異世界迷宮へ行ったなら   作:三星織苑

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093 戦利品

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 ゲートを抜け自宅のバスルームから出たところで、手に持っていたリュックを床に置く。

 

「ふぅ」

 

 知らず知らずのうちに緊張していたのか、安全な場所へ戻ると思わず口から息が漏れた。

 

 ロクサーヌも持っていたリュックを置いて、こちらへ近づき口を開く。

 

「ご主人様。私のために怒ってくださったのですよね? ありがとうございます。とても嬉しかったです」

「大切なロクサーヌに対してあんなことを言われ、頭に血が上ってしまったみたいだ」

 

 彼女の顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 

「とても頼もしくて、本当に素敵でした」

「絶対にロクサーヌを誰にも渡すつもりはないから」

「はい。私はご主人様だけのものです」

 

 あまりにも嬉しいその言葉が耳に伝わると、思わず彼女を強く抱きしめ、そのまま唇を重ねてしまう。

 

 

 

「夕方まであとどのくらいかな?」

「そうですね……。あと一時間ほどでしょうか」

 

 それなら、糸もコボルトナイフも十分な量が集まっていることだし、今日はこれで終わりにしておこう。

 普段とは違う精神状態で探索を行って、万が一があると困る。

 

「じゃあ、探索はここまでにして、戦利品の確認をしよう。それが終わったら、ドロップアイテムの売却と夕飯の買い物に出ようか」

「かしこまりました」

 

 

 

 ロクサーヌと手分けをして、戦利品の確認を始める。

 やはり目を引くのはあのナギィという、獣戦士の装備品だ。

 

 まずはこれ。

 

エストック 片手剣

スキル 空き 空き 空き

 

 武器屋でも目にしていた、スロットが三つも付いているエストック。

 かなり良いものだが、さてこいつをどう運用したものか……。

 

 詠唱中断を付けてロクサーヌに渡すべきか?

 それとも、ミリア加入まで寝かせておくべきだろうか?

 

 ロクサーヌが使う場合のメリットは、単純に彼女の攻撃力が上がること。

 そして、良い武器を託されたことによるモチベーションの向上だ。

 

 でもなぁ。攻撃力が上がったところで、魔法攻撃とデュランダルが主なダメージソースである我がパーティーでは、どのみちカスダメにしかならず、レイピアから更新する意味はそれほどない。

 それとも、トロールとサイクロプスのスキル結晶を付けるか?

 

 ……いや、それはもったいないだろう。

 これらのスキル結晶はもっと良い武器につけた方がいい。

 

 モチベーションの向上については、うーん。どうなんだろうなぁ……。

 

 一方、ミリア用にキープしておく場合のメリットは、バラダム家の放出品である、スロットが四つ付いたエストックを入手できなかったとしても、問題とならないことだ。

 スロットが三つなら石化添加と麻痺添加、そして詠唱中断を付けることが可能なため、四つの物と比べてもそう見劣りしない。

 

 ん? あ! そうか。先に詠唱中断だけ付けてロクサーヌに使ってもらい、ミリアが暗殺者を得た後に改めて考えればいいんだ。

 

 よし。明日スキルを付けたら、ロクサーヌに渡しておこう。

 

 

 

 そして次がこれ。

 

頑強の竜革鎧 胴装備

スキル 物理ダメージ削減 空き

 

 しかし、奴はすごいものを装備していたなぁ。

 竜革の鎧にスライムとコボルトのスキル結晶を融合して、物理ダメージ削減のスキルをつけてある。

 おそらく、かなり高価な代物だろう。

 クソ野郎だったが、実は能力はあったんだろうか?

 無詠唱魔法で注意を逸らしてからの、デュランダルとオーバーホエルミングによる奇襲というハメ技を使ったせいで、まったく実力がわからなかったんだが。

 まあ、今後も対人戦はハメ技しか使う気はないけどな。

 

 鎧なので女性陣は装備することが出来ない。これをセリーに渡した日には、冷たい視線を浴びてしまうだろう。もしかしたら、『滅びればいいんです』と言われてしまうかもしれない。

 こいつは俺の装備品にしておこう。

 

 それに、物理ダメージ削減に加え、もう一つスロットがついているのもありがたい。

 そのうち何かのスキルを加えれば長く使えることだろう。

 

 ……だが、これを装備していた男を倒したことで、だいぶヤバいことに気が付いてしまった。

 こいつには物理ダメージ削減のスキルが付いているのに、デュランダルの前では何の効果も及ぼさなかった。

 最初の攻撃は防がれてしまったが、あれは身代わりのミサンガが発動したのだろう。

 二撃目では当たり前のように攻撃が通り、何の抵抗も感じることなく首が飛んでいた。

 防御力無視は、スキルによって引き上げられた防御力すら突破してしまう。

 

 ……冷静に考えてみれば、なんと恐ろしいスキルだろう。

 どれほど高性能な防具に防御力が上がるスキルを付けていたとしても、相手が防御力無視のスキルが付いた武器を持っていれば、絶対に防ぐことが出来ない。

 

 まあ、デュランダルは基本攻撃力の高さと攻撃力五倍の効果も大きいのだろうが、防御力無視の付いた武器を持っている奴を見かけたら、とっとと逃げるに限るわ。

 そんな武器を所持する者がいないことを祈るしかない。

 

 

 

 他の装備品にはスロットが付いていなかったが、防御力は高いため今の装備品と交換しておこう。

 他に良いものが見つかったら、売り払えばいいしな。

 

「ロクサーヌ、ちょっといい?」

「はい、なんでしょうか?」

 

 彼女は戦利品整理の手を止めると、こちらへ近づいてくる。

 

「君が装備している硬革のグローブと、あの男が装備していたこの竜革のグローブを交換しておこう」

「私は以前買っていただいた、竜革やダマスカス鋼の防具があります。今回はご主人様を優先した方がいいのではないでしょうか?」

 

 良い装備は彼女たちを優先することに対し、セリーへ『ご主人様の想いを受け止めてください』と言っていたものの、やはりすんなり応じてはくれないか。

 でもまあ、今回は問題ない。

 

「大丈夫。あの男が身に着けていた竜革の鎧だけど、これには物理ダメージ削減のスキルが付いている」

「そうなのですか!?」

 

 鎧について伝えると、ロクサーヌは驚きに目を見開き、大きな声を上げた。

 そりゃ驚くよな。こんなもんいくら出せば手に入るのか見当もつかない。

 五十万や六十万ナールしても不思議じゃないぞ。

 

 ……まさか出所の怪しい物だったりしないだろうな?

 あの男の言動を思い返すと、まともな方法で手に入れていない可能性も考えられる。

 

 

 

 驚いているロクサーヌに答えた。

 

「うん。だから心配いらないよ。安心して受け取ってね」

「ご主人様の装備品が整って本当に安心しました。不愉快な男でしたが役に立ちましたね」

 

 おおう。この娘さん、すごいことを言ってるぞ。

 さすが、殺伐とした世界で生きているだけあるわぁ。

 

 でもまあ、俺たちは襲ってきた盗賊の一味を撃退しただけだしな。

 町を歩いている者からアイスソードを強奪したわけではないのだ。悪行値は一切増えていないだろう。冥府に送られることもないはず。

 うん。何の問題もない。

 

 

 

 硬革のグローブと竜革のグローブを交換すると、ロクサーヌは再び作業に戻る。

 

 ダマスカス鋼の盾は俺が使うとして、竜皮の帽子と竜革の靴は明日セリーへ渡そう。

 

 ……竜皮の帽子とロクサーヌのおさがりである硬革のグローブがあるんだ。硬革の帽子と硬革のグローブを買うんじゃなかったなぁ。

 ダマスカス鋼のプレートメイルとサンダルの組み合わせで三割引対策をしておくんだったわ。

 あー、しくった。

 

 

 

 他の奴らの装備品はすべてスロットなしで、武器はレイピアが二本に鋼鉄の剣が三本。

 防具は硬革の鎧が一つに鉄の鎧が四個、そして革の靴が五足。

 使い道もないし、明日の武器屋、防具屋巡りのときに売却だな。

 

 装備を比べてみると獣戦士との差は明らかで、レベルが高くても所詮は盗賊ということなのだろう。

 そう考えるとあの男、言動はともかく迷宮探索は真面目に取り組んでいたのかね?

 

 まあ、だとしてもそんなことは関係ない。

 とち狂ってロクサーヌに手を出そうとするなら、どんな奴だろうと同じ目に合わせる。

 たとえそれが善人であろうとも、立場のある者であろうともだ。

 

 

 

 装備品の確認を終えると、ロクサーヌと共に奴らが所持していた物の整理を行う。

 彼女が途中までやってくれているが、性格なのかきっちり種類ごとに分けられていた。

 俺も同じように、仕分け作業に取り掛かる。

 

 

 

 これすごいぞ……。

 

 六つ置かれた魔結晶の色は、紫が四つに青が一つ。

 そして、黄色が一つ……。

 

 黄魔結晶を手に取り、それを見つめながら考える。

 

 これはおそらく、ナギィという獣戦士が持っていた物だろう。

 仮に奴がレベル48になるまでずっと持ち続けていた場合、貯まっている量はいかばかりか。

 

 今俺が持っている魔結晶が緑で、貯まっている魔力は十万匹未満。

 だが、今回手に入れた魔結晶は黄色で、貯まっているであろう魔力は、十万匹以上、百万匹未満とだいぶ幅がある。

 

 そのせいで魔結晶の融合を躊躇してしまうんだよなぁ。

 

 緑の方に九万匹、黄色の方に九十九万匹分貯まっていた場合、八万ナールをふいにしてしまう。

 原作でミチオが自分の持っていた魔結晶と、盗賊から得た魔結晶を融合しなかった気持ちがよくわかる。

 正直、最大八万ナールを失うのはめちゃくちゃ痛い。

 

 でもなぁ。俺の持っていたほうは絶対に九万ナールなんて貯まってないよな?

 せいぜい四万から五万くらいのもんだろう。

 それなら、仮に黄魔結晶に九十九万貯まっていたとしても、損をするのは三万から四万ナール。

 もったいないことは確かだが、このくらいならすぐに稼ぎ出せる。

 

 いっちゃう? 魔結晶の融合いっちゃう?

 

 

 

 覚悟を決めて顔を上げると、こちらを見つめていたロクサーヌと目が合った。

 いつ見てもかわいいわぁ。

 

「ご主人様、どうなさったのですか?」

「この黄魔結晶と俺の持っている緑魔結晶を、融合しようと思うんだ」

 

 彼女の問いに答え、リュックから緑魔結晶を取り出す。

 右手に緑魔結晶、左手に黄魔結晶を携え告げた。

 

「それじゃあ、やってみる」

「はい」

 

 黄魔結晶に緑魔結晶を押し付けると、絶妙な抵抗感を手に伝えながら、そのまま埋まっていく。

 完全に沈み込むが黄魔結晶には何の変化も起こらず、元の輝きを湛えたままだった。

 

 あー、まあこの可能性が一番高いんだから、そりゃこうなるわな。

 魔力の超過分なんて気にする必要はなかったか。

 

 

 

 黄魔結晶をリュックにしまい、ロクサーヌに話しかける。

 

「残りの魔結晶は、いつも頑張っているロクサーヌへの報酬にしようと思う。遠慮なく受け取ってね」

 

 その途端大きな声が上がった。

 

「いけません! 毎日これだけ良くしていただき、お給金までいただいているのに、その上このようなことまで……」

 

 彼女の考える奴隷の扱いと大きな隔たりがあるため、どうしても遠慮してしまうのは仕方がない。

 しかし、勤めていた会社での給与や待遇に納得できなかった身からすると、なるべく彼女の働きに報いてやりたいと思ってしまうのだ。

 

 奴隷労働をやらせている癖に何をいっているんだって感じだけどさ。

 

 

 

「大丈夫。このくらいのことはなんでもない。ロクサーヌには常に助けられているんだから、その働きに対する正当な報酬だよ」

「ご主人様……。ありがとうございます……」

 

 かわいらしい鳶色の瞳を潤ませ、感謝の言葉を伝えてきた。

 

 

 

 ロクサーヌはリュックから紫魔結晶を取り出すと、次々に融合していく。

 

 すべての融合を終えると彼女の手の上では、緑色の輝きを放つ石がその存在を主張していた。

 

「ご主人様! 見てください! 緑になっています!」

 

 おお、興奮している様子がめちゃくちゃかわいいぞ。

 

 彼女は、手のひらをこちらに差し出し告げた。

 

「おめでとう。売却してもいいし、そのまま貯めてもいいからね」

「ありがとうございます。でしたら、これはそのまま持っていようと思います」

 

 ほう。黄色まで待つのか。

 我がパーティーは俺の魔法で倒すケースが圧倒的に多く、彼女たちが魔物を倒す機会はほとんどない。

 それなのに、十万匹を目指すとはたいしたもんだ。

 

「黄色になるまで頑張ってね」

「はい! 頑張ります!」

 

 あ、売却するときは、三割アップを使える俺が、代理で売った方がいいな。

 十万ナールで売れるはずの物が、十三万で売れたら、彼女も喜んでくれるだろう。

 

 

 

 硬貨の仕分けを終え、数を確認してみると、金貨が十八枚、銀貨が百二十一枚、銅貨が三百四十七枚だった。

 合計十九万二千四百四十七ナール。

 思いがけず、所持金を百万ナールに戻すことが出来たな。

 まったく、何が幸いするかわからない。人間万事塞翁が馬だ。

 

 

 

 盗賊の手に目を遣ると、既にインテリジェンスカードは抜け落ちていた。

 

 あいつらを倒してから、まだ一時間も経っていない。

 もし奴らに他の仲間がいたとしても、倒したことに気づかれていない今なら、騎士団にインテリジェンスカードを持ち込んだところで問題にならないだろう。

 これが明日になれば仲間が戻らないことで感づかれ、懸賞金の受け取りを行う者がいないか見張られている可能性が出てくる。

 持ち込むなら今だな。

 

「ロクサーヌ。ベイルの迷宮へ戻り、この手を捨ててこよう」

「はい」

「その後はベイルの探索者ギルドでドロップアイテムの売却を済ませ、その足で騎士団へ行って懸賞金の確認を行う」

「かしこまりました」

 

 彼女は頷きながら答える。

 

「それが終わったら、クーラタルへ戻っていつもの通りで」

「ご主人様と二人きりで過ごす最後の夜ですね。たくさんかわいがっていただけますか?」

 

 その言葉を聞いて、思わず抱きしめてしまう。

 なんてかわいいことを言うんだこの娘は!

 

「もちろん。でも、明日以降だってロクサーヌのことをいっぱい愛するから」

「ふふ。はい、ありがとうございます」

 

 見つめ合ったまま、ゆっくりと顔を近づけていく。

 

 

 

 

 

ベイル

騎士団詰め所

 

 

 

 

 

 迷宮へ手を捨て、ドロップアイテムの売却を済ませ、ベイルの騎士団へ訪れた。

 あたりを確認してみるが、盗賊がいる様子はない。

 

「行ってくるので、俺の様子をうかがっている者がいないか確認していてくれ」

「おまかせください」

 

 リュックから四枚のインテリジェンスカードを取り出し、騎士団へ向かって歩き出す。

 

 

 

 詰め所の入り口へ近づき、そこに立っている者を確認するが、そいつが以前懸賞金を受け取った二名のどちらかと同じなのかが思い出せない。

 片方は二十日ほど前に一度。もう片方は三十日ほど前に二度、ほんの僅かな時間会っただけだからなぁ。

 

「すまない。すこしいいだろうか?」

「ん、なんだ」

 

 声をかけると、彼はこちらへ体を向ける。

 しかし、俺を確認すると顔を強張らせ、緊張した様子で答えた。

 

「あなたでしたか。以前はご協力ありがとうございました。本日はどのようなご用件で?」

 

 いやいやいや。自由民だってことを覚えていたんだと思うが、その態度の変わり方は逆に印象が悪いから。

 

 しかし、これはどっちの奴なんだろう?

 どっちだったとしても、記憶力いいなぁ。

 

「うむ。今日ベイルの迷宮でいきなり襲われてな。おそらく盗賊だと思うのだが、確認を頼めるか」

「かしこまりました。失礼ですが、規則ですのであなたのインテリジェンスカードを確認させていただけますか?」

 

 

 

 左手を差し出し、恙無く確認を済ませると、盗賊のインテリジェンスカードを彼に手渡す。

 

「では、確認してまいります」

 

 

 

 程なくして、巾着袋をジャラジャラ言わせながら戻り、口を開いた。

 

「確認できました。盗賊四名で、全員に懸賞金が懸かっていました。間違いなくこの町のスラムに巣食っている奴らです」

 

 よっしゃ! 全員レベル30を超えてたもんな。

 ラッキーだ。あ、いや。ラッキーって言っていいのかわからんけどさ。

 

 

 

 巾着袋を受け取り、リュックにしまい込む。確認は後だ。

 とっととクーラタルへ戻ろう。

 

「では、世話になったな」

「ご協力ありがとうございます」

 

 騎士と挨拶を交わし、その場を後にする。

 

 

 

 

 

クーラタル郊外

アユムの家

 

 

 

 

 

 クーラタルへ移動し、大急ぎで買い物を済ませて自宅に戻る。

 はやる気持ちを抑えながら巾着袋を確認すると、金貨が十六枚、銀貨が三十七枚で合計十六万三千七百ナールもの大金が入っていた。

 

 やっぱ、盗賊狩りの稼ぎはハンパねーわ。

 盗賊殺し(ロバーズ・キラー)のアユムとして生きていきたくなるぞ。

 

 まあ、リスクが高すぎて、そんなことをするわけにはいかないけど。

 

 これで所持金は百二十万ナールを超え、しかもまだ手元には黄魔結晶もある。

 セリーも加入することだし、明日からは装備品やスキル結晶集めと、レベル上げに勤しもう。

 つまりこれまでと同じことをするってわけなのだが。

 

 

 

 

 

 修行を終え、今日手に入れた分の装備品も含めて手入れを行い、食事をとり、風呂に入った。

 そして、ベッドの上でロクサーヌと何度も愛し合う。

 

 大声を上げて絶頂し、意識を飛ばしてしまった彼女を撫で続ける。

 

「んっ……」

 

 そうしているうちに、ロクサーヌの口から声が漏れた。

 

「大丈夫?」

「はい。とても気持ち良かったです」

 

 問いかけてみると、嬉しい答えが返ってくる。

 

「満足してもらえたようで、良かった」

「明日からは、私だけのご主人様ではなくなるのですね……」

 

 彼女の言葉に、撫でていた手が止まってしまう。

 

「ロクサーヌ。本当にごめん。もしどうしても嫌――」

「そうではありません」

 

 俺の言葉を遮り、ロクサーヌが言葉を発する。

 

「ご主人様がセリーのことをかわいがるのは、嫉妬を覚えますが、本当に嫌ではないのです……」

 

 彼女は一度言葉を切り、じっと俺の目を見つめて続きを口にした。

 

「ご主人様と二人で過ごしたこの三十日あまりは、今まで生きてきた中で一番幸せな時間でした。でも、これからは二人きりでいられる時間はなくなってしまいます。いえ、少しは取れるのかもしれませんが、今までのようにずっと二人きりというわけにはいかないでしょう」

 

 ロクサーヌの顔には儚い笑みが浮かんでいる。

 

「ご主人様は強く、頭が良く、そしてとても優しいお方です。その上、他の人にはない力があり、絶対に迷宮討伐を成し遂げるでしょう。そのためには仲間の力が必要不可欠であり、お話で聞いた彼女たちならその役目にうってつけです。私もそうすることが最善だと思っているのです。でも……」

 

 彼女は俺の胸に顔を寄せ、小さな声を漏らした。

 

「それでも、私はご主人様と二人だけで過ごしていたかったです……」

 

 ロクサーヌの体を抱きしめ、背中をゆっくりと撫でる。

 俺のような不誠実な男が、何を言っても言い訳にしかならない。

 

 少しでも彼女の心が穏やかになることを願い、撫で続けた。

 

 

 

 

 

田川 歩 男 18歳

探索者Lv36 英雄Lv31 僧侶Lv15

 

BP振分 残BP:0

キャラクター再設定:1

サードジョブ:3

必要経験値二十分の一:63

詠唱省略:3

鑑定:1

MP回復速度二十倍:63

 

所持金:1,219,105ナール

 

春の31日目

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