「ご主人様、そろそろ時間です。起きてください」
耳に伝わるかわいらしくも艶のある声と、柔らかく体を揺すられる刺激で目が覚める。
「おはよう、ロクサーヌ」
「おはようございます、ご主人様。今日はセリーを迎えに行く日ですから、早めに支度をしましょう」
彼女の声には、昨晩感じた苦悶の色は残っていない。
俺の気持ちを慮って、自分の気持ちに蓋をしているだろう。
申し訳なさが湧き上がってくるが、セリーたちを手に入れないわけにいかない以上、それについてはどうすることもできない。
俺に出来るのは、ロクサーヌを何より大切にすること。
そして、色魔を育てて上位ジョブを解放することだ。
いつもの時間より早く朝の支度を終え、今日の予定を話し合う。
「この後はアラン殿の商館へ行き、セリーを迎える」
「はい。いよいよですね」
「そうだね。その後はベイルの迷宮三階層へ行って、コボルト二体を一振りで攻撃してもらおう。その誘導はロクサーヌにまかせるから」
「はい! おまかせください!」
おお。自信満々だ。
うん。彼女にまかせておけば問題ないだろう。
「それが済んだら、セリーのジョブを鍛冶師に変えてレベルを上げる」
「鍛冶師を目指していたようですし、セリーも喜ぶでしょうね」
いやぁ、喜ぶというより戸惑いの方が大きいんじゃないかな?
しかし、レベル上げの場所は当初の予定とは違い、七階層になってしまうんだよなぁ。
九階層でレベル上げをするためにはメギンギョルズが必要になるし、今これをつけるためには、必要経験値二十分の一か獲得経験値二十倍のどちらかを、ワンランク落とさなければならない。
どちらも変更することが出来ない以上、七階層で行うしかないな。
……いや? まてよ?
原作ではMP枯渇に陥ったものの、鍛冶師のレベルが1でもスキル結晶の融合に成功してたよな?
ということは、毘盧帽を使えば問題なく成功するだろう。
レベル上げの前に、ヤギとコボルトのスキル結晶をスタッフに融合するのはどうだ?
ひもろぎのスタッフがあれば、ワンチャン九階層の魔物も魔法一発で倒せるかもしれない。
よし、試してみよう。
考えを打ち切り、話を続ける。
「いつもの時間になったら朝食にしよう。今日はフレンチトーストかホットケーキにしようと思うんだけど、ロクサーヌはどっちの方がいい?」
「私が決めていいのですか!?」
うおっ。すげーでかい声だ。
彼女は少しだけ悩むと、嬉しそうな顔で答えを口にした。
「どちらも美味しいですが、ホットケーキでお願いします。是非セリーにも食べてもらいましょう」
フープロがあるおかげでメレンゲが楽に作れるようになったからな。
ふわふわホットケーキを味わってもらおう。
「じゃあ、ホットケーキってことで。食事が終わった後の歯磨きだけど、彼女には使っていない予備を渡しておこう。その後の買い物で買い足しておけばいいからね」
「かしこまりました」
今日からはセリーにも、うがい、手洗い、歯磨きの徹底をしてもらわないと。
「そして、食休みのときに、俺のことや別の世界のこと、『異世界迷宮でハーレムを』について話そうと思う」
「はい」
彼女の顔には穏やかな表情が浮かんでおり、二人だけの秘密だった事柄をセリーに伝えることへの抵抗や拒絶といった感情は見られない。
だが、昨夜の言葉から、そういった思いを抑えつけていることは明らかだ。
これからも、常にロクサーヌのことを第一に考えよう。
俺がこの世界へ来たのは、彼女に会うためなのだから。
「その後は買い物だね。いつもの武器屋、防具屋巡りと、セリーの服や消耗品を購入する。もちろん、給金を渡しておくから、ロクサーヌの買い物もしよう」
アイテムボックスから銀貨を取り出し、彼女に差し出すと、俺の手を両手でしっかりと包み込んで受け取った。
「ご主人様。いつも本当にありがとうございます」
「俺のほうこそロクサーヌの世話になりっぱなしだ。いつも本当にありがとう。これからもよろしくね」
「はい!」
喜んでいる様子が本当にかわいいなぁ。
「買い物が終わった後は荷物を自宅に置いて、迷宮でレベル上げの再開だ」
「かしこまりました」
「昼食を挟んだ後もある程度レベルを上げたら、いよいよ装備品の製造とスキル結晶の融合を行おう」
「なんだかワクワクしますね」
確かになぁ。
ここで一気に装備品が整うのはかなりテンションが上がるぞ。
彼女の言葉に頷き、話を続ける。
「とりあえず全員分の身代わり装備を作る。それから、ダマスカス鋼の槍と昨日手に入れたエストックに詠唱中断を付けよう」
「セリーも詠唱中断を狙えるので、安全性が増しますね」
「そうだね。これでニートアントの毒攻撃に対しても対処がしやすくなるから、彼女のレベルがある程度上がったら十階層へ挑んでみようか」
「素晴らしいお考えだと思います!」
すぐじゃないからね? レベル補正のことを考えて、最低でも15くらいまでは上げるからね?
「他には、ロクサーヌの竜革の靴に牛とコボルトのスキル結晶で、移動力増強を着けておいた方がいいね。君の動きが速くなるのなら、こんなに頼もしいことはない」
「ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります」
彼女はそう言って、右手で力こぶを作るポーズを取った。
あざとかわいくて大好きだー。
しかし、修行のときが心配だよなぁ。
ただでさえ、オーバーホエルミング中に反撃の機会をうかがうようになっているのに、そんなもんを手に入れたらどうなってしまうのか。
あとは竜革のジャケットにスライムのスキル結晶をつけて、物理耐性を上げるという手もあるが、ロクサーヌはそうそう物理ダメージをくらいそうにない。
それなら、貝のスキル結晶の落札を待って、魔法耐性を上げる方がいいだろう。
「探索を終えたらいつものようにドロップアイテムの売却をして、食材の買い出しを行う」
「はい」
「そして家へ戻ったら、修行と装備品の手入れを済ませ、風呂を沸かして、食事の支度だね。今日の夕食はロクサーヌの要望通り、ウサギの唐揚げとハンバーグ、それからミートスパにしよう」
「ありがとうございます。きっとセリーも気に入ることでしょう」
かわいい笑顔を浮かべちゃって。君の方が喜んでるじゃないのさ。
でもまあ、セリーも気に入ってくれるといいよなぁ。
「そのあとは風呂に入って、就寝だね」
それを伝えると、彼女の顔が曇る。
……おそらく、セリーを寝所に呼ぶことを想像し、ネガティブな感情が湧いたのだろう。
「あの、ご主人様……。セリーが来ても、私のことを一番好きでいてくれますか?」
不安そうな顔で、そう問いかけるロクサーヌのあまりのいじらしさに、思いっきり抱きしめてしまう。
「どんなことがあっても、俺の一番好きで、一番大切な人はロクサーヌだ。それが変わることは絶対にない」
いつもの言葉を口にすると、彼女の腕が俺の背中にまわされる。
「はい。私の一番好きな人はご主人様で、一番大切な人もご主人様です。それが変わることは絶対にありません」
見つめ合ったまま、ゆっくりと顔を近づけていく。
準備を整え、玄関でロクサーヌを待つ。
一応、持ち物を確認しておこう。
鍛冶師になり次第融合するヤギとコボルトのスキル結晶はオッケー。
セリーの装備品は、棍棒、ダマスカス鋼の槍、竜皮の帽子、硬革のジャケット、硬革のグローブ、竜革の靴、サンダル。
おっと、サンダルは今のうちに靴箱に置いておこう。
よし、オッケーだな。
彼女の物となる黒魔結晶も入っている。
うん。問題ない。
程なくして、ロクサーヌが二階から下りてくる。
「お待たせいたしました」
「大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」
「はい」
薄暗い中、入り口のノッカーを叩くと、いつも案内をしてくれている商人が姿を現す。
「お待ちしておりました。ではこちらへどうぞ」
彼の案内に続きいつもの部屋に入ると、すでにセリーとアランが待っていた。
「アユム様、お待ちしておりました。どうぞ、おかけください」
俺たちがソファーに腰を下ろすと、彼はすぐに話を切り出す。
「二十日間セリーをお預かりして、ブラヒム語と礼儀作法の教育を施しました。もし何かお気づきの点がございましたら、当家までご連絡ください」
「五日ごとに訪れ彼女の様子を見てきたが、そちらの仕事は完璧で本当に満足行くものだった。感謝する」
礼を述べると、無表情だったアランの顔がほんの少しだけ和らぎ、口を開く。
「ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけると奴隷商人冥利に尽きます」
そして、クロークの内側から封筒を取り出し、俺へ差し出した。
「こちらが帝都の奴隷商への紹介状となります。また、侍女服については既に彼女へ渡してあります」
紹介状を受け取り、セリーのほうを見遣ると、彼女は頷きを返す。
「アラン殿、今回は本当に世話になった。また機会があったらよろしく頼む」
「こちらの方こそ、大変お世話になりました。何かありましたら当家へお声がけください」
立ち上がり、握手を交わして館を後にする。
館を離れたところで口を開く。
「迷宮へ行く前に一度自宅へ戻り、セリーの服と紹介状を置いてこよう」
迷宮へ直行するつもりだったが、彼女の荷物があることと、紹介状を受け取ることをすっかり忘れていた。
戦闘で破損させてしまったら事だからな。
「かしこまりました」
「え?」
俺の言葉を聞いて、セリーは不思議そうな表情を浮かべている。
クーラタルに住んでいることと、ベイルの迷宮に入っていることを伝えているため、わざわざ荷物を置くために、冒険者ギルドでフィールドウォークを依頼するのかと、思っているのだろう。
「セリー、今日から不思議なことをたくさん目にするだろう。だがそれは、他人に知られていいことではない。決して漏らさないと約束してもらえるか?」
セリーと目を合わせてそう頼む。
戸惑ったような表情を浮かべていたが、真剣な雰囲気を感じ取ったのか、彼女も表情を引き締めて答えた。
「当然です。奴隷が主人の秘密を漏らすなど、あってはならないことです」
彼女の言葉を聞いて、ロクサーヌが嬉しそうに口を開く。
「ふふ。セリーは物事の道理を弁えていますね。私たちでご主人様をお守りしましょう」
いや、まあ、いいけどね。
とりあえず、パーティー編成からだな。
パーティー編成
「ええっ!」
念じた途端、セリーから声が上がった。
すると、ロクサーヌがすかさずフォローへ回る。
「大丈夫です。ご主人様のことを受け入れてください」
「え? あの、これはご主人様が?」
「はい。何も心配することはありません」
その言葉に後押しされて申請を受諾したのだろう。セリーがパーティーに加わった。
「それじゃあ、戻ろう。ロクサーヌ、人の目がないところへ頼む」
「はい。こちらです」
彼女の案内で路地裏に入る。
かなり戸惑っているようだが、セリーもちゃんとついて来てくれた。
「ええっ!」
路地裏の壁へワープゲートを開くと、再びセリーの声が上がる。
「さあ、行こう」
「セリー、行きますよ」
彼女はロクサーヌに後ろから肩を押され、ワープゲートへずんずん進んでいく。
「あの! これは、どういう――」
そして、話している途中でゲートの向こうへ消えていった。
ここにいてもずっと混乱しているだろうし、ロクサーヌの行動が正解か。
ゲートを抜けると、混乱している様子のセリーが目に入る。
「あの、これはフィールドウォークですよね? ご主人様は探索者なのにどうして……。それに、先ほどから詠唱をすることなくスキルを使用しているようですが……」
まあ、こうなるのはしょうがないわな。
「セリー、これらのことについては、朝食の後に時間を取って説明しようと思う。今は他にやることがたくさんあるので、質問は一旦飲み込んでもらえると助かる」
「え、あ、はい。わかりました」
確認したいことがたくさんあるだろうに、彼女はそれを納めてくれた。
セリーも本当にいい娘だよなぁ。
「セリー。ここはクーラタルにある俺たちの家だ。今日から君も一緒に暮らしていくことになるから、仲良くやっていこう」
そう言って、靴箱からサンダルを取り出し履き替える。
「我が家は土足厳禁なんだ。外から帰ったら、絶対に靴を履き替えること。君はこのサンダルを使ってね」
田川家の大切な家訓だからな。
「あの、ご主人様、なんだか今までと口調が……」
え? あ!
やばっ! 自宅に居ることでスイッチがオフになってた!
恐る恐る、ロクサーヌの方をうかがってみると、威圧感のある笑顔を浮かべ、こちらを見つめている。
「ごめん、ロクサーヌ……。家に帰ったことで気が抜けていたみたいだ……」
「大丈夫です。セリーにご主人様のことを伝えるようお願いしたのは私なのです。普段の喋り方もいずれ明かすことになったでしょう」
絶対大丈夫だと思ってないですやん……。
ロクサーヌのことを大切にするつもりだったのに、俺って奴はどうしてこう間抜けなんだ。
ロクサーヌは、そのやり取りを戸惑ったように眺めているセリーへ話しかけた。
「ご主人様はとてもお優しいので、本当はあのような口調で話されます。ですが、それだと侮られる可能性があるため、外では話し方を変えておられるのです」
「なるほど……。確かにその方がいいかもしれませんね」
説明を聞くと、納得したように頷いている。
セリーがサンダルに履き替えたところで、アイテムボックスから装備品を取り出し、彼女へ渡していく。
「この後、迷宮へ行くから装備品を身に着けてきて」
「これは、竜革の帽子と竜革の靴ですよね!? ご主人様が硬革の帽子と硬革の靴なのに、私がこのように貴重な装備品を身に着けていいのですか!?」
以前面会に行ったときに、俺の装備品よりロクサーヌとセリーを優先すると伝えてはいるが、本当に渡されて驚いているようだ。
「大丈夫。俺の身に着けている竜革の鎧には、物理ダメージ削減のスキルが付いているから、全然問題ないよ」
「そのように貴重で高価な装備品をお持ちなのですか! ご主人様は本当にすごいです。こんなにすごいお方に購入していただけて、私は本当に運が良いですね」
いや、驚いているところ申し訳ないが、こいつは昨日手に入れたばかりで、しかもその経緯も完全に棚ぼただからなぁ。
「まあ、そういうことなので、セリーも遠慮せずそれを装備してね。それじゃあ、ロクサーヌお願い」
「はい、おまかせください」
「ご主人様、ありがとうございます」
口々に返事をすると、彼女たちは二階へ上がっていった。
あのクッソ重い棍棒をあんなに軽々と……。さすがドワーフ。とんでもねぇな。
自分たちの部屋へ行った彼女たちを見ていて、ふと思い出す。
そういえば、彼女たちの鍵付きチェストを買っておくつもりだったのに、すっかり忘れていた。
問題ないとは思うが、原作とは違い給金を渡しているのだ。
間違って誰かのお金を取ってしまったら、盗賊のジョブが付いてしまう。
転ばぬ先の杖だ。買い物のときに家具屋も回って、二つ買っておこう。
ついでに三人掛けソファーも買い足しておくかな。
朝食後の話し合いのとき、セリーが加入したら確認しようと、メモを取っておいたことについても確認してみよう。
有用なスキル結晶や、お米について何かわかると良いんだが……。
ボーナスポイントの振り分けを済ませて、考え事をしていると、階段を下りて二人が戻ってくる。
「お待たせいたしました。セリーが履いていた硬革の靴は手入れをして物置に置いておきました」
「ありがとう。ロクサーヌは本当に気が利くね」
「ふふ。どういたしまして」
ロクサーヌとやり取りをしていると、セリーがはにかんだような笑みを浮かべて話しかけてくる。
「ご主人様、このように高価な装備品をありがとうございます」
セリーもめちゃくちゃかわいいよなぁ。原作ではどうしてこんな娘が売れ残っていたんだろう?
とても信じられないわ。
「どういたしまして。それじゃあ、これがセリーの魔結晶ね。これについては俺に戻す必要はないから。セリーが好きに売却して構わない」
「よろしいのですか!?」
「うん。問題ないよ」
問題ないと伝えても、彼女はかなり戸惑っている様子だ。
そして、ロクサーヌの方を仰ぎ見る。
「大丈夫です。私も魔結晶をいただいています」
頷きながら答えたロクサーヌの言葉で、ようやく納得したようだ。
「ご主人様、本当にありがとうございます」
なあに。いいってことよ。
「それじゃあ、行こうか」
「かしこまりました」
「はい」
靴を履き替えたところで、玄関の扉へワープゲートを展開する。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv36 英雄Lv31 魔法使いLv35
装備 硬革の帽子 頑強の竜革鎧 硬革のグローブ 硬革の靴
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
サードジョブ:3
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
獲得経験値二十倍:63
所持金:1,219,105ナール
春の32日目