「それじゃあ、買い物へ行こう。まずは家具屋からだな」
「家具屋ですか? 何か必要な物があるのですか?」
これから向かう先を告げると、ロクサーヌが問いかけてくる。
「今後二人は同じ部屋で過ごすことになるだろう? お互いに秘密にしておきたいこともあるはずだ。なので、それぞれに鍵が掛かるチェストを買っておこう」
誤って相手の金に手を付けないようにとか、パーティーメンバーを増やすときのため、なんて言う必要はないだろう。
わざわざ波風を立てることはない。
「ご主人様、ありがとうございます」
「あの、本当によろしいのでしょうか?」
ロクサーヌは、この三十日余りで俺のすることにすっかり慣れ、遠慮することなく嬉しそうに礼を述べた。
しかし、セリーは今日来たばかりだからな。そうなってしまうのも当然だろう。
「必要なものだからな」
「ありがとうございます」
そう告げると、彼女は嬉しそうに感謝の言葉を口にした。
「そして、向かい合って座るために、リビングのソファーを買い足しておきたい」
「そうですね。真剣なお話をするときには、向かい合わせで座る方がいいかもしれません」
俺的には今まで通り、ロクサーヌを抱きしめたままでシリアスな話をしても全然問題ないんだけど、セリーがいるとそうもいかないだろうしなぁ。
家具屋に入って、彼女たちに鍵付きチェストを選んでもらう。
数が少ないこともあり、ロクサーヌもすんなり選んでくれた。
そして、一緒に三人掛けソファーも購入しておく。
これで向かい合わせて座ることが出来るようになった。
それに、ミリア、ベスタ、ルティナが加入しても問題ないだろう。
購入した物については、以前と同じく明日の午後に配達してくれるそうだ。
武器屋ではアイテムボックスに入らないものを購入する必要があるため、防具屋の方を先に確認したが、目ぼしいものは見当たらない。
二人に首を振り、昨日手に入れた戦利品の売却だけを済ませ外へ出る。
すると、セリーが小声で話し掛けてきた。
「先ほど店内を見回していたのは、鑑定というスキルを使っていたのですか?」
「うむ。俺たちはベイルで市が立つ五日ごとに、クーラタル、帝都、ベイルの武器屋と防具屋を回り、目ぼしいものがないかの確認をしているのだ」
「なるほど。とても合理的で素晴らしいお考えだと思います」
合理的なんだろうか?
「セリーの持っているダマスカス鋼の槍も、そのようにして見つけたものなのです。あれが二つも付いたすごい武器なのですよ」
「二つも! それはすごいです!」
得意気に語るロクサーヌの言葉へ、驚きの声が上がる。
「それを活かすことが出来るのはセリーだけですから、頑張ってください」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
その後も二人は笑顔で楽しそうに話を続けていた。
この娘たち仲いいなぁ。
店内に入り、周囲を見回してみるが、鑑定に出物がヒットすることはない。
しょうがない。とりあえず先に売却を済ませるか。
購入するべきものはあるが、その後でいいだろう。
戦利品を売り払ったところで、セリーに話しかける。
「セリー、俺たちは毎日木剣を用いた修行を行っている。今日から君も参加することになるので、木槍を選んでもらえるか」
今後彼女がメインで使用するのは槍の方だし、そっちでいいよな。
「ご主人様とロクサーヌさんがあんなにお強いのは、そういったことを行っているからなのですね。本当にすごいです」
ロクサーヌはともかく、俺のそれは完全に付け焼刃なんだけどさ。
「本気のご主人様は信じられないくらいすごいですよ。セリーもきっと驚くことでしょう」
この娘は何ってことを言うんだ。
これ、ロクサーヌにボコボコにされるところを見られて、ガッカリされる流れじゃないか?
オーバーホエルミングを使った修行は、イカサマ込みだしなぁ。
「これをお願いします」
セリーはいくつか置いてあった木槍の中からいくつか試すと、あっさり決めてしまう。
「それでいいのか?」
「はい。この中では一番長さが近かったので」
長さだけで選んでいいの? ロクサーヌなんて、それはもうじっくり選んでたぞ?
「重量だとか、他に気になることはないのか?」
「ダマスカス鋼の槍も木槍もたいして重さは変わりません。それなら、長さが近いほうがより実戦的な訓練になると思います」
嘘だろ、おい。
金属製の槍と木製の槍でたいして重さが変わらないって、そんなわけあるか。
ドワーフハンパねーわ。
購入した槍を自宅へ置き、ベイルと帝都の武器屋、防具屋を回ってみるものの、今回もすべて空振りに終わってしまった。
なかなか厳しいもんだなぁ。
「この後は服や寝間着を買いに行き、それが済んだら歯ブラシを買いに高級雑貨店へ行くつもりだが、ロクサーヌは他に買い物に行きたい店はあるか?」
「それらのお店を回るとき、ついでに確認をするので大丈夫です」
よし。それならそこまで時間が掛かることもないだろう。
「ロクサーヌさんが買い物をするのですか?」
ん? ああ。普通は奴隷がお金を持っているはずがないから疑問を覚えたのか。
「ロクサーヌには頑張ってくれている報酬として、五日ごとに給金を渡してある。それで好きなものを購入しているのだ」
「ええっ! 奴隷なのに給金を!」
セリーは驚いて目を見開いていた。
「うむ。次回からはセリーにも渡すので、それは好きに使って構わない」
その言葉を聞くと、驚きが頂点に達したのだろう。彼女はぽかんと口を開き、こちらを見つめ続けている。
「ね。言った通り優しいご主人様でしょう? あのときはごく一部しか伝えられませんでしたが、とても素晴らしいご主人様の下で暮らせる私たちは、本当に幸せです」
「はい。そのようです……。あのときは信じることが出来ませんでしたが、まさかそれ以上の待遇だったなんて……」
「だからこそ、それに甘えることなく、ご主人様を支えていかなくてはなりません」
「はい。その通りだと思います」
表情を引き締めて答えるセリーを見て、ロクサーヌは満足そうに頷いていた。
初日から指導をしすぎないでね? 程々にしてあげるんだよ?
「いらっしゃいませ」
店内に入ると、紳士風の店員と注文を受けた女性店員が、いつもの慇懃な挨拶をしてくる。
「お待ちしておりました。それではこの者が別室へご案内いたします」
彼女の後をついていき、注文したときと同じ部屋へ通された。
俺たちへ椅子に座って待つように伝えると、彼女は部屋を出て行く。
店員を待っていると、セリーが小声でロクサーヌに尋ねる。
「こんな高級そうなお店で注文を行っていたのですか?」
「はい。ご主人様は、今日はセリーの分も注文するとおっしゃっていました」
「私の分もですか! 本当にそんなことをしていただいてもいいのでしょうか?」
ロクサーヌの言葉に相当驚いている様子で、不安そうにしている。
「ご主人様は私たちが綺麗で清潔な服を身に着けることを好まれます。心配する必要はありません」
「私は本当にすごいお方に買っていただいたのですね……」
……これ多分、注文しているのが下着だとは思ってないよな?
それに気が付いたらガッカリするんじゃないのか? まいったなぁ……。
しばらくして、綺麗に畳まれたそれをトレーに載せ、注文を受けてくれた女性店員が戻ってくる。
それを見たセリーの顔には不思議そうな表情が浮かんでいた。漫画なら頭の上に大きなハテナマークが浮かんでいるところだろう。
「お待たせいたしました。こちらがご注文いただいた品となります。それでは、着け心地の確認をしていただきたく存じます」
ポカンとしながら見つめていたセリーが呟く。
「これは何なのでしょうか……」
「これはご主人様の故郷で着用されている肌着です。セリーの分も注文しますので、楽しみにしていてくださいね」
それを聞いたロクサーヌが微笑みながら告げたため、彼女の困惑はさらに深くなったようだった。
その後、二人とも試着を行うが特に問題はない。さすが高級店。確かな技術を持っているようだ。
それが済んだところで、セリーのセクシーランジェリー二着と普段使い用の下着を二着。それからエプロンを注文することにする。
「それではロクサーヌにまかせるので、セリーへ助言してやってくれ」
「はい。おまかせください」
「セリーも遠慮せず、自分の要望を伝えるようにな」
「はい。あの、ご主人様、ありがとうございます」
感謝の言葉にヒラヒラ手を振って応え、部屋を後にした。
以前と同じように壁際の椅子に座らせてもらいながら思索に耽る。
トランクスの履き心地は特に問題なかった。
紐で縛る形なので海水パンツみたいな感じだったが、かぼちゃパンツに比べれば全然マシだろう。
うん。かぼちゃパンツは今日限りで卒業だな。
しばらく待ち続けていると、部屋の扉が開き彼女たちが出てきた。
うん? 二人とも嬉しそうにしているな。
「ご主人様、お待たせしました」
「素晴らしい肌着を注文していただき、本当にありがとうございます」
先ほどまでは戸惑っている様子だったのに、今は喜んでいるぞ? 中で何があったんだ?
いや、まあいいか。
セリーも下着のオーダーを喜んでくれたようで一安心だ。
「それじゃあ、次は商品を選んでくれ。ロクサーヌとセリーの服を上下一着ずつ。キャミソールはロクサーヌが一着でセリーが二着。そして三人分の外套もだな。俺はセンスがないから、ロクサーヌにまかせる」
「かしこまりました! ご主人様にピッタリの外套を見つけ出します!」
あっ、まずいことを言ったかもしれない。ロクサーヌのやる気スイッチを押しちまった。
店の隅に腰かけ、服を選んでいる二人を見守る。
ロクサーヌは自分の物をそっちのけで俺の外套を選んでいる様子だ。
セリーはというと、目を輝かせながら確認して、気に入ったであろう服をロクサーヌの下へ持って行き、アドバイスを受けている。
しばらくすると満足のいく物を見つけたのか、ロクサーヌが外套を手にこちらへ近づいてきた。
「ご主人様、こちらなどいかがでしょうか?」
そう言って紺色のそれを広げる。
ぶっちゃけ、こんなファンタジー感あふれる服の良し悪しなんてさっぱりわからないが、彼女が選んでくれたという点だけで、他のものより良いという気がするな。
「さすがロクサーヌだ。素晴らしいものを選んだようだな。ありがとう」
「ふふ。喜んでいただけたようで安心しました」
あら、かわいらしい笑顔だこと。
店員へ一言断りを入れ、袖を通してサイズの確認を行う。
うん。問題なし。
「俺はこれにするからロクサーヌも自分の分を選ぶといい」
「はい。ありがとうございます」
返事をすると売り場へ戻り、今度は自分の服を選び始めた。
早々に選び終え、俺の隣に座っているセリーと共に、ロクサーヌの様子を見守り続ける。
「あの、ロクサーヌさんはいつもあのように、こだわりを持って物を選ぶのですか?」
こだわりを持って選ぶか……。物は言いようだなぁ。
時間をかけるとか、優柔不断とか言わない辺り、彼女のブラヒム語は完璧だわ。
「うむ。少しでも良いものをという彼女のこだわりなのだろう」
「なるほど。それは素晴らしいことですね」
だからといって君までそうならないでね?
即断即決の君でいてね?
再びロクサーヌの様子をうかがっていると、またもやセリーが口を開く。
「あの、ご主人様。まだちゃんとお礼を申し上げていませんでした。新品の綺麗な服や外套や寝間着。それから肌着とエプロンの注文まで……。本当にありがとうございます」
そう言ってこちらへ頭を下げた。
彼女は本心から喜んでいるようで、奴隷の服は所有者の物などとシニカルなことを言い出す様子がない。
やはり原作と比べて、性格がかなりマイルドだよな?
どうしてこんなに差があるんだろう?
「一緒に暮らしていくのだから、全員清潔にしている方がいいだろう。それに二人ともとても美しくかわいらしいからな。綺麗な格好をしているのを俺が見たいだけだ」
「ふふ。そうなのですか? では、ご主人様に喜んでいただけるように頑張りますね」
かわいいこと言うなぁ。それに、やはりやさぐれ感が少ない気がする。
セリーと他愛もない話をしながら、ロクサーヌが選ぶのを待ち続けていると、おそらく一時間以上経過した後に、ようやく彼女が近づいてきた。
「お待たせいたしました。ご主人様、こちらをお願いいたします」
「うむ。では支払いを行おう」
それにしても、ロクサーヌの追加のキャミソールが黒で、セリーがピンクと白か……。
こういうのも原作ブレイクというのかね?
あまりにも時間が掛かった上に、このあともう一軒の服屋にも行くことになっている。
ロクサーヌのドレスを注文する予定だったが、さすがに時間が掛かりすぎだ。
今回は見送って、十日後のセリーの下着やエプロンを受け取る際にオーダーしよう。
入店するなり以前対応をしてくれていた女性店員に別室へ案内される。
そして、彼女は部屋を出て行くと、程なくしてトレーに載せられた下着を持って戻ってきた。
ん? ブラジャーが四つ? 注文したのは二つなんだが……。
「すまない。胸に付ける下着の数が注文と違うようなのだが」
「はい。確かにご注文いただいた数は二つでしたが、お客様からうかがったアイデアを盛り込んで、いくつかの種類を製作いたしました。ご確認いただき、お気に召したものをご購入いただきたく存じます」
おいおい。歴史を作るつもりで取り組むとは言っていたが、いくら何でも気合が入り過ぎだろ。
コストもかかっただろうにすごい情熱だわ。
「いいのか?」
「はい。私共も良い経験ができましたのでお気になさらず」
まあ、そっちがいいんなら構わないが……。
「では男性物の方から確認をお願いします」
店員から下着を受け取ると、女性三人が部屋を出る。
履いてみたところ、先ほどの店で受け取ったものとそれほど変わりはない。
まあ、こんなもんだろう。
扉を開き、外で待っていた店員に問題がなかった旨を伝えると、入れ替わりで三人が部屋へ入っていく。
……扉の前で一人残されたら疎外感がハンパないじゃないか。
いや、さすがに入るわけにはいかないだろうけどさ。
ロクサーヌの試着が終わり、声を掛けられ部屋に戻ると、彼女は興奮したように店員と話していた。
「これはとても素晴らしいですね。滑らかな肌触りがとても心地よいですし、しっかりと胸を包み込んで激しく動いても気になりません」
「ありがとうございます。こちらはホワイトキャタピラーが残す絹の糸と、シルバーキャタピラーがまれに残すミスリルスレッドの混紡素材をメリヤス編みにした布を使用しているため、胸をしっかり支えることと滑らかな肌触りを実現しております」
ちょっと待て! ミスリルスレッド!? ミスリルなんていう代物があんの!?
原作では出てきてないよな? 聖銀とは違うものなんだろうか?
それに、シルバーキャタピラーとは戦っていたが、そのドロップアイテムまでは描写されていなかったはずだ。
もう絶対に読むことが出来ない続巻で出てくるのか、それとも原作とは異なる要素の一つなのか……。
いずれにせよ、確認のしようがない……。
混乱している俺をよそに、彼女たちは話を続けている。
「布だけで作製した物、パッドを組み込んだもの、ワイヤーを組み込んだもの、そしてその二つを組み込んだものの四点を試していただきましたが、お気に召したものはありましたか?」
店員の言葉に頷きながら、ロクサーヌが答えた。
「そうですね……。このパッドとワイヤーが組み込まれているものは、着けていると信じられないほど楽になりました。激しく動いても問題なく、とても素晴らしいものだと思います」
「ありがとうございます。こちらはお客様のように大きな胸をお持ちの方でも、しっかりと支えることが出来るように製作いたしました」
あんな断片的な情報で、よくこれだけの物を作り上げたよなぁ。
ストッキングを作っているだけあって、相当な技術力だわ。
「はい。本当にその通りだと思います。セリーの分もしっかり注文しなければいけませんね」
「そうですね。これがあると楽になりそうです」
二人は顔を見合わせて、嬉しそうに話をしている。
ん? あれ? 胸の話題なのにセリーが卑屈になってない?
どういうことだ? この世界のセリーは胸の大きさについて、コンプレックスを持っていないのだろうか?
「ワイヤーとパッドが入っていないものは、とても着け心地が良く、激しい動きをしないときには、こちらの方が優れているかもしれません」
「おっしゃる通り、ご自宅などで過ごされる際には、こちらの方が優れているかと存じます」
「自宅で過ごすためだけに着用する肌着だなんて、とても贅沢な気がしますが……」
「セリー、大丈夫ですよ。きっとご主人様は喜んでくださいます」
「そうでしょうか?」
「ええ。間違いありません。そのためにも、しっかり注文を行いましょう」
「私どももお客様に喜んでいただけるよう、微力ながらお手伝いさせていただきます」
楽しそうにキャッキャと話している三人を眺めながら、セリーについて考えを巡らせていると、店員から声を掛けられた。
「お客様、そろそろお連れ様の採寸を行いますので……」
「ん? ああ、すまない。では、よろしく頼む」
店員に促され部屋を出て、店内に設置されている椅子に座らせてもらいながら、さらに思索を巡らせる。
まだ初日ということで遠慮もあるのだろうが、うちのセリーは原作にくらべ皮肉屋というか、シニカルな部分があまり感じられない。
そして、先ほどのやり取りを見るに、胸についても劣等感を抱いてはいないようだ。
……確か原作では、村にいたときは気にしていなかったが、商館で売れ残っている間に、胸の大きな人から売れていく様を見続けたことで、コンプレックスを持つようになったという話だった。
だが、うちのセリーについては、商館にきて数日で俺が購入している。
売れ残ることがなかったため、劣等感を抱くことがなかったのだろう。
……なるほどな。やさぐれ成分が少なかったのもそれが理由か。
すぐに購入されてブラヒム語の習得のため商館にいたのだ。
誰かと比べてネガティブなことを考えている暇などなく、一生懸命勉強に励んだはず。
彼女の性格に違いが生じたのもむべなるかな。
まあ、慣れてくれば素を出すようになり、生意気なことを言ったり、ジト目で見てくることもあるだろうが、それもかわいさの内。どんとこいだ。
それに、セリーが胸について劣等感を抱くことがなかったのは良いことだよな。
コミックやアニメの描写では、手足が長くスレンダーでとても美しかった。
そして実際目にした彼女は、それ以上に美人で愛らしく魅力にあふれている。
そんな娘が自分のルックスに劣等感を抱き、『滅びればいいのです』などと口にするなんて、嫌味でしかないだろう。
だいぶ時間が経ってから扉が開き、楽しそうに笑い合っている我がパーティーメンバーが姿を現した。
そして、その後ろからは疲れた様子の女性店員が……。
すまない。うちの娘たちが無理を言ったようで、本当にすまない。
しかし、下着を試着したときのロクサーヌは、高級服屋のときとは比べ物にならないほどテンションが上がっている様子だった。
間違いなく、この店の方が良いものだったのだろう。
……よし、それなら買い足しておくか。
「今回試作した分については四つすべてを買い取るので、二つ分についても追加で請求を行ってくれ」
「ありがとうございます。では、そのようにいたします」
彼女の顔からはホッとしたような様子がうかがえた。
余計に試作品を作ったことで、だいぶコストがかかっていたのだろう。
「あと、すまないが、今回注文する分は五セットにしてもらえるか。それから、彼女の分も、追加であと三セット頼みたい」
ロクサーヌの方を示しながら店員に告げる。
「よろしいのですか!?」
すると、ロクサーヌから大きな声が上がった。
「うむ。二人が楽になるということなのだ。それなら数を揃えておかないとな」
「ご主人様、ありがとうございます。とても助かります」
「今日来たばかりの私の分まで……。本当にありがとうございます」
なあに、気にするでない。
俺たちの様子を見て、引き攣ったような顔で店員が礼を述べた。
「……ありがとうございます」
そして、彼女は二人に連れられ先ほどの部屋へ戻っていった。
すまない。終わったと思ったところで追撃を掛けたような形になって、本当にすまない。
しばらくして、彼女たちが戻ったため、セリーの分のストッキングとガーターベルトを購入すると伝えようとしたところ、機先を制してロクサーヌが口を開く。
「あの、ご主人様、これからセリーと一緒に買い物を行いたいのですが……」
あ、これ、もしかしてそういうこと?
セリーにストッキングとガーターベルトを?
……いやいや、野暮な詮索はやめておこう。
「大丈夫だ。じゃあ、その間に歯ブラシを買いに行っているので、買い物が済んだら俺のところへ来てくれ」
「はい。ありがとうございます」
彼女たちから離れ、カウンターで支払いを行ったところ、下着だけなのに三割引が効いてなお、数十枚の銀貨をお伴に金貨二枚が飛んでいった。
マジか……。
下着だけで、こんなことになるのか……。
女性は大変なんだなぁ……。
彼女たちの様子をうかがうと、離れた場所で楽しげに話をしている。
聞かれてなくて良かった。
今後も継続的に購入することになるのだ。気にされても困る。
んじゃ、雑貨屋の方に行きますかね。
田川 歩 男 18歳
探索者Lv36 英雄Lv31 魔法使いLv35
BP振分 残BP:0
キャラクター再設定:1
サードジョブ:3
必要経験値二十分の一:63
詠唱省略:3
ワープ:1
三十パーセント値引:63
所持金:1,215,182ナール
春の32日目