さて、今日からは経験値効率四百倍を試していこう。
ワンパンできる階層を探るため、ベイルの迷宮六階層へ移動した。
詠唱省略を詠唱短縮に変え、ワープを外して捻出したポイントで必要経験値二十倍にチェックを入れる。
よし、準備オッケーだ。
「ロクサーヌ、一番近くにいる魔物のところへ頼む」
「かしこまりました」
彼女はスンスンと匂いを確認し、こちらへ一声かけてから歩き出す。
ロクサーヌの後ろを歩いていると、程なくして魔物の姿が見えた。
ナイーブオリーブが二匹に、チープシープが一匹か。
「ファイヤーストーム」
姿が見えたところで魔法名を口に出す。
その途端に魔物達が炎に包まれた。
ワンパンできなかった時に備え、その姿を確認し続ける。
そのまま見つめているとやがて炎が消え、魔物の体も空気に溶けるように消えていく。
「よし、六階層は問題なさそうだな」
「六階層の魔物ごとき、ご主人様の敵ではありません」
はいはい。ありがとさん。
「では、七階層へ移動しよう」
「はい」
通路の壁に向かって呟く。
「ダンジョンウォーク」
七階層に移動したところで、ロクサーヌへ案内をお願いする。
「先ほどと同じように頼む」
「かしこまりました」
通路を歩いていると、反対側から魔物が近寄ってくる。
エスケープゴートにナイーブオリーブ、そしてチープシープだな。
「ファイヤーストーム」
姿を確認し、魔法を発動すると、炎が魔物の体に纏わり付く。
……しかし、先ほどもそうだったが、いつもと比べて炎の規模が小さい。
普段の魔法は、魔法攻撃力二倍のおかげで、威力が相当引き上げられていたのだろう。
いうなれば、『今のはメラゾーマではない……、メラだ……』って状態だったわけだ。
やはり、魔法攻撃力二倍がないのはかなり痛いな。
考えながらも魔物の様子を確認していると、炎と共に奴らの体も風に流されるように消えていった
オッケー、オッケー。七階層でもワンパンだ!
「七階層の魔物も問題ありませんでしたね。さすがご主人様です」
さすごしゅありがとさん。
「今度は八階層で試してみよう」
「はい」
「ファイヤーストーム」
コラーゲンコーラル二匹とエスケープゴート二匹の群れへ魔法を放つ。
同じように魔物の様子をうかがっていたところ、炎が消えても奴らの姿は健在で、コラーゲンコーラルがピョコピョコ跳ねながら向かってくる。
しかし、エスケープゴートはこちらにケツを向け、一目散に逃げだした。
「ファイヤーストーム」
リキャストタイムが明け、再び魔法を叩き込むと、通路の先で炎が上がる。
「一撃で倒れるのは七階層までのようだ。今日からはそこでレベルを上げることにしよう」
魔物を倒し、ロクサーヌからドロップアイテムを受け取りながら告げた。
「はい。すぐにレベルを上げて先へ進みましょう」
彼女はにっこり微笑みながら、力こぶを作るポーズを取る。
おいおい、めちゃくちゃかわいいじゃないのさ。
いや、まあ、遊び人を取得するまでは足踏みの予定だから、結構時間が掛かると思うんだけど、これは言わんほうがいいだろうな。
「それじゃあ、七階層へ戻ろう」
「はい」
おっと、経験値効率四百倍の狩りを始める前に、念のためレベルを確認しておくか。
キャラクター再設定を開き、獲得経験値二十倍を十倍に落とし、余ったポイントを鑑定にまわす。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv33 英雄Lv29 魔法使いLv32
装備 スタッフ 鋼鉄の盾 硬革の帽子 硬革の鎧 硬革のグローブ 硬革の靴
あれ!? 英雄のレベルが上がってる!
どういうことだ?
ただタイミングが合っただけなのかもしれないが、もしかしたら、必要経験値を十分の一から二十分の一にしたことで、何らかの影響を与えた可能性もあるな。
まあ、必要経験値や獲得経験値、それから累計経験値も確認することが出来ない以上、考えてもしょうがないか。
出来ることといえば、一匹でも多く魔物を狩って、経験値を稼ぐことだけだ。
ボーナスポイントの振り分けを戻し、ロクサーヌに声を掛けた。
「さて、いつものように魔物を倒していこう」
「はい。では、こちらです」
それからは、ひたすら魔物を狩りまくった。
メギンギョルズの最大MP上昇がないため、普段に比べてMP回復を行うまでに倒せる魔物の数が減ってはいるが、まあこのくらいなら許容できる。
こっちの方がおそらく効率はいいはず……。たぶん、きっと、そうだといいなぁ。
「ご主人様、そろそろパン屋の開く時間です」
狩りを続けていると、いつものようにロクサーヌから時間を告げられた。
「では、戻るか」
「はい」
朝食の買い物を済ませ、ロクサーヌが食事の支度をしている間に文字の勉強を行う。
準備が出来たところで勉強を終え、彼女が作ってくれた美味しい朝食をとった。
片付けと食休みを済ませると、ロクサーヌへ給金を渡して買い物へ出る。
クーラタルの武器、防具屋は空振りかぁ。
まあ、しゃーない。
それじゃあ、気を取り直してセリーに会いに行くべ。
三度目ともなると、案内役の商人も慣れたもので、スムーズにいつもの部屋へと通される。
しばらく待っていると、アランに連れられたセリーが部屋へ入ってきた。
用事でもあるのだろうか? 彼は挨拶もそこそこにすぐさま部屋を出て行く。
セリーの様子を見てみると、嬉しそうに笑みを浮かべこちらを見ている。
「セリー、調子はどうだ? 不自由をしていることはないか?」
「お気遣いありがとうございます。とても良くしていただいているので、何も問題ありません」
おお! 完璧じゃないか!
「すごいじゃないか。言葉に違和感がまったくないぞ」
あまりの上達っぷりに感心していると、はにかんだような笑みを浮かべて答えた。
「それもこれも、ご主人様にブラヒム語を学ぶ機会を与えていただいたおかげです。本当にありがとうございます」
「ふふ。これで五日後は問題なく合流出来ます。本当に頑張ったのですね。セリーはすごいです」
楽しそうに話をしている二人を見ながら考えを巡らせる。
セリーのブラヒム語の習得は順調で、五日後には間違いなくパーティーに加入するだろう。
となると考えなければならないことがある。
俺とロクサーヌの関係をどうするべきか……。
ロクサーヌには奴隷ではなく、妻となってほしい。
セリーが加入する前に、そのことを伝えてみよう。
そして、セリーに対しどこまでの情報を伝えるか、すり合わせを行う必要がある。
自分や仲間のジョブを自由に変えられること、複数のジョブを同時に付けられること、魔法を使えること、詠唱がなくてもスキルを使えること。
これらは一緒に過ごしていると、絶対に隠すことは出来ないだろう。
だが、ボーナスポイントやキャラクター再設定。それから、異世界転移のことや、原作知識については、以前ロクサーヌに伝えたように、彼女へ一任しよう。
もし、彼女が一生伝えないというなら、それでもかまわない。
俺にとって、一番大切なのはロクサーヌだからな。
そこだけは何があってもブレるわけにはいかない。
「そうなのですか! 本当にすごいです!」
ん? なんだ?
考え込んでいると、セリーの大きな声が聞こえてきた。
彼女たちの方へ顔を向けると、ドヤ顔をしたロクサーヌがこちらを向いて口を開く。
「ご主人様は迷宮討伐に向けて着々と準備を整えており、遠くないうちにそれを成し遂げるだろうと伝えました」
おいー! なにを言ってんだー!
あ、いや、たぶん彼女は鼻で盗み聞きされていないことを確信し、仲間しかいないのでそんなことを言ったのだろう。
しかし、セリーは後五日ここにいるんだから、ちょっとは自重しなさい。
セリーの方をうかがうと、キラキラと輝くような瞳でこちらを見つめていた。
「うむ。だが、それを他人に知られると、妨害される恐れがあるのでな。セリーもこのことはくれぐれも内密に頼む」
「なるほど。迷宮討伐を成し遂げても足を引っ張られ、スムーズに叙爵とはいかないことも多いと聞きます。後ろ盾を得るまでは、その方が良いかもしれません」
……この娘どうしてそんなことを知っているんだろう?
原作でも、秘密結社である帝国解放会のことも知っていたし、本当にすげーな。
「頼むな」
「かしこまりました」
セリーは納得したように頷いた。
その後も話を続けていると、アランが部屋へきて終了の時間になる。
あ、そうだ。
次回はセリーを迎えることになるし、当日の流れを確認しておかなくては。
「アラン殿。五日後の彼女を迎える日について確認を行いたいのだが」
問いかけると、彼はこちらを向き返事をする。
「はい。どういったことでございましょうか」
「午前中に迎えに来るようにとのことだったが、どのくらいの時間に来ればいいのだ? できればなるべく早い方が助かるのだが」
「そうですね……。以前当家では夜明け前に戦闘奴隷を他領の迷宮へ送っていると、申し上げたかと存じます」
あー、確か原作でも出てきたし、盗賊襲撃を知らせたときにも言っていたな。
「うむ。確かに聞いたな」
「はい。その時間になると、家人は働き出しておりますし、私も活動を行っております」
ほう。商館の主もその時間から働いてんのか。
まあ、電灯もない世界じゃ夜にやることもないだろうし、早めに寝るのだろう。
それなら、薄暗いうちから仕事を始めるのかもしれないな。
「ですので、その時間にお越しいただいても問題ありません」
具体的には何時やねん。
あ、いや。時計がないんだ。こんな説明になってしまうのも仕方がないか。
ロクサーヌならこの館にいたのだから、わかるかもしれない。
「その時間がわかるか?」
「大丈夫です。おまかせください」
確認してみると、頼もしい答えが返ってくる。
さすがロクサーヌ。頼りになるー。
「アラン殿、それでは夜明け前に来ることにする」
「お待ちしております。その際に侍女服と帝都の奴隷商への紹介状もお渡しいたします」
「うむ。助かる」
早朝から一緒に迷宮探索を行えるのはありがたい。
鍛冶師の取得とそのレベル上げ、そして装備品製造にスキル結晶の融合と、やることが目白押しだからな。
では、そろそろ行くか。
こちらを見つめているセリーへ声を掛ける。
「では、セリー。五日後に迎えに来る。君がパーティーに加わるのを楽しみにしているぞ」
「ありがとうございます。私もご主人様やロクサーヌさんと共に過ごせるのが、今から本当に楽しみです」
館を離れ、市場通りを目指して歩きながら、ロクサーヌに話し掛ける。
「次回はいよいよセリーを迎えに来るのだな」
「はい。長かったような、短かったような、不思議な感じがします」
確かになぁ。
この世界に来てから、一日の密度が濃い上に、一週間という区切りがないせいで、どうにも経過した日にちと体感があやふやだ。
パピルスに日にちをメモしているが、今のままでは、注文している物の受取日や、原作で重要なことが起こった日を忘れてしまいそうで怖いぞ。
しかし、カレンダーを見かけたことがないんだよなぁ。
そのうち時間が出来たら作ってみるのもいいかもしれない。
さて、考え事はこのくらいにして買い物に戻るか。
「では、ベイルの武器屋と防具屋を回ってみよう」
「かしこまりました」
武器屋に入ると何やら騒がしく、カウンターの前で十人以上の人が左右に分かれ、周囲へ険悪な雰囲気をばら撒いている。
そして、それぞれの集団を代表するように、イヌミミの男二人が前へ出て、ガンを飛ばし合っていた。
なんだこれ?
ヤンキー漫画の世界なの?
「これは俺が先に店主へ声をかけて支払いをするところだったんだ。後から来て購入しようなど、横紙破りも甚だしい。お前には常識がないのか?」
そう言った彼の後ろにいる仲間たちも、同じように相手の男を睨みつけていた。
バルガ ♂ 26歳
獣戦士Lv46
装備 エストック 身代わりのミサンガ
鑑定してみたところ、割とレベルが高い上に、武器も良いものを装備している様子だ。その上、身代わりのミサンガまで身に着けている。
おっ。このパーティー魔法使いがいるぞ。
もしかして、名のあるやつらなのだろうか?
もう一方の男が威嚇するように声を荒げた。
「ふざけるな! 俺が金を取りに行っている間にコソ泥のような真似をしやがって! お前の方こそ常識がないじゃねーか! その剣のことは諦めてとっとと失せろ!」
ナギィ ♂ 27歳
獣戦士Lv48
装備 エストック 身代わりのミサンガ
おお! エストックを鑑定してみるとあっちの男の物とは違い、こいつの方にはスロットが三つも付いている。
スキルを付けたとしても、どうせ一つしか付けないんだろうし、売ってくれないもんかね?
後ろにいる仲間たちは、男を必死になだめており、なんとかこの場を収めようとしているようだ。
ん? おいおい、こっちにも魔法使いがいるじゃねーか。
魔法使いがいる二組のパーティーが揉めているなんて、すごいこともあるもんだなぁ。
それにしても、同じジョブに同じ装備。似たような年齢に似たようなレベルって、実はお前ら仲良しだろ。
好奇心に駆られ、揉め事の原因となっているであろう、カウンターに置いてある剣に鑑定を掛けてみる。
催眠のエストック 片手剣
スキル 催眠
あのー、原因わかっちゃったんですけどー。
二人とも獣戦士だし、催眠のスキルの付いた武器が手に入れば、ビーストアタックを有効活用できるからな。
是が非でもこれを手に入れたいのだろう。
それに、狼人族の憧れらしいし、どちらも引くに引けなくなったってとこか。
「だいたい、本当に買う気があるなら、店主に金を取りに行くと伝えて予約をしておけばよかったんだ。それを怠ったお前に権利を主張する資格はない!」
「うるせー! 店を離れた時間はほんの少しだ! お前が来なければ何も問題なかった!」
えーっと、ああ、ナギィか。こいつの方が旗色は悪いわ。
もう一人の男が言うように、金を取ってくるなら、店主に一言伝えて取り置きをお願いするべきだったな。
仲間たちもそれをわかっているため、こいつをなだめようとしているのだろう。
店主の方もそう思っているのか、口を開き無茶を言っている者へ告げた。
「私はお客様から取り置きを依頼されていないため、こちらのお客様が優先となります。申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします」
まあ、そりゃそうだ。ご愁傷様。
店主はもう一方と商談を始め、男はカウンターの上にあるトレーへ硬貨を置き始めた。
購入できなかった方は、まだ納得いっていない様子でグダグダと喚いており、仲間たちは必死になだめ続けている。
パワハラ野郎の相手は大変だよなぁ。
どうせあんな奴は、何かというと大声を上げ威圧的な言動を取り、絶対にこなせない量の仕事を振ってサービス残業を強要したり、休日に電話をかけてきて出社するように告げたり、昇給をしなかったり、名ばかり管理職にして超勤手当てを削るに決まっている。
ろくなもんじゃない。
ナギィという獣戦士は不満そうにしていたものの、ようやくカウンターを離れて入口へ向かって歩き出した。
しかし、いきなり何かに気が付いたように、クンクンと匂いを嗅ぎ始め、キョロキョロ辺りを見回す。
そして、俺の隣にいるロクサーヌをロックオンし、熱っぽく見つめ出した。
うわー。ガン見だよ。
本当に美人も大変だなぁ。
あまり、奴の方を見て絡まれるのも面倒だ。出物の確認を済ませて、とっとと退散しよう。
「ロクサーヌ、とりあえず武器を確認してみる」
「はい」
さーて、探すとしますかね。
例のごとく、店内の武器へ片っ端から鑑定を掛けていくが、やはり目ぼしいものは見当たらない。
うーん……。やっぱないわ。
んじゃ、次は防具屋だな。
見守っていたロクサーヌへ向けて首を振った。
「次へ行こう」
「かしこまりました」
彼女へ声を掛けて入口へ向かうと、先ほどのパーティーがまだ店内に残っており、狼人族の男はじっとロクサーヌを見続けている。
こっわ。なんだあいつ? ストーカーかよ。
……いや、彼女へ会うために生まれ故郷を捨てた、レベル違いのストーカーにだけは言われたくないだろうけどさ。
そいつらの前を横切り店を出ようとしたところで、その男はロクサーヌへ向けていきなり手を伸ばした。
オーバーホエルミング
引き延ばされた時間のなか、回避動作に入っている彼女を抱きしめ、奴の手を払いのける。
一気に頭に血が上り、こいつをぶん殴ってしまいたい衝動に駆られるが、揉め事を起こすと面倒なことになってしまう。
何とか冷静を保ちながらロクサーヌの体を抱え、少し距離を取って奴らの様子を確認していると、血迷ったのはそいつだけで、他の者はその行動に泡を食っている様子だった。
時の流れが元に戻ると、彼女を抱きしめたまま奴に声を掛ける。
「どういうつもりだ?」
オーバーホエルミングを使った俺の動きに動揺していたようだったが、舐められたくないのか、それを隠すように声を張り上げた。
「その女は狼人族だろ! お前のような間抜け面といるより、俺と共にいる方がそいつのためだ。女を置いてとっとと失せろ!」
ああ? 俺からロクサーヌを奪おうってのか? 上等だよ。
「つまりお前は他人の妻を奪おうとする盗賊なんだな? 自由民の俺が決闘を申し込んでやるから、このまま騎士団へ行こうじゃないか。ビビってるなら代理人を立ててもいいし、なんなら一対六でも構わんぞ?」
その言葉を聞いた、パーティーメンバーであろう冒険者の男は、慌てふためきながら俺の前に出てきて声を上げる。
「待ってくれ。こいつは彼女があんたの奥方だとは思っていなかったし、彼女を奪うつもりもなかったんだ。それに俺たちも決闘なんてするつもりはない。よく言って聞かせるから勘弁してもらえないか?」
他のメンバーも顔を強張らせ、同意するように頷いているが、肝心の男は敵意を隠すことなく、こちらを睨み続けていた。
自由民であることを明かし決闘を申し込んでいるのに、ふざけた態度を取り続けている。
こいつは間違いなくロクサーヌを奪うつもりだっただろうし、他人の妻でもお構いなしなのだろう。
「そいつはそう思っていないようだが?」
その言葉に彼は後ろを振り向き、奴の表情を確認すると、いきなりその顔を殴りつけた。
「いい加減にしろ! いつもいつも揉め事を起こしやがって! お前のせいでどれだけ恨みを買っていると思っているんだ! 挙句に自由民の妻に手を出して決闘沙汰だと!? ふざけるな!」
他の者も加わり、口々に恨み言を叫びながら奴を殴り始めた。
「お客様! 店内での揉め事は困ります!」
武器屋の店主が大声を上げると、殴り合いをしていたパーティーは手を止めて口を開く。
「もうつき合いきれん。お前とはこれまでだ。パーティー資金の六分の一はくれてやるから、決闘でも何でも好きにしろ」
そう言うと、冒険者の男はアイテムボックスから金貨を取り出し、そいつへ投げつける。
そして、こちらへ顔を向けると口を開いた。
「申し訳ないが、もうこいつとは無関係だ。決闘を行うなら俺たちを巻き込まないでくれ」
「ああ。あんたたちも大変だったんだな」
あんな調子では、この男の言う通り色々な人と揉め事を起こし、恨みを買っていそうだ。
「迷惑をかけて、すまなかった」
彼らは俺たちと店主へ頭を下げ、謝罪の言葉を口にして、店を出て行った。
原因を作った男は落ちている金を拾い集めると、こちらを睨みつけ、ヨタヨタとした足取りで去っていく。
……完全に逆恨みをされている感じだったな。
何事もなければいいんだが。
店主と、店に居たもう一方のパーティーから、巻き込んだことを謝罪されたが、彼らのせいではないので、問題ない旨を伝え外へ出る。
武器屋を出たところで、ニコニコ顔のロクサーヌが話しかけてきた。
「ご主人様、守っていただきありがとうございます。とても素敵でした」
かなり緊迫した状況だったのに、君はめちゃくちゃ余裕だねぇ。
「ロクサーヌに何もなくてよかった」
「本来なら私がご主人様のことをお守りしなければいけなかったのに、電光石火の動きで私を抱きかかえ、あの男の手を払いのけて後ろへ下がるなんて、本当にすごいです」
この娘さん、オーバーホエルミング中の動きを完全に見切っているんだよなぁ。
ん? あれ? いつもなら、オーバーホエルミングに歩雲履まで加わった、俺の動きを回避しているよな?
「とっさに抱きしめたが、それをかわそうとは思わなかったのか?」
「ご主人様が、私に理不尽なことをするはずがありません。守ろうとしてくださっているのだと思い、そのままおまかせしました」
あの一瞬でそんなことを考えてたの?
とんでもないなぁ……。
んじゃ、掘り出し物探しの続きといきますかね。
「では、防具屋へ行ってみよう」
「はい」
ロクサーヌは返事をした後、ススっと近づき、俺の耳に顔を寄せて囁く。
「妻と言っていただけて、嬉しかったです」
彼女の顔を確認すると、そこにははにかんだような笑みが浮かんでいた。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv33 英雄Lv29 魔法使いLv32
BP振分 残BP:29
キャラクター再設定:1
サードジョブ:3
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
二十五パーセント値引:31
所持金:865,487ナール
春の27日目