異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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082 精油

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

「それじゃあ、朝の準備を始めようか」

「はい」

 

 薄暗い中、ロクサーヌが今身に着けているであろう、白のキャミソールと黒いランジェリーの組み合わせを思い出し、どうしても彼女の姿を目で追ってしまう。

 白い肌を淫靡に彩るそれのせいで、昨夜はずっと興奮してしまい、何度も彼女を求めてしまった。

 応じてくれるだけではなく、彼女自身も俺を求めてくれたのが本当に嬉しい。

 

 夜の営みを素晴らしいものへとするために、今後も色々な衣装を用意しなければ。

 

 

 

 一通り準備を終えたところで、今日の予定を確認する。

 

「早朝はいつも通り迷宮に入って、パン屋が開く時間で切り上げて朝食をとる。その後は、ハーブを扱っている店へ行ってみよう」

 

 せっかく石鹸を作るなら、良い匂いのするものがいいからな。

 それを聞いたロクサーヌは、不思議そうな顔で問いかけてきた。

 

「ハーブを購入するのですか?」

「ハーブじゃなくて精油を探しに行こうと思ってね。良い匂いの石鹸が欲しいから、作るときに混ぜ込んでみようと思ってさ」

「良い香りの石鹸……。そんな高価なものを作ってしまうなんて、すごいです!」

 

 まあ、上手くできるかわからないんだけどな。

 

「それが済んだら武器屋、防具屋巡りとセリーの面会に行こう」

「はい。セリーのブラヒム語は、前回とても流暢になっていたので、今回どうなっているのか楽しみですね」

「確かにそうだね。頭が良いのもあるんだろうけど、本人が意欲的に取り組んでいるのが大きいのかも」

 

 原作でも奴隷になればブラヒム語を習うことができると言っていた。

 知識欲旺盛な彼女のことだ、ブラヒム語で書かれている本が読めるということをモチベーションに、頑張っているのかもしれない。

 

「そうですね。信じられないほど良い待遇なのです。彼女もその恩恵を受けるため、必死に取り組んでいるのでしょう」

 

 ああ、それもあるか。誰かさんが色々吹き込んだからねぇ。

 

 

 

 あとは、普段使い用の下着を注文しなければ。

 

「その後は帝都の服屋へ行って下着を注文しよう。日中に着用する分になるから、着け心地優先で注文してもらえる?」

「よろしいのですか?」

「もちろん。今回もそれぞれの店に二セットずつ注文しておこう」

「ご主人様、ありがとうございます」

 

 彼女にはかわいい下着を着けてもらいたいからな。

 かぼちゃパンツはさすがにマニアック過ぎるぞ。

 俺はそこまで上級者ではなかったようだ。

 ついでに男物のトランクスも注文しておくか。

 

「それが終わると、ロクサーヌの買い物だね。今日も帝都を回るってことでいいの?」

「ありがとうございます。五日ごとに帝都で買い物ができるなんて、本当に夢のようです」

 

 めちゃくちゃ喜んでいるのがかわいらしいなぁ。

 帝国に住んでいる人は、やはり帝都に憧れがあるのかもしれない。

 

 

 

「それじゃあ、今のうちに給金を渡しておこうか」

 

 アイテムボックスを開き、銀貨十枚を取り出して彼女へ差し出す。

 

「ロクサーヌ、いつも支えてくれてありがとう。これからもよろしくね」

「私のほうこそ、いつも良くしていただきありがとうございます。これからもご主人様と一緒に過ごしていきたいです」

 

 うん。生涯を共に過ごしたいもんだ。

 

「そのあとは、いつものようにで」

「はい」

「それじゃあ、装備を整えたら迷宮へ行こう」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 早朝の探索を終え、食事をとってしばらく休んだ後は買い物に出る。

 まずは、武器屋と防具屋を巡ってみるものの、やはり目ぼしいものは見当たらない。

 

 気分を切り替えて、次はハーブを扱っている店へ移動する。

 

「いらっしゃいませ。本日もブーケガルニですか?」

 

 店内に入ると、店員が声をかけてきた。

 ポトフのたびにここでブーケガルニを買っているので、覚えられていたようだ。

 

「いや、今日は精油が欲しくてな」

「ありがとうございます。どういった精油をお探しでしょうか?」

 

 どういった? うーん……。

 とりあえず、一つはオーソドックスにミントだよなぁ。

 他にはどんなものにしよう……。

 

 フローラル系よりはさっぱりした感じのほうがいいかもしれない。柑橘系とかあるのかね?

 あとは店員におすすめを尋ねてみるか。

 

「まずミントの精油を頼む」

「ありがとうございます」

 

 そう言うと彼女は近くの棚から小瓶を取り出した。テスターなのだろうか?

 

「こちらがペパーミントの精油で一瓶五百ナールと大変お求め安くなっております。どうぞご確認ください」

 

 五百ナールがお求めやすい価格なのか……。精油ってめちゃくちゃ高級品なんだな。

 店員が瓶のふたを開けたので、匂いを確認するため顔を近づけようとすると、その必要がないほど清涼感のある爽やかな香りが漂ってくる。

 

 相当強烈だから念のため、ロクサーヌに確認しておくか。

 

「どうだ? 匂いはきつくないか?」

「かなり強い匂いですが、入れるときに量を調整すれば問題ないと思います」

 

 なるほど、混ぜるときに気を付けておこう。

 

「ではこれを頼む。他には柑橘系のものはあるだろうか。あとは、おすすめがあれば教えてもらいたい」

「柑橘系ですと、こちらはいかがでしょう?」

 

 先ほどと同じように店員がふたを取ると、さわやかな香りが漂ってくる。

 

 ん? これレモンっぽいな。

 

「こちらはレモンの精油となります。いかがでしょうか?」

 

 レモンがあんのかよ!

 

 あ、いや。ニンジン、ジャガイモ、たまねぎ、ニンニク、ショウガだってあるんだ、今更か。

 

 ロクサーヌのほうを確認すると、うっとりと香りを確認している。

 気に入ったみたいだな。じゃあ、こいつも買いで。

 

「これも購入しよう」

「ありがとうございます。レモンの精油は一瓶八百ナールとなります」

 

 嘘だろ、おい。

 この一瓶でキャミソールと同じ値段がするの?

 マジかよ……。

 

 ……だが、今更要らんとも言えない。

 

「うむ、頼む。他におすすめの物はあるか? まあ、二つでも十分なので購入するかはわからんのだが」

 

 あまり高級な物をすすめられても購入するわけにはいかない。

 予防線を張っておかなければ。

 

「そうですね……。私の一番のおすすめはこちらになります」

 

 店員は棚から小瓶を取りふたを開けると、そう言った。

 

 俺の鼻腔に甘い香りが、ふわりと舞う。

 

「これ、バニラ!」

 

 気が付くと、思わず大きな声を上げていた。

 

「ご存じでしたか。こちらはバニラの精油になります」

 

 まてまて、この世界にバニラビーンズがあんの!?

 

「バニラビーンズは普通に売られているものなのか?」

「いえ、ギルドから購入するのは難しいですね。なにせ、バニラビーンズを残すのは、クーラタルの迷宮だと六十九階層のボスである、スパイラルスパイダーとなりますので、なかなか……」

 

 魔物のドロップ品なの!?

 それに、スパイラルスパイダーって!

 バニラビーンズってスパイスの括りになるんだろうか?

 もう、何が何だかよくわからない。

 

「ということは、購入しようとしても無理か」

「はい。そこまで行けるようなパーティーなら、知り合いの商会にすべて卸してしまいます。私どももそういったところからしか購入することが出来ません」

 

 自力で入手できるようになるのは、かなりの時間がかかりそうだ。

 それに、手に入れたとしても、自分たちでバニラビーンズを発酵、乾燥させて成分を抽出するなんて無理だろう。

 

「ちなみに、バニラで料理に使えるものはあるのか?」

「それでしたら、食用のバニラエッセンスがございます。こちらは貴族や富豪が使用する高級品です」

 

 バニラエッセンスもあるのか!

 これを購入すれば、デザートのクオリティーが跳ね上がること間違いなしだぞ!

 

 しかし、貴族や富豪が使用する高級品……。

 値段を聞くのが怖くなるな。

 

「いくらになる?」

「バニラの精油は一瓶二千五百ナール、バニラエッセンスも同じく一瓶二千五百ナールとなります」

 

 なんだその値段は! ぼったくりか? ぼったくりなのか!?

 

「そうか……。かなり値が張るのだな」

「はい。材料のバニラビーンズがかなりの金額になるため、どうしても安く提供することが叶いません」

 

 高階層ボスのドロップ品な上に、販売額には商会の儲けも乗せられていることだろう。

 その価格となってしまうのも道理か……。

 

 

 

 ……だが欲しい。

 

 お菓子作りだと少量しか使わないし、あの瓶のサイズだとかなり長いこと持ちそうだよな? 買ってもいい気がする……。

 

 あ、でもスクリューキャップじゃないし、すぐに匂いが飛ぶわ。

 

 いや、今ペットボトルを占有している魚醬とカメリアオイルのうち、どちらかを二軍に落として、ペットボトルはバニラエッセンスにまわすか。

 くそぉ、どうして俺はペットボトルを、もっとたくさん持ち込まなかったんだ。

 

 となると、どちらを控えにまわすべきか……。

 

 

 

 ……カメリアオイルだな。

 元々の量が少ないし、なくなるのも早い。

 これからパーティーメンバーが増えれば、一度の入浴で一個分を使い切るはずだ。

 なら、今残っている分は、今日の入浴時にオイルマッサージをして全部使ってしまおう。

 ぬるぬるオイルマッサージ……。実にいい。

 

 

 

「ではこの三点を頼む」

「ありがとうございます。では、準備をしてまいります」

 

 そう言うと、彼女は奥に引っ込んでいった。

 

 店員が見えなくなると、ロクサーヌが近づいてきて俺の耳元へ顔を寄せ囁く。

 

「ご主人様、あんなに高い物を何に使うのですか?」

 

 まあ、二千五百ナールだもんなぁ。心配するのも無理はない。

 それを和らげるため、彼女の耳へ顔を寄せ説明する。

 

「バニラエッセンスについてはデザートに使用する。楽しみにしていてくれ」

 

 その言葉を聞くと、ロクサーヌは弾むような声色で再び囁く。

 

「はい。ご主人様のデザートを楽しみにしていますね」

 

 そう言うと、顔を離す前に俺の耳へ息を吹きかけた。

 

 ロクサーヌの行為に体がビクンと反応してしまう。

 AMSRの快感を追求し、耳が刺激に慣れてしまった俺が初心者のような醜態をさらすとは……。

 

 彼女のほうを見遣ると、いたずらっぽい笑みを浮かべこちらを眺めている。

 

 こやつめぇ。今日のバスタイムは覚悟しておけ。カメリアオイルを使ったぬるぬるオイルマッサージで、その夢が詰まった物体を揉みしだいてやるからな。

 

 

 

「お待たせいたしました。こちらがご希望の品となります」

 

 店員は握りこぶしほどの小瓶を三つ持って戻り、それをカウンターに置いていく。

 コルクの栓がされたその瓶には、それぞれ緑、黄色、黒の紐が結ばれていた。

 

「結んである紐はそれぞれ、緑がペパーミントの精油、黄色がレモンの精油、黒がバニラエッセンスとなっております」

 

 緑と黄色はイメージ通りだが、バニラは白いほうがいい気がするんだが。

 

「わかった。では、会計を頼む」

「はい。ペパーミントの精油が一瓶五百ナール、レモンの精油が一瓶八百ナール、バニラエッセンスが一瓶二千五百ナールで、合計三千八百ナールとなりますが、私の一押しをご購入いただけたのです、今回は二千六百六十ナールといたします」

 

 すまん。いつか俺たちがスパイラルスパイダーを狩れるようになったときは、バニラビーンズを卸すから今は勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

クーラタル

冒険者ギルド

 

 

 

 

 

 精油とバニラエッセンスをこぼすと困るため、一度自宅へ置きに戻ってから、クーラタルの冒険者ギルドへ再び移動する。

 

 あ、今日でカメリアオイルを使い切るつもりなんだ。ついでに購入しておくか。

 

 

 

 過疎っているこのギルドでも普通に購入できたな。

 販売しているアイテムは、買い取った分だけではなく、足りない分は他のギルドから融通されているのかもしれない。

 そうじゃないと、迷宮がない街の探索者ギルドや、冒険者ギルドは売る物がなくなってしまうだろう。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 放射状に延びている道を中央へ向かって歩いていると、ロクサーヌが話しかけてくる。

 

「今はどちらに向かっているのですか?」

 

 おっと、説明するのを忘れていた。

 ちゃんと伝えておかないと。

 

 一応念のため、彼女の耳に顔を寄せて囁く。

 

「石鹸を乾燥させるスペースが足りないので、ラックを購入しようと思ってな」

「なるほど、確かに必要ですね」

 

 今はチェストの上に置いているが、今回の匂い付き石鹸を作るとスペースが足りなくなるだろう。

 ラックを購入すれば、今後はそのスペースに合わせて作ればいい。

 

 

 

 

 

クーラタル

家具屋

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」

 

 店に入ると店員が声をかけてくる。

 以前対応してくれた女性だな。

 

「うむ。ラックが欲しくてな。取り扱いはあるだろうか?」

「はい、ラックはこちらになります」

 

 彼女に案内された先には、天板を含めて五段のラックが置かれていた。

 

 サイズは俺の身長とほとんど変わらない。ってことは百七十センチだな。断じて百六十八センチではないだろう。俺と同じなら百七十で間違いないはずだ。絶対にそうなのだ。

 

 ラックはこれでいいとして、三割引対策のため、他にも何か購入しておこう。

 

「では、これを購入させてもらおう。他にも見て回るので、決まったら声をかける」

「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします」

 

 

 

 さて、とは言ったものの家具屋で欲しいもの……。

 

「他にも何か購入するのですか?」

 

 問いかけてきたロクサーヌに、小声で告げる。

 

「ボーナススキルの三割引は、複数の品物を購入しないと効果が出ないのだ」

「そういうことなのですね」

 

 納得したような表情を浮かべている彼女に、問いかけた。

 

「ロクサーヌは何か必要なものはあるか?」

「必要なものですか……」

 

 そう呟くと彼女は長考に入る。

 

 

 

 ロクサーヌが考え込んでいる間に、俺は俺で確認をすることにした。

 

 店内を見回していると、ソファーが目に付く。

 今のソファーは三人掛けだからセリーが来ても問題ない。

 だが、ミリア以降のメンバーが加入したときのために購入しておくか?

 

 それとも、ロクサーヌの部屋は今後セリーと共用となるのだから、セリー用のチェストなどを購入するべきか……。

 

 

 

 検討を続けていると、思考の海から戻ったロクサーヌが話しかけてくる。

 

「ご主人様、申し訳ありません。特に思いつきませんでした……」

 

 いや、そこまで真剣に考えることではないんだが……。

 

「大丈夫、思いつかなくても問題ない。一緒に探してみよう」

「はい!」

 

 

 

 さて、何かいいものはないかなぁ。

 

 お、デスクとチェアのセットだ。

 デスクは両サイドに引き出しが三段ずつ付いており、中古品ながらかなり高級感がある。

 そして、チェアはひじ掛けまで革張りで、座面や背もたれに触れてみるとフカフカでつかれにくそうだった。

 

 部屋へ置くと、めちゃくちゃ良い雰囲気になるんじゃないか?

 まさに、憧れていた書斎そのものだろう。

 それに、いい加減文字の勉強をしようと思っていたのだ、これを買っておけば、自ずと学習に身が入るはず。

 

 あ、ロクサーヌに教えてもらうために、彼女の分もチェアを購入しておくか。

 

「ロクサーヌ、文字の勉強をするために、あのデスクセットを俺の部屋に置こうと思うんだが、勉強を見てもらえるか?」

「私でお役に立てるのでしたら喜んで」

 

 お願いをすると、彼女は快く引き受けてくれた。

 というか、役に立てるのが嬉しいのだろう。ニコニコと輝くような笑みを浮かべている。

 

「ありがとう。では、よろしく頼む」

「かしこまりました」

 

 ……ロクサーヌが家庭教師か。素晴らしい響きだ。

 

 

 

 店員のいるカウンターへ移動し、声をかける。

 

「購入するものが決まったので、会計を頼む」

「ありがとうございます。では、確認いたします」

 

 購入する物を一緒に確認したところで、彼女が告げた。

 

「ラックが一点、デスクが一点、チェアが二点で八千五百ナールとなりますが、デスクとチェアをセットでご購入いただけたのです。今回は五千九百五十ナールといたします」

 

 ……デスクとチェアなら大抵セットで買うんじゃないですかねぇ。

 

 

 

 支払いを済ませて住所を告げると、明日の午前中に配達してくれるとのことだった。

 早朝の探索を済ませたら、掃除でもして待つことにしよう。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv30 英雄Lv26 魔法使いLv29 戦士Lv28

 

BP振分 残BP:13/128

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

結晶化促進八倍:7

鑑定:1

ワープ:1

ジョブ設定:1

三十パーセント値引:63

 

所持金:1,023,289ナール

 

春の22日目

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