異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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089 ミンチ

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

九階層

 

 

 

 

 

 昼食をとり食休みを終えたら、再び迷宮へ舞い戻り、魔物退治を繰り返す。

 

 取り掛かった時間が早く、長時間魔物を倒したおかげか、午後の探索で商人のレベルが22、そしてロクサーヌの戦士を19へ上げることが出来た。

 探索者のレベルが上がらなかったのは残念だが、おそらく近日中に33に到達するはず。

 そうなると、いよいよ経験値効率四百倍の解禁だ。

 きっと、レベル上げが加速するだろう。

 

 MP回復を行い、迷宮を後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却を済ませ、ギルドから出たところでロクサーヌに声を掛ける。

 

「今日の夕食は、昼に受け取ったフープロを使って、俺が一品作ろう」

 

 この世界では粗野な者だけが食べるとされているミンチを使った料理だが、ハンバーグを作ってみよう。

 今後ミンチを使った料理は頻繁に食卓へ上がるため、彼女には早めに慣れてもらいたい。

 

 材料は、牛肉と豚肉の合い挽き肉と玉ねぎだ。

 パン粉にするため、パンを買うときに固くなったものも売ってもらおう。

 迷宮産の肉は臭みがないので牛乳はいいだろうし、チーズも今回はなしで。

 最初はプレーンなハンバーグを食べてもらう。チーズインハンバーグは次回だな。

 そのうち、チーズバーガーやフィッシュバーガーも作ってみるか。

 

 考え込んでいると、ロクサーヌが問いかけてきた。

 

「あれはふーぷろというのですか?」

 

 あれ? 名前を言ってなかったっけ?

 

「うむ。フードプロセッサーを略してフープロだ」

「ふーどぷろせっさー? どういう意味なのですか?」

 

 意味? フードプロセッサー……。

 フードは食べ物だよな? プロセッサーってなんだ?

 プロセッサー……。パソコンのCPUと同じ意味だろうか?

 やばい。さっぱりわからん……。

 

「すまん、俺の国の言葉ではなかったのでよくわからない。ともかく、ああいった調理器具のことをフープロと呼んでいた」

「なるほど。では私も今後はフープロと呼びますね」

「うむ。そうしてもらえると助かる」

 

 でも、金物屋が売り出すときに、適当な名前を付けるかもしれないな。

 

 

 

 八百屋で玉ねぎとそのほかの野菜を購入し、そしてパン屋の後は肉屋へ移動する。

 

 肉屋に入ったところで鑑定を行い、アイテムとしてヒットしたものの中から選ぶことにした。

 

豚バラ肉

豚ロース肉

バラ

ロース

 

 この四つか。原作で出てきた三角バラやザブトン、それにサーロインは置いてないんだな。

 レアドロップだからだろうか?

 

 まあ、値段的に豚も牛もバラにしておこう。

 高い物は自分たちで狩れるようになってからだ。

 

 会計を済ませて店を出ると、路地裏へ入ってワープゲートを開く。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 買ってきたものをキッチンにしまい込んだら、庭へ出て修行開始だ。

 このところ少しずつだが、彼女の動きに目が慣れてきた気がする。

 修行のモチベーションも上がるというものだ。

 

 

 

 いつものように好き放題攻撃をくらい続けたものの、ある瞬間ふと体が動き、ロクサーヌの攻撃を回避することに成功した。

 

 あれ? なんだこれ?

 

 連続で回避し続けることは出来ないものの、何回かに一回のペースで攻撃をかわすことが可能になる。

 まるで、幼い頃自転車に乗れるようになった時の様に、何故今まで出来なかったのかが不思議なほど、彼女の攻撃が見えるようになっていた。

 

 

 

 かわし、あしらい、受け流し、次々と彼女の攻撃を捌き続け、気づけばすべての攻撃に対処できている。

 

 すごい……。これがロクサーヌの見ている景色か……。

 今まで自分には何の才能もないと思っていた。

 しかし、修行を始めて二十日ちょっとで、この域に達したのだ。

 もしかしたら、俺には剣の、いや近接戦の才能があったのかもしれない……。

 

 日本にいたころには気が付かなかったが、格闘技を習っていたら一角の人物になっていただろう。

 今更気が付いたところでもう遅いが、この殺伐とした世界で生きていく上では大きなアドバンテージとなるはずだ。

 今後迷宮討伐を目指すため、自分に眠っていた才能を伸ばしていこう。

 

 すべての攻撃に対処されたロクサーヌは一つ頷くと、口を開く。

 

「ご主人様、ようやく攻撃に対処できるようになりましたね。だいぶ時間はかかりましたがお見事です。それでは第二段階といきましょう。これからは少しだけ力と速さが増し、フェイントも加わります」

 

 そう言うと彼女はものすごい速さで迫ってきた。

 

 

 

 噓ですやん……。

 今までの修行が初級編とか嘘ですやん……。

 

 ……言われてみれば確かに、オーバーホエルミングの修行時とは、明らかに彼女の動きが異なっていた。

 それに、直線的な攻撃ばかりでフェイントを織り交ぜるようなことは一切なかったな。

 

 しかも、その初級の修行に、だいぶ時間がかかったと言っていた……。

 

 うわー! はずかしー!

 なにが近接戦の才能だよ! 遅いくらいだったんじゃねーか!

 

 あーもー! のたうち回りてー!

 

 

 

 現実に打ちのめされていると、ロクサーヌが話しかけてくる。

 

「強くなるため、一歩一歩着実に努力を重ねていくなんて、さすがご主人様です」

 

 天才に努力を褒められるのって、なんかこう、辛いものがあるな……。

 

 ……いや、へこたれてなんかいられない。

 他の人から見た俺は、天才なんていうレベルじゃないほどのインチキ野郎なんだ。

 なら、少しでも自分のアドバンテージを活かすべく、努力を重ねていこう。

 

「それじゃあ、続きをお願い」

「はい」

 

 

 

 一段ギアを入れたロクサーヌの動きに翻弄され、再びボコボコにされてしまう。

 そして、その後のオーバーホエルミングを用いた修行では、滝行で新たな何かを掴んだのか、今まではかわすことで精いっぱいだったはずなのに、彼女は反撃を狙い始めた。

 

 やばい。このままではオーバーホエルミングを使っても、太刀打ちできなくなってしまうぞ。

 

 

 

 修行の後は装備品の手入れを行い、バスルームで風呂を沸かす。

 スタッフとメギンギョルズ、それから毘盧帽のおかげでMP回復を行わなくてよくなっているため、めちゃめちゃスムーズに準備が終わる。

 遊び人のジョブを得たら、作業は更に捗るだろう。

 

 

 

 キッチンに入ると、ハンバーグの準備に取り掛かった。

 玉ねぎを適当な大きさに切り、フープロでみじん切りにしたら、フライパンに移して炒める。

 その間に豚バラ肉とバラをアイテムボックスから取り出し、適当な大きさに切り、フードプロセッサーの中に入れていく。

 そして、入れ終わったところで、ハンドルを握りグルグル回す。

 

「あの、ご主人様……。今作っているのは、その……ミンチでしょうか?」

 

 作業を続けていると、ドン引きした表情でロクサーヌが尋ねてきた。

 いや、まあこの世界だと粗野な人たちしか食べないらしいが、ミンチってそんなにダメかね?

 腸詰があるのに、なんで挽き肉がダメなんだろう?

 

「俺の故郷だとミンチは一般的な食べ物だったんだけど、ロクサーヌは嫌? もしどうしても受け付けないようだったら、無理することはないけど、絶対に美味しいと思うから、一度挑戦してもらいたいな」

 

 彼女はその言葉を聞くと、表情を無理やり笑顔に変えて口を開く。

 

「ご主人様の作った料理はどれも美味しかったので、今回もきっとそうでしょう。とても楽しみです」

 

 そんな強張った笑顔で楽しみと言われても……。

 

 

 

 挽き肉が出来たらボウルに移し、塩胡椒とナツメグを加える。

 そして、おろし金で硬いパンをおろしてパン粉を作り、飴色になった玉ねぎを入れて、粘りが出るまで捏ねていく。

 

 火の通りが心配なので、俵型ではなく小判型に成形し手早く焼いていった。

 四つすべて焼き終わった後は、残った肉汁に魚醬とすりおろしたシェーマの根を加えてソースを作り、ハンバーグにかける。

 

 うっし。完成。

 

「それじゃあ、食卓へ運ぼうか」

「は、はい」

 

 自分の作業を終えて、俺の様子をチラチラと見ていたロクサーヌに声を掛け、夕食を運ぶ。

 

 

 

 彼女が作ってくれた野菜スープをいつものように取り分け、食事の挨拶だ。

 

「では、いただきます」

「いただきます」

 

 おそらく、俺が先に食べないと手を付けないだろうなぁ。

 まずは、ハンバーグから食べてみるか。

 

 ナイフで一口大に切り、ソースを絡めて口へ運ぶ。

 

「うん。美味い」

 

 我ながらいい出来だ。さすが迷宮産の肉を使っただけのことはある。

 

 俺の様子を見ていたロクサーヌも、同じようにハンバーグを切り取ると、恐々と口へ運んだ。

 

「んー!」

 

 その途端、彼女の口から声にならない声が上がる。

 そして、もぐもぐと咀嚼を行い飲み込むと、クワッと目を見開き叫ぶ。

 

「ご主人様! これは何ですか!? とても柔らかくて、噛むたびに肉汁があふれ、そして豚と牛それぞれの違った味が混ざり合い、口の中が美味しさでいっぱいになっています! こんな料理があったなんて信じられません!」

「あ、ああ。気に入ってもらえてよかった……」

 

 なんか、美食倶楽部を主催してそうな勢いに呑まれてしまったが、彼女に受け入れてもらえたようだ。

 

「はい! とても美味しくて、カレーや唐揚げと順位をつけがたいです」

 

 カレー、ハンバーグ、唐揚げは定食や弁当で人気メニューだもんな。

 他にはとんかつ、オムライス、スパゲッティあたりか。

 まあ、これらもそのうち作ってみよう。

 

 でもさ、ふふん。

 

「ロクサーヌさんや。実はハンバーグカレーという料理もあります」

「ハンバーグカレーですか!? それはハンバーグとカレーを一緒に食べるのですか!?」

「もちろん」

「そんな贅沢な料理があるなんて……。信じられません……」

 

 俺の言葉を聞いた彼女は、雷にでも打たれたかのような表情を浮かべていた。

 

 いやいや、そこまで!? そこまで驚愕すること!?

 カレーにハンバーグを入れるだけだぞ?

 

「じゃあ、そのうち作ってみるよ」

「よろしいのですか!」

 

 そう言うと、輝くような笑みを浮かべてこちらを見ている。

 

「ロクサーヌに喜んでもらえるならね」

「はい。とても嬉しいです。ありがとうございます、ご主人様」

 

 ニコニコと嬉しそうなのが本当にかわいいなぁ。

 

 しかし、こうなるとどうしてもお米が欲しくなる。

 彼女にもカレーライスの美味さを味わってもらいたい。

 

 

 

 幸せそうにハンバーグを口に運んでいるロクサーヌに声を掛ける。

 

「ところでロクサーヌ、ミンチはどうだった? これからもミンチを使った料理を出してもいいかな?」

 

 問いかけてみると、彼女はワタワタと手を動かし、焦ったように告げた。

 

「ご主人様を疑ってしまい申し訳ありませんでした。ミンチがこんなに美味しいものだとは思いませんでした」

 

 よろしい。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

九階層

 

 

 

 

 

 翌日も普段と同じく魔物を狩っていると、午後になって立て続けにレベルが上がる。

 まずは商人、続いて魔法使いのレベルが上がり、そして今日の探索を終えようとしたとき、持ち望んでいたことが起きた。

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv33 英雄Lv28 魔法使いLv32 商人Lv22

装備 スタッフ 鋼鉄の盾 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴 メギンギョルズ

 

「きたー!」

 

 よっしゃ! これで遂に経験値効率四百倍の解禁だ!

 きっと、レベル上げも捗るはず。

 明日からは、狩場を変えないとな。

 

「ご主人様、またレベルが上がったのですか?」

 

 俺の興奮している様子を見て、ロクサーヌが声を掛けてくる。

 

「うむ。探索者のレベルがとうとう33になったので、明日からは狩場を変えることになる。詳しいことは風呂に浸かりながらな」

「はい」

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 いつものように、修行、装備品の手入れ、風呂焚き、食事の支度、食事を済ませた後は、歯を磨き洗い物を済ませてバスタイムだ。

 

 

 

 お互いの体を洗い、髪の手入れをして湯に浸かる。

 ロクサーヌの体を抱きしめたところで、彼女がこちらを見つめ話しかけてきた。

 

「先ほど迷宮でおっしゃっていた狩場を変えるとは、なんのことですか?」

 

 だいぶ気になっていた様子だな。

 

「探索者のレベルが33になったことで、ボーナスポイントが131ポイントになったんだ」

「そうなのですか?」

 

 問いかけてくる彼女に頷き返し、話を続ける。

 

「うん。そのおかげで、必要経験値二十分の一と獲得経験値二十倍の併用が可能となった」

「レベルが上がるのに必要な経験が二十分の一になって、その上魔物を倒して得られる経験が二十倍になるのですよね。とんでもないことです」

 

 そう口にしたロクサーヌの顔には、感心しているような、呆れているような、なんとも言えない表情が浮かんでいた。

 

「そうだね、概ね四百倍の経験値効率になるけど、それに加えて魔物が魔法一発で倒れるし、なによりロクサーヌがものすごい速さで魔物を見つけてくれている。おそらく、普通の人が得る数年分の経験を、一日で得ることになるだろうね」

「ご主人様……。本当にすごすぎます……」

 

 いやいや。この成果には鼻による索敵と、デュランダルでのMP回復時に魔物を引き付けてくれている、君の功績が大きいから。

 

「でも、この二つを両立させたら、メギンギョルズを装備することが出来なくなる」

「ボーナスポイントが足りないのですか?」

 

 ロクサーヌが不思議そうに問いかけた。

 

「そうなんだ。他にも今就いているジョブは、探索者、英雄、魔法使い、商人の四つなんだけど、このうち商人を外すことになる」

「一人で三つのジョブに就いているだけでも、とんでもないことなのですが……」

 

 いや、まあ、そうなんだろうけど。

 俺にとってサードジョブの状態というのは、なんとも心許ない。

 

「まあ、そういうわけで、メギンギョルズの魔法攻撃力二倍がないため、九階層の魔物は一撃というわけにはいかないはず。なので明日は、メギンギョルズがない状態で、魔物が一発で倒れる階層の確認をしよう。それが済んだら、その中で一番上の階層へ狩場を変える」

「でも、九階層の魔物も魔法二発なら倒れるのではないですか?」

 

 そりゃ、この娘ならそう言うよねぇ。

 

「ロクサーヌの言う通り、おそらく二発なら倒せると思う」

「でしたら――」

「でもね、それだと倒す速度が遅くなるし、MP回復の回数も多くなって、経験値の効率が悪くなるんだ」

 

 俺の言葉を聞いたロクサーヌの顔には、不満そうな表情が浮かんでいる。

 

「もちろん、いつまでも最善手を取り続けられるわけじゃない。それに、セリーが加入して、ある程度レベルが上がったら十階層以降に進むつもりだしね。ただ、二人だけの間は安全かつ効率的にいこう」

「セリーが加入してからが本番ということですね。わかりました。それまでは我慢します」

 

 おいおい。我慢しますって言ってるよ。

 不満を隠す気ないやん。

 

「もちろん、セリーが加入した後でも安全確保には気を配る。これに関しては誰に何を言われても譲るつもりはないよ。絶対にロクサーヌを失うわけにはいかないからね」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 機嫌が直ったのか、嬉しそうに微笑んでいる彼女へ顔を寄せる。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv33 英雄Lv28 魔法使いLv32 商人Lv22 僧侶Lv15

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

フィフスジョブ:15

必要経験値十分の一:31

詠唱省略:3

敏捷:18

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:858,480ナール

 

春の26日目

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