異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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009 紳士の取引

 

 

 

 

 

ベイル

アランの館

 

 

 

 

 

 武器屋から市の立っている通りを抜けアランの商館へと戻ってきた。

 これからが本番だ。

 

 今まで暮らしていた世界を捨てここに立っているのはロクサーヌに会いたいというその一心からだ。

 彼女は本当にここに居るのだろうか?

 

 小説や漫画で知る世界とここまで酷似しているのに彼女が居なかったら俺は頭がどうかしてしまうだろう。

 

 一つ大きく息を吐きだした。

 

 四十五万ナールがずっしりとした重さで右肩にその存在を主張している。

 大丈夫なはずだ。

 

 よし。行こう。

 

 

 

 ドアノッカーを鳴らすと先ほどの商人が出てきた。

 

「アラン殿に取り次いでもらいたいのだがアユムが来たと伝えてもらえるか?」

「はい。お待ちしておりました。それでは中へご案内いたします」

 

 待っていた?

 アランから話が通っているという事か。

 俺がすぐに戻ってくると確信していたんだろうか?

 

 

 

「それでは主を呼んでまいりますのでこちらに掛けてお待ちください」

 

 ローテーブルを挟んで向かい合わせに設置されている高級そうな一人掛けソファーの片方に腰を下ろすよう勧めると男は部屋を出ていった。

 

 この世界では汚れをつけないために壁に飾るのが一般的なはずの絨毯が床に敷かれており、価値はよくわからないが壁には絵画が飾られている。

 先程よりグレードの高い商談室に通されている。

 大丈夫だ。大丈夫なはずだ。

 動悸がやばい。もう期待なんだか不安なんだか何が何やらよくわからない。

 

 

 

 腰を下ろす間もなくノックの音が響きアランが部屋へ入ってきた。

 

「アユム様、ようこそお越しくださいました。どうぞお掛けください」

 

 俺とアランがソファーに腰掛けると再びノックの音が部屋に響いた。

 

 きた! 頼む! お願いだ!

 

 俺の後ろからドアが開く音が聞こえ足音がだんだん近づいてくる。

 

「失礼します」

 

 ローテーブルにカップを置いている手から顔の方へ視線を移す。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳

獣戦士Lv6

 

 ああ。間違いない。ロクサーヌだ。

 十数年恋焦がれた彼女がここに居る。

 絶対に会えないはずの彼女に会うことが出来た。

 よかった。本当によかった。ありがとう。ありがとう。

 

 優しげな鳶色の瞳に栗色の髪。メイドキャップを被っているので確認できないがあの下には愛らしい垂れた犬耳があるのだろう。

 そして、メイド服を押し上げる大きなふくらみとその下で搾られている細いウエスト。

 少し動くだけでそのふくらみが揺れている。

 今まで生きてきてこんなに美人でかわいくスタイル抜群な人を見た事がない。

 この世界に来て本当に良かった。

 

 彼女は女神のような美しい微笑みで俺を見つめると飲み物を勧める。

 

「どうぞ」

 

 可愛くて艶のある声。何度も何度も繰り返し視聴したアニメの声そのものだ。

 

「ありがとう」

 

 お礼の言葉にもう一度微笑むと一礼して部屋を出ていった。

 

 ……大きく揺れたな。

 よかった。ロクサーヌに会えた。そして顔見せをされた。

 これは俺に売ってもいいってことだよな? そういう事でいいんだよな?

 

 ロクサーヌの姿が頭の中でぐるぐる回っているとアランにも飲み物を勧められる。

 

「どうぞ、お飲みください」

「すまない。いただこう」

 

 勧められるがままにカップを取り飲み物に口をつけるがテンパりすぎて味なんて全然わからない。

 

「お気に召していただけたようでなによりでございます」

「そうだな。彼女を紹介してもらえるのか?」

 

 こっちとらもう全力で行く気満々なんだ。駆け引きなんかする余裕はない。

 

「ええ。あの娘は狼人族で獣戦士のジョブについております。迷宮でも間違いなくお役に立つことでしょう」

 

 それは知っている。獣戦士だとか関係なく狼人族としてもとびぬけた性能を誇る鼻を使った索敵に作中最強の回避性能。

 俺の迷宮探索における計画は彼女の存在を前提に組み立てられている。

 それにしてもアランはロクサーヌの能力をきちんと把握していないのだろうか?

 あの能力があれば六十万ナールでは済まないはずなのだが。

 狼人族やそれに関わる者に売らないという条件がネックになっているのか?

 

「見ての通り当家の奴隷の中でも一際美しく、その上聡明で気立てのよさも兼ね備え、家事も問題なくこなせます」

 

 本当にそうだわ。俺の人生の中で一番好きなキャラだったけど実物を見てもっと好きになるとは思わなかった。

 性格も普段は温和で人当たりもいいのに嫉妬深いところとか超好きだ。

 人生において女性に嫉妬されることなんてなかったんだ。そりゃもうガッチリ束縛されたい。

 

「性奴隷となることを了承しており、それに何より彼女は生娘、処女でございます。病気の心配は一切ございません」

 

 よし!

 こっちは四十五年物の童貞だ。処女厨を拗らせてて何が悪い。

 嬉しいものは嬉しい。

 

「ほかにもお客様にお勧めできる点といたしましては、ご存じかもしれませんが種族ごとに老化する箇所や見分ける箇所が異なります。そのため人間族であるお客様からは彼女の老化はあまり把握できません。四十、五十のうちは彼女を若々しいと感じることでしょう」

「うむ。それはありがたいことだな」

 

 うん。おばあちゃんになっても可愛いと思うが俺から見た外見が若いままというのはいいよな。

 

「そして、お客様とは種族が異なるため身ごもることはありません。迷宮攻略中に長期離脱する心配はなく、また奴隷との間に子供ができ相続問題が発生するという事もございません」

 

 いや、俺はロクサーヌとの間に子供が欲しい。それはメリットではなくデメリットなのよなぁ。

 しかし、希望がないわけじゃない。

 種族固有ジョブの存在だ。

 突出して優秀なドワーフの鍛冶師は別としても作中出てきた他の種族固有ジョブもそれなりに有用そうだった。

 しかし、その中にあって人間族の色魔。

 これだけがなぜか色物臭と地雷臭が漂っている気がする。

 禁欲攻撃はボス戦には有効かもしれないがボスまでの道のりは欲求不満を抱えたまま戦闘を続けることになるし、一回ブッパすればまた禁欲生活に突入だ。

 他の種族固有ジョブにはこういったデメリットがないにもかかわらず色魔だけは運用に難がありすぎる。

 

 そして、色魔のジョブを獲得した条件はおそらく一晩に二人以上の異種族と交わる。これではないだろうか?

 もし異種族と交わることが条件になっていた場合、色魔の上位ジョブはそれに関わる効果やスキルがあってもおかしくない。

 大きすぎるデメリットを抱えているのだ。その分、もしかしたらと期待をしてしまう。

 ミチオは色魔を育てていなかったが俺は余裕ができたら積極的に育ててみよう。

 雑魚に禁欲攻撃をちょこちょこ使っていればムラムラをため込まなくて済むはずだ。

 その場合一回ごとに賢者タイムが訪れるのだろうか?

 

「最後に教育の時間が足りなかったため完璧とはいきませんが、ある程度ブラヒム語の読み書きもこなします。また、話すことについては全く問題ございません。当家の中で最もアユム様へお勧めできる奴隷となっております」

 

 現代日本人として奴隷売買に対し思うところがないわけではない。

 しかし、インテリジェンスカードや主人の下から逃亡すると盗賊に強制ジョブチェンジされる等、この世界を構成するゲーム的なシステムに奴隷制度そのものが組み込まれている。それに彼女はすでに奴隷として商館にいるのだ。

 俺が買わなくてもすぐに他の者が買ってしまうはず。

 そして、なにより俺は彼女を手に入れるため全てを捨ててここへ来たのだ。

 クズで結構!

 

ロクサーヌを買いますよね?

もちろん  あたりまえだ!

 

 もし目の前に選択肢が現れたらこんな感じだろう。

 

「それだけの自信を持って勧めるのだ。やはり高いのではないか?」

 

 さあ、ここだ。

 どうなんだ? 紳士の取引は六十万ナールなんだろ? 頼む!

 

「相場ですと彼女は六十万ナールほどとなりますがお客様のようなお方にご購入いただくのです。先ほど着ていた侍女服もお付けした上で今後の取引にも期待しまして四十二万二千八百ナールでいかがでしょうか?」

 

 おっしゃ! ナイスアラン! 信じてたぞ!

 買える! ロクサーヌが買える!

 

「うむ。わかった。それで購入させてもらおう」

「お買い上げありがとうございます」

 

 リュックから袋を三つ取り出しそこから金貨四十二枚、銀貨二十八枚を取り出し用意されているトレーへ置く。

 そして、アランもそれを同じように数え始める。

 

「確かに。では準備を整え連れてまいりますのでしばらくお待ちください」

 

 確認が終わったアランはそう言うとトレーに乗せてある硬貨を持って部屋を出ていった。

 

「ふう」

 

 おもわず大きなため息が漏れる。

 よかった。ロクサーヌを買うことができた。

 この世界に来たのは間違いじゃない。

 

 

 

 ついでだ、残金の確認をしとくか。

 硬貨ごとに分けて袋に入れ直しリュックにしまっておく。

 金貨が三枚、銀貨が九十五枚、銅貨が百三十五枚。

 

 ん? これクーラタルの家を借りることができるぞ?

 たしか鍋と一緒に精算して三万ナールちょっとだったはず。

 

 ……いや、ダメだな。いくら何でもギリギリすぎだ。

 装備や日用品、家具の購入に支障が出る。

 家を借りたとしても生活基盤を整えることが出来ない。

 それに、手元にある程度の金がない状態では何かあった時に困るだろう。

 俺はこの世界に家族も友人もいないのだ。急な怪我や病気をした時に助けてくれるような人は誰もいない。

 

 予定通り盗賊を狩るまでは宿暮らしだな。

 

 

 

 ……遅い。

 まるでオーバーホエルミングが掛かっているかのように時間の進みが遅い。

 立ち上がり伸びでもするかと腰を上げかけたときドアが開きアランが入ってくる。

 

「お待たせいたしました。お客様がご購入のロクサーヌです」

 

 開かれたドアの向こうにロクサーヌが立っていた。

 メイド服から挿絵やコミックでよく見たあの恰好に着替えている。

 頭には黒いリボンをつけている。白いシャツに緑色の服、そして同じく緑系のズボンをはいており腰には大きめのベルトを巻いていた。

 ああ。ロクサーヌといえばやはりこの服の印象が強い。

 先ほどとは違い頭に何もかぶっていないため愛らしい犬耳がよく見える。これは是非撫でさせてもらわなければ。

 そして、足の隙間から見える尻尾。可愛い。実にキュートだ。

 靴や靴下は履いておらず裸足で立っている。

 

 うーん。居城を襲撃されそのまま連れ出されたルティナ以外は全員裸足だったが、奴隷商で扱っている奴隷の最低限必要なものとして履物は含まれていないのだろうか?

 

 即決で購入しているためメロスサーヌといった憂いの表情は浮かべていないものの、それでもやはり緊張している様子がうかがえる。

 それはそうか。自分の人生における大きな転換点なのだ。

 ろくでもない主人に購入されたのならこの後は不幸な人生を歩むことになる。

 いまロクサーヌの心は不安でいっぱいなのだろうな。

 一日でも早く安心してそばにいてもらえる関係になりたいものだ。

 

「よろしくお願いいたします」

 

 そう言ってお辞儀をすると彼女は俺のそばまできた。

 

「アラン殿。彼女に靴を渡してもいいだろうか?」

 

 支払は済んだもののまだインテリジェンスカードの書き換えが済んでいないため、おそらく契約締結前だろうと念のため確認を取ると、アランは少し目を細めてこちらを見た。

 こっわ! なに? あかんかった? 無表情で目を細めて見られるとマジで怖いんだけど。

 

「ええ。問題ございません」

 

 ……問題ないようだ。

 原作知識から悪い人物ではないという事はわかっているが貫禄が半端ない上に無表情なせいで威圧感満載だ。

 まあ、それもアニメのエンディングを思い出せば霧散するんだが。

 

 リュックから皮の靴を取り出してロクサーヌに差し出す。

 

「ロクサーヌ、これを使ってくれ」

「よろしいのですか?」

「裸足のまま歩いて怪我でもしたら大変だからな」

「ありがとうございます」

 

 靴を受け取ると花が綻ぶような笑みを俺に向けお礼を言ってきた。

 あー。可愛すぎるー。

 

 ロクサーヌが靴を履いたのを確認するとアランは契約の手続きを始める。

 

「それでは契約を行います。インテリジェンスカードを確認いたしますので左手を」

 

 その言葉に俺とロクサーヌは左手をアランに向けて差し出す。

 アランは俺たちの手からインテリジェンスカードを出すとブツブツ呟き変更を加えていった。

 

 

 

「契約が終了いたしましたのでご確認ください」

 

田川歩 男 18歳 戦士 自由民

所有奴隷 ロクサーヌ

 

 手に入れることができたんだな。

 

「どうぞ、ご確認ください」

 

 ロクサーヌが俺の方に左手を寄せてくる。

 

ロクサーヌ ♀ 16歳 獣戦士 奴隷

所有者 田川歩

 

 うん。間違いない。俺はロクサーヌを手に入れることができたんだ。本当にこの世界に来てよかった。

 俺も確認できるよう手を彼女の顔の前へ持っていく。

 

「よろしいのですか?」

 

 ロクサーヌの問いかけにうなずくと俺のインテリジェンスカードを確認し始めた。

 名前や年齢、それに自由民であることを知っていてもらわないといけないしな。

 まあ、ジョブについてはこの後速攻で変わるんだが。

 

 俺たちがインテリジェンスカードの確認を終えて手の中に戻すとアランが説明を始める。

 

「これでアユム様はロクサーヌの所有者となりました。これからアユム様は彼女に対し住まいや食事を与え、彼女の分の税金を支払う義務が生じます。これらの義務を怠ったり、また所有奴隷に対し不当な扱いをした場合契約が無効となることもございますのでお気を付けください」

「うむ。承知した」

 

 うん。それは全く問題ない。

 俺の望みはロクサーヌと同じ家に住み、同じものを食べ、同じベッドで寝ることだ。

 それを怠るようなことはあり得ない。

 税金については確か冬にまとめて払うんだったよな。これについてはそのうち彼女に確認しておこう。

 当面俺が払う税金は人頭税かペルマスクに入るときの入市税くらいのはず。この世界の税制度は申請書類等もなく手続きがかなり楽だ。問題ないだろう。

 

 今年度の金額は上手く事が運べば俺が十万で、ロクサーヌが一万。そしてセリー、ミリア、ベスタ、ルティナがそれぞれ三万で合計二十三万ナール。

 そして、次年度以降は十五万ナールとなる。

 税額は固定されており稼ぐあてのある俺にとってはちょろすぎる額だ。冬までには問題なく用意する事ができるだろう。

 ……まあ、ロクサーヌが売られることになったように稼げない人にとっては鬼のような制度だろうがな。

 

 しかし、こうして考えると原作では春から夏の期間でパーティーメンバーをフルで揃えているんだよな。

 現地の人からすると相当異常な状況だろう。

 とてつもない実力者かそれとも太い実家があるとでも思われていたのか。

 

 

「それから遺言の作成、変更も奴隷商人の職分となりますのでご用命の際には是非当家へお立ち寄りください」

「必要になったらこちらを利用させてもらおう」

「ありがとうございます」

 

 

 アランに見送られ商館を出たところで気づいた。

 ベイル亭の場所がわからないわ。

 

「すまないアラン殿。この町には初めて来たのでな、おすすめの宿を教えてもらえないだろうか。安全でサービスが良いところをお願いしたい」

「それでしたらベイル亭はいかがでしょうか。旅亭ギルドが経営している信頼できる宿となっております」

「なるほど、良さそうだな。その宿はどこにあるのだろうか?」

「町の中心にあるロータリーから南西側にございます」

 

 南西とか言われても方角がわからんのだが。

 俺に太陽の位置から方角を特定するスキルなんてない。

 表示看板があったとしても字が読めないしなぁ。

 

「ロクサーヌはわかるか?」

「はい。ご案内できると思います」

 

 うん。問題なさそうだ。

 

「それじゃあ、先に宿をとって荷物を置いてから買い物をしよう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 

 俺たちのやり取りが終わったところでアランが手を前に出し九十度曲げ腹部に当て頭を下げた。

 

「アユム様、この度はお買い上げいただき誠にありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」

 

 うわー。よくアニメや漫画で見るポーズだ。

 キマってんなー。これ顔がよくないとダメなやつやん。

 俺がやったら失笑もんだろうな。

 

 挨拶を終えると中へ戻っていき、彼が見えなくなると扉が閉められた。

 

 そうか、これからはロクサーヌとずっと一緒にいられるのか。

 本当に俺は幸せ者だ。

 

「ロクサーヌ、これからよろしく頼む」

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 

 本当に幸せだ。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

戦士Lv1 英雄Lv4 魔法使いLv4

装備 シミター 皮の鎧 皮の靴

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

鑑定:1

詠唱省略:3

三十パーセント値引:63

ジョブ設定:1

ワープ:1

体力上昇:26

 

所持金:39,635ナール

 

春の2日目

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