「おはようございます、ご主人様」
目が覚めると、いつものようにロクサーヌの声が聞こえてきた。
「おはよう、ロクサーヌ。昨日は本当にすごかったよ。まさか風呂場であんなに何度も絶頂させられるとは思わなかった」
「それは意地悪をしたご主人様が悪いのです」
俺の言葉に、彼女は笑みの混じった声色で答える。
いやいや、君はそれ以上にやり返したじゃないですか。
でもまあ、めちゃくちゃ気持ちよかったから問題ないけどさ。
「自分たちでカメリアオイルを手に入れられるようになったら、またやってみようね」
「はい。またかわいらしいご主人様を見ることが出来るのですね」
こやつめぇ。今度は俺が攻め続けるぞ。攻めダルマだぞ。やまびこ打線だぞ。
いつものように朝の支度を整え、大切なルーティーンを行ったところで、今日の予定を確認する。
「早朝の探索を終えて朝食を取ったら、掃除をしながらラックとデスクセットが届くのを待とう」
「かしこまりました」
「設置が終わったら早速文字の勉強を行う。明日以降は朝食後の一時間を勉強の時間に充てるから」
「ご主人様ならすぐにでも、文字を覚えてしまうことでしょう」
いやぁ、それはないと思うぞ。
学校の勉強は苦手だったし、大学に行くこともできなかったもん。
しかし、この世界に骨を埋めるつもりなんだ、少しずつでも覚えていかないといけない。
一日一時間、無理のない範囲で頑張ろう。
「ロクサーヌ、よろしく」
「はい! おまかせください!」
あらまあ、嬉しそうにしちゃって。
「文字の勉強を終えて、時間があるようだったら迷宮へ行く。ないようなら早めに昼食をとって、午後の探索時間を長くしよう。それが終わったらいつもの通りだね」
予定を聞いた彼女は、笑みを浮かべながら口を開く。
「ご主人様、今日も一日よろしくお願いします」
「うん。今日も良い一日にしよう」
言葉を返すと顔を見合わせて笑い合う。
毎日彼女と笑い合うことが出来るなんて、本当に幸せなことだよなぁ。
準備を整え、玄関でロクサーヌを待ちながら、パラメーターの振り分けを見直すことにする。
まずはフィフスジョブをフォースジョブに落とし、それから敏捷に振っていた分を解除して、MP回復速度二十倍を獲得経験値二十倍に付け替えた。
結晶化促進八倍に鑑定、そしてワープとアクセサリー四へチェックを入れたら、残ポイントはピッタリ0。
残ポイント調整のために適当なスキルに振るようなことがなく、まるで棒が来て全消しに成功したテトリスのような気持ちよさだ。
さて、ロクサーヌが来るまで、今後のポイント振りについて考えておくか。
現在のボーナスポイントは全部で129ポイント。
必須となるキャラクター設定の1と、探索者と英雄、それから魔法使いをセットするために必要なサードジョブの3を除けば125ポイントだ。
あ、いや、詠唱短縮は要るわ。だとすると124ポイントか。
必要経験値二十分の一と獲得経験値二十倍を併用するためには、126ポイントが必要となるので、探索者のレベルをあと2上げた時点で、それが可能になる。
しかし、それだとアクセサリー四にポイントが振れず、メギンギョルズに付いている魔法攻撃力二倍なしで戦闘を行うことになるんだよなぁ。
これなしで、1確できる階層はどのあたりだろう?
以前は五階層の敵をワンパン出来ていたが、その後魔法使いと英雄のレベルがだいぶ上がっているし、武器もロッドからスタッフに更新している。
きっと、そのときより魔物を一撃で倒せる階層は上がっているはずだよな?
仮に変わってなかった場合、五階層と九階層の敵を倒したときに得られる経験値は、二倍以上の差があるものなんだろうか?
もしあるようなら、魔法が二発必要になったとしても九階層で狩りを行うべきだし、ないようなら、五階層を狩場にした方が効率的だ。
うーん……。どうなんだろうなぁ……。
いや、まてよ?
メギンギョルズがなくても、遊び人を取得すれば戦闘に掛かる時間が変わらない可能性はないか?
遊び人の効果設定で、英雄の知力中上昇を選んでおけば、メギンギョルズがなくても、九階層の魔物をワンパンできるかもしれない。
よしんば一撃で倒れなかったとしても、魔法二発の連続撃ちが可能となっているため、戦闘にかかる時間は、今までと大差ないだろう。
魔法二発分のMP消費と、最大MP上昇の効果がなくなっているため、MP回復を行う回数は増えるが、一日に倒す魔物の数が半分になるということはないはずだ。
そうなると、遊び人の早期取得を目指す必要があるか……。
原作での遊び人の取得条件は、特殊なジョブや種族固有ジョブを除き、十八ジョブ取得だったはず。
ミチオが取得していたジョブのうち、農夫、探索者、薬草採取士、盗賊、戦士、商人、僧侶、剣士、魔法使い、錬金術師、料理人。
ここまでの十一ジョブは、現時点で俺も持っている。
さらに、騎士、賞金稼ぎ、暗殺者は、戦士がレベル30になれば獲得できる。
これはすぐにでも達成できるだろう。
そして、武器商人、防具商人、奴隷商人。
商人のレベルがまだ18のため、この三つのジョブについては、少し時間が掛かりそうだな。
とりあえず、戦士が30になったら、入れ替えてレベル上げを開始しよう。
そして、経験値効率四百倍が可能になったら、サードジョブに落とすことになるので、一旦ジョブを外して保留になる。
探索者のレベルを上げ続けて37に到達すれば、フォースジョブを付けられるようになるので、そしたら商人のレベル上げを再開だな。
原作ではこれらの十七ジョブに加え、博徒を取得していた。
しかしその場合、盗賊のレベルも30にする必要が出てくる。
でも、それだと時間が掛かり過ぎるんだよなぁ。
条件が楽で、すぐにでも獲得できるジョブ……。
……神官だな。
原作で滝行を行ったのは、ハルツ公領にあるハーフェンという漁村だ。
そこで釣りをしていたミリアが、住民から滝のある場所を聞いていたという流れだったはず。
ハーフェンには猫人族もたくさんいて、言葉もバーナ語とほとんど変わらず、ミリアも問題なくコミュニケーションを取れていた。
それなら、バーナ語ネイティブであるロクサーヌなら、間違いなく会話が成り立つ。
よし、今日の朝食はロクサーヌにまかせて、クーラタルの冒険者ギルドからハルツ公の居城があるボーデへ送ってくれる冒険者を探してみよう。
そして、無事ボーデへ到着したら、そこでハーフェンへ移動することが可能な冒険者がいるのかを確認だな。
午前中に家具の配達があるため、時間が掛かるようなら一度自宅へ戻ってくればいい。
「ご主人様、お待たせしました」
考え込んでいる間に、ロクサーヌが近づいてきた。
「ロクサーヌ、午前中の予定を変更してもいい?」
「予定変更ですか?」
問いかけると、キョトンとした表情を浮かべる。
「うん。神官のジョブを早期に取得するため、滝行が出来る場所を探す必要が出てきたんだ。それでミチオ達がそれを行った、ハルツ公領のハーフェンへ行くことが出来ないか試してみようと思う。なので、悪いんだけど朝食の準備はロクサーヌにまかせてもいい?」
「はい、それは問題ありませんが、どうして急に神官のジョブが必要になったのですか?」
まあ、当然の疑問だよな。
折角だからこの機会に遊び人のジョブについて説明しておこう。
「ロクサーヌは、遊び人というジョブについて知っている?」
「遊び人……。遊び人皇太子の遊び人でしょうか? 色々なジョブに就いては辞めを繰り返し、人を欺いてばかりで、帝国のごくつぶしと呼ばれて廃嫡された皇太子が、自らのジョブだと吹聴していたという、あの?」
え、えらい言われようやな……。
「まあ、その皇太子の人格面はともかく、遊び人というジョブに就いていたのは確かだと思う」
「そうなのですか?」
「うん。遊び人の取得条件は、特殊なジョブや種族固有ジョブを除き、十八のジョブを得ることだ。就いては辞めを繰り返していたその皇太子なら、おそらく取得していただろうね」
「なるほど。そういうことなのですね」
ロクサーヌは納得したような表情を浮かべ頷いている。
しかし、遊び人皇太子の実態はどんなものだったんだろうな。
少なくとも、探索者や戦士、それから商人辺りはレベルを30以上にしていただろう。
何らかの事情があったのか、それとも本当にこらえ性がなかっただけなのか。
まあ、廃嫡されたとはいえ元は皇太子だったのだ。
複数のパーティーでローテーションを組ませ、二十四時間体制で迷宮へ送ってパワーレベリングをしていたのかもしれない……。
考えても答えなんか出ないか。話を続けよう。
「そして、その遊び人のジョブは、とんでもない力を持つ」
「とんでもない力……」
聞いて驚け! 見て笑え!
「まず、スキルなんだけど、自分が持っている他のジョブのスキルを使うことが出来るようになる。例えば魔法使いの初級火魔法を選べば、それを使用できるようになるんだ。そして、俺は複数のジョブを持つことが出来る。つまり、魔――」
「まさか、魔法を同時に使うことが出来るのですか!」
話の途中で気が付いたのだろう、彼女が大きな声を上げる。
さすがロクサーヌ。鋭いねぇ。
「そう。通常同じスキルを続けて使おうとした場合、次に使用可能になるまでに待ち時間が発生する。だけど、それは別のジョブのスキルには適用されないんだ。そのため、同時と言っても問題ないくらい連続で使用することが出来る」
「ご主人様、すごすぎます!」
すごいのはご主人様じゃないんだけどさ。
興奮しているロクサーヌへ、さらに説明を続ける。
「そして、もう一つの要素がジョブの効果だ」
「ジョブの効果ですか?」
聞きなじみのない言葉なのだろう。彼女はオウム返しに問いかけてきた。
「例えば、鍛冶師のいるパーティーは攻撃力が上がるとか、竜騎士がいると安定度が増すという話を聞いたことがあると思う」
「はい」
ロクサーヌが頷いているのを確認し、そのまま話を続ける。
「これらは、ジョブの持つ効果が関係しているんだ。鍛冶師なら腕力中上昇という効果を持っているため、パーティー全員の腕力が上がり攻撃力が増す。竜騎士は体力中上昇、体力小上昇、体力微上昇という効果を持つため、圧倒的に防御力が高まり安定感が増す」
「ジョブによって、攻撃力や防御力が上がるのは、そのような理由があったのですね」
彼女は世界の真理にでも触れたかのように驚き、そして納得したように頷きを繰り返していた。
いや、ある意味これは世界の真理といっても過言ではないかもな。
「そして、先ほどのスキルと同じように、遊び人の効果は持っているジョブの中から自由に選ぶことが出来る」
「ということは、魔法の威力を上げることも……」
「もちろん可能だ。今のところ一番効果が高いのは英雄の持つ知力中上昇だね」
「ご主人様! 本当にすごすぎます!」
すごいのはご主人様じゃないんだよなぁ。
「もうすぐ戦士がレベル30に到達して派生ジョブを取得するし、商人のレベルが30に到達すれば、特殊なものを除いたジョブの数は17になるからね。そのときに備えて早めに神官を得ておきたいんだ」
「わかりました。朝食の用意はおまかせください」
彼女は快くそれを引き受けてくれた。
本当に働き者の良い娘だわ。
「今日は家具の搬入もあるし、長くなるようなら一度戻ってくるから」
「かしこまりました」
ロクサーヌと頷き合ったところで声を掛ける。
「それじゃあ、迷宮へ行こうか」
「はい」
ファイヤーストーム
朝も早よから魔物に向けて魔法を放っていく。
日々同じ作業を繰り返すことで、どんどん動きが洗練されていき、時間当たりに狩れる魔物の数も着実に増えていた。
それに、ロクサーヌの誘導も効率的になっており、次から次へと最大数である四匹の場所に案内してくれている。
この調子でさっさと探索者のレベルを33にしたいもんだ。
魔法戦闘とMP回復を何度か繰り返していると、彼女が告げた。
「ご主人様、そろそろパン屋の開く時間です」
ん? もうそんな時間か。
「それじゃあ、クーラタルに戻るか」
「はい」
鑑定を行いレベルの確認をするも、やはり上がってはいない。
まあ、昨日上がったばっかだもんな。
そいじゃ、ロクサーヌを確認っと。
おお! 上がってる!
「ロクサーヌ、おめでとう。戦士のレベルが18になっていた」
「そうなのですか! 探索者のレベルで考えたらものすごいことですよ!」
確かに年単位の時間が掛かるのだろうし、嬉しそうにしているのも理解できる。
一頻り彼女と喜びを分かち合い、ワープゲートを開いた。
朝食の買い物を済ませて自宅へ戻り、ロクサーヌにお願いして、パピルスへボーデとハーフェンという文字を記入してもらい、それを持って再びクーラタルの冒険者ギルドへ訪れた。
同じ文字がないか、掲示板に張り出されている張り紙を確認してみると、ボーデと書いているだろう文字を発見する。
しかし、ハーフェンの方は発見することが出来なかった。
ハーフェンは漁村らしいので、冒険者ギルドがないのかもしれないな。
そうなると、ここの張り紙から探すのは無理か。
ボーデへ行って、冒険者に直接声をかけてみよう。
カウンターへ近寄り、ギルド職員の女性に声をかける。
「すまない、ボーデまでフィールドウォークを頼みたいのだが」
「ありがとうございます。片道二百ナールになります」
ん? 本人に直接支払うわけではなく、ギルドに支払うの?
委託契約でも結んでいるんだろうか?
いや、考えても答えなんか出ない。気にしないでおこう。
支払いを済ませると、彼女はハンドベルを鳴らし、冒険者を呼び出した。
アリアナ ♀ 45歳
冒険者Lv36
装備 身代わりのミサンガ
おー、エルフっぽい。
金髪ロングストレートに、そこから飛び出た細長くとがった耳。
絶妙な場所に配置されている、整った顔のパーツ。
そして、スレンダーで均整の取れた肢体。
現れた冒険者はかなりの美人さんだ。
まあ、うちのロクサーヌには及ばないけどな。ふふん。
しかし、日本にいたときの俺と同じ年なのに、若々しくて全然そうは見えないぞ。
「お待たせいたしました。準備はよろしいでしょうか?」
「うむ。頼む」
パーティー申請を受諾すると、彼女はすぐに壁にフィールドウォークのゲートを開いた。
「ご利用ありがとうございます。それでは、私はこれで」
パーティーを解散しそのまま立ち去ろうとする彼女へ、慌てて声を掛ける。
「すまない、ハーフェンという漁村へ行きたいのだが、あなたはそこへ行くことが出来るだろうか?」
「ハーフェンですか? はい、大丈夫ですよ。片道二百ナールとなりますが?」
「ありがとう。ではよろしく頼む」
アイテムボックスから銀貨を取り出し、彼女へ手渡す。
それにしても、今回はギルドではなく彼女へ支払うのか……。
ギルドで行っていたのは業務委託ではなく、フィールドウォークの仲介と代金回収代行業務だったのかもしれないな。
おそらくこの後、彼女は手数料を引かれた金額を受け取るのだろう。
そして、今回は直接取引を行っているため、彼女に丸々入るってわけだ。
支払いが済むと再びパーティーへ加入し、この場から移動した。
ゲートを通り抜けた途端に、磯の匂いと魚の生臭さが鼻腔をガツンと刺激する。
おお、懐かしきトリメチルアミンの香り!
「ありがとうございました。では、失礼いたします」
そう言うと彼女はパーティーを解散し、フィールドウォークで去っていった。
ああ、それにしても本当に懐かしい……。
海がちなところで生まれ育ったので、この香りはめちゃくちゃ郷愁を誘う。
とはいっても、両親は漁業関係者ではなかったため、この匂いがしていた漁港に入るのは、学校の社会科見学か、夏祭りのときくらいだった。
そこには魚介類専門の食堂もあったが、若い頃は肉の方が好きだったこともあり、利用したことはほぼない。
だが、漁港は学生時分の通学路や、就職してからの通勤路に面していたため、俺はこの匂いと共に育ったようなものだ。
実家を離れてからは、なかなか嗅ぐ機会はなかったが、正真正銘故郷の香りだな。
しかし、懐かしさを感じても、以前のようにホームシックに陥り、動揺してしまうことはなかった。
自宅に戻ればロクサーヌがいる。
そして、共に人生を歩んでくれる。
この世界では、彼女のいる場所こそが俺の故郷だ。
……さて、戻るか。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv31 英雄Lv26 魔法使いLv30 戦士Lv29
BP振分 残BP:15
キャラクター再設定:1
フォースジョブ:7
必要経験値十分の一:31
詠唱省略:3
結晶化促進八倍:7
鑑定:1
ワープ:1
MP回復速度二十倍:63
所持金:965,734ナール
春の23日目