくイチャイチャしていい?」

「あの、はい、私もしたいです……」

 

 再び顔を近づけ、唇を重ねた。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

十階層

 

 

 

 

 

 午後からは毘盧帽ではなく、いつもの獲得経験値二十倍に戻しておく。

 ニートアントが一発で沈むため、これでもまったく問題ないだろう。

 

 待機部屋を探すためではないので、ロクサーヌの探知に引っかかった魔物を片っ端から狩っていく。

 

 午前中に手に入れた分もあったため、MP回復を挟むことなく、すぐに集め終わった。

 

「この後はラピッドラビット狩りだな。では九階層へ行こう」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮九階層

ボス待機部屋

 

 

 

 

 

 一番近い小部屋から待機部屋へと移動する。

 

 うん。待機列はなし。

 さすがベイルの迷宮。ナイス過疎。

 

「ボーナスポイントの振り分けを行うので、少し待っていてもらえるか」

「はい」

 

 とりあえず必要なものは、キャラクター再設定とオーバーホエルミングを使うための詠唱省略。そして、ボス部屋から小部屋まで移動するためのワープ。

 

 必要経験値十分の一はどうするか……。

 

 ……前回のボスマラソンのように切羽詰まっているわけではない。ここは付けたままでいこう。

 

 鑑定とフォースジョブはそのままにしておくとして、残りは81ポイント。

 武器六の63ポイントと腕装備二の3ポイントを除けば、正味の残ポイントは15か。

 

 ……結晶化促進十六倍だな。ボスの魔力は五なので一回当たり八十ナールの儲けになる。見逃すには惜しい額だ。

 

「鶏肋、鶏肋……」

「鶏の肋骨ですか?」

 

 曹操を気取って呟いた言葉が直訳されてしまったのだろう。

 ロクサーヌが不思議そうな表情で尋ねた。

 ここで長々と故事成語の説明をするわけにもいくまい。

 

「説明すると長くなるので、機会があればその時にな」

「はい、わかりました」

 

 

 

 結晶化促進十六倍にポイントを振り、ボーナス装備を出せば残ポイントはぴったり0だ。

 うん、バッチリバッチリ。

 よし、ラピッドラビット狩りを開始しよう。

 

 準備が整ったところでロクサーヌに声をかける。

 

「それでは、始めよう」

「はい! ボス戦を繰り返すなんてワクワクしますね!」

 

 別にワクワクはしないが、コボルトケンプファーを連続で狩ったときとは違い、今回はこのままロクサーヌと一緒に行えるのだ。モチベーションは段違いだな。

 

 さて、いっちょやりますかね。

 

 

 

 

 

 ワンセットを終え待機部屋に戻る。

 

 ……これは不味いかもしれない。

 

 前回のボスマラソンとは違い、ワープでボス部屋に乗り込むことが出来ないため、扉の開閉に時間がかかっている。

 倒し終わったあとは、小部屋に戻ってから待機部屋に移動するので、小部屋の壁が下りる演出が発生し、いちいちそれが終わるのを待たなくてはならない。

 

 これ、下手したら十分以上かかっていないか?

 今日だけじゃ、二枠なんて絶対無理だぞ。

 

 しかも、倒すまでの間にオーバーホエルミングを二度使用し、ラッシュを乗せた攻撃を十発以上入れている。

 実時間はともかく、体感時間は結構なものだ。

 

「予想外に時間がかかったな。このペースだと明日の午前中まで、これを繰り返すことになりそうだ」

「はい! 望むところです!」

 

 マジで?

 さすがロクサーヌ。すげーメンタルしてんなぁ。

 

 

 

 

 

 この後、ひたすらボス部屋の周回を続けていった。

 一人だと間違いなくへこたれていただろうが、嬉々としてラピッドラビットのヘイトを取り続けるロクサーヌのおかげで、めげることなく戦い続けることが出来ている。

 そして、戦闘が終わるとウサギの肉を拾い、それを渡してくれる際に目にする彼女の笑顔で、その都度やる気が回復し、モチベーション維持につながってるわ。

 

 

 

 時間を忘れて狩りにいそしんでいると、ロクサーヌがウサギの肉を差し出しながら声をかけてきた。

 

「ご主人様、そろそろ夕方になります」

 

 その言葉で、どっと疲れが押し寄せてくる。

 前回の作業そのもののボスマラソンもきつかったが、今回のラピッドラビットは高速移動を行うため、最悪のタイミングでオーバーホエルミングが切れてしまったら、怪我を負いかねないという緊張感がつきまとう。そのため、本当に気を抜くことが出来ない。

 

 しかし、そんな状況にあってロクサーヌの表情はどうだ。満足感に満ちた実に良い表情をしている。

 まったく。本当に頼りになるお嬢さんだこと。

 

 

 

 ウサギの肉を受け取ってアイテムボックスにしまい数を確認してみると、一枠は埋まっており、今回受け取った分でもう一枠が増えたところだった。

 最初に毒針集めをしたとはいえ、あらかじめ二個持っていたというのに、ようやく折り返しを越えたところか……。

 

 ……明日の午前中もずっとウサギ狩りだな。

 

「それじゃあ、今日はここまでにしよう」

「かしこまりました。明日もこの続きが出来るのですね! 本当に楽しみです!」

 

 私は楽しみじゃないです……。

 

 

 

 

 

 今日も朝からウサギ狩りの続きだ。

 ウサギのシェーマ焼きは今日の晩飯に延期になっているんだ。張り切っていくぞ。

 それに、昨晩の情事を思い出すだけでテンションはマックス。やる気に満ち満ちている。

 

 今の俺は誰にも止められねぇぜ?

 

「それじゃあ、始めよう」

「はい」

 

 

 

 ロクサーヌと協力しながら、淡々とラピッドラビットを倒していく。

 無心になってひたすらこなしていると、小部屋に戻ったタイミングで彼女はスンスンと匂いを嗅ぎだした。

 

「ご主人様、こちらへ向かってくるパーティーがいます」

 

 あー、良いリズムが出来ていたのに集中が切れちまう。

 

 だが、まあしょうがない。別に俺たち専用の迷宮ってわけじゃないんだ。そういうこともあるわな。

 早朝の探索はここまでにして朝食にするか。

 

「ロクサーヌ。パン屋の開店時間はどうだ?」

「そうですね……。いつもより少し早いですが問題ないと思います」

 

 そんじゃ、さっさと撤退しようかね。

 

 

 

 朝食と食休みを済ませると、再びベイルの迷宮へ戻る。

 

「できればボス部屋の周回は午前中で終わらせたい。少し昼食が遅れるかもしれないが大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

 

 まあ、動きが最適化されてきたのか、ペースが上がってきているため、そこまで遅くなることもないだろう。

 

「では、続きといこう」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 その後も、ひたすらボス戦を繰り返しウサギの肉を集めていく。

 途中でまたもや他のパーティーがやって来たため、待機部屋で時間を取られたものの、他には大きな問題が起きることなくこなし続け、遂に目標の数をそろえることに成功したのだった。

 

 念のためアイテムボックスを開いて確認を行うと、ウサギの肉二十七個が2スタックちゃんと揃っている。

 

「よし、午前中はここまでにしておこう。こんなスムーズにラピッドラビット狩りが行えたのはロクサーヌのおかげだ。本当にありがとう」

「ふふ。お役に立てて嬉しいです。短時間の間に、これだけの数のボスを倒すなんて聞いたこともありません。ご主人様、貴重な体験をさせていただきありがとうございます」

 

 確かにそうかもなぁ。

 俺もデュランダルとオーバーホエルミングがなければ、こんなことやろうなんて思わないもん。

 

「それじゃあ、昼食にするか」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 昼食を食べ終わると、ソファーでくつろぎながらロクサーヌと打ち合わせだ。

 

「午後からはいよいよ本格的なレベル上げを開始しよう」

「本格的なレベル上げですか?」

 

 彼女は頭からハテナが浮かんでいそうな表情で問いかける。

 

「うん。今までは地図を使って一気に駆け抜けるか、待機部屋を探すための探索が主だったよね」

「そうですね。上を目指して進んできました」

 

 ロッドとスタッフ、それにメギンギョルズ。そして何といっても原作知識のおかげで行き詰まることなく階層を駆け上がってきた。

 

「だけど今日の午後からは、ロクサーヌが持っている魔物を探し出す能力を最大限に活用して、一匹でも多く狩っていく。君に負担をかけてしまうことになるけど大丈夫?」

「おまかせください。その程度のことは何でもありません」

「ありがとう。本当にロクサーヌは頼りになるよ」

 

 その言葉がよほどうれしかったのか、彼女は輝くような笑みを浮かべていた。

 

「セリーが加入して、戦力として数えられるようになるまでは、魔物が一撃で倒れ、危険が少ないベイルの九階層でレベルを上げていこう」

 

 ぶっちゃけ、九階層までワンパンできるとは思わなかったからなぁ。

 当初は原作と同じように、クーラタルの七階層でウサギ狩りをしながらレベル上げに勤しむことになると思っていた。

 しかし、こんなに早くスタッフを手に入れることが出来た上に、メギンギョルズなんていうとんでもないボーナス装備が使えたため、迷宮探索における予定がかなり早まっている。

 

「十階層でも戦えていたようですが……」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は、案の定、難色を示す。

 

「確かにロクサーヌの言う通り戦えていたけど、それはあくまでも魔法を用いた場合だよね。MPが足りなくなって、デュランダルで近接戦を行うと、俺は絶対に攻撃をくらうだろう。ニートアントは通常攻撃でも毒を受けてしまう可能性があるんだ。もしそうなったら全滅しかねない」

 

 そのため、九階層でニートアントが出てくるクーラタルの迷宮についても、先送りにするつもりだしな。

 

「確かにそうかもしれませんが……」

 

 彼女にとって俺のプランは、不満を覚えてしまうものなのだろう。

 この世界において、迷宮に入って生きていこうと思う者は、いけるとなればどこまでもいこうとしてしまう傾向があるような気がする。

 逆にいうと、そういう人でもない限り、危険と隣り合わせな迷宮探索稼業は務まらないのかもしれない。

 

 

 

 だが、そんな生き方はまっぴらごめんだ。

 

 生死が懸かった、ひりつくような戦闘を行ってしまえば、パーティーに犠牲者が出てしまうだろう。

 彼女には悪いが、戦闘を行う際は準備を万端に整えた上で行う。段取り八分、仕事二分を徹底する。

 ヌルゲー最高! ヌルゲー万歳!

 

「なにもずっと上に行かないと言うつもりはないよ。ただ、現状では毒の危険が大きすぎるため、それのフォローを行える者が加わるまで保留するというだけのことなんだ。もちろん、いずれは迷宮討伐を成し遂げるつもりだしね」

「なるほど、確かにそうかもしれません。ご主人様はいずれ迷宮討伐を成し遂げ貴族に列せられるお方。焦る必要はないですよね」

 

 原作知識という神通力は、夏の途中までという明確な期限がある。

 そして、魔物やジョブについては描写されていないことも多い。

 それはセリーに頑張って調べてもらうことになるが、いつまでも準備万端というわけにはいかないだろう。

 しかし、だからこそ取れる対策を疎かにするわけにはいかない。

 犠牲者が出たときに後悔しても遅いのだから……。

 

 

 

「じゃあ、午後からはベイルの九階層で魔物の殲滅ってことで」

「はい。それにしても、ご主人様の殲滅力をもってすれば物凄い数の魔物を倒すことが出来そうですね。セリーが加入するまでにどれほど強くなれるか楽しみです」

 

 本当にそうだわ。

 ロクサーヌの超高性能レーダーで素早く敵を捕捉し、スタッフとメギンギョルズの効果でワンパン。そして経験値効率は二百倍で、そのうち四百倍も可能になる。

 マジで、ハルツ公領の災害救助までに冒険者になれるかもしれないぞ。

 冒険者は無理だったとしても遊び人は確実だ。

 そうなると、火力アップで階層を上げることもできる。

 

 オラ、ワクワクしてきたぞ!

 

 

 

「あと、午後の探索は早めに切り上げ、ソマーラの村へ行ってウサギの肉を渡してこよう」

「かしこまりました。きっと、村の人たちは大喜びでしょうね」

 

 そうだなぁ、喜んでもらえるといいなぁ。

 その後はスローラビットを毒で倒して暗殺者の条件をクリアだ。

 

 あ、ついでに槍でも倒しておくか。

 攻撃力五倍と腕力五倍のついたボーナス装備を身に着けておけば、銅の槍でも問題ないはずだ。

 ロクサーヌにも同じことをしてもらい、彼女のほうも騎士取得の条件を満たしておこう。

 

 その思い付きを伝えた後は、ロクサーヌの柔らかで温かな重みを感じながらのんびりと過ごす。

 彼女のほうも、くつろいでいるようで、完全に体重をこちらへ預けていた。

 

 ずっとこんな日々が続くといいなぁ。

 

 

 

 幸せなひとときが終わると、物置に行って銅の槍をアイテムボックスにしまい込む。

 さて、殺伐とした迷宮探索稼業の再開だ。

 

 そんじゃ、午後からも頑張りまっしょい。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv27 英雄Lv22 魔法使いLv26 戦士Lv24

装備 サンダル

 

BP振分 残BP:3

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

鑑定:1

詠唱省略:3

ワープ:1

結晶化促進十六倍:15

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,048,938ナール

 

春の15日目

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