異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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帝都

防具屋

 

 

 

 

 

 ベイルの防具屋で何も見つけられなかった後は、帝都の武器屋を回るも、やはりそこも空振りに終わり、今日最後である帝都の防具屋へ訪れる。

 

 しかし、ここでも掘り出し物を見つけることは出来ず、今日はすべての店が空振りに終わってしまった。

 

 何の成果も!! 得られませんでした!!

 

「ふぅ」

 

 思わず口から息が漏れてしまう。

 まあ、辛抱強く探していくさ。

 

 

 

 さて、気を取り直して、この後はウサギの毛皮の売却と、ロクサーヌの買い物だな。

 

 あ、違う。そういえばセリーは早朝から家に来ることになったんだ。

 朝イチの探索では彼女用の頭装備が足りないわ。

 硬革の帽子と内履き用のサンダルを買っとくか。

 

 サンダルにスキルを付けることはないだろうが、一応どちらもスロット付きを選んでおいた。

 

 

 

「高級な方の服屋でウサギの毛皮を売却したいのだが、ロクサーヌは他に回りたいところはあるか?」

「私も今日はそちらを見てみようと思っていたので、問題ありません」

 

 何か所も回らなくて済むのはありがたい。

 今日はそれほど時間が掛からずに済みそうだ。

 

「よし。それじゃあ行くか」

「はい」

 

 

 

 

 

帝都

高級服屋

 

 

 

 

 

 ウサギの毛皮の売却を済ませると、隅にある椅子に座らせてもらい、ロクサーヌの様子を観察をする。

 

 毎度のように店中の服をひっくり返す勢いで確認しているぞ。

 色やデザインだけではなく、裏返して縫製まで確認するんだもんなぁ。

 店側からしたら、かなりやっかいな客だと思われているのかもしれない。

 しかし、工業製品のように一定の品質が保たれているわけじゃないのだ。

 少しでも良いものを購入しようと思うと、彼女の様にする必要があるのだろう。

 

 

 

 店中の服を確認したところで、彼女は手にしていた服を次々に戻すと、こちらに向かってくる。

 

「何も買わないのか?」

「はい。今回は欲しいものがありませんでしたので」

 

 この娘、本当にメンタルつよつよだわ。

 これだけ店中の品を確認しておきながら、よく何も買わずにいられるな。

 俺なら気まずくて絶対に何か買ってしまうぞ。

 

 すまぬ。五日後にはセリーの買い物と注文をするし、ロクサーヌの服も買うから、今回は勘弁してくれ。

 

 

 

 そそくさと店を出て、ワープで移動する。

 

 

 

 

 

ベイルの迷宮

七階層

 

 

 

 

 

 自宅で装備を整えると、今度は迷宮へ出勤だ。

 

 繰り返し魔物を倒していき、昼食を挟んでもそれを続ける。

 そして、今日の探索が終わったときには探索者、英雄、魔法使い、すべてのレベルが上がっていた。

 

 さすが経験値効率四百倍。予想以上の効果だ。

 これなら、すぐにでも探索者のレベルが37に到達し、商人のレベル上げを再開できるかもしれない。

 

 さて、それじゃあ今日はここまでにしておこう。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ドロップアイテムの売却と夕食の買い出しを済ませ、自宅に戻る。

 修行を終え、装備品の手入れをしているときに、ロクサーヌと話をすることにした。

 

「ロクサーヌ、少しいいかな」

「はい、なんでしょう?」

 

 声を掛けると、嬉しそうに俺の顔を見つめてくれる。

 

「出会ってから二十五日が経つけど、ロクサーヌにはいつも助けられてばかりだ。本当にありがとう」

「私の方こそ、いつも大切にしていただいているおかげで、とても幸せな毎日を過ごしています。ご主人様、本当にありがとうございます」

 

 彼女の顔には柔らかな笑みが浮かんでいた。

 そして、お互いの顔を見合わせ笑い合う。

 

 ここからだ。ここからは真剣な話になる。

 俺の提案はロクサーヌに受け入れてもらえるだろうか?

 

 不安を振り払い、口を開く。

 

「前にも言った通り、俺はロクサーヌに会いたくてこの世界へ来た」

「はい」

「この世界で最も大切な人は君だし、最も信頼しているのも君だ」

「ご主人様、ありがとうございます」

 

 彼女はその言葉に瞳を潤ませながら、感謝の言葉を口にした。

 

「それで、ロクサーヌを奴隷の身分から解放しようと思う」

「えっ!?」

 

 俺の告げた言葉に大きな声を上げ、戸惑ったような表情を浮かべると、泣き出しそうな表情を浮かべて問いかけてくる。

 

「ご主人様は、私のことが必要なくなったのですか?」

「違う! そういう意味じゃない!」

 

 ロクサーヌの声を聞いた瞬間、大きな声を上げていた。

 

「ロクサーヌ、そうじゃないんだ。本当に君のことは信頼している。主人と奴隷という関係じゃなくなっても、一緒にいてくれると思えるからこその提案だ」

「ご主人様……」

「そして、もし俺のことを受け入れてもらえるのなら、結婚してほしい」

 

 それを聞いたロクサーヌは目を見開き、口に手を当てたまま固まっている。

 

 出会ってから二十五日しか経っていないのに、いきなりのプロポーズだ。

 彼女が戸惑うのも無理はない。

 それに、そんなつもりはないが、奴隷解放と引き換えに結婚を迫っているかのように取られてしまう可能性もある。

 

 

 

 そのままロクサーヌを見つめていると、やがて彼女はハラハラと涙を流し始めた。

 

「ロクサーヌ、ごめん! 君の気持ちを考えず自分の気持ちを押し付けようとした! 本当に申し訳ない!」

 

 まずい! そんなに嫌だったのだろうか? 心が通じ合ったと思っていたのは俺だけだったのか?

 

「いえ、そうでは……、あり、ません……」

 

 彼女はしゃくりあげながら口を開く。

 そして、しばらく息を整え、気持ちを落ち着かせてから再び口を開いた。

 

「大切で大好きなご主人様から結婚を申し込んでいただいて、本当に嬉しかったのです」

 

 やった……。良かった……。本当に良かった……。

 

 彼女の言葉がじわじわと脳に浸透し、喜びの感情が爆発的に湧き上がる。

 

 ということは今日から夫婦なのか!

 この世界での婚姻はどういったものなのだろう?

 どこかに申請したりするのか? それとも、インテリジェンスカードを書き換えるのだろうか?

 

 あ、指輪を用意してなかった!

 この世界でもエンゲージリングがあるのかわからないが、用意しておいた方が良かったよな?

 

 あー、どうしよう! 嬉しさで頭がおかしくなりそうだ!

 

 

「ですが……」

 

 ん?

 

「ですが、そのプロポーズはお受けできません」

 

 

 

 一瞬頭が真っ白になってしまう。

 

 ……え? なんで? どういうこと?

 

 なんでだ? 悪いところがあるなら、言ってくれればなるべく改めるようにするのに……。

 ベイルの武器屋では、妻と言われて嬉しかったと言っていたはず……。

 どうして? やはり不細工だからだろうか……。こんな顔をしたやつと結婚なんて絶対に嫌だよな……。

 そうだよな。顔だけじゃなくて、性格も最悪だもんな……。そりゃそうだよ……。

 ああっ……。あんなこと言うんじゃなかった……。

 

 いきなり地獄に突き落とされ、なにがなんだかよくわからず、後悔でいっぱいになる。

 

 

 

「あ……」

 

 頭の中がネガティブな想いでいっぱいになっていると、ロクサーヌの両手が俺の頬に触れた。

 何故だか彼女の手がどんどん濡れていく。

 

「ご主人様、私の話を聞いてください」

 

 顔を上げると、涙に濡れたロクサーヌの顔が目に飛び込んでくる。

 

「私はご主人様のことを愛しています。世界で一番大切な人だと思っています」

「なら、どうして……」

 

 思わず問いかけると、彼女は辛そうな表情を浮かべて言葉を続けた。

 

「ご主人様は強い上に、頭も良く、そして特別な力もお持ちです。遠くないうちに迷宮討伐を成し遂げ、貴族に列せられることでしょう」

 

 一度言葉を止めると、ロクサーヌは苦しさを堪えるような声色で続きを口にする。

 

「そして、そうなればお世継ぎが必要となります。ですが、私ではご主人様との間に子をもうけることができません。私はご主人様の妻になれないのです……」

 

 そう告げると、彼女は再び嗚咽を漏らした。

 

 

 

 ……そういうことか。

 

 おそらく、色魔の上位ジョブには、異種族との間に子供をもうけることが可能なスキルがあるはず。

 しかし、今それをロクサーヌに告げることは出来ない。

 もし、なかった場合、彼女をとても傷つけることになるだろう。

 

 だが、たとえそれがなかったとしても、養子を取ればいいだけのことだ。

 原作で出てきたエルフ一族の長であるカッサンドラという老婆。彼女は人間族と結ばれ、そしてその人間の男は貴族に成り上がった。

 しかし、二人の間に子どもは出来ず、養子を取って跡を継がせたとのことだった。

 なら、俺たちだってそうすればいい。

 

「ロクサーヌ。俺は君と夫婦になりたい。子供が出来なくても養子を取ればいいし、現にそうしている貴族家はあるから問題ないよ」

「ダメです。ご主人様の興した家を他人が継ぐなんて絶対に嫌です」

 

 そんなことを言われても……。

 

「じゃあ、ロクサーヌは俺が人間族の妻を娶り、その人との間に子供を作った方が良いっていうの?」

「はい。同じ種族の奥様をお迎えすることが、ご主人様のため……。ダメです! ご主人様の一番は私じゃなければ嫌です! 他の人との間に子をもうけないでください!」

 

 彼女は人間族の妻を娶るよう言いかけたが、くしゃりと顔をゆがめ、叫ぶように懇願する。

 

 ああ。彼女も同じ気持ちでいてくれているのか。

 子供の問題さえなければ、きっとプロポーズを受け入れてくれたのだろう。

 

 ……絶対に色魔のレベルを上げなくては。

 その可能性に縋るしかない。

 

「やっぱり、ロクサーヌも俺が他の人と子供をつくるのは嫌なんじゃないか」

「そうですね……。私には受け入れられそうにありません……」

 

 お互いに泣き笑いの表情で、顔を見合わせる。

 

 

 

 タオルで顔を拭き、落ち着きを取り戻したところで見つめ合うと、ロクサーヌのかわいらしい瞳が赤く染まっていた。

 好きな娘を泣かせてしまったな。

 まったく、本当に精進の足りない男だ。

 

「ロクサーヌ、いきなりプロポーズなんかしてごめんね。でも、君と結婚したいという気持ちは本当だから。受け入れてもらえるまで待ち続けるよ」

「ありがとうございます。ご主人様が私のことを想ってくださることがなにより嬉しいです。今はまだ受け入れることは出来ませんが、いつかはきっと……」

 

 いつかじゃなくて、今受け入れてほしいな……。

 

「それじゃあ、結婚については保留にするとして、奴隷からの解放はしておこうか」

 

 騎士のジョブをゲットしたことで、インテリジェンスカード操作も可能になっている。

 奴隷商のところへ行く必要もないからな。

 

「いいえ、それもお断りします。奴隷から解放されるのはご主人様と結ばれるときに……」

 

 本当に頑固な娘さんだ。

 まあ、そういうロクサーヌのことを好きになったんだから、待ち続けるしかない。

 

 

 

 

 

 本当ならロクサーヌと夫婦になってからすり合わせを行うはずだったが、セリーについても話しておかなくては。

 

 ……今考えると、絶対に受け入れてもらえると思ってたんだなぁ。

 どんだけ能天気だったんだか。

 

 

 

「ロクサーヌ、セリーが加入した後なんだけど、どこまでの情報を伝えようか? ジョブの変更が出来ることと、魔法を使えること、それから詠唱なしでスキルを使えることは、すぐにバレてしまうよね?」

「そのことなのですが、セリーにはすべて打ち明けた方が良いと思います」

 

 え?

 思わずロクサーヌの顔をうかがうと、真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

 

「セリーは本当に頭が良いですし、話をしていても真面目でとても良い娘なのがわかりました。二人だけの秘密ではなくなるのは残念ですが、ご主人様が迷宮討伐を成し遂げるためには、彼女の協力が不可欠でしょう」

 

 本人が言う通り、それらについては二人だけの秘密にしたいという思いがあったはずだ。

 しかし、その気持ちへ蓋をしてまで、俺のために最善だと考える行動を取ってくれている。

 なんていじらしくてかわいい娘なのだろう。ますます好きになってしまう。

 

「わかった。それじゃあ、セリーにもボーナスポイントや俺のこと、それから『異世界迷宮でハーレムを』についても打ち明けよう」

「はい」

 

 彼女は頷いたものの、残念そうな様子は隠せていない。

 

「ロクサーヌ、何度も言うけど、俺の一番大切な人はロクサーヌだ。それが変わることは絶対にない」

「ふふ。はい。私の一番大切な人もご主人様です。それが変わることは絶対にありません」

 

 良かった。ロクサーヌの顔に笑みが戻った。

 

 

 

 そして、セリーが来るにあたって、最も重要な確認すべきことがある。

 

 彼女に手を出すか否か。

 

 ついさっき、ロクサーヌにプロポーズをしたのにこんなことを考えるなんて、不誠実にもほどがある。クズといわれても仕方がないだろう。

 しかし、色魔のジョブを得るためにはセリーに手を出す必要がある。

 

 ……いや。そんなのは単なる言い訳だな。

 

 俺はロクサーヌのことが一番好きで一番大切で、彼女のことを何よりも優先してしまうだろう。

 だが、セリー、ミリア、ベスタ、ルティナのことも好きで、誰にも渡したくないと思っている。

 日本にいた頃は浮気をする奴のことをクズだと思っていた。

 不倫のゴシップを見ると、好きな人がいるのに、どうしてそんなことが出来るのか、不思議でならなかった。

 

 しかし、いざ自分がその立場になったらこのざまだ。

 

 最初から欲望全開でハーレムを目指す者とは違い、一番好きな人がいるのに他の娘にも手を出そうとしている。

 まったく、度し難いクズ野郎だな。

 

 

 

 覚悟を決めて、口を開く。

 

「それから、セリーのことなんだけど、彼女をその、寝所に……」

「ご主人様、お気遣いいただきありがとうございます。ですが、セリーのこともかわいがってあげてください」

 

 問いかけると、ロクサーヌはキッパリとそう言い切った。

 

「せっかく迎え入れられたのに、お情けをいただくことがないと、彼女は不安に思ってしまうでしょう。嫉妬心がないと言えば嘘になってしまいますが、セリーとならきっと上手くやっていけると思います」

 

 その言葉を聞き、思わず彼女を抱きしめてしまう。

 

「ありがとうロクサーヌ。それから、不誠実な男で本当にごめん」

「ふふ。プロポーズをしたというのに、そんなことを言うなんて本当に浮気者なご主人様です。でも、私が一番じゃないと嫌ですからね」

 

 ロクサーヌ、すまない。本当に申し訳ない。

 

「それはもちろん。それだけは何があっても変わることはないから」

「はい。信じています」

 

 

 

 長い話をしたため、少しばかり遅くなってしまったが、食事と風呂を済ませ、寝室に移動し、ベッドに腰を下ろしてロクサーヌを待っていると、先ほどのことが頭をよぎる。

 

 プロポーズはロクサーヌに受け入れてもらえなかった。

 

 しかし、彼女が俺のことを想ってくれているのが痛いほど感じられたし、いずれ受け入れたいという気持ちがあることもわかった。

 彼女の心が定まるまで待つしかない。

 色魔を得てレベルを上げ、それを待ち続けるのだ。

 

 

 

 でも、悶々としたまま戦い続けるのはきつそうだよなぁ……。

 色魔オンリーで戦っている奴とは違い、俺は魔法攻撃中心なのだ。

 物理攻撃の倍率を上げるために、性欲を溜め続ける必要はない。

 それなら、欲求不満が高まれば、即座に禁欲攻撃を使用し、性欲の解消を図るのはどうだろう?

 常に賢者タイムで迷宮に挑むのはありかもしれない。

 これもいずれ試してみないとな。

 

 

 

 考えに没頭していると、白いキャミソールを身に纏ったロクサーヌが部屋に入ってきた。

 先ほどのことがあったためなのか我慢が出来ず、近寄ってその体を抱きしめる。

 

「ロクサーヌ、今日は自分を抑えられそうにない」

「はい。私もたくさんかわいがっていただきたいです」

 

 お互いにゆっくりと顔を近づけていく。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv34 英雄Lv30 魔法使いLv33 僧侶Lv15

 

BP振分 残BP:27

キャラクター再設定:1

フォースジョブ:7

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

MP回復速度十倍:31

 

所持金:875,578ナール

 

春の27日目

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